(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記1つまたは複数の処理材は、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス−ガンマ−トリメトキシシリルプロピルアミン、アミノネオヘキシルトリメトキシシランおよびアミノネオヘキシルメチルジメトキシシランから成る群から選択される1つまたは複数のアミノシラン類を含む、
請求項1に記載の活物質。
前記1つまたは複数の処理材は、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス−ガンマ−トリメトキシシリルプロピルアミン、アミノネオヘキシルトリメトキシシランおよびアミノネオヘキシルメチルジメトキシシランから成る群から選択される1つまたは複数のアミノシラン類を含む、
請求項19に記載の活物質粒子。
前記分離した粒子および前記溶液の組み合わせから前記担体溶媒を除去した後に、前記外側表面に付いた前記1つまたは複数の処理材を有する前記分離した粒子上に熱処理を実施することをさらに含む、
請求項33に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発明の詳細な説明]
[0022] 以下の記述では、提示された概念の十分な理解を提供するために多くの具体的詳細が記載される。提示された概念は、これらの具体的詳細の一部または全てを用いなくても実施され得る。他の例では、記述された概念を不必要に曖昧にしないように周知の工程作業は詳細に記述されていない。いくつかの概念は、特定の実施形態と共に記述されるが、これらの実施形態は限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0013】
[前文]
[0023] リチウムイオン電池の容量は、炭素系活物質をシリコン系活物質および/またはスズおよびゲルマニウムなどのその他同様の高容量材料で部分的または完全に置き換えることによって実質的に増加し得る。しかしながら、リチウム化時にこれらの高容量材料に生じる体積の変化を理由に、これらの材料を電池電極に組み込むことは困難であることが立証された。過去の組み込みのアプローチは、体積変化の影響を減少させるために、シリコン含有構造の大きさを縮小しかつこれらの構造を他の材料と組み合わせることに焦点を当てていた。しかしながら、これらのアプローチは低容量設計およびシリコンの非効率な使用に繋がった。同様のアプローチは、その他の高容量材料でも試された。
【0014】
[0024] リチウム化時の体積変化は、このような動的活物質と共に効果的に使用可能なバインダの選択において重大な課題をももたらす。バインダは、活物質構造を電極層内でつなぎ止め、かつ基板に付着させるために使用される。リチウムイオンセルでは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が最も一般的なバインダである。シリコン構造と組み合わせられた場合には、PVDF分子とシリコン構造は、弱いファンデルワールス力により結び付けられ、構造の大きな体積の変化には順応できない。そのため、PVDFはシリコン構造をつなぎ止め、構造間の機械的および電気的接続を維持することにおいては能力が不足していることを示しており、結果として容量低下につながる。同様に、ポリビニルアルコール(PVA)およびポリアクリルアミド(PAM)などのヒドロキシル官能基またはカルボニル官能基のみを有するバインダは、シリコン粒子がサイクル中に伸び縮みする場合にはシリコン粒子に対して十分な結合強度を示さない。
【0015】
[0025] シリコン含有構造の特定の表面処理は、特定のバインダと共に使用した場合にリチウムイオンセルの性能を著しく向上させることができることが分かった。具体的には、シリコン含有構造は、構造の表面を改質させ、特定のバインダへのこれらの構造の接着力を向上させるために、種々のアミノシラン、ポリ(アミン)および/またはポリ(イミン)によって処理され得る。適切な処理剤の具体的な例としては、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス−ガンマ−トリメトキシシリルプロピルアミン、アミノネオヘキシルトリメトキシシラン、アミノネオヘキシルメチルジメトキシシラン、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミン)、およびポリ(ビニルアミン)が含まれるが、これらに限定されない。例えば、この目的にアミノ官能基オルガノアルコキシシロキサン(オハイオ州、コロンバスにあるMomentive Performance Materials Inc.より入手可能)であるSILQUEST(R)Y‐15744が使用され得る。
【0016】
[0026] 特定の理論により制限されること無く、シリコン構造が空気に触れた場合には構造は二酸化ケイ素の表面層を形成すると考えられている。同様の表面酸化は、ゲルマニウムおよびスズなどその他の高容量活物質に生じ得る。表面酸化は、これらの構造の取り扱いおよび加工中に生じ得、例えば、リチウムイオン電池用の電極の製造中に生じ得る。従来の見地からみると、二酸化ケイ素はシリコン(10
3Ω
*m)よりもいっそう高い抵抗率(10
16Ω
*m)を有するために、表面酸化は望ましくない可能性がある。
【0017】
[0027] 二酸化ケイ素表面が水(例えば、バインダの水系溶液において)にさらされた場合、表面がイオン化し、いくつかの実施形態では−70mVまでになり得る、負のゼータ電位を示す。同様の現象が、ゲルマニウム粒子およびスズにおいて観察されている。さらには、シリコン、スズおよび/またはゲルマニウムは、その他の構成要素を含みかつ上述の酸化および表面イオン化工程と同じ工程を経る合金の一部であってよい。例えば、シリコンはスズと混ぜて合金となってよい。一般的には、合金元素の酸化物が両性である場合には、pH>6におけるゼータ電位は負である。
【0018】
