(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289630
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】酸素還元電極触媒用の窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/18 20170101AFI20180226BHJP
H01M 4/90 20060101ALN20180226BHJP
H01M 4/88 20060101ALN20180226BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20180226BHJP
【FI】
C01B32/18
!H01M4/90 X
!H01M4/88 C
!H01M8/10 101
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-526131(P2016-526131)
(86)(22)【出願日】2014年10月22日
(65)【公表番号】特表2016-536248(P2016-536248A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】IN2014000675
(87)【国際公開番号】WO2015059718
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2016年6月6日
(31)【優先権主張番号】3169/DEL/2013
(32)【優先日】2013年10月25日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】596020691
【氏名又は名称】カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】スリークマール・クルンゴット
(72)【発明者】
【氏名】スリークッタン・マラビードゥ・ウンニ
(72)【発明者】
【氏名】サラート・ラマダス
【審査官】
磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−170093(JP,A)
【文献】
C-M YANG; NOGUCHI H; MURATA K; YUDASAKA M; HASHIMOTO A; IIJIMA S; KANEKO K,HIGHLY ULTRAMICROPOROUS SINGLE-WALLED CARBON NANOHORN ASSEMBLIES,ADVANCED MATERIALS,WILEY-VCH PUBLISHERS,2005年 3月30日,VOL:17, NR:7,PAGE(S):866 - 870,URL,http://dx.doi.org/10.1002/adma.200400712
【文献】
J. Power Sources, Vol.220, p.449-454 (2012)
【文献】
J. Phys. Chem. C, Vol.113, No.20, p.8660-8667 (2009)
【文献】
フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム講演要旨集, Vol.44, p.73 (2013)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/18
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 8/10
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カーボンナノホーンを前処理する工程;
(b)工程(a)のカーボンナノホーンを、窒素源の存在下、500〜1200℃で1〜3時間アニールする工程
を含み、
カーボンナノホーンの前処理によって、カーボンナノホーンを官能基化し、
官能基化が、過酸化水素を用いて行われる、導電率を高め、表面積を向上した窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法。
【請求項2】
前記カーボンナノホーンが、単層カーボンナノホーンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記窒素源が、尿素、メラミンから選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記窒素ドープカーボンナノホーンが、FeおよびCoから選択された金属で、コドープされている、請求項1記載の方法。
【請求項5】
