特許第6289097号(P6289097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6289097臭化n−プロピル系溶媒組成物を用いた、洗浄物品のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289097
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】臭化n−プロピル系溶媒組成物を用いた、洗浄物品のための方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/28 20060101AFI20180226BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20180226BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C11D7/28
   B08B3/08 A
   C11D7/26
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-544638(P2013-544638)
(86)(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公表番号】特表2014-505132(P2014-505132A)
(43)【公表日】2014年2月27日
(86)【国際出願番号】US2011064349
(87)【国際公開番号】WO2012082590
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年11月25日
【審判番号】不服2016-11591(P2016-11591/J1)
【審判請求日】2016年8月3日
(31)【優先権主張番号】61/424,123
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594066006
【氏名又は名称】アルベマール・コーポレーシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 敬二
(72)【発明者】
【氏名】三輪 央
【合議体】
【審判長】 佐々木 秀次
【審判官】 阪▲崎▼ 裕美
【審判官】 原 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−007690(JP,A)
【文献】 特表2001−511476(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/054494(WO,A1)
【文献】 特開平11−172291(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0083220(US,A1)
【文献】 米国特許第6010997(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D1/00-19/00
B08B3/00-3/14
C23G1/00-5/06
H05K3/10-3/26,3/38
B08B1/00-1/04,5/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を洗浄する方法であって、物品を、50重量%〜99重量%の範囲の臭化n−プロピルおよび1重量%〜50重量%の範囲のアルコールからなる溶媒組成物と接触させて、水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を除去することを含み、
ここで、アルコールが、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、1−ヘプタノール、1−ヘキサノールおよびペンタノール、ならびにこれらの混合物からなる群から選択され、
物品からの水または水溶性汚染物質の少なくとも一方の除去で水相が生じ
洗浄が、蒸気脱脂、冷洗浄、手拭き、エアロゾルおよび噴霧から選択される、
方法。
【請求項2】
物品を洗浄する方法であって、物品を、50重量%〜99重量%の範囲の臭化n−プロピルおよび1重量%〜50重量%の範囲のアルコールからなる溶媒組成物と接触させて、水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を除去することを含み、
ここで、アルコールが、2−ブタノール、1−ヘプタノール、1−ヘキサノールおよびペンタノール、ならびにこれらの混合物からなる群から選択され、
物品からの水または水溶性汚染物質の少なくとも一方の除去で水相が生じ、
洗浄が、蒸気脱脂、冷洗浄、手拭き、エアロゾルおよび噴霧から選択される、
方法。
【請求項3】
臭化n−プロピルの濃度が、70重量%〜98重量%の範囲である、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
アルコールの濃度が、2重量%〜30重量%の範囲である、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
物品が、金属製品、ガラス製品、プラスチック、ポリマー基材、電子部品または物品、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
物品が、溶媒で満たされた液だめに漬けること、物品を溶媒で拭くこと、または溶媒を物品に噴霧することによって、溶媒と接触する、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を物品から除去する方法であって、ここで、物品は金属製品、ガラス製品、プラスチック、ポリマー基材、電子部品または物品、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され
a)
i.50重量%〜99重量%の範囲の臭化n−プロピル;および
ii.1重量%〜50重量%の範囲のアルコール、ここで、アルコールは1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、1−ヘプタノール、1−ヘキサノールおよびペンタノール、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される
からなる溶媒で満たされた液だめにおいて物品を接触させること、
ここで、物品からの水または水溶性汚染物質の少なくとも一方の除去で水相が生じる、
b)該溶媒と水または水溶性汚染物質とからなる混合物を分離用タンクに導入すること、
c)分離された溶媒を液だめに戻すこと