[0028] ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエン(SBR)、アルギネート、およびポリアクリル酸(PAA)などの、基板上の活物質を支持するために使用されるポリマーバインダの多くは、溶媒にさらされた場合に負に帯電した基を生じさせ得る。例えば、PAAがpH>4で、水中で解離した場合には、PAAはポリマー鎖と共に負に帯電したカルボン酸基を生成する。低いpH値では、多くのPAA鎖はプロトン化される。これらの負に帯電した基は、いくつかの実施形態においては水素を増加させるために使用可能である一方で、酸性のPAA鎖は巻かれ、それにより結果として混合物は、適正な加工を行うためには多くの場合過剰すぎるほどの高い粘度を有することになる。pHレベルが約9より高い場合には混合物が被覆を可能にするには高すぎる粘度を有する点までPAA鎖が伸長される。約3から7の間のpH、より具体的には、約4から6の間、例えば約6のpHを有する溶液は、被覆に最適な粘度をもたらし得る。特定の理論に制限されること無く、上記列挙された値からPAAバインダ溶液のpHを調整することは、例えばNaOHを添加することによって調製することは、粘度を増加させ、それにより容易な加工を可能にするために鋳造用配合物のレオロジーを最適化すると考えられている。
【0019】
[0029] 全体として、バインダ樹脂はいくつかの機能を果たし得る。バインダは、高い破壊抵抗強度を有し得、活物質粒子および/または導電性添加剤粒子などの、電極層の粒子に対して強固な界面接合を形成する。バインダは、電極層内における破壊を防ぎ、充電および放電中に層内で発生した応力を取り除き得る。この破壊の防止は、層にわたり、かつ層および電流コレクタ間で電子伝導を維持することを支援する。高破壊抵抗強度は、活物質粒子を処理することにより高まり得る。さらには、バインダは電極層を介したリチウムイオン転送をも可能にするはずである。イオン輸送は、時にはシャトリングとも呼ばれ、電極層の電解質溶液および活物質粒子間で発生する。イオン輸送は、カルボン酸基を有するバインダによって促進され得る。また、水に溶解可能なバインダ(すなわち、水溶性バインダ)は、それらの環境への影響がより低いこと、加工がより簡便なことおよびコストがより低いことから、一般的には望ましいとされている。
【0020】
[0030] 電極層を形成するために使用される典型的な混合物では、負に帯電した構造と負に帯電したバインダ分子は互いに反発しあい(溶液中にいる間と、その後電極内にて)、その結果弱い界面接合強度および破壊につながる。具体的には、活物質構造およびバインダ分子間の接合の弱さにより、結果として活物質構造がバインダ分子から剥離し電極内での電気的接続を喪失して、容量低下につながる。電気的接続の喪失および容量低下は、シリコンなどの大きな体積変化の影響を受けやすい高容量活物質で作成された電気化学セルにおいて特に顕著である。さらには、ほとんどの炭素系活物質(または導電性添加剤)も水中で分散された場合には負のゼータ電位を有することに留意されたい。
【0021】
[0031] アミノ基含有部分を含む活物質構造の表面改質は、構造に正のゼータ電位を付与すると考えられている。一般的には、アミノシランまたは第1級アミン(NH
2)および/または第2級アミン(NH)またはイミンを含むその他有機分子などの種々の材料が使用され得る。これらの材料は、表面改質部分が改質される粒子の表面上に固定または吸着可能な限りは、効果的な表面改質剤であると認められる。いくつかの実施形態では、固定することは、化学結合を形成することによって達成可能である。例えば、アミノシランは活物質粒子に対してエーテル結合を形成する一方で、ポリアミンは粒子の表面上に吸着する。ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)などの第3級アミンは、アミド結合を形成しないが、粒子分散の安定化を提供することができる。いくつかの実施形態では、改質された構造はアミノ基を含み、負のゼータ電位を示し得る改質されていない構造と違い、正のゼータ電位を示す。そのため、改質された構造は、負に帯電したバインダ分子とより容易に関連付けられ、さらには活性粒子およびバインダ分子との間にアミド結合を形成し得る。
【0022】
[0032] 特定の理論により制限されること無く、アミノ基を含む部分は、二酸化ケイ素またはその他の種類の表面に複数の方法で取り付け可能であると考えられている。1つの取り付けの種類は、カチオン性ポリ(電解質)(例えば、ポリ(エチレンイミン)またはポリ(アリルアミン))の吸着である。ポリ(電解質)は、活物質粒子の表面上に単分子層を形成し得る。ポリ(電解質)は、シリコン含有構造および炭素含有構造を処理するために使用され得る。吸着は、ファンデルワールス(分散)力、水素結合およびイオン(静電)結合によって生じ得る。
【0023】
[0033] 別の取り付けの種類は、共有結合である。例えばアミノシランは、シリコン粒子の二酸化ケイ素シェルと共有結合を形成すると考えられている。アミノシランの分子の1つは、そのシェルの1つまたは2つのSiOH基に共有結合することができる。特定の反応条件下では、アミノシランは二酸化ケイ素シェルから離れて延在するオリゴマーブラシを形成する。これらのブラシは、いくつかのアミノ基を含む。
【0024】
[0034] ポリマーなどの大きい分子が処理に使用された場合には、同じ分子が活物質粒子の表面上に複数の結合部位を形成し得る。結合部位は、ポリマー鎖に沿って延在し得、いくつかの実施形態では単分子層を提供する。結合部位の数および取り付けの強度は、ポリマーの分子量と共に増加し得る。
【0025】
[0035] さらには、ポリ(カチオン)およびポリ(アニオン)の順次的な層ごとの堆積は、活物質粒子の表面上に多層ポリ(電解質塩)構造を形成するために使用され得る。この多層構造の最外層は、最後に吸着したポリ(電解質)の官能基によって独占される。特定の理論により制限されること無く、多層は活物質粒子のより安定した表面改質を提供すると考えられている。
【0026】
[0036] さらには、例えば、シリコン構造および炭素構造が水に溶解している場合には、改質した表面を有するシリコン構造は炭素構造を引き付ける傾向にあることが判明した。上述のごとく、改質したシリコン構造は正のゼータ電位を有する一方で、炭素は負のゼータ電位を有し得る。シリコン構造および炭素構造の大きさを制御することにより、シリコン−コアおよび炭素シェルを有する複合構造が形成され得る。例えば、シリコン粒子の大きさは1〜50ミクロン、より具体的には約2〜10ミクロンの大きさであってよく、炭素粒子の大きさは約1マイクロメートルより小さい、またはより具体的には約0.2マイクロメートルより小さい大きさであってよい。これらのコアシェル構造は、電極に塗布するためのスラリーを混合する前、例えば処理工程中に、形成され得る。代替的にはコアシェル構造は、例えば電極製造作業中など、スラリーの混合中に形成される。シリコンコア−炭素シェル構造は、シリコン含有コアと、コアの周りの二酸化ケイ素層と、アミン、イミン、またはその他の基を含む処理層と、さらに外側シリコン層と、を含み得る。これらの層は、連続的に完全なシェルを形成しなくてもよいことに留意されたい。
