(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、石油化学プラントや天然ガスプラント等においては、産業用遠心圧縮機が用いられている。この種の遠心圧縮機では、インペラの回転により流体に運動エネルギーを与えると共に、径方向外側に流体を吹き出すことで遠心力による圧力上昇を得ている。
【0003】
従来、この種の遠心圧縮機では、周方向に渦巻状に形成されたスクロール流路をインペラの出口側に備え、インペラから吹き出された流体を、スクロール流路を介してケーシングの外部に排出する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。このスクロール流路は、例えば、断面積が周方向の出口に向かって徐々に拡大するように形成され、流体の周方向速度成分を利用してスクロール流路を流通させることで、流体の圧力損失の低減を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、この種の遠心圧縮機では、用途が細分化される傾向にあり、例えば、低ヘッドで排出流量の大きな遠心圧縮機が要望されている。インペラから吹き出された流体は、排出流量が大きくなると、周方向速度成分よりも径方向速度成分が大きくなる。このため、スクロール流路を設けた構成では、流量の大きなインペラになるほど、ディフーザ出口であるスクロール流路入口にて、増大した径方向速度成分によってスクロール流路の子午面断面内での渦巻き流れが大きくなる。従って、スクロール流路内のスムーズな流通が阻害され、スクロール流路の圧損係数が大きくなり、遠心圧縮機の効率が低下する問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、インペラから吹き出された流体の圧力損失を抑え、効率の向上を図った遠心圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の遠心圧縮機は、ケーシングに回転自在に支持される回転軸と、回転軸に設けられ、吸込口から吸い込んだ流体を回転軸の径方向に吹き出すインペラと、インペラから吹き出された流体を回転軸に向けて反転させる戻り流路と、回転軸の軸線上に位置し、戻り流路を通過した流体を軸線に沿った方向に吐出する吐出口とを備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、インペラから吹き出された流体を回転軸に向けて反転させる戻り流路と、回転軸の軸線上に位置し、戻り流路を通過した流体を軸線に沿った方向に吐出する吐出口とを備えたことにより、スクロール流路を用いることなく、インペラから吹き出された流体を吐出口に導くことができる。スクロール流路は、戻り流路よりも圧力損失係数が大きく、その差は流量係数が大きくなるほど、大きくなっていく。このため、大流量係数のインペラほど、スクロール流路から戻り流路へ変更することにより、より大きく遠心圧縮機の効率の向上を図ることができる。また、吐出口は、回転軸の軸線上に位置し、戻り流路を通過した流体を軸線に沿った方向に吐出するため、戻り流路を通過した流体が相互に干渉することなく吐出することができる。
【0009】
この構成において、回転軸を軸支する軸受を備え、インペラは軸受よりも吐出口に近い軸端側に設けられていても良い。この構成によれば、インペラは回転軸に、いわゆる片持ち(オーバハングともいう)状態で支持される。このため、インペラと吐出口との間にシール部材を設ける必要がなく、構造の簡素化を実現できる。
【0010】
また、吸込口は、回転軸の軸方向に直角な方向に向けて設けられているのが好ましい。この構成によれば、吸込口と回転軸の軸受等との干渉を抑えて配置できるため、ケーシングの軸方向への大型化を抑えることができる。
【0011】
また、戻り流路は、該戻り流路の出口側にリターンベーンを備えることが好ましい。リターンベーンは、スクロール流路に比べて圧力損失係数が相対的に小さいため、例えば、流量が増大した場合に、遠心圧縮機の効率の向上をより一層図ることができる。また、インペラを単一備え、単段の圧縮を行う構成としても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インペラから吹き出された流体を回転軸に向けて反転させる戻り流路と、回転軸の軸線上に位置し、戻り流路を通過した流体を軸線に沿った方向に吐出する吐出口とを備えたことにより、スクロール流路を用いることなく、インペラから吹き出された流体を吐出口に導くことができる。スクロール流路は、戻り流路よりも圧力損失係数が大きく、その差は流量係数が大きくなるほど、大きくなっていく。このため、大流量係数のインペラほど、スクロール流路から戻り流路へ変更することにより、より大きく遠心圧縮機の効率の向上を図ることができる。また、吐出口は、回転軸の軸線上に位置し、戻り流路を通過した流体を軸線に沿った方向に吐出するため、戻り流路を通過した流体が相互に干渉することなく吐出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
