(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記SMAアクチュエータワイヤ用の駆動信号を生成し、かつ、前記生成された駆動信号を前記SMAアクチュエータワイヤに供給するように構成された制御回路をさらに備える、請求項1に記載のカメラ装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるSMA作動装置の一例であるカメラ装置1を
図1に示してあり、この図は、仮想の主軸である光軸Oに沿った断面図である。カメラ装置1の主要な部分を明確に描くために。SMAアクチュエータワイヤは
図1には示していないが、後で
図3から
図5を参照しながら説明する。カメラ装置1は、移動電話、メディアプレーヤまたはポータブルデジタルアシスタントなどのポータブル電子デバイスに組み込まれることになる。したがって小型化は重要な設計基準である。
【0017】
カメラ装置1は、支持構造体4に対してそれぞれ光軸Oに垂直な2つの直交方向への移動を可能にする様式で、以下で詳述するサスペンションシステム7によって支持構造体4に支持されたレンズ要素2を備える。したがって、レンズ要素2は可動要素である。
【0018】
支持構造体4は、基底部5の前面側にイメージセンサ6を支持するカメラ支持体である。基底部5の背面側には、制御回路40が実装されたIC(集積回路)チップ30、さらにはジャイロスコープセンサ47が取り付けられている。
【0019】
レンズ要素2は、光軸Oに沿って配置されたレンズ22を支持する円筒体の形をしたレンズキャリア21を備えるが、一般に任意の数のレンズ22を設けることができる。カメラ装置1は、レンズ22(または、複数のレンズが設けられる場合は各レンズ22)の直径が10mm以下の小型カメラである。
【0020】
レンズ要素2は、イメージセンサ6の上に像を結ぶように構成されている。イメージセンサ6は像を取り込む。イメージセンサ6は、任意の適切なタイプ、たとえばCCD(電荷結合素子デバイス)またはCMOS(相補型金属酸化膜半導体)デバイスであってもよい。
【0021】
レンズ22(または、複数のレンズが設けられる場合は各レンズ22)はレンズキャリア21に対して固定されてもよく、あるいは、レンズ22(または、複数のレンズが設けられる場合は少なくとも1つのレンズ22)が、たとえば焦点を合わせるために光軸Oに沿って移動可能な様式で、レンズキャリアに支持されてもよい。レンズ22が光軸Oに沿って移動可能な場合、適切な作動システム(図示せず)は、WO2007/113478に記載されているものなどの、たとえば、音声コイルモータまたはSMAアクチュエータワイヤを使用して実現できる。
【0022】
動作において、レンズ要素2は、イメージセンサ6に対してXおよびYとして示す2つの直交方向に沿って光軸Oに対して直角に移動させられ、イメージセンサ6の像が移動するという効果が得られる。これは、たとえば手ぶれによって生じるカメラ装置1の像移動を補正することでOISを実現するために使用される。
【0023】
たとえばWO2010/029316およびWO2010/089529に開示されているような、OIS機能を実現するためにSMAアクチュエータワイヤを使用する多くの知られている構成では、OISは、レンズ要素およびイメージセンサを備えるカメラユニット全体を、実質的に剛体として傾斜させることによって実現される。使用者の手ぶれを補正するこの方法は、原則として最良のOIS性能をもたらす。これは、小型カメラではレンズ要素をイメージセンサに位置合わせすることが難しく、製造公差が極めて厳しいためである。さらに、補正される使用者の手ぶれは、本質的にはカメラへの傾きであり、そのため、補正でもカメラを傾斜させるべきなのは直観的に理解できる。ただしこの例では、いくつかの他の問題を緩和するために、OISは異なる形で実施される。
【0024】
第1の問題は、「カメラ傾斜」方法では、固定されたカメラ構造体に対してイメージセンサが動くことである。これは、イメージセンサからカメラの固定構造体および移動体電話のマザーボードに電気接続を配線することが極めて困難であることを表す。これに対する解決策は、接続を配線するためのフレキシブルプリント回路(FPC)の周りに集中しているが、FPC設計は、接続の数が多く、データ転送速度が速いために依然として困難である。したがって、イメージセンサが静止し固定されたままであることが極めて望ましい。
【0025】
第2の問題は、カメラ傾斜方法が、最低でもレンズおよびイメージセンサを備え、取り囲む支持構造体の内側で傾斜しなければならない支持構造体をもつカメラ構造体が存在することを必要とすることである。カメラの占有面積は有限なので、カメラの傾きは、OISカメラのカメラ厚さ(高さ)が、OISなしの同等のカメラのものよりも大きくなければならないことを意味する。移動体電話では、カメラの高さを最小限にすることが極めて望ましい。
