特許第6289196号(P6289196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289196
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】スイング逆止弁の診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/00 20060101AFI20180226BHJP
   F16K 37/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   G01M13/00
   F16K37/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-58162(P2014-58162)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-184029(P2015-184029A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】松永 嵩
(72)【発明者】
【氏名】江藤 淳二
(72)【発明者】
【氏名】稲川 聡
(72)【発明者】
【氏名】礒部 仁博
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05257545(US,A)
【文献】 特開平05−065973(JP,A)
【文献】 米国特許第05228342(US,A)
【文献】 特開平03−071034(JP,A)
【文献】 特開2010−117330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00
F16K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁棒を支軸として弧状運動する逆止弁ユニットが弁箱内に収容されたスイング逆止弁の作動状態を診断するスイング逆止弁の診断方法であって、
前記弁箱に設置した超音波センサから前記弁箱内に超音波を入射し、前記逆止弁ユニットで反射する超音波に基づいて前記逆止弁ユニットの位置を判定する位置判定工程と、
前記超音波センサによって計測した超音波のピーク位置の計測時間ごとの変化に基づいて前記逆止弁ユニットの挙動の状態を判定する挙動判定工程と、
前記弁箱に設置したAEセンサを用いて前記弁箱内で発生した衝突音を検出し、検出した前記衝突音に基づいて前記逆止弁ユニットと前記弁箱との衝突の有無を判定する衝突判定工程とを一連の工程として備えており、
前記位置判定工程は、前記逆止弁ユニットが、バックストップまたは弁座の近傍のいずれに位置しているかを判定する工程であり、
前記挙動判定工程は、前記逆止弁ユニットが、動いているか否かを判定する工程であり、
前記衝突判定工程は、前記挙動判定工程において動いていると判定された前記逆止弁ユニットが、衝突音を発しているか否かを判定する工程であり、
前記位置判定工程、前記挙動判定工程、前記衝突判定工程のそれぞれにおける判定結果に基づいて、
バックストップの近傍に位置して、動いていないと判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ全開状態にあると診断し、
バックストップの近傍に位置して、動いており、さらに、衝突音を発していると判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ衝突状態にあると診断し、
弁座の近傍に位置して、動いていないと判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ全閉状態にあると診断し、
弁座の近傍に位置して、動いており、さらに、衝突音を発していると判定された前記逆止弁ユニットは、弁座衝突状態にあると診断し、
その他の前記逆止弁ユニットは、振動状態にあると診断することを特徴とするスイング逆止弁の診断方法。
【請求項2】
前記位置判定工程が、前記弁箱における前記逆止弁ユニットの上方または下方に設置した超音波センサから前記弁箱内に超音波を入射し、前記逆止弁ユニットで反射する超音波に基づいて前記超音波センサと前記逆止弁ユニットとの距離を計測し、計測した距離に基づいて前記逆止弁ユニットの位置を判定することを特徴とする請求項1に記載のスイング逆止弁の診断方法。
【請求項3】
弁棒を支軸として弧状運動する逆止弁ユニットが弁箱内に収容されたスイング逆止弁の作動状態を診断するスイング逆止弁の診断方法であって、
