特許第6289152号(P6289152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289152
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】缶蓋用アルミニウム合金板
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20180226BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180226BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20180226BHJP
【FI】
   C22C21/06
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 673
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686B
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/047
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-28184(P2014-28184)
(22)【出願日】2014年2月18日
(65)【公開番号】特開2015-151596(P2015-151596A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100100974
【弁理士】
【氏名又は名称】香本 薫
(72)【発明者】
【氏名】田中 友己
(72)【発明者】
【氏名】有賀 康博
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−268341(JP,A)
【文献】 特開2001−303164(JP,A)
【文献】 特開2002−105574(JP,A)
【文献】 特開2007−023340(JP,A)
【文献】 特開2012−112007(JP,A)
【文献】 特開2015−151597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/06
C22F 1/00
C22F 1/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:3.8〜5.5質量%、Fe:0.1〜0.5質量%、Si:0.05〜0.3質量%、Mn:0.08〜0.6質量%、Cu:0.3質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金板であって、円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物の数密度が80個/μm以下で、円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率が0.3%以上2.0%以下であることを特徴とする缶蓋用アルミニウム合金板。
【請求項2】
円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物の数密度が60個/μm以下であることを特徴とする請求項1に記載された缶蓋用アルミニウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶蓋用アルミニウム合金板に関し、特に材料強度とリベット成形性のバランスのよいイージーオープン缶蓋用アルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
缶蓋用アルミニウム合金板に求められる特性として、蓋加工に耐える成形性、飲料充填後内圧に耐える耐圧強度、及び正常かつ簡単に開けるための開缶性が挙げられる。
一方、近年、低コスト化の観点から、缶蓋用アルミニウム合金板の薄肉化が求められている。しかし、アルミニウム合金板を薄肉化すると缶蓋の耐圧強度が低下する。缶蓋の耐圧強度の低下を抑制する方法の1つとして、アルミニウム合金自体を高強度化することが考えられるが、高強度化に伴って成形性が低下するという問題が生じる。このため、缶蓋用アルミニウム合金板を薄肉化するには、強度と成形性のバランスを向上させることが必要である。
【0003】
缶蓋用アルミニウム合金板(缶蓋用Al−Mg系合金板)の材料強度を保ったまま成形性を向上させる技術の1つとして、金属間化合物の粒径を制御することが行われてきた。例えば特許文献1には、直径50μmの視野内に存在する直径3μm以上の金属間化合物の粒子数と、0.2mm内に存在する直径1μm以上の金属間化合物の粒子数をそれぞれ規定した缶蓋用アルミニウム合金板が記載されている。特許文献2には、1mm内に存在する長さが1μm以上の金属間化合物の粒子数を規定した缶蓋用アルミニウム合金板が記載されている。特許文献3には、1mm内に存在する円相当径0.7μm以上の金属間化合物の粒子数を規定した缶蓋用アルミニウム合金板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−302139公報
【特許文献2】特開2002−105574号公報
【特許文献3】特開2007−277694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3に記載されたサイズ(円相当直径が0.7μm以上)の金属間化合物は、リベット成形時に割れの起点となる。このため、特許文献1〜3に記載されているように、このサイズの金属間化合物の単位面積当たりの粒子数を少なくしたり、面積率を小さくしたりすることで、リベット成形時に発生する割れを抑制することができる。
