(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面を参照しつつ本発明の形態について説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
なお、第二の塔が蒸気再圧縮塔(VRC)を構成する形態は、参考用である。
【0021】
本発明の蒸留塔は第一の塔と第二の塔を含む。第一の塔は、蒸留塔の濃縮部の一部を含むことができ、この場合、第二の塔が、蒸留塔の濃縮部の残部および蒸留塔の回収部の全部を含む。あるいは、第一の塔が、蒸留塔の回収部の一部を含むことができ、この場合、第二の塔が、蒸留塔の回収部の残部と蒸留塔の濃縮部の全部を含む。第一の塔は、蒸留塔の濃縮部の一部か、あるいは蒸留塔の回収部の一部を含み、したがって蒸留塔の濃縮部および回収部の両方を含むことはない。また、第一の塔が、蒸留塔の濃縮部の全部を含むこともなく、蒸留塔の回収部の全部を含むこともない。
【0022】
本発明の蒸留塔は、一つの従来型の蒸留塔(より正確には、連続蒸留塔)を、濃縮部の途中または回収部の途中で二つの塔、すなわち第一の塔と第二の塔に分けた構成を有する。第二の塔の中間段(塔頂部以外かつ塔底部以外の段)に原料が供給される。なお、従来型の蒸留塔は、単一の塔(容器)を有し、
濃縮部の全部および回収部の全部がその単一の容器内の連続する領域に存在する。そして、従来型の蒸留塔はコンプレッサーを備えない。換言すれば、本発明の蒸留塔は、一つの従来型蒸留塔の塔内の領域を、二つの領域に区画し、それら二つの領域をそれぞれ別個の塔(容器)に収容し、二つの塔の間で流体を移送するライン(蒸気を移送するラインと液を移送するライン)で二つの塔を接続した構成を有する。一方の塔から排出される流体は、その全量(ただし、一方の塔から流体がいったん排出された後に、この一方の塔に戻される場合には、戻される流体の量は除く)が他方の塔に供給される。つまり、一方の塔から他方の塔に蒸気が移送される場合、その全量(例えば還流などによって、一方の塔から排出された蒸気の一部がこの一方の塔に戻される場合には、その戻される流体の量は除く)が他方の塔に供給される。また、一方の塔から他方の塔に液が移
送される場合、その全量(例えばリボイラーを経由するなどして、一方の塔から排出された液の一部がこの一方の塔に戻される場合には、その戻される流体の量は除く)が他方の塔に供給される。つまり、第一の塔と第二の塔との間の流体のやりとりに際しては、これらの塔以外の機器もしくは蒸留塔外に流体が送られることはない。
【0023】
第一の塔については、単一の塔(容器)を有し、複数の塔(容器)を有さない構成を採用することができる。第一の塔の内部には、通常、棚段もしくは充填層など、気液接触を促進する部材が適宜収容される。第一の塔は、塔内から排出される蒸気を昇圧するための、コンプレッサーなどの昇圧手段を備えない。つまり、第一の塔は、従来型の蒸留塔と同様の構成を有することができる(ただし、上述のとおり、第一の塔は、蒸留塔の濃縮部の全部および回収部の全部を含まない)。
【0024】
第二の塔は、内部熱交換型蒸留塔(HIDiC)または蒸気再圧縮塔(VRC)などの、機械式ヒートポンプ式蒸留塔を構成する。第二の塔の内部にも、通常、棚段もしくは充填層など、気液接触を促進する部材が適宜収容される。
【0025】
本発明によれば、一つの従来型蒸留塔を塔内温度差が比較的大きい領域と比較的小さい領域に分けて二塔化し、塔内温度差の比較的大きい領域には第一の塔を適用し、塔内温度差の比較的小さい領域には第二の塔を適用することができる。第二の塔では機械式ヒートポンプ式蒸留プロセスを行い、第一の塔では機械式ヒートポンプ式蒸留プロセスは行わない。つまり、一つの蒸留塔の、塔内温度差が比較的小さい領域にのみに機械式ヒートポンプ式蒸留プロセスを適用することができる。したがって、機械式ヒートポンプ式蒸留プロセスを行うために必要なコンプレッサー動力の増大を抑えることができ、全体の塔内温度差が大きい蒸留塔についても、省エネルギー化することが容易となる。
【0026】
一つの従来型蒸留塔を第一の塔と第二の塔に分ける位置は、その従来型蒸留塔の温度プロファイルに応じて決めることができるが、例えば、第一の塔の段数が、従来型蒸留塔の総段数のおおよそ40%以下であるように決めることができる。この点については、後に
図5を用いて詳述する。従来型蒸留塔の総段数に対して、本発明の蒸留塔の総段数(第一の塔の段数と第二の塔の段数の合計)は、同一以上とすることができる。したがって、第一の塔の段数を従来型蒸留塔の総段数のおおよそ40%以下とすることは、第一の塔の段数を本発明の蒸留塔の総段数のおおよそ40%以下とすることに相当する。
【0027】
本発明による蒸留塔は、いかなる蒸留塔にも適用可能であるが、塔内の温度変化が、塔頂付近もしくは塔底付近の一部の段に集中しておきるような従来型蒸留塔、例えば塔内温度変化の約5割以上が、塔頂付近もしくは塔底付近の段に集中しており、その段数が、総段数のおおよそ40%以下であるような従来型蒸留塔に替えて使用する場合に特に効果的である。
【0028】
本発明による蒸留塔は、例えば、改質ガソリンや分解ガソリンなどの原料から、ベンゼンを分離する芳香族抽出装置及び同原料からパラキシレンを分離するパラキシレン製造装置を含むアロマティクス・コンプレックスにおいて、粗パラキシレンからトルエンを分離して精製パラキシレンを得るための蒸留塔に利用することができる。
【0029】
〔第二の塔にHIDiCを適用する場合〕
以下、第二の塔にHIDiCを適用する場合について説明する。
【0030】
この場合、第二の塔は、
第二の塔に含まれる濃縮部の全部もしくは一部を含み、相対的に高圧で気液接触を行う高圧部;
第二の塔に含まれる回収部の全部もしくは一部を含み、相対的に低圧で気液接触を行う低圧部;
前記低圧部の塔頂部から排出される蒸気を前記高圧部の塔底部に導く、昇圧手段を備える蒸気用ライン;
前記高圧部の塔底部から排出される液を前記低圧部の塔頂部に導く液用ライン;および、
第二の塔に含まれる濃縮部から第二の塔に含まれる回収部に熱交換によって熱を移動させるよう構成された熱交換構造
を備えることができる。
【0031】
・高圧部および低圧部
蒸留操作における「濃縮部」および「回収部」は、蒸留装置、特には連続蒸留装置に関して、古くから使用されている用語である。濃縮部は、単一の塔で構成される従来型の蒸留塔における原料供給位置よりも上の部分に相当する。回収部は、従来型の蒸留塔における原料供給位置よりも下の部分に相当する。つまり、濃縮部は、原料中の分離対象となる軽質留分の濃度を高くしていく部分であり、回収部は重質留分の濃度を高くしていく部分である。
【0032】
第二の塔にHIDiCを適用する場合、高圧部の運転温度を低圧部の運転温度より高くするために、高圧部の運転圧力が低圧部の運転圧力より高く設定される。ここでいう「相対的に高圧もしくは低圧」は、低圧部と高圧部の圧力の比較に関する。
【0033】