窒素ドープカーボンナノホーンの表面積が、300〜1500[m2/g]である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
窒素ドープカーボンナノホーンの導電率が、5〜9[S/cm]である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
300〜1500[m2/g]の表面積および5〜9[S/cm]の導電率を有する窒素ドープカーボンナノホーンを製造する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
酸素還元反応(ORR)に使用するために、窒素ドープカーボンナノホーンを製造する、請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元電極触媒用の窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法に関する。特に、本発明は、導電率を高め、表面積を向上した窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法を提供する。更に、本発明は、陰イオン交換膜燃料電池用の効率的な金属不含酸素還元電極触媒として使用するための、導電率を高め、表面積を向上した窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金触媒の高いコストおよび入手困難であることは、高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)を実用化することに対する主な障害である。白金系触媒は、現在の状況下ではPEMFCカソードのために避けられないので、白金系触媒に匹敵するか、またはそれより高い活性を示す低コストの材料が要求されており、かつ難題である。速度論的に遅い酸素還元反応(ORR)を改善するために、炭素同素体が最良の候補であることが証明されている。炭素の形態のほとんどは、良好な電気伝導性とともに高い表面積が不足している。表面積および電気伝導性の両方が、ORRのための材料の不可避な特性である。しかし、両者は互いに相補的である。材料の表面積が増加している場合、同時にその導電率が低下する。そこで、高い表面積および導電率の両方を有する材料を提供することが重要である。
【0003】
グラフェンは、2000[m
2/g]を超える理論上の表面積を有することが報告されている。しかしながら、合成されたグラフェンの表面積は、1000[m
2/g]未満である。別の方法は、グラフェンの表面積を向上するために使用されてきたが、それによってグラフェンの電気伝導度を低下させる。カーボンナノチューブ、ナノファイバーなどのような他の炭素形態は、低い表面積を有するが、良好な導電率を有する。最近では、ヘテロ原子ドープ、主に窒素ドープカーボン形態は、白金系ORR触媒の代替物となることが証明されている。しかし、窒素ドープと共に(適切な質量拡散のための)高い表面積と高い導電性を有するナノ構造体は、まだ科学界に対する障害のままである。
【0004】
非特許文献1には、大気圧下、管形反応器内で流動する窒素アシストアーク放電法により合成した窒素ドープ単層カーボンナノホーン(N‐SWCNHs)が開示されている。X線回折および熱重量分析は、高い品質を有することが判明した。走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡検査により、N‐SWCNHsは40〜80nmの直径を有する典型的な球状構造を有することが示されている。酸化処理により、N‐SWCNHsの円錐形のキャップの開口を示唆している。FT−IRおよびX線光電子分光分析により、窒素原子の大部分はN−6、N−5、および欠陥部位またはグラフェン層の縁部に存在する三重結合‐CN結合配置であることを示している。
【0005】
非特許文献2には、単層カーボンナノホーン(SWCNHs)、円錐形の先端を有する円錐状の単層の細管が開示されている。これらは一般に、高い生産速度および高い収率で金属触媒を用いずに、純粋なグラファイトのレーザーアブレーションによって合成され、一般的に放射状の凝集体を形成する。SWCNHsは、本質的に金属を含まず、非常に純粋であり、煩雑な精製を回避し、取り扱いが簡単で環境に優しくなる。現在、SWCNHsは、ガス貯蔵、吸着、触媒担体、薬物送達システム、磁気共鳴分析、電気化学、バイオセンシング用途、太陽光発電および光電気化学電池、光力学療法、燃料電池などの様々な用途のために広く研究されている。このレビューは、それらの特性、機能化、応用、および展望を含む、SWCNHsに関する研究の経過を概説する。
【0006】
