(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スイッチング素子を備え直流電圧源の直流電圧を入力し可変電圧可変周波数の交流電圧に変換して負荷に出力するインバータと、出力電圧指令値と出力周波数指令値とに基づき前記スイッチング素子のオンオフ駆動をPWM制御する制御部とを備えた電力変換装置において、
前記制御部は、
前記直流電圧源の直流電圧と前記出力電圧指令値とに基づき前記インバータの変調率を演算する変調率演算器と、
前記出力周波数指令値に基づき前記PWM制御における基本波半周期当たりのパルス数を決定するパルス数決定部と、
前記変調率および前記パルス数に応じて前記スイッチング素子をオンオフ駆動するタイミングであるスイッチング位相を特定するスイッチングパターンを予め演算により求め前記変調率および前記パルス数毎に記憶するスイッチングパターン決定部と、
前記変調率演算器からの前記変調率と前記パルス数決定部からの前記パルス数とに対応する前記スイッチングパターンを前記スイッチングパターン決定部から読み出し、当該スイッチングパターンに基づき前記スイッチング素子をオンオフ駆動するゲート信号を生成するゲート信号生成部とを備え、
前記スイッチングパターン決定部は、
前記変調率を確保するための関数であって、前記インバータの出力波形の基本波成分と前記変調率とを関係づける、前記スイッチング位相を変数とする第1関数を生成する変調率確保部と、
前記インバータの出力波形の高調波成分を低減するための関数であって、前記インバータの出力波形の各次高調波成分で決まる各次高調波要素の加算値である、前記スイッチング位相を変数とする第2関数を生成する高調波低減部と、
前記第1関数と前記第2関数と1以上の追加変数とからなり、前記スイッチング位相および前記追加変数を変数とする第3関数を設定する関数合成部と、
前記第3関数を前記スイッチング位相および前記追加変数について最小化することにより前記変調率を確保するとともに前記各次高調波要素の加算値を低減する前記スイッチング位相を算出するスイッチング位相算出部と、
算出された前記スイッチング位相で特定される前記スイッチングパターンを前記各変調率および前記各パルス数毎に記憶するスイッチングパターン記憶部とを備えた、
電力変換装置。
前記変調率確保部は、前記第1関数として、前記インバータの出力電圧半周期の基本波成分と前記変調率とを関係づける基本第1関数と、前記インバータの出力電圧半周期内の一部区間における部分基本波成分と前記変調率とを関係づける補助第1関数とを生成する、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
前記高調波低減部は、前記第2関数として、前記インバータの出力電圧半周期における前記各次高調波要素の加算値である基本第2関数と、前記インバータの出力電圧半周期内の一部区間における前記各次高調波要素の加算値と高調波レベルの閾値とを関係づける補助第2関数とを生成する、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
前記変調率確保部は、前記第1関数として、前記複数のスイッチングレグ毎に出力電圧半周期の基本波成分と前記変調率とを関係づける複数の基本第1関数と、前記複数のスイッチングレグにおける出力電圧半周期内の一部区間における部分基本波成分の振幅差と該振幅差の上限値とを関係づけるバランス関数とを生成する、
請求項5記載の電力変換装置。
前記高調波低減部は、前記第2関数として、前記インバータの出力電圧半周期における前記各次高調波要素の加算値である基本第2関数と、前記複数のスイッチングレグ毎に出力電圧半周期内の一部区間における前記各次高調波要素の加算値と高調波レベルの閾値とを関係づける複数の補助第2関数とを生成する、
請求項5または請求項8に記載の電力変換装置。
前記ゲート信号生成部は、前記直列に接続された各スイッチングレグの負担が均等化するように、前記各スイッチングレグのスイッチングパターンを予め定められた周期で入れ替えるスイッチングパターン入れ替え部を備えた、
請求項5、請求項8、請求項9、請求項11のいずれか1項に記載の電力変換装置。
前記スイッチング素子に流れる電流を検出する素子電流検出部を備え、前記スイッチングパターン入れ替え部は、前記素子電流検出部の出力に応じて前記スイッチングパターンを入れ替える前記周期を切り替える、
請求項12または請求項13に記載の電力変換装置。
前記スイッチング素子の温度を検出する素子温度検出部を備え、前記スイッチングパターン入れ替え部は、前記素子温度検出部の出力に応じて前記スイッチングパターンを入れ替える前記周期を切り替える、
請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の電力変換装置。
前記正極側コンデンサの電圧と前記負極側コンデンサの電圧との差を中性点電圧として検出する中性点電圧検出部を備え、前記パルス補正部は、前記中性点電圧検出部の出力に基づき前記スイッチング位相を補正する、
請求項16記載の電力変換装置。
前記正極側コンデンサと前記負極側コンデンサとの接続点に流入する電流を中性点電流として検出する中性点電流検出部を備え、前記パルス補正部は、前記中性点電流検出部の出力に基づき前記スイッチング位相を補正する、
請求項16記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における電力変換装置2の全体構成を示す回路図である。
図1において、電力変換装置2は、インバータ4とインバータ4を制御する制御部10とを備え、U、V、W相の直流電圧源1a、1b、1cの直流電圧を可変電圧可変周波数の交流電圧に変換して負荷であるモータ3に出力する。また、
図2はインバータ4の構成を示す回路図である。
【0014】
インバータ4は、直流電圧源1aの直流電圧を分圧する2直列の正極側コンデンサ5a、負極側コンデンサ5bと、それぞれダイオードが逆並列接続されたIGBT等から成る複数のスイッチング素子6と、クランプダイオード7とを備えた中性点クランプ式の3レベルインバータを成す2つのスイッチングレグ8a、8bを、各相毎に直列接続した5レベルインバータを構成している。
【0015】
なお、上述の通り、3レベルインバータを成す2つのスイッチングレグ8a、8bを、各相毎に直列接続した5レベルインバータを構成するものとして、以下、スイッチングパターン等について説明するが、この発明の適用上、3レベルのものに限られるものではなく、例えば、2レベルインバータであってもよく、また、必ずしも、2レグの直列体で構成するものに限らずこの発明は適用することができる。
図3は、2レベルインバータ40の例を示すもので、各相が1つのスイッチングレグ80で構成される。
図3で示す2レベルのスイッチングレグ80を各相毎に2個直列接続して、インバータに用いても良い。
【0016】
そして、インバータ4は、PWM(パルス幅変調)制御による、スイッチング素子6のオンオフ駆動によって直流電圧源1a〜1cの直流電圧を任意の大きさおよび周波数の交流電圧に変換して出力する。また、インバータ4は、モータ3との接続部分において、負荷電流iLであるモータ3の電流を検出する負荷電流検出部としての電流センサ19を備えている。また、インバータ4は、スイッチング素子6を流れる電流を検出する素子電流検出部およびスイッチング素子6の温度を検出する素子温度検出部としての素子電流・温度センサ18を備えている。
【0017】
制御部10は、変調率演算器11とパルス数決定部13とスイッチングパターン決定部12とパルス数切替部14とゲート信号生成部16とからなり、以下、これら各構成部分を説明する。
変調率演算器11は、直流電圧源1a〜1cの直流電圧Vdcとインバータ4の出力電圧指令値(相電圧振幅)Vpとに基づき、式(1)により変調率mを演算する。