【0027】
[0037] リチウムイオンセルの容量および安定性という点において、シリコンコアおよび導電性炭素シェルを含む複合構造は、被覆されていないシリコン粒子に対して向上した性能を示した。しかしながら、これらの複合構造を作成するための先に提案した工程は費用がかかりかつ制御が困難なものである。例えば、先の提案の1つは、レゾルシノール/ホルムアルデヒド混合物にシリコン粒子を分散し、その後埋め込まれたシリコン粒子によりフェノール樹脂を重合することを含む。ポリマーは次に、シリコン粒子上に炭素被覆を形成するために窒素(またはアルゴン)に熱分解され、熱分解生成物は電極製造作業における使用のための微粒子を形成するよう粉砕される。
【0028】
[0038] 電極における活物質粒子とバインダとの間の結合およびそのサイクル寿命への影響は、以下に
図1A〜1Cを参照して説明される。特に
図1Aは、いくつかの実施形態による、放電状態における電極100の概略図である。電極100は、電流コレクタ基板102および電流コレクタ基板102上に配置され電流コレクタ基板102に付着する活物質層104を含む。また活物質層104は、バインダ106および活物質構造107を含む。いくつかの実施形態では、活物質層104は導電性炭素添加剤などの導電性添加剤108をも含み得る。リチウムが活物質構造107に添加された場合には、
図1Aから
図1Bへの移行において示されるように、これらの構造107の大きさは増大し得る。
図1Aに示される電極100は、放電電極と見なされてよく、一方、
図1Bで示される電極110は帯電電極と見なされてよい。「帯電」という用語と「放電」という用語は相対的であり、電極内、またはより具体的には、活物質構造内のリチウムの相対量に対応する。活物質構造内へのリチウムの添加は、これらの構造の膨張につながり得る。例えば、シリコン構造はシリコンの理論容量まで充電された場合には最大400%まで膨張する。活物質粒子が膨張するにつれ、活物質層のその他の要素が押され、層内におけるこれらのその他の要素の配置が変わる。これらのその他の要素の例としては、導電性添加剤粒子が使用される場合にはバインダおよび導電性添加剤粒子が含まれる。いくつかの実施形態では、活物質層の厚みも変化し得る。
【0029】
[0039] リチウムが放電中に取り除かれた場合には、活物質粒子は収縮し活物質層のその他の要素から離れる。活物質粒子とバインダとの間の結合が十分に強い場合には、これらの収縮する活物質粒子はこれらのその他の要素を引き寄せ、これらのその他の要素との機械的結合、および結果として電気的結合を保持し得る。各充電−放電サイクルの間に活物質層内でいくらかの変化が起こり得るが、これらの変化が電流コレクタ基板から活物質粒子のかなりの部分の電気的接続を切り離さない限りは、電極の容量は実質的に同じままである。そのため、活物質粒子とバインダ分子との間の結合強度は、特に高容量活物質が使用される場合には、容量保持において重要な役割を果たすと考えられている。
【0030】
[0040] しかしながら、活物質構造とバインダ間の結合強度が弱い場合には、放電プロセスはいくらかの活物質構造または活物質構造のクラスタが電流コレクタ基板から電気的に切断されることに繋がり得る。その結果、これらの構造および/またはクラスタは、負極の作動電圧にさらされず、後続のサイクル中の容量に寄与しない。この現象は、
図1Cに概略的に示される。具体的には、
図1Cは活物質層124内に空隙128が存在する電極を図示する。空隙はバインダ126と活物質構造127の間と、隣接する活物質構造127間にあってよい。空隙128は、活物質構造127が充電中にはじめて膨張しその他の要素を押した後に、放電中に他の要素を引き寄せられず、その前に膨張した活物質粒子によって占拠されていた体積の全てを埋めることができずに収縮したために、作られ得る。空隙128は、活物質構造127が電流コレクタ基板122から切断され、サイクル容量に寄与しないことに繋がる。
【0031】
[0041] 特定の理論により制限されること無く、活物質粒子とバインダとの間の強力な接着およびバインダの高抗張力の組み合わせは、長いサイクル寿命のために必要とされる活物質層内の電気的接続を維持することの援助となると考えられている。PVDFなどの弾性バインダは、活物質層内の空隙を防止することの援助となり得るが、PVDFが示す低抗張力は、放出中の電極層内の機械的および電気的接続の保持に十分ではない可能性がある。PAA、PVDF、CMC、SBR、およびアルギネートバインダの内、PAAバインダは最も高い抗張力を示し、CMC、SBR、およびアルギネートがそれに続き、最後にPVDFが来ると考えられている。しかしながら、抗張力は単体では不十分である。抗張力は、バインダと活物質構造間の強力な結合と一体になる必要があり、それは本明細書に記載された技術を用いて活物質構造を処理することにより達成される。
【0032】
[0042] 電極内で電子導電率を維持することに加えて、活物質構造を処理することはイオン導電率の制御に役立つと考えられている。第1に、電極は典型的には、≧30%などの所定の気孔率をもって製造される。気孔率は、電解質溶液の電極活物質への輸送を容易にする。開かれた気孔は、リチウム化の際に破壊につながることなく活物質構造の体積膨張を収容するのに役立ち得る。処理は、電極層にわたる活物質粒子の均一な分布および均一な気孔率に貢献する。
【0033】
[処理および活物質構造の例]
[0043]
図2は、いくつかの実施形態による、活物質構造の結合特性を強化することを目的とする活物質構造を処理するための方法200のプロセスフローチャートである。方法200は、処理剤を含んだ溶液を調製することから始まり得る。処理剤のいくつかの例としては、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス−ガンマ−トリメトキシシリルプロピルアミン、アミノネオヘキシルトリメトキシシラン、アミノネオヘキシルメチルジメトキシシラン、ポリ(エチレンイミン)およびポリ(アリルアミン)などの、アミノシラン類、ポリ(アミン)類および/またはポリ(イミン)類が含まれる。例えば、SILQUEST(R)Y‐15744(オハイオ州、コロンバスにあるMomentive Materials Inc.より入手可能)は、アルコールおよびイオン交換水の酸性化混合物内に溶かされ得る。処理剤の体積濃度は約0.2%〜10%、またはより具体的には約1%〜5%であってよい。これらの濃度域は、密度が4g/ccの100gのシリコン構造の体積を基にしてよい。吸着技術を用いる場合には、例えばポリ(エチレンイミン)の0.5重量パーセント水溶液による活物質の処理は、所望の表面改質をもたらす。
