【文献】
宮崎正三,イオン応答性インテリジェント多糖の胃内ゲル化機能を付与した食品添加物の開発,日本食品化学研究振興財団 第10回 研究成果報告書,2004年12月 1日,p.104-108
【文献】
野田咲絵, 外6名,カルシウム存在下におけるアルギン酸ナトリウムのゲル化に及ぼすマンヌロン酸/グルロン酸比の影響,第55回レオロジー討論会講演要旨集,2007年,p.198-199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
後記の人工胃液への投入後の粘度の測定方法に従って測定した、人工胃液への投入後の粘度が、1500mPa・s以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の濃厚流動食。
<人工胃液への投入後の粘度の測定方法>
上方に開放部を有する100ml容のプラスチックボトルに試料80mlを入れる。
当該プラスチックボトルの底部に内径4mm、長さ1000mmのシリコーン製フレキシブルチューブと調速器を接続する。
調速器によって流出速度を300ml/時間に調整して、試料の全量を、チューブを通じて、恒温水槽で37℃に保温した20mlの人工胃液(0.7%塩酸及び0.2%食塩の水溶液、pH1.2)が入った100ml容のビーカーへ直接滴下する。
この混合物の1.0s−1における粘度を、フルイドレオメーターを用いて次の粘度測定条件で測定する。
<粘度測定条件>
ジオメトリー:直径50mmのコーンプレート型プランジャー、ギャップ=0.051mm
測定温度:20℃
歪速度:1.0s−1
アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩の全体量に対する、グルロン酸/マンヌロン酸比(G/M比)が1.5以下であるアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩の量の割合が、40〜95質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の濃厚流動食。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の濃厚流動食は、
0.1〜1.0質量%のアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩、
カルシウム及び
カルシウム1質量部に対し0.1〜3.5質量部のキレート剤
を含有する。
【0011】
本発明において「濃厚流動食」とは、濃厚流動食(食品)のみならず、栄養剤(医薬品)を包含する。
【0012】
1.アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩
本発明で用いられる「アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩」は、食品添加物の増粘剤として汎用されている物質である。アルギン酸はウロン酸から構成される直鎖状の酸性多糖類であり、α−L−グルロン酸(G)とβ−D−マンヌロン酸(M)とからなる共重合体である。本明細書中、α−L−グルロン酸(G)のβ−D−マンヌロン酸(M)に対するモル比をG/M比と称する場合がある。
【0013】
アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩は商業的に入手可能である。アルギン酸ナトリウムの例としては、サンサポートP−70、P−71、P−72、P−81、及びP−82(商品名、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)が挙げられる。また、アルギン酸の例としては、サンサポートP−90(商品名、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)が挙げられる。
【0014】
本発明においては、アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩として、様々なG/M比のアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩を用いることができる。
【0015】
本発明で用いられるアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0016】
例えば、本発明で用いられるアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩は、G/M比が異なる2種以上のアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩の組み合わせであることができる。
本発明で用いられるアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩の全体量に対する、G/M比が0.5〜1.5であるアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩の量の割合は、好ましくは40〜95質量%、より好ましくは50〜90質量%、更に好ましくは60〜80質量%である。
当該割合がこのような値である場合、本発明の濃厚流動食は、投与時(すなわち、胃液に接触するまで)の粘度が低く、かつ胃内(すなわち、胃液に接触した後)での粘度が高い傾向がある。