【0019】
パルス数決定部13は、インバータ4の出力周波数指令値Fcに基づき、PWM制御における基本波半周期当たりのパルス数Pnumを決定する。
大容量インバータのようなスイッチング速度の遅い素子を持つインバータ4では、出力周波数指令値Fcが高くなると半周期あたりのパルス数Pnumを段階的に少なくして、スイッチング回数を減らす必要がある。本実施の形態では、高速運転時はパルス数Pnumを1(半周期に1パルス)にする。
【0020】
パルス数切替部14は、パルス数決定部13で決まるパルス数Pnumが変化すると、切替移行期間を設けて、インバータ4の出力電圧位相(th)が所定の位相になった時に、スイッチングパターン決定部12から読み出すスイッチングパターンを切り替える切替指令15をスイッチングパターン決定部12に出力する。
【0021】
スイッチングパターン決定部12は、パルス数Pnum別に、変調率mの大きさ毎に、スイッチング素子6をオンオフ駆動するタイミングであるスイッチング位相を特定するスイッチングパターンを予め演算により求め変調率mおよびパルス数Pnum毎に記憶している。
この演算は、要求される変調率mを実現し、かつ、高調波成分を低減するスイッチングパターンを求めるもので、この発明の要部を成し、当該スイッチングパターンおよびその演算の要領は後段で詳細に説明する。
【0022】
ゲート信号生成部16は、変調率演算器11からの変調率mとパルス数決定部13からのパルス数Pnumとに対応するスイッチングパターンをスイッチングパターン決定部12から読み出し当該スイッチングパターンと出力電圧位相(th)とに基づきスイッチング素子6をオンオフ駆動するゲート信号17を生成する。
【0023】
また
図4は、電力変換装置2のハードウェア構成を示す図である。制御部10はプロセッサ301、記憶装置302、スイッチングパターン記憶装置303を備えている。記憶装置302では制御部10のプログラムが予め記憶される。プロセッサ301は記憶装置302で記憶される機能プログラムを実施するものである。このプロセッサ301により、制御部10内の変調率演算器11、スイッチングパターン決定部12、パルス数決定部13、パルス数切替部14およびゲート信号生成部16は実現される。スイッチングパターン記憶装置303は、プロセッサ301で実行するプログラムにより、スイッチングパターン決定部12が決定したスイッチングパターンを記憶するものであり、機能プログラムの実行中に記憶しても良いし、起動時に記憶しても良い。
図に示すように、インバータ4の各部の電圧、電流、素子温度等を検出するセンサ群(センサ18、19を含む)である検出部20からの情報に基づいて、プロセッサ301の演算処理により、インバータ4のスイッチング素子6をオンオフ駆動するゲート信号17が生成される。
【0024】
次に動作について説明する。スイッチング素子6のオンオフ駆動に基づくインバータ4自体の動作は周知であるのでその説明は省略し、ここでは、制御部10、特に、この発明では重要な、スイッチングパターンおよびスイッチングパターン決定部12でのスイッチングパターンの演算要領を中心に説明する。
【0025】
図5は、パルス数Pnum=3の場合における、インバータ4(5レベルインバータ4)の単相分の出力電圧波形と、直列接続された2つのスイッチングレグ8a、8bの出力電圧波形との関係を示したものである。
図は、1周期(2π)にわたるパルス電圧波形を示し、5レベルインバータ4の単相出力電圧Vsと、スイッチングレグ8aの出力電圧VLaと、スイッチングレグ8bの出力電圧VLbとを示す。なお、スイッチングレグは省略形でレグと記載した。
図に示すように、2つのスイッチングレグ8a、8bの出力電圧VLa、VLbを加算することで、総パルス数=Pnum(3)×レグ直列段数(2)=6で動作する、5レベルインバータ4の単相出力電圧Vsが得られる。
【0026】
正負波形の対称性を補償する必要から、スイッチング素子6をオンまたはオフさせるタイミングであるスイッチング位相として、図に示すように、スイッチングレグ8aでは、th1a、th2aおよびth3a、スイッチングレグ8bでは、th1b、th2bおよびth3bを決める。これにより、それぞれのスイッチングレグ8a、8bの出力波形、さらに、5レベルインバータ4の出力電圧波形が決定される。
即ち、スイッチングパターンは、これら6個のスイッチング位相th1a、th2a、th3a、th1b、th2b、th3bを特定するもので、このスイッチングパターンによりインバータ4の出力電圧波形が特定される訳である。
【0027】
ここで、この発明によりスイッチングパターンを得るスイッチングパターン決定部12の構成および動作の理解を容易とするため、先ず、上記特許文献2記載の手法を利用したスイッチングパターンの決定を示す比較例を、
図6および
図7を用いて以下に説明する。
なお、上記特許文献2では、特に、制御の構成を示す図面に基づく説明はされていないが、ここでは、本願発明との対比を明確にするため、敢えて、この実施の形態1におけるスイッチングパターン決定部12に相当する制御構成を想定した比較例とする。また、インバータの構成は、この実施の形態1で用いる5レベルインバータ4と同様とする。
【0028】
図6において、スイッチングパターン決定手段100は、パルス数と変調率、出力周波数で決まる時系列のスイッチングパターンを周波数変換し、フーリエ級数により出力電圧基本波の振幅とその整数倍の周波数成分の振幅とを三角関数とスイッチング位相(0〜2π)で表現する式を用いて、変調率振幅を確保し、かつ特定次数の高調波を消去するスイッチング位相群(スイッチングパターン)を求める手段である。
【0029】
そして、スイッチングパターン決定手段100は、変調率振幅を確保する変調率確保手段101と、パルス数と決められたスイッチングレグの直列段数とに基づくスイッチング位相の数から決まる、後述する連立方程式の自由度を計算し、これと変調率確保手段101が使用した自由度の数とから消去できる高調波次数の種別数を決定する高調波次数種別数決定手段102と、高調波次数種別数決定手段102により消去が可能となる高調波次数について、高調波消去を行う高調波消去手段103と、変調率確保手段101と高調波消去手段103とにより設定した式を解いてスイッチングパターンのスイッチング位相を算出するスイッチング位相算出手段104と、更に、スイッチング位相算出手段104で算出されたスイッチング位相で決まるスイッチングパターンを各変調率および各パルス数毎に記憶するスイッチングパターン記憶手段105とから構成される。
【0030】
次に、フーリエ級数を用いてスイッチングにより出力される電圧波形の周波数と振幅を定義する方法について説明する。各スイッチングレグが出力する出力電圧波形はパルス数に関係なく、各相120°対称で、1/4周期、1/2周期で対称性を持つ波形とするため、含有高調波電圧は整数次だけとなり、偶数次と3倍数次は理論上発生しない。そのため、基本波の次数を1とすると、発生する高調波次数は、6n±1で表される。即ち、基本波周波数を基準とする高調波次数は、自然数nを用いると6n±1次であり、5、7、11、13、17、19、23、25、29、31、35、37・・・のような数値を取る。
【0031】
例えば、パルス数Pnum=3で、変調率mの確保と、5、7、11、13次の高調波成分の消去とを実現するスイッチングパターンを求める場合、式(2)のような連立方程式が成立する。これは、上記特許文献2の式(4)を再録するものである。
【0033】
式(2)において、第1段目は、スイッチングレグ8aのスイッチング位相th1a、th2a、th3aと変調率mとの関係を規定する式、第2段目は、スイッチングレグ8bのスイッチング位相th1b、th2b、th3bと変調率mとの関係を規定する式で、これらは、