【0034】
[0044] 方法200は、作業204中に溶液(処理剤を含む)を活物質構造と混合することに進み得る。いくつかの実施形態では、活物質構造はシリコン、スズ、および/またはゲルマニウムを含む。シリコンを含む構造は、シリコン含有構造と称され得る。いくつかの実施形態では、活物質構造はシリコンと炭素、シリコン−スズ合金またはその他の種類の組み合わせなどの数多くの材料を含み得る。これらの数多くの材料は、異なる種類の構造または同じ種類の構造において示され得る。例えばシリコン含有構造は、少なくとも作業204の前までは、炭素含有構造の一部ではないよう、溶液はシリコン含有構造および炭素含有構造と混合され得る。いくつかの実施形態では、同じ種類の構造は、作業204の前まではシリコンおよび炭素の両方を含み得る。例えば、シリコンコアおよび炭素シェルを含む構造が使用され得る。いくつかの実施形態では、方法は、炭素含有構造がシリコン含有構造上に層を形成するように溶液を炭素含有構造と混合することをも含み得る。
【0035】
[0045] いくつかの実施形態では、作業204は溶液の均一な分布および溶液(あるいはより具体的には処理剤)を用いた活物質粒子の表面の均一な被覆を確実にするために、溶液を活物質粒子と混合することを含み得る。いくつかの実施形態では、混合物の温度は約10℃〜60℃に維持されてよい。同じまたは別の実施形態では、アミノシラン処理の技術を使用する際には、混合物の酸性度は酢酸を用いて約4.5pH〜5.5pHに維持されてよい。
【0036】
[0046] 処理剤の量は、活物質粒子の表面積によって決まる。例えば、表面積が2.65m
2/gである活物質粒子は、100gの粒子に対して約0.1ml〜1mlの処理剤を受容し得るか、あるいは活物質粒子の表面積のうち265m
2に対して約0.1ml〜1mlの処理剤を受容し得る。過剰な量の処理剤はセルの性能に悪影響を与える可能性があり、望まれない副生成物または毒性を生成する。いくつかの実施形態では、過剰な量の処理剤は、処理剤を含まない溶媒を用いて活物質粒子を洗い流すことにより除去可能である。洗浄工程は、複数回繰り替えされ、例えば洗浄溶液のpHレベルのモニタリングにより制御され得る。一方で、不十分な量の処理剤は、バインダに対する適切な結合を提供し得ない。処理剤の量に影響を与え得るその他の要因は、活物質粒子の材料である。
【0037】
[0047] 特定の理論により制限されること無く、シリコンのアミノシラン処理は、ポリ(アミン)吸着とは異なると考えられている。吸着工程では、シリコン系活物質および炭素系活物質の両方が表面改質可能である。例えば、シリコン粒子は、シリコン粒子の表面上に単分子の吸着物質を形成するようポリ(エチレンイミン)(PEI)の水溶液で処理され得る。一旦、吸着質が形成されると、粒子は水中で正に帯電する。粒子は、水中で負に帯電する炭素含有粒子と結合されてよい。これにより、シリコン粒子を炭素系粒子で飾りかつ負に帯電した複合粒子を生み出すための静電結合がもたらされる。シリコン粒子と結合しなかった炭素系粒子の余りは、負に帯電したままである。最終的に、ポリ(エチレンイミン)溶液のさらなる添加は、全ての粒子に対して正の電荷を添加し得る(=−NRH
2+、R=Hまたは−CH
2-である)。電極を作るためには、粒子混合物はバインダ溶液中に分散され得る。例えば、水酸化ナトリウムで部分的に中和されたポリ(アクリル酸)が使用され得る。このバインダは、シリコン系粒子と炭素系粒子上のポリ(エチレンイミン)表面層に吸着し、ポリ(アンモニウムアクリル酸塩)を形成する。水の除去および
加熱後、その塩はポリ(アミド)に変換し、粒子とポリ(アクリル酸)マトリクス間に強力な界面接着をもたらす。
【0038】
[0048] いくつかの実施形態では、溶液を活物質粒子と混合する前に活物質粒子は、例えば、粒子の表面上に酸化物層を制御可能に形成するために、前処理され得る。
【0039】
[0049] 方法200は、作業206中に混合物を乾燥させることに進み得る。この作業中、処理剤溶液を調製するために使用された溶媒は除去されてよい。乾燥は段階的に実施され得る。例えば、作業206は空気乾燥から始まってよく、その次に約60℃で乾燥され(例えば、約2時間)、最後に約
100℃で硬化される(例えば、約1時間)。段階的に乾燥することにより、溶液中にアルコールと水の両方が使用されている場合には、低い温度で乾燥することはアルコールの円滑な除去を確実なものとし、次に高い温度で乾燥することは水の円滑な除去を確実なものとする。さらには、約80℃より上の温度、例えば約100℃などの高い温度においては、Si-O-R結合が形成される縮合反応が引き起こされ得る。縮合反応は、シラン分子とシリコン粒子との間の結合を確立する。また段階的な乾燥工程は、望ましくない気孔率またはその他の有害な効果をもたらす可能性がある、混合物内における蒸気の急な発生を防止する。いくつかの実施形態では、乾燥工程は室温で24時間乾燥した後に、100℃で30分または120℃で10分乾燥することを含む。
【0040】
[0050] いくつかの実施形態では、作業206は熱処理をも含む。熱処理は、1つまたは複数の処理材をシリコン含有構造の外側表面に吸着固定または共有結合的に固定し得る。熱処理は、約80℃〜130℃の温度で実施され得る。
【0041】
[0051] いくつかの実施形態では、処理剤は活物質粒子の表面と共有結合を形成する。そのため、処理剤は活物質構造の一体部分となり、これらの構造の表面に固定される。アミン基を担持する処理剤の反対の端部は、PAAなどのバインダポリマー上のカルボン酸基への結合に使用可能である。
【0042】
[0052] 作業206の生成物は、処理表面を有する活物質構造であり得る。処理された活物質構造は、スラリーの混合などのさらなる工程の間に簡単に分散できる軟凝集体を形成し得る。
図3A〜3Cは、処理された活物質構造の異なる例を示す。具体的には
図3Aは、表面が部分的にのみ処理剤により覆われ、それにより斑304a〜304eが形成される処理された活物質構造300を示す。元の活物質構造302は部分的には、処理剤で覆われないままである。
図3Bは、表面の全体が処理剤により覆われ、それにより元の活物質構造によるコア312および処理剤によるシェル314を形成する処理された活物質構造310を示す。
