特許第6289229号(P6289229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6289229活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289229
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20180226BHJP
【FI】
   C09D11/101
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-80135(P2014-80135)
(22)【出願日】2014年4月9日
(65)【公開番号】特開2015-199856(P2015-199856A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】松尾 育男
(72)【発明者】
【氏名】若原 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】山本 誓
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0196674(US,A1)
【文献】 特開昭62−043472(JP,A)
【文献】 特表2002−522341(JP,A)
【文献】 米国特許第06562172(US,B1)
【文献】 特開昭58−225160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00− 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性アクリレートオリゴマー(A)、ショ糖モノカルボン酸エステル(B)、前記以外のアクリレートモノマー(C)および顔料を含有する活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物であって、
前記ショ糖モノカルボン酸エステル(B)は、平均エステル置換度が5.0〜7.9の範囲のショ糖安息香酸エステルであることを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物。
【請求項2】
前記重合性アクリレートオリゴマー(A)がエポキシ(メタ)アクリレート及び/又はウレタン(メタ)アクリレートである請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物。
【請求項3】
前記エポキシ(メタ)アクリレートがビスフェノールA型エポキシ樹脂とアクリル酸を反応させてなるエポキシアクリレートであり、前記ウレタン(メタ)アクリレートがポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)と分子中に水酸基を1つ有するアクリレートモノマーを反応させてなるウレタンアクリレートである請求項2に記載の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物。
【請求項4】
前記重合性アクリレートオリゴマー(A)とショ糖モノカルボン酸エステル(B)の重量比が9:1〜3:7の範囲にある請求項1〜3の何れか1つに記載の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物。
【請求項5】
前記以外のアクリレートモノマー(C)が重量平均分子量300〜600の範囲にあるエチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートである請求項1〜4の何れか1つに記載の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物。
【請求項6】
基材上に、請求項1〜5の何れか1つに記載の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物を用いてオフセット印刷された印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた硬化性、及び紙器等のパッケージインキ印刷用途のための優れた印刷適性と印刷品質を保持することを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。更には、該組成物を用いた印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線条件下で硬化する、中でも紫外線硬化型オフセットインキは、原則的に揮発性有機溶剤を含まず、瞬間乾燥の特性の利便性から、玩具や紙器等の食品包装向けパッケージ印刷の分野で広く使用されている。
【0003】
一方で、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷においては、生産性の観点から優れたインキ皮膜の硬化性能が要求されることから、これに使用するオフセットインキの原料として少量の活性エネルギー線照射量でも硬化性の優れる例えばエポキシアクリレートやウレタンアクリレート等の重合性オリゴマーが広く用いられてきた。
【0004】
しかし、これらの重合性オリゴマーは、その分子中のアクリロイル基等の重合性基が極性成分であることに起因し、これを使用したインキは印刷時の乳化適性や濃度安定性が劣る傾向が見られ、活性エネルギー線硬化型でない一般の油性インキによる印刷と比較してもオフセット印刷適性が劣る点に問題があった。また印刷品質においても、活性エネルギー線硬化型オフセットインキは乳化適性や転移性が油性インキと比べて劣る影響から、印刷物の階調再現性や網点のつぶれ(ドットゲイン)といった品質安定性が劣る問題があった。
【0005】
一方で、重合基を持たない例えばイナート樹脂等の非反応性樹脂も活性エネルギー線硬化型オフセットインキに広く用いられるが、組合せて使用するアクリレートモノマーとの相溶性が劣る傾向があり、オフセット印刷適性は依然十分とは言えず、また硬化性が劣る欠点がある。