高圧部は基本的には第二の塔に含まれる濃縮部に相当し、低圧部は基本的には第二の塔に含まれる回収部に相当する。したがって、第二の塔の最も基本的な構成においては、高圧部が、第二の塔に含まれる濃縮部を含むが第二の塔に含まれる回収部は含まず、低圧部が、第二の塔に含まれる回収部を含むが第二の塔に含まれる濃縮部は含まない。つまり高圧部が第二の塔に含まれる濃縮部の全部を含み、低圧部が第二の塔に含まれる回収部の全部を含む。しかし、この限りではなく、低圧部が、第二の塔に含まれる回収部の全部と第二の塔に含まれる濃縮部の一部を含み、高圧部が、第二の塔に含まれる濃縮部の残りの部分を含むことができる。あるいは、高圧部が、第二の塔に含まれる濃縮部の全部と第二の塔に含まれる回収部の一部を含み、低圧部が、第二の塔に含まれる回収部の残りの部分を含むことができる。
【0034】
換言すれば、HIDiCを構成する第二の塔の基本的な構成は、第二の塔を、原料供給位置を境に二つの領域(第二の塔に含まれる濃縮部の全部を含む高圧部、および、第二の塔に含まれる回収部の全部を含む低圧部)に区画したような構成である。しかし第二の塔の構成は、この構成に限定されるわけではない。第二の塔の原料供給位置より上において二つの領域に区画したような構成、すなわち、第二の塔に含まれる濃縮部の中間位置を境に第二の塔を二つの領域(回収部の全部と濃縮部の一部とを含む低圧部、および、回収部を含まず濃縮部の残りの部分を含む高圧部)に区画したような構成が可能である。あるいは、第二の塔に含まれる回収部の中間位置を境に二つの領域(第二の塔に含まれる濃縮部の全部と第二の塔に含まれる回収部の一部を含む高圧部、および、第二の塔に含まれる濃縮部を含まず第二の塔に含まれる回収部の残りの部分を含む低圧部)に区画したような構成も可能である。
【0035】
なお、当然ではあるが、高圧部および低圧部の一方が濃縮部と回収部との両者を含む場合、他方が濃縮部と回収部の両方を含むことはない。
【0036】
高圧部および低圧部はそれぞれ典型的には一つの塔(容器)によって形成される。高圧部を形成する高圧塔と、低圧部を形成する低圧塔とが、互いに離れて設けられていてもよい。あるいは、高圧塔と低圧塔とが構造物として一体的に設けられていてもよく、例えば単一の容器の内部を隔壁(流体が通過不能な部材)によって区画することにより、二つの領域を形成し、一方の領域を高圧塔として利用し、他方の領域を低圧塔として利用することができる。
【0037】
・蒸気用ライン
従来型の蒸留塔では、塔の下部(回収部)から上部(濃縮部)へと蒸気が上昇する。HIDiCを構成する第二の塔では、基本的には回収部と濃縮部とが分離(区画)されているため、この蒸気の流れを実現するために、このラインを設ける。
【0038】
このラインには低圧部(相対的に低圧)から高圧部(相対的に高圧)に蒸気を送るために、コンプレッサーなどの昇圧手段が設けられる。
【0039】
・液用ライン
従来型の蒸留塔では、塔の上部(濃縮部)から下部(回収部)へと液が下降する。HIDiCを構成する第二の塔では、基本的には回収部と濃縮部とが分離(区画)されているため、この液の流れを実現するために、このラインを設ける。この流れを「中間還流」と呼ぶことがあり、このラインを「中間還流ライン」と呼ぶことがある。
【0040】
・熱交換構造
第二の塔は、第二の塔に含まれる濃縮部から第二の塔に含まれる回収部に熱交換によって熱を移動させるよう構成された熱交換構造を含む。なお、本明細書において、特に断りのない限り、熱交換という用語は、より正確には間接熱交換を意味する。
【0041】
熱交換構造は、熱交換器および配管等を利用して、構成することができる。例えば、熱交換構造は、次のaおよびbに示される構成のうちの一方または両方を含むことができる。
a)第二の塔に含まれる濃縮部(典型的には高圧部に含まれる濃縮部)に設けられた熱交換器と、第二の塔に含まれる回収部(典型的には低圧部に含まれる回収部)から液を抜き出してこの熱交換器を経由してこの回収部に戻すライン、
b)第二の塔に含まれる回収部(典型的には低圧部に含まれる回収部)に設けられた熱交換器と、第二の塔に含まれる濃縮部(典型的には高圧部に含まれる濃縮部)から蒸気を抜き出してこの熱交換器を経由してこの濃縮部に戻すライン、
あるいは、高圧部の外部かつ低圧部の外部(典型的には高圧塔の外部かつ低圧塔の外部)に熱交換器を設け、第二の塔に含まれる回収部(典型的には低圧部に含まれる回収部)から液を抜き出してこの熱交換器を経由してこの回収部に戻すとともに、第二の塔に含まれる濃縮部(典型的には高圧部に含まれる濃縮部)から蒸気を抜き出してこの熱交換器を経由してこの濃縮部に戻し、これら流体の間で熱交換を行う構造を採用することもできる。
【0042】
また、熱交換構造は、結果的に第二の塔に含まれる濃縮部から第二の塔に含まれる回収部に熱を移動させることのできる構造であればよく、第二の塔に含まれる濃縮部内の流体および第二の塔に含まれる回収部内の流体のいずれも直接用いなくともこの熱交換構造は実現できる。例えば、第二の塔に含まれる濃縮部内の流体に替えて、第二の塔に含まれる濃縮部から排出された相対的に高圧(高温)の流体を用いることができる。また、第二の塔に含まれる回収部内の流体に替えて、第二の塔に含まれる回収部に流入する相対的に低圧(低温)の流体を用いることができる。例えば、第二の塔に含まれる回収部(典型的には低圧部に含まれる回収部)に流入する原料と、第二の塔に含まれる濃縮部(典型的には高圧部に含まれる濃縮部)の頂部から抜き出された蒸気とを熱交換させれば、第二の塔に含まれる濃縮部から第二の塔に含まれる回収部に熱を移動させることができる。
【0043】
熱交換構造は一つだけ用いてもよく、あるいは複数の熱交換構造を用いてもよい。
【0044】
ここで、第二の塔において、低圧部が、第二の塔に含まれる回収部の全部と第二の塔に含まれる濃縮部の一部とを含み、高圧部が、第二の塔に含まれる濃縮部の一部を含む場合を考える。例えば、低圧塔が、第二の塔に含まれる回収部の上に第二の塔に含まれる濃縮部の一部を有し、高圧塔が、第二の塔に含まれる濃縮部の残りの部分を含む形態が、この場合に含まれる。このような形態では、低圧塔の塔頂部から排出される流体(低圧塔に含まれる濃縮部から排出される流体)を、コンプレッサーを経由して高圧塔の塔底部に送ることができるが、このとき、コンプレッサーの出口流体が持つ熱を、低圧塔の回収部内の流体に、熱交換によって与えることができる。例えば、低圧塔の回収部内(例えば低圧塔の塔底部のすぐ上の段)に熱交換構造を設け、低圧塔の塔頂部から排出される流体を、コンプレッサーとこの熱交換構造を経て高圧塔の塔底部に供給することができる。このような熱交換によって、低圧塔に含まれる濃縮部から、低圧塔に含まれる回収部へと熱を移動させることができる。このような構成の例は、特願2012−080525号(特開2013−208561号公報)に提案されている。
【0045】
これらの熱交換の形態では、第二の塔のプロセス流体と、第二の塔の別のプロセス流体との間で熱交換を行っている。しかし、これらの流体以外の流体(例えば、第二の塔のプロセス流体ではない熱媒体)を介して熱交換を行う形態も可能である。
【0046】
本願出願人と同一の出願人によって出願された特願2012−080525号および国際出願PCT/JP2010/066498(国際公開第2011/043199号パンフレット)の全体が、参照によって本明細書に取り込まれる。
【0047】
〔第二の塔にVRCを適用する場合〕
以下、第二の塔にVRCを適用する場合について説明する。
【0048】
この場合、第二の塔は、
リボイラーと、