【0026】
第3の問題は、カメラ全体を傾斜させることによって、カメラの占有面積をOISなしのカメラを上回るほど増加させることなく傾斜アクチュエータを収容するのが困難なことである。
【0027】
したがって、この例では、レンズ要素2は、ともに光軸Oに垂直な2つの直交方向に直線的に移動させられ、これは「シフト」または「OISシフト」と呼ばれることがある。得られる像補正は、使用者の手ぶれの影響を完全に相殺するわけではないが、上記の制約を考慮すると成果は十分に良好であると思われ、特に、傾斜を用いる装置と比べてカメラ装置1のサイズを小さくすることができる。
【0028】
サスペンションシステム7を別個に
図2に示してあり、以下の通りに構成している。
【0029】
サスペンションシステム7は、
図1に示すように、支持構造体4の一部をなす支持板72と、レンズ要素2の一部をなし、レンズキャリア21の最後部に連結されているレンズプレート73との間に連結された4本のビーム71を備える。4本のビーム71は互いに、また光軸Oに対して平行に延在し、したがって、レンズ要素2が移動する直交方向に対して垂直に延在するが、直交方向を横断しているのであれば、延在する角度は垂直でなくてもよい。
【0030】
ビーム71は、4本のビーム71がたとえばはんだ付けされることによって回転できない様式で、支持板72およびレンズプレート73のそれぞれに固定される。
【0031】
ビーム71は支持構造体4の内側かつレンズキャリア21の外側に位置し、支持板72とレンズプレート73は、レンズ要素2を収め、イメージセンサ6への光の通過を可能にするために、光軸Oに位置合わせされたそれぞれのアパーチャ74と75を含む同じ構造を有する。ビーム71は、カメラ装置1の各隅に1つずつ、光軸Oの周りに等しい間隔で配置されている。
【0032】
それによって、ビーム71は、特にS字形に曲がるビーム71を用いるだけで、レンズ要素2が、支持構造体4に対して光軸Oに垂直な2つの直交方向に移動することを可能にする前記様式で、レンズ要素2を支持構造体4の上に支持する。対照的に、ビーム71は光軸Oに沿った動きに耐える。ビーム71は、典型的にはワイヤ、たとえば金属ワイヤによって作り出される、光軸Oに対して垂直な望ましいコンプライアンス性をもたらす任意の構造を有していてもよい。
【0033】
一般に、サスペンションシステム7は、レンズ要素2が、支持構造体4に対して光軸Oに垂直な2つの直交方向に移動することを可能にする任意の代替構造をもつこともできる。たとえば、サスペンションシステム7は、ボールベアリングまたはたわみ部を使用することもできる。
【0034】
レンズ要素2の移動は、次に記載するように、
図3から
図5に示したアクチュエータ装置10によって生じさせられる。
【0035】
アクチュエータ装置10は、
図1および
図4に示してあるように、支持構造体4の一部をなし、基底部5に取り付けられている支持ブロック16と、レンズ要素2の一部をなし、レンズプレート73の背面に取り付けられている可動プラットフォーム15との間に連結された合計4つのSMAアクチュエータワイヤ11〜14を備える。
【0036】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14のそれぞれは張力がかかった状態で保持され、それによって、可動プラットフォーム15と支持ブロック16の間の光軸Oに垂直な方向に力がかかる。動作において、以下でさらに説明するように、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、レンズ要素2を支持ブロック16に対して光軸Oに垂直な2つの直交方向に移動させる。
【0037】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14はそれぞれ、光軸Oに垂直に延在する。このアクチュエータ装置10では、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は共通の面に延在しており、これは光軸Oに沿ったアクチュエータ装置10のサイズを最小限にするのに有利である。また、この構成によって、サスペンションシステム7にかかる光軸Oに平行な方向の力が最小限になる。
【0038】
