特許第6289080号(P6289080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6289080-内燃機関の制御装置 図000002
  • 特許6289080-内燃機関の制御装置 図000003
  • 特許6289080-内燃機関の制御装置 図000004
  • 特許6289080-内燃機関の制御装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289080
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 5/15 20060101AFI20180226BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20180226BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20180226BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   F02P5/15 F
   F02D29/02 Z
   F02D29/00 C
   F02D45/00 362K
   F02D45/00 312E
   F02D45/00 312N
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-266492(P2013-266492)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-121189(P2015-121189A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】大治 直樹
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−360475(JP,A)
【文献】 特開2000−356153(JP,A)
【文献】 特開2004−346915(JP,A)
【文献】 特開平08−177694(JP,A)
【文献】 特開平05−321803(JP,A)
【文献】 特開2013−139717(JP,A)
【文献】 特開2000−303876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 5/145 〜 5/155
F02D 45/00
F02D 29/00 〜 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機を実装した車両に搭載される内燃機関を制御するものであって、
エンジン回転数の実測値の単位時間あたりの変化量を求めるとともに、
車速の実測値、車輪の動荷重半径及び駆動系の変速比から逆算したエンジン回転数の推算値の単位時間あたりの変化量を求め、
前者の変化量から後者の変化量を減算または除算した値の絶対値が大きいほど、エンジン回転数が上昇する加速期の点火タイミングの遅角補正量を大きくする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される内燃機関を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機が実装された車両において、運転者がアクセルペダルを踏み込む加速要求が行われた際には、スロットルバルブをアクセルペダルの踏込量に対応した開度に拡大操作し、気筒に充填される吸気量及び燃料噴射量を増量して内燃機関の出力トルクを増大させるとともに、駆動輪(車軸)に入力されるトルクを増強するべく、無段変速機をローギア側(減速側、変速比が増大する側)に操作する。
【0003】
この変速比の操作が終了したとき、車両にいわゆる「しゃくり振動」が惹起されることがある。急加速要求に応じて無段変速機が減速側に操作されると、動力伝達に関与する回転体の回転数が変化し、その回転数の変化量(角加速度)及び慣性モーメントに応じた慣性トルクが発生する。この慣性トルクは、上述した変速比の操作が終了して当該回転体の回転数が目標回転数に安定する頃に解放される。結果、駆動輪に入力されるトルクが一時的に増大し、駆動系(動力伝達系)の捻れ弾性に抗して車体が前後に揺動する。これが、しゃくり振動の主な要因である。
【0004】
車両の振動を抑制する手法の一つとして、スロットルバルブの開度を拡大する過渡期に燃料噴射量をステップ的に変化させ、駆動輪トルクの大きさを調整することが試みられている(例えば、下記特許文献を参照)。
【0005】
しかしながら、燃料噴射量は本来、あまり大きく増減させることはできない。混合気の空燃比が理論空燃比から乖離すると、有害物質の排出量が増加する懸念がある。また、混合気の空燃比がリーン化すると、その燃焼が不安定化し、時には失火に至る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−303876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車両の振動を抑制する他の手法として、エンジン回転数の単位時間あたり変化量を監視し、その変化量即ち回転変動が大きくなる時期に、点火タイミングを遅角補正してエンジントルクの抑制を図ることが考えられる。
【0008】
だが、回転変動は、無段変速機の変速比を操作すること自体によっても発生する。であるから、エンジン回転数の変化量をそのまま参照して点火タイミングの遅角補正を実行すると、点火タイミングを不必要に遅角することとなってしまい、エンジントルクの低減による加速性能の低下や、燃費性能の悪化につながりかねない。