図3Cは、同一シェル314で囲まれた2つの活物質構造322aと322bとを含む処理された活物質凝集体320を示す。この凝集体が崩れた時には、また崩れた場合には、活物質構造322aと322bの一部は覆われないままである。
【0043】
[製造および電気化学セルの例]
[0053]
図4は、いくつかの実施形態による、処理された活物質構造を使用して電極を形成する方法400に対応するプロセスフローチャートである。方法400は、作業402中にスラリーを調製することから始めてよい。処理された活物質構造は、バインダと混合されてよい。いくつかの実施形態では、同一スラリー内に複数の異なる活物質構造が混合され得る。これらの異なる構造のうちの少なくとも1つは、上述の技術に従って処理され得る。その他の種類の構造は、処理されていない可能性がある。例えば、処理されたシリコン粒子は、処理されていない黒鉛粒子を有するスラリーと同一のスラリーに混合され得る。
【0044】
[0054] いくつかの実施形態では、アミノシラン処理またはポリ(アミン)吸着のいずれかにより表面改質されたシリコン粒子は、部分的に中和された(pH〜6)ポリ(アクリル酸)の水性バインダ内に容易に分散される。ポリ(アミン吸着)によって表面改質された炭素系粒子と、シリコン粒子上に堆積された後にポリ(アミン)吸着により表面改質された炭素系粒子とは、同じぬれ挙動および分散挙動を示す。
【0045】
[0055] 方法400は、導電基板上にスラリーを塗布し(作業404)、基板上にスラリーを乾燥させること(作業406)に進み得る。いくつかの実施形態では、サイクル中に活物質粒子が膨張および収縮する際の基板の層間剥離および/または変形の影響を減少させるために、結節状の表面を有する基板を使用してよい。同一のまたは別の実施形態では、基板は銅金属合金または積層板(例えば、高い機械的強度で別の基板に電気めっきされた銅)、ニッケルまたはその他の金属箔を含み得る。
【0046】
[0056]
図5は、いくつかの実施形態による、巻回円筒セル500の概略断面図を示す。正電極506、負電極504およびセパレータストリップ508は、筒状ケース502内に挿入される、いわゆる「ジェリーロール」に巻かれ得る。具体的には、ジェリーロールは、螺旋状に巻かれた正電極506、負電極504および2つのセパレータストリップ508のアセンブリを含む。
【0047】
[0057] ケース502は、特にリチウムイオンセルにおいては、剛性であってよい。その他の種類のセルは、柔軟な箔型(ポリマー積層体)ケース内に充填される。ケース502には種々の材料が選択可能である。ケース材料の選択は、部分的にはケース502の極性に基づく。ケース502が正電極506に接続されている場合には、ケース502はチタニウム6‐4、その他のチタニウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、および300シリーズステンレス鋼から形成され得る。一方で、ケース502が負電極504に接続されている場合には、ケースはチタニウム、チタニウム合金、銅、ニッケル、鉛、およびステンレス鋼から形成され得る。いくつかの実施形態では、ケース502は中性(すなわち、正電極や負電極とは異なる極性を有する)であり、例えば金属リチウムから作られた補助電極に接続され得る。ケース502と電極との間の電気的接続は、電極とケース502に接続されたタブによるケース502とこの電極(例えば、ジェリーロールの外側巻回)間の直接的な接続、およびその他の技術により確立され得る。ケース502は、一体型の底部を有し得る。代替的には、底部は溶接、はんだ付け、圧着およびその他の技術により取り付けられ得る。底部およびケースは、同一または異なる極性を有していてよい(例えば、ケースが中性である場合)。
【0048】
[0058] ジェリーロールの挿入に使用されるケース502の頂部は、ヘッダアセンブリ510で覆われてよい。いくつかの実施形態では、ヘッダアセンブリ510は溶接プレート516、ラプチャーメンブレン514、PTCベースの再設定可能なヒューズ516、ヘッダカップ518および絶縁ガスケット519を含む。溶接プレート512、ラプチャーメンブレン514、PTCベースの再設定可能なヒューズ516およびヘッダカップ518はすべて導電性材料から作られ、電極(
図5の負電極504)およびセルコネクタ520(
図5のヘッダカップ518と一体化されるあるいはヘッダカップ518に取り付けられる)間の電気を通すために使用される。絶縁ガスケット519は、ヘッダアセンブリ510の導電性部材を支持しこれらの構成要素をケース502から絶縁するために使用される。溶接プレート512は、タブ509で電極に接続され得る。タブ509の一端は、電極に溶接されてよく(例えば、超音波溶接または抵抗溶接される)、タブのもう一方の端は、溶接プレート512に溶接されてよい。溶接プレート512およびラプチャーメンブレン514の中心は、ラプチャーメンブレン514が凸形状であるために接続される。セル500の内部圧力が増加すれば(例えば、電解質分解およびその他のガス放出プロセスにより)、ラプチャーメンブレン514はその形状を変え溶接プレートから切り離され、その結果として電極とセルコネクタ520との間の電気的接続が壊される。
【0049】
[0059] PTCベースの再設定可能なヒューズ516は、ラプチャーメンブレン514の縁およびヘッダカップ518の縁の間に配置され、これら2つの要素を効果的に相互連結する。通常の動作温度では、PTCベースの再設定可能なヒューズ516の抵抗は低い。しかしながらその抵抗は、PTCベースの再設定可能なヒューズ516が例えばセル500内に放出された熱により加熱された場合に、実質的に増加する。PTCベースの再設定可能なヒューズは、ラプチャーメンブレン514をヘッダカップ518から電気的に切り離すことができる熱的に活性化した回路遮断機であり、結果としてPTCベースの再設定可能なヒューズ516の温度がある限界温度を超えた場合に電極をセルコネクタ520から切断する。いくつかの実施形態では、セルまたは電池パックはPTCベースの再設定可能なヒューズに加えて、またはPTCベースの再設定可能なヒューズに代えて、負熱係数(NTC)の安全装置を使用し得る。
【0050】
[0060] ヘッダカップ518は、ヘッダアセンブリ510の外部構成要素である。ヘッダカップ518は、セルコネクタ520に取り付けられるか、セルコネクタ520と一体化され得る。取り付けまたは一体化は、ケース502にヘッダアセンブリ510を形成および/またはヘッダアセンブリ510を取る付ける前に実施され得る。そのため、この取り付けおよび/または一体化には、高温、機械的応力およびその他の一般的には破壊的な特性が使用可能である。