本明細書中、このように、用語「投与時」は、胃液に接触するまで、を意味し得る。
本明細書中、このように、用語「胃内」は、胃液に接触した後、を意味し得る。
【0017】
また、例えば、本発明で用いられるアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩は、重量平均分子量が異なる2種以上のアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩の組み合わせであることができる。
アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩の全体量に対する、重量平均分子量2.0×10
5g/mol以下のアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩の量の割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは30〜95質量%、更に好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜85質量%である。
当該割合がこのような値である場合、本発明の濃厚流動食は、投与時の粘度が低く、かつ胃内での粘度が高い傾向がある。
【0018】
本発明において、アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩は、好ましくは、アルギン酸及びそのナトリウム塩の混合物である。
【0019】
本発明の濃厚流動食におけるアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩の含有率は、好ましくは0.1〜1.0質量%、より好ましくは0.15〜0.8質量%、更に好ましくは0.2〜0.5質量%である。
なお、本発明において、アルギン酸ナトリウムの含有率は、厳密にはアルギン酸としての含有率によって表わされる。但し、実際には、アルギン酸ナトリウムの含有率を、この含有率の近似値として使用できる。
当該含有率が低すぎると、胃内での濃厚流動食の高粘度化又はゲル化が不十分である場合があり、一方、当該含有率が高すぎると、濃厚流動食の投与時の粘度が高くなりすぎる場合がある。
【0020】
2.カルシウム
本発明で用いられる「カルシウム」の形態は、特に限定されず、例えば、塩又はイオンであることができる。
本発明の濃厚流動食は、実際には、カルシウムの供給源を含有する。
カルシウムの供給源として、具体的には、例えば、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、焼成(うに殻、貝殻、骨、造礁サンゴ、乳性、卵殻)カルシウム、未焼成(貝殻、骨、サンゴ、真珠層、卵殻)カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三水素カルシウム、エチレンジアミン四酢酸カルシウム及びそれらの水和物から選択される1種以上、好ましくは、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム及びリン酸一水素カルシウムから選択される1種以上を用いることができる。
【0021】
カルシウムの供給源は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
また、カルシウムは、後記で説明する栄養成分に含有されるものであってもよい。
本発明の濃厚流動食における、カルシウムの含有率は「日本人の食事摂取基準[2010年度版]」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量を目安に適宜設定することが可能である。
但し、当該含有率が低すぎると胃内での濃厚流動食の高粘度化又はゲル化が不十分になる場合があり、一方、当該含有率が高すぎると、濃厚流動食の投与時の粘度が高くなりすぎる場合がある。
【0022】
本発明の濃厚流動食における、カルシウムの含有率は、好ましくは0.01〜0.25質量%、より好ましくは0.02〜0.20質量%、更に好ましくは0.05〜0.15質量%である。
【0023】
本発明の濃厚流動食は、カルシウムを、好ましくはアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩1質量部に対して、0.05〜1.0質量部、より好ましくは0.08〜0.8質量部、更に好ましくは0.1〜0.5質量部含有する。
この比が小さすぎると胃内での濃厚流動食の高粘度化又はゲル化が不十分になる場合があり、一方、この比が大きすぎると、濃厚流動食の投与時の粘度が高くなりすぎる場合がある。
【0024】
3.キレート剤
本発明では「キレート剤」として、例えば、リン酸塩、縮合リン酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、グルタミン酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、グルコン酸塩、クエン酸、クエン酸塩、フィチン酸及びフィチン酸塩からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