【0009】
本発明は、以上の問題に初めて着目してなされたものであり、車両の振動を抑制するための点火タイミングの遅角補正において、点火タイミングの遅角量を適正化することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、変速機を実装した車両に搭載される内燃機関を制御するものであって、エンジン回転数の実測値の単位時間あたりの変化量を求めるとともに、車速の実測値、車輪の動荷重半径及び駆動系の変速比から逆算したエンジン回転数の推算値の単位時間あたりの変化量を求め、前者の変化量から後者の変化量を減算または除算した値の絶対値が大きいほど、エンジン回転数が上昇する加速期の点火タイミングの遅角補正量を大きくする内燃機関の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両の振動を抑制するための点火タイミングの遅角補正において、点火タイミングの遅角量を適正化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における内燃機関及び制御装置の概略構成を示す図。
図2】同実施形態における車両の駆動系の構成を示す図。
図3】同実施形態における無段変速機の変速線図。
図4】同実施形態の制御装置が実施する制御の内容を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークガソリンエンジンであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0014】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0015】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0016】
図2に、車両が備える駆動系の例を示す。この駆動系は、トルクコンバータ7及び自動変速機8、9を備えてなる。特に、本実施形態では、自動変速機8、9の構成要素として、遊星歯車機構を利用した前後進切換装置8、及び無段変速機の一種であるベルト式CVT(Continuously Variable Transmission)9を採用している。
【0017】
内燃機関が出力する回転トルクは、内燃機関のクランクシャフトからトルクコンバータ7の入力側のポンプインペラ71に入力され、出力側のタービンランナ72に伝達される。タービンランナ72の回転は、前後進切換装置8を介してCVT9の駆動軸94に伝わり、CVT9における変速を経て従動軸95を回転させる。従動軸95の回転は、出力ギア101に伝達される。出力ギア101は、デファレンシャル装置のリングギア102と噛合し、デファレンシャル装置を介して車軸103及び駆動輪(図示せず)を回転させる。
【0018】
トルクコンバータ7は、ロックアップ機構を備える。ロックアップ機構は、この分野では既知のもので、トルクコンバータ7の入力側と出力側とを相対回動不能に締結するロックアップクラッチ73と、ロックアップクラッチ73を断接切換駆動するための作動液圧(油圧)を制御するロックアップソレノイドバルブ(図示せず)とを要素とする。ロックアップソレノイドバルブは、制御信号lを受けてその開度を変化させる流量制御弁である。
【0019】
CVT9を搭載した車両においては、車速が所定値(例えば、10km/h)以上である場合、ほぼ常時トルクコンバータ7をロックアップする。車速が所定値以下となれば、トルクコンバータ7のロックアップを解除する。ロックアップ時、ロックアップクラッチ73はトルクコンバータカバー74に押し付けられ、トルクコンバータカバー74と一体となって回転する。ロックアップ時、トルクコンバータ7の入力側(のドライブプレート)に入力された機関のトルクは、トルクコンバータカバー74からロックアップクラッチ73を経由してトルクコンバータ7の出力側、ひいては前後進切換装置8に直接伝達される。ロックアップ時、トルクコンバータ7の出力側回転数の入力側回転数に対する比である速度比は1となる。
【0020】
翻って、非ロックアップ時には、ロックアップクラッチ73がトルクコンバータカバー74から離反する。非ロックアップ時、トルクコンバータ7の入力側に入力された機関のトルクは、トルクコンバータカバー74からポンプインペラ71、タービン72へと伝わり、前後進切換装置8に伝達される。非ロックアップ時、トルクコンバータ7の速度比は、駆動状態に応じて1よりも小さくなったり大きくなったりする。
【0021】
前後進切換装置8は、そのサンギア81がタービンランナ72と連絡し、リングギア82が駆動軸94と連絡している。プラネタリギア831を支持するプラネタリキャリア83と変速機ケースとの間には、断接切換可能な液圧クラッチたるフォワードブレーキ84を介設している。また、プラネタリキャリア83とサンギア81(または、トルクコンバータ7の出力側)との間にも、断接切換可能な液圧クラッチたるリバースクラッチ85を介設している。
【0022】
走行レンジのうちのDレンジでは、フォワードブレーキ84を締結し、リバースクラッチ85を切断する。これにより、トルクコンバータ7の出力軸の回転が逆転されかつ減速されて駆動軸94に伝達され、前進走行となる。翻って、Rレンジでは、リバースクラッチ85を締結し、フォワードブレーキ84を切断する。これにより、サンギア81とプラネタリキャリア83とが一体的に回転し、トルクコンバータ7の出力軸と駆動軸94とが直結して後進走行となる。フォワードブレーキ84またはリバースクラッチ85を断接切換駆動するための作動液圧を制御するソレノイドバルブ(図示せず)は、制御信号mを受けてその開度を変化させる流量制御弁である。
