特許第6289119号(P6289119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6289119-送気弁を持った多缶設置ボイラ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289119
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】送気弁を持った多缶設置ボイラ
(51)【国際特許分類】
   F22B 35/00 20060101AFI20180226BHJP
   F22B 35/14 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   F22B35/00 E
   F22B35/14 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-9475(P2014-9475)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-137800(P2015-137800A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130651
【氏名又は名称】株式会社サムソン
(72)【発明者】
【氏名】森本 守
【審査官】 渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−217808(JP,A)
【文献】 特開昭60−207802(JP,A)
【文献】 特開2003−232501(JP,A)
【文献】 特開2009−079875(JP,A)
【文献】 特開2011−064358(JP,A)
【文献】 特開2013−234775(JP,A)
【文献】 特開2008−241105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 35/00
F22B 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に設置した複数台のボイラ、各ボイラで発生した蒸気を集合させて供給する蒸気供給路、蒸気供給路に設けた段階的な開閉が可能な送気弁、送気弁の開度制御を行う運転指令装置からなる送気弁を持ち、燃焼を開始する場合は、間隔をあけて順次ボイラの燃焼を開始するようにしている多缶設置ボイラにおいて、各ボイラには蒸気供給の準備ができているか否かを検出するための装置を設けておき、送気弁を開く操作を行う場合、間隔を開けて順次燃焼を開始したボイラでの蒸気供給準備が整ったことを検出するごとに送気弁の開度増加操作を行うものであることを特徴とする送気弁を持った多缶設置ボイラ。
【請求項2】
請求項1に記載の送気弁を持った多缶設置ボイラにおいて、蒸気供給路の送気弁よりも上流側に蒸気供給路内の蒸気圧力を検出する蒸気圧力検出装置を設けておき、送気弁を開く操作を行う場合、蒸気圧力検出装置で検出している蒸気圧力値が設定値より低下したことを検出した場合には、送気弁の開操作を中断するようにしているものであることを特徴とする送気弁を持った多缶設置ボイラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラを複数台並列に設置している多缶設置ボイラであって、ボイラからの蒸気を供給する蒸気供給路に送気弁を設けておいて送気弁の開度を調節するようにしている送気弁を持った多缶設置ボイラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数台の蒸気ボイラを並列に設置しておき、蒸気負荷の状況に応じてボイラの運転台数を制御する多缶設置ボイラが広く普及している。ボイラで発生した蒸気を蒸気使用部へ供給する蒸気供給路は、複数台設置しているボイラからの蒸気を集合させた蒸気を蒸気使用部へ供給する。蒸気を連続又は断続的に使用している場合、蒸気供給路内は高温の蒸気で満たされているため、蒸気供給路の温度は高くなる。しかし、工場の始業時であるなど、それまで蒸気供給は停止していたために蒸気供給路が冷えている状態で蒸気供給を開始した場合、蒸気を蒸気供給路内に送ると、蒸気は蒸気供給路内で冷却されて凝縮することになる。蒸気供給路内で蒸気の凝縮が発生すると、蒸気の体積は大幅に縮小するために蒸気供給路内で圧力が低下する。蒸気供給路の圧力が低く、ボイラ部分との圧力差が大きなものとなっていると、ボイラから蒸気供給路へより多くの蒸気が流れ、ボイラ内では圧力の低下が発生する。その結果、ボイラ内ではボイラ水が吸い上げられる現象が発生し、場合によってはボイラ水が蒸気と共に蒸気供給路内へ入り込むキャリオーバが発生することも考えられる。