前記弁箱の側面に設置した超音波センサから前記弁箱内に超音波を入射し、前記逆止弁ユニットで反射する超音波の有無に基づいて前記逆止弁ユニットの位置を判定する位置判定工程と、
前記超音波センサによって計測した超音波のピーク高さの計測時間ごとの変化に基づいて前記逆止弁ユニットの挙動の状態を判定する挙動判定工程と、
前記弁箱に設置したAEセンサを用いて前記弁箱内で発生した衝突音を検出し、検出した前記衝突音に基づいて前記逆止弁ユニットと前記弁箱との衝突の有無を判定する衝突判定工程とを一連の工程として備えており、
前記位置判定工程は、前記逆止弁ユニットが、バックストップまたは弁座の近傍のいずれに位置しているかを判定する工程であり、
前記挙動判定工程は、前記逆止弁ユニットが、動いているか否かを判定する工程であり、
前記衝突判定工程は、前記挙動判定工程において動いていると判定された前記逆止弁ユニットが、衝突音を発しているか否かを判定する工程であり、
前記位置判定工程、前記挙動判定工程、前記衝突判定工程のそれぞれにおける判定結果に基づいて、
バックストップの近傍に位置して、動いていないと判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ全開状態にあると診断し、
バックストップの近傍に位置して、動いており、さらに、衝突音を発していると判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ衝突状態にあると診断し、
弁座の近傍に位置して、動いていないと判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ全閉状態にあると診断し、
弁座の近傍に位置して、動いており、さらに、衝突音を発していると判定された前記逆止弁ユニットは、弁座衝突状態にあると診断し、
その他の前記逆止弁ユニットは、振動状態にあると診断することを特徴とするスイング逆止弁の診断方法。
【請求項4】
前記AEセンサを用いて前記衝突音を検出し、検出した前記衝突音の音響ピークを周波数解析することにより前記衝突音の周波数分布を求め、
求めた前記衝突音の周波数分布と、予め設定した前記逆止弁ユニットに劣化が無い場合における前記衝突音の周波数分布とを比較することにより、前記逆止弁ユニットの劣化の程度を診断する劣化診断工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のスイング逆止弁の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイング逆止弁の詳細な作動状態および劣化状態を診断するスイング逆止弁の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、発電プラント等では、気体や液体などの内部流体が配管内を逆流することを防止するためにスイングタイプの逆止弁(スイング逆止弁)が用いられている。
【0003】
図13は一般的なスイング逆止弁の断面構造を模式的に示す図であり、(A)は全開状態、(B)は全閉状態を示す図である。
【0004】
図13に示すように、スイング逆止弁1は、弁箱2と、弁箱2内に収容された弁棒4と、弁棒4を支軸として弧状運動する逆止弁ユニット3と、弁箱2の上部開口面に取り付けられる弁蓋10とを備えている。逆止弁ユニット3は、弁棒4を挿通させるための貫通孔7を有するアーム6と、弁体ボルト9と弁体ナット20によりアーム6に取り付けられた弁体8とから構成されている。
【0005】
逆止弁ユニット3は、内部流体が配管内を順流する際には、アーム6がバックストップ14に接触するまで、弁棒4を支軸として弧状運動することにより弁体8が開き、一方、逆流する際には、弁体8が弁座12に接触するまで弧状運動することにより弁体8が閉まるように構成されている。
【0006】
しかしながら、実際のスイング逆止弁1は、内部流体の流量の微妙な差によって、逆止弁ユニット3が振動していたり、バックストップ14や弁座12などの弁箱2に衝突している状態で使用されることがあり、そのままの状態で使用を継続すると、弁棒4とアーム6が接する回転部分や、弁体ボルト9と弁体ナット20の螺合部分、逆止弁ユニット3と弁箱2の両方の接触部分等が摩耗してスイング逆止弁に劣化が生じることがある。
【0007】
このような回転部分や螺合部分の摩耗による劣化が進展すると、逆止弁ユニット3の脱落などが生じてスイング逆止弁1が機能しなくなる恐れがある。また、接触部分の摩耗による劣化が進展すると、弁座12と弁体8との密閉性が損われ、内部流体のリークが生じる恐れがある。このため、スイング逆止弁1の作動状態を診断することは、劣化の発生の予測に対して有効な手段である。