第二の塔の塔頂部から排出される蒸気を前記リボイラーに熱源として供給する、昇圧手段を備えるラインと
を備えることができる。
【0049】
第二の塔の塔頂部から排出される蒸気を、リボイラーにおいて、VRCの塔底液の加熱に用いた後、その流体を減圧してその温度を下げ、VRCの塔頂に還流として戻すことができる。
【0050】
〔形態A(HIDiC)〕
図1に、本発明の蒸留塔の一形態(形態A)の概略構成を示す。この蒸留塔は、第一の塔A1と第二の塔A2を有する。第二の塔は、HIDiCを構成し、高圧部として高圧塔A3を有し、低圧部として低圧塔A4を有する。原料は低圧塔の塔頂部に供給される。したがって、
図1に示した蒸留塔の濃縮部の一部が第一の塔に含まれ、残部が高圧塔に含まれる。また、
図1に示した蒸留塔の回収部の全部が、低圧塔に含まれる。
【0051】
高圧塔の運転圧力は、低圧塔の運転圧力より高い。このために、蒸気用ラインA5にコンプレッサー等の昇圧手段A6を設ける。低圧塔の塔頂から排出される蒸気を、昇圧手段によって加圧したうえで、高圧塔の塔底部に供給する。高圧塔の塔底部から排出される液は、液用ラインA7を通じて、低圧塔の塔頂部に供給される。必要に応じて、高圧塔の塔底部から排出される液を、減圧弁などの減圧手段によって減圧したうえで、低圧塔の塔頂部に供給することができる。また、配管の圧力損失や高低差などに起因して高圧塔と低圧塔との運転圧力差だけでは液を高圧塔から低圧塔に送ることができない場合など、必要に応じて送液のためにポンプを用いることができる。高圧塔の運転圧力を低圧塔の運転圧力より高くする理由は、高圧塔(特には高圧塔に含まれる濃縮部)の運転温度を低圧塔(特には低圧塔に含まれる回収部)の運転温度より高くするためである。
【0052】
高圧塔に含まれる濃縮部から、低圧塔に含まれる回収部に、熱を移動させるための熱交換構造A8が設けられる。なお、
図1においては、熱交換構造の詳細構造は示されておらず、熱の移動が概念的に破線矢印によって示されている(
図2〜4においても同様)。
【0053】
低圧塔の塔底部から排出された液の一部が、リボイラーA9で加熱され、その少なくとも一部が気化されて低圧塔に戻される。低圧塔の塔底から排出された液の残りの部分は、缶出液として蒸留塔から排出される。
【0054】
高圧塔の塔頂部から排出される蒸気が、ラインA10を通して、第一の塔A1の塔底部に供給される。また、第一の塔の塔底部から排出される液が、ラインA11を通して、高圧塔の塔頂部に供給される。第一の塔の運転圧力は、高圧塔の運転圧力以下である。高圧塔の塔頂から排出される蒸気は必要に応じて、減圧弁などの減圧手段によって減圧したうえで、第一の塔の塔底部に供給することができる。また、第一の塔の塔底部から排出される液は、配管の圧力損失や高低差、第一の塔と高圧塔との運転圧力差により、第一の塔から高圧塔に送ることができない場合など、必要に応じて送液のためにポンプを用いることができる。
高圧塔の塔頂部にコンデンサーおよび還流ラインを設けなくてもよく(
図1)、あるいは設けてもよい。また、第一の塔の塔底部にリボイラーを設けなくてもよく(
図1)、あるいは設けてもよい。いずれの場合も、高圧塔の塔頂部(すなわち第二の塔の塔頂部)から排出される蒸気は、場合によって(還流として)高圧塔に戻される部分を除いて、その全量が第一の塔の塔底部に供給される。また、第一の塔の塔底部から排出される液は、場合によって(リボイルされて)第一の塔に戻される部分を除いて、その全量が、高圧塔の塔頂部(すなわち第二の塔の塔頂部)に供給される。
【0055】
第一の塔の塔頂部から排出される蒸気は、塔頂コンデンサーA12で冷却され、少なくとも一部が凝縮される。凝縮液の一部が第一の塔に還流され、残りの凝縮液(凝縮していない蒸気を伴ってもよい)は留出液として蒸留塔から排出される。
【0056】
塔頂コンデンサーA12周りの構成ならびにリボイラーA9周りの構成は、従来から知られた蒸留塔に適用される構成を採用することができる。例えば、必要に応じて塔頂コンデンサーの下流に還流ドラム(不図示)を設けることができる。
【0057】
熱交換構造A8によって、高圧塔の濃縮部の内部流体が冷却されるとともに、低圧塔の回収部の内部流体が加熱される。いわば、この熱交換構造は、
図1に示した蒸留塔の濃縮部に設けられたサイドクーラーとして機能すると同時に、回収部に設けられたサイドリボイラーとして機能する。以上のような構成により、第二の塔に含まれる濃縮部から第二の塔に含まれる回収部に熱を移動させることができる。
【0058】
このような熱交換構造によって、
図1に示した蒸留塔の塔頂コンデンサーA12およびリボイラーA9の熱負荷が軽減される。一方、コンプレッサーの所要動力が負荷として加わるが、この所要動力が十分小さく抑えられれば、蒸留塔の消費エネルギーを削減することができる。
【0059】
形態Aの蒸留塔は、塔頂に近い領域において殆どの塔内温度変化が発生するような従来型蒸留塔に替えて、好適に利用できる。従来型蒸留塔の塔内温度変化が小さな領域のみにHIDiCを適用することにより、コンプレッサーの所用動力を抑えつつ、熱の有効利用を図ることができるからである。
【0060】
〔形態B(HIDiC)〕
図2に、本発明の蒸留塔の別の形態(形態B)の概略構成を示す。この蒸留塔は、第一の塔B1と第二の塔B2を有する。第二の塔は、HIDiCを構成し、高圧部として高圧塔B3を有し、低圧部として低圧塔B4を有する。原料は低圧塔の塔頂部に供給される。したがって、
図2に示した蒸留塔の濃縮部の全部が高圧塔に含まれる。また、
図2に示した蒸留塔の回収部の一部が低圧塔に含まれ、残部が第一の塔に含まれる。
【0061】
高圧塔の運転圧力は、低圧塔の運転圧力より高い。このために、蒸気用ラインB5にコンプレッサー等の昇圧手段B6を設ける。低圧塔の塔頂から排出される蒸気を、昇圧手段によって加圧したうえで、高圧塔の塔底部に供給する。高圧塔の塔底部から排出される液は、液用ラインB7を通じて、低圧塔の塔頂部に供給される。必要に応じて、高圧塔の塔底部から排出される液を、減圧弁などの減圧手段によって減圧したうえで、低圧塔の塔頂部に供給することができる。また、配管の圧力損失や高低差などに起因して高圧塔と低圧塔との運転圧力差だけでは液を高圧塔から低圧塔に送ることができない場合など、必要に応じて送液のためにポンプを用いることができる。高圧塔の運転圧力を低圧塔の運転圧力より高くする理由は、高圧塔(特には高圧塔に含まれる濃縮部)の運転温度を低圧塔(特には低圧塔に含まれる回収部)の運転温度より高くするためである。
【0062】
高圧塔に含まれる濃縮部から、低圧塔に含まれる回収部に、熱を移動させるための熱交換構造B8が設けられる。
【0063】
高圧塔の塔頂部から排出される蒸気は、塔頂コンデンサーB12で冷却され、少なくとも一部が凝縮される。凝縮液の一部が
高圧塔に還流され、残りの凝縮液(凝縮していない蒸気を伴ってもよい)は留出液として蒸留塔から排出される。
【0064】
低圧塔の塔底部から排出される液が、ラインB11を通して、第一の塔の塔頂部に供給される。第一の塔の塔頂部から排出される蒸気が、ラインB10を通して、低圧塔の塔底部に供給される。第一の塔の運転圧力は、低圧塔の運転圧力よりも僅かに高く設定される。この圧力差は、第一の塔の塔頂から排出される蒸気が、配管の圧力損失などに打ち勝ち、低圧塔の塔底部に供給することができる分に相当する。また、低圧塔の塔底部から排出される液に関しては、配管の圧力損失や高低差、第一の塔と低圧塔との運転圧力差により、低圧塔から第一の塔に送ることができない場合など、必要に応じて送液のためにポンプを用いることができる。