【0003】
また蒸気供給路内では、蒸気が冷えて凝縮することによって急激な圧力低下があると、ウオーターハンマが発生することもあった。特開平11−44405号公報に記載の発明では、ウオーターハンマを防止するため、ボイラ起動時に通常の運転圧力より低い状態の燃焼と停止とを繰り返す暖機運転を行うとしている。ボイラの起動時には、通常の運転圧力より低い圧力でボイラの運転を行い、低圧の蒸気を蒸気供給路へ送るようことによって、ウオーターハンマ(蒸気ハンマ)の発生を防止するようにしている。しかしこの場合、ボイラに通常の制御圧力とは別の起動時用の圧力に制御するための仕組みを追加することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−44405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、送気弁を持った多缶設置ボイラにおいて、蒸気供給路が冷えた状態で多缶設置ボイラの起動を行い、蒸気供給路に蒸気供給を開始する場合、ボイラ内の圧力が大幅に低下する事態が発生することを防止することのできる送気弁を持った多缶設置ボイラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、並列に設置した複数台のボイラ、各ボイラで発生した蒸気を集合させて供給する蒸気供給路、蒸気供給路に設けた段階的な開閉が可能な送気弁、送気弁の開度制御を行う運転指令装置からなる送気弁を持ち、燃焼を開始する場合は、間隔をあけて順次ボイラの燃焼を開始するようにしている多缶設置ボイラにおいて、各ボイラには蒸気供給の準備ができているか否かを検出するための装置を設けておき、送気弁を開く操作を行う場合、間隔を開けて順次燃焼を開始したボイラでの蒸気供給準備が整ったことを検出するごとに送気弁の開度増加操作を行うものであることを特徴とする。

【0007】
請求項2に記載の発明は、前記の送気弁を持った多缶設置ボイラにおいて、蒸気供給路の送気弁よりも上流側に蒸気供給路内の蒸気圧力を検出する蒸気圧力検出装置を設けておき、送気弁を開く操作を行う場合、蒸気圧力検出装置で検出している蒸気圧力値が設定値より低下したことを検出した場合には、送気弁の開操作を中断するようにしているものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明を実施することにより、蒸気供給路に送気弁を持った多缶設置ボイラにおいて、冷缶状態からのボイラ起動時に送気弁を開く際に、ボイラ内での圧力の急激な低下が発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例での多缶設置ボイラの蒸気供給フロー図
図2】本発明の一実施例での送気弁開度制御とボイラ運転状況の説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施例を図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例での多缶設置ボイラの蒸気供給部分のフロー図である。ボイラは1号缶からX号缶からなる複数台を並列に設置した多缶設置としている。各ボイラ1は共通の蒸気供給路2に接続しており、ボイラ1で発生した蒸気は、蒸気供給路2を通して蒸気使用部6へ送るようにしている。蒸気供給路2には、蒸気供給路2での蒸気圧力値を検出する蒸気圧力検出装置5と、蒸気圧力検出装置5より下流側に弁の開度を変更することのできる送気弁7を設ける。
【0011】