【0051】
[0061] 電気化学セルの種類は、正電極および負電極に使用される活物質ならびに電解質の組成物により決定される。正活物質の例としては、M′とM′′は異なる金属である
Li(M′
XM′′
Y)O
2(例えば、Li(Ni
XMn
Y)O
2、Li(Ni
1/2Mn
1/2)O
2、Li(Cr
XMn
1−X)O
2、Li(Al
XMn
1−X)O
2)、Mは金属であるLi(Co
XMn
1−X)O
2(例えば、Li(Co
XNi
1−X)O
2とLi(Co
XFe
1−X)O
2)、Li
1−W(Mn
XNi
YCo
Z)O
2(例えば、Li(Co
XMn
y−Ni
(1−X−Y))O
2、Li(Mn
1/3Ni
1/3Co
1/3)O
2、Li(Mn
1/3Ni
1/3Co
1/3.xMgx)O2、Li(Mn
0.4Ni
0.4Co
0.2)O
2、Li(Mn
0.1Ni
0.1Co
0.8)O
2)、Li
1−W(Mn
XNi
XCo
1−2X)O
2、Li
1−W(Mn
XNi
YCoAl
W)O
2、Li
1−W(Ni
XCo
YAl
Z)O
2(例えば、Li(Ni
0.8Co
0.15Al
0.05)O
2)、Mは金属であるLi
1−W(Ni
XCo
YM
Z)O
2、Mは金属であるLi
1−W(Ni
XMn
YM
Z)O
2、Li(Ni
X−YMn
YCr
2−X)O
4、M′とM′′は異なる金属であるLiM′M′′
2O
4(例えば、LiMn
2−Y−ZNi
YO
4、LiMn
2−Y−ZNi
YLi
ZO
4、LiMn
1.5Ni
0.5O
4、LiNiCuO
4、LiMn
1−XAl
XO
4、LiNi
0.5Ti
0.5O
4、Li
1.05Al
0.1Mn
1.85O
4−ZF
Z、Li
2MnO
3)Li
XV
YO
Z、例えばLiV
3O
8、LiV
2O
5およびLiV
6O
13、Mは金属であるLiMPO4が含まれ、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)は一般例である。いずれも、比較的強いリン酸結合は過充電中に格子内に酸素を保持する傾向にあることから、安価であり高い安定性と安全性を有するが、導電性が低くかなりの量の導電性添加剤(M′とM′′は異なる金属であるLiM
XM′′
1−XPO
4(例えば、LiFePO
4)、Mは金属であるLiFe
XM
1−XPO
4、LIVOPO
4Li
3V
2(PO
4)
3、Mは鉄またはバナジウムなどの金属であるLiMPO
4)を必要とする。さらには、正電極は充電および放電容量を向上させるために、V
6O
13、V
2O
5、V
3O
8、MoO
3、TiS
2、WO
2、MoO
2およびRuO
2などの二次的な活物質を含み得る。
【0052】
[0062] 正電極材料の選択は、セル容量、安全要求事項、設定されたサイクル寿命等のいくつかの検討事項によって決まる。携帯用電子機器や医療機器等のための高い重量容量および/または容積を必要とする小さいセルにおいては、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)が使用され得る。コバルトは、部分的にはSn,Mg,Fe,Ti,Al,Zr,Cr,V,Ga,Zn,またはCuに置換されてよい。リチウムニッケル酸化物(LiNiO
2)等の特定の材料は熱暴走する傾向が少ない可能性がある。リチウムマンガン酸化物(LiMnO
2)等のその他の材料は、十分な費用有意性を提供する。さらには、リチウムマンガン酸化物の三次元結晶構造体はより多くの表面積を提供することから、リチウムマンガン酸化物は比較的高い電力密度を有し、そのためより多くの電極間のイオン末を容認する。
【0053】
[0063] 活物質は、活物質とセル端子との間に電流を送達するために導電基板上に層として堆積され得る。基板材料は、銅および/または銅樹枝状結晶被覆金属酸化物、ステンレス鋼、チタニウム、アルミニウム、ニッケル(拡散障壁としても使用される)、クロム、タングステン、窒化金属、金属炭化物、炭素、炭素繊維、黒鉛、グラフェン、炭素網、導電性高分子、または多層構造を含むこれらの組み合わせを含み得る。基板材料は、箔、膜、網、薄板、ワイアー、チューブ、粒子、多層構造またはその他の適切な構成として形成されてよい。一例では、基板は約1マイクロメートル〜50マイクロメートルの厚さを有するステンレス鋼箔である。別の実施形態では、基板は約5マイクロメートル〜30マイクロメートルの厚さを有する銅箔である。さらに別の実施形態では、基板は約5マイクロメートル〜50マイクロメートルの厚さを有するアルミニウム箔である。
【0054】
[0064] いくつかの実施形態では、隔離材はポリ(エチレン−コ−テトラフルオロエチレン)(PETFE)およびポリ(エチレンクロロ−コ−トリフルオロエチレン)のフルオロポリマー繊維から織られた布を含み得、その布は単体またはフルオロポリマーの微孔膜が積層されて使用される。さらには、隔離材は、ポリスチレン類、ポリ塩化ビニルポリプロピレン、ポリエチレン(LDPE、LLPDE、HDPEおよび超高分子量ポリエチレンを含む)、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリアクリル酸類、ポリアセタール類、ポリカーボネート類、ポリエステル類、ポリエーテルイミド類、ポリイミド類、ポリケトン類、ポリフェニルエーテル類、硫化ポリフェニレン類、ポリメチルペンテン、ポリスルホン類不織ガラス、ガラス繊維材料類、セラミック類および米国のノースカロライナ州、シャーロットにあるCelanese Plastic Company,Inc.と共に日本の東京都にある旭化成工業株式会社、日本の東京都にある東燃株式会社、日本の東京都にある宇部興産株式会社および日本の大阪府にある日東電工株式会社から「GELGARD」の名称で市販されているポリプロピレンメンブレンを含み得る。一実施形態では隔離材は、上記のうちのいずれかのコポリマーまたはそれらの混合物を含み得る。
【0055】
[0065] 典型的な隔離材は次の特性を有する。約800秒未満の空気抵抗(ガーレー数)、またはより具体的な実施形態においては約500秒未満の空気抵抗(ガーレー数);約5μm〜500μmの厚さ、または具体的な実施形態においては約10μm〜100μmの厚さ、またはさらに具体的には約10μm〜30μmの厚さ;約0.01μm〜5μmの範囲の孔径またはより具体的には約0.02μm〜0.5μmの範囲の孔径;約20%〜85%の範囲の気孔率、またはより具体的には約30%〜60%の範囲の気孔率。