図6の変調率確保手段101によって設定されるものである。
【0034】
次に、高調波次数種別数決定手段102は、パルス数とインバータ4の1相当たりのスイッチングレグの段数から高調波出力電圧基本波半周期のスイッチング位相の数を計算し、消去できる高調波次数の種別数を決定する。ここでは、スイッチング位相の数は、総パルス数=パルス数Pnum×2段=6になり、連立方程式の自由度は6となる。
そして、式(2)の第1、第2段目の式では、変調率確保手段101によって、2つのスイッチングレグ8a、8bで出力する電圧振幅の配分が均等となるようスイッチングレグの段数毎に変調率(基本波振幅)の配分を設定したため、消去できる高調波次数の種別数は6−2=4となる。
【0035】
これを受けて、高調波消去手段103は、低次から順次、5、7、11、13次の4つの高調波成分を0とする、式(2)の第3〜第6段目の式を設定することになる。
スイッチング位相算出手段104は、変調率確保手段101が設定した、式(2)の第1、第2段目の式、および高調波消去手段103が設定した、式(2)の第3〜第6段目の式とからなる、6元の連立方程式を解くことで、スイッチングパターンを特定する6個の変数、即ち、スイッチング位相(th1a〜th3b)を算出する。
【0036】
図7は、この式(2)により、所定の変調率mの範囲にわたって求めた各スイッチング位相の特性を示す図で、
図7(A)は、スイッチングレグ8aのスイッチング位相th1a、th2a、th3a、
図7(B)は、スイッチングレグ8bのスイッチング位相th1b、th2b、th3bの特性を示す。
【0037】
以上により、両スイッチングレグ8a、8bの出力変調率を同じとして両者の負担の均一化を担保するとともに、4種類の次数の高調波を0とするスイッチングパターンが得られる。
但し、
図7(A)にあるように、変調率m1を中心とする領域mareaにおいて、一部の、同じスイッチング素子で互いに隣り合うスイッチング位相th1a、th2aの位相差が、主としてスイッチング速度性能の観点からスイッチング素子で許容される下限位相差thlim未満となっている。
【0038】
この対策として、変調率確保手段101はそのままで、高調波次数種別数決定手段102の内容を変え、式(2)において、低減対象とする高調波次数の種別を1個減らし、替わりに、下限位相差thlimを確保するための方程式を採用して解を求める方法を採用してもよい。または、上記特許文献2に示すように、変調率確保手段101の内容を変更し、変調率m1においては、両スイッチングレグ8a、8bの負担均一化の条件を緩和することで、位相差(th2a−th1a)=thlimの条件を確保するとした、次の式(3)(同文献2の式(5)を再録)で示す連立方程式による解を採用してもよい。
【0040】
上述した式(2)、式(3)から分かるとおり、比較例によるスイッチングパターン決定手段100では、スイッチングパターンを演算で求めるために設定する連立方程式において、高調波消去手段103により設定する、高調波を低減するための関係式は、高調波次数種別数決定手段102により決定した次数種別数だけの式で設定する必要がある。この結果、少ないパルス数Pnum、仮に、Pnum=1の場合は、例えば、式(4)に示すように、スイッチングパターンを特定する変数は、th1aとth1bとの2個となり、変調率mを規定するための1個の関係式を設定すると、高調波を低減するために設定できる関係式は残る1個だけとなり、即ち、1種類の次数、ここでは、5次の高調波低減しか望めないことになる。
【0042】
この発明は、パルス数によって低減したい高調波の次数種別の数が直接制限されず、従って、比較的少ないパルス数Pnumであっても、出力電圧における、次数の種別数が総パルス数以上の高調波成分の低減をも可能とするものであり、以下にその具体的な内容について詳述する。
【0043】
図8は、この発明の実施の形態1における電力変換装置2で採用するスイッチングパターン決定部12の内部構成を示す図である。
図8において、スイッチングパターン決定部12は、変調率確保部121と、高調波低減部122と、関数合成部123と、スイッチング位相算出部124と、スイッチングパターン記憶部125とから構成される。なお、上述したように、スイッチングパターン決定部12はプロセッサ301にて実現されるものであるが、スイッチングパターン決定部12内のスイッチングパターン記憶部125についてはスイッチングパターン記憶装置303にて実現される。
【0044】
変調率確保部121は、変調率を確保するための関数であって、変調率、パルス数およびスイッチングレグ段数に基づき、インバータ4の出力波形の基本波成分と変調率とを関係づける第1関数fを生成する。高調波低減部122は、インバータ4の出力波形の高調波成分を低減するための関数であって、パルス数およびスイッチングレグ段数に基づき、各次高調波成分で決まる、後述する各次高調波要素の加算値である第2関数Yを設定する。関数合成部123は、第1関数fと第2関数Yと1以上の後述する追加変数とからなる第3関数である評価関数Xを設定する。スイッチング位相算出部124は、評価関数Xをスイッチング位相および追加変数について最小化することにより変調率を確保するとともに各次高調波要素の加算値を低減するスイッチング位相を算出する。そしてスイッチングパターン記憶部125は、スイッチング位相算出部124で算出されたスイッチング位相で決まるスイッチングパターンを各変調率および各パルス数毎に記憶する。
【0045】
以上の第1関数f、第2関数Yおよび評価関数Xの具体例として、ここでは、以下の式(5)、式(6)、式(7)に示す3つの関数を定義する。
【0047】
先ず、変調率確保部121は、式(5)に示すように、両スイッチングレグ8a、8bを直列にして得られる変調率mを確保するため、各スイッチング位相(ここでは、th1a、th2a、th3a、th1b、th2b、th3bが相当し、以下、thiとも表示する)と当該変調率mとの関係を規定した、各スイッチング位相thiを変数とする第1関数f(thi)を定義する。
【0048】
次に、高調波低減部122は、式(6)に示すように、高調波を低減するため、各スイッチング位相thiと、各高調波要素の加算値として、インバータ4の出力波形の各次高調波電圧成分に各次重み付け係数w(k)(k=k1〜kj)を乗算した値の二乗和との関係を規定した、各スイッチング位相thiを変数とする第2関数Y(thi)を定義する。
式(6)において、kは低減対象の高調波次数を表し、ここでは、5次、・・・、25次の、合計8個の種別の次数を対象としているが、これらに限られることはない。なお、重み付け係数w(k)については更に後述する。
【0049】
更に、関数合成部123は、式(7)に示すように、変調率を確保し各次高調波電圧成分に係る上述した二乗和を低減するため、第1関数fと第2関数Yの自由度(変数としてのスイッチング位相thiの数が相当し、ここでは6個の変数)に更に追加変数を付加して自由度を増やした評価関数Xを定義する。
具体的には、式(6)に示す関数Y(thi)と、式(5)に示す関数f(thi)に、追加変数として重み付け変数αを乗算した値との和である、各スイッチング位相thiおよび重み付け変数αを変数とする評価関数X(thi、α)を定義している。
なお、評価関数Xは、第2関数Yにもさらなる追加変数を乗算した形にしてもよい。
【0050】
そして、スイッチング位相算出部124は、この評価関数X(thi、α)の7個の変数α、th1a〜th3bの偏微分を取り、それらをすべて0と置く、式(8)に示す7元連立方程式を作成する。そして、この7元連立方程式を、例えば、Newton法を用いて解くことにより、要求された変調率mを確保するとともに、多くの次数の高調波電圧成分の総合的な値を最小とするスイッチングパターンを得ることができる。