個々のボイラ1は、運転指令装置4からの運転指令に基づいて運転を行う。運転指令装置4は、各ボイラに設けているボイラ運転制御装置3に対して燃焼指令を送るようにしており、燃焼指令を受けたボイラ運転制御装置3ではボイラの各機器を作動させてボイラでの燃焼を行う。また各ボイラ1には、蒸気供給の準備ができているか否かを検出するための装置を設けておく。ボイラは、燃焼を開始する際にはボイラ内を換気するプレパージなどの工程が必要であり、さらにボイラ内が冷えている場合には温度を上昇させる時間も必要であるため、ボイラに対して燃焼指令の出力を行ってもすぐには蒸気の供給は行えない。蒸気供給の準備ができているかを検出する装置としては、ボイラ内の温度を検出する温度検出装置を設けておいて、ボイラ内温度が高い場合には蒸気供給の準備が行えているとの判断を行うものや、ボイラ内の蒸気圧力を検出する蒸気圧力検出装置を設けておいて、ボイラ内圧力が高い場合には蒸気供給の準備が行えているとの判断を行うものが考えられる。また、ボイラに対して燃焼指令を出力してからの時間を計測するタイマ装置を設けておき、燃焼指令の出力から所定時間が経過した時に蒸気供給の準備ができたと判断するものであってもよい。本実施例ではボイラ内部の温度に基づいて蒸気供給の準備が行えているか否かを判断するものとし、各ボイラには温度検出装置を設けておく。個々のボイラにおける温度の情報は、ボイラ運転制御装置3を通じて運転指令装置4へ出力するようにしておく。
【0012】
運転指令装置4は、送気弁7の開度調節も行う。運転指令装置4は蒸気使用部6で蒸気の需要が無くなる終業時には送気弁7を閉じる操作を行い、蒸気使用部6への蒸気の供給が始まる始業時には送気弁7を開く操作を行う。始業時において蒸気の供給を開始する場合、送気弁7の開度を急激に開けると、温度の低い蒸気供給路2では蒸気が冷却されることによる圧力低下によって大きな圧力差が発生し、蒸気供給路2の部分でのウオーターハンマの発生や、ボイラでキャリオーバが発生することがあるため、送気弁7は徐々に開いていく必要がある。
【0013】
運転指令装置4では、送気弁7を開く前にボイラ1の運転を開始する。運転指令装置4からボイラ1に対して燃焼指令を出力しても、ボイラからの蒸気供給を開始するまではタイムラグがあり、すぐには蒸気供給を行えない。そのため、送気弁7を開くよりもボイラ1の燃焼開始を先行させ、先に蒸気供給の準備を行う。多缶設置しているボイラでは、各ボイラには稼働優先順位を設定しており、優先順位に基づき順番に運転を行う。実施例では、ボイラ1号缶の稼働優先順位を第1位、2号缶を第2位、3号缶を第3位とし、最終第X位のX号缶まで号缶順に順位を定めている。
【0014】
運転指令装置4では、稼働優先順位に従い、所定の間隔をあけてボイラへ燃焼指令の出力を行う。また、ボイラ運転制御装置3を通じて各ボイラの温度を検出するようにしておき、ボイラの温度が所定温度まで上昇したことを検出した後に、送気弁7を開く操作を行う。そして送気弁7を開く操作を行う時には、ボイラは燃焼状態となっているようにしておく。
【0015】
図2には、蒸気圧力検出装置5で検出している蒸気圧力値、個々のボイラで検出しているボイラ内温度、ボイラ内温度に基づいて行っている送気弁の開度変更操作の状況を記載している。送気弁7は段階的に開いていくようにしており、送気弁7を開く操作を行う場合は、ボイラの燃焼を先に開始しておき、ボイラ内温度が設定値に達したことを検出した後に送気弁7の開操作を行う。図2においては、まず時刻Aの時点で稼働優先順位が第1位のボイラである1号缶に対して燃焼指令の出力を行う。1号缶ボイラでは燃焼指令を受けると、プレパージなど燃焼準備の工程を行い、燃焼を開始する。運転指令装置4からボイラへの燃焼指令の出力は、稼働優先順位の順に一定の間隔で行っており、ボイラでは順次燃焼準備を行って燃焼を開始していく。稼働優先順位が第1位である1号缶では、時刻Aで燃焼指令の出力を受けて燃焼を開始するのであるが、冷缶状態にあるボイラはすぐには蒸気を供給することはできず、しばらくはボイラ内温度も変化していない。その後ボイラ内の温度が上昇し、蒸気の発生が始まると、蒸気供給路2での蒸気圧力値が上昇する。この時点では燃焼を行っているボイラは1台だけであり、蒸気発生量は少ないものであるが、送気弁7は閉じていることで蒸気は送られないため、蒸気圧力検出装置5で検出している蒸気圧力値は上昇する。
【0016】
時刻Bの時点で1号缶ボイラでは内部温度が設定温度に達しており、運転指令装置4は、1号缶ボイラでは蒸気の供給を行える状態になったとの判断を行う。1台のボイラで蒸気供給準備が行えたことを検出すると、運転指令装置4は送気弁7を1段階分開くための操作を行う。全閉としていた送気弁7は、開度10%を目指して開度を増加していく。