代替として、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、光軸Oに垂直な直交方向に対して0でない角度だけ傾くように配置されていてもよく、この角度は小さいのが好ましい。この場合、動作中のSMAアクチュエータワイヤ11〜14は、レンズ要素2を光軸Oに平行な方向に傾けるかまたは移動させる傾向があり得る光軸Oに沿った力の成分を発生させる。光軸Oに垂直な直交方向への移動を実現するために、そのような力の成分は、サスペンションシステム7によって耐えられ得る。対照的に、光軸Oに沿った方向への許容できる程度に小さな傾斜または移動をもたらすSMAアクチュエータワイヤ11〜14の傾きの程度は、光軸Oに沿ったサスペンションシステム7の剛性に依存する。したがって、たとえば上記のようなビーム71を備えるかまたはボールベアリングを備えるなど、光軸Oに沿った剛性が高いサスペンションシステム7の場合、比較的大きな傾きが許容可能である。
【0039】
サスペンションシステム7がボールベアリングを備える場合、SMAアクチュエータワイヤ11〜14にかかった張力によってレンズ要素2がボールベアリングに押し当てられるように、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、顕著な成分によって光軸Oに平行な方向に傾いているのが望ましいことさえある。
【0040】
SMAワイヤ11〜14が光軸Oに垂直であるか、または光軸Oに垂直な面に対してわずかな角度だけ傾いているかにかかわらず、アクチュエータ装置10は、特に光軸Oに沿った方向に極めてコンパクトにすることができる。SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、迅速な加熱と冷却を確実に行うために、それら自体が極めて細く、典型的には直径がおよそ25μmである。SMAアクチュエータワイヤ11〜14の装置10は、アクチュエータ装置10の占有面積をほとんど増やさず、光軸Oに沿った方向に極めて薄くすることができる。これは、SMAアクチュエータワイヤ11〜14が、動作状態を維持する光軸Oに垂直な面に本質的に配置されているためである。次いで、光軸に沿った高さは、後述する圧着部材17および18などの他の構成要素の厚さならびに製造を可能にするために必要な高さに依存する。実際上は、
図3に示したSMAアクチュエータワイヤ11〜14のアクチュエータ装置は、1mm未満の高さに製造され得ることが分かっている。移動体電話カメラの例では、SMAアクチュエータワイヤ11〜14のサイズによって、典型的には、SMAアクチュエータワイヤ11〜14と、光軸Oに垂直な面との間の角度は20°未満、より好ましくは10°未満に制限されている。
【0041】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、各圧着部材17によって一端が可動プラットフォーム15に連結され、他端が圧着部材18によって支持ブロック16に連結されている。圧着部材17および18は、ワイヤを圧着して機械的に保持し、場合により接着剤の使用によって強化される。圧着部材17および18はまた、SMAアクチュエータワイヤ11〜14への電気接続を実現する。ただし、SMAアクチュエータワイヤ11〜14を連結する任意の他の適切な手段が別法として使用されてもよい。
【0042】
SMA材料は、加熱すると、SMA材料を収縮させる固相の変化を生じるという特性を有する。低い温度では、SMA材料がマルテンサイト相に入る。高い温度では、SMAは、SMA材料を収縮させる変形を誘発するオーステナイト相に入る。相変化は、SMA結晶構造の遷移温度の統計的分散度により、ある温度範囲にわたって生じる。したがって、SMAアクチュエータワイヤ11〜14を加熱するとその長さが減少する。SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、任意の適切なSMA材料、たとえばニチノールまたは他のチタン合金のSMA材料から作られてもよい。有利には、SMAアクチュエータワイヤ11〜14の材料組成と前処理は、通常動作中の予想室温より高く、位置制御の程度を最大化できるほどの広さの温度範囲にわたって相変化を実現するように選択される。
【0043】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14のうちの1つを加熱すると、内部の応力が増加し、そのSMAアクチュエータワイヤは収縮する。これによってレンズ要素2の移動が生じる。マルテンサイト相からオーステナイト相へのSMA材料の遷移が生じる温度範囲にわたってSMAの温度が上昇するとき、ある範囲の移動が生じる。逆に、内部の応力が減少するようにSMAアクチュエータワイヤ11〜14のうちの1つを冷却すると、そのSMAアクチュエータワイヤは、SMAアクチュエータワイヤ11〜14のうちの対向する各ワイヤからの力を受けた状態で膨張する。これによってレンズ要素2は反対方向に移動できるようになる。
【0044】