【0006】
例えば、顔料の易分散を目的に揮発性有機溶剤を含有するラッカー塗料等の用途として顔料、ショ糖誘導体及び溶剤をペイントシェーカーで混合する顔料組成物の製造方法が開示されている(例えば 特許文献1及び2参照)。
【0007】
本発明では、易分散に留まらず、揮発性有機溶剤を含有せず良好な活性エネルギー線硬化性能を有し、一般の油性インキにも匹敵する優れたオフセット印刷適性及び印刷品質の保持の両立を目的とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭52−28524
【特許文献2】特開昭58−225160
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、良好な活性エネルギー線硬化性、及び優れた印刷適性と印刷品質を兼備することを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物、及びその印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、重合性アクリレートオリゴマー、ショ糖モノカルボン酸エステル、及びアクリレートモノマーを適宜組合せ採用することによる相乗効果により上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、重合性アクリレートオリゴマー(A)、ショ糖モノカルボン酸エステル(B)、前記以外のアクリレートモノマー(C)および顔料を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。
【0012】
更に、本発明は、前記ショ糖モノカルボン酸エステル(B)が、平均エステル置換度が5.0〜7.9の範囲にあるショ糖芳香族モノカルボン酸エステルである活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。
【0013】
更に、本発明は、前記ショ糖モノカルボン酸エステル(B)が、ショ糖安息香酸エステルである活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。
【0014】
更に、本発明は、前記重合性アクリレートオリゴマー(A)がエポキシ(メタ)アクリレート及び/又はウレタン(メタ)アクリレートである活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。
【0015】
更に、本発明は、前記エポキシ(メタ)アクリレートがビスフェノールA型エポキシ樹脂とアクリル酸を反応させてなるエポキシアクリレートであり、前記ウレタン(メタ)アクリレートがポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)と分子中に水酸基を1つ有するアクリレートモノマーを反応させてなるウレタンアクリレートである活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。
【0016】
更に、本発明は、前記重合性アクリレートオリゴマー(A)とショ糖モノカルボン酸エステル(B)の重量比が9:1〜3:7の範囲にある活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。
【0017】
更に、本発明は、前記以外のアクリレートモノマー(C)が重量平均分子量300〜600の範囲にあるエチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートである活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に関する。
【0018】
更に、本発明は、活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物を用いてオフセット印刷された印刷物をも提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好な硬化性、及び優れた印刷適性と印刷品質を兼備した活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキの乳化前後におけるインキ粘度(トルク)測定評価に用いるダクテット試験機(川村理研製)の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物は、重合性アクリレートオリゴマー(A)、ショ糖モノカルボン酸エステル(B)、前記以外のアクリレートモノマー(C)および顔料を含有することで目的とする本発明の効果を奏するものである。
【0022】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物で使用する重合性アクリレートオリゴマー(A)としては、エポキシ(メタ)アクリレート及び/又はウレタン(メタ)アクリレートを使用することが出来る。
【0023】
前記エポキシ(メタ)アクリレートはエポキシ基を有するエポキシ樹脂と(メタ)アクリロイル基を有するモノカルボン酸を反応させてなる化合物全般を示し、前記エポキシ樹脂は、一分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であることが好ましく、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールSノボラック型エポキシ樹脂、メトキシ基含有ノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;その他、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(通称ザイロック樹脂のエポキシ化物)、レゾルシンのジグリシジルエーテル、ハイドロキノンのジグリシジルエーテル、カテコールのジグリシジルエーテル、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能型エポキシ樹脂;トリグリシジルシソシアヌレート、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール樹脂のエポキシ化物)、メトキシ基含有フェノールアラルキル樹脂などが挙げられる。また、前記エポキシ樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0024】
