(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内径側回転体の筒状壁部は、前記回転軸方向から見て、外径側に位置するスプライン山部と、前記スプライン山部よりも内径側に位置するスプライン谷部とが、前記回転軸周りの周方向に交互に連なって形成されており、
前記油路は、前記スプライン山部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の摩擦締結要素における潤滑構造。
前記自動変速機は、モータとエンジンとを駆動源としたハイブリット車両に搭載される無段変速機であり、前記ハイブリット車両は、前記モータと前記エンジンとの間の連結を断接する第1のクラッチと、前記モータと前記無段変速機の変速機後部との間の連結を断接する第2のクラッチと、を有しており、
前記摩擦締結要素は、前記無段変速機が備える前後進切替機構の前進走行時に締結される摩擦締結要素であって、前記第2のクラッチとして機能する摩擦締結要素であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の車両用自動変速機の摩擦締結要素
における潤滑構造。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】1モータ2クラッチ方式のハイブリット車両の概略構成図である。
【
図2】無段変速機の前後進切替機構周りを拡大して示す断面図である。
【
図3】前後進切替機構の前進クラッチと後進ブレーキ周りを拡大して示す断面図である。
【
図4】クラッチハブとクラッチドラムの構成を説明する斜視図である。
【0016】
以下、本発明の実施形態を、1モータ2クラッチ方式のハイブリット車両1に適用した場合を例に挙げて説明をする。
図1は、1モータ2クラッチ方式のハイブリット車両1の概略構成図である。
【0017】
1モータ2クラッチ方式のハイブリット車両1は、エンジンEとモータMとを駆動源として備えており、このハイブリット車両1では、エンジンEとモータMとの間の連結を断接するクラッチCLが、モータMと無段変速機2との間の連結を断接するクラッチの他に設けられている。
【0018】
このハイブリット車両1では、当該ハイブリット車両1の走行モードとして、モータMのみでの走行と、エンジンEとモータMとを協調しての走行と、エンジンEのみでの走行との3つの走行モードが用意されており、クラッチCLにより、モータMとエンジンEとの連結を断接することで、上記した3つの走行モードの何れかが実現されるようになっている。
【0019】
ハイブリット車両1では、モータMと無段変速機2との間に、前後進切替機構3が位置しており、この前後進切替機構3の摩擦締結要素(前進クラッチ6)を、モータMと無段変速機2との間の連結を断接するクラッチとして機能させている。
【0020】
前後進切替機構3は、ダブルピニオン遊星歯車組4を主たる構成要素とし、そのサンギヤ41は、前後進切替機構3の入力軸31を介して、モータMの出力軸(図示せず)に連結されており、キャリア44は、無段変速機2のプライマリプーリ21に連結されている。
【0021】
前後進切替機構3の摩擦締結要素は、サンギヤ41とキャリア44との間を直結する前進クラッチ6と、リングギヤ43を固定する後進ブレーキ7であり、前進クラッチ6の締結時には、駆動源(エンジンE、モータM)から入力される回転駆動力が、そのままプライマリプーリ21に伝達され、後進ブレーキ7の締結時には、回転駆動力が逆転されて、プライマリプーリ21に伝達されるようになっている。
【0022】
無段変速機2は、一対のプライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の間にベルト23を巻き掛けて構成されており、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22におけるベルト23の巻き掛け半径(接触半径)を変化させることで、前後進切替機構3側から入力される回転駆動力を所望の変速比で変速するようになっている。
無段変速機2のセカンダリプーリ22は、出力軸25に連結されており、無段変速機2で変速された回転駆動力は、出力軸25と、歯車組26と、ディファレンシャル27とを介して、左右の駆動輪Wd、Wdに伝達されるようになっている。
【0023】
以下、前後進切替機構3周りの構成を具体的に説明する。
図2は、ハイブリット車両1に搭載された無段変速機2の前後進切替機構3周りを拡大して示す断面図であり、
図3は、前後進切替機構3の前進クラッチ6と後進ブレーキ7周りを拡大して示す断面図である。
