(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周期的な保守作業の対象となる複数の機器のそれぞれについて、過去の実績データに基づいて作業間隔と故障率との対応関係をテーブル化した故障率分布データを格納するデータ記憶部と、
前記故障率分布データに基づいて、前記複数の機器を、ある作業間隔を境に急峻に故障率が変化する急変機器と、時間経過とともに故障率が穏やかに増加していく劣化機器と、時間経過に依存せず故障率がほぼ変化しない安定機器とに分類する機器識別部と、
前記機器識別部による分類結果に基づいて、それぞれの機器の適正作業間隔を算出する適正作業間隔算出部と
を備え、
前記機器識別部は、前記故障率分布データに基づいて、前記複数の機器を分類する際に、
作業間隔Wに対して、W≦aの範囲の故障率の分布と、a<Wの範囲の故障率の分布を比較し、所定の信頼係数で2つの分布範囲に優位な差異があると検定されるaが存在する場合には、前記急変機器として分類し、
前記複数の機器から前記急変機器に分類された機器を除いた残りの機器について、前記所定の信頼係数で故障率が増加傾向にあると検定された場合には、劣化機器として分類し、
前記複数の機器から前記急変機器に分類された機器および前記劣化機器に分類された機器を除いた残りの機器を、安定機器として分類し、
前記適正作業間隔算出部は、前記機器識別部による分類結果に基づいて、それぞれの機器の適正作業間隔を算出する際に、
前記急変機器については、前記aに対応する作業間隔を、適正作業間隔として特定し、
前記劣化機器については、前記データ記憶部にあらかじめ記憶された故障率の許容閾値を用いて、当該劣化機器に対応する前記故障率分布データにおいて、前記許容閾値を超えない作業間隔を、適正作業間隔として特定し、
前記安定機器については、任意の値として適正作業間隔を特定する
保守作業間隔適正化装置。
周期的な保守作業の対象となる複数の機器のそれぞれについて、過去の実績データに基づいて作業間隔と故障率との対応関係をテーブル化した故障率分布データを格納するデータ記憶部と、
前記故障率分布データに基づいて、前記複数の機器を、ある作業間隔を境に急峻に故障率が変化する急変機器と、時間経過とともに故障率が穏やかに増加していく劣化機器と、時間経過に依存せず故障率がほぼ変化しない安定機器とに分類する機器識別部と、
前記機器識別部による分類結果に基づいて、それぞれの機器の適正作業間隔を算出する適正作業間隔算出部と
を備えた保守作業間隔適正化装置に適用される保守作業間隔適正化方法であって、
前記機器識別部において、前記故障率分布データに基づいて、前記複数の機器を分類する際に、
作業間隔Wに対して、W≦aの範囲の故障率の分布と、a<Wの範囲の故障率の分布を比較し、所定の信頼係数で2つの分布範囲に優位な差異があると検定されるaが存在する場合には、前記急変機器として分類する第1分類ステップと、
前記複数の機器から前記急変機器に分類された機器を除いた残りの機器について、前記所定の信頼係数で故障率が増加傾向にあると検定された場合には、劣化機器として分類する第2分類ステップと、
前記複数の機器から前記急変機器に分類された機器および前記劣化機器に分類された機器を除いた残りの機器を、安定機器として分類する第3分類ステップと、
前記適正作業間隔算出部において、前記第1分類ステップ、前記第2分類ステップ、および前記第3分類ステップによる分類結果に基づいて、それぞれの機器の適正作業間隔を算出する際に、
前記急変機器については、前記aに対応する作業間隔を、適正作業間隔として特定する第1特定ステップと、
前記劣化機器については、前記データ記憶部にあらかじめ記憶された故障率の許容閾値を用いて、当該劣化機器に対応する前記故障率分布データにおいて、前記許容閾値を超えない作業間隔を、適正作業間隔として特定する第2特定ステップと、
前記安定機器については、任意の値として適正作業間隔を特定する第3特定ステップと