図1は、本実施形態にかかる遠心圧縮機の縦断面図である。この遠心圧縮機1は、例えば、化学プラントの所定の圧力容器内に低ヘッド(例えば、圧力比1.05程度)で大流量(例えば、約5.0m
3/s)のガスや空気等の流体を供給する圧縮機として用いられる。
【0016】
図1に示すように、遠心圧縮機1は、複数のパーツを組み合わせて構成されるケーシング2と、ケーシング2内に形成された空間3に軸受4,4を介して、その軸線L回りに回転可能に支持される回転軸5と、この回転軸5に固定されて該回転軸5と一体に回転するように設けられたクローズドタイプのインペラ6とを備える。本実施形態では、インペラ6は、軸受4,4よりも外側(
図1における上側)に位置する回転軸5の軸端部5Aに固定されている。このため、インペラ6は、回転軸5に、いわゆる片持ち(オーバハングともいう)状態で支持される。なお、インペラ6は、本実施形態のような翼部とシュラウド部が一体となったクローズドタイプに限らず、シュラウド部のないオープンタイプを用いても良い。
【0017】
遠心圧縮機1は、単一のインペラ6を備える単段の遠心圧縮機である。遠心圧縮機1は、不図示の駆動装置により回転軸5が駆動され、インペラ6が回転されることによって、ケーシング2に設けられている吸込口10を介して圧縮対象のガスあるいは空気等の流体が吸い込まれる。
【0018】
吸込口10は、回転軸5の軸線Lに垂直な垂線Mに沿った方向に開口している。吸込口10には、ケーシング2内に形成された吸込空間10Aを介して、吸入流路11が接続され、この吸入流路11は、回転軸5の軸線L方向(軸方向)に沿って曲がり、インペラ6の吸入口6Aに対向して開口している。また、遠心圧縮機1は、インペラ6の吹出口6B側に、回転軸5の軸線Lに対して放射状に設けられたベーンレスディフューザ12と戻り流路13とを備える。ベーンレスディフューザ12は、インペラ6により遠心力が与えられた流体の運動エネルギーを圧力エネルギーに変換して送出する流路を構成する。
【0019】
戻り流路13は、インペラ6及びベーンレスディフューザ12によって、径方向外側に吹き出された流体の向きを回転軸5に向けて、即ち、径方向内側に反転させる流路であり、ベーンレスディフューザ12に連なるリターンベンド14とリターン流路15とを備える。リターン流路15の出口15Bは、それぞれケーシング2に設けられた吐出空間16Aに接続されている。この吐出空間16Aは、回転軸5の軸線L上に位置し、該軸線Lに沿って流体を吐出するように吐出口16が開口している。
【0020】
リターン流路15は、該リターン流路15の入口15Aから出口15Bに向けて徐々に流路面積(断面積)が拡大して形成され、リターン流路15の内部には流体の流れを規制するリターンベーン15Cが設けられている。
【0021】
ベーンレスディフューザ12を通過して戻り流路13に流入する流体は、径方向速度成分と周方向速度成分とを有する。本実施形態のように、吐出流量が大きい構成では、周方向速度成分に比べて径方向速度成分が大きくなる傾向にあり、リターンベーン15Cは、戻り流路13(リターン流路15)に流入する流体のうち、周方向速度成分を抑制するように流体の流れを規制する。このため、リターン流路15の出口15Bでは、主に径方向速度成分を有する流体が流れることとなり、スクロール流路の出口のように渦巻き速度成分を捨てることがないため、この効果によっても、さらに戻り流路13での流体の圧力損失を抑えることができる。
【0022】
各リターン流路15を流れる流体は、それぞれ吐出空間16Aに流入し、この吐出空間16A内で混合される。吐出空間16Aの底部には、軸線L上に吐出口16に向けて突出する案内突部16Bが設けられている。この案内突部16Bは、吐出空間16A内に流入した流体の流れを軸線L方向に変えて案内する。吐出口16から吐出された流体は、不図示の吐出配管へ送出される。
【0023】
また、回転軸5が配置される空間3には、軸受4と吸入流路11との間に気密性を保持する軸シール18とバランスピストン19とが配置される。軸シール18により、上記した空間3と、インペラ6等を含み流体が流通する経路との連通が防止される。
【0024】
本実施形態では、遠心圧縮機1は、インペラ6から吹き出された流体を回転軸5の軸線Lに向けて反転させる戻り流路13を備える。上述のように、吐出流量を大きくした構成では、流体は周方向速度成分に比べて径方向速度成分が大きくなる傾向にあり、戻り流路13の出口側(リターン流路15)に設けたリターンベーン15Cは、リターン流路15に流入する流体のうち、周方向速度成分を抑制するように流体の流れを規制する。このため、リターン流路15の出口15Bでは、主に径方向速度成分を有する流体が流れることとなる。また、本実施形態では、遠心圧縮機1は、回転軸5の軸線L上に位置し、戻り流路13を通過した流体を軸線Lに沿った方向に吐出する吐出口16を備えるため、戻り流路13を通過した径方向速度成分を有する流体が相互に干渉することなく混合され、吐出口16からスムーズに吐出させることができる。