より具体的には、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸三マグネシウム、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素カルシウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸カルシウム、グルタミン酸マグネシウム、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウム、グルコン酸鉄、グルコン酸銅、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸鉄及びクエン酸鉄ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。なかでも、好ましくは、例えば、クエン酸塩であり、より好ましくは、例えば、クエン酸三ナトリウム、及びクエン酸三カリウムからなる群より選ばれる1種以上である。
【0025】
本発明の濃厚流動食は、キレート剤を、好ましくは0.005〜0.15質量%、より好ましくは0.01〜0.1質量%、更に好ましくは0.02〜0.08質量%含有する。
当該含有率が低すぎると、濃厚流動食の投与時の粘度が高くなりすぎる場合があり、一方、当該含有率が高すぎると、濃厚流動食の高粘度化又はゲル化が不十分になる場合や、濃厚流動食中の成分(例、タンパク質、脂質)が不安定になり、凝集又は沈殿などが生じる場合がある。
【0026】
本発明の濃厚流動食は、キレート剤を、添加した塩化カルシウム(無水)に含まれるカルシウム1質量部に対して、0.1〜3.5質量部、好ましくは0.2〜3.0質量部、より好ましくは0.35〜1.5質量部含有する。
当該比が小さすぎると、濃厚流動食の投与時の粘度が高くなりすぎる場合があり、一方、当該比が大きすぎると、胃内での濃厚流動食の高粘度化又はゲル化が不十分になる場合がある。
【0027】
本発明の濃厚流動食は、キレート剤を、好ましくはアルギン酸及び/又はその塩1質量部に対して、0.04〜0.6質量部、より好ましくは0.05〜0.5質量部、更に好ましくは0.06〜0.4質量部含有する。
当該含有率が低すぎると、濃厚流動食の投与時の粘度が高くなりすぎる場合があり、一方、当該含有率が高すぎると、胃内での濃厚流動食の高粘度化又はゲル化が不十分になる場合がある。
【0028】
4.栄養成分
本発明の濃厚流動食は、好ましくは、カロリー値が1kcal/mL以上であって、かつタンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル、及びビタミンなどからなる群より選択される1種以上の栄養成分を含む。
【0029】
タンパク質は、従来から食品に汎用されているものであることができる。具体的には、例えば、脱脂粉乳、脱脂豆乳粉末、カゼイン、ホエイタンパク質、全乳タンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質、及びこれらタンパク質の分解物等が挙げられる。ホエイタンパク質、及び全乳タンパク質等の乳タンパク質はしばしばカルシウムと塩を形成している。このようなカルシウムは、本発明の濃厚流動食の必須成分としてのカルシウムを兼ねることができる。
本発明のタンパク質の含有率として、好ましくは0.5〜20.0質量%、より好ましくは1.0〜15.0質量%である。
【0030】
脂質は、一般に食用として利用されている脂質であることができる。具体的には、例えば、大豆油、綿実油、サフラワー油、コーン油、米油、ヤシ油、シソ油、ゴマ油、アマニ油、パーム油、及びナタネ油等の植物油;イワシ油、及びタラ肝油等の魚油;並びに必須脂肪酸源としての長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)、及び中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等が挙げられる。なかでも、好ましくは、例えば、通常炭素数が8〜10である中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)である。中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を用いることにより、脂質の吸収性が高まる。
本発明の栄養成分中の脂質の含有率として、好ましくは0.5〜20.0質量%、より好ましくは1.0〜15.0質量%である。
【0031】
炭水化物は、一般に食用として利用されている糖質であることができる。具体的には、例えば、グルコース、及びフルクトース等の単糖類、並びにマルトース、及び蔗糖等の二糖類等の通常の各種の糖類;キシリトール、ソルビトール、グリセリン、及びエリスリトール等の糖アルコール類;デキストリン、及びシクロデキストリン等の多糖類;並びにフラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクトスクロース等のオリゴ糖類等が挙げられる。なかでも、味覚に与える影響の低さの観点からは、例えば、デキストリンが好ましい。
本発明の濃厚流動食中の炭水化物の含有率として、好ましくは0.5〜30.0質量%、より好ましくは1.0〜20.0質量%である。
【0032】
カルシウム以外のミネラルとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛等が挙げられる。ミネラルは食品添加物として取り扱われる塩の形態であることができる。