図5に示すように、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、以下の光軸Oの周りの構成を有する。
【0045】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14のそれぞれは、レンズ要素2の各辺に沿って配置されている。したがって、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、光軸O周りの異なる角度位置においてループ状に配置されている。したがって、4つのSMAアクチュエータワイヤ11〜14は、光軸Oの対向する辺に配置されたSMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対および光軸Oの対向する辺に配置されたSMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対からなる。SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対は、レンズ要素2を、支持構造体4に対して、前記面において第1の方向に移動させるための選択的駆動が可能であり、SMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対は、レンズ要素2を、支持構造体4に対して、第1の方向を横断する前記面において第2の方向に移動させるための選択的駆動が可能である。横断方向の移動の線形結合をもたらすために、SMAアクチュエータワイヤ11〜14に対して平行以外の方向への移動が、SMAアクチュエータワイヤ11〜14の上記の対の作動の組み合わせによって生じさせられ得る。この移動を見る別の方法は、ループにおけるSMAアクチュエータワイヤ11〜14の隣り合った任意の対の同時収縮が、レンズ要素2を、SMAアクチュエータワイヤ11〜14のうちの上記の2つを二分する方向に(矢印XおよびYで示すように
図5において対角線方向に)移動させることである。
【0046】
その結果、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、レンズ要素2を、支持構造体4に対して移動範囲における任意の位置まで、光軸Oに垂直な2つの直交方向に移動させるように選択的に駆動されることが可能である。移動範囲の大きさは、通常の動作パラメータ内でのSMAアクチュエータワイヤ11〜14の形状および収縮範囲に依存する。
【0047】
光軸Oに垂直な、支持構造体4に対するレンズ要素2の位置は、SMAアクチュエータワイヤ11〜14の温度を選択的に変化させることによって制御される。これは、抵抗加熱をもたらす選択的な駆動電流をSMAアクチュエータワイヤ11〜14に流すことによって実現される。加熱は駆動電流によって直接的にもたらされる。冷却は。駆動電流を減少または停止して、その周囲への電動、対流および放射によってレンズ要素2を冷ますことによりもたらされる。
【0048】
レンズ要素2の各辺に沿ったSMAアクチュエータワイヤ11〜14の構成は、コンパクトな構成の実現を助ける。これは、たとえば、ワイヤが光軸Oの半径方向に延在し、それによってカメラ装置1の占有面積が増加する構成とは異なり、SMAアクチュエータワイヤ11〜14のそれぞれが、側面から見たレンズ要素2の外形に概ねまたは完全に収まるためである。しかしながら、半径方向に延在しないことにより、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、それぞれ個別に、光軸O周りの2つの直交方向の面においてトルクをレンズ要素2に加える。そのようなトルクは、潜在的に、その面における移動を許容しながら正味のトルクに耐える必要があるサスペンションシステム7の要件を増加させる。
【0049】
しかしながら、いずれのワイヤも同一直線上にないので、それらは、一緒に動作されるときに打ち消しトルクを加えるように構成することができる。光軸O周りの連続するSMAアクチュエータワイヤ11〜14は、レンズ要素2に対して、光軸O周りの交互の向きに力を加えるように連結されている。すなわち、光軸から外側に向かって見たとき、SMAアクチュエータワイヤ11は、その左端部が支持ブロック16に連結され、その右端部が可動プラットフォーム15に連結されているが、隣のSMAアクチュエータワイヤ12は、その左端部が可動プラットフォーム15に連結され、その右端部が支持ブロック16に連結されており、その他も同じようになっている。その結果、光軸O周りの連続するSMAアクチュエータワイヤ11〜14はまた、光軸O周りの交互の向きにトルクを加える。すなわち、