非特許文献3には、酸素還元反応(ORR)のための有望な金属不含触媒としての窒素ドープグラフェン(NG)が開示されている。グラフェン酸化物と尿素の熱分解によるNGの容易かつ低コストの合成が開示されている。NG中の窒素含有量は、ORRに対して優れた触媒活性を生じる黒鉛状窒素を高い割合(約24%)で有して、7.86%以下であってもよい。
【0007】
非特許文献4には、グラフェンの電子的および化学的性質は、外来原子および官能性部分を化学ドープすることによって調節することができることが開示されている。このような気体相で行われる化学蒸着(CVD)などの窒素ドープグラフェン(NG)の合成への一般的方法は、結果として得られる生成物を汚染し、したがって、それらの特性に悪影響を与える可能性のある遷移金属触媒を必要とする。上記文献は、窒素源として低コストの工業材料のメラミンを用いたNGの大規模合成のための容易な、無触媒熱アニーリング法を開示している。この方法によれば、遷移金属触媒の混入を完全に回避することができ、したがって、純粋なNG固有の触媒性能を調べることができる。得られた生成物の詳細なX線光電子スペクトル分析により、ドープされたグラフェン試料中の窒素の原子百分率を10.1%以下に調整することができることを示している。このような高いドーピングレベルは、以前に報告されていない。高解像度N1sスペクトルにより、生成したままのNGは主にピリジン性の窒素原子を含有することを明らかにする。電気化学的特性分析により、窒素ドーピングレベルとは無関係である、アルカリ性電解質中での酸素還元反応(ORR)に対するNGの優れた電極触媒活性を明確に示す。このような触媒不含方法により、燃料電池の電子装置およびカソード材料、並びにバイオセンサー用のグラムスケールでのNGを合成する可能性を広げる。
【0008】
非特許文献5には、液体窒素中で黒鉛電極の液面下アーク放電により製造された単層ナノホーン(SWCNHs)が開示されている。その試料を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡およびラマン分光法により調べた。窒素およびホウ素ドープSWCNHsは、前駆体としてのメラミンおよびホウ素元素を用いる液面下アーク放電法により製造されてきた。ラマンDバンドの強化およびとGバンドの硬化が、ドープした試料において観察された。SWCNHsの電気抵抗は、窒素およびホウ素ドーピングと反対方向に変化する。アミド化によってSWCNHsの官能基化は、非極性溶媒中で、それらを可溶化するために行われた。水溶性SWCNHsは、酸処理およびコロネン塩による非共有結合官能基化によって製造された。SWCNHsは、金、銀および白金のナノ粒子で装飾されている。SWCNHsと電子供与体(テトラチアフルバレン、TTF)およびアクセプター分子(テトラシアノエチレン、TCNE)との相互作用は、ラマン分光法によって研究されてきた。ラマンGバンドの進行性軟化および硬化が、それぞれTTFおよびTCNEの濃度の増加に伴って、観察された。
【0009】
非特許文献6には、アセトニトリル熱分解によって開発された窒素含有炭素ナノ構造体(CNx)触媒は、PEMおよび直接メタノール燃料電池環境下での酸素還元反応(ORR)において、その役割をより良く理解するために研究されてきた。硝酸でのCNx触媒のさらなる官能基化は、ORRに対する活性および選択性の両方を向上する能力を有する。
【0010】
非特許文献
7には、竹状構造を有する配向窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)は、異なる窒素前駆体としてメラミンおよび尿素を用いる熱化学蒸着法によって合成されることが開示されている。一方、触媒および炭素前駆体として、フェロセンを使用する。メラミンを用いて得られるNCNT(M‐NCNT)は、電流密度と伝達された電子の数を制限するという点で優れたORR性能を示した。X線光電子分光法(XPS)およびラマン分光法によるさらなる特性分析により、尿素を用いるNCNT(U‐NCNT)に比較して、M‐NCNTにおいて高い窒素含有量および多くの欠陥を示し、NCNTの窒素含有量および構造における、窒素前駆体の重要な役割を示している。NCNTのより高い窒素含有量とより多くの欠陥がORRの高い性能につながると結論づけられる。
【0011】
非特許文献8および非特許文献9に開示されているように、単純な酸化は、その表面積を増大させる、単層カーボンナノホーン(SWCNH)の壁面に「ナノウインドー」を形成することが観察される。
【0012】
しかし、陰イオン交換膜燃料電池の触媒としての使用を可能にする特性を示すドープカーボンナノホーンが開示されている報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【非特許文献1】L Sun et al.,“Flowing nitrogen assisted−arc discharge synthesis of nitrogen−doped single−walled carbon nanohorns”, Applied Surface Science, 15 July 2013, Volume 277, Pages 88−93