これらの中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が印刷適性の点から好ましく、特にエポキシ当量170〜500g/eqの範囲にあるビスフェノール型エポキシ樹脂、とりわけビスフェノールA型エポキシ樹脂であることが乳化特性に優れ、印刷インキとして用いた場合に優れた印刷適性が得られる点から好ましい。
【0025】
前記エポキシ樹脂と反応させる重合性不飽和基を有するモノカルボン酸は、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸が挙げられるが、特に印刷適性及び硬化性の点からアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、とりわけアクリル酸が好ましい。
【0026】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物で使用する重合性アクリレートオリゴマー(A)としてエポキシ(メタ)アクリレートを用いる場合は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とアクリル酸を反応させてなるエポキシアクリレートが、インキ組成物の硬化性、他成分であるショ糖モノカルボン酸エステル(B)との相乗効果によるオフセット印刷適性及び印刷品質の向上、前記以外のアクリレートモノマー(C)との良好な相溶性が得られる点で特に好ましい。
【0027】
前記ウレタン(メタ)アクリレートはイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーをウレタン化反応させてなる化合物全般を示し、前記イソシアナート化合物は分子中に2つ以上のイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物およびポリイソシアネート化合物が好ましく、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、3,4−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4‘−メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物や、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(通称ポリメリックMDI)等のポリイソシアネート化合物等が挙げられる。これらイソシアネート化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0028】
これらの中でも芳香族ジイソシアネート化合物が良好な硬化性が得られる点で好ましく、とりわけ1分子中の平均イソシアネート基数が3以上のポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートが良好な印刷適性が得られる点で好ましい。
【0029】
前記水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーは分子中に1つの水酸基を有するアクリレートモノマーが良好な乳化適性と硬化性が得られる点で好ましく、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフランあるいはεカプロラクトンを付加重合した化合物等を挙げることが出来る。
【0030】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物で使用する重合性アクリレートオリゴマー(A)としてウレタン(メタ)アクリレートを用いる場合は、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)と分子中に水酸基を1つ有するアクリレートモノマーを反応させてなるウレタンアクリレートが、インキ組成物の硬化性、他成分であるショ糖モノカルボン酸エステル(B)との相乗効果によるオフセット印刷適性及び印刷品質の向上、前記以外のアクリレートモノマー(C)との良好な相溶性が得られる点で特に好ましい。
【0031】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂とアクリル酸を反応させてなるエポキシアクリレートと、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)と分子中に水酸基を1つ有するアクリレートモノマーを反応させてなるウレタンアクリレートは、単独で使用してもよいし両方使用してもよい。
【0032】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物で使用するショ糖モノカルボン酸エステル(B)は、例えば、ショ糖脂肪族モノカルボン酸エステルを製造する方法については特開平7−101974及び特開2006−169237等で、ショ糖芳香族モノカルボン酸エステルを製造する方法については特公昭61−4839及び特開2013−100405等が公知であり、本発明で述べるショ糖モノカルボン酸エステル(B)もこれらの方法に準じて、製造することができる。
【0033】
またこれら特許文献に示される製造方法により、ショ糖モノカルボン酸エステルのエステル置換度(ショ糖1分子あたり、エステル化された水酸基の数)を任意に変化させることが可能であるが、本発明で述べるショ糖モノカルボン酸エステル(B)の平均エステル置換度は5.0〜7.9の範囲にあることが好ましく、6.0〜7.9の範囲にあることが特に好ましい。平均エステル置換度が5.0未満である場合にはショ糖モノカルボン酸エステルの残存水酸基が過多となる影響でインキ乳化適性およびオフセット印刷適性が悪化する傾向があり、また平均エステル置換度が7.9より高い場合には、工業的生産が困難となる傾向があり好ましくない。