を有する保守作業間隔適正化方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の保守作業間隔適正化装置および保守作業間隔適正化方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本発明は、保守作業の対象となるそれぞれの機器を、過去の実績データに基づく定量的な分析により、「急変機器」、「劣化機器」、および「安定機器」のいずれかに分類し、分類結果に応じて保守のための適正作業間隔を定量的に特定することを技術的特徴とするものである。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る保守作業間隔適正化装置において、保守作業の対象となる機器を、故障率の経時変化に伴って分類する方法の説明図である。本発明では、故障発生率の分布として、統計的分布を前提とせずに評価する。
図1に示すように、本実施の形態1では、過去の実績を集計することで、作業間隔ごとの故障率分布データを作成し、それぞれの機器ごとの故障率分布データに基づいて、機器の分類を行っている。
【0013】
具体的には、本実施の形態1における保守作業間隔適正化装置は、ある作業間隔を境に、急峻に故障率が変化する機器を「急変機器」として分類する。また、時間経過とともに故障率が穏やかに変化(増加)していく機器を「劣化機器」として分類する。さらに、時間経過に依存せず、故障率がほぼ変化しない機器を「安定機器」として分類する。
【0014】
各機器は、それぞれの分類結果に基づいて、保守に関する適正作業間隔を、次のように決定することができる。まず、急変機器に対する適正作業間隔は、故障率が急変する作業間隔付近として、確定値として決定することができる。また、劣化機器に対する適正作業間隔は、回帰分析を行い、故障率の増加傾きに対して、故障率の許容閾値を超えない最長の作業間隔を求めることで、この最長作業間隔付近の調整値を含む値として決定することができる。さらに、安定機器に対する適正作業間隔は、どの値に設定しても影響が小さいことから、自由値として決定することができる。
【0015】
本発明は、このようにして、適正作業間隔を機器ごとに、確定値、調整値、自由値に分類し、保守計画の全体最適化に活用可能とすることを技術的特徴としている。
【0016】
次に、保守作業の対象となるそれぞれの機器を、「急変機器」、「劣化機器」、および「安定機器」に分類するために使用する「故障率分布データ」の収集方法について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1における、ある1つの機器に関する実績データをまとめた故障率分布データを示す図である。より具体的には、
図2(a)は、変数による一般的な表現を用いて、I
1〜I
nのn件の作業間隔に関する故障率分布データを示しており、
図2(b)は、実際の数値を当てはめた具体例を示している。
【0017】
図2における故障率分布データの各項目は、以下の内容を意味するものである。
(1)作業間隔 I
1、I
2、・・・、I
n
前回の保守作業からの経過時間を作業間隔として入力する。例えば、
0<I
1≦5、5<I
2≦10、・・・
といったように、ある幅を持った形で分類することができる。また、
図2(b)に示したように、代表値として、I
1=5、I
2=10、・・・といった表現を用いることもできる。
【0018】
(2)機器台数 N
1、N
2、・・・、N
n
対応する作業間隔の時間帯において、実際に保守作業を行った台数に相当する。
図2(b)の例では、作業間隔I
1のときには、N
1=150台の保守作業を実施し、作業間隔I
2のときには、N
2=124台の保守作業を実施した場合(以降、省略)を例示している。
【0019】
(3)機器故障件数 E
1、E
2、・・・、E
n
それぞれの作業間隔ごとに、機器台数に計上された台数のうち、対応する作業間隔の時間帯で故障が発生した件数を入力する。
図2(b)の例では、作業間隔I
1の時間帯において、150台のうち9台が故障していたことを示している。
【0020】
(4)故障率 R
1、R
2、・・・、R
n
それぞれの作業間隔における、機器故障件数÷機器台数を入力する。
図2(b)の例では、
R
1=9÷150=0.060
R