【非特許文献2】S Zhu et al.,“Single−walled carbonnanohorns and their applications”,Nanoscale, 2010, 2, 2538−2549
【非特許文献3】Z Lin et al.,“Facile Synthesis of Nitrogen−Doped Graphene via Pyrolysis of Graphene Oxide and Urea, and its Electrocatalytic Activity toward the Oxygen−Reduction Reaction”, Advanced Energy Materials, July, 2012, Volume 2, Issue 7, pages 884−888
【非特許文献4】ZH SheNGet al.,“Catalyst−free synthesis of nitrogen−doped graphene viathermal annealiNG graphite oxide with melamine and its excellent electrocatalysis”, ACS Nano, 2011, 5(6), pp 4350−4358
【非特許文献5】K Pramoda et al.,“Synthesis, characterization and properties of single−walled carbon nanohorns”, Journal of Cluster Science, January 2014, Volume 25, Issue 1, pp 173−188
【非特許文献6】EJ BiddiNGer et al.,“Nitrogen−ContainiNG Carbon Nanostructures as Oxygen−Reduction Catalysts”,Topics in Catalysis, October 2009, Volume 52, Issue 11, pp 1566−1574
【非特許文献7】C XioNG et al.,“Nitrogen−doped carbon nanotubes as catalysts for oxygen reduction reaction”,Journal of Power Sources, 1 October 2012, Volume 215, Pages 216−220
【非特許文献8】Murata et al.,J. Phys. Chem. B 2001, 105, 10210−10216
【非特許文献9】Yang et al.,J. Am. Chem. Soc. 2006, 129, 20−21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の主な目的は、強化された導電性よび改善された表面積を有する酸素還元電極触媒のための窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、陰イオン交換膜燃料電池のための効率的な金属不含酸素還元電極触媒として使用するための、強化された導電性および改善された表面積を有する窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、本発明により、
(a)カーボンナノホーンを前処理する工程;
(b)工程(a)のカーボンナノホーンを、窒素源の存在下、500〜1200℃で1〜3時間アニールする工程
を含む、導電率を高め、表面積を向上した窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法を提供する。
【0017】
本発明の1つの態様において、上記カーボンナノホーンが、好ましくは単層カーボンナノホーンである。
【0018】
本発明の1つの態様において、上記窒素源は、尿素、メラミンから選択される。
【0019】
本発明の別の態様において、上記窒素ドープカーボンナノホーンが、FeおよびCoから選択された金属で、任意にコドープされている。
【0020】
本発明の更に別の態様では、カーボンナノホーンの前処理が、カーボンナノホーンを官能基化するために行われる。
【0021】
本発明の更に別の態様では、官能基化が、過酸化水素を用いて行われる。
【0022】
本発明の更に別の態様では、窒素ドープカーボンナノホーンの表面積が、300〜1500[m
2/g]である。
【0023】