【0034】
ショ糖モノカルボン酸エステル(B)は公知公用のショ糖脂肪族モノカルボン酸エステル、ショ糖芳香族モノカルボン酸エステルを用いることができるが、良好なインキ硬化性と重合性アクリレートオリゴマー(A)および前記以外のアクリレートモノマー(C)との良好な相溶性が得られる点でショ糖芳香族モノカルボン酸エステルが好ましく、ショ糖安息香酸エステルが特に好ましい。
【0035】
尚、本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物で使用する前記重合性アクリレートオリゴマー(A)とショ糖モノカルボン酸エステル(B)の重量比は、(A):(B)=9:1〜3:7の範囲にあることが好ましく、8:2〜5:5の範囲であればより好ましい。重合性アクリレートオリゴマー(A)の重量比が90%を超えると良好なオフセット印刷適性と印刷品質を得ることが困難であり、30%を下回ると良好な活性エネルギー線硬化性を得ることが困難となることから好ましくない。
【0036】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物で使用する前記以外のアクリレートモノマー(C)としては、公知公用のエチレン性二重結合を有するモノマー化合物を用いることができる。メタクリレートモノマーを適宜併用することも可能であるが、本発明においてはより硬化性の優れるアクリレートモノマーを用いることが好ましい。またオフセットインキ組成物においては、単官能モノマーよりも、より反応性の高い2官能以上のアクリレートモノマーを用いることが好ましいが、用途に応じて印刷基材への接着性、硬化皮膜の柔軟性等の必要物性を得る為に、適宜単官能アクリレートモノマーを併用することが可能である。
【0037】
前記単官能アクリレートモノマーとしては、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート、ヘキサデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、グリシジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシー3−フェノキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリルアクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニロキシエチルアクリレート等が挙げられる。
【0038】
前記2官能以上のアクリレートモノマーとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジアクリレート、2−ブチルー2−エチルー1,3−プロパンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等の2価アルコールのジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールのポリアクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリアクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに2モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジアクリレート、グリセリン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリアクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリアクリレート、ビスフェノールA1モルに2モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジアクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリアクリレート等が挙げられる。
【0039】
これらアクリレートモノマー(C)のうち、好適な硬化性、オフセット印刷適性、及び印刷品質を得る目的においては、1分子中のアクリロイル基数が2以上であり、疎水性であり、重量平均分子量が200〜600の範囲にあり、25℃における粘度が1ミリパスカル秒以上〜150ミリパスカル秒(mPa・s)未満であるアクリレートモノマーを用いることが好ましく、これらの要件を満たす具体例として、EO3TMPTA(エチレンオキサイド平均3モル変性トリメチロールプロパントリアクリレート、粘度50〜70mPa・s、重量平均分子量428)、DPGDA(ジプロピレングリコールジアクリレート、粘度5〜30mPa・s、重量平均分子量240)、HDDA(ヘキサンジオールジアクリレート、粘度5〜15mPa・s、重量平均分子量226)、TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート、粘度80〜120mPa・s、重量平均分子量296)、GPTA(プロピレンオキサイド平均3モル変性グリセリントリアクリレート、粘度80〜120mPa・s、重量平均分子量428)、PO3TMPTA(プロピレンオキサイド平均3モル変性トリメチロールプロパントリアクリレート、粘度70〜100mPa・s、重量平均分子量470)等が挙げられるが、特に、これらの中でも、重量平均分子量300〜600の範囲にあるエチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートは低粘度かつ硬化性に優れ、オフセット印刷適性も良好である点において好ましい。これらアクリレートモノマー(C)は単独で用いてもいずれか1種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物は、基材に印刷後、活性エネルギー線を照射することで硬化皮膜とすることができる。この活性エネルギー線とは、紫外線、電子線、α線、β線、γ線等の電離放射線が挙げられる。これらのなかでも特に、硬化性および利便性の点から紫外線(UV)が好ましい。