2=11÷124=0.0887・・・≒0.089
(以降、省略)
として求められる。
【0021】
このようにして、本実施の形態1では、作業間隔毎に分類した故障率に関する過去の実績データを、それぞれの機器に関して、故障率分布データとして収集しておき、データベース化しておくことが前提となる。
【0022】
図3は、本発明の実施の形態1における保守作業間隔適正化装置の構成図である。本実施の形態1における保守作業間隔適正化装置は、データ記憶部10、機器識別部20、および適正作業間隔算出部30を備えて構成されている。
【0023】
データ記憶部10は、過去の実績データに基づいて、先の
図2に示したような故障率分布データが、それぞれの機器ごとに格納されている。また、機器識別部20は、急変機器識別部21、劣化機器識別部22、および安定機器識別部23を備えており、故障率分布データに基づいて、各機器を「急変機器」、「劣化機器」、および「安定機器」のいずれかに分類する。
【0024】
また、適正作業間隔算出部30は、急変機器作業間隔算出部31、劣化機器作業間隔算出部32、および安定機器作業間隔算出部33を備えており、機器識別部20により分類されたそれぞれの機器について、適正作業間隔を求める。
【0025】
そこで、機器識別部20による分類処理、および適正作業間隔算出部30による適正作業間隔算出処理について、以下の詳細に説明する。
(ステップ1)急変機器識別部21および急変機器作業間隔算出部31による「急変機器」の分類判断手法
急変機器識別部21は、先の
図2に示した故障率分布データに基づいて、a=1、2、・・・、n−1なる各aについて、i≦aと、a<iの2つのグループに分類し、母平均の差の検定(Welchの検定)を行うことで、「急変機器」であるか否かの判断を行う。さらに、急変機器作業間隔算出部31は、急変機器と判断された機器の故障率分布データから、適正作業間隔の特定を行う。
【0026】
具体的には、急変機器識別部21は、a=1、2、・・・、n−1なる各aについて、台数合計b
1、b
2、平均値m
1、m
2、分散値s
12、s
22、統計量t、共分散値vのそれぞれを、下式に基づいて、算出する。
【0028】
そして、急変機器識別部21は、それぞれのaにおいて、vに最も近い整数v*に対して、
t<t
α(v
*) (ただし、1−αは、信頼係数0.95を示す)
であれば、i≦aと、a<iの2つのグループに分類した場合の2つの平均値m
1とm
2には、統計的に有意な差があると判定し、「急変機器」であると特定する。さらに、急変機器作業間隔算出部31は、aに対応する作業間隔を、この急変機器に対応した適正作業間隔として特定することができる。
【0029】
(ステップ2)劣化機器識別部22および劣化機器作業間隔算出部32による「劣化機器」の分類判断手法
ステップ1において、「急変機器」に属さないと判断された残りの機器について、劣化機器識別部22は、故障率R
1、・・・、R
nに対して傾向性の検定(Cox−Stuartの検定)を行うことで、「劣化機器」であるか否かの判断を行う。さらに、劣化機器作業間隔算出部32は、劣化機器と判断された機器の故障率分布データから、適正作業間隔とその調整値の特定を行う。
【0030】
具体的には、劣化機器識別部22は、n/2、(n+1)/2のうちの整数となる値をcとしたときに、下表1を作成する。
【0032】
ここで、上表1における1行目のR
1、R
2、・・・、R
n−cと、2行目のR
1+c、R
2+c、・・・、R
nは、先の
図2における故障率R
1〜R
nのいずれかに相当する値であり、故障率分布データから得られる値である。また、3行目のS
1、S
2、・・・、S
n−cは、下式により判定されるS
iの値に相当し、劣化機器識別部22によって算出される。
【0034】
次に、劣化機器識別部22は、S
iのうちで、+の個数をbp、−の個数をbmとする。そして、劣化機器識別部22は、下式により、P≦α(ただし、1−αは、信頼係数0.95を示す)を満たす場合には、故障率に関して、統計的に有意な上昇/下降傾向があると判定する。
【0036】
さらに、劣化機器識別部22は、故障率R