本発明の更に別の態様では、窒素ドープカーボンナノホーンの導電率が、5〜9[S/cm]である。
【0024】
本発明の1つの別の態様では、上記の方法によって製造した窒素ドープカーボンナノホーンは、300〜1500[m
2/g]の表面積および5〜9[S/cm]の導電率を有する。
【0025】
本発明の更に別の態様では、窒素ドープカーボンナノホーンは、酸素還元反応(ORR)に使用するために有用である。
【0026】
用いた略号
CNH:カーボンナノホーン
SWCNH:単層カーボンナノホーン
FCNH:官能基化カーボンナノホーン
ORR:酸素還元反応
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】窒素ドープカーボンナノホーン(NCNH)の合成の概略図を示す。
【
図2】異なる倍率での、(a)SWCNH、(b)FCNH、並びに(c)および(d)N‐800のHR‐TEM画像を示す。
【
図3】作製したカーボンナノホーン試料の電気伝導率および表面積の変化に対応するプロットを示す。
【
図4】(a)窒素および酸素飽和0.1M‐KOH溶液中、走査速度50mV/秒、電極回転速度900rpmで記録されたN‐800のサイクリックボルタモグラムである。ガラス状炭素電極およびHg/HgOを、それぞれ対電極および参照電極として使用した。(b)回転速度1600rpmおよび走査速度10mV/秒における0.1Mの酸素飽和KOH中でのCNH試料およびプラチナ量102μg/cm
2を有するPt/Cの線形掃引ボルタモグラムを示す。(c)Hg/HgOに対する電位−0.22VでのN‐600、N‐800およびN‐1000のK‐Lプロットを示す。上記プロットは、異なる回転速度における酸素飽和0.1M‐KOH溶液中で行われた全3種の試料のLSVs(線形掃引ボルタモグラム)から得られる。n=4およびn=2に対する理論的K‐Lプロットも示す。(d)上記K‐Lプロットから計算された電位に対する伝達された電子の数を示す。
【
図5】(a)回転速度1000rpmおよび−0.05VでのN‐800およびPt/Cのメタノールクロスオーバー調査を示す。300秒で、3Mのメタノールを0.1MのKOH電解質に加えて、クロスオーバー効果を評価した。(b)回転速度1600rpmおよび走査速度10mV/秒における0.1Mの酸素飽和KOH中でのADTの前後におけるN‐800の線形掃引ボルタモグラムを示す。(c)カソード触媒としてN‐800を有する陰イオン交換膜燃料電池(AEMFC)の50℃での定常分極化プロットを示す。
【
図6】SWCNH、FCNH、C‐800およびN‐800のX線回折を示す。
【
図7】SWCNH、FCNH、C‐800およびN‐800のラマンスペクトルを示す。
【
図8】(a)FCNH、C‐800、N‐600、N‐800およびN‐1000の窒素吸着‐脱着等温線を示す。全ての窒素ドープ試料はタイプII等温線を示し、一方、ドープなしのCNHはタイプIV等温線を示す。(b)FCNH、C‐800、N‐600、N‐800およびN‐1000の細孔径分布を示す。
【
図9】異なる温度(C‐800およびC‐1000〜FCNH試料は、それぞれ800および1000℃でアニールした)でアニールした窒素ドープなしの作製したカーボンナノホーン試料(SWCNH、FCNH)の表面積の変化に対応するプロットを示す。表面積の低減をもたらすFCNHの「ナノウインドー」の絡まりが1000℃で生じている。
【
図10】(a)N‐600、(b)N‐800、(c)N‐1000のN1sの絡まりを解いたXPSスペクトルおよび(d)アニールした全試料における異なる種類の窒素の推定値」を示す。
【
図11】回転速度1600rpmおよび走査速度10mV/秒における0.1Mの酸素飽和KOH中でのADTの前後におけるPt/Cの線形掃引ボルタモグラムを示す。ガラス状炭素電極およびHg/HgOを、それぞれ対電極および参照電極として使用した。
【
図12】カソード触媒としてPt/Cを有する陰イオン交換膜燃料電池(AEMFC)の50℃での定常分極化プロットを示す。
【
図13】(a)回転速度1600rpmおよび走査速度10mV/秒における0.1Mの酸素飽和KOH中での、FCNHおよびメラミン混合物、Fe‐NCNH並びにプラチナ量60μg/cm
2を有するPt/Cをアニールするによって作製したNCNHの線形掃引ボルタモグラムを示す。(b)回転速度1600rpmおよび走査速度5mV/秒における0.1Mの酸素飽和KOH中でのADTの前後におけるFe‐NNCNHの線形掃引ボルタモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、更に十分に理解および認識することができるように、本発明を、いくらかの好ましい態様および任意の態様を用いて、詳細に説明する。