図5に示すように見たとき、SMAアクチュエータワイヤ11はレンズ要素2に、反時計回りの向きに力を加えるが、隣のSMAアクチュエータワイヤ12はレンズ要素2に、時計回りの向きに力を加え、その他も同じようになっている。
【0050】
これは、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対が、レンズ要素2に対して、前記面において、光軸O周りの第1の向き(
図5の反時計回り)に正味のトルクを発生させ、SMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対が、レンズ要素2に対して、前記面において、光軸O周りの反対の向き(
図5の時計回り)の正味のトルクを発生させることを意味する。その結果、各SMAアクチュエータワイヤ11〜14における任意の加熱度であれば、トルクは相殺する傾向がある。
【0051】
さらに、この構成では、移動範囲における任意の位置への移動は原則として、光軸O周りの2つの直交方向の面において正味のトルクをレンズ要素2に加えずに実現できる。これを理解するために、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対を、SMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対とは別個に考えることができる。2種類の寸法での任意の所与の位置への移動では、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対によって誘導される移動は、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対におけるある範囲の応力、したがって、第1の向きのある範囲のトルクで得ることができる。同様に、SMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対から誘導される移動は、SMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対におけるある範囲の応力、したがって、第2の向きのある範囲のトルクで得ることができる。これは、SMAアクチュエータワイヤ11〜14の望ましい位置および構成の関係を表す簡単な幾何学的計算に基づいて、各SMAアクチュエータワイヤ11〜14における応力を適切に選択することによってトルクを相殺できることを意味する。
【0052】
対照的に、すべてのSMAアクチュエータワイヤ11〜14が、レンズ要素2に対して、光軸O周りの同じ向きに力を加えるように連結されていた場合、それらのアクチュエータワイヤは、どのように駆動されるかにかかわらず、光軸O周りに常に正味のトルクを発生させることになるであろう。
【0053】
XとYの方向への移動の線形結合となる他の方向にレンズ要素2を移動させるとき、ある程度の相殺がこの構成の自然な効果であり、さらには、SMAアクチュエータワイヤ11〜14のそれぞれに生じる力を適切に選択することにより、SMAアクチュエータワイヤ11〜14に、光軸O周りに正味のトルクを生じさせないようにすることが可能である。
【0054】
光軸O周りのトルクをこうして減少させることによって、レンズ要素2が光軸O周りを回転する傾向が小さくなる。光軸O周りのトルクの減少または相殺によって、サスペンションシステム7の制約が少なくなる。実際のところ、いくつかの実施形態においては、この制約はサスペンションシステムが必要ない程度に少なくなることがあり、レンズ要素2はSMAアクチュエータワイヤ11〜14自体によって代わりに支持される。
【0055】
これらの利益は、極めて単純かつコンパクトな構成を実現する4つのSMAアクチュエータワイヤ11〜14を1組だけ使用するこのアクチュエータ装置10において実現され得ることに特に留意されたい。
【0056】
このアクチュエータ装置10では、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、光軸Oに沿ったアクチュエータ装置10のサイズを最小限にする際に有利な共通の面に延在する。あるいは、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、光軸Oに垂直な仮想面への4つのSMAアクチュエータワイヤ11〜14の突出が、その方向から見たときに
図5に示した構成となるより一般的な要件を満たす場合に、光軸Oに沿って互いにオフセットされ、上記の利益を依然として得ることができよう。
【0057】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14の制御は、SMAアクチュエータワイヤ11〜14のそれぞれについて駆動信号を生成し、以下のように構成される
図6に示した制御回路40によって達成される。