しかし、リベット成形時に割れが発生していなくても、くびれが発生していると、ステイク(タブを蓋に付けるためにリベット部をたたいてつぶす加工)時に割れが発生する可能性がある。そして、従来の技術ではリベット成形時のくびれまで制御できておらず、くびれを抑制したより良いリベット成形性が求められている。
【0006】
本発明は、材料強度を低下させることなく、優れたリベット成形性を有する缶蓋用アルミニウム合金板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
Al−Mg系合金は、変形が進むとマイクロバンドが形成され、このマイクロバンドが発達してくびれが生じると一般に考えられている。本発明者らは、マイクロバンドの起点がサブミクロンサイズの金属間化合物であると推測し、従来制御していたサイズ(円相当直径が0.7μm以上)よりも小さいサイズの金属間化合物について、その分布状態を制御することで、くびれの発生を抑制しようと考えた。その考えを基に、本発明者らは実験・検討を重ねた結果、サブミクロンサイズの金属間化合物の最適な分布状態を見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
本発明に係る缶蓋用アルミニウム合金板は、Mg:3.8〜5.5質量%、Fe:0.1〜0.5質量%、Si:0.05〜0.3質量%、Mn:0.01〜0.6質量%、Cu:0.3質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物の数密度が80個/μm以下で、円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率が0.3%以上2.0%以下であることを特徴とする。上記缶蓋用アルミニウム合金板において、円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物の数密度は60個/μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
これまでの蓋材用アルミニウム合金板は、高強度化するとリベット成形性が低下し、逆に優れたリベット成形性を得るには、材料強度を低下させる必要があった。一方、本発明に係る蓋材用アルミニウム合金板は、高い材料強度を有するにも関わらず、優れたリベット成形性を有する。本発明によれば、缶蓋用アルミニウム合金板を薄肉化した場合でも、飲料充填後の耐圧強度に不足がなく、リベット成形性及び開缶性にも優れた缶蓋用アルミニウム合金板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アルミニウム合金板からなる缶蓋の平面図である。
図2】開缶性の評価時に使用する缶蓋のスコアの断面図である。
図3】開缶性の評価時に使用する開缶荷重測定機の概要図である。図3(a)は開缶荷重測定機の斜視図である。図3(b)は開缶荷重測定機の測定時の缶蓋付近の断面模式図である。図3(c)は開缶荷重測定機に缶蓋を設置するときの缶蓋の向きを示す正面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る缶蓋用アルミニウム合金板及びその製造方法について、詳細に説明する。
(アルミニウム合金の成分組成)
Mg:3.8〜5.5質量%
Mgは、アルミニウム合金板の強度を向上させる効果がある。しかし、Mgの含有量が3.8質量%未満の場合、アルミニウム合金板の強度が不十分であり、缶蓋に成形したときの耐圧強度が不足する。一方、Mgの含有量が5.5質量%を超える場合、アルミニウム合金板の強度が過剰となり、リベット成形性が低下する。従って、Mgの含有量は3.8〜5.5質量%とする。
【0012】
Fe:0.1〜0.5質量%
Feは、アルミニウム合金板中にAl−Fe(−Mn)系、Al−Fe(−Mn)−Si系金属間化合物を形成し、缶蓋に成形したときのスコア部の引裂き性を高め、開缶性を向上させる効果がある。しかし、Feの含有量が0.1質量%未満の場合、スコア部の引裂き性が向上せず、開缶時にスコア脱線(開缶時にスコア部以外に亀裂が伝播すること)や開缶力の増大によるタブ折れといった開缶不良が生じ易くなる。一方、Feの含有量が0.5質量%を超える場合、アルミニウム合金板中の300nmを超える金属間化合物の面積率が所定の範囲よりも大きくなり、リベット成形性が低下する。従って、Feの含有量は0.1〜0.5質量%とする。
【0013】
Si:0.05〜0.3質量%
Siは、アルミニウム合金板中にMg−Si系、Al−Fe(−Mn)系、Al−Fe(−Mn)−Si系金属間化合物を形成し、缶蓋に成形したときのスコア部の引裂き性を高め、開缶性を向上させる効果がある。しかし、Siの含有量が0.05質量%未満の場合、Feと同様に開缶性が向上しない。また、アルミニウム合金板の原材料に使用できるスクラップ量が減少し、またアルミニウム地金の必要純度が高くなるため、コストが増大する。一方、Siの含有量が0.3質量%を超える場合、アルミニウム合金板中の300nmを超える金属間化合物の面積率が所定の範囲よりも大きくなり、リベット成形性が低下する。従って、Siの含有量は0.05〜0.3質量%とする。
【0014】
Mn:0.01〜0.6質量%