本発明の濃厚流動食中のミネラルの量は「日本人の食事摂取基準[2010年度版]」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量を目安に、適宜設定することが可能である。以下に、このようにして設定される通常の含有率を記載する。ナトリウムの含有率は6,000〜20,000mg/Lであることができる。カリウムの含有率は2,000〜3,500mg/Lであることができる。マグネシウムの含有率は260〜650mg/Lであることができる。鉄の含有率は10〜40mg/Lであることができる。銅の含有率は1.6〜9mg/Lであることができる。亜鉛の含有率は7〜30mg/Lであることができる。
ビタミンとしては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、及び葉酸等が挙げられる。
本発明の濃厚流動食中のビタミンの量は「日本人の食事摂取基準[2010年度版]」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量を目安に、適宜設定することが可能である。以下に、このようにして設定される通常の含有率を記載する。ビタミンAの量は0.54〜1.5mg/Lであることができる。ビタミンB1の含有率は0.8〜1.0mg/Lであることができる。ビタミンB2の含有率は1〜100mg/Lであることができる。ビタミンB6の含有率は1.0〜1,000mg/Lであることができる。ビタミンB12の含有率は2.4〜100mg/Lであることができる。ビタミンCの含有率は100〜1,000mg/Lであることができる。ビタミンDの含有率は0.0025〜0.05mg/Lであることができる。ビタミンEの含有率は8〜600mg/Lであることができる。ビタミンKの含有率は0.055〜30mg/Lであることができる。ナイアシンの量は13〜30mg/Lであることができる。ビオチンの含有率は0.030〜0.1mg/Lであることができる。パントテン酸の含有率は5〜100mg/Lであることができる。葉酸の含有率は0.2〜1.0mg/Lである。
【0033】
また、本発明の濃厚流動食は、アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩以外の多糖類を含有してもよい。このような多糖類としては、投与時(胃液に接触するまで)の粘度を低くする観点から好ましくは、例えば、大豆多糖類、イオタカラギーナンなどが挙げられる。また、胃内(胃液に接触した後)での粘度を高くする観点から好ましくは、例えば脱アシルジェランガム、ローメトキシルペクチン、カッパカラギーナンなどが挙げられる。当該ローメトキシルペクチンのメチルエステル化度(<ME>と略記する場合がある)は、50%以下であり、好ましくは0%以上40%未満、更に好ましくは5%以上15%未満である。また、当該ローメトキシルペクチンの分子量は、好ましくは250,000g/mol以下、更に好ましくは80,000g/mol以下である。
本発明の濃厚流動食がアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩以外の多糖類を含有する場合、かかる多糖類の含有比は、アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩1質量部に対して、0.1〜50.0質量部、好ましくは0.2〜25.0質量部、更に好ましくは0.25〜20.0質量部である。
【0034】
また、本発明の濃厚流動食は、本発明の効果が奏される限りにおいて、更に、濃厚流動食が通常含有する添加剤等を含有できる。
【0035】
5.経管流動性
本発明の濃厚流動食は、液状であり、後記の経管流動性測定方法で測定した経管流動性が、好ましくは400〜5000ml/時間、より好ましくは600〜4000ml/時間である。
<経管流動性測定方法>
上方に開放部を有する100ml容のプラスチックボトルに試料80mlを入れる。
前記プラスチックボトルの底部に内径4mm、長さ1000mmのシリコーン製フレキシブルチューブを接続する。
前記プラスチックボトルの底面がチューブの先端より600mm上方になるように設置して、試料が重力のみによってチューブを通じて外部へ流出するようにする。
10分間に外部へ流れ出た試料の流量A(ml)をメスシリンダーで計測し、A×6(ml/時間)を濃厚流動食の経管流動性(経管流速)とする。
当該経管流動性測定に用いられるプラスチックボトル、及びシリコーン製フレキシブルチューブは、通常、経口経管栄養法に用いられるプラスチックボトル、及びシリコーン製フレキシブルチューブである。
【0036】
上記の好適な条件を満たす本発明の濃厚流動食は、経管投与が容易である。
【0037】
6.人工胃液への投入前の粘度
本発明の濃厚流動食人工胃液への投入前の粘度は、フルイドレオメーター(Fluid Rheometer) ARES LS−1(商品名)(TAインスツルメント社製)又はこれと同様の測定結果が得られるフルイドレオメーターを用いて、後記の測定条件で測定できる。この人工胃液への投入前の粘度は、すなわち投与時の粘度と同様である考えることができる。この人工胃液への投入前の粘度は、好ましくは0.1〜200mPa・s、より好ましくは1〜100mPa・s以下である。
<粘度の測定条件>
フルイドレオメーター: ARES LS−1(商品名)(TAインスツルメント社製)又はこれと同様の測定結果が得られるフルイドレオメーター
ジオメトリー:直径50mmのコーンプレート型プランジャー、ギャップ=0.051mm