【0058】
制御回路40は、レンズ要素2の角速度を表す信号を出力することでカメラ装置1が受けている振動を検出する振動センサとして働くジャイロスコープセンサ47を含む。ジャイロスコープセンサ47は、典型的には、互いに垂直であり、かつ、光軸Oに対して垂直である2本の軸の周りの振動を検出するための一対の小型ジャイロスコープであるが、一般に、より多くのジャイロスコープまたは他のタイプの振動センサが使用され得る。
【0059】
ジャイロスコープセンサ47からの出力信号が、プロセッサに実装され得るOIS制御部48に供給される。OIS制御部48は、カメラ装置1の移動を全体として補正し、ひいてはイメージセンサ6によって検知された像を安定化させるために必要なレンズ要素2の移動を表す移動信号を導出する。ジャイロスコープセンサ47が支持構造体4に取り付けられているので、出力信号は支持構造体4の振動を反映している。OISは、それに逆らってレンズ要素2を水平方向に移動させることによって達成される。したがって、OIS制御部48は、ジャイロスコープセンサ47によって測定されるような実際の傾きとは反対の望ましい移動をもたらす移動信号を生成する。OIS制御部48は、ジャイロスコープセンサ47からの出力信号を、たとえば、移動信号の生成前にフィルタリングすることによって処理することができる。
【0060】
OIS制御部48からの移動信号は、プロセッサまたはハードウェアに実装され得る行列制御部42に供給される。行列制御部42とOIS制御部48は、理解しやすくするために別個の構成要素として示してあるが、これらは共通のプロセッサに実装されていてもよい。
【0061】
行列制御部42は、移動信号に基づいて、SMAアクチュエータワイヤ11〜14のそれぞれについて制御信号を生成する。これは、望ましい移動を実現するためにSMAアクチュエータワイヤ11〜14のそれぞれの必要な収縮または伸張(すなわち長さ)の関係を示す行列計算を用いる。任意の望ましい移動は、上で特定されたSMAアクチュエータワイヤ11〜14の各対のが移動を生じさせる第1および第2の方向のそれぞれに成分を有する。したがって、移動信号によって表される望ましい移動のそれらの成分のそれぞれについて、制御信号は、SMAアクチュエータワイヤ11〜14のそれら各対の差分収縮を可能にする。SMAアクチュエータワイヤ11〜14の異なる対の差分収縮を表す差分成分は、線的に加算され得る。このようにして、任意の望ましい移動が、SMAアクチュエータワイヤ11〜14の適切な組み合わせを選択的に作動させる制御信号に変換され得る。したがって、行列計算は、カメラ装置1におけるSMAアクチュエータワイヤ11〜14の実際の幾何学的構成を考慮している。
【0062】
同時に、行列計算は、SMAアクチュエータワイヤ11〜14が光軸O周りにトルクの正味の成分をもたらさないようにする制御信号を生成するようにさらに構成されてもよい。すなわち、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対およびSMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対における応力は、それによって生成されるトルクを相殺するように選択される。ただし、レンズ要素2に対する正味のトルクの減少は、トルクが正確に相殺されなくても実現される。
【0063】
あるいは、行列計算は、SMAアクチュエータワイヤ11〜14が光軸O周りに所定の量のトルクを生じさせるようにする制御信号を生成するように構成されてもよい。すなわち、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対およびSMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対における応力が、オフセットトルクをもたらすように選択される。これはたとえば、サスペンションシステム7が、光軸O周りの2つの直交方向の面においてレンズ要素2にトルクを加える場合に有用であり得る。その場合、所定の量のトルクが、好ましくは正確に、サスペンションシステム7によって加えられるトルクを補償するように選択され得る。
【0064】
制御信号は、SMA材料におけるヒステリシスなどの非線形効果を補正するためのさまざまな補正アルゴリズムによって修正され得る。
【0065】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14のそれぞれは、SMAアクチュエータワイヤ11〜14のうちの対応する1つのための制御信号が行列制御部42によって供給される各駆動回路43に接続されている。駆動回路43は、制御信号に従って駆動信号を生成し、駆動信号をSMAアクチュエータワイヤ11〜14に供給する。駆動回路43は、第1のSMAアクチュエータワイヤ11に関して