【0052】
図9は、スイッチング位相算出部124で設定した式(8)により、変調率m=0.3〜1.15の範囲にわたって求めた各スイッチング位相の特性を示す図である。
図9(A)は、スイッチングレグ8aのスイッチング位相th1a、th2a、th3a、
図9(B)は、スイッチングレグ8bのスイッチング位相th1b、th2b、th3bの特性を示す。
【0053】
式(6)、式(8)からも理解されるように、この発明では、上述した比較例による高調波次数種別数決定手段102で設定した場合と異なり、パルス数Pnumと低減対象の次数の種別数とは直接関係しない。従って、比較例による、式(2)や式(3)で示した、パルス数=3の場合よりも、多くの種別の次数に関して高調波電圧成分の低減が可能となる。
【0054】
なお、
図9は、高調波低減部122で設定した式(6)の第2関数Yにおいて、すべての次数k=k1〜kjについて各次重み付け係数w(k)=1と設定した場合である。この各次重み付け係数w(k)について、例えば、特定次数の係数w(k)を大きく設定することで、当該次数の高調波成分低減度合いを他の次数のそれより大きくすることができる。
【0055】
例えば、効率を重視し、インダクタンス特性や巻線方法を工夫したモータによっては、特定の次数の高調波成分が高く出てしまい、これが原因で、高調波による有害なトルクリプルの発生につながる場合などがある。そのような場合には、当該特定次数の重み付け係数w(k)を他より大きな値に設定することで、有害なトルクリプルの発生を防止することができるとともに、高調波全体を低減可能なスイッチングパターンを得ることができる。
【0056】
また、上記に説明した方法を用いれば、パルス数=1の場合においても、式(4)を用いた比較例より高次の次数までの高調波成分を低減できるパルスパターンを得ることができる。
図10は、パルス数Pnum=1の場合における、5レベルインバータ4の単相分の出力電圧波形と、直列接続された2つのスイッチングレグ8a、8bの出力電圧波形との関係を示したものである。
図は、1周期(2π)にわたるパルス電圧波形を示し、5レベルインバータ4の単相出力電圧Vsと、スイッチングレグ8aの出力電圧VLaと、スイッチングレグ8bの出力電圧VLbとを示す。図に示すように、2つのスイッチングレグ8a、8bの出力電圧VLa、VLbを加算することで、総パルス数=Pnum(1)×レグ直列段数(2)=2で動作する、5レベルインバータ4の単相出力電圧Vsが得られる。
【0057】
また、
図5の場合と同様、正負波形の対称性を補償する必要から、スイッチング素子6をオンまたはオフさせるタイミングであるスイッチング位相として、
図10に示すように、スイッチングレグ8aでは、th1a、スイッチングレグ8bでは、th1bを決める。これにより、それぞれのスイッチングレグ8a、8bの出力波形、さらに、5レベルインバータの出力電圧波形が決定される。
即ち、スイッチングパターンは、これら2個のスイッチング位相th1a、th1bを特定するもので、このスイッチングパターンによりインバータ4の出力電圧波形が特定される。
【0058】
パルス数Pnum=1の場合は、パルス数Pnum=3の場合の式(5)、式(6)、式(7)にならって、それぞれ変調率確保部121、高調波低減部122および関数合成部123により、式(9)、式(10)、式(11)を定義する。
【0060】
変調率確保部121は、式(9)により、各スイッチング位相(th1a、th1b、以下、thiとも表示する)と変調率mとの関係を規定した、各スイッチング位相thiを変数とする第1関数f(thi)を定義する。
高調波低減部122は、式(10)により、各スイッチング位相thiとインバータ4の出力波形の各次高調波電圧成分に各次重み付け係数w(k)を乗算した値の二乗和との関係を規定した、各スイッチング位相thiを変数とする第2関数Y(thi)を定義する。
ここでは、k=5、7、11、13次の4個の種別の次数を低減対象としているが、これらに限られることはない。
【0061】
関数合成部123は、式(11)により、式(10)に示す第2関数Y(thi)と、式(9)に示す第1関数f(thi)に、追加変数として重み付け変数αを乗算した値との和である、各スイッチング位相thiと重み付け変数αとを変数とする評価関数X(thi、α)を定義する。
【0062】
そして、この評価関数X(thi、α)の3個の変数α、th1a、th1bの偏微分を取り、それらをすべて0と置く、式(12)に示す3元連立方程式を作成する。そして、この3元連立方程式を解くことにより、要求された変調率mを確保するとともに、ここでは4種類の次数の高調波電圧成分の総合的な値を最小とするスイッチングパターンを得ることができる。
【0064】
図11は、この式(12)により、変調率m=0.3〜1.15の範囲にわたって求めたスイッチングレグ8aのスイッチング位相th1aとスイッチングレグ8bのスイッチング位相th1bの特性を示す図である。スイッチング位相th1a、th1bは変調率mに応じてなめらかに変化している。
【0065】
図12は、パルス数Pnum=1において、この実施の形態における式(12)を用いた演算で得られた、変調率m=0.78でのインバータ4の出力電圧と、上述した比較例による式(4)を用いた演算で得られた、同じ変調率m=0.78での出力電圧とについて、5次から13次までの高調波成分を比較したものである。
【0066】
斜線のハッチングで示す、比較例による低次高調波消去PWM方式では、消去対象とした5次以外の、特に、7次と11次の高調波成分が共に高くなっている。これに対し、ハッチング無しで示す、この実施の形態による式(12)による場合は、各次数の高調波成分が全体として低くなっている。そして、高調波振幅の合計値が低減しており次数の種別数が(Pnum×レグ直列段数)以上の範囲で高調波成分を抑制できていることが確認できる。
【0067】
各次高調波電圧成分の二乗和の平方根を基準波電圧成分で除した値である、電圧総合歪率は、高調波含有率の目安となるもので、5次〜13次の高調波成分についてこの歪率を求めると、比較例の場合が25%であるのに対し、この実施の形態では17%となり、歪率を約1/3の割合で低減できることが確認できる。
【0068】
以上のように、この発明の実施の形態1による電力変換装置2のスイッチングパターン決定部12は、以上で詳述した、変調率確保部121、高調波低減部122、および関数合成部123を備え、さらにスイッチング位相算出部124とスイッチングパターン記憶部125とを備える。
変調率確保部121は、変調率を確保するための関数であってインバータ4の出力波形の基本波成分と変調率とを関係づける、スイッチング位相thiを変数とする第1関数f(thi)を設定し、高調波低減部122は、インバータ4の出力波形の高調波成分を低減するための関数であってインバータ4の出力波形の各次高調波成分で決まる各次高調波要素の加算値である、スイッチング位相thiを変数とする第2関数Y(thi)を設定する。そして、関数合成部123は、第1関数f(thi)と第2関数Y(thi)と追加変数αとからなり、スイッチング位相thiおよび追加変数αを変数とする第3関数としての評価関数X(thi、α)=Y(thi)+α×f(thi)を設定する。更に、評価関数X(thi、α)をスイッチング位相thiおよび追加変数αについて偏微分を取りそれらをすべて0と置く連立方程式を解き評価関数X(thi、α)を最小化する。 これにより、変調率を確保するとともに各次高調波要素の加算値を低減するスイッチング位相thiをスイッチング位相算出部124にて算出でき、算出されたスイッチング位相thiで特定されるスイッチングパターンを各変調率および各パルス数毎にスイッチングパターン記憶部125に記憶する。このため、パルス数によって低減したい高調波の次数種別の数が直接制限されず、従って、比較的少ないパルス数であっても、出力電圧における、次数の種別数が総パルス数以上の高調波電圧成分または高調波電流成分をも低減することが出来る。