測定温度:20℃
歪速度:1.0s
−1
【0038】
上記の好適な条件を満たす本発明の濃厚流動食は、経管投与が容易である。
【0039】
7.人工胃液への投入後の粘度
本発明の濃厚流動食の胃内での様態は当該濃厚流動食を人工胃液に投入することによって推察される。本発明の濃厚流動食は、人工胃液への投入後においてゲルであってもよく、高粘度化した溶液、分散液もしくはペースト状であってもよい。人工胃液への投入後の本発明の濃厚流動食は、後記の人工胃液への投入後の粘度の測定方法に従って、その粘度を測定でき、当該測定方法により測定した粘度は、好ましくは1,500〜20,000mPa・s、より好ましくは2,000〜10,000mPa・sである。
<人工胃液への投入後の粘度の測定方法>
上方に開放部を有する100ml容のプラスチックボトルに試料80mlを入れる。
当該プラスチックボトルの底部に内径4mm、長さ1000mmのシリコーン製フレキシブルチューブと調速器を接続する。
調速器によって流出速度を300ml/時間に調整して、試料の全量を、チューブを通じて、恒温水槽で37℃に保温した20mlの人工胃液(0.7%塩酸及び0.2%食塩の水溶液、pH1.2)が入った100ml容のビーカーへ直接滴下する。
この混合物の1.0s
−1における粘度を、フルイドレオメーターを用いて次の粘度測定条件で測定する。
なお、当該測定方法における「滴下」とはチューブ先端と人工胃液が接触しない状態で濃厚流動食がチューブ先端より空中を経由して人工胃液に投入されることを意味する。
当該粘度測定方法に用いられるプラスチックボトル、及びシリコーン製フレキシブルチューブは、通常、経口経管栄養法に用いられるプラスチックボトル、及びシリコーン製フレキシブルチューブである。
<粘度測定条件>
前記「6.粘度(人工胃液への投入前の粘度)」における粘度の測定条件と同じ条件
【0040】
これにより、本発明の濃厚流動食は、胃内において十分に高粘度化又はゲル化していることが推察される。すなわち、上記の好適な条件を満たす本発明の濃厚流動食は、胃食道逆流を生じにくいと考えられる。
【0041】
8.pH
本発明における濃厚流動食のpHは、通常4.0〜9.0、好ましくは4.5〜8.5、より好ましくは5.0〜8.0である。
pHが低すぎると、濃厚流動食の投与時の粘度が高くなりすぎる場合があり、一方、pHが高すぎると、濃厚流動食の味質が悪くなる場合がある。
pHの調整は、必要に応じて、例えば、有機酸及び/又はその塩、無機酸及び/又はその塩等のpH調整剤を用いて行うことができる。pH調整剤としては、例えば、フィチン酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸、アジピン酸、酒石酸、及びリンゴ酸等の有機酸又はその塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、並びに水酸化ナトリウム等を挙げることができる。キレート剤として作用し得るクエン酸塩等は、本発明の濃厚流動食の必須成分としてのキレート剤を兼ねることができる。
【0042】
9.製法方法
本発明の濃厚流動食は、アルギン酸及び/又はそのナトリウム塩とカルシウムとが、キレート剤非存在下で接触しない限り、任意の方法で各成分を混合することにより、製造できる。
具体的には、例えば、栄養成分(カルシウムを含有してもよい)、カルシウム源、及びキレート剤の水溶液又は水分散液を調製し、これにアルギン酸及び/又はそのナトリウム塩を添加及び混合して、本発明の濃厚流動食を得ることができる。
得られた本発明の濃厚流動食は、所望により、例えば、容器充填後の105〜121℃、5〜60分間等の条件のレトルト殺菌処理により殺菌される。
【0043】
10.使用方法
本発明の濃厚流動食は、従来の液状の流動食と同様に、経鼻又は経口経管栄養法、或いは経胃瘻又は経腸瘻経管栄養法により、投与できる。
特に、本発明の濃厚流動食は、投与時(胃液に接触するまで)は、低粘度であり、かつ高い経管流動性を有するので、細いチューブにおいても、100Pa以下の弱い加圧による投与、又は加圧無しでの投与、すなわち重力のみによる投与(自然滴下による投与)が可能である。従って、摂取者の負担の少ない経鼻又は経口経管栄養法、或いは経胃瘻又は経腸瘻経管栄養法によって、簡便に投与できる。ここで、胃瘻及び腸瘻は、例えば、それぞれ経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)及び経皮内視鏡的腸瘻造設術(PEJ)で造設されたものであることができる。
これに加えて、本発明の濃厚流動食は、胃内(胃液に接触した後)においては、高粘度化又はゲル化するので、胃食道逆流を生じにくく、摂取者の座位を長時間保つ必要が無い。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
以下、上付きの「TM」は商品名を示す。
【0046】
本発明の実施例では、アルギン酸ナトリウムとして、サンサポート
TM P−70、P−71、P−72、P−81、及びP−82(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を用いた。また、アルギン酸として、サンサポート
TM P−90(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を用いた。