【0008】
従来、このようなスイング逆止弁1の作動状態を診断する方法として、内部流体の流量を測定することにより、開状態と全閉状態を簡易的に診断する方法が用いられていたが、逆止弁ユニット3の詳細な位置や安定して止まっている状態、あるいは振動しているような状態を正確に診断することは困難であった。
【0009】
また、特許文献1のように、AEセンサを用いて、開弁時や閉弁時の衝突音を検出して、固着等により逆止弁ユニットが正常に作動していない異常事象を検出する方法が開発されている。しかし、この方法も、全開状態と全閉状態を簡易的に判定することを目的にしており、逆止弁ユニットの詳細位置や挙動を診断する方法には充分とはいえない。
【0010】
また、特許文献2のように、通常時では音響が発生しない弁において、突発的な音響ピークを観測することにより、異常事象を診断する診断装置が開発されているが、スイング逆止弁のように、通常の動作において逆止弁ユニットと弁箱との衝突が繰り返される逆止弁にはこの診断装置を適用することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−117330号公報
【特許文献2】特開平5−172696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、スイング逆止弁の詳細な作動状態を診断して、劣化の発生を正確に予測することができるスイング逆止弁の診断方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、スイング逆止弁の劣化の程度を診断する診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、
弁棒を支軸として弧状運動する逆止弁ユニットが弁箱内に収容されたスイング逆止弁の作動状態を診断するスイング逆止弁の診断方法であって、
前記弁箱に設置した超音波センサから前記弁箱内に超音波を入射し、前記逆止弁ユニットで反射する超音波に基づいて前記逆止弁ユニットの位置を判定する位置判定工程と、
前記超音波センサによって計測した超音波のピーク位置の計測時間ごとの変化に基づいて前記逆止弁ユニットの挙動の状態を判定する挙動判定工程と、
前記弁箱に設置したAEセンサを用いて前記弁箱内で発生した衝突音を検出し、検出した前記衝突音に基づいて前記逆止弁ユニットと前記弁箱との衝突の有無を判定する衝突判定工程とを一連の工程として備えており、
前記位置判定工程は、前記逆止弁ユニットが、バックストップまたは弁座の近傍のいずれに位置しているかを判定する工程であり、
前記挙動判定工程は、前記逆止弁ユニットが、動いているか否かを判定する工程であり、
前記衝突判定工程は、前記挙動判定工程において動いていると判定された前記逆止弁ユニットが、衝突音を発しているか否かを判定する工程であり、
前記位置判定工程、前記挙動判定工程、前記衝突判定工程のそれぞれにおける判定結果に基づいて、
バックストップの近傍に位置して、動いていないと判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ全開状態にあると診断し、
バックストップの近傍に位置して、動いており、さらに、衝突音を発していると判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ衝突状態にあると診断し、
弁座の近傍に位置して、動いていないと判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ全閉状態にあると診断し、
弁座の近傍に位置して、動いており、さらに、衝突音を発していると判定された前記逆止弁ユニットは、弁座衝突状態にあると診断し、
その他の前記逆止弁ユニットは、振動状態にあると診断することを特徴とするスイング逆止弁の診断方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、
前記位置判定工程が、前記弁箱における前記逆止弁ユニットの上方または下方に設置した超音波センサから前記弁箱内に超音波を入射し、前記逆止弁ユニットで反射する超音波に基づいて前記超音波センサと前記逆止弁ユニットとの距離を計測し、計測した距離に基づいて前記逆止弁ユニットの位置を判定することを特徴とする請求項1に記載のスイング逆止弁の診断方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
弁棒を支軸として弧状運動する逆止弁ユニットが弁箱内に収容されたスイング逆止弁の作動状態を診断するスイング逆止弁の診断方法であって、