【0069】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2における電力変換装置について説明する。電力変換装置2の全体構成は、先の実施の形態1の
図1、
図2で示したものと同様であるが、この場合、スイッチングパターン決定部の内部構成が異なる。
図13は、この実施の形態2によるスイッチングパターン決定部12Aの内部構成を示す図である。
【0070】
上述した比較例では、
図7で説明したように、所定の変調率mの範囲にわたって求めたスイッチングパターンにおいて、変調率m1を中心とする領域mareaにおいて、一部の、同じスイッチング素子で互いに隣り合うスイッチング位相th1a、th2aの位相差が、スイッチング素子で許容される下限位相差thlim未満となる(
図7(A)参照)、という問題点があった。そして、比較例での対策は、既述したとおり、この変調率m1を含む領域mareaの部分については、式(2)に替わり、式(3)で示す連立方程式による解を採用するとしている。
【0071】
これに対し、上記実施の形態1により求めたスイッチングパターンの特性(
図9参照)では、互いに隣り合うスイッチング位相の位相差は、いずれにおいても下限位相差thlim以上となっておりこの問題は生じていない。しかし、演算条件によっては、上記実施の形態1でも、この問題が生じ得ると考えられるため、この実施の形態2では、その場合の対策を実現するものである。
【0072】
ここでは、パルス数Pnum=3の、先の式(5)〜式(8)で説明した方法で求めたスイッチングパターンにおいて、隣り合うスイッチング位相th1aとth2aとの位相差が下限位相差thlim未満になったと仮定して説明するものとする。
【0073】
図13に示すスイッチングパターン決定部12Aにおいて、上記実施の形態1の
図6で示したスイッチングパターン決定部12と異なるのは、新たにスイッチング位相差限定部126を設けた点で、以下、この点を中心に説明する。その他の構成は上記実施の形態1と同様である。
スイッチング位相差限定部126は、スイッチング位相差の下限値(thlim)を設定するため、新たに、隣り合うスイッチング位相th1aとth2aとの位相差を規定する関数Pを設定する。
具体的には、この関数P(th1a、th2a)は、式(13)で定義する。
【0075】
この関数Pは、それぞれ関数合成部123およびスイッチング位相算出部124により定義される、後段で説明する式(14)および式(15)に反映されることで、スイッチング位相th1aとth2aとの位相差≧下限位相差thlimを確保するものである。 更に、先の式(7)で示す評価関数X(thi、α)を、以下の式(14)で示す評価関数X(thi、α、β)に置き換える。なお、関数f(thi)および関数Y(thi)は、上記実施の形態1と同様である。
【0077】
この式(14)では、先の式(7)の右辺に、関数Pに重み付け変数βを乗算した項を、追加している。
そして、領域mareaの変調率m1に関しては、評価関数Xの合計8個の変数α、β、th1a〜th3bの偏微分を取り、それらを0または0以上と置く、式(15)に示す8元連立方程式を設定する。
【0079】
そして、この式(15)を解くことにより、要求された変調率m1と隣り合うスイッチング位相間の必要な位相差thlimを確保するとともに、多くの次数の高調波電圧成分の総合的な値を最小とするスイッチングパターンを求めることができる。
従って、スイッチングパターン決定部12Aは、領域marea以外の変調率であるときは、上記実施の形態1と同様に、先の式(8)で求めたスイッチングパターンを記憶し、領域mareaの変調率に関しては、先の式(8)で求めたスイッチングパターンと置き換えて式(15)で求めたスイッチングパターンを記憶する。
【0080】
なお、先の式(8)で求めたスイッチング位相の特性と、領域mareaの変調率に関して式(15)で求めたスイッチング位相との連続性は、重み付け変数βを適宜調整することで担保することができる。
【0081】
この実施の形態2においても、上記実施の形態1と同様に、パルス数によって低減したい高調波の次数種別の数が直接制限されず、従って、比較的少ないパルス数であっても、出力電圧における、次数の種別数が総パルス数以上の高調波電圧成分または高調波電流成分をも低減することが出来る。
【0082】
また、スイッチングパターン決定部12Aがスイッチング位相差限定部126を備えているため、求めたスイッチングパターンの一部にその互いに隣り合うスイッチング位相の間の位相差が下限位相差未満となってスイッチング素子6のスイッチング動作に支障がある場合に、次のように対処できる。即ち、スイッチング位相差限定部126により当該位相差として下限位相差を確保するための関数P(thi)を設定し、この関数P(thi)を加味した評価関数X(thi、α、β)=Y(thi)+α×f(thi)+β×P(thi)を設定する。そして、スイッチング位相算出部124により、この評価関数X(thi、α、β)をスイッチング位相thiおよび追加変数α、βについて偏微分を取りそれらを0または0以上と置く連立方程式を解くことにより求めたスイッチングパターンを当該一部のスイッチングパターンと置き換える。これにより、隣り合うスイッチング位相間の必要な位相差thlimを確保してスイッチング動作への支障をなくすことができる。
【0083】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3における電力変換装置について説明する。電力変換装置2の全体構成は、先の実施の形態1の
図1、
図2で示したものと同様である。この場合、スイッチングパターン決定部12内の変調率確保部121で設定する第1関数が上記実施の形態1と異なる。その他の構成は、上記実施の形態1と同様である。
【0084】
上記実施の形態1では、各スイッチング位相と変調率との関係を規定する第1関数として、両スイッチングレグ8a、8bを直列にして得られる変調率を確保するための関数fを式(5)にて定義した。この実施の形態3では、両スイッチングレグ8a、8bの負担の均一化を図るため、出力する変調率をスイッチングレグ8a、8bの両者で互いに等しいとする条件でスイッチングパターンを求める。要領の概略を以下に説明する。
【0085】
先ず、式(16)、式(17)に示すように、スイッチングレグ8a、8bのそれぞれについて、スイッチング位相と変調率との関係を規定する第1関数としての、関数fa(th1a、th2a、th3a)および関数fb(th1b、th2b、th3b)を定義する。この場合、スイッチングレグ8a、8bの負担の均一化を図るため、出力する変調率mをスイッチングレグ8a、8bの両者で互いに等分に分担するように、関数fa、関数fbを設定する。
【0087】
これを受けて、上記実施の形態1での式(7)に示す評価関数Xに替わり、式(18)に示す評価関数X(thi、α1、α2)を第3関数として定義する。なお、関数Y(thi)に関しては、上記実施の形態1と同様であり、上記式(6)、式(10)で定義した関数Y(thi)を用いる。
【0089】
そして、式(19)に示す、評価関数X(thi、α1、α2)の8個の変数α1、α2、thia〜th3bの偏微分を取り、それらをすべて0と置く、式(19)に示す8元連立方程式を解く。これにより、要求された変調率mを確保して、しかも両スイッチングレグ8a、8bの負担が均一となり、多くの次数の高調波電圧成分の総合的な値を最小とするスイッチングパターンを得ることができる。
【0091】