【0023】
非走行レンジであるNレンジ、Pレンジでは、フォワードブレーキ84及びリバースクラッチ85をともに切断する。
【0024】
CVT9は、駆動プーリ91及び従動プーリ92と、両プーリ91、92に巻き掛けられたベルト93とを要素とする。駆動プーリ91は、駆動軸94に固定した固定シーブ911と、駆動軸91上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持させた可動シーブ912と、可動シーブ912の後背に配設された液圧サーボ913とを有しており、液圧サーボ913を操作し可動シーブ912を変位させることを通じて変速比を無段階に変更できる。並びに、従動プーリ92は、従動軸95に固設した固定シーブ921と、従動軸95上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持させた可動シーブ922と、可動シーブ922の後背に配設された液圧サーボ923とを有しており、液圧サーボ923を操作し可動シーブ922を変位させることを通じてトルク伝達に必要なベルト推力を与える。
【0025】
走行レンジを操作するべくフォワードブレーキ84またはリバースクラッチ85に供給される作動液(作動油)、また変速比を操作するべく液圧サーボ913、923に供給される作動液を吐出する液圧ポンプ(図示せず)は、内燃機関のクランクシャフトからトルクの伝達を受けて稼働する、既知の機械式(非電動式)のものである。この作動液は、トルクコンバータ7に用いられる流体と共通である。
【0026】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0027】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサ(または、ブレーキスイッチ)から出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、シフトレバーのレンジを知得するためのセンサ(または、シフトポジションスイッチ)から出力されるシフトレンジ信号g、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号h等が入力される。
【0028】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、ロックアップクラッチ73の断接切換用のロックアップソレノイドバルブに対して開度制御信号l、フォワードブレーキ84またはリバースクラッチ85の断接切換用のソレノイドバルブに対して開度制御信号m、CVT9に対して変速比制御信号n等を出力する。
【0029】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、トルクコンバータ7のロックアップを行うか否か、自動変速機8、9の変速比といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、m、nを出力インタフェースを介して印加する。
【0030】
図3に、ECU0がCVT9を制御する際の変速線図を示す。変速線図は、車速及びアクセル開度に対応した目標入力回転数(タービン72の回転数)を表すものであり、車速及びアクセル開度に対応したCVT9の変速比を規定する。図3には、アクセル開度が100%の場合の変速線を太い破線で、50%の場合の変速線を太い実線で、0%の場合の変速線を太い鎖線で、それぞれ描画している。変速比は、CVT9がハードウェア的に実現し得るローギア側の限界L及びハイギア側の限界Hの間の値をとる。
【0031】
本実施形態のECU0は、運転者がアクセルペダルを踏み込む加速要求が行われ、その加速要求に呼応して車両を加速する過渡期に発生するしゃくり振動の抑制を図るべく、点火タイミングの遅角補正を実施する。
【0032】
図4に、本実施形態のECU0が実施する制御の内容を示している。ECU0は、クランク角信号bを参照してエンジン回転数を反復的に実測しつつ、今回計測したエンジン回転数から前回計測したエンジン回転数を減算した差分を反復的に求める。この差分が、エンジン回転数の実測値の単位時間あたりの変化量DNEIGである。実際には、内燃機関の出力軸であるクランクシャフトが所定角度(例えば、30°CA(クランク角度))回転するのに要した時間を反復的に計測してその差分をとる形で、エンジン回転数の実測値の単位時間あたりの変化量DNEIGを得ている。図4中、変化量DNEIGを細い鎖線で表している。
【0033】
他方、ECU0は、車速信号aを参照して車速を反復的に実測しつつ、この車速の実測値から推測されるエンジン回転数NETMを逆算する。エンジン回転数の推算値NETMは、下式で与えられる。
NETM=(車速×1000/60)×(CVT9が具現する減速比×最終減速比)/(2π×車輪(タイヤ)の動荷重半径)
最終減速比は、デファレンシャル比×前減速比である。なお、上式は、トルクコンバータ7をロックアップしていることが前提となっている。
【0034】
さらに、ECU0は、今回計測した車速から推算したエンジン回転数NETMから、前回計測した車速から推算したエンジン回転数NETMを減算した差分を反復的に求める。この差分が、エンジン回転数の推算値の単位時間あたりの変化量DTMNEIGである。図4中、変化量DTMNEIGを細い実線で表している。