【0041】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物を硬化させる活性エネルギー線としては、上記の通り、紫外線、電子線、α線、β線、γ線のような電離放射線であるが、具体的なエネルギー源又は硬化装置としては、例えば、殺菌灯、紫外線用蛍光灯、紫外線発光ダイオード(UV−LED)、カーボンアーク、キセノンランプ、複写用高圧水銀灯、中圧又は高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ、自然光等を光源とする紫外線、又は走査型、カーテン型電子線加速器による電子線等が挙げられる。
【0042】
次に、本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物が紫外線硬化型組成物である場合に用いる光重合開始剤は、分子内開裂型光重合開始剤及び水素引き抜き型光重合開始剤が挙げられる。分子内開裂型光重合開始剤としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン等のアセトフェノン系化合物;1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)等のオキシム系化合物、3,6−ビス(2−メチル−2−モルフォリノプロパノニル)−9−ブチルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン系化合物;
【0043】
2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2−(ジメチルアミノ)−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ((4−メチルチオ)フェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアミノアルキルフェノン系化合物;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキシド系化合物;ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル等が挙げられる。
【0044】
一方、水素引き抜き型光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、
ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、
アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系化合物;4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系化合物;その他10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。これらのなかでも特に硬化性に優れる点からアミノアルキルフェノン系化合物が好ましく、また、特に発光ピーク波長が350〜420nmの範囲の紫外線を発生するUV−LED光源を活性エネルギー線源として用いた場合には、アミノアルキルフェノン系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物、及びアミノベンゾフェノン系化合物を併用することが硬化性に優れる点から好ましい。
【0045】
これらの重合開始剤の使用量は、本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物中の不揮発成分100重量%に対し、その合計使用量として1〜20重量%となる範囲であることが好ましい。即ち、重合開始剤の合計使用量が1重量%以上の場合は良好な硬化性を得ることができ、また20重量%以下の場合は、未反応の重合開始剤が硬化物中に残存することによるマイグレーション、耐溶剤性、耐候性等の物性低下といった問題を回避できる。これらの性能バランスがより良好なものとなる点から、特に、本発明の活性エネルギー線硬化型インキ組成物中の不揮発成分100重量%に対し、その合計使用量が3〜15重量%となる範囲であることがより好ましい。ただし活性エネルギー線として電子線を用いる場合には、原理的にこれら光重合開始剤の使用は必須ではない。
【0046】
また、前記した重合開始剤の他に、光増感剤を利用することで硬化性を一層向上させることが可能である。斯かる光増感剤は、例えば、脂肪族アミン等のアミン化合物、o−トリルチオ尿素等の尿素類、ナトリウムジエチルジチオホスフェート、s−ベンジルイソチウロニウム−p−トルエンスルホネート等の硫黄化合物などが挙げられる。これら光増感剤の使用量は、硬化性向上の効果が良好なものとなる点から本発明の活性エネルギー線硬化型インキ組成物中の不揮発成分100重量%に対し、その合計使用量として1〜20重量%となる範囲であることが好ましい。
【0047】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物では、硬化性を向上させる目的でワックスを添加することができる。前記ワックスとしては、パラフィンワックス、カルナバワックス、みつろう、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、アマイドワックスなどのワックス、ヤシ油脂肪酸や大豆油脂肪酸などのC8〜C18程度の範囲にある脂肪酸等を挙げることができる。
【0048】
中でもポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスに代表されるパウダータイプ又は粒子タイプのポリオレフィンワックスは良好なインキ流動性と硬化性が得られるため好ましく、さらに前記ポリオレフィンワックスの融点が90〜130℃の範囲にありかつ平均粒子径D50が1〜10マイクロメートルの範囲にあるポリオレフィンワックスであればより好ましい。平均粒子径D50が1マイクロメートル未満の場合は硬化性を向上させることが難しく、10マイクロメートルを超える場合は印刷機上のインキ転移性が著しく低下しオフセット印刷適性を損なうことから好ましくない。また本発明の活性エネルギー線硬化型組成物中の不揮発成分100重量%に対し、ワックスの総使用量が0.1〜5重量%となる範囲であることが好ましい。
【0049】
尚、前記平均粒径の測定法としては、日立製作所操作型電子顕微鏡S−3400Nで測定した度数分布の状況から算出したものである。
【0050】
また、本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物に用いる顔料としては、公知公用の着色用有機顔料を挙げることができ、例えば「有機顔料ハンドブック(著者:橋本勲、発行所:カラーオフィス、2006年初版)」に掲載される印刷インキ用有機顔料等が挙げられ、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、金属フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン顔料、金属錯体顔料、ジケトピロロピロール顔料、カーボンブラック顔料、その他多環式顔料等が使用可能である。
【0051】
また、本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物には、体質顔料として無機微粒子を用いてもよい。無機微粒子としては、酸化チタン、クラファイト、亜鉛華等の無機着色顔料;炭酸石灰粉、沈降性炭酸カルシウム、石膏、クレー(ChinaClay)、シリカ粉、珪藻土、タルク、カオリン、アルミナホワイト、硫酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、バライト粉、砥の粉等の無機体質顔料; 等の無機顔料や、シリコーン、ガラスビーズなどがあげられる。これら無機微粒子は、インキ中に0.1〜20重量%の範囲で使用することにより、インキの流動性調整、ミスチング防止、紙等の印刷基材への浸透防止といった効果を得ることが可能である。
【0052】
本発明の活性エネルギー硬化型オフセットインキ組成物では、更に公知公用の各種バインダー樹脂を利用することができる。ここで述べるバインダー樹脂とは、適切な顔料親和性と分散性を有し、印刷インキに要求されるレオロジー特性を有する樹脂全般を示しており、例えば非反応性樹脂としては、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、石油樹脂、ロジンエステル樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、セルロース誘導体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアマイド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ブタジエン−アクリルニトリル共重合体等を挙げることができ、または前記重合性アクリレートオリゴマー(A)以外の分子中に少なくとも1つ以上の重合性基を有するエポキシアクリレート化合物、ウレタンアクリレート化合物、ポリエステルアクリレート化合物等を使用することもでき、これらバインダー樹脂化合物は、単独で使用しても、いずれか1種以上を組合せて使用してもよい。
【0053】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物では、上記した各成分の他の配合物として、染料、有機溶剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、顔料分散剤等の添加剤を使用することができる。
【0054】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物で使用する印刷基材としては特に限定は無く、例えばカタログ、ポスター、チラシ、CDジャケット、ダイレクトメール、パンフレット、化粧品や飲料、医薬品、おもちゃ、機器等のパッケージ等の印刷に用いられる上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙、各種合成紙、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、ナイロン、ポリ乳酸、ポリカーボネート等のフィルム又はシート、セロファン、アルミニウムフォイル、その他従来から印刷基材として使用されている各種基材を挙げることが出来る。
【0055】
本発明で述べる活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物の製造は、従来の活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物紫と同様に、前記着色顔料、重合性アクリレートモノマー、重合性アクリレートオリゴマー、ショ糖モノカルボン酸エステル、バインダー樹脂、光重合開始剤、増感剤、その他添加剤等を配合してミキサー等で撹拌混合し、三本ロールミル、ビーズミル等の分散機を用いて練肉することで製造される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
〔活性エネルギー線硬化型オフセットインキの製造方法〕
表1及び表2の組成に従って、実施例1〜5及び比較例1〜3のインキを3本ロールミルにて練肉することによって、各種のインキ組成物を得た。尚、表1及び表2の数値は重量%である。 尚、全てのインキ組成物に対し着色成分として藍顔料DIC株式会社製FASTOGEN BLUE TGR−1(Pigment Blue15:3、フタロシアニンブルー)を使用した。
【0057】