【0017】
この時運転指令装置4は、蒸気圧力検出装置5によって検出している蒸気圧力値が所定の値より大きいことを確認しておく。もしも蒸気圧力値が設定圧力値以下となったことが検出された場合には、送気弁7の開度増加は停止する。送気弁7を開くと、ボイラ1内の蒸気は蒸気供給路2内へと流れるため、送気弁7より上流側の蒸気供給路2とボイラ1の部分では圧力の低下が発生する。その圧力低下が許容範囲内であった場合は何ら問題ないが、蒸気圧力値が大きく低下した場合、ボイラ1ではキャリオーバの発生や、蒸気の乾き度低下が発生することがある。そのためにボイラでの蒸気供給が行えるようになったことを検出して送気弁7を開くことにより、蒸気の発生によってボイラ部分での圧力低下は抑えるようにしているが、蒸気圧力検出装置5にて蒸気圧力値が設定値より低下したことを検出した場合には、送気弁7の開度増加操作を一旦停止する。また場合によっては、送気弁7の開度を閉じる方向へ作動する操作を行う。このような操作を行うことで、ボイラ内の圧力が大きく低下することを防止する。
【0018】
図2では時刻Cで蒸気圧力値が設定値未満になっていることを検出しているため、運転指令装置4では送気弁7の開度変更を停止している。1台のボイラが燃焼している場合の送気弁7の開度は、本来であれば10%とするように設定しているが、蒸気圧力値が設定値未満である時間帯は送気弁の開度増加を停止しているため、10%よりも小さな状態で維持している。送気弁7の開度拡大を停止した時刻C以降は、蒸気圧力検出装置5で検出している蒸気圧力値は再び上昇しており、その後の時刻Dで蒸気圧力値が設定値以上に回復していることを検出すると、送気弁7の開度を10%に向けて開く操作を再開している。送気弁7の開度を開き始めると、蒸気圧力値は再び低下しているが、蒸気圧力値が設定値よりも低くなる前に送気弁の開度は目標の10%に達しており、送気弁の開度10%で一旦停止する。
【0019】
次の送気弁開度拡大は、2号缶の温度が設定温度に達したことを検出した後に開始する。時刻Eで2号缶の温度設定温度以上への上昇を検出すると、運転指令装置4は送気弁7の開度を次の目標値である20%に向けて開く操作を行う。送気弁7の開度を大きくしていくと、送気弁7より上流側の蒸気圧力値は低下していくが、今回は蒸気圧力値が設定値まで低下する前に送気弁7の開度変更が完了している。そのため、開度変更を中断することなく時刻Fで20%への開度の変更を終了している。
【0020】
その後の送気弁開度拡大も同様であり、時刻Gで3号缶の温度上昇を検出すると送気弁7の開度拡大を開始し、時刻Hで送気弁7の開度が30%に達すると開度の変更を停止している。送気弁の開度拡大は、送気弁の開度を100%とするまで繰り返し行っている。
送気弁7を開くとボイラの部分で圧力低下が発生するが、送気弁の開度を開く前にボイラを先行させて燃焼しておき、ボイラの温度が上昇した時点で送気弁7を開くようにすることで、ボイラでの圧力低下幅を抑えることができる。なお、ここで必要なのはボイラで蒸気供給準備ができていることを検出するものであるため、検出するのは温度である必要はない。そのため、ボイラ内の蒸気圧力を検出しておき、蒸気圧力が設定値より高くなったことを検出して送気弁7の開度拡大を開始してもよく、タイマ装置を設けておいて対象ボイラに対する燃焼指令の出力から所定時間が経過したことを検出して送気弁7の開度拡大を開始するようにしてもよい。
【0021】
また、ボイラでは燃焼を停止すると、燃焼の再開時にはプレパージなど燃焼準備の工程が必要であり、燃焼の開始は遅れることになる。そのため、燃焼を停止している時に送気弁の開度拡大を開始した場合には、蒸気の供給開始までに比較的長い時間が掛かることになるために、蒸気供給が遅れてしまうということが考えられる。そのため、送気弁7の開度を拡大する操作を開始する場合は、上記の通り燃焼を先行させる制御を行っておくことに加え、ボイラでは燃焼を行わせておくようにした方がよい。
【0022】
なお、本発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 ボイラ
2 蒸気供給路

3 温度検出装置
4 運転指令装置
5 蒸気圧力検出装置
6 蒸気使用部
7 送気弁
図1
図2