【実施例】
【0025】
以下、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
表1に示すアルミニウム合金(No.32を除く)を半連続鋳造法(DC)にて鋳造し、鋳塊表層を面削してスラブを作製した。このスラブに均質化熱処理を施した後、熱間圧延を行って熱間圧延板とし、この熱間圧延板に対し、1次冷間圧延(圧延率70%)、中間焼鈍、2次冷間圧延(圧延率79%)を順次行い、板厚0.215mmの缶蓋用アルミニウム合金板を作製した。ただし、No.33のアルミニウム合金は、熱間圧延後、1次冷間圧延のみ(圧延率93%)を行い、中間焼鈍を行わなかった。また、No.32のアルミニウム合金は、特許文献1の発明を模擬するために連続鋳造法(CC)にて鋳造し、連続鋳造板を均質化処理せず1次冷間圧延(圧延率70%)、中間焼鈍、2次冷間圧延(圧延率79%)を順次行い、板厚0.215mmの缶蓋用アルミニウム合金板を作製した。均質化熱処理及び中間焼鈍条件を表1,2に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
製造したNo.1〜33のアルミニウム合金板を供試材とし、円相当直径が10nm以上300nm以下の金属間化合物の数密度、円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率、0.2%耐力、リベット成形性及び開缶荷重を、以下に示す要領で測定した。その結果を表2に示す。
【0029】
(円相当直径が10nm〜300nmの金属間化合物の数密度)
アルミニウム合金板の表面を機械研磨して、厚さ0.1mmとした後、ツインジェット式電解研磨法にて厚さ100nmの薄膜にし、この薄膜を透過型電子顕微鏡(TEM)にて、50万倍で4視野撮影した。透明のフィルムに撮影画像から金属間化合物のみを転写し、画像解析ソフトImage−Pro Plusを用いて撮影範囲内の金属間化合物の数とそれぞれの粒子面積を測定し、前記粒子面積より円相当直径を求め、円相当直径が10nm以上300nm以下の粒子の数密度を求めた。
【0030】
(円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率)
アルミニウム合金板の圧延方向平行断面をバフ研磨により鏡面とし、この鏡面化された面において、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、加速電圧15kVで倍率500倍の組成像(COMPO像)を20視野(合計面積0.75
mm2以上)撮影した。この組成像のうち、母相より白いコントラストで得られる粒子をAl−Fe(−Mn)系、Al−Fe(−Mn)−Si系金属間化合物とみなし、黒いコントラストで得られる粒子をMg−Si系金属間化合物とみなした。この組成像から、画像処理により円相当直径300nmを超える金属間化合物の面積率(撮影面積に対する百分率)を算出した。
【0031】
(0.2%耐力)
アルミニウム合金板に対し、塗装・焼付け工程を模擬したオイルバスによる255℃×20秒の熱処理を施した後、引張方向が圧延方向と平行になるようにJIS−5号引張試験片を作製した。この試験片を用い、JIS−Z2241に準じて引張試験を行い、0.2%耐力を求めた。0.2%耐力の適正範囲は300MPa以上であり、この範囲であれば、薄肉化された缶蓋であっても耐圧強度を満足する。
【0032】
(リベット成形性)
リベット成形工程は、缶蓋中央部を張り出させるバブル成形工程と、張出部(バブル)を1〜3工程で縮径しつつ急峻な突起とするボタン成形工程と、突起(ボタン)にタブを組付けた後に前記突起を押し潰してタブをかしめるステイク工程とで構成される。タブを正常に固定するためには、ステイク後のリベット径の大きさを確保する必要があり、そのため、ボタン成形工程終了後の突起(ボタン)高さを十分に高く成形できるアルミニウム合金板が求められる。
ここでは、バブル工程を模擬した試験にてリベット成形性を評価した。すなわち、アルミニウム合金板に対し、塗装・焼付け工程を模擬したオイルバスによる255℃×20秒の熱処理を施した後、φ6mmの微小張出試験を行い、くびれや割れが発生しない限界張出高さを求めた。限界張出高さの適正範囲は1.45mm以上とした。アルミニウム合金板の限界張出高さが1.45mm以上であれば、実成形時に十分な高さのボタンを成形することができる。
【0033】
(開缶荷重)