【0025】
また、本実施形態によれば、遠心圧縮機1は、回転軸5を軸支する軸受4,4を備え、インペラ6は、軸受4よりも吐出口16に近い軸端部5Aに設けられているため、該インペラ6は回転軸5に、いわゆる片持ち状態で支持される。このため、インペラ6と吐出口16との間にシール部材を設ける必要がなく、遠心圧縮機1の構造の簡素化を実現できる。
【0026】
また、本実施形態によれば、吸込口10は、回転軸5の軸線L方向に直角な垂線M方向に向けて設けられているため、ケーシング2に吸込口10を回転軸5の軸受4等との干渉を抑えて配置でき、ケーシング2の軸線L方向への大型化を抑えることができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、戻り流路13は、該戻り流路13の出口側に配置されるリターン流路15にリターンベーン15Cを備えたため、リターンベーン15Cは、戻り流路13(リターン流路15)に流入する流体のうち、周方向速度成分を抑制するように流体の流れを規制する。このため、リターン流路15の出口15Bでは、主に径方向速度成分を有する流体が流れることとなる。また、リターンベーン15Cは、スクロール流路を設けた場合に比べて、圧力損失係数が相対的に小さいため、流量が増大した場合に、遠心圧縮機1の効率の向上をより一層図ることができる。
【0028】
次に、本実施形態の遠心圧縮機1の作用、効果を説明する。
図2は、流量係数と圧力損失係数との関係をスクロール流路と戻り流路とで比較したグラフである。この
図2では、流量係数φの異なる3種類のインペラA〜Cを用いて、これらのインペラA〜Cを、スクロール流路を備える従来の遠心圧縮機と、戻り流路13を備える本実施形態の遠心圧縮機1とにそれぞれ設け、各遠心圧縮機を運転した場合の圧力損失係数ζを測定したものである。ここでは、インペラA、インペラB、インペラCの順に流量係数φが大きくなる。
【0029】
まず、インペラA〜Cの出口側にスクロール流路を設けた構成では、流量係数φの大きなインペラCほど、圧力損失係数ζが大きくなることが分かる(
図2の一点鎖線参照)。上述したように、インペラから吹き出される流体は、径方向速度成分と周方向速度成分とを有し、流量が大きくなることに伴い、径方向速度成分が大きくなる。
【0030】
一方、スクロール流路は周方向に渦巻き状に形成される流路であるため、周方向速度成分の流体は、スクロール流路をスムーズに流れるものの、径方向速度成分の流体が周方向への流れを阻害する。このため、
図2に示すように、流量(流量係数φ)の大きなインペラを用いた場合には、スクロール流路を流れる際の圧力損失が増え、遠心圧縮機の効率が低下する結果となる。
【0031】
これに対して、インペラA〜Cの出口側に戻り流路を設けた構成では、上述のように、戻り流路13には径方向速度成分の流体がスムーズに流れやすい。
図2の実線で示すように、流量係数φの大小に関わらず、圧力損失係数ζはほぼ同じである。更には、戻り流路13の出口側のリターン流路15にリターンベーン15Cを備え、このリターンベーン15Cが周方向速度成分の流れを規制することにより、戻り流路13からは主に径方向速度成分を有する流体が流れ出る。戻り流路13ではスクロール流路のような子午面断面内での渦巻き流れによる流通の阻害や、スクロール流路の出口で渦巻き速度成分を捨てることがないため、戻り流路13を流れる際の圧力損失を抑えることができ、遠心圧縮機1の効率の向上を図ることができる。
【0032】
次に、別の実施形態について説明する。上記した実施形態では、遠心圧縮機1は、回転軸5を駆動する駆動装置を別個に備えた構成としたが、駆動装置としての電動機と圧縮機とをケーシング内に一体に備えて密閉した構造としても良い。この構造によれば、例えば、電動機と圧縮機とをケーシング内に一体に備え、ケーシングを密閉する構造であるため、電動機とインペラ6との間にシール部材(
図1の軸シール18参照)を設ける必要がなく、遠心圧縮機の構成の簡素化を実現できる。
【0033】
また、上記した実施形態では、インペラ6を回転軸5の軸端部5Aに設けた、片持ち支持構造としたが、これに限るものではなく、インペラ6とケーシング2に設けられた吐出空間16Aとの間の軸端部5Aに、回転軸5を軸支する軸受を設ける構成としても良い。この場合、軸受として、例えば、磁気軸受を用いる構成とすれば、軸受に潤滑油を供給する潤滑油経路等を設ける必要がなく、装置構成を簡素化したまま軸振動を抑えることができる。なお、潤滑油経路を設けるスペースを確保できれば、潤滑油が供給される一般の軸受を用いることもできる。
【0034】
また、上記実施形態では、ケーシング2内に単一のインペラ6を備えた単段式の圧縮機について説明したが、これに限るものではない。例えば、ロータダイナミクスが許すのであれば、回転軸5に複数(2つや3つなど)のインペラ6を配置し、上流側のインペラ6の出口と、下流側のインペラ6の入口とを戻り流路13で連結する構成としても良い。この構成では、多段の遠心圧縮機1においても、大流量時の効率の向上を実現できる。