【0065】
第一の塔の塔頂部にコンデンサーおよび還流ラインを設けなくてもよく(
図2)、あるいは設けてもよい。また、低圧塔の塔底部にリボイラーを設けなくてもよく(
図2)、あるいは設けてもよい。いずれの場合も、第一の塔の塔頂部から排出される蒸気は、場合によって(還流として)第一の塔に戻される部分を除いて、その全量が低圧塔の塔底部(すなわち第二の塔の塔底部)に供給される。また、低圧塔の塔底部(すなわち第二の塔の塔底部)から排出される液は、場合によって(リボイルされて)低圧塔の塔底部に戻される部分を除いて、その全量が第一の塔の塔頂部に供給される。
【0066】
第一の塔の塔底部から排出された液の一部が、リボイラーB9で加熱され、その少なくとも一部が気化されて第一の塔に戻される。第一の塔の塔底部から排出された液の残りの部分は、缶出液として蒸留塔から排出される。
【0067】
塔頂コンデンサーB12周りの構成ならびにリボイラーB9周りの構成は、従来から知られた蒸留塔に適用される構成を採用することができる。例えば、必要に応じて塔頂コンデンサーの下流に気液分離ドラム(不図示)を設けることができる。
【0068】
熱交換構造B8によって、高圧塔の濃縮部の内部流体が冷却されるとともに、低圧塔の回収部の内部流体が加熱される。いわば、この熱交換構造は、
図2に示した蒸留塔の濃縮部に設けられたサイドクーラーとして機能すると同時に、回収部に設けられたサイドリボイラーとして機能する。以上のような構成により、第二の塔に含まれる濃縮部から第二の塔に含まれる回収部に熱を移動させることができる。
【0069】
このような熱交換構造によって、
図2に示した蒸留塔の塔頂コンデンサーB12およびリボイラーB9の熱負荷が軽減される。一方、コンプレッサーの所要動力が負荷として加わるが、この所要動力が十分小さく抑えられれば、蒸留塔の消費エネルギーを削減することができる。
【0070】
形態Bの蒸留塔は、塔底に近い領域において殆どの塔内温度変化が発生するような従来型蒸留塔に替えて、好適に利用できる。従来型蒸留塔の塔内温度の変化が小さな領域のみにHIDiCを適用することにより、コンプレッサーの所用動力を抑えつつ、熱の有効利用を図ることができるからである。
【0071】
〔形態C(VRC)〕
図3に、本発明の蒸留塔のさらなる形態(形態C)の概略構成を示す。この蒸留塔は、第一の塔C1と第二の塔C2を有する。第二の塔は、VRCを構成する。原料は第二の塔の中間段に供給される。したがって、
図3に示した蒸留塔の濃縮部の一部が第一の塔に含まれ、残部が第二の塔に含まれる。また
図3に示した蒸留塔の回収部の全部が、第二の塔に含まれる。
【0072】
第二の塔は、リボイラーC9を備える。第二の塔の塔頂部から排出される蒸気の一部が、ラインC5を経て、リボイラーに加熱源として供給される。すなわち、ラインC5はリボイラーの加熱源供給口に接続される。ラインC5には昇圧手段としてコンプレッサーC6が設けられる。コンプレッサーによって蒸気が昇圧されるとともに昇温されて、リボイラーに供給される。
【0073】
リボイラーにおいて第二の塔の塔底から排出された液を加熱するために利用された流体は、ラインC7を経て、第二の塔の塔頂部に戻される。ラインC7には減圧弁C8が設けられ、ここでラインC7を流れる流体の圧力および温度が低下する。ラインC7から第二の塔に戻される流体の少なくとも一部が凝縮する。したがって、リボイラーC9は、第二の塔の塔頂コンデンサーとして機能することができる。
【0074】
第二の塔の塔頂部から排出された蒸気の残部が、ラインC5から分岐したラインC4を経て、第一の塔の塔底部に送られる。第二の塔の塔頂部から排出された蒸気は、ラインC5およびC7を経て第二の塔に戻される部分を除き、その全量が第一の塔に供給される。
【0075】
第一の塔の塔底部から排出される液は、ラインC3を経て、第二の塔の塔頂部に送られる。第一の塔の運転圧力は、第二の塔の運転圧力以下である。第二の塔の塔頂から排出される蒸気は必要に応じて、減圧弁などの減圧手段によって減圧したうえで、第一の塔の塔底部に供給することができる。また、第一の塔の塔底部から排出される液に関しては、配管の圧力損失や高低差、第一の塔と第二の塔との運転圧力差により、第一の塔から第二の塔に送ることができない場合など、必要に応じて送液のためにポンプを用いることができる。
【0076】
第一の塔にリボイラーを設けなくてもよく(
図3)、あるいは設けてもよい。いずれの場合も、第一の塔の塔底部から排出される液は、場合によって(リボイルされて)第一の塔に戻される部分を除いて、その全量が第二の塔の塔頂部に供給される。
【0077】
第二の塔の塔底部から排出された液の一部が、リボイラーC9で加熱され、その少なくとも一部が気化されて第二の塔の塔底部に戻される。第二の塔の塔底から排出された液の残りの部分は、缶出液として蒸留塔から排出される。
【0078】
第一の塔の塔頂部から排出される蒸気は、塔頂コンデンサーC10で冷却され、少なくとも一部が凝縮される。凝縮液の一部が第一の塔の塔頂部に還流され、残りの凝縮液(凝縮していない蒸気を伴ってもよい)は留出液として蒸留塔から排出される。
【0079】
塔頂コンデンサーC10周りの構成は、従来から知られた蒸留塔に適用される構成を採用することができる。例えば、必要に応じて塔頂コンデンサーの下流に還流ドラム(不図示)を設けることができる。
【0080】
リボイラーC9は、
図3に示した蒸留塔のリボイラーとして機能するとともに、
図3に示した蒸留塔のサイドクーラーとして機能する。コンプレッサーの所要動力が負荷として加わるが、この所要動力が十分小さく抑えられれば、蒸留塔の消費エネルギーを削減することができる。
【0081】
形態Cの蒸留塔は、塔頂に近い領域において殆どの塔内温度変化が発生するような従来型蒸留塔に替えて、好適に利用できる。従来型蒸留塔の塔内温度の変化が小さな領域のみにVRCを適用することにより、コンプレッサーの所用動力を抑えつつ、熱の有効利用を図ることができるからである。
【0082】
〔形態D(VRC)〕
図4に、本発明の蒸留塔のさらなる形態(形態D)の概略構成を示す。この蒸留塔は、第一の塔D1と第二の塔D2を有する。第二の塔は、VRCを構成する。原料は第二の塔の中間段に供給される。したがって、
図4に示した蒸留塔の濃縮部の全部が第二の塔に含まれる。また
図4に示した蒸留塔の回収部の一部が第二の塔に含まれ、残部が第一の塔に含まれる。
【0083】
第二の塔は、リボイラーD9を備える。第二の塔の塔頂部から排出される蒸気の一部が、ラインD5を経て、リボイラーD9に加熱源として供給される。すなわち、ラインD5はリボイラーの加熱源供給口に接続される。ラインD5には昇圧手段としてコンプレッサーD6が設けられる。コンプレッサーによって蒸気が昇圧されるとともに昇温されてリボイラーに供給される。
【0084】