Mnは、アルミニウム合金板の強度を向上させる効果があるとともに、アルミニウム合金板中にAl−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成させ、缶蓋に成形したときのスコア部の引裂き性を高め、開缶性を向上させる効果がある。しかし、Mnの含有量が0.01質量%未満の場合、アルミニウム合金板の強度向上効果や缶蓋に成形したときの開缶性向上効果が得られない。一方、Mnの含有量が0.6質量%を超える場合、アルミニウム合金板中の300nmを超える金属間化合物の面積率が所定の範囲よりも大きくなり、リベット成形性が低下する。従って、Mnの含有量は0.01〜0.6質量%とする。
【0015】
Cu:0.3質量%以下
Cuは、アルミニウム合金板の強度を向上させる効果がある。しかし、Cuの含有量が0.3質量%を超える場合、アルミニウム合金板の強度が過剰となり、リベット成形性が低下する。従って、Cuの含有量は0.3質量%以下とする。
【0016】
不可避不純物
本発明に係るアルミニウム合金は、前記添加成分以外に残部Alと不可避不純物を含有する。不可避不純物は、Crが0.3質量%以下、Znが0.3質量%以下、Tiが0.1質量%以下、Zrが0.1質量%以下、Bが0.1質量%以下、その他の元素が各々0.05質量%以下の範囲内で許容される。不可避不純物の含有量がこの範囲内であれば、本発明に係るアルミニウム合金板の特性に影響しない。
【0017】
(アルミニウム合金板中の金属間化合物)
アルミニウム合金板中に、円相当直径が300nmを超える金属間化合物を適度に分布させることにより、アルミニウム合金板を缶蓋に成形したときのスコア部の引裂き性を高め、開缶性を向上させる効果が得られる。アルミニウム合金板の板表面において、円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率が0.3%よりも小さい場合、スコア部の引裂き性が低下し、開缶性が悪化する。一方、板表面において、円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率が2.0%を超える場合、リベット成形の際に金属間化合物によって亀裂が発生し、かつ伝播し易くなり、成形性が低下する。従って、円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率は0.3%以上2.0%以下とする。この面積率の上限は好ましくは1.0%であり、下限は好ましくは0.4%である。
【0018】
一方、サブミクロンサイズの金属間化合物のうち、円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物は、リベット成形の際にマイクロバンドの起点となり、そのマイクロバンドが発達してくびれとなる。円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物の数密度が80個/μmを超えると、リベット成形時に多量にマイクロバンドが発生し、発達しやすくなりくびれが発生する。従って、円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物の数密度は80個/μm以下とする。円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物の数密度は少ないほどよく、好ましくは60個/μm以下とする。
【0019】
(アルミニウム合金板の製造方法)
本発明に係るアルミニウム合金板は、鋳造、均質化熱処理、熱間圧延、1次冷間圧延、中間焼鈍、2次冷間圧延の工程で製造することができる。鋳造、均質化熱処理、熱間圧延、中間焼鈍等では、Al−(Fe,Mn)系とMg2Siの金属間化合物が生成し、冷間圧延後の巻き取りによる自己焼鈍や焼付塗装焼鈍では、Al−Cu−Mgなどの析出物が生成する。自己焼鈍や焼付塗装焼鈍で生成する析出物のサイズは数nmであり、リベット成形時の割れやマイクロバンドの起点にはならないと考えられる。従って、金属間化合物のサイズと数密度及び面積率を上記特定の範囲内に制御し、優れた開缶性と、強度とリベット成形性のバランスの向上を発現させるには、中間焼鈍までの工程が重要となる。
本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法は、特に均質化熱処理を400℃〜550℃の温度範囲で1〜10時間保持する点、及び中間焼鈍を連続して2回行う点に特徴がある。以下、各工程について説明する。
【0020】
まず、DC鋳造法等の公知の半連続鋳造法によりアルミニウム合金を鋳造する。
次に、鋳塊表層の不均一な組織となる領域を面削にて除去した後、均質化熱処理を施す。均質化熱処理は400〜550℃の温度範囲で1〜10時間保持する。均質化熱処理温度が400℃未満の場合又は保持時間が1時間未満の場合、円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率が所定の範囲よりも小さくなり、開缶性が低下する。また、均質化熱処理温度が550℃を超える場合、熱間圧延時にバーニングが生じる。また、保持時間が10時間を超える場合、生産性が低下する。
均質化熱処理後、冷却することなく続けて熱間圧延を行い、好ましくは300℃以上で熱間圧延を終了する。作製された熱間圧延材は再結晶組織となる。
【0021】
前記熱間圧延板を、総圧延率50〜80%で冷間圧延(1次冷間圧延)する。総圧延率が50%未満の場合、圧延による蓄積歪みが不足し、次工程の中間焼鈍にて再結晶粒径が大きくなり、リベット成形性を含む成形性が悪くなってしまう。一方、総圧延率が80%を超える場合、圧延パス数が多くなり生産性が低下する。
【0022】