図4は、クラッチハブ61とクラッチドラム65の斜視図であって、クラッチハブ61の周壁部611に設けた油路(油孔613、溝孔612)と、周壁部611の外周にスプライン嵌合したドライブプレート62a〜62dとの位置関係を説明する図である。
図5は、クラッチハブ61を説明する図であって、(a)は、クラッチハブ61をクラッチドラム65側から見た平面図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図であり、(c)は、(a)におけるB−B断面図である。
なお、
図4では、ドライブプレート62a〜62dを一部を切り欠いて示すと共に、ドライブプレート62a〜62dの側面に設けたフェーシング材の図示を省略している。
【0024】
変速機ケース10の内部では、前後進切替機構3の入力軸31と、プライマリプーリ21の固定円錐盤210とが、共通の回転軸X(中心軸)上で同軸に設けられている。
前後進切替機構3の入力軸31は、リング状のブッシュ32が外挿された先端部31aを、固定円錐盤210の円筒状の軸部211に内挿して、プライマリプーリ21に連結されており、この状態において、入力軸31と固定円錐盤210とは、回転軸X周りの周方向で相対回転可能に組み付けられている。
【0025】
固定円錐盤210の軸部211では、シーブ部212よりも前後進切替機構3側の外周にベアリングBが圧入されており、このベアリングBの外周は、変速機ケース10の中間壁部101に設けた円筒状の支持部102で支持されている。
この状態において、固定円錐盤210の軸部211は、前後進切替機構3側の端部が、ベアリングBを介して変速機ケース10の中間壁部101で回転可能に支持されている。
【0026】
軸部211の先端には、外周にスプラインが設けられたリング状のスプライン嵌合部211aが設けられており、このスプライン嵌合部211aは、軸部211よりも小さい外径で形成されている。
このスプライン嵌合部211aの外周には、リングギヤ43の内径側の円筒部431がスプライン嵌合しており、固定円錐盤210とリングギヤ43とは、回転軸X周りの相対回転が規制された状態で、互いに連結されている。
【0027】
リングギヤ43は、円筒部431のプライマリプーリ21側の一端から径方向外側に延びる円盤部432と、円盤部432の外周縁から円筒部431と同方向に延びる円筒状の周壁部433と、を有しており、周壁部433の内周には、ピニオンギヤ42の歯部42aが噛合する歯部433aが形成されている。
【0028】
周壁部433の内径側には、入力軸31と一体に回転するサンギヤ41が、リングギヤ43と同軸に設けられており、サンギヤ41の外周の歯部41aと、リングギヤ43の内周の歯部433aには、ピニオンギヤ42の歯部42aが噛合している。
【0029】
ピニオンギヤ42は、ニードルベアリングNBを介して、ピニオン軸421で回転可能に支持されており、このピニオン軸421の両端は、キャリア44のキャリアプレート441、442で支持されている。
ピニオンギヤ42とキャリアプレート441との間と、ピニオンギヤ42とキャリアプレート442との間には、ピニオン軸421に外挿されたワッシャW、Wが位置しており、回転により生じたスラスト力で軸方向に移動したピニオンギヤ42が、キャリアプレート441、442に直接接触した状態で、回転しないようにされている。
【0030】
このピニオンギヤ42が噛合するサンギヤ41は、歯部41aが形成された円筒状の基部410の内径側に、円筒状のスプライン嵌合部411を有している。サンギヤ41は、入力軸31の外周に設けたスプライン31bに、スプライン嵌合部411をスプライン嵌合させて、入力軸31に連結されており、この状態においてサンギヤ41と入力軸31とは、回転軸X周りの相対回転が規制された状態で、互いに連結されている。
【0031】
入力軸31では、スプライン31bよりも前カバー部103側(図中右側)の部位に、リング状のシャフト34が外装して取り付けられている。このシャフト34は、変速機ケース10に取り付けられた前カバー部103の円筒状の支持部104に圧入して取り付けられており、入力軸31は、シャフト34を介して、前カバー部103の支持部104で回転可能に支持されている。
【0032】
変速機ケース10の内部では、前カバー部103とダブルピニオン遊星歯車組4との間に、前進クラッチ6と、後進ブレーキ7とが位置している。
後進ブレーキ7は、前進クラッチ6の外径側に位置しており、変速機ケース10の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート75と、クラッチドラム65の外周にスプライン嵌合したドライブプレート71と、油圧により回転軸Xの軸方向にストロークするピストン73と、を有している。