リボイラーD9において第二の塔の塔底から排出された液を加熱するために利用された流体は、ラインD7を経て、第二の塔の塔頂部に戻される。ラインD7には減圧弁D8が設けられ、ここでラインD7を流れる流体の圧力および温度が低下する。ラインD7から第二の塔に戻される流体の少なくとも一部が凝縮する。したがって、リボイラーD9は、第二の塔の塔頂コンデンサーとして機能することができる。
【0085】
第二の塔の塔頂部から排出される蒸気の残部は、塔頂コンデンサーD10で冷却され、少なくとも一部が凝縮される。凝縮液の一部が
第二の塔の塔頂部に還流され、残りの凝縮液(凝縮していない蒸気を伴ってもよい)は留出液として蒸留塔から排出される。
【0086】
第二の塔の塔底部から排出された液の一部が、リボイラーD9で加熱され、その少なくとも一部が気化されて第二の塔の塔底部に戻される。第二の塔の塔底部から排出された液の残りの部分は、ラインD3を経て、第一の塔の塔頂部に送られる。第二の塔の塔底部から排出される液は、リボイラーD9でリボイルされて第二の塔に戻される部分を除いて、その全量が第一の塔の塔頂部に供給される。
【0087】
第一の塔の塔頂部から排出された蒸気は、ラインD4を経て、第二の塔の塔底部に送られる。
【0088】
第一の塔の運転圧力は、第二の塔のよりも僅かに高く設定される。この圧力差は、第一の塔の塔頂から排出される蒸気が、配管の圧力損失などに打ち勝ち、第二の塔の塔底部に供給することができる分に相当する。また、第二の塔の塔底部から排出される液に関しては、配管の圧力損失や高低差、第一の塔と第二の塔との運転圧力差により、第二の塔から第一の塔に送ることができない場合など、必要に応じて送液のためにポンプを用いることができる。
第一の塔の塔頂部に、コンデンサーおよび還流ラインを設けなくてもよく(
図4)、あるいは設けてもよい。いずれの場合も、第一の塔の塔頂部から排出される
蒸気は、場合によって(還流として)第一の塔に戻される部分を除き、その全量が第二の塔の塔底部に供給される。
【0089】
第一の塔の塔底部から排出された液の一部がリボイラーD11で加熱され、その少なくとも一部が気化されて第一の塔に戻される。第一の塔の塔底部から排出された液の残りの部分は、缶出液として蒸留塔から排出される。
【0090】
塔頂コンデンサーD10周りの構成ならびにリボイラーD11周りの構成は、従来から知られた蒸留塔に適用される構成を採用することができる。例えば、必要に応じて塔頂コンデンサーの下流に還流ドラム(不図示)を設けることができる。
【0091】
リボイラーD9は、
図4に示した蒸留塔のサイドリボイラーとして機能するとともに、
図4に示した蒸留塔の塔頂コンデンサーとして機能する。コンプレッサーの所要動力が負荷として加わるが、この所要動力が十分小さく抑えられれば、蒸留塔の消費エネルギーを削減することができる。
【0092】
形態Dの蒸留塔は、塔底に近い領域において殆どの塔内温度変化が発生する従来型蒸留塔に替えて、好適に利用できる。従来型蒸留塔の塔内温度の変化が小さな領域のみにVRCを適用することにより、コンプレッサーの所用動力を抑えつつ、熱の有効利用を図ることができるからである。
【0093】
〔蒸留塔の温度プロファイル〕
図5に、蒸留塔の温度プロファイルの例を示す。このグラフは、後に詳述する比較例1における蒸留塔の温度プロファイルを示している(ただし、比較例1と条件が若干異なる)。この蒸留塔は、単一の塔で構成される従来型の蒸留塔である。横軸は蒸留塔の段数(塔頂から段数を数えるものとする)、縦軸は塔内温度を示す。
【0094】
蒸留塔の総段数は51段であり、塔頂温度は約120℃、塔底温度は約155℃である。この蒸留塔では、塔頂に近い領域において、図示される曲線の傾きが大きく、つまり塔内温度の変化が大きい。10番目の段において、曲線の傾きの変化が最も大きい。
【0095】
従来型の塔を本発明に従って第一の塔と第二の塔に分割する位置は、塔内温度プロファイルを示す曲線の傾きが最も大きい位置もしくはその近傍が好ましい。つまり、
図5に示すような温度プロファイルを持つ従来型の蒸留塔については、例えば第10段で塔を分割することが好ましい。換言すれば、前記形態Aや形態Cの蒸留塔の温度プロファイルが
図5に示すような曲線で表される場合、例えば、従来型蒸留塔の塔頂から第10段までに相当するように第一の塔を構成し、従来型蒸留塔の残りの部分が第二の塔に相当するように第二の塔を構成することが好ましい。
【0096】
場合によっては、塔頂に近い領域ではなく、塔底に近い領域において、塔内温度の変化が大きいことがある。そのような場合には、前記形態Bや形態Dが好適である。
【0097】
温度プロファイルは蒸留塔の具体的な構成や運転条件によって変化しうるが、塔頂に近い領域の温度変化が大きい場合でも、塔底に近い領域の温度変化が大きい場合でも、概して、第一の塔の段数が従来型蒸留塔の総段数のおおよそ40%以下になるように前記分割の位置を決めることができる。したがって、第一の塔の段数を、本発明の蒸留塔の総段数(第一の塔の段数と第二の塔の段数の合計)の40%以下にすることができる。
【0098】
〔HIDiCに用いられる熱交換構造の詳細〕
以下、HIDiCに用いられる熱交換構造の例について詳細に説明する。
【0099】
・第一の詳細例
前述のaに記載したような熱交換構造、すなわち第二の塔に含まれる回収部から液を抜き出して熱交換器を経てその回収部に戻すよう構成される熱交換構造は、例えば次のような要素を含むことができる:
・第二の塔に含まれる濃縮部(濃縮部Xと称す)の或る段に配置された熱交換器;
・第二の塔に含まれる回収部(回収部Yと称す)の或る段に配置され、この段から一部の液を塔外部へ抜き出す液抜き部;
・液抜き部からの液をこの熱交換器へ導入する配管(第一の配管);および、
・第一の配管を経由してこの熱交換器へ導入された後にこの熱交換器より流出する流体を、回収部Yの液抜き部の直下の段へ導入する配管(第二の配管)。
【0100】
図9および10を参照しつつ、これらの要素について説明する。
図9に示すように、回収部Yに設けられる液抜き部は、回収部Yの上部から流下してきた液10を液溜め用棚板1に溜め、液10の一部をその塔の外部へ抜き出す。液抜き部には、液10の一部を濃縮部X内の熱交換器へ向かわせる配管(第一の配管)21が接続されている。また、液抜き部の直ぐ下の段には、この熱交換器からの配管22(第二の配管)が回収部Yの外壁を貫通して挿入されている。液抜き部の直ぐ下の段(液溜め用棚板の直ぐ下の段)に挿入された配管22からは、後述するように蒸気11と液12が混ざった流体が導入され、蒸気11は上昇し、液12は下へ落ちる。液抜き部は、液溜め用棚板1と、回収部Yの外壁に設けられた、第一の配管との接続口とを有する。
【0101】
図10に示すように、濃縮部Xの或る段にはチューブバンドル型熱交換器2が差し込まれている。チューブバンドル型熱交換器2のU形チューブにおける平行なチューブ部分は、凝縮した液を一度溜め且つ上昇蒸気を整流するための液溜め用トレイ3に沿って配されている。該平行なチューブ部分のうち下側のチューブ部分2aは、回収部Yの液抜き部に接続された配管(第一の配管)21と繋がっている。そして上側のチューブ部分2bは、液抜き部の直ぐ下の段に挿入されている配管(第二の配管)22と繋がっている。
【0102】
ここで、チューブバンドル型熱交換器2の作用について説明する。濃縮部X内を上昇する蒸気13(