【0035】
その上で、ECU0は、エンジン回転数の実測値の単位時間あたりの変化量DNEIGから、エンジン回転数の推算値の単位時間あたりの変化量DTMNEIGを減算した値DENGNEIGを得、このDENGNEIGに基づいて点火タイミングの遅角補正量ASR2を決定する。図4中、変化量DENGNEIG及び遅角補正量ASR2をそれぞれ太い実線で表している。
【0036】
エンジン回転数の実測値の変動DNEIGには、CVT9の変速比を変化させること自体によって必然的に発生する回転変動の成分DTMNEIGと、それ以外の回転変動の成分DENGNEIGとが含まれている。前者の回転変動成分DTMNEIGは、CVT9の変速比が一定化すれば収束するものであり、この回転変動成分DTMNEIGを点火タイミングの遅角補正によって鎮圧しようとすることは無駄と言える。
【0037】
これに対し、後者の回転変動成分DENGNEIGは、車両の前後揺動に深く関わるものである。この回転変動成分DENGNEIGこそ、点火タイミングの遅角補正によって鎮圧するべき変動である。
【0038】
故に、本実施形態のECU0は、回転変動成分DENGNEIGが正値(即ち、エンジン回転数が上昇する加速期)であり、その絶対値が大きいほど、点火タイミングの遅角補正量ASR2を大きく設定して、ASR2だけ点火タイミングを遅角させる。点火タイミングの遅角化は、内燃機関の熱機械変換効率を低下させ、内燃機関が出力するエンジントルクを抑制する働きをする。
【0039】
翻って、回転変動成分DENGNEIGが0(エンジン回転数が変動しない)または負値(エンジン回転数が低下する減速期)には、点火タイミングを遅角補正する必要はない。だが、点火タイミングをステップ的に急変(進角)させると、却ってエンジントルクの変動を招くおそれがあることから、ECU0は、回転変動成分DENGNEIGが0または負値であるとき、点火タイミングの遅角補正量ASR2を所定量ずつ逓減させる。
【0040】
図4中、回転変動成分DENGNEIGに基づいて設定される点火タイミングの遅角補正量ASR2との比較として、エンジン回転数の実測値の変動DNEIGに基づいて設定される点火タイミングの遅角補正量ASR2’を細い破線で表している。図4から明らかなように、後者の遅角補正量ASR2’は、前者の遅角補正量ASR2よりも大きい。また、遅角補正量ASR2’を用いる点火タイミングの遅角補正の期間は、遅角補正量ASR2を用いる点火タイミングの遅角補正の期間よりも長くなる。
【0041】
遅角補正量ASR2’を用いて点火タイミングを遅角補正した場合、運転者がアクセルペダルを踏み込んでいるにもかかわらず、車両の加速度の落ち込みが発生してしまう。遅角補正量ASR2を用いて点火タイミングを遅角補正した場合には、車両の加速度の顕著な落ち込みは発生しない。
【0042】
本実施形態では、無断変速機9を実装した車両に搭載される内燃機関を制御するものであって、エンジン回転数の実測値の単位時間あたりの変化量DNEIGを求めるとともに、車速の実測値、車輪の動荷重半径及び駆動系の変速比から逆算したエンジン回転数の推算値NETMの単位時間あたりの変化量DTMNEIGを求め、前者の変化量DNEIGから後者の変化量DTMNEIGを減算した値DENGNEIGに基づき、エンジン回転数が上昇する加速期の点火タイミングの遅角補正量ASR2を決定する内燃機関の制御装置0を構成した。
【0043】
本実施形態によれば、車両の振動を抑制するための点火タイミングの遅角補正において、点火タイミングの遅角量ASRを適正化できる。即ち、無駄な点火タイミングの遅角を回避することができ、加速要求に対するレスポンス(加速性能、ドライバビリティ)及び熱機械変換効率(燃費性能)の向上に寄与し得る。
【0044】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、エンジン回転数の実測値の単位時間あたりの変化量DNEIGから、エンジン回転数の推算値NETMの単位時間あたりの変化量DTMNEIGを減算した値DENGNEIGに基づいて点火タイミングの遅角補正量ASR2を決定していた。
【0045】
だが、点火タイミングの遅角補正により鎮圧するべき正味の回転変動の大きさを示す指標値を得るためには、前者の変化量DNEIGから後者の変化量DTMNEIGを減算する以外にも、前者の変化量DNEIGから後者の変化量DTMNEIGを除算したり、あるいはその他の演算を用いたりする手法をとり得る。前者の変化量DNEIGから後者の変化量DTMNEIGを除算する等して正味の回転変動の指標値を得る場合でも、その指標値の絶対値が大きいほど、点火タイミングの遅角補正量ASR2を大きく設定することになる。
【0046】
また、車両に実装される無段変速機9の具体的態様は、ベルト式CVTには限定されない。加えて、車両に実装される変速機が無段変速機であるとも限られない。有段の自動変速機や手動変速機を実装した車両の制御においても、本発明を適用することは可能である。
【0047】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、車両に搭載される内燃機関の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
0…制御装置(ECU)
1…気筒
12…点火プラグ
9…無段変速機(ベルト式CVT)
a…車速信号
b…クランク角信号
c…アクセル開度信号
n…変速比制御信号
図1
図2
図3
図4