次に、前記冷間圧延板を中間焼鈍して再結晶させるとともに、300nm以下の金属間化合物の数密度を減少させる。この中間焼鈍は連続して2回行う。1回目の中間焼鈍は、材料温度380℃〜550℃の範囲、保持時間が10分以内の条件で行い、室温まで冷却後、再加熱して2回目の中間焼鈍を行う。2回目の中間焼鈍は、同じく材料温度380℃〜550℃の範囲、保持時間が10分以内の条件で行う。2回目の中間焼鈍後の冷却速度は100℃/min以上とする。中間焼鈍の保持温度が380℃未満の場合、円相当直径が10〜300nmの金属間化合物の数密度が所定の範囲より大きくなり、リベット成形性が低下する。保持温度が550℃を超える場合、又は保持時間が10分間を超える場合、金属間化合物を減少させる効果が飽和し、コストが高くなってしまう。また、中間焼鈍の回数が1回の場合、又は2回目の冷却速度が100℃/min未満の場合、円相当直径が10〜300nmの金属間化合物の数密度が所定の範囲より大きくなり、リベット成形性が低下する。
【0023】
続いて、前記焼鈍した冷間圧延板を、総圧延率を50〜85%で再度冷間圧延(2次冷間圧延)する。総圧延率が50%未満の場合、圧延による加工硬化が小さく強度が低下し、缶蓋へ成形したときの耐圧強度が不足する。一方、総圧延率が85%を超える場合、缶蓋用アルミニウム合金板の強度が高くなり過ぎ、リベット成形性を含む製品板の成形性が低下する。従って、総圧延率は50〜85%とする。
【0024】
以上の工程で製造した缶蓋用アルミニウム合金板は、クロメート系やジルコン系などの表面処理を施し、エポキシ系樹脂や塩ビゾル系、ポリエルテル系などの有機塗料を塗布し、PMT(Peak Metal Temperature:メタル到達温度)が230〜280℃程度で焼付け処理された後、缶蓋へと成形される。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
表1に示すアルミニウム合金(No.32を除く)を半連続鋳造法(DC)にて鋳造し、鋳塊表層を面削してスラブを作製した。このスラブに均質化熱処理を施した後、熱間圧延を行って熱間圧延板とし、この熱間圧延板に対し、1次冷間圧延(圧延率70%)、中間焼鈍、2次冷間圧延(圧延率79%)を順次行い、板厚0.215mmの缶蓋用アルミニウム合金板を作製した。ただし、No.33のアルミニウム合金は、熱間圧延後、1次冷間圧延のみ(圧延率93%)を行い、中間焼鈍を行わなかった。また、No.32のアルミニウム合金は、特許文献1の発明を模擬するために連続鋳造法(CC)にて鋳造し、連続鋳造板を均質化処理せず1次冷間圧延(圧延率70%)、中間焼鈍、2次冷間圧延(圧延率79%)を順次行い、板厚0.215mmの缶蓋用アルミニウム合金板を作製した。均質化熱処理及び中間焼鈍条件を表1,2に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
製造したNo.1〜33のアルミニウム合金板を供試材とし、円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物の数密度、円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率、0.2%耐力、リベット成形性及び開缶荷重を、以下に示す要領で測定した。その結果を表2に示す。
【0029】
(円相当直径が10nm〜300nmの金属間化合物の数密度)
アルミニウム合金板の表面を機械研磨して、厚さ0.1mmとした後、ツインジェット式電解研磨法にて厚さ100nmの薄膜にし、この薄膜を透過型電子顕微鏡(TEM)にて、50万倍で4視野撮影した。透明のフィルムに撮影画像から金属間化合物のみを転写し、画像解析ソフトImage−Pro Plusを用いて撮影範囲内の金属間化合物の数とそれぞれの粒子面積を測定し、前記粒子面積より円相当直径を求め、円相当直径が10nm以上300nm以下の粒子の数密度を求めた。
【0030】
(円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率)
アルミニウム合金板の圧延方向平行断面をバフ研磨により鏡面とし、この鏡面化された面において、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、加速電圧15kVで倍率500倍の組成像(COMPO像)を20視野(合計面積0.75mm以上)撮影した。この組成像のうち、母相より白いコントラストで得られる粒子をAl−Fe(−Mn)系、Al−Fe(−Mn)−Si系金属間化合物とみなし、黒いコントラストで得られる粒子をMg−Si系金属間化合物とみなした。この組成像から、画像処理により円相当直径300nmを超える金属間化合物の面積率(撮影面積に対する百分率)を算出した。
【0031】
(0.2%耐力)
アルミニウム合金板に対し、塗装・焼付け工程を模擬したオイルバスによる255℃×20秒の熱処理を施した後、引張方向が圧延方向と平行になるようにJIS−5号引張試験片を作製した。この試験片を用い、JIS−Z2241に準じて引張試験を行い、0.2%耐力を求めた。0.2%耐力の適正範囲は300MPa以上であり、この範囲であれば、薄肉化された缶蓋であっても耐圧強度を満足する。
【0032】
(リベット成形性)
リベット成形工程は、缶蓋中央部を張り出させるバブル成形工程と、張出部(バブル)を1〜3工程で縮径しつつ急峻な突起とするボタン成形工程と、突起(ボタン)にタブを組付けた後に前記突起を押し潰してタブをかしめるステイク工程とで構成される。タブを正常に固定するためには、ステイク後のリベット径の大きさを確保する必要があり、そのため、ボタン成形工程終了後の突起(ボタン)高さを十分に高く成形できるアルミニウム合金板が求められる。