後記の方法で測定した、これらのアルギン酸及びアルギン酸ナトリウムのG/M比及び重量平均分子量<M
w>(g/mol)を表1に示す。
以後、G/M比が1.5以下であるアルギン酸ナトリウムをグルロン酸低含有率アルギン酸ナトリウム(低GAと略記する場合がある)と称し、一方、G/M比が1.5以上であるアルギン酸ナトリウムをグルロン酸高含有率アルギン酸ナトリウム(高GAと略記する場合がある)と称する。
また、重量平均分子量が2.0×10
5g/mol未満であるアルギン酸ナトリウムを低分子量アルギン酸ナトリウム(低MwAと略記する場合がある)と称し、一方、重量平均分子量が2.0×10
5g/mol以上であるアルギン酸ナトリウムを高分子量アルギン酸ナトリウム(高MwAと略記する場合がある)と称する。
【0047】
(1)G/M比の測定方法
アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸のG/M比は、
1H−NMRで測定した際に観測されるグルロン酸の1位炭素に結合したプロトンに由来する5.00〜5.15ppmのピーク面積をマンヌロン酸の1位の炭素に結合したプロトンに由来する4.60〜4.75ppmのピーク面積で除した値とした。
試料の調製方法と
1H−NMR測定方法を以下に記載する。
アルギン酸ナトリウム及びアルギン酸試料を重水に溶解した後に凍結乾燥をした。この操作を3回繰り返し、交換可能なプロトンを除いた後、更に24時間減圧乾燥した。減圧乾燥された試料を約2質量%になるように重水に溶解し、内部標準としてトリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム(TSP)を添加した。
1H−NMRの測定にはNMR測定装置ECA600(日本電子社)を用い、以下条件で測定した。
【0048】
<
1H−NMRの測定条件>
フィールド磁場強度:14.096T
周波数:600MHz
パルス角度:45°
パルス時間:6.75マイクロ秒
リラクゼーション時間:5秒
積算回数:128回
測定温度:70℃
【0049】
(2)重量平均分子量(<M
w>)の測定方法
アルギン酸ナトリウムの重量平均分子量(<M
w>)は、アルギン酸ナトリウム希薄溶液をサイズ分離クロマトグラフィーで分離し、多角度光散乱検出器と屈折率検出器を用いて、以下の方法で測定した。
【0050】
<重量平均分子量(<M
w>)の測定方法>
乾燥重量1.5gのアルギン酸ナトリウムを100gのイオン交換水に添加し、ポリトロン式攪拌機を使用して、回転速度26,000rpmで1分間攪拌することによって分散させて、1.5重量%のアルギン酸ナトリウム分散液を調製した。この分散液を0.5MのNaNO
3水溶液で30倍希釈し、ポリトロン式攪拌機を使用して、回転速度26,000rpmで1分間攪拌することによって0.05質量%のアルギン酸ナトリウム分散液を調製した。当該分散液を、孔径0.45μmのPTFEメンブランフィルターを用いてろ過することによって不溶物を除去した後、以下の条件でゲルろ過クロマトグラフィーに供し、多角度光散乱検出器及び屈折率検出器の測定値からASTRA Version 4.9(ワイアットテクノロジー社)ソフトウェアを用いて重量平均分子量:<M
w>(g/mol)を算出した。
[ゲル濾過クロマトグラフィーの測定条件]
カラム: OHpak SB−806M HQ (昭和電工社)
カラム温度:25℃
流速:0.5 ml/min
溶出溶媒:0.5 M NaNO
3
試料液注入量:100μl。
【0051】
【表1】
分析の結果、サンサポート
TM P−70、P−71、P−72を、グルロン酸低含有率アルギン酸ナトリウム(低GA)に分類し、一方、サンサポート
TM P−81、及びP−82を、グルロン酸高含有率アルギン酸ナトリウム(高GA)に分類した。
また、サンサポート
TM P−70、及びサンサポート
TM P−81を、低分子量アルギン酸ナトリウム(低MwA)に分類し、一方、サンサポート
TM P−71、P−72、及びP−82を、高分子量アルギン酸ナトリウム(高MwA)に分類した。
【0052】
実験例1
アルギン酸ナトリウム又はその他の多糖類を用いて、後記(1−1)に記載するように調製した濃厚流動食を、後記(1−2)に記載の方法で、人工胃液への投入前後の濃厚流動食の粘度及び人工胃液への投入前の経管流動性について試験した。
(1−1)濃厚流動食の調製
まず、表2に記載の組成の基本濃厚流動食を調製した。基本濃厚流動食のpHは6.8であった。
次に、この基本濃厚流動食80gにクエン酸三ナトリウムを表3に記載の含有量になるように添加し、プロペラ攪拌機を用いて500rpmで1分間撹拌して溶解した。更にアルギン酸ナトリウムであるサンサポート
TM P−70及びサンサポート
TM P−81、キサンタンガムであるサンエース
TM 、グアーガムであるビストップ
TM D−2029(いずれも三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を表3に記載の分量で含有する水溶液20gを添加し、プロペラ攪拌機を用いて500rpmで10分間撹拌して均一に混合し、それぞれ100gの、実施例1〜5及び比較例1〜5の濃厚流動食を調製した。
【0053】
【表2】
1)DE値 16.0〜19.0(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)