この実施の形態3においても、上記実施の形態1と同様に、パルス数によって低減したい高調波の次数種別の数が直接制限されず、従って、比較的少ないパルス数であっても、出力電圧における、次数の種別数が総パルス数以上の高調波電圧成分または高調波電流成分をも低減することが出来る。さらに、スイッチングレグ8a、8bの両者で出力する変調率を互いに等しくなるようにスイッチングパターンを決定でき、両スイッチングレグ8a、8bの負担の均一化が図れる。
【0092】
なお、上記式(6)、式(10)で定義した関数Y(thi)は、いずれも高調波電圧成分の二乗和を低減することを意図したものである。しかるに、負荷がモータ3の場合では、高調波成分の存在によるモータ3の銅損失の増大が問題となる場合があり、この場合は、高調波電流成分の低減が課題となる。
モータ3に流れる電流は、電圧をインピーダンスで除した値となるが、そのインピーダンスZは、ほぼモータ3のインダクタンスLによって決定される。即ち、Z≒2πfLであり、電流は、周波数fに反比例する。
【0093】
そこで、高調波電流成分を低減したい場合は、各次高調波要素として、先の式(6)、式(10)で定義した関数Y(thi)に替わり、各次数成分に更に1/kを乗算した、例えば、次の式(20)に示す関数Y1(thi)を第2関数として定義する。
【0095】
この関数Y1(thi)を適用してスイッチングパターンを求める要領は、既述した関数Y(thi)を適用した場合と全く同一であるので、再度の説明は省略する。
この際、各次数における電流高調波の二乗和をインバータ4およびインバータ4に接続されたモータの高調波損失総和が低減されるように、次数により重み付け係数w(k)を変更して合計した第2関数Y1(thi)を設定することで、インバータ4およびインバータ4に接続されたモータ3の高調波損失総和を低減することができる。
【0096】
更に、具体的な数式までの説明は省略するが、各次高調波要素として、各次高調波電圧成分と各次高調波電流成分との乗算値とし、該乗算値の各次加算値を第2関数Y(thi)としてスイッチング位相を求めるようにしてもよい。この場合、各次高調波電力成分の総和を低減することが可能となる。
【0097】
なお、上記第2関数Y1(thi)は、上記実施の形態3に限らず、上記実施の形態1、2にも適用でき、同様の効果が得られる。
【0098】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4における電力変換装置について説明する。電力変換装置2の全体構成は、先の実施の形態1の
図1、
図2で示したものと同様である。この場合、ゲート信号生成部の内部構成が上記実施の形態1と異なる。
図14は、この実施の形態4によるゲート信号生成部16Aの内部構成を示す図である。その他の構成は、上記実施の形態1と同様である。
ゲート信号生成部16Aは、上記実施の形態1と同様に、変調率演算器11からの変調率mとパルス数決定部13からのパルス数Pnumとに対応するスイッチングパターンをスイッチングパターン決定部12から読み出し、当該スイッチングパターンに基づきスイッチング素子6をオンオフ駆動するゲート信号17を生成するものである。
【0099】
例えば、パルス数Pnum=3の場合、先の
図9のスイッチングパターンが示すように、どの変調率においても、2つのスイッチングレグ8a、8bのスイッチング位相(th1a、th2a、th3aとth1b、th2b、th3b)は互いに異なっている。そのため、スイッチングレグ8aが、スイッチングレグ8a用のスイッチングパターン(以下、aレグ用スイッチングパターンと称す)のみを用いて、また、スイッチングレグ8bが、スイッチングレグ8b用のスイッチングパターン(以下、bレグ用スイッチングパターンと称す)のみを用いてスイッチング動作を続けると、負荷電流やスイッチング位相によって、オン/オフの時間や流れる電流が異なるために、各スイッチング素子の負荷に偏りが生じスイッチング素子の部分的な劣化やスイッチングばらつきを生みやすい。
【0100】
この実施の形態4では、
図14に示すように、ゲート信号生成部16Aは、スイッチングパターン入れ替え部161およびゲート信号発生部162を備える。
スイッチングパターン入れ替え部161は、2つのスイッチングレグ8aと8bとの負担が均一化するよう、出力電圧位相th、負荷電流や素子電流、更には素子温度に基づきスイッチングレグ8aと8bとのスイッチングパターンを所定の周期で入れ替える。ゲート信号発生部162は、スイッチングパターン入れ替え部161により入れ替えたスイッチングパターンに基づきゲート信号17を生成する。
【0101】
なお、ここでは、スイッチングレグ8aとスイッチングレグ8bとの2直列構成の場合について説明するが、3以上のスイッチングレグを直列に構成する場合にも、同様の方法を適用することにより、これら直列に接続された各スイッチングレグの負担を均等化することができる。
【0102】
図15は、2つのスイッチングレグ8a、8bのスイッチングパターンの入れ替え頻度を決定する手順例を示す図である。スイッチングパターンの入れ替え頻度である入れ替え周期NNを決定するフローを、
図15に基づいて以下に説明する。なお、入れ替え周期NNは、インバータ運転周波数における周期の数で表す。
まず、電流センサ19により負荷電流を検出し、負荷電流の実効値Rmsを計算する(ST1)。
次に、負荷電流実効値Rmsとスイッチング頻度の判定閾値Caとを比較して負荷電流によるスイッチング頻度判定を行う(ST2)。
【0103】
図16は、ステップST2における単相の5レベルインバータ4の出力電圧Vsと負荷電流の一例を示したものである。
波形71a、71bは単相の負荷電流を示し、波形71arは負荷電流(波形71a)の電流実効値(Rms)、波形71brは負荷電流(波形71b)の電流実効値(Rms)を示し、波形71は、スイッチング頻度の判定閾値Caを相電流に変換したものを示す。
ステップST2において、検出した負荷電流が、波形71b、71brに示す状態、即ち、負荷電流の実効値Rmsが判定閾値Ca以下の場合、スイッチングパターンの入れ替え周期NNを4(インバータ運転周波数における4周期)とする。これは、スイッチングパターンの入れ替え周期NNを大きくして入れ替え頻度を低くするものである(ST3)。
【0104】
ステップST2において、検出した負荷電流が、波形71a、71arに示す状態、即ち、負荷電流の実効値Rmsが判定閾値Caより高い場合、素子電流・温度センサ18により、インバータ4の2つのスイッチングレグ8a、8b毎の複数のスイッチング素子6の素子電流を検出し、その平均電流Ieを算出する(ST4)。
次に、スイッチングレグ8a、8b毎のスイッチング素子の平均電流IeとスイッチングレグのON時間を乗じた値を、設計で予め定めた判定閾値Cbと比較して(ST5)、判定閾値Cb以下の場合は、スイッチングパターンの入れ替え周期NNを2に設定する(ST6)。
【0105】
ステップST5において、スイッチングレグ8a、8b毎のスイッチング素子の平均電流IeとスイッチングレグのON時間を乗じた値が、判定閾値Cbより高い場合、素子電流・温度センサ18により、スイッチングレグ8a、8b毎の複数のスイッチング素子6の素子温度を検出し、その平均温度THeを算出する(ST7)。
次に、スイッチングレグ8a、8b毎のスイッチング素子の平均温度THeを、設計で予め定めた判定閾値Ccと比較して(ST8)、判定閾値Cc以下の場合は、ステップST6に進み、スイッチングパターンの入れ替え周期NNを2に設定する。
ステップST8において、スイッチングレグ8a、8b毎のスイッチング素子の平均温度THeが判定閾値Ccより高い場合、スイッチングパターンの入れ替え周期NNを1に設定する(ST9)。
【0106】