を含む方法。
【請求項8】
水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を物品から除去する方法であって、ここで、物品は金属製品、ガラス製品、プラスチック、ポリマー基材、電子部品または物品、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され
a)
i.50重量%〜99重量%の範囲の臭化n−プロピル;および
ii.1重量%〜50重量%の範囲のアルコール、ここで、アルコールは2−ブタノール、1−ヘプタノール、1−ヘキサノールおよびペンタノール、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される
からなる溶媒で満たされた液だめにおいて物品を接触させること、
ここで、物品からの水または水溶性汚染物質の少なくとも一方の除去で水相が生じる、
b)該溶媒と水または水溶性汚染物質とからなる混合物を分離用タンクに導入すること、
c)分離された溶媒を液だめに戻すこと
を含む方法。
【請求項9】
前記分離が、膜分離機および重力分離機、ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される設備を用いることによって行われる、請求項7〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
臭化n−プロピルの濃度が、70重量%〜98重量%の範囲である、請求項7〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
アルコールの濃度が、2重量%〜30重量%の範囲である、請求項7〜8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭化n−プロピル系溶媒組成物を用いた、洗浄物品の分野に一般に関する。
【背景技術】
【0002】
臭化n−プロピル(臭化プロピル、1−ブロモプロパンまたはNPBとも称する)は、環境に優しい商品として認識されている。精密金属製品および電子物品または部品からの残存物の除去における臭化n−プロピル系洗浄溶媒組成物の使用は、当該分野においてよく知られている。典型的な溶媒洗浄法として、冷洗浄および蒸気脱脂が含まれる。
【0003】
典型的な冷洗浄または蒸気脱脂プロセスにおいて、洗浄対象物品は、液だめにおいて溶媒またはその蒸気と接触して、溶媒が汚染残存物を溶解して除くようになっている。冷洗浄または蒸気脱脂装置は、より良好な洗浄を促進するために、超音波発生装置(複数可)を場合により有し得る。
【0004】
臭化n−プロピル系溶媒系を用いた、洗浄物品のための種々の公知の組成物および方法は、安定剤を臭化n−プロピルと併せて用いる。安定剤の例として、アミン、エポキシド、エーテルおよびニトロアルカンを含む。臭化n−プロピルおよび界面活性剤を含む溶媒系を用いた、洗浄物品のための方法も知られている。しかし、これらおよび他の方法は、水または水溶性汚染物質を除くのに好適でない。
【0005】
水は、臭化n−プロピルに非常に低い溶解性を有する。したがって、洗浄物品が水および/または水溶性表面汚染物質を有するとき、臭化n−プロピル系溶媒は、典型的には、かかる表面汚染物質を除去しようと、撹拌によって水と混合される。しかし、NPBおよび水混合物は、分離が困難であるエマルジョンを形成しやすい。臭化n−プロピルの分解は、既存の臭化n−プロピル系溶媒系に対するもう1つの関心事である。臭化n−プロピルは水と反応しやすく、臭化n−プロピル系溶媒中に過剰の水が存在するときには、臭化n−プロピルは、通常の分解速度の6倍超で分解する。さらに、臭化n−プロピル、水、および界面活性剤のエマルジョンの廃棄物処理は、かなりのエネルギーを必要とし、設備が強化されたものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、水および/または水溶性汚染物質とのエマルジョンを形成せず、先に議論した分離可能性および分解の問題を排除する、臭化n−プロピル系溶媒を用いた、水および/または水溶性汚染物質を除去するための方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、物品を、約50重量%〜約99重量%の範囲の臭化n−プロピルおよび約0.5重量%〜約50重量%の範囲のアルコールを含む溶媒組成物と接触させて、水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を除去することを含むかかる方法を提供する。
【0008】
本発明は、溶媒と水または水溶性汚染物質との組み合わせを分離用タンクに導入し、分離された溶媒を液だめに戻すことを含むかかる方法も提供する。本発明の方法は、溶媒を再生する工程をさらに含む。溶媒再生に用いる方法の非限定例は、分離または濾過である。例えば、溶媒を膜濾過または重力分離を用いて再生する。
【0009】
本発明のさらなる特徴および利点を、添付の例を参照して以下に詳細に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、臭化n−プロピル系溶媒組成物を用いて物品を洗浄するための方法を提供する。溶媒組成物は、約50重量%〜約99重量%の臭化n−プロピルおよび約0.5重量%〜約50重量%のアルコールを含む。本発明の洗浄方法は、物品から水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を除去するのに有用である。
【0011】
本明細書において用いられるとき、用語「洗浄」は、冷洗浄および/またはホットリンスを意味し;用語「冷洗浄」は、周囲温度における溶媒によるリンスを意味し;用語「ホットリンス」は、濃縮された溶媒によるリンスを意味する。本明細書において、用語「溶媒」および「溶媒組成物」は互換的に用いられる。
【0012】
本発明の溶媒中の臭化n−プロピル濃度は、約50重量%〜約99重量%、または約70重量%〜約98重量%であり得る。
【0013】
組成物のためのアルコール共溶媒は、脂肪族一価アルコールであり得る。アルコールは、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、1−ヘプタノール、1−ヘキサノールおよびペンタノールから選択され得る。本発明の一態様において、アルコールは、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコールおよびペンタノール、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0014】