2)乳化剤製剤(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)
グリセリン脂肪酸エステル 30質量%
ショ糖脂肪酸エステル 20質量%
グルコース 50質量%
【0054】
【表3】
【0055】
(1−2)測定方法
(1−2−1)人工胃液への投入前の粘度
フルイドレオメーター(Fluid Rheometer) ARES LS−1(商品名)(TAインスツルメント社製)を用いて、前記(1−1)で調製した濃厚流動食の1.0s
−1における粘度を次の測定条件で測定した。
<粘度の測定条件>
ジオメトリー:直径50mmのコーンプレート型プランジャー、
ギャップ=0.051mm
測定温度:20℃
歪速度:1.0s
−1【0056】
(1−2−2)人工胃液への投入後の粘度
上方に開放部を有する100ml容のプラスチックボトルに濃厚流動食80mlを入れ、当該プラスチックボトルの底部に内径4mm、長さ1000mmのシリコーン製フレキシブルチューブと調速器を接続し、濃厚流動食がチューブを通じて、全量を恒温水槽で37℃に保温した20mlの人工胃液(0.7%塩酸及び0.2%食塩の水溶液、pH1.2)が入った100ml容のビーカーに直接滴下した(このときチューブの先端は、人工胃液の液面より50mm以上上方になるように設置されており、チューブ先端と人工胃液は接触していない)。このとき調速器によって流出速度を300ml/時間に調節した。
この濃厚流動食の1.0s
−1における粘度(以降、「粘度」は特に断りのない限り1.0s
−1における粘度を示す)をフルイドレオメーターARES LS−1(TAインスツルメント社製)を用いて(1−2−1)で示した条件で測定した。
【0057】
(1−2−3)経管流動性
上方に開放部を有する100ml容のプラスチックボトルに、前記(1−1)で調製した濃厚流動食80mlを入れ、当該プラスチックボトルの底部に内径4mm、長さ1000mmのシリコーン製フレキシブルチューブを接続した。当該プラスチックボトルの底面がチューブの先端より600mm上方になるように設置し、濃厚流動食がチューブを通じて外部へ流出するようにした。このとき濃厚流動食は、重力のみによってチューブを通じて外部へ流出することになる。10分間に外部へ流れ出た試料の流量A(ml)をメスシリンダーで計測し、A×6(ml/時間)を濃厚流動食の経管流動性とした。
【0058】
(1−3)結果
各濃厚流動食の、人工胃液への投入前後の粘度、投入後の粘度/投入前の粘度の比(粘度の増加率)、及び経管流動性を表4に示す。
【0059】
【表4】
*速度計測不能
【0060】
実施例1〜5の各濃厚流動食は、人工胃液への投入する前は、粘度がいずれも200mPa・s以下であり、かつ400ml/時間以上の経管流動性を示した。
また、人工胃液への投入後の粘度は、いずれも1500mP・s以上であった。
この結果は、本発明の濃厚流動食は胃への投与時には低粘度であり、内径4mmのチューブを通した場合においても重力のみで流動(流出)させることが可能であること、濃厚流動食の1回標準投与量である200〜400mlを30〜60分間以内に投与できることを示している。
なお、投与速度が高すぎても下痢や嘔吐し易くなるなどの問題があるが、投与速度は、調速器の使用などによって、容易に低下させることができる。
これらの結果から、本発明の濃厚流動食は、胃への投与時の介護者や被介護者の負担を減じることが示唆され、かつ胃内では十分に高粘度になって胃食道逆流を防ぐことができると考えられる。
一方、キレート剤であるクエン酸三ナトリウムを含有しない比較例1の濃厚流動食は、粘度が高すぎ、重力のみでは内径4mmのチューブ内で流動することができなかった。
また、0.2%のクエン酸三ナトリウムを含有する比較例2の濃厚流動食は、人工胃液への投入前に凝集物の沈殿が見られ、経管流動性も低かった。
アルギン酸ナトリウムもその他の多糖類も添加しない比較例3では、人工胃液への投入後の粘度が、胃食道逆流の防止にとって十分に高くならなかった。
アルギン酸ナトリウムの代わりにキサンタンガム又はグアーガムを添加した比較例4及び5では、人工胃液への投入後の粘度が投入前の粘度よりも低かった。比較例4では、人工胃液への投入前の粘度が高すぎ、十分な経管流動性を示さなかった。また、比較例5では、人工胃液への投入後の粘度が不十分だった。
【0061】
実験例2
G/M比及び平均分子量が異なる種々のアルギン酸ナトリウムを用いて、後記(2−1)に記載するように調製した濃厚流動食を、後記(2−2)に記載の方法で、人工胃液への投入前後の濃厚流動食の粘度及び人工胃液への投入前の経管流動性について試験した。
【0062】
(2−1)濃厚流動食の調製
表2に記載の組成である基本濃厚流動食80gに0.05gのクエン酸三ナトリウムを直接添加し、プロペラ攪拌機を用いて500rpmで1分間撹拌して溶解した。更にアルギン酸ナトリウムであるサンサポート
TM P−70、P−71、P−72、P−81、P−82(いずれも三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を表5に記載の分量で含有する水溶液20gを別途調製して添加混合し、プロペラ攪拌機を用いて500rpmで10分間撹拌して均一に混合し、実施例6〜14の各濃厚流動食を調製した。これら濃厚流動食のクエン酸三ナトリウム/カルシウム(質量比)は、実施例1の濃厚流動食と同じである。なお、表5には、実施例1の濃厚流動食の組成も併記している。
【0063】
【表5】