【0056】
[0066] リチウムイオンセルにおける電解質は液体、固体またはゲルであってよい。固体電解質を有するリチウムイオンセルは、リチウムポリマーセルとも呼ばれる。典型的な液体電解質は、1つ以上の溶媒および1つの以上の塩を含み、そのうちの少なくとも1つはリチウムを含む。第1充電サイクル中(生成サイクルともよばれる場合もある)、電解質内の有機溶媒は、固体電解質相間層(SEI層)を形成するために負電極の表面上に部分的で分解可能である。相間層は、後の充電サブサイクルにおける電解質の分解をも防ぐ。
【0057】
[0067] いくつかのリチウムイオンセルに最適な非水溶媒のいくつかの例は、以下を含む。環状カーボネート類(例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)およびビニールエチレンカーボネート(VEC))、ラクトン類(例えば、ガンマ−ブチロラクトン(GBL)、ガンマ−バレロラクトン(GVL)およびアルファ−アンゲリカラクトン(AGL))、直鎖状カーボネート類(例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルブチルカーボネート(NBC)、ジブチルカーボネート(DBC))、エーテル類(例えば、テトロヒドラフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン、および1,2−ジブトキシエタン)、ニトリル類(例えば、アセトニトリルおよびアジポニトリル)、直鎖状エステル類(例えば、メチルプロピオネート、メチルピバレート、ブチルピバレートおよびオクチルピバレート)、アミド類(例えば、ジメチルホルムアミド)、有機リン酸塩類(例えば、リン酸トリメチルおよびリン酸トリオクチル)およびS=OまたはSO
2基を含む有機化合物(例えば、ジメチルスルホンおよびジビニルスルホン)およびこれらの組み合わせ。
【0058】
[0068] 初期の電解質に存在し得る溶媒の例は、環状カーボネート類(例えば、エチレンカーボネート(EC)およびプロピレンカーボネート(PC))、直鎖状カーボネート類(例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)および
エチルメチルカーボネート(EMC))、フッ素化環状および直鎖状カーボネート類(例えば、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC))を含む。さらには、スルホン類、ニトリル類、ジニトリル類、エステル類、およびエーテル類などの非カーボネートの溶媒も使用され得る。
【0059】
[0069] 非水溶液体溶媒も、併せて採用され得る。組み合わせの例としては、環状カーボネート−直鎖状カーボネート、環状カーボネート−ラクトン、環状カーボネート−ラクトン−直鎖状カーボネート、環状カーボネート−直鎖状カーボネート−ラクトン、環状カーボネート−直鎖状カーボネート−エーテル、および環状カーボネート−直鎖状カーボネート−直鎖状エステルの組み合わせが含まれる。一実施形態では、環状カーボネートは直鎖状エステルと組み合わされてよい。さらには、環状カーボネートはラクトンおよび直鎖状エステルと組み合わせられてよい。特定の実施形態では、環状カーボネート対直鎖状エステルの容量の比は、約1:9〜10:0の間、好ましくは2:8〜7:3である。
【0060】
[0070] 電解質用の塩は以下のうち1つまたは複数を含んでよい。LiPF
6,LiBF
4,LiClO
4LiAsF
6,LiN(CF
3SO
2)
2,LiN(C
2F
5SO
2)
2,LiCF
3SO
3,LiC(CF
3SO
2)
3,LiPF
4(CF
3)
2,LiPF
3(C
2F
5)
3,LiPF
3(CF
3)
3,LiPF
3(iso−C
3F
7)
3,LiPF
5(iso−C
3F
7),環状アルキル基類を有するリチウム塩(例えば、(CF
2)
2(SO
2)
2XLiおよび(CF
2)
3(SO
2)
2XLi)およびこれらの組み合わせ。一般的な組み合わせとしては、LiPF
6とLiBF
4,LiPF
6とLiN(CF
3SO
2)
2,およびLiBF
4とLiN(CF
3SO
2)
2が含まれる。
【0061】
[0071] 一実施形態では、液体非水溶媒(または溶媒の組み合わせ)における塩の全濃度は、少なくとも約0.3Mであり、より具体的な実施形態においては、塩濃度は少なくとも約0.7Mである。濃度上限は、溶解限度によって決定されるか、あるいは約2.5Mよりも上であってはならず、より具体的な実施形態においては、約1.5Mより上ではない。
【0062】
[実験結果]
[0072]
図6Aは、異なる負極活物質を使用して作られた2つのセルについてのサイクルのデータプロット600を示す。具体的には、ライン602は未処理シリコン合金粒子を用いて作られた対照セルのサイクルデータを表す。ライン604は、アミノシラン処理されたシリコン合金粒子を用いて作られた制御セルのサイクルデータを表す。
【0063】
[0073] 処理される前までは、シリコン粒子は対照セルのシリコン粒子と同じであった。処理プロセスは、シリコン粒子をアミノ官能性オルガノアルコキシシロキサン溶液である、SILQUEST(R)Y−15644(オハイオ州のコロンバスにあるMomentive Performance Materials Inc.より入手可能)と混合をすることを含む。100グラムごとのシリコン粒子に対して、0.25ミリリットルのオルガノアルコキシシロキサンが使用された。オルガノアルコキシシロキサンは最初に、オルガノアルコキシシロキサン溶液を作るためにイオン交換水と試薬等級エタノールの酸性化した混合物内に溶解される。0.25ミリリットルごとのオルガノアルコキシシロキサンに対して、11ミリリットルのアルコール−水混合物に加えて1滴の氷酢酸が使用された。混合物におけるアルコール対水の体積比は、10:1である。1滴の氷酢酸は、溶液のpHを4.5〜5.5まで下げる。オルガノアルコキシシロキサン溶液は、アルコキシ基を加水分解するために約5分間振り混ぜられた。新たに調製されたオルガノアルコキシシロキサン溶液は、次に混成中にシリコン粒子に液滴として添加される。シラン処理されたシリコン粒子は、室温の空気中で2時間乾燥させられ、続いて60℃のオーブン内で2時間乾燥され、最後に100℃で1時間硬化された。上述されるように、段階的に乾燥することは適度な速度でアルコールと水を除去し、混合物内での蒸気の形成を防ぐ。さらには、ほとんどのアルコールと水を除去した後に温度を100℃に上昇させることは、分子の加水分解されたオルガノアルコキシシロキサン末端とシリコン粒子の表面上のSi−OH基間の縮合反応を引き起こす。この縮合反応は、シリコン粒子とシロキサン添加剤間にSi−O−R型のリンクを形成する。次に、オルガノアルコキシシロキサン処理された粒子は、対照セルに関した上述の手順に従い、スラリー、電極およびセルの調製に使用される。