図10参照)は、チューブバンドル型熱交換器2のUチューブと接触する。このとき、熱交換器2の下側のチューブ部分2aには回収部Yの或る段における液が配管21により導入されているため、このチューブ部分2a内の液が蒸気13の熱で加熱されるとともに、チューブ部分2aに接触した蒸気13の一部は液14となって下へと落ちる。さらに、熱交換器2の上側のチューブ部分2bも蒸気13の熱で加熱されているので、配管21から熱交換器2内に導入された液体は下側のチューブ部分2aから上側のチューブ部分2bを移動するにつれて、液相と気相が混ざった流体に変わる。そして、この流体は塔外の配管22を通って回収部Yの液抜き部(液溜め用棚板1)の直ぐ下の段に導入される(
図9参照)。
【0103】
回収部Yの液抜き部が、濃縮部Xの熱交換器より、鉛直方向において高い位置に設置されている場合、このような流体の循環においては、本構成がサーモサイフォン方式となっているため、ポンプなどの圧送手段を特に必要としない。
【0104】
・第二の詳細例
前述のbに記載したような熱交換構造、すなわち第二の塔に含まれる濃縮部から蒸気を抜き出して熱交換器を経てその
濃縮部に戻すよう構成される熱交換構造は、例えば次のような要素を含むことができる:
・第二の塔に含まれる回収部(回収部Y)の或る段に設けられ、上から流下してきた液を溜める液溜め部;
・前記液溜め部内に配置された熱交換器;
・第二の塔に含まれる濃縮部(濃縮部X)の内部に設けられた、上下の段を完全に仕切る仕切板;
・前記仕切板の下側の蒸気をこの熱交換器へ導入する配管(第三の配管);
・第三の配管を経由してこの熱交換器へ導入された後にこの熱交換器より流出する流体を、前記仕切板の上側へ導入する配管(第四の配管)。
【0105】
図11を参照しつつ、これらの要素について説明する。回収部Yの或る段に設けられた液溜め部は、上から流下してきた液10を液溜め用棚板4上に所定量貯留し、液溜め用棚板4から溢れた液は下へ落とせるようになっている。液溜め部に貯留された液の中にチューブバンドル型熱交換器2のUチューブが浸漬されるように、液溜め部にチューブバンドル型熱交換器2が差し込まれている。チューブバンドル型熱交換器2のU形チューブにおける平行なチューブ部分2a,2bは、液溜め用棚板4に沿って配されている。
【0106】
該平行なチューブ部分のうち上側のチューブ部分2bには、濃縮部Xから回収部Yへ流体を送る配管23が接続されている。下側のチューブ部分2aには、回収部Yから濃縮部Xへ流体を送る配管24が接続されている。
【0107】
ここで、液溜め部での熱交換器2の作用について説明する。回収部Yの上部から棚段或いは充填層を通って液が流下してくる。この液10は、任意の段に設けられた液溜め用棚板4上の液溜め部に溜まる。液溜め部内にはチューブバンドル型熱交換器2のU形チューブが配置されているため、該U形チューブは液10の中に浸漬されることとなる。この状態において熱交換器2の上側のチューブ部分2bに濃縮部X内の高温蒸気が配管23によって導入されたとき、高温蒸気が移動するチューブ部分2b,2aの管壁と接している液10の一部は加熱され蒸気15になって上昇する。また配管23から熱交換器2に導入された高温蒸気は、上側のチューブ部分2bから下側のチューブ部分2aを移動するにつれて、液相と気相が混ざった流体、或いは液体に変わる。この流体は塔外の配管を通り、後述するような濃縮部Xの仕切板上の段に導入される。濃縮部Xの仕切板より上の領域は仕切板より下の領域よりも低い操作圧力に設定されており、この圧力差により流体の循環が行われる。回収部Yの熱交換器が
、濃縮部Xの仕切り板より、鉛直方向において高い位置に設置されている場合、このような流体の循環においても、ポンプなどの圧送手段を特に必要としない。
【0108】
つまり、濃縮部Xにおける或る段から回収部Yにおける熱交換器2の上側のチューブ部分2bまでを配管23で接続し、回収部Yにおける熱交換器2の下側のチューブ部分2aから濃縮部Xにおける前記の段までを配管24で接続しているため、濃縮部Xの仕切板上下の圧力差により、濃縮部X内の高圧蒸気は回収部Yにおける熱交換器2に向かって配管23を上昇し、これによって、熱交換器2内で蒸気から凝縮した液が回収部Yから塔外の配管24に押し出され、濃縮部Xへ重力により流れる。したがって、ポンプなどの圧送手段は不要である。
【0109】
濃縮部Xは途中の位置で仕切板により上下の段が完全に仕切られている。仕切板の直ぐ下の段は配管23と連通しており、この段での上昇蒸気は、配管23によって、回収部Yの液溜め部に配置された熱交換器2の上側のチューブ部分2bに送られる。仕切板の上側の段には、回収部Yからの配管24が濃縮部Xの外壁を貫通して挿入されている。この配管24から仕切板の上側の段に、蒸気と液が混ざった流体が導入され、濃縮部X内で蒸気は上昇し、液は下へ落ちて仕切板上に溜まる。また仕切板を挟んで上下に位置する二つの段は、制御弁を備えた配管により連絡可能となっている。仕切板上に溜まった液は、制御弁の開放操作により、仕切板の下方の段へ適時送られる。
【0110】
本発明によれば、塔内温度差が大きい場合であっても、蒸留塔を大幅に省エネルギー化することが可能となる。特には、塔内温度分布において、塔頂付近あるいは塔底付近で塔頂−塔底温度差のうちの大きな温度変化、例えば塔頂−塔底温度差の半分程度の温度差を有する蒸留塔において、大幅な省エネルギー化を達成することができる。また、塔頂と塔底の温度差が小さい場合であっても、更なる省エネルギー化が可能となる。
【実施例】
【0111】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
図6〜8に圧力(kPaA)、温度(℃)、熱交換量(MW)および電力消費量(MW)を示すが、圧力は円の中に、温度は矩形の中に、熱
交換量は長円の中に、電力消費量は長六角形の中に示す。圧力単位「kPaA」における「A」は、絶対圧を意味する。また、図中、CW、STMはそれぞれ、冷却水、スチームを表す。
【0112】
〔比較例1〕
パラキシレンにトルエンが混入した原料から、蒸留によってトルエンを分離して、パラキシレンを精製するパラキシレン精製塔について、熱物質収支をとった。本例では、従来型の蒸留塔を用いた。物質収支(原料、留出液、缶出液の流量および組成)を表1に示す。
【0113】
この分離を従来型蒸留操作により分離する場合は、
図6に示すようなフロー図となる。
【0114】
図6に示すように、蒸留塔601に原料が供給される。蒸留塔の総段数はコンデンサー段、リボイラー段を含めて51段であり、リボイラー負荷が最小となるような最適段に原料が供給される。
【0115】
塔頂から圧力138kPaA、123℃の蒸気が排出され、塔頂コンデンサー602で冷却水によって冷却されて全凝縮し、ドラム603を経てポンプ604に供給される。ポンプ604の出口液の一部が蒸留塔の塔頂部に還流され、残部が留出液として蒸留塔から排出される。
【0116】
塔底部からは圧力206kPaA、167℃の液が排出される。その液の一部がリボイラー605でスチームによって加熱され、その一部が気化し、蒸留塔の塔底部に戻される。塔底部から排出された液の残部は、ポンプ606で昇圧された後、缶出液として蒸留塔から排出される。
【0117】