【0064】
(2−2)測定方法
調製した濃厚流動食の、人工胃液への投入前後の濃厚流動食の粘度及び人工胃液への投入前の経管流動性を、前記(1−2)と同様の方法で測定した。
【0065】
(2−3)結果
各濃厚流動食の、人工胃液への投入前後の粘度及び両者の比(粘度の増加率)、及び経管流動性を表6に示す。なお、表6には、比較のため、実験例1における実施例1の濃厚流動食の試験結果も併記している。
【0066】
【表6】
【0067】
実施例1及び実施例6〜14において、人工胃液への投入前の粘度は200mPa・s以下であり、人工胃液への投入後の粘度は1500mPa・s以上となり、人工胃液への投入前後の粘度倍率は10倍以上となった。
また、全ての実施例において経管流動性も400ml/時間以上であり、本発明の濃厚流動食は介護者が被介護者に容易に摂取させることが可能であると考えられる。
中でもG/M比が1.5以下のアルギン酸ナトリウムの含有比である、低GA含有率が50質量%〜83.3質量%の実施例1、実施例6〜10及び実施例14においては、人工胃液への投入後の粘度は2000mPa・s以上に上昇し、人工胃液への投入前後の粘度の増加率が20倍以上という高い値を示した。このことから低GAと高GAをバランスよく配合すると粘度の増加率が向上することが明らかになった。
また、同じ低GA含有率である場合、重量平均分子量2.0×10
5g/mol以下のアルギン酸ナトリウムの存在比である、低Mw比が50.0質量%以上であるもののほうが人工胃液への投入前後の粘度倍率がより高くなる傾向を示し、低MwAと高MwAのバランスよく配合すると粘度の増加率が向上することが明らかになった。
【0068】
実験例3
アルギン酸ナトリウムにその他の多糖類を併用して、後記(3−1)に記載するように調製した濃厚流動食を、後記(3−2)に記載の方法で、人工胃液への投入前後の濃厚流動食の粘度及び人工胃液への投入前の経管流動性について試験した。
【0069】
(3−1)濃厚流動食の調製
表2に記載の組成である基本濃厚流動食80gに0.05gのクエン酸三ナトリウムを添加し、プロペラ攪拌機を用いて500rpmで1分間撹拌して溶解した。更にアルギン酸ナトリウムであるサンサポート
TM P−70、P−82、アルギン酸であるサンサポート
TM P−90、脱アシル型ジェランガムであるケルコゲル
TM、大豆多糖類であるSM−1200、ローメトキシルペクチンであるサンサポート
TM P−120、P−130、P−140、P−150、P−160、及びP−170、並びにハイメトキシルペクチンであるサンサポート
TM P-170(いずれも三栄源エフ・エフ・アイ株式会社。「ケルコゲル」はCPケルコ社の商標。)を表7及び8に記載の分量で含有する水溶液20gを添加し、プロペラ攪拌機を用いて500rpmで10分間撹拌して均一に混合し、実施例15〜23の各濃厚流動食を調製した。これら濃厚流動食のクエン酸三ナトリウム/カルシウム(質量比)は、実施例1の濃厚流動食と同じである。なお、表7には、実施例1の濃厚流動食の組成も併記している。
尚、ジェランガムは85℃15分間加熱して溶解させ、他の多糖類に関しては常温のイオン交換水に溶解したものを用いた。
【0070】
【表7】
【0071】
【表8】
【0072】
(3−2)測定方法
調製した濃厚流動食の、人工胃液への投入前後の濃厚流動食の粘度及び人工胃液への投入前の経管流動性を、前記(1−2)と同様の方法で測定した。
【0073】
(3−3)結果
各濃厚流動食の、人工胃液への投入前後の粘度及び両者の比(粘度の増加率)、及び経管流動性を表9に示す。なお、表9には、比較のため、実験例1における実施例1の濃厚流動食の試験結果も併記している。
【0074】
【表9】
実施例1及び実施例15〜21において、人工胃液への投入前の粘度は200mPa・s以下であり、人工胃液への投入後の粘度は2000mPa・s以上となり、粘度の増加率は30倍以上であった。
また、これらの実施例において経管流動性も400ml/時間以上であり、本発明の濃厚流動食は介護者が被介護者に容易に摂取させることができると考えられる。
アルギン酸ナトリウムにアルギン酸を併用した実施例15、脱アシルジェランガムを併用した実施例16及びローメトキシルペクチンを併用した実施例18乃至21は、いずれも実施例1に比べて人工胃液への投入前の粘度はわずかに増加したが、十分な経管流動性を保っていた。また、実施例18乃至21の人工胃液への投入後の粘度は実施例1と比較して大幅に上昇しており、粘度の増加率も実施例1に比べて高くなった。これらの結果から、アルギン酸、脱アシルジェランガム、ローメトキシルペクチンを併用することにより、本発明の濃厚流動食の胃内での増粘の増加効果が向上することが示された。また、メチルエステル化度(<ME>)が15%以下であり重量平均分子量(<M
w>)が80,000g/mol以下であるローメトキシルペクチンを併用した実施例20および21は、粘度の増加率が40倍以上となり、より高い併用効果がみられた。また、ハイメトキシルペクチンを併用した実施例22および23は、いずれも胃液に投入後の粘度が実施例1よりも低くなり、併用による粘度増加の効果が見られなかった。
一方、大豆多糖類を併用した実施例17は、人工胃液への投入前の粘度が減少し、これによって人工胃液への投入前後の粘度増加率は実施例1に比べて高くなった。この結果から、大豆多糖類を併用すると本発明の濃厚流動食の投与時における流動性が向上することが示された。