iを目的変数、作業間隔I
iを説明変数として回帰分析を行い、下式の形の回帰式を得て、かつ、d>0であれば、この機器の故障率は上昇傾向にあり、「劣化機器」であると判断する。
【0038】
そして、劣化機器作業間隔算出部32は、あらかじめデータ記憶部10に設定された故障率の許容閾値を超える直前の作業間隔I
iを、先の
図2に示した故障率分布データに基づいて求めることで、「劣化機器」に対する適正作業間隔を特定することができる。さらに、劣化機器作業間隔算出部32は、作業間隔I
iにおける故障率と許容閾値との差分に対応する作業間隔を調整値として考慮することができる。
【0039】
(ステップ3)安定機器識別部23および安定機器作業間隔算出部33による「安定機器」の分類判断手法
安定機器識別部23は、「急変機器」および「劣化機器」に属さない機器を「安定機器」として分類する。さらに、安定機器作業間隔算出部33は、先の
図2に示した故障率分布データに基づいて、故障率が安定していることを統計的に保証することができる、十分なデータ量が存在する作業間隔までを、適正作業間隔として特定する。
【0040】
具体的には、安定機器作業間隔算出部33は、i=1、・・・、nに対して、以下の値s
i2およびD
iを算出する。
【0042】
ただし、iとi+1の故障率との差を評価するために必要なサンプル数(機器台数)は、以下の条件式として与えられる(ただし、1−αは、信頼係数0.95を示し、1−βは、検出率0.95を示す)。
【0044】
そして、安定機器作業間隔算出部33は、上述した条件式について、i=1、・・・、Mが全て満たす最大のMに対応する作業間隔I
Mを求めることで、「安定機器」に対する適正作業間隔として特定する。
【0045】
なお、安定機器に対応する適正作業期間は、作業間隔I
Mとして定量的に特定できるが、これは、故障率が増加しないことが統計的に保証される最大の作業間隔を示す指標であり、これより長い作業間隔では、統計的に故障率が増加するか安定しているかの判断はできない。
【0046】
従って、すでに設定されている作業間隔がI
Mよりも短い場合には、I
Mまで延長しても故障率が増加しないことが統計的に担保されている。一方、すでにI
Mより長い作業間隔で運用している場合には、I
Mまで短縮することで故障率が安定もしくは低減することが統計的に担保されていないため、その作業間隔のままで運用してよい。
【0047】
以上のように、実施の形態1によれば、過去の実績データに基づいて、機器を「急変機器」、「劣化機器」、および「安定機器」に分類するとともに、それぞれの分類ごとに適正な作業間隔を定量的に算出している。
【0048】
具体的には、本実施の形態1における保守作業間隔適正化装置は、故障率分布データに基づいて、作業間隔Wに対して、W≦aの範囲の故障率の分布と、a<Wの範囲の故障率の分布を比較し、信頼係数95%で2つの分布範囲に優位な差異があると検定(母平均との差の検定)されるaが存在する場合を急変機器と判定する。
【0049】
また、急変機器でなく、信頼係数95%で増加傾向にあると検定(傾向性の検定(Cox−Stuartの検定など))される機器を劣化機器と判定する。さらに、急変機器、劣化機器以外の機器を、安定機器とする。
【0050】
そして、それぞれの機器ごとに、故障率分布データに基づいて適正な作業間隔を定量的に特定している。この結果、急変機器に対して、過去の実績から、故障率が少ない範囲で最大限の作業間隔の延伸が可能となり、品質を維持したままで、コスト削減を実現できる。
【0051】
また、故障率を考慮して保守作業員による調整が必要となる機器を、劣化機器のみに限定でき、計画立案の効率化を実現できる。さらに、現場作業の裁量を許容する機器(安定機器、および調整値を有する劣化機器)と、厳守すべき機器(急変機器)を、明確に分類することで、作業計画の実施に伴う変動要素を最小限とすることを実現できる。
【0052】
なお、上述した実施の形態においては、信頼係数を95%とした場合について例示したが、本願発明は、この数値に限定されるものではない。急変機器を分類するために適切な所定の信頼係数を使用することが可能である。