図7に示し、以下のように構成される同一の構成を有する。
【0066】
駆動回路43は、行列制御部42から制御信号を供給され、抵抗フィードバックを用いて駆動部45を制御する駆動制御部44を備える。駆動制御部44はプロセッサに実装されてもよい。行列制御部42と駆動制御部44は、理解しやすくするために別個の構成要素として示してあるが、これらは共通のプロセッサに実装されていてもよい。
【0067】
駆動部45は、駆動電流をSMAアクチュエータワイヤ11に供給するために接続されている。駆動部45は、定電圧電源または定電流電源であってもよい。たとえば、後者の場合、定電流はおよそ120mAであり得る。
【0068】
駆動回路43は、SMAアクチュエータワイヤ11の抵抗を検出するように構成された検出回路46をさらに含む。駆動部45が定電流電源である場合、検出回路46は、SMAアクチュエータワイヤ11の抵抗の測定値であるSMAアクチュエータワイヤ11にかかる電圧を検出するように動作可能な電圧検出回路であってもよい。駆動部45が定電圧電源である場合、検出回路46は電流検出回路であってもよい。精度を高めるために、検出回路46は、SMAアクチュエータにかかる電圧および電流の両方を検出し、その比率として抵抗の測定値を導出するように動作可能な電圧検出回路と電流検出回路を備えていてもよい。
【0069】
駆動制御部44は、パルス幅変調電流を供給するために駆動部45を制御するように構成されている。駆動制御部44は、検出回路46によって測定された抵抗を受け取り、それを閉ループ制御アルゴリズムにおいてフィードバック信号として使用して、制御信号全体によって表される要求に従ってSMAアクチュエータワイヤ11を作動させるように駆動部45のPWMデューティサイクルを制御する。閉ループ制御は比例制御であってもよい。
【0070】
SMAアクチュエータワイヤ11の電気抵抗を位置に関するフィードバックパラメータとして使用することによって、機能的な移動の範囲にわたって、SMA材料の収縮と膨張がその電気抵抗に対してほぼ線形になる。ヒステリシスやクリープを含む非線形性はある程度生じる。これらは無視してもよいが、線形性を良くするために、これらは閉ループ制御アルゴリズムにおいて考慮されてもよい。
【0071】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、OISを実現するだけの十分な応答速度を有し得る。典型的には、SMAアクチュエータワイヤ11から14のそれぞれは、最大10Hz、最大20Hz、または最大30Hzの周波数帯域幅にわたって位置を制御するように、比例して駆動される。アクチュエータとしてのSMAの認識されている欠点は、その応答時間が遅いことである。SMA材料は熱で駆動されるので、応答時間は、熱伝導率、比熱容量、およびサーマルマスと関連する実現可能な温度変化によって制限される。
【0072】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14の加熱は、駆動電流の電力を大きくすることによって強めることができるが、冷却は、SMAアクチュエータワイヤ11〜14の厚さに依存する。この厚さは、冷却中に望ましい応答時間が得られるように選択される。たとえば、SMAアクチュエータワイヤ11〜14の厚さが、現在のところ市販材料では最も細い25μmである場合、熱応答は4Hzにおいて減衰を始める。OIS機能の分析に基づくと、機能要件は、最大30Hzの帯域幅にわたる移動補正を実現することである。しかしながら、必要な応答の振幅は、動作帯域幅にわたって、典型的には、上記のカメラ装置1の場合、約1Hzにおける約70μmから、20Hzを超えたときの約10μm未満に著しく低下する。驚くべきことに、4Hzを超えてSMAアクチュエータワイヤの応答が減衰するにもかかわらず、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は30Hzにおける変位要件を果たすことが可能であり、したがって、小型カメラ用のOISの作動要件を首尾よく満たすことができる。
【0073】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、光軸O周りの2つの直交方向の面において正味のトルクをレンズ要素2にかけずに、SMAアクチュエータワイヤ11〜14が、レンズ要素2を支持構造体に対して移動範囲における任意の位置まで移動させるように選択的に駆動されることが可能な、
図3から
図5に示したもの以外の構成を有していてもよい。
【0074】
いくつかの可能な代替構成を
図8から