本発明の溶媒中のアルコール濃度は、約0.5重量%〜約50重量%、約1重量%〜約40重量%、または約2重量%〜約30重量%であってよい。
【0015】
本明細書に提示されている方法は、種々の物品を洗浄するために用いられてよい。物品の非限定例として、金属製品、ガラス製品、プラスチック、ポリマー基材、電子部品または物品、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0016】
本発明の一態様において、洗浄は、溶媒組成物を含有する液だめにおいて物品を接触させることによって達成される。物品は、場合により、超音波撹拌に付され、または溶媒組成物のジェットストリームと接触する。別の態様において、溶媒組成物は、洗浄の前に物品に噴霧される。さらに別の態様において、洗浄は、溶媒組成物によって物品を拭くことによって行われる。
【0017】
本発明の方法は、例えば、物品から水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を除去するための冷洗浄用途における使用に好適である。物品の冷洗浄は、典型的には周囲温度、例えば、最大約55℃で実施される。冷洗浄は、撹拌しながらまたは撹拌せずに溶媒組成物に洗浄対象物品を浸漬するまたは漬けることを通常は特徴とする。大きすぎる浸漬対象物品は、溶媒組成物によって噴霧されても拭かれてもよい。深い凹部または他のアクセス不可能な領域から水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を除去するための冷洗浄と関連して、超音波が用いられてもよい。本発明の方法はまた、物品から水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を除去するためのホットリンス用途における使用にも好適である。これは、2つの溶媒充填液だめを通常有する蒸気浸漬ユニットを用いることによって達成され得る。一方の液だめにおいては、溶媒組成物が溶媒組成物の沸点で沸騰するが、他方の液だめでは、クリーンな、蒸留された濃縮溶媒が付与されて、リンスに用いられる。当業者によく知られているように、沸点は、nPBと選択されたアルコールとの組み合わせおよび溶媒組成物中のこれらの比によって決定される。ホットリンス用途は、水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を深い凹部または他のアクセス不可能な領域から除去するための超音波を場合により備えていてよい。
【0018】
別の態様において、ホットリンスは、溶媒組成物が一方の液だめのリンス機において沸騰される蒸気/噴霧ユニットを含む。洗浄対象物品を保持するために、穿孔した金属スタンドが、沸騰溶媒の直ぐ上に設けられる。リンス機は、水または水溶性汚染物質の少なくとも一方を深い凹部または他のアクセス不可能な領域から除去するための手動の噴霧棒を場合により備えていてよい。
【0019】
さらに別の態様において、ホットリンス用途のリンス機は、その頂部付近に冷却コイルセットを備えている。冷却コイルは、ユニットから逃げる前の溶媒蒸気と接触して、蒸気の冷却および濃縮を引き起こす。蒸気濃縮物は、溶媒組成物、および水または水溶性汚染物質の少なくとも一方が限定されないが膜分離および/または重力分離を含めた種々の分離方法を用いて分離されるクリーンなタンクに流れて戻る。
【0020】
本発明の方法は、同じ用途のための既存の方法に対していくつかの利点を付与し、これらは、具体例によって、より詳細に記載される。以下の例を説明目的で付与するが、これらはいかなる方法でも本発明を限定することを意図していない。
【0021】
本発明の利点の1つは、本発明の方法で用いる溶媒組成物が、過剰の水の存在下でもエマルジョンを形成しないことであり、結果として、本発明の方法において、水または水溶性汚染物質の少なくとも一方の除去を提供すると同時に、水相と溶媒相との間の良好な分離を与える。
【0022】
さらに別の利点は、本発明の溶媒組成物が、水の存在下に迅速な分解を経ることなく、水または水溶性汚染物質を物品から容易かつ迅速に除去できることである。
実施例
【0023】
以下の実施例は、本発明の原理の説明である。本発明は、本特許出願の実施例または残りの部分のいずれにおいても、本明細書に例示したいずれか1つの特定の実施形態に限定されないことが理解される。
実施例1
【0024】
本発明の方法に用いた溶媒組成物のリンス能力を評価するために、実験を室温で行った。これらの実験において、直径2mmを有する、15mlの新たに調製したガラスビーズを、25mlのメスシリンダに置き、2mlの水を25mlのメスシリンダ中のガラスビーズに添加した。次いで、90重量%の臭化n−プロピルおよび10重量%のアルコールを含有する10mlの溶媒を、ガラスビーズおよび水を含有するメスシリンダに添加した。水相の体積を5分後に測定した。0.5ml以上の水相体積は、リンス能力に関して陽性試験とみなし、体積が増加すると、より良好なリンス能力を示唆した。結果を表1にまとめる。
実施例2
【0025】
実施例1と同様にして、本発明の方法に用いた溶媒組成物の分離可能性を評価するために、実験を室温で行った。これらの実験において、90重量%の配合された臭化n−プロピルおよび10重量%のアルコールを含む10mlの溶媒を100mlのガラスボトルに注ぎ入れた。2mlの水を溶媒に添加し;次いでボトルに栓をして振とうし、溶媒および水を混合した。エマルジョンの非存在を、分離可能性に関して陽性試験とみなした。この試験の結果も表1にまとめる。
【表1】
実施例3
【0026】
1,2−ブチレンオキサイドの消費率を決定することによって臭化n−プロピルの分解速度を測定した。0.5gの1,2−ブチレンオキサイドを、0.5重量%の最終濃度に達するよう95gの純粋な臭化n−プロピルに添加し、2つの100mlの液だめボトルに等体積で注いだ。2gおよび0.1gの水を各液だめボトルに注ぎ入れた。液だめを50℃で100時間維持した。アリコートを液だめボトルから採取し、ガスクロマトグラフィによって1,2−ブチレンオキサイドの消費を分析した。結果を表2に提示する。
【表2】
【0027】
先の記載は、例示的であって制限的ではないことが理解されるべきである。先の記載を読解する際、多くの実施形態が当業者に明らかであり得る。したがって、本発明の範囲は、以上の記載を参照して決定されるべきではないが、代わりに、添付の特許請求の範囲を、該特許請求の範囲が権利を与えるものと等価の全範囲と併せて参照することによって、決定されるべきである。特許出願および公開公報を含めた全項目および参照文献の開示は、全ての目的で参照により本明細書に組み込まれる。