前記弁箱の側面に設置した超音波センサから前記弁箱内に超音波を入射し、前記逆止弁ユニットで反射する超音波の有無に基づいて前記逆止弁ユニットの位置を判定する位置判定工程と、
前記超音波センサによって計測した超音波のピーク高さの計測時間ごとの変化に基づいて前記逆止弁ユニットの挙動の状態を判定する挙動判定工程と、
前記弁箱に設置したAEセンサを用いて前記弁箱内で発生した衝突音を検出し、検出した前記衝突音に基づいて前記逆止弁ユニットと前記弁箱との衝突の有無を判定する衝突判定工程とを一連の工程として備えており、
前記位置判定工程は、前記逆止弁ユニットが、バックストップまたは弁座の近傍のいずれに位置しているかを判定する工程であり、
前記挙動判定工程は、前記逆止弁ユニットが、動いているか否かを判定する工程であり、
前記衝突判定工程は、前記挙動判定工程において動いていると判定された前記逆止弁ユニットが、衝突音を発しているか否かを判定する工程であり、
前記位置判定工程、前記挙動判定工程、前記衝突判定工程のそれぞれにおける判定結果に基づいて、
バックストップの近傍に位置して、動いていないと判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ全開状態にあると診断し、
バックストップの近傍に位置して、動いており、さらに、衝突音を発していると判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ衝突状態にあると診断し、
弁座の近傍に位置して、動いていないと判定された前記逆止弁ユニットは、バックストップ全閉状態にあると診断し、
弁座の近傍に位置して、動いており、さらに、衝突音を発していると判定された前記逆止弁ユニットは、弁座衝突状態にあると診断し、
その他の前記逆止弁ユニットは、振動状態にあると診断することを特徴とするスイング逆止弁の診断方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、
前記AEセンサを用いて前記衝突音を検出し、検出した前記衝突音の音響ピークを周波数解析することにより前記衝突音の周波数分布を求め、
求めた前記衝突音の周波数分布と、予め設定した前記逆止弁ユニットに劣化が無い場合における前記衝突音の周波数分布とを比較することにより、前記逆止弁ユニットの劣化の程度を診断する劣化診断工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のスイング逆止弁の診断方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スイング逆止弁の詳細な作動状態を診断して、劣化の発生を正確に予測することができるスイング逆止弁の診断方法を提供することができる。さらに、スイング逆止弁の劣化の程度を診断する診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るスイング逆止弁の診断方法の概要を示すフローチャートである。
図2】第1の実施の形態における超音波センサの設置位置を示す説明図である。
図3】超音波センサによって計測された反射エコーを示すグラフである。
図4】反射エコーのピーク位置の計測時間ごとの変化の一例を示すグラフである。
図5】超音波の入射から反射エコーのピーク位置が計測されるまでの時間の推移の一例を示すグラフである。
図6】AEセンサによって検出した衝突音の一例を示すグラフである。
図7】第1の実施の形態における超音波センサの他の設置位置を示す説明図である。
図8】第2の実施の形態における超音波センサの設置位置を示す説明図である。
図9】AEセンサによって計測された衝突音の音響ピークの一例を示すグラフである。
図10】衝突音の周波数分布の一例を示すグラフである。
図11】実施例における位置判定工程、挙動判定工程、衝突判定工程のそれぞれにおける結果を示す図である。
図12】実施例における衝突音の周波数分布の解析結果を示すグラフである。
図13】一般的なスイング逆止弁の断面構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.本発明の概要
上記したように、スイング逆止弁は、内部流体の流量の微妙な差などによって、逆止弁ユニットが振動したり、バックストップ14や弁座12などの弁箱に衝突したりしている状態で使用されることがある。そこで、本発明者は、先ず、このようなスイング逆止弁の作動状態を下記の表1に示す5つの状態に分類して診断することにした。
【0021】
【表1】
【0022】