【0033】
図3に示すように、クラッチドラム65は、筒状の周壁部651と、周壁部651の一端から内径側に延びる底部650と、を有しており、断面視においてクラッチドラム65は、有底円筒形状を成している。
中心軸Xの軸方向から見て周壁部651は、外径側に位置するスプライン山部651aとスプライン谷部651bとが、回転軸X周りの周方向に交互に連なって形成されており(
図3、
図5の(a)参照)、周壁部651の内周と外周には、中心軸Xの軸方向に沿ってスプラインが形成されている。
周壁部651の外周には、複数のドライブプレート71がスプライン嵌合して設けられており、ドライブプレート71の各々は、回転軸X周りの周方向における周壁部651との相対回転が規制された状態で、回転軸Xの軸方向に移動可能に設けられている。
【0034】
周壁部651の径方向外側に位置するドリブンプレート75もまた、回転軸X周りの周方向における変速機ケース10との相対回転が規制された状態で、回転軸Xの軸方向に移動可能に設けられている。
後進ブレーキ7のドリブンプレート75とドライブプレート71とは、回転軸Xの軸方向で交互に配置されていると共に、回転軸Xの軸方向から見て、ドライブプレート71の外径側とドリブンプレート75の内径側とが重なるように配置されている。
【0035】
これらドライブプレート71とドリブンプレート75との重なる部分の中間壁部101側(図中左側)には、中間壁部101の凹部101aで回転軸Xの軸方向に移動可能に支持されたピストン73が位置している。
このピストン73と中間壁部101との間には、ピストン73の作動油圧が供給される油室S1が形成されており、後進ブレーキ7では、この油室S1に油圧が供給されると、ピストン73が、油室S1内に供給された油圧により押されて、前カバー部103側(図中右側)に移動するようになっている。
【0036】
これにより、前カバー部103側に移動したピストン73の押圧部731が、ドライブプレート71とドリブンプレート75とを、回転軸Xの軸方向に押圧して、ドライブプレート71とドリブンプレート75との相対回転が、ドライブプレート71とドリブンプレート75との押圧による締結状態に応じて規制されるようになっている。
そのため、ドライブプレート71とドリブンプレート75とが相対回転不能に締結された状態になると、ドリブンプレート75が変速機ケース10の内周にスプライン嵌合しているので、ドライブプレート71がスプライン嵌合したクラッチドラム65の回転軸X周りの回転が阻止されるようになっている。
【0037】
クラッチドラム65の周壁部651の内周には、前進クラッチ6のドリブンプレート66がスプライン嵌合して設けられており、ドリブンプレート66は、回転軸X周りの周方向における周壁部651との相対回転が規制された状態で、回転軸Xの軸方向に移動可能に設けられている。
【0038】
前進クラッチ6は、クラッチドラム65の周壁部651の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート66と、クラッチハブ61の円筒状の周壁部611の外周にスプライン嵌合したドライブプレート62と、油圧により回転軸Xの軸方向にストロークするピストン63と、を有している。
【0039】
クラッチハブ61は、筒状の周壁部611と、周壁部611の一端から内径側に延びる底部610とを有しており、断面視においてクラッチハブ61は、有底円筒形状を成している。
変速機ケース10内においてクラッチハブ61と、クラッチドラム65は、互いの開口を対向させた向きで、回転軸Xの軸方向から組み付けられており、この状態においてクラッチハブ61は、クラッチドラム65の周壁部611の内側に収容されている。
【0040】
クラッチハブ61の底部610の内径側の端部610aは、サンギヤ41の基部410に溶接されており、サンギヤ41とクラッチハブ61とは、回転軸X周りの周方向の相対回転が規制された状態で、互いに連結されている。
【0041】
図5に示すように、回転軸Xの軸方向から見て、クラッチハブ61の周壁部611は、外径側に位置するスプライン山部611aとスプライン谷部611bとが、回転軸X周りの周方向に交互に連なって形成されており、スプライン山部611aの外周に、前進クラッチ6のドライブプレート62がスプライン嵌合している。
この状態において、ドライブプレート62は、内径側に突出する突出部621(
図5の(a)参照)を、回転軸X周りの周方向で隣接するスプライン山部611a、611aの間に位置させており、ドライブプレート62は、回転軸X周りの周方向におけるクラッチハブ61との相対回転が規制された状態で、周壁部611の幅方向(回転軸Xの軸方向)に変位可能に設けられている。