〔展色物の製造方法〕
この様にして得られた活性エネルギー線硬化型インキ組成物を、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を用い、インキ0.10mlを使用して、RIテスターのゴムロール及び金属ロール上に均一に引き伸ばし、コートボール紙(王子マテリア社製UFコート、米坪350g/m2)の表面に、200cm2の面積にわたって藍濃度1.6(X−Rite社製SpectroEye濃度計で計測)で均一に塗布されるように展色し、展色物を作製した。なおRIテスターとは、紙やフィルムにインキを展色する試験機であり、インキの転移量や印圧を調整することが可能である。
【0058】
〔UVランプ光源による硬化方法〕
インキ塗布後の展色物に活性エネルギー線である紫外線(UV)照射を行い、インキ皮膜を硬化させた。水冷メタルハライドランプ(出力100W/cm1灯)およびベルトコンベアを搭載したUV照射装置(アイグラフィックス社製、コールドミラー付属)を使用し、展色物をコンベア上に載せ、ランプ直下(照射距離11cm)を分速100メートルの速度で通過させることにより、インキ皮膜を硬化させた。各条件における紫外線照射量は紫外線積算光量計(ウシオ電機社製UNIMETER UIT−150−A/受光機UVD−C365)を用いて測定した。
【0059】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物の評価方法1:硬化性〕
硬化性は、紫外線照射直後に爪スクラッチ法にて展色物表面の傷付きの有無を確認し次の3段階で評価した。爪で擦ってインキ硬化皮膜に傷が発生する組成では、印刷物の断裁や製函、輸送といった各工程において、印刷物が損傷し易くなる。
○:爪スクラッチで傷が発生せず、硬化性は良好である。
△:爪スクラッチで微小な傷が僅かに発生し、硬化性は中位である。
×:爪スクラッチで傷が明確に発生し、硬化性は不良である。
【0060】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物の評価方法2:乳化適性〕
乳化前後におけるインキ粘度(トルク)測定については、ダクテット試験機(川村理研製)を用いて評価した。本試験装置は特開2003−312161、特開平11−5376において用いられた試験機と同一の測定装置である。
【0061】
ダクテット試験機の断面図を図1に示す。外筒3は内部がくりぬかれた、底面を有する円筒状の金属であり、内部に評価インキ7を投入できる構造となっている。評価インキ7(5グラム)投入後に円柱棒状の金属である内筒2を図1に示す通り、外筒3の底面から1ミリメートルの距離、側面から0.6ミリメートルの距離に近接する位置まで差し込み固定した。その後内筒を2000rpmで時計回りに、外筒も60rpmで時計回りに回転させ、速度差をつけることで評価インキ7にシェアーがかかり撹拌される。ダクテット試験機は、外筒3は外筒用駆動モーター5によって回転し、内筒2は内筒用駆動モーター1によって回転する構造を有し、また外筒3内部の評価インキ7の温度が一定となるよう、恒温水槽4を備え水道水6の温度は常に30℃に保たれている。
またダクテット試験機では撹拌時にインキ7より内筒2に加わる負荷(トルク)を測定することができ、トルクの数値はすなわちインキ7の動的な粘度の指標として用いることができる。このトルク値(粘度)が安定した撹拌後3分後の数値を、乳化前トルクT0[mN・m]として記録した。この後続けて、撹拌を続けたまま蒸留水0.15グラムをピペットを用いて外筒3内部のインキ7に直上より添加した。添加蒸留水0.15グラムはインキ5グラムの3重量%に相当する。蒸留水添加後、トルク(粘度)の数値が安定した1分後の数値を3%乳化トルクT1[mN・m]として記録した。
【0062】
この添加蒸留水に対するインキの動的粘度挙動は、実際のオフセット印刷機を用いた印刷適性の評価結果と相関しており、蒸留水添加前後におけるトルクの変動値T0−T1[mN・m]の数値増減が少なくゼロに近いインキほど、版面に水を連続供給するオフセット印刷機における乳化適性が安定しており、優れたオフセット印刷適性を示している。
変動値T0−T1[mN・m]を15[mN・m]を境に次の基準で評価した。
○:T0−T1のトルク変化が15[mN・m]未満であり、乳化適性は良好である。
×:T0−T1のトルク変化が15[mN・m]以上であり、乳化適性は不良である。
【0063】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物のオフセット印刷方法〕
製造された実施例1〜5、比較例1〜3の活性エネルギー線硬化型インキについて、オフセット印刷適性および印刷物品質を評価した。紫外線照射装置としてアイグラフィックス社製水冷メタルハライドランプ(出力160W/cm、3灯使用)を搭載したマンローランド社製オフセット印刷機(ローランドR700印刷機、幅40インチ機)を用いて、毎時9000枚の印刷速度にてオフセット印刷を実施した。印刷用紙には王子製紙社製OKトップコートプラス(57.5kg、A判)を使用した。版面に供給される湿し水は、水道水98重量%とエッチ液(FST−700、DIC社製)2重量%を混合した水溶液を用いた。
【0064】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物の評価方法3:印刷適性〕
オフセットインキ印刷適性の評価方法としては、まず印刷機の水供給ダイヤルを40(標準水量)にセットし、印刷物濃度が標準プロセス藍濃度1.6(X−Rite社製SpectroEye濃度計で計測)となるようインキ供給キーを操作し、濃度が安定した時点でインキ供給キーを固定した。その後インキ供給キーを固定したままの条件で、水供給ダイヤルを40から55に変更し水供給量を増やした条件で300枚印刷し、300枚後の印刷物の藍濃度を測定した。水供給量を増やした状態においても印刷物の濃度低下が少ないほど、乳化適性に優れ、印刷適性に優れたインキと評価できる。下記の基準に従って活性エネルギー線硬化型インキの印刷適性を評価した。