そして、図1に示す本発明に係るスイング逆止弁の診断方法(以下、単に「診断方法」ともいう)の概要を示すフローチャートに従って、位置判定工程、挙動判定工程、衝突判定工程を経て、スイング逆止弁の作動状態が表1の分類のいずれに属するかを判定する。
【0023】
先ず、位置判定工程において、超音波センサから弁箱内に超音波を入射し、逆止弁ユニットで反射した超音波に基づいて、逆止弁ユニットがバックストップまたは弁座のいずれに近い位置にあるかを判定する。
【0024】
これにより、逆止弁ユニットが、バックストップ側で全開、バックストップ衝突、振動のいずれかの状態にある(S1)、または、弁座側で振動、弁座衝突、全閉のいずれかの状態にある(S2)のどちらであるかを判定することができる。
【0025】
次に、挙動判定工程において、計測した超音波のピーク位置の計測時間ごとの変化に基づいて、S1、S2のそれぞれについて、逆止弁ユニットが動いているか否かを判定する。
【0026】
逆止弁ユニットが動いていない場合には、S1では全開の状態(S3)、S2では全閉の状態(S5)にあると判定し、一方、逆止弁ユニットが動いている場合には、S1ではバックストップ衝突、振動のいずれかの状態(S4)、S2では振動、弁座衝突のいずれかの状態(S6)にあると判定する。
【0027】
次に、衝突判定工程において、AE(Acoustic Emission)センサを用いて衝突音を検出することにより、S4、S6のそれぞれについて、動いている逆止弁ユニットがバックストップや弁座と衝突していないかを判定する。
【0028】
衝突音が確認された場合には、S4ではバックストップ衝突状態(S7)、S6では弁座衝突状態(S9)にあると判定し、一方、衝突音が確認されない場合には、S4、S6のいずれにおいても、振動状態(S8、S10)にあると判定する。
【0029】
このように、本発明のスイング逆止弁の診断方法は、超音波センサとAEセンサとを組合せて、スイング逆止弁の動作状態を段階的に判定しているため、スイング逆止弁の作動状態を従来よりも詳細に診断することが可能となり、劣化の発生についても正確に予測することができる。
【0030】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を参照して説明する。
【0031】
2.第1の実施の形態
図2は本実施の形態における超音波センサの設置位置を示す説明図である。
【0032】
(1)位置判定工程
本実施の形態では、図2に示すように、超音波センサ30aを、逆止弁ユニット3上方の弁蓋10の上面11に設置する。そして、超音波センサ30aから弁箱2内に入射した超音波の反射波(反射エコー)の測定結果に基づいて、超音波センサ30aと逆止弁ユニット3との距離を計測して、計測した距離に基づいて逆止弁ユニット3がバックストップ14または弁座12のいずれに近い位置にあるかを判定する。このときに測定される反射エコーの一例を図3に示す。
【0033】
図3に示すように、超音波センサ30aは、超音波を入射した直後に弁箱2または弁蓋10からの反射エコーを測定し、一定時間が経過した後に逆止弁ユニット3からの反射エコーを測定する。このとき、弁箱2または弁蓋10からの反射エコーの測定時間と、逆止弁ユニット3からの反射エコーの測定時間との差は、スイング逆止弁1内部で超音波が伝播した時間であり、この超音波が伝播した時間に基づいて弁箱2または弁蓋10と逆止弁ユニット3との距離を算出することにより、超音波センサ30aと逆止弁ユニット3との距離を得ることができる。
【0034】
そして、この超音波センサ30aと逆止弁ユニット3との距離に基づいて、バックストップ14側で全開、バックストップ衝突、振動のいずれかの状態にある(S1)か、または、弁座12側で振動、弁座衝突、全閉のいずれかの状態にある(S2)かを判定する(図1参照)。
【0035】
(2)挙動判定工程
次に、反射エコーのピーク位置の計測時間ごとの変化に基づいて逆止弁ユニットの挙動の状態、即ち、逆止弁ユニット3が動いているか否かを判定する。図4は、反射エコーのピーク位置の計測時間ごとの変化の一例を示すグラフである。
【0036】
図4(A)に示すように、逆止弁ユニット3が動いていない場合、長時間繰り返して反射エコーを測定した場合でも、ピーク位置の計測時間(ピーク計測時間)が略一定になる。これに対して、図4(B)に示すように、逆止弁ユニット3が動いている場合、ピーク計測時間が変化する。
【0037】
本工程では、このようなピーク計測時間の変化に基づいて、逆止弁ユニット3が動いているか否かを判定して、スイング逆止弁1の作動状態を更に区分する。具体的には、逆止弁ユニット3が動いていない場合には、S1では全開の状態(S3)、S2では全閉の状態(S5)にあると判定し、一方、逆止弁ユニット3が動いている場合には、S1ではバックストップ衝突、振動のいずれかの状態(S4)、S2では振動、弁座衝突のいずれかの状態(S6)にあると判定する(図1参照)。