【0042】
周壁部611において外径側に位置するスプライン山部611aには、変速機ケース10の内径側から供給される潤滑油を、周壁部611の外径側に位置するドライブプレート62とドリブンプレート66とに供給するための油路(油孔613、溝孔612)が、スプライン山部611aを径方向に貫通して形成されている。
【0043】
実施の形態では、周壁部611の幅方向(回転軸Xの軸方向)に所定幅L1(
図5の(c)参照)を有する長孔状の溝孔612と、径方向から見て円形状の油孔613のうちの何れか一方が、油路としてスプライン山部611aに形成されている。
【0044】
実施の形態では、溝孔612は、プレスによる打ち抜き加工により周壁部611に形成されており、油孔613は、ドリル加工により形成されている。
ここで、プレスによる打ち抜き加工を行う際には、パンチで周壁部611を外径側から内径側に打ち抜く際に、周壁部611の内周を支持部材で支持する必要がある。そのため、溝孔612は、周壁部611の内径側を支持部材で支持できる範囲にのみ形成できるようになっており、溝孔612を底部610の径方向外側まで及ぶ長さでは形成できないようになっている。
そのため、
図5の(c)に示すように、溝孔612は、底部610から前カバー部103側(図中右側)に所定距離オフセットした位置から、周壁部611の延出方向に沿って、所定長さL1で形成されている。実施の形態では、この溝孔612の外径側に、合計3枚のドライブプレート62b、62c、62dが位置しており、内径側から供給される潤滑油は、溝孔612を通って、周壁部611の外径側に位置するドライブプレート62(62b〜62d)とドリブンプレート66とに作用して、これらドライブプレート62(62b〜62d)とドリブンプレート66とを冷却するようになっている。
【0045】
さらに、実施の形態では、底部610の外径側に位置するドライブプレート62aを潤滑するために、このドライブプレート62a側に潤滑油を供給するための油孔613は、
図5の(b)に示すように、当該油孔613の一部が、回転軸Xの径方向から見て、底部610と重なる位置に形成されていると共に、中心軸Xの軸方向で隣接するドライブプレート62a、62bの間の部分に開口している。
【0046】
この油孔613は、直径L3の丸孔であり、底部610の前カバー部103側の面610aから、前カバー部103から離れる方向に所定深さΔhだけ、底部610を削って形成されている。そのため、
図5の(a)に示すように、回転軸Xの軸方向から見て、油孔613が形成されたスプライン山部611aでは、このスプライン山部611aの内径側に、油孔613の一部が露出している。
【0047】
ここで、油孔613が形成されたスプライン山部611aでは、内径側から供給された潤滑油が、油孔613のみから周壁部611の外径側に供給されるので、溝孔612が形成されたスプライン山部611aよりも、より多くの潤滑油が、外径側に配置されたドライブプレート62aに供給される。
そのため、ドライブプレート62aの方が、ほかのドライブプレート62b〜62dよりも大きく冷却される。そこで、実施の形態では、油孔613が形成されたスプライン山部611aの数を、溝孔612が形成されたスプライン山部611aの数よりも少なくしており、クラッチハブ61の周壁部611の外径側に位置するドライブプレート62とドリブンプレート66が均等に冷却されるようにしている。
【0048】
さらに、ドライブプレート62aの冷却が回転軸X周りの周方向で均等に行われるようにするために、周壁部611(スプライン山部611a)における各油孔613の位置は、油孔613が回転軸Xの周方向に等間隔で配置されるように設定されている。
図4の場合には、油孔613は、回転軸Xの周方向で連続する複数のスプライン山部611aにおいて、4つおきに設けられており、油孔613が形成されたスプライン山部611a、611aの間に、溝孔612が形成されたスプライン山部611aが、3つ位置している。
【0049】
ここで、油孔613が形成されたスプライン山部611aの数は、クラッチハブ61におけるスプライン山部611aの数が36箇所である場合には、9箇所であることが好ましい。これは、スプライン山部611aの数が36箇所である場合について、検証試験を行った結果、油孔613が形成されたスプライン山部611aの数が9箇所である場合に、周壁部611の外側に位置するドライブプレート62a〜62dが略均等に冷却されることが確認できたからである。
【0050】