○:印刷物の藍濃度が1.5以上であり、オフセット印刷適性は良好である。
△:印刷物の藍濃度が1.4以上〜1.5未満であり、オフセット印刷適性は中位であ
る。
×:印刷物の藍濃度が1.4未満であり、オフセット印刷適性は不良である。
【0065】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物の評価方法4:印刷物品質〕
印刷物品質の評価法としては、前記オフセット印刷適性の評価における、水供給ダイヤル40(標準水量)にて標準プロセス藍濃度1.6で印刷された印刷物を用い、50%網点部分におけるドットゲイン%を、X−Rite社製SpectroEye濃度計で計測することで評価した。オフセット印刷においては、刷版上で描画された網点は、インキのドットゲイン現象(つぶれ)により印刷物紙面上の網点面積が増大する。例えば刷版上にて面積率50%の網点が印刷物紙面上にて65%に増大している場合、50%網点部分におけるドットゲイン%は65%−50%=15%と評価される。50%網点部分におけるドットゲイン%は15%近辺が良好であるが、転移性や着肉性の劣るインキや、乳化適性の劣るインキを用いた場合、ドットゲイン%が過度に大きくなったり小さくなったりして印刷物品質が不良となる傾向がある。下記の基準に従って活性エネルギー線硬化型インキの印刷物品質を評価した。
○:50%網点部分におけるドットゲイン%が13〜17%の範囲にあり、印刷物品質は良好である。
×:50%網点部分におけるドットゲイン%が13%未満である、もしくは17%を超えており、印刷物品質は不良である。
【0066】
(重量平均分子量の測定)
尚、本発明におけるGPCによる重量平均分子量(ポリスチレン換算)の測定は東ソー(株)社製HLC8220システムを用い以下の条件で行った。
分離カラム:東ソー(株)製TSKgelGMHHR−Nを4本使用。カラム温度:40℃。移動層:和光純薬工業(株)製テトラヒドロフラン。流速:1.0ml/分。試料濃度:1.0重量%。試料注入量:100マイクロリットル。検出器:示差屈折計。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
表1、及び表2の数値の内、特に単位の無いものは重量%である。
・TGR−1:FASTOGEN BLUE TGR−1、フタロシアニンブルー(銅フタロシアニン)藍顔料、DIC社製
・ハイフィラー#5000PJ:含水ケイ酸マグネシウムによるタルク、松村産業社製
・炭酸マグネシウムTT:塩基性炭酸マグネシウム、ナイカイ塩業社製
・S−381−N1:ポリオレフィンワックス、シャムロック社製
・エポキシアクリレート:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピクロン850、DIC社製)とアクリル酸を反応させてなるエポキシアクリレート、未反応エポキシ基が消失するまで反応したことを13C−NMR測定にて確認
・ウレタンアクリレート:ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ミリオネートMR−400、日本ポリウレタン工業株式会社製)と2−ヒドロキシエチルアクリレートを反応させてなるウレタンアクリレート、未反応イソシアネート基を示す2250cm−1の赤外吸収スペクトルが消失するまで反応したことを確認
・ショ糖安息香酸エステル1:平均エステル置換度7.4
・ショ糖安息香酸エステル2:平均エステル置換度5.5
・MIRAMER M600:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、粘度4000〜7000mPa・s、重量平均分子量578、MIWON社製
・MIRAMER M410:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、粘度450〜750mPa・s、重量平均分子量467、MIWON社製
・MIRAMER M3130:エチレンオキサイド(平均3モル付加)変性トリメチロールプロパントリアクリレート(EO3TMPTA)、粘度50〜70mPa・s、重量平均分子量428、 MIWON社製
・Irgacure907:2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モノフォリノプロパン−1−オン、BASF社製
・EAB―SS:4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、大同化成工業社製
・ステアラーTBH:2−tert−ブチルハイドロキノン、精工化学社製
【0070】
(重量平均分子量の測定)
尚、本発明におけるGPCによる重量平均分子量(ポリスチレン換算)の測定は東ソー(株)社製HLC8220システムを用い以下の条件で行った。
分離カラム:東ソー(株)製TSKgelGMHHR−Nを4本使用。カラム温度:40℃。移動層:和光純薬工業(株)製テトラヒドロフラン。流速:1.0ml/分。試料濃度:1.0重量%。試料注入量:100マイクロリットル。検出器:示差屈折計。
【0071】
実施例に述べる活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物では、全ての評価項目において良好もしくは中位の結果を得た。
【0072】
比較例の結果においては、複数の評価項目において不良が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の活性エネルギー線オフセットインキおよびそれを用いて印刷された印刷物は、食品・飲料・サニタリー・コスメ・おもちゃ・機器・医薬品等の紙器パッケージ用途や、書籍・チラシ・ポスター・カタログ・カード・ダイレクトメール・パンフレット・CDジャケット・シールラベル等の商業印刷用途に幅広く展開され得る。
【符号の説明】
【0074】
1 内筒用駆動モーター
2 内筒
3 外筒
4 恒温水槽
5 外筒用駆動モーター
6 水道水
7 評価インキ
図1