図13に示しており、これらの図は光軸Oに沿った概略図であり、光軸O周りのSMAアクチュエータワイヤ11〜14の構成と、レンズ要素2および支持構造体4への連結を示すために圧着部材17および18とを示している。分かりやすくするために、カメラ装置1の他の構成要素は省略している。それぞれの場合のカメラ装置1は、
図3から
図5に示したものに類似した構造を有し、異なる位置の圧着部材17および18、すなわち、レンズ要素2に固定された圧着部材17と、支持構造体4に固定された圧着部材18とを収めるために、レンズ要素2および支持構造体4の要素の形状が変更されている。
【0075】
比較のために、
図8は
図5の構成を示す。この場合、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は長斜方形に構成されている。SMAアクチュエータワイヤ11〜14が横断しているのであれば、それらは垂直である必要はない。対照的に、
図9の構成では、SMAアクチュエータワイヤ11〜14が垂直であり、したがって正方形の形状である。
【0076】
図5において、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、連続するSMAアクチュエータワイヤ11〜14の圧着部材17と18が極めて近接した状態でループ状に連結されているが、代替として、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、
図10に示した例のように交差していてもよいし、
図11に示した例にように間があいていてもよい。
【0077】
SMAアクチュエータワイヤ11〜14は同じ長さである必要はない。たとえば、前述の例のいずれにおいても、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は、各対においては同じ長さであり得るが、対と対では異なっていてもよい。
図12および
図13に示した別の例では、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対は、互いに同じ長さであるが、SMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対は異なる長さである。
図12の例では、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対は平行ではなく、互いに対して傾いており、それにより、連続するSMAアクチュエータワイヤ11〜14の圧着部材17と18は極めて近接した状態になっているが、
図13の例では、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対は平行である。
【0078】
一般に、SMAアクチュエータワイヤ11〜14は対称または規則的な構成である必要はない。この例は
図14に示してあり、この図では、SMAアクチュエータワイヤ11〜14はループ状に配置されているが、長さが異なり、角度は互いに垂直ではない。
【0079】
また、SMAアクチュエータワイヤ11〜14がループ状に配置される必要はない。この例は
図15に示してあり、ここでは、各対において、SMAアクチュエータワイヤ11〜14が光軸Oに関して同じ側に配置されている。すなわち、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対はそれぞれ光軸Oに関して第1の側にあり、SMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対はそれぞれ光軸Oに関して垂直な側にある。この場合、SMAアクチュエータワイヤ11と13の第1の対およびSMAアクチュエータワイヤ12と14の第2の対のそれぞれが、光軸周りの反対の向きにトルクを発生させることが可能なので、同じようにしてトルクを相殺することが可能である。これはカメラ装置1を包装するのにより都合な可能性があるが、各対におけるSMAアクチュエータワイヤ11〜14間の距離が短くなり、したがって、所与の応力に対して発生するトルクが小さくなるので、
図5の例と同じ程度の相殺を実現するには、より大きな応力での動作が必要なことがある。ワイヤがループ状に配置されていない別の例を
図16に示す。
【0080】
上記のカメラ装置1に対するさまざまな変更が可能である。レンズ要素2は、主軸に沿って見たときに正方形の形状を有するが、より一般的には、任意の形状を有することができる。支持構造体4は概略的に示されているが、一般に、レンズ要素2を支持するのに適した任意のタイプの要素であり得る。より一般的には、同じタイプのアクチュエータ装置10は、一般に、レンズ要素以外の要素を含む任意のタイプの可動要素に適用することができる。