【0038】
さらに、本実施の形態では、図5に示すように、反射エコーのピーク計測時間の変化に基づいて、逆止弁ユニット3の振動の幅と周期を測定することができる。即ち、振動幅が大きい、あるいは周期が早い場合、将来的に摩耗する量が多くなることがわかるため、振動の幅と周期の測定結果に基づいて、劣化の発生をより正確に予測することができる。
【0039】
(3)衝突判定工程
次に、AEセンサを弁箱2外側で衝突音が捉えやすい箇所に設置して、弁箱2内に生じた衝突音を検出し、検出した衝突音に基づいて、動いているスイング逆止弁がバックストップや弁座と衝突していないかを判定する。AEセンサによる衝突音の検出結果の一例を図6に示す。
【0040】
具体的には、図6に示すような衝突音の音響ピークが検出された場合、S4ではバックストップ衝突状態(S7)、S6では弁座衝突状態(S9)にあると判定する。一方、衝突音の音響ピークが検出されなかった場合には、S4、S6のいずれにおいても、振動状態(S8、S10)にあると判定する(図1参照)。
【0041】
(4)本実施の形態の効果
本実施の形態によれば、上記したとおり、位置判定工程、挙動判定工程、衝突判定工程を経て、逆止弁ユニット3の位置や挙動を捉えることにより、スイング逆止弁1の詳細な作動状態を診断することができ、この詳細な作動状態の診断結果に基づいてスイング逆止弁1の劣化の発生を正確に予測することができる。
【0042】
また、逆止弁ユニット3の位置や挙動を正確にモニタリングすることができるため、発生した劣化の進行状況を把握することができると共に、健全なスイング逆止弁の作動状態と比較することにより、逆止弁ユニット3の脱落または固着などの異常状態を診断することもできる。
【0043】
なお、図7に示すように、超音波センサ30bを、逆止弁ユニット3の下方(弁箱2の底面21)に設置した場合でも、スイング逆止弁1の詳細な作動状態を診断することがで
きる。
【0044】
この場合、位置判定工程において、超音波センサ30bと逆止弁ユニット3との距離が長い場合に逆止弁ユニット3がバックストップ14側に位置すると判定し、短い場合に弁座12側に位置すると判定することを除いて、超音波センサを上方に配置した場合と同様の手順でスイング逆止弁の作動状態の診断を行うことができる。
【0045】
3.第2の実施の形態
図8は本実施の形態における超音波センサの配置位置を示す図である。図8(A)は、全開状態のスイング逆止弁の逆止弁ユニットと弁箱の一部の正面図であり、(B)は逆止弁ユニットの側面図である。図8に示すように、本実施の形態では、超音波センサ30cが弁箱2の側面22に設置されており、位置判定工程の具体的な判定方法が上記した第1の実施の形態と異なる。
【0046】
図8に示すように、超音波センサ30cを弁箱2の側面22に設置する場合、例えば、超音波センサ30cを弁箱2の側面22の上側(バックストップ側)に配置する。そして、反射エコーが測定された場合には、逆止弁ユニット3がバックストップ側に位置すると判定し、測定されなかった場合には、弁座側、若しくはバックストップと弁座の間に位置すると判定する。
【0047】
また、超音波センサ30cを弁箱2の側面22に設置した場合、逆止弁ユニット3の動きに合わせて、超音波を反射する面積が変化するため、反射エコーのピークの高さが、計測時間ごとに変化する。このピーク高さの計測時間ごとの変化に基づいて、逆止弁ユニット3が動いているか否かを判定することができる。
【0048】
また、超音波センサ30cを弁箱2の側面22に設置した場合でも、反射エコーのピーク計測時間の変化に基づいて、逆止弁ユニット3の振動の周期を測定することができる。
周期が早い場合、将来的に摩耗する量が多くなることがわかるため、振動の周期の測定結果に基づいて劣化の発生をより正確に予測することができる。
【0049】
4.第3の実施の形態
本実施の形態に係る診断方法は、上記した作動状態に加えて、劣化状態の程度を診断する劣化診断工程を有している点で、上記した各実施の形態に係る診断方法と異なる。
【0050】
従来より、回転部分や接触部分の摩耗による劣化や弁内部の腐食などの劣化状態を診断するためには、プラントの稼働を停止させてスイング逆止弁を分解する必要があり、非破壊的に診断することが困難であったが、本実施の形態によれば、衝突音(突発的音響)の音響ピークの周波数分布に基づいて、スイング逆止弁を分解せずに、劣化状態の診断を行うことができる。
【0051】