表2に、この蒸留塔の塔頂運転圧力、用役冷却負荷、用役加熱負荷、消費電力を示し、また総用役冷却負荷、総用役加熱負荷、総消費電力を示す。ここでいう用役冷却負荷は、用役による冷却の負荷であり、詳しくは、塔頂コンデンサー602において冷却水によって蒸留塔から取り除かれる熱量である。ここでいう用役加熱負荷は、用役による加熱の負荷であり、詳しくは、リボイラー605においてスチームによって蒸留塔に与えられる熱量である。
【0118】
液を圧送するためのポンプについては、配管の圧力損失や、液を低い位置から高い位置に送るための揚程に相当する分だけ圧力を上昇させればよく、気体を圧縮するコンプレッサーに比べて消費電力は充分小さい。よって、実施例および比較例において、ポンプの消費電力は無視した。本例では、コンプレッサーは使用されないため、消費電力はゼロである。
【0119】
〔比較例2〕
比較例1と同様に、パラキシレン精製塔について熱物質収支をとった。ただし、本例では、従来型蒸留塔に替えて、HIDiCを用いた。物質収支は、比較例1と同様であり、表1に示すとおりである。
【0120】
この蒸留塔は、高圧塔701および低圧塔702を含む。高圧塔701は、低圧塔702より、鉛直方向下方に設置される。
【0121】
低圧塔702の中間段(低圧塔の塔頂部に近い段)に、原料が供給される。低圧塔702において、原料供給位置より下は回収部であり、原料供給位置より上が本例の蒸留塔の濃縮部の一部である。高圧塔701は、本例の蒸留塔の濃縮部の残りの部分を含む。
【0122】
低圧塔702の塔頂部から蒸気(123kPaA、142℃)が抜き出され、コンプレッサーの圧縮工程中で凝縮しないよう、熱交換器703で155℃に加熱される。加熱された蒸気が、コンプレッサー704によって昇圧されると同時に昇温され(357kPaA、190℃)、熱交換器705によって186℃に冷却され、高圧塔701の塔底部(342kPaA、184℃)に供給される。低圧塔702の塔底部(136kPaA、150℃)から抜き出される液の一部が、ポンプ706を経て、缶出液として蒸留塔から排出され、残りの部分は二つの流れに分岐される。分岐された一方の流れがリボイラー707でスチームによって加熱され、低圧塔702の塔底部に戻される。分岐された他方の流れは、熱交換器705で加熱されて低圧塔702の塔底部に戻される。コンプレッサー704における圧縮によって、高圧塔の運転温度は、低圧塔の運転温度より高くなる。熱交換器705はリボイラーとして機能するとともに、本例の蒸留塔のサイドクーラーとして機能する。この熱交換器において、HIDiCの内部熱交換が実現されている。つまり、熱交換器705における熱交換によって、リボイラー707の加熱負荷が低減され、省エネルギー化が図られている。
【0123】
高圧塔701の塔底部から抜き出された液は、ポンプ708で昇圧され、熱交換器703で冷却されて、低圧塔702の塔頂部に供給される。ポンプ708は、低い位置から高い位置に液を送るために必要に応じて設けられる。
【0124】
高圧塔の塔頂部(340kPaA、161℃)から抜き出された蒸気の一部が、還流ドラム709に送られる。高圧塔の塔頂部から抜き出された蒸気の残りの部分は、三つの流れに分岐され、低圧塔702に設けられた三つの熱交換器710でそれぞれ冷却されて、ドラム709に送られる。
【0125】
還流ドラム709には、熱交換器(塔頂コンデンサー)711が接続される。熱交換器711では、冷却媒体として冷却水が用いられる。ドラム709から蒸気が熱交換器711に流入し、冷却および凝縮されて、ドラム709に戻される。このドラムからの液がポンプ712で昇圧される。ポンプ712の出口液の一部が、高圧塔701の塔頂部に還流として戻される。ポンプ712の出口液の残りの部分が、留出液として蒸留塔から排出される。
【0126】
低圧塔702(特にはその回収部)の三つの段に、先に熱交換構造の第二の詳細例にて詳述した、液溜め部713と、液溜め部に溜まった液に浸るように設けられたチューブバンドル型熱交換器710が設けられている(ただし、第二の詳細例で述べた仕切り板、第三および第四の配管は、ここでは採用していない)。
【0127】
前述のように、高圧塔701の塔頂部から抜き出された蒸気の一部が三つの流れに分岐され、それぞれの流れが各熱交換器710を経た後にドラム709に送られる。高圧塔701の塔頂部から熱交換器710に蒸気を導くライン、熱交換器710、液溜め部713、熱交換器710から排出される流体をドラム709およびポンプ712を経て高圧塔701の塔頂部に戻すラインによって、HIDiCの熱交換構造が構成される。この熱交換構造によって、本例の蒸留塔の濃縮部の熱が本例の蒸留塔の回収部に移動する。熱交換器710は、本例の蒸留塔の塔頂コンデンサーとして機能するとともに、本例の蒸留塔のサイドリボイラーとして機能する。これによってHIDiCの内部熱交換が実現され、省エネルギー化が図られる。
【0128】
表2に、本例の蒸留塔の塔頂運転圧力、用役冷却負荷、用役加熱負荷、消費電力を示し、また総用役冷却負荷、総用役加熱負荷、総消費電力を示す。ここでいう用役冷却負荷は、用役による冷却の負荷であり、詳しくは、塔頂コンデンサー711において冷却水によって蒸留
塔から取り除かれる熱量である。ここでいう用役加熱負荷は、用役による加熱の負荷であり、詳しくは、リボイラー707においてスチームによって蒸留
塔に与えられる熱量である。三つの熱交換器710も塔頂コンデンサーとして機能するが、これらにおいては蒸留塔内の流体を用いて冷却を行っているため、外界に熱を取り出す必要がなく、用役冷却負荷はゼロである。熱交換器705もリボイラーとして機能するが、これにおいては、蒸留塔内の流体を加熱源として利用しているため、外界からリボイラーを加熱する必要がなく、したがって用役加熱負荷はゼロである。消費電力は、コンプレッサー704で消費される電力である。消費電力は、機械損失を含んだ値で示した。なお、機械損失は7%と想定しているので、消費電力は圧縮に必要な電力を1.07倍した値となっている(他の例においても同様)。
【0129】
省エネルギー指標ESIは、総用役加熱負荷と総消費電力(消費する電力を一次エネルギーに換算した値、一次エネルギー換算値=電力÷0.366)との合計値が、従来型蒸留塔を用いた場合(比較例1)に対してどれだけ低減できたかを示す指標である。
【0130】
〔実施例1〕
比較例1と同様に、パラキシレン精製塔について熱物質収支をとった。ただし、本例では従来型蒸留塔に替えて、本発明に従う、第一の塔および第二の塔を有する蒸留塔を用いた。第二の塔はHIDiCを構成する。本例の蒸留塔は、比較例1の従来型蒸留塔(総段数51段)と、総段数(第一の塔の段数と第二の塔の段数の合計)が同一となるような構成を有する。第一の塔の段数は、第一の塔における温度変化が、従来型蒸留塔における塔頂から塔底までの温度差のうちの約65%を有するように設定されており、第一の塔の段数が総段数の1/3以下となっている。物質収支は、比較例1と同様であり、表1に示すとおりである。
【0131】
本例の蒸留塔は、第一の塔821と第二の塔とを含む。第二の塔は、高圧塔801および低圧塔802を含む。高圧塔801は、低圧塔802より、鉛直方向下方に設置される。第一の塔821は、単一の塔で構成され、塔から排出される蒸気を昇圧および昇温するための、コンプレッサー等の昇圧手段を備えない。