周壁部611の径方向外側では、クラッチドラム65の周壁部651にスプライン嵌合したドリブンプレート66と、ドライブプレート62とが、回転軸Xの軸方向で交互に配置されていると共に、回転軸Xの軸方向から見て、ドライブプレート62の外径側とドリブンプレート66の内径側とが重なるように配置されている。
これらドライブプレート62とドリブンプレート66の重なる部分の前カバー部103側には、クラッチドラム65の底部650の凹部650aで支持されたピストン63の押圧部632が位置している。
【0051】
ピストン63は、クラッチドラム65の底部650に設けたリング状の凹部650a内で、回転軸Xの軸方向に進退移動可能に設けられたリング状の部材であり、凹部650aとの間に形成された油室S2に油圧が供給されると、ピストン63が、ダブルピニオン遊星歯車組4側(図中左側)にストロークするようになっている。
【0052】
この際に、ダブルピニオン遊星歯車組4側にストロークしたピストン63が、回転軸Xの軸方向で交互に配置されたドライブプレート62とドリブンプレート66とを、回転軸Xの軸方向に押圧して、ドライブプレート62とドリブンプレート66との相対回転が、ドライブプレート62とドリブンプレート66との押圧による締結状態に応じて規制されるようになっている。
そのため、ドライブプレート62とドリブンプレート66とが相対回転不能に締結された状態になると、ドライブプレート62がスプライン嵌合したクラッチハブ61と、ドリブンプレート66がスプライン嵌合したクラッチドラム65の、回転軸X周りの相対回転が規制されるようになっている。
【0053】
ピストン63とクラッチハブ61との間には、回転軸Xの軸方向から見て、リング上を成すキャンセラ642が位置しており、このキャンセラ642の内径側の端部642aは、クラッチドラム65の内径側の筒壁部653の外周に固定されたスナップリング645により、回転軸Xの軸方向の位置決めがされている。
このキャンセラ642とピストン63との間の空間は、前記した油室S2に作用する遠心油圧を相殺するために設けられており、この空間内には、ピストン63をクラッチドラム65の凹部650a側に付勢するスプリングSpが設けられている。
【0054】
以上の通り、実施の形態では、
(1)同軸上で相対回転可能に設けられたクラッチハブ61(内径側回転体)およびクラッチドラム65(外径側回転体)の回転軸X方向で、クラッチハブ61の外周にスプライン嵌合したドライブプレート62(内径側摩擦板)と、クラッチドラム65の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート66(外径側摩擦板)と、が交互に配置されており、
油圧により作動するピストン63により、ドライブプレート62とドリブンプレート66とを回転軸X方向に押圧すると、クラッチハブ61とクラッチドラム65との相対回転が、ドライブプレート62とドリブンプレート66との押圧による締結状態に応じて規制されるように構成された車両用自動変速機の摩擦締結要素における潤滑構造であって、
ドライブプレート62は、クラッチハブ61の円筒状の周壁部611(有底の筒状壁部)の外周にスプライン嵌合して設けられていると共に、ドライブプレート62(62a〜62d)のうちの一枚のドライブプレート62aが、クラッチハブ61の底部610の径方向外側に位置しており、
周壁部611に、当該周壁部611を前記径方向に貫通する油路を設けると共に、前記油路を、前記回転軸X周りの周方向に間隔を空けて複数設け、
油路を、
回転軸Xの径方向から見て、底部610に重なる位置に一部が設けられた油孔613と、
回転軸Xの径方向から見て、底部610から回転軸X方向にオフセットした位置から、回転軸X方向に沿って、底部610から離れる方向に延びる溝孔612とから構成した。
【0055】
このように構成すると、回転軸Xの径方向から見て、油孔613の一部が底部610に重なる位置に形成されており、変速機ケース10内の内径側から供給される潤滑油が、油孔613を通って底部610の径方向外側に位置するドライブプレート62aに供給されるので、底部610の径方向外側に位置するドライブプレート62aを冷却できる。
また、底部610の径方向外側に位置していない他のドライブプレート62b、62c、62dは、溝孔612を通って径方向外側に供給される潤滑油で冷却される。
よって、クラッチハブ61の外周にスプライン嵌合したドライブプレート62aの冷却のバラツキを抑えることができる。
また、周壁部611の外周にスプライン嵌合させたドライブプレートの総てを、溝孔612を通って供給される潤滑油で冷却できるようにする場合には、回転軸Xの軸方向における周壁部611の長さを長くする必要があるが、溝孔612とは別に設けた油孔613を通って供給される潤滑油で、底壁610の径方向外側に位置するドライブプレート62aを冷却できるので、自動変速機を回転軸方向に大型化させることなく、周壁部611の外周にスプライン嵌合させたドライブプレート62の総てを適切に冷却できる。