【0029】
本発明により、
(a)カーボンナノホーンを前処理する工程;
(b)工程(a)のカーボンナノホーンを、窒素源の存在下、および任意に金属の存在下、500〜1200℃で1〜3時間アニールする工程
を含む、導電率を高め、表面積を向上した窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法を提供する。
【0030】
前述の窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法においては、上記カーボンナノホーンが、好ましくは単層カーボンナノホーンであり、窒素源が、尿素、メラミンなどから選択される。上記金属は、FeおよびCoから選択される。
【0031】
前述の窒素ドープカーボンナノホーンの製造方法においては、窒素ドープカーボンナノホーンの表面積が、300〜1500[m
2/g]である。
【0032】
SWCNHは、直径約60〜80nmを有する数百のカーボンナノホーンの集合体である。各ナノホーンは、直径約3〜4nmを有する。この材料の表面積は、300〜400[m
2/g]の範囲で変化する。
【0033】
SWCNHの官能基化により、表面積を325から1384[m
2/g]まで向上させ、窒素ドープ後、更に1836[m
2/g]まで増加する。窒素ドープにより、更に電気伝導率を向上させ、それが細孔の絡まりを防止する。SWCNHにおける、細孔の絡まりの多くの場合に観察される問題は、前述の方法によって克服される。
【0034】
HR−TEM画像により、アルゴン雰囲気の存在下、高温でのアニールは、このような形態において実質的な変形をしないことを示しているが(
図2参照)、EDAX分析は、試料中の窒素の存在を示している。窒素の量は、アニーリング温度によって変化する。N‐600は、窒素の最も高い重量百分率(9.31重量%)を示し、窒素含有量は、温度の上昇とともに減少する。N‐800は7.42重量%の窒素を有するのに対して、N‐1000は6.37重量%の窒素を有する。
【0035】
本発明の一態様において、合成された組成物のORRを検討した。合成された組成物中の窒素はORRの過電位の低下の原因であるピリジン配位を有する。N‐800(尿素を用いて800℃でアニールしたSWCNH)は、他のNCNH(尿素を用いて600および1000℃でアニールした)およびドープなしのナノホーンに比べて、ORRに対するより高い活性を示す。N‐800は、アルカリ性媒体中で4電子経路を介して酸素分子を水酸化物イオンに還元する。N‐800は、Pt/Cに比べて、50mVだけ高いORRに対する過電圧を示す。
【0036】
異なる窒素ドープ系の内、N‐800は、N‐600(7.39[S/cm])およびN‐1000(7.35[S/cm])と比較して、最も高い導電率(9.61[S/cm])を示す。N‐800と比較してより低いN‐1000の導電率は、その高い表面積に起因するかもしれないが、それでもこの値は、尿素なしに、800℃でアニールしたC‐800 SWCNH、FCNHおよびSWCNHよりも高い。ドープなしのナノホーンの導電率は、C‐800(7.07[S/cm])>SWCNH(6.57[S/cm])>FCNH(4.95[S/cm])の順である。これは、表面積の増大と共にSWCNH(FCNH)の官能基化が、材料の導電率を低下させるが、そのアニールされた生成物(C‐800)が、官能基部分の除去によって増加した導電率を達成することを示している。
【0037】
FCNHおよびメラミン混合物から作製したNCNHは、FCNHおよび尿素混合物から作製したものと比較して、より良好なORR活性を示す。NCNHの開始電位(Hg/HgOに対する電位0.7V)は、市販のPt/Cとほぼ同様である。NCNHとのFe配位(Fe‐NCNH)後、ORR活性が更に向上し、開始電位(Hg/HgOに対する電位0.1V)および半波電位(Hg/HgOに対する電位−0.026V)に関して、Pt/Cよりなおいっそう高くなる。更に、ADT(加速耐久試験)分析により、Fe‐NCNHのORR活性は、Pt/Cと比較して、電位サイクルの増加に伴って増加していることを示している。Fe‐NCNHの優れたORR活性は、主にFe‐N‐C配位およびの調整と電極触媒の高い表面積に起因している。
図13を参照。
【実施例】
【0038】
以下の実施例は、例示の目的のために提供されるものであり、したがって本発明の範囲を限定するものではないと解されるべきである。
【0039】
実施例1:カーボンナノホーンの前処理