図17は、スイッチングパターンの入れ替え周期NN=4の場合のスイッチングパターン入れ替え方法を説明する図であり、インバータ運転周波数における4周期に番号N(=1〜4)を付して、各スイッチングレグ8a、8bによりスイッチングするパルス数が1パルスのスイッチングパターンを示した図である。
図17に示すように、運転周波数の周期N=1、2の間は、スイッチングレグ8aは、自らのスイッチングパターンであるレグ8a用パターン(th1a)を用いてスイッチングを行う。そして、周期N=3、4の間は、スイッチングレグ8aは、スイッチングレグ8b用のスイッチングパターンであるレグ8b用パターン(th1b)を用いてスイッチングを行う。
スイッチングレグ8bも、同様にして、2周期毎に自らのレグ8b用パターンとレグ8a用パターンとを交互に用いてスイッチングを行う。スイッチングパターン入れ替えの位相はそれぞれ各相の0°とする。
【0107】
図18は、スイッチングパターンの入れ替え周期NN=2の場合のスイッチングパターン入れ替え方法を説明する図である。図に示すように、各スイッチングレグ8a、8bは、インバータ運転周波数における1周期毎に自らのレグ用パターンと他方のレグ用パターンとを交互に用いてスイッチングを行う。
【0108】
図19は、スイッチングパターンの入れ替え周期NN=1の場合のスイッチングパターン入れ替え方法の一例を説明する図である。図に示すように、インバータ運転周波数における1周期内で2つのスイッチングレグ8a、8bのスイッチングパターンを入れ替える。
周期N=1では、スイッチングレグ8aは、0〜(1/2)πとπ〜(3/2)πの間は、レグ8b用スイッチングパターン(th1b)を用いてスイッチングを行い、(1/2)π〜πと(3/2)π〜2πの間は、自らのレグ8a用スイッチングパターン(th1a)を用いてスイッチングを行う。
【0109】
周期N=2では、スイッチングレグ8aは、周期N=1の場合と逆に、(1/2)π〜πと(3/2)π〜2πの間は、レグ8b用スイッチングパターン(th1b)を用いてスイッチングを行い、0〜(1/2)πとπ〜(3/2)πの間は、自らのレグ8a用スイッチングパターン(th1a)を用いてスイッチングを行う。
スイッチングレグ8bは、スイッチングレグ8aが使わない方のスイッチングパターンを用いてスイッチングを行う。
【0110】
なお、
図15を用いた以上の説明では、負荷電流、素子電流および素子温度の検出値に基づきスイッチングパターンの入れ替え周期を切り替えるようにしたが、これに限るものではない。電力変換装置2としての使用条件等によっては、負荷電流、素子電流および素子温度の中の1種類以上の検出値に基づいて、スイッチングパターンを切り替えるようにして、切り替えに係る構成を簡便なものとしてもよい。
【0111】
この実施の形態4においても、上記実施の形態1と同様に、パルス数によって低減したい高調波の次数種別の数が直接制限されず、従って、比較的少ないパルス数であっても、出力電圧における、次数の種別数が総パルス数以上の高調波電圧成分または高調波電流成分をも低減することが出来る。さらに、ゲート信号生成部16Aが、スイッチングパターン入れ替え部161およびゲート信号発生部162を備えて、スイッチングレグ8aと8bとのスイッチングパターンを所定の周期で入れ替えるようにゲート信号17を生成する。これにより、両スイッチングレグ8a、8bの負担の均一化が図れ、その分、装置としての寿命が延びる。
【0112】
なお、この実施の形態4を上記実施の形態3に適用して、各スイッチングレグ用のスイッチングパターンを両者で出力する変調率を互いに等しくなるように生成した上で、所定の周期でスイッチングパターンを入れ替えても良く、両スイッチングレグ8a、8bの負担は、さらに均一化できる。
【0113】
実施の形態5.
図20、
図21は、この発明の実施の形態5における電力変換装置の全体構成を示す回路図である。特に、
図20では主回路であるインバータ4の構成を詳細に示し、
図21では制御部10の構成を詳細に示した。この実施の形態5では、直流電圧源1の電圧を2分して各スイッチングレグ8a、8bに直流電圧を供給する正極側コンデンサ5aと負極側コンデンサ5bとの電圧を均等化してインバータ4としての出力電圧の正極側と負極側との差をなくす方策を採用している。その他の構成および動作は、上記実施の形態1の場合と同様であり、また、高調波低減に係る動作も同様である。
以下、上記方策に係る構成および動作を中心に説明する。
【0114】
図20に示すように、電力変換装置2は、正極側コンデンサ5aと負極側コンデンサ5bとの電圧の差を中性点電圧として検出する中性点電圧センサ22a、22b、22c、および正極側コンデンサ5aと負極側コンデンサ5bとの接続点に流入する電流ica、icb、iccを中性点電流として検出する中性点電流センサ21a、21b、21cを備える。なお、
図20では、中性点電圧を中性点電圧センサの参照符号22a、22b、22cを用いて示した。
【0115】
図22は、ゲート信号生成部16Bの内部構成図である。ゲート信号生成部16Bは、スイッチングパターンを補正するパルス補正部163、およびその補正したスイッチングパターンに基づきゲート信号17を生成するゲート信号発生部164を備える。パルス補正部163は、スイッチングパターン決定部12から読み出したスイッチングパターンを、中性点電圧センサ22a、22b、22cまたは中性点電流センサ21a、21b、21cの検出出力に応じて補正する。
【0116】
図23は、パルス補正部163により、正極側コンデンサ5aと負極側コンデンサ5bとの電圧のアンバランスを補正する要領を説明する図である。ここでは、正極側コンデンサ5aの電圧が負極側コンデンサ5bの電圧より高く、これを検出して、U相のスイッチングレグ8aのスイッチングパターンを補正することでこの差を低減する場合を例示する。
【0117】
正極側コンデンサ5aの電圧vucaが負極側コンデンサ5bの電圧vucbよりも設計で予め定めた閾値Thvより大きい場合、もしくは、中性点電流icaが設計で予め定めた閾値−Thiより小さい場合、正極側コンデンサ5aの電圧が低下するように補正する。即ち、パルスパターンの正極側(0〜π)において、各パルス幅を縮める方向へ、それぞれスイッチング位相を設計で予め定めた「shift」分補正する。そして、パルスパターンの負極側(π〜2π)において、各パルス幅を広げる方向へ、それぞれスイッチング位相を「shift」分補正する。
図23において、実線は補正前、破線は補正後のパルスパターンを示す。
【0118】
図23で示す方法の場合は、スイッチングをオンする(パルスが0→1に変化する)位相とオフする(パルスが1→0に変化する)位相で位相の補正方向が異なるため、補正が複雑になる。
その場合、この補正処理を簡単にするため、補正するスイッチング位相を、パルス波形が変化しない、π/2、(3/2)πに最も近い中央パルスの位相で、かつ、スイッチングをオンする位相のみ、もしくは、スイッチングをオフする位相のみに限定してもよい。
【0119】
また、補正量「shift」を正極側コンデンサ5aと負極側コンデンサ5bの電圧の差(vcua−vcub)や中性点電流(ica)の大きさによって段階的に変えてもよい。さらにまた、両コンデンサ5a、5bの電圧差が零となるよう、いわゆるフィードバック制御で最適な補正量を算出してもよい。更に、補正を行う頻度を上記の電圧差や中性点電流の大きさによって変えてもよい。
【0120】
以上のように、この発明の実施の形態5による電力変換装置においては、中性点電圧センサや中性点電流センサを用いて、各相の正極側コンデンサの電圧と負極側コンデンサの電圧の差をなくす。これにより、上記実施の形態1で説明した効果に加え、高負荷時においてもPWM制御による出力電圧の正極側と負極側の差が少ない高品質の出力特性が得られるという効果を奏する。
【0121】
実施の形態6.