【0056】
なお、回転軸X方向においてクラッチハブ61の底部610は、クラッチハブ61のピストン63とは反対側の一端に設けられている構成としたので、クラッチハブ61において油孔613は、ピストン63により押されて移動するドライブプレート62及びドリブンプレート66の移動方向における下流側に開口している。
そのため、ピストン63による締結/開放の繰り返しにより、ドライブプレート62及びドリブンプレート66が摩耗して、ドライブプレート62とドリブンプレート66とのクリアランスが変化しても、油孔613の位置は、ドライブプレート62a及びドリブンプレート66の摩耗による影響を受け難い位置に設定されているので、潤滑対象となるドライブプレート62aの位置が大きくずれることがない。よって、潤滑対象であるドライブプレート62aに潤滑油を確実に供給して、ドライブプレート62aを適切に冷却できる。
【0057】
特に、クラッチハブ61のピストン63とは反対側に、ダブルピニオン遊星歯車組4のキャリアプレート442が位置しており、ピストン63によりドライブプレート62とドリブンプレート66とが押圧されても、ドライブプレート62aのキャリアプレート422側の位置は常に同じとなる。
すなわち、潤滑対象となるドライブプレート62aの位置が大きくずれることがないので、潤滑対象であるドライブプレート62aに潤滑油を確実に供給して、ドライブプレート62aを適切に冷却できる。
【0058】
この場合において、クラッチハブ61において油孔613は、回転軸X方向で隣接するドライブプレート62aとドライブプレート62bとの間に開口する位置に設けられている構成としたので、潤滑対象となるドライブプレート62aと、このドライブプレート62aに隣接するドライブプレート62bの両方を、より適切に冷却できるようになる。
【0059】
(2)クラッチハブ61の周壁部611は、回転軸X方向から見て、外径側に位置するスプライン山部611aと、スプライン山部611aよりも内径側に位置するスプライン谷部611bとが、回転軸X周りの周方向に交互に連なって形成されており、
油路(油孔613、溝孔612)は、スプライン山部611aに設けられている構成とした。
【0060】
クラッチハブ61が回転すると、変速機ケース10の内径側から供給された潤滑油は、回転による遠心力で、回転軸X方向から見て、回転軸Xの径方向の外側に位置するスプライン山部611aの内周面611c(
図5の(a)参照)に集まることになる。よって、スプライン山部611aに油路(油孔613、溝孔612)を設けることで、回転による遠心力で集められた潤滑油を、クラッチハブ61の周壁部611の外周にスプライン嵌合するドライブプレート62a〜62dに供給できるので、ドライブプレート62a〜62dを適切に冷却できる。
【0061】
(3)スプライン山部611aの各々には、油孔613と溝孔612のうちの一方が設けられている構成とした。
【0062】
スプライン山部611aに、油孔613と溝孔612の両方が設けられていると、回転による遠心力でスプライン山部611aに集められた潤滑油は、油孔613よりも開口径が大きい溝孔612の方に多く流れるので、底部610の径方向外側に位置するドライブプレート62aの冷却が不十分になる虞がある。
上記のように構成して、油孔613が設けられているスプライン山部611aと、溝孔612が設けられているスプライン山部611aとを分けることで、油孔613が設けられているスプライン山部611aに集められた潤滑油の総てを、底部610の径方向外側に位置するドライブプレート62aの冷却に利用できるので、底部610の径方向外側に位置するドライブプレート62aの冷却が不十分になることが無い。
【0063】
(4)油孔613が設けられたスプライン山部611aの数は、溝孔612が設けられたスプライン山部611aの数よりも少ない数に設定されており、
油孔613が設けられたスプライン山部611aは、回転軸Xの軸方向から見て、回転軸X周りの周方向に等間隔で配置されている構成とした。
【0064】
油孔613が設けられたスプライン山部611aでは、回転による遠心力で集められた潤滑油の総てが、底部610の径方向外側に位置するドライブプレート62aの冷却に用いられるのに対し、溝孔612が設けられたスプライン山部611aでは、回転による遠心力で集められた潤滑油は、溝孔612が設けられたスプライン山部611aの径方向外側に位置するドライブプレート62b〜62dの冷却に分散して用いられる。