【0064】
[0074] いずれのセルも、60重量%のシリコン粒子(処理済みまたは未処理)、28重量%の黒鉛、2重量%の導電性炭素(スーパーP)および10重量%のPAAバインダを含む負電極を有する。これらの負電極を使用してハーフセルが構築された。正電極として、リチウム金属が使用された。電解質は、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、LiPF
6、およびイミド塩の混合物と共に添加剤を含む。
【0065】
[0075] いずれのセルも同じ条件でサイクルを経た。サイクルは、0.005Vと0.9Vとの間で実行された。最初の二回のサイクルは、それぞれC/20の率で実施され、次にC/5の継続的なサイクルが続いた。
図6Aから分かるように、オルガノアルコキシシロキサン処理された粒子を使用して作られたセルは、未処理のシリコン粒子を使用して作られたセル(すなわち、対照セル)と比較して、より長くより安定したサイクル寿命を示した。対照セルの容量は、わずか40サイクル後に初期容量の80%未満に減衰し始めた一方で、オルガノアルコキシシロキサン処理されたシリコン粒子を有するセルの容量は、80サイクルの後でも初期容量の95%より上を維持した。特定の理論に制限されることなく、未処理のシリコン構造のいくつかは、それらが電極内のその他の導電性材料から分離することから、電流コレクタから電気的に切断されることになると考えられている。この分離は、未処理のシリコン構造とバインダ間の弱い結合により引き起こされると考えられている。一方で、処理されたシリコン構造は、バインダと強い結合を形成し、この結合は電極内のその他の導電性材料との電気的接続を一層よく維持するために処理されたシリコン構造を結び付け、その結果電流コレクタとの電気的接続を維持する。
【0066】
[0076]
図6Bは、異なる負極活物質を使用して作られた3つのセルのサイクルのデータプロット610を示す。具体的には、線612は、
図6Aに関連して上述された未処理のシリコン粒子を使用して作られた制御セルのサイクルデータを表す。線614は、シラン処理されたシリコン粒子を使用して作られたセルのサイクルデータを表す。シラン処理については以下に説明が記載されている。線616は、ポリ(エチレンイミン)(PEI)により処理されたシリコン粒子を使用して作られたセルのサイクルデータを表す。
【0067】
[0077]
図6Bから分かるように、PEI処理されたシリコン粒子を使用して作られたセルは、未処理のシリコン粒子を使用して作られたセル(すなわち、対照セル)のサイクル寿命よりもさらに長くさらに安定したサイクル寿命を表す。PEI処理されたシリコン粒子を有するセルの容量は、80サイクルの後でも初期容量の90%より上を維持した。特定の理論に制限されることなく、PEI処理は粒子とバインダ間の接着性を向上させ結果として電極内のその他の導電性材料との電気的接続がより堅固なものとなり、その結果電流コレクタとの電気的接続がより堅固なものとなる。
【0068】
[0078] 線614はアミノシラン処理シリコンの性能を表し、線616はポリアミン(PEI)処理されたシリコンの性能を表す。線612は、未処理のシリコンを用いた対照の性能を表す。ポリ(アミン)吸着に関しては、40gのシリコン粒子が80mLのポリ(エチレンイミン)(PEI)溶液に混合された。溶液は、水中(pH9−10、紙)において0.2%のPEI(Sigma Aldrich,Part#181978;MW〜750,000)を含む。混合物は、ポリエチレン製のボトルに入れられ、約9時間にわたりBurrell Wrist Action Shakerを用いて振り混ぜられた。その分散のうち5gがその他の実験のために取り除かれた。残りは、濾塊およびpH〜9の上澄液を得るためにEppendorf#5804チューブを使用して11,000rpmで15分間遠心分離された。濾塊は、水中に再分散されたあとに遠心分離されることにより接着性のPEI溶媒が抜かれる。この工程は、上澄液のpHが水のpH(〜7)と同じである場合には、2回繰り替えられる。濾塊は、ポリ(エチレン)製のボトルに移され、〜80mLの水の中に再分散される。その分散には、17.92gの黒鉛(CGP G5)および1.28gのカーボンブラック(スーパーP)が添加された。混合物は、Burrell Wrist Action Shakerを用いて約2時間撹拌され、その後11,000rpmで15分にわたり遠心分離され、上澄液のデカンテーションがなされ、濾塊は〜80mLの0.01%のPEI溶媒内に分散され、Burrell Wrist Action Shakerを用いて約1時間振り混ぜされた後に、11,000rpmで15分にわたり遠心分離され、上澄液のデカンテーションがなされる。上澄液は、黒鉛であると考えられるわずかな「光沢」を上部に有していた。その量は<50mgであると推測される。濾塊は、さらに一度0.01%PEI溶液内に再分散され、遠心分離された。遠心分離管内の湿った濾塊の一部は、ペトリ皿上に移され、その一方でいくらかは管内に残された。ペトリ皿および管の両方にある生成物は、2時間にわたり油式真空ポンプの真空により作られた低圧で室温で乾燥され、その後70℃の真空で一晩乾燥された。乾燥した生成物は綿状の灰色なパウダーであり、パウダーはポリエチレンのジャーに移された。ポリエチレンのジャー内のパウダーは、Burrell Wrist Action Shakerを用いて、凝集体を崩すために3時間にわたり振り混ぜられた。生成物の内53gが回復した。
【0069】
[結論]
[0079] 明確な理解を目的として、上述の概念が詳細に記載されたが、添付の特許請求の範囲内で特定の変更および修正を実施することが可能であることは明白である。工程、システムおよび装置を実施するための代替的方法が数多くあることに留意されたい。そのため、本実施形態は、制限を目的としたものではなく例示を目的としたものであるとして考慮されたい。