膨らんだ性質を取り除くため、2gのSWCNHを100mLのメタノール溶液と十分に混合した。この混合物を濾過した後、メタノールを完全に除去するために、黒色粉末を真空下、80℃で乾燥し、得られたナノホーンを純粋なSWCNHとして処理した。2gの得られたSWCNHを丸底フラスコ中で250mLの30%過酸化水素と混合し、60℃で5時間環流した。官能基化の後、過酸化水素を完全に除去するために、得られた溶液を濾過し、脱イオン水で数回洗浄した。得られたカーボンナノホーンケーキを真空下、80℃で12時間乾燥した。この材料を、官能基化単層カーボンナノホーン(FCNH)として処理した。
【0040】
実施例2:N‐600の合成
乳鉢と乳棒を使用して、50mgのFCNHを250mgの尿素と混合し、次いで、アルゴン雰囲気中、600℃で1時間アニールした。得られた材料を、精製することなく、N‐600と呼ばれるNCNHsとして使用した。
【0041】
実施例3:N‐800の合成
乳鉢と乳棒を使用して、50mgのFCNHを250mgの尿素と混合し、次いで、アルゴン雰囲気中、800℃で1時間アニールした。得られた材料を、精製することなく、N‐800と呼ばれるNCNHsとして使用した。
【0042】
実施例4:N‐1000の合成
乳鉢と乳棒を使用して、50mgのFCNHを250mgの尿素と混合し、次いで、アルゴン雰囲気中、1000℃で1時間アニールした。得られた材料を、精製することなく、N‐1000と呼ばれるNCNHsとして使用した。
【0043】
実施例5:参考例
比較のため、FCNHを尿素なしで800℃で1時間アニールし、C‐800と呼んだ。
【0044】
実施例6:メラミンを使用する窒素ドープカーボンナノホーンの合成(NCNH)
まず、15分間超音波処理することによって、900mgのメラミン粉末を蒸留水30mL中に溶解させ、続いて室温(25℃)で300mgの官能基化単層カーボンナノホーンを加えた。メラミンおよび単層カーボンナノホーンの完全混合の後、溶媒を70℃で蒸発させた。得られた粉末を、アルゴン雰囲気中、高温(900℃)で3時間アニールして、窒素ドープ単層カーボンナノホーンを得た。高温アニール後のナノホーンの形態は損傷がなく、60〜90nmのサイズを有する球状の形態を有した。NCNHの表面積は、FCNHおよび尿素混合物を用いて作製したNCNHに比べて小さく、1327[m
2/g]であった。表面積のこの減少は、高温アニール時のメラミン由来の炭素のNCNHへの
沈着に主に起因する。ナノホーン中の全窒素含有量は、尿素を用いて作製されるNCNHと比較される、2.2重量%である。しかしながら、窒素源としてメラミンを用いて作製したNCNHのORR活性は、市販の40%Pt/Cと比較可能な開始電位を示す。
【0045】
実施例7:鉄コドープ窒素ドープカーボンナノホーン(Fe‐NCNH)の合成
まず、15分間超音波処理することによって、900mgのメラミン粉末を蒸留水30mL中に溶解させ、続いて室温(25℃)で300mgの官能基化単層カーボンナノホーンを加えた。次いで、18mgのFeCl
3を加えた。反応物が十分に溶液中に分散されるように、連続的な超音波処理が好ましい。全体の水分含量が蒸発してしまうまで、得られた混合物を70℃で連続的に撹拌しながら保持した。乾燥した混合物を、アルゴン雰囲気下、900℃で3時間アニールした。アニールした混合物を、濃HClで30分間超音波処理し、次いで濾過することによって、酸洗浄を行った。濾液を、乾燥するために、60℃の加熱炉中で保持した。表面積は、1315[m
2/g]であった。FeNCNH‐900とNCNHの表面積はほぼ同等であるが、SWCNHのそれよりも4倍高いものであった。しかしながら、NCNHとFeNCNHの表面積は、低くなることがわかったが、これはメラミンの分解時にナノホーンの表面に炭素の堆積によるものであると推測される。
【0046】
実施例8:FCNHの特性分析
SWCNHの形態を、
図2に示すように、高分解能透過電子顕微鏡(HR‐TEM)を用いて分析した。
図2aから、SWCNHは、集められ、束ねられて、約60〜80nmのサイズを有する、「ダリア」のような形態を形成する。官能基化の後、たとえ顕著でなくても、いくつかの形態の変化が、ミクロ細孔とメソ細孔の発生だけでなく官能基の形成によって発生する(
図2b)。官能基化後に合体は観察されず、FCNHの個々の管束およびそのバンドルと花びらは、未処理のSWCNHのように損傷のないままである。これは明らかに、アルゴン雰囲気の存在下、高温でのアニールは、そのような形態において実質的な変形をしないことを示している。
【0047】
実施例9:比較データ
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
本発明の優位性
1.バルクレベルでNCNHsを合成する容易な方法。
2.潜在的コスト効果のある、高分子電解質膜燃料電池用の金属不含カソード触媒。
3.高耐久性。
4.広く使用されているプラチナ触媒を超える経済的優位性を有すること。