そのため、油孔613が設けられたスプライン山部611aの数と、溝孔612が設けられたスプライン山部611aの数とを同数に設定すると、底部610の径方向外側に位置するドライブプレート62aのほうが、他のドライブプレート62b〜62dよりも冷却されるので、クラッチハブ61の周壁部611の外周にスプライン嵌合した総てのドライブプレート62a〜62dを均等に冷却し難くなる。
上記のように構成して、底部610の径方向外側に位置するドライブプレート62aに供給される潤滑油の量と、溝孔612の径方向外側に位置する他のドライブプレート62b〜62dに供給される潤滑油の量を調整すると、クラッチハブ61の周壁部611にスプライン嵌合した総てのドライブプレート62a〜62dを、より均等に冷却できるようになる。
【0065】
なお、実施の形態では、油孔613が設けられたスプライン山部611aの数と、溝孔612が設けられたスプライン山部611aの数との比率を、1:4に設定することで、クラッチハブ61の周壁部611にスプライン嵌合した総てのドライブプレート62a〜62dを、より均等に冷却できるようにしている。
【0066】
(5)ドリブンプレート66は、クラッチドラム65の有底の周壁部651の内周にスプライン嵌合して設けられており、
クラッチドラム65の周壁部651には、当該周壁部651を径方向に貫通する油溝654(油路)(
図4参照)が設けられており、
回転軸Xの径方向から見て、クラッチハブ61の周壁部611に設けた油孔613の位置と、クラッチドラム65の周壁部651に設けた油溝654の位置とが、回転軸Xの軸方向でオフセットしている構成とした。
【0067】
このように構成すると、クラッチハブ61の外周にスプライン嵌合したドライブプレート62a〜62dの径方向外側に、クラッチドラム65の有底の周壁部651が位置しているので、油孔613から底部610の径方向外側に位置するドライブプレート62aに供給された潤滑油の径方向外側への移動が、クラッチドラム65の周壁部651により阻害されて、クラッチハブ61の周壁部611と、クラッチドラム65の周壁部651との間に、潤滑油が滞留することになる。
ここで、クラッチドラム65の周壁部651にも、周壁部651の外周にスプライン嵌合したドライブプレート71に潤滑油を供給するための油溝654が設けられているが、油溝654の位置を、油孔613とオフセットさせることで、クラッチハブ61の周壁部611と、クラッチドラム65の周壁部651との間での潤滑油の滞留時間を長くすることができる。よって、クラッチハブ61の周壁部611と、クラッチドラム65の周壁部651との間に位置する摩擦板(ドライブプレート62、ドリブンプレート66を潤滑油でより確実に冷却できるようになる。
【0068】
(6)自動変速機は、モータMとエンジンEとを駆動源としたハイブリット車両1に搭載される無段変速機2であり、ハイブリット車両1は、モータMとエンジンEとの間の連結を断接する第1のクラッチCLと、モータMと無段変速機2の変速機後部との間の連結を断接する第2のクラッチと、を有しており、
摩擦締結要素は、無段変速機2が備える前後進切替機構3の前進走行時に締結される前進クラッチ6であって、前記した第2のクラッチとして機能する摩擦締結要素である構成とした。
【0069】
ハイブリット車両1では、走行モードが、モータMのみでの走行から、エンジンEとモータMとを協調させる走行に切り替わる際にトルクの変動が発生するので、このトルクの変動が運転者に与える違和感を抑えるために、モータMと変速機構部との間の動力伝達経路上にある摩擦締結要素(前進クラッチ6)を、積極的にスリップ状態にすることで、トルクの変動がそのまま変速機後部に入力されて、トルクの変動に起因するショックが発生しないようにしている。
ここで、動力伝達系路上にある前進クラッチ6をスリップ状態にすると、スリップに起因して前進クラッチ6を構成する摩擦板(ドライブプレート62、ドリブンプレート66)が発熱して、前進クラッチ6の耐力が低下する恐れがあるが、上記のような摩擦締結要素における潤滑構造を採用することで、前進クラッチ6の耐力の低下を好適に抑えることができる。
【0070】
前記した実施の形態では、自動変速機が無段変速機である場合を例に挙げて説明をしたが、本発明は、複数の摩擦締結要素の締結/開放の組み合わせにより、遊星歯車機構での動力伝達経路を切り替えて所望の変速段を実現する自動変速機に適用しても良い。
この場合、動力伝達系路上に位置する摩擦締結要素において、内径側に位置するクラッチハブに、上記した油路(油孔613、溝孔612)を設けることで、クラッチハブの外周にスプライン嵌合したドライブプレートの冷却のバラツキを抑えることができる。