【0132】
低圧塔802の中間段(低圧塔の塔頂部に近い段)に、原料が供給される。低圧塔802において、原料供給位置より下は本例の蒸留塔の回収部である。本例の蒸留塔の濃縮部は、低圧塔802の原料供給位置より上の部分と、高圧塔801と、第一の塔821とに含まれる。
【0133】
低圧塔802の塔頂部から蒸気(123kPaA、146℃)が抜き出され、コンプレッサーの圧縮工程中に凝縮しないよう、熱交換器803で154℃に加熱される。加熱された蒸気が、コンプレッサー804によって昇圧されると同時に昇温され(227kPaA、175℃)、熱交換器805によって168℃に冷却され、高圧塔801の塔底部(212kPaA、168℃)に供給される。低圧塔802の塔底部(133kPaA、149℃)から抜き出される液の一部が、ポンプ806を経て缶出液として蒸留塔から排出され、残りの部分は二つの流れに分岐される。分岐された一方の流れがリボイラー807でスチームによって加熱され、低圧塔802の塔底部に戻される。分岐された他方の流れは、熱交換器805で加熱されて低圧塔802の塔底部に戻される。コンプレッサー804における圧縮によって、高圧塔の運転温度は、低圧塔の運転温度より高くなる。熱交換器805はリボイラーとして機能するとともに、本例の蒸留塔のサイドクーラーとして機能する。この熱交換器において、HIDiCの内部熱交換が実現されている。つまり、熱交換器805における熱交換によって、リボイラー807の加熱負荷が低減され、省エネルギー化が図られている。
【0134】
高圧塔801の塔底部から抜き出された液は、ポンプ808で昇圧されて、低圧塔802の塔頂部に供給される。ポンプ808は、低い位置から高い位置に液を送るために必要に応じて設けられる。
【0135】
高圧塔の塔頂部(210kPaA、166℃)から抜き出された蒸気の一部が、還流ドラム809に送られる。高圧塔の塔頂部から抜き出された蒸気の残りの部分は、四つの流れに分岐される。四つの流れのうちの三つが、低圧塔802に設けられた三つの熱交換器810でそれぞれ冷却されて、ドラム809に送られる。四つの流れのうちの残りの一つが、熱交換器803で冷却されて、ドラム809に送られる。
【0136】
還流ドラム809には、熱交換器(第二の塔のコンデンサー)811が接続される。熱交換器811では、冷却媒体として冷却水が用いられる。ドラム809から蒸気が熱交換器811に流入し、冷却および凝縮されて、ドラム809に戻される。このドラムからの液がポンプ812で昇圧され、高圧塔801の塔頂部に還流として戻される。
【0137】
低圧塔802(特にはその回収部)の三つの段に、先に熱交換構造の第二の詳細例にて詳述した、液溜め部813と、液溜め部に溜まった液に浸るように設けられたチューブバンドル型熱交換器810が設けられている(ただし、第二の詳細例で述べた仕切り板、第三および第四の配管は、ここでは採用していない)。
【0138】
前述のように、高圧塔801の塔頂部から抜き出された蒸気の一部が四つの流れに分岐され、そのうちの三つの流れがそれぞれ熱交換器810を経た後にドラム809に送られる。高圧塔801の塔頂部から熱交換器810に蒸気を導くライン、熱交換器810、液溜め部813、熱交換器810から排出される流体をドラム809およびポンプ812を経て高圧塔801の塔頂部に戻すラインによって、HIDiCの熱交換構造が構成される。この熱交換構造によって、本例の蒸留塔の濃縮部の熱が本例の蒸留塔の回収部に移動する。熱交換器810は、本例の蒸留塔のサイドクーラーとして機能するとともに、本例の蒸留塔のサイドリボイラーとして機能する。これによってHIDiCの内部熱交換が実現され、省エネルギー化が図られる。
【0139】
以上述べた構成によって、HIDiCが構成される。つまり、以上の説明は、本例の蒸留塔のHIDiC部に関する。
【0140】
ドラム809から、蒸気が第一の塔821の塔底部(152kPaA、151℃)に供給される。
【0141】
第一の塔の塔頂部(138kPaA、123℃)から排出される蒸気が、塔頂コンデンサー822で冷却されて全凝縮し、ドラム823を経て、ポンプ824で昇圧される。昇圧された液の一部が第一の塔の塔頂部に戻され、残部が留出液として本例の蒸留塔から排出される。
【0142】
第一の塔の塔底部から排出される液の一部が、リボイラー825においてスチームで加熱されて、第一の塔の塔底部に戻される。第一の塔の塔底部から排出される液の残部が、ポンプ826を経て、第二の塔の高圧塔801の塔頂部に送られる。
【0143】
表2に、第一の塔の塔頂運転圧力、用役冷却負荷、用役加熱負荷、消費電力を示した。ここでいう用役冷却負荷は、用役による冷却の負荷であり、詳しくは、塔頂コンデンサー822において冷却水によって蒸留塔から取り除かれる熱量である。ここでいう用役加熱負荷は、用役による加熱の負荷であり、詳しくは、リボイラー825においてスチームによって蒸留
塔に与えられる熱量である。第一の塔はコンプレッサーを備えないので、消費電力はゼロである。
【0144】
また表2に、第二の塔の塔頂運転圧力、用役冷却負荷、用役加熱負荷、消費電力を示した。ここでいう用役冷却負荷は、詳しくは、熱交換器811において冷却水によって蒸留塔から取り除かれる熱量である。ここでいう用役加熱負荷は、詳しくは、リボイラー807においてスチームによって蒸留塔に与えられる熱量である。三つの熱交換器810も第二の塔のコンデンサーとして機能するが、これらにおいては蒸留塔内の流体を用いて冷却を行っているため、外界に熱を取り出す必要がなく、用役冷却負荷はゼロである。熱交換器805もリボイラーとして機能するが、これにおいては、蒸留塔内の流体を加熱源として利用しているため、外界からリボイラーを加熱する必要がなく、したがって用役加熱負荷はゼロである。消費電力は、コンプレッサー804で消費される電力である。
【0145】
本例では、気液分離ドラム809、熱交換器(第二の塔のコンデンサー)811、およびポンプ812が用いられている。つまり本例の蒸留塔には、第二の塔(特にはその高圧塔)の塔頂部から排出される蒸気の一部を凝縮させるコンデンサー(プロセス流体以外の冷却媒体、例えば冷却水によって冷却される)が設けられ、このコンデンサーから排出される流体(第二の塔の塔頂部から排出される蒸気が冷却された流体)を気液分離する気液分離ドラムが設けられ、また、気液分離ドラムから排出される液を第二の塔の塔頂部に戻すポンプが設けられている。つまり、第二の塔に、塔頂コンデンサーを備える還流ラインが設けられている。これによって、第一の塔および第二の塔を含む蒸留塔の、運転の自由度および安定性が向上する。
【0146】
表2からわかるように、実施例1においては、比較例1と比べて、約55%と大幅なエネルギー削減が可能である。比較例2では、約28%のエネルギー削減にとどまる。これは、必要な蒸留操作を、塔内温度差の比較的大きい領域と、温度差の比較的小さい領域とに二つに分け、前者には機械式ヒートポンプ式蒸留塔を適用せず(従来型の蒸留塔を用い)、後者にのみ機械式ヒートポンプ式蒸留塔を適用したことによる効果である。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】