アルミニウム合金板について、塗装・焼付け工程を模擬したオイルバスによる255℃×20秒の熱処理を施した後、204径フルフォーム・エンド金型にてシェル成型、コンバージョン成形、タブのステイクを行った後に、開缶試験を行った。
図1は、開缶試験に用いた缶蓋の平面図である。
図2は、開缶試験に用いた缶蓋のスコア3の断面図である。
図3は、開缶時の荷重を測定する開缶荷重測定機の概要図である。
図3(a)は開缶荷重測定機5の斜視図である。
図3(b)は開缶荷重測定機5の測定時の缶蓋1付近の断面模式図である。
図3(c)は開缶荷重測定機5に缶蓋1を設置するときの缶蓋1の向きを示す正面模式図である。缶蓋1をスコア3に対してタブ4が上方となるように、開缶荷重測定機5に缶蓋1を設置する(
図3(c))。缶蓋1のタブ4に掛止具6を引っ掛けて、掛止部7とする(
図3(b))。掛止具6を水平方向へ引っ張って3Nの引張荷重を負荷し、その状態で掛止具6を静止させた後、缶蓋1をX方向に回転させた。ロードセルにて荷重を測定し、最も高い荷重を開缶荷重とした。開缶荷重の適正範囲は25N以下とした。なお、前記微小張出試験で限界張出高さが1.45mm未満のアルミニウム合金については、必要な突起(ボタン)高さが得られずタブを正常に付けることができないため、開缶荷重を測定する試験を行わなかった。
【0034】
表1,2に示すように、成分組成、円相当直径が10nm〜300nmの金属間化合物の数密度(以下、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度という)、及び円相当直径が300nmを超える金属間化合物の面積率(以下、300nm超の金属間化合物の面積率という)が本発明の規定範囲内のNo.1〜17(実施例)は、0.2%耐力及び開缶荷重が適正で、リベット成形性が優れる。従って、No.1〜17のアルミニウム合金板は、肉厚が0.215mmと薄いが、イージーオープン缶蓋用として好適に使用し得る。
【0035】
一方、No.18〜33(比較例)は、成分組成、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度、及び300nm超の金属間化合物の面積率のいずれかが本発明の規定範囲内でなく、下記のとおり、0.2%耐力、開缶荷重及びリベット成形性のいずれかが適正値を満たさない。
No.18はMg含有量が不足するため、0.2%耐力が低く、No.19はMg含有量が過剰なため、リベット成形性が劣る。
No.20はFe含有量が不足するため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.21はFe含有量が過剰なため、300nm超の金属間化合物の面積率が大きくリベット成形性が劣る。
No.22はSi含有量が不足するため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.23はSi含有量が過剰なため、300nm超の金属間化合物の面積率が大きくリベット成形性が劣る。
【0036】
No.24はMn含有量が不足するため、0.2%耐力が低く、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.25はMn含有量が過剰なため、300nm超の金属間化合物の面積率が大きくリベット成形性が劣る。
No.26はCu含有量が過剰なため、リベット成形性が劣る。
No.27は中間焼鈍の保持温度が低いため、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度が高くリベット成形性が劣る。No.28は2回目の中間焼鈍後の冷却速度が小さいため、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度が高くリベット成形性が劣る。No.29は中間焼鈍が1回だけのため、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度が高くリベット成形性が劣る。
【0037】
No.30は均質化処理の保持温度が低いため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.31は均質化処理の保持時間が短いため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。No.32は均質化処理を行っていないため、300nm超の金属間化合物の面積率が小さく開缶荷重が大きい。
No.33は中間焼鈍を行っていないため、10nm〜300nmの金属間化合物の数密度が高くリベット成形性が劣る。