ここでは、バブル工程を模擬した試験にてリベット成形性を評価した。すなわち、アルミニウム合金板に対し、塗装・焼付け工程を模擬したオイルバスによる255℃×20秒の熱処理を施した後、φ6mmの微小張出試験を行い、くびれや割れが発生しない限界張出高さを求めた。限界張出高さの適正範囲は1.45mm以上とした。アルミニウム合金板の限界張出高さが1.45mm以上であれば、実成形時に十分な高さのボタンを成形することができる。
【0033】
(開缶荷重)
アルミニウム合金板について、塗装・焼付け工程を模擬したオイルバスによる255℃×20秒の熱処理を施した後、204径フルフォーム・エンド金型にてシェル成型、コンバージョン成形、タブのステイクを行った後に、開缶試験を行った。図1は、開缶試験に用いた缶蓋の平面図である。図2は、開缶試験に用いた缶蓋のスコア3の断面図である。図3は、開缶時の荷重を測定する開缶荷重測定機の概要図である。図3(a)は開缶荷重測定機5の斜視図である。図3(b)は開缶荷重測定機5の測定時の缶蓋1付近の断面模式図である。図3(c)は開缶荷重測定機5に缶蓋1を設置するときの缶蓋1の向きを示す正面模式図である。缶蓋1をスコア3に対してタブ4が上方となるように、開缶荷重測定機5に缶蓋1を設置する(図3(c))。缶蓋1のタブ4に掛止具6を引っ掛けて、掛止部7とする(図3(b))。掛止具6を水平方向へ引っ張って3Nの引張荷重を負荷し、その状態で掛止具6を静止させた後、缶蓋1をX方向に回転させた。ロードセルにて荷重を測定し、最も高い荷重を開缶荷重とした。開缶荷重の適正範囲は25N以下とした。なお、前記微小張出試験で限界張出高さが1.45mm未満のアルミニウム合金については、必要な突起(ボタン)高さが得られずタブを正常に付けることができないため、開缶荷重を測定する試験を行わなかった。
【0034】
表1,2に示すように、成分組成、円相当直径が10nm〜300nmの金属間化合物の数密度(以下、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度という)、及び円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率(以下、300nm超の金属間化合物の面積率という)が本発明の規定範囲内のNo.1〜17(実施例)は、0.2%耐力及び開缶荷重が適正で、リベット成形性が優れる。従って、No.1〜17のアルミニウム合金板は、肉厚が0.215mmと薄いが、イージーオープン缶蓋用として好適に使用し得る。
【0035】
一方、No.18〜33(比較例)は、成分組成、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度、及び300nm超の金属間化合物の面積率のいずれかが本発明の規定範囲内でなく、下記のとおり、0.2%耐力、開缶荷重及びリベット成形性のいずれかが適正値を満たさない。
No.18はMg含有量が不足するため、0.2%耐力が低く、No.19はMg含有量が過剰なため、リベット成形性が劣る。
No.20はFe含有量が不足するため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.21はFe含有量が過剰なため、300nm超の金属間化合物の面積率が大きくリベット成形性が劣る。
No.22はSi含有量が不足するため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.23はSi含有量が過剰なため、300nm超の金属間化合物の面積率が大きくリベット成形性が劣る。
【0036】
No.24はMn含有量が不足するため、0.2%耐力が低く、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.25はMn含有量が過剰なため、300nm超の金属間化合物の面積率が大きくリベット成形性が劣る。
No.26はCu含有量が過剰なため、リベット成形性が劣る。
No.27は中間焼鈍の保持温度が低いため、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度が高くリベット成形性が劣る。No.28は2回目の中間焼鈍後の冷却速度が小さいため、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度が高くリベット成形性が劣る。No.29は中間焼鈍が1回だけのため、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度が高くリベット成形性が劣る。
【0037】
No.30は均質化処理の保持温度が低いため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.31は均質化処理の保持時間が短いため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.32は均質化処理を行っていないため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。
No.33は中間焼鈍を行っていないため、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度が高くリベット成形性が劣る。
【符号の説明】
【0038】
1 缶蓋
2 リベット部
3 スコア
4 タブ
5 開缶荷重測定機
6 掛止具
7 掛止部
図1
図2
図3