具体的には、AEセンサが検出した衝突音の音響ピーク(図9参照)を、周波数解析、例えば高速フーリエ(FFT:Fast Fourier Transform)解析することにより、音響ピークの周波数分布を求める。FFT解析により得られた音響ピークの周波数分布の一例を図10に示す。
【0052】
そして、図10のように求めた周波数分布と、予め設定した逆止弁ユニットに劣化が無い健全な状態における衝突音の周波数分布とを比較する。このとき、診断対象が健全な状態の場合、逆止弁ユニットがバックストップや弁座に衝突する角度や速度などが略一定になるため、求めた周波数分布と健全時の周波数分布とがほぼ同一になる。
【0053】
一方、摩耗や腐食などの劣化により回転部分に間隙が生じると、弧状運動の支軸や衝突位置などに大きなずれが生じるため衝突音が変化する。本工程では、この衝突音の変化に伴った音響ピークの周波数分布の変化に基づいて摩耗劣化や腐食劣化の状態を診断する。
【0054】
このように、本実施の形態によれば、スイング逆止弁を分解することなく、スイング逆止弁の劣化状態を適切に診断することができる。このため、劣化状態の診断のためにプラントの稼働を停止させて、スイング逆止弁を分解する必要がなくなり、プラントの稼働効率の向上に貢献することができる。
【実施例】
【0055】
1.作動状態の診断
(1)診断方法
弁箱内に供給する内部流体の流量を変更して、全開状態、バックストップ衝突状態、振動状態、全閉状態を模擬すると共に、上記した第2の実施の形態に係る診断方法を用いてスイング逆止弁の作動状態を診断した。
【0056】
具体的には、図8に示すように、超音波センサ30cを弁箱2の側面22におけるバックストップ14側に配置し、反射エコーの有無を測定することにより、位置判定工程による判定を行った。
【0057】
次に、位置判定工程の時と同じ位置に超音波センサ30cを固定して、反射エコーを1秒間隔で10回測定して、反射エコーのピーク位置の計測時間ごとの変化を計測することにより挙動判定工程による判定を行った。
【0058】
そして、弁箱2の底部にAEセンサを設置し、弁箱2内で生じた衝突音を検出することにより、衝突判定工程による判定を行った。以上の結果を図11に示す。
【0059】
(2)診断結果
図11の位置判定の結果より、全開、バックストップ衝突、振動の状態の場合、逆止弁ユニットからの反射エコーが確認でき、全閉状態の場合、反射エコーが確認できなかった。これにより、反射エコーの有無により、逆止弁ユニットの大まかな位置を診断できることが確認できた。
【0060】
次に、挙動判定の結果より、全開状態および全閉状態では、逆止弁ユニットからの反射エコーのピーク位置に殆んど変化がなく、バックストップ衝突状態および振動状態では、反射エコーのピーク位置の強度や計測時間が測定ごとに変化していた。これにより、反射エコーのピーク位置の計測時間ごとの変化に基づいて、逆止弁ユニットの挙動を診断できることが確認できた。
【0061】
また、衝突判定の結果より、全開、振動、全閉のいずれかの状態では、衝突音の音響ピークが確認されず、バックストップ衝突状態では、多数の音響ピークが確認された。これにより、AEセンサを用いて逆止弁ユニットの衝突の有無を診断できることが確認できた。
【0062】
2.劣化状態の診断
(1)診断方法
健全な状態のスイング逆止弁と、ナット周辺の摺動部に摩耗が生じているスイング逆止弁を用いて、バックストップ衝突状態での衝突音の周波数分布を求めた。健全な状態のスイング逆止弁の衝突音の周波数分布を図11(A)、ナット周辺の摺動部に摩耗が生じているスイング逆止弁の衝突音の周波数分布を図11(B)に示す。
【0063】
(2)診断結果
図11(A)と(B)とを比較すると、健全な状態のスイング逆止弁に対して、摺動部に摩耗が生じているスイング逆止弁は、周波数分布にずれが生じており、摩耗による劣化が進行していることが確認された。これにより、衝突音の周波数分布を、健全なスイング逆止弁の衝突音の周波数分布と比較することにより、スイング逆止弁の劣化の程度を診断できることが確認できた。
【0064】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 スイング逆止弁
2 弁箱
3 逆止弁ユニット
4 弁棒
6 アーム
7 アーム貫通穴
8 弁体
9 弁体ボルト
10 弁蓋
11 蓋の上面
12 弁座
14 バックストップ
20 ナット
21 弁箱の底面
22 弁箱の側面
30a〜30c 超音波センサ
図1
図2
図3
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図13