図24は、この発明の実施の形態6における電力変換装置の全体構成を示す回路図である。電力変換装置2の全体構成は、上記実施の形態1で示したものと同様であるが、この場合、制御部10におけるスイッチングパターン決定部12Bの内部構成が異なる。その他の構成は、上記実施の形態1と同様である。
図25は、上記実施の形態1の
図5で示したものと同様に、パルス数Pnum=3の場合における、5レベルインバータ4の単相分の出力電圧波形と、直列接続された2つのスイッチングレグ8a、8bの出力電圧波形との関係を示したものである。この実施の形態6によるスイッチングパターンの決定について、
図25を用いて、以下に簡単に説明する。
【0122】
図25に示すように、5レベルインバータ4で出力される出力電圧波形において、半周期の一部区間である、位相(1/2)π、(3/2)πをそれぞれ挟む中央区間に、出力電圧波形の部分波形である中央パルス211がある。この中央パルス211は、位相th3a、th3bによって生成され、スイッチングレグ8aの出力電圧VLaの中央パルス211aと、スイッチングレグ8bの出力電圧VLbの中央パルス211bとを加算した中央パルス列により構成される。
そして、この実施の形態では、出力波形全体の基本波振幅(=変調率)に占める中央パルス211の基本波振幅の比率jを決定し、さらに中央パルス211における高調波レベルの閾値iを設定して、スイッチングパターンを決定する。即ち、出力波形全体と中央パルス211との双方について、所望の基本波を確保すると共にそれぞれの各次高調波成分を低減する。
【0123】
図26は、この実施の形態6によるスイッチングパターン決定部12Bの内部構成を示す図である。
図に示すように、スイッチングパターン決定部12Bは、変調率確保部121Aと、高調波低減部122Aと、関数合成部123と、スイッチング位相算出部124と、スイッチングパターン記憶部125とから構成される。
変調率確保部121Aは、パルス基本波確保部201と、中央パルス比率決定部202と、中央パルス基本波確保部203とから構成され、第1関数として、基本第1関数(関数f)および補助第1関数(関数fc)を設定する。
【0124】
パルス基本波確保部201は、変調率を確保するための関数であって、変調率、パルス数およびスイッチングレグ段数に基づき、インバータ4の出力電圧半周期の基本波成分と変調率とを関係づける基本第1関数として関数fを生成する。なお、この関数fは上記実施の形態1における関数fと同じ関数である。
中央パルス比率決定部202は、変調率、パルス数、スイッチングレグ段数に基づき、出力電圧半周期における中央パルス211の基本波成分(部分基本波成分)における変調率に対する比率jを決定する。中央パルス基本波確保部203は、中央パルス比率決定部202により決定した比率jに基づいて、中央パルス211の基本波成分と変調率とを関係づける補助第1関数としての関数fcを生成する。
【0125】
高調波低減部122Aは、パルス高調波低減部204と、中央パルス高調波レベル決定部205と、中央パルス高調波低減部206とから構成され、第2関数として、基本第2関数(関数Y)および補助第2関数(関数Yc)を設定する。
パルス高調波低減部204は、インバータ4の出力波形の高調波成分を低減するための関数であって、パルス数およびスイッチングレグ段数に基づき、インバータ4の出力電圧半周期の各次高調波成分で決まる各次高調波要素の加算値である基本第2関数として関数Yを生成する。なお、この関数Yは上記実施の形態1における関数Yと同じ関数である。
中央パルス高調波レベル決定部205は、変調率、パルス数、スイッチングレグ段数に基づき、出力電圧半周期における中央パルス211の高調波成分における高調波レベルの閾値i(高調波成分の振幅閾値)を決定する。中央パルス高調波低減部206は、中央パルス高調波レベル決定部205により決定した閾値iに基づいて、中央パルス211の各次高調波成分で決まる各次高調波要素の加算値と、高調波レベルの閾値iとを関係づける補助第2関数としての関数Ycを生成する。
【0126】
関数合成部123は、第1関数である関数fおよび関数fcと、第2関数である関数Yおよび関数Ycと、1以上の追加変数とからなる第3関数である評価関数Xを設定する。スイッチング位相算出部124は、評価関数Xをスイッチング位相および追加変数について最小化することにより変調率を確保するとともに各次高調波要素の加算値を低減するスイッチング位相を算出する。そしてスイッチングパターン記憶部125は、スイッチング位相算出部124で算出されたスイッチング位相で決まるスイッチングパターンを各変調率および各パルス数毎に記憶する。
【0127】
以上の第1関数(基本第1関数fおよび補助第1関数fc)、第2関数(基本第2関数Yおよび補助第2関数Yc)、および評価関数Xの具体例として、ここでは、以下の式(21)〜式(25)に示す5つの関数を定義する。
【0130】
上記式(21)、式(22)で定義される関数f、関数fcは、変調率確保部121A内のパルス基本波確保部201、中央パルス基本波確保部203にて生成される。
パルス基本波確保部201は、両スイッチングレグ8a、8bを直列にして得られる変調率mを確保するため、全スイッチング位相(th1a、th2a、th3a、th1b、th2b、th3b:以下、thiと表示する)と当該変調率mとの関係を規定した、各スイッチング位相thiを変数とする関数f(thi)を、式(21)に示すように定義する。なお、式(21)は、上記実施の形態1における関数f(thi)を表す式(5)と同一である。
【0131】
中央パルス比率決定部202は、出力波形全体の基本波振幅(=変調率)に占める中央パルス211の基本波振幅の比率jを、例えば
図27に示すように決定する。
図27に示す例では、m1<m2となる2つの変調率m1、m2を基準値とし、m≦m1となる変調率mの領域を低変調率域、m1<m≦m2となる変調率mの領域を中変調率域、m2≦mとなる変調率mの領域を高変調率域とする。そして、それぞれの領域において、変調率に対する中央パルス211の基本波振幅の比率jを設定している。
図27に示すように、低変調率ほど出力波形全体の基本波振幅(=変調率)に占める中央パルスの基本波振幅の比率jが高くなるように設定している。これは、一般に高変調率の時は高負荷、低変調率の時は低負荷であるため、その条件のもとに設定したためである。即ち、低変調率では変調率の変動で出力電圧波形が変わり難く、制御が安定するように中央パルス211の基本波振幅を高くし、高変調率では負荷電流が中央パルス付近で高くなるため、損失を低減するために中央パルス211の基本波振幅を低くした。この比率j1、j2、j3はパルス数やスイッチングレグの段数によって変えてよい。
【0132】
中央パルス基本波確保部203では、スイッチング位相th3a、th3bにより生成される中央パルス211について、スイッチング位相th3a、th3bと、当該変調率mと比率jとの積で決まる中央パルス211の基本波振幅との関係を規定した、スイッチング位相th3a、th3bを変数とする関数fc(th3a、th3b)を、式(22)に示すように定義する。
【0133】
また、上記式(23)、式(24)で定義される関数Y(thi)、関数Yc(th3a、th3b)は、高調波低減部122A内のパルス高調波低減部204、中央パルス高調波低減部206にて生成される。
パルス高調波低減部204は、高調波を低減するため、各スイッチング位相thiと、各高調波要素の加算値として、インバータ4の出力波形の各次高調波電圧成分に各次重み付け係数w(k)(k=k1〜kj)を乗算した値の二乗和との関係を規定した、各スイッチング位相thiを変数とする関数Y(thi)を、式(23)に示すように定義する。なお、式(23)は、上記実施の形態1における関数Y(thi)を表す式(6)と同一である。即ち、式(23)において、kは低減対象の高調波次数を表し、ここでは、5次、・・・・25次の、合計8個の種別の次数を対象としているが、これに限るものではない。ここでの重み付け係数w(k)の定義と設定方法は実施の形態1と同様である。
【0134】
中央パルス高調波レベル決定部205では、出力電圧半周期における中央パルス211の高調波成分における高調波レベルの閾値、即ち高調波振幅の閾値iを、例えば
図28に示すように決定する。
図28に示す例では、m3<m4となる2つの変調率m3、m4を基準値とし、m≦m3となる変調率mの領域を低変調率域、m3<m≦m4となる変調率mの領域を中変調率域、m4≦mとなる変調率mの領域を高変調率域とする。そして、それぞれの領域において、変調率に対する中央パルス211の高調波振幅の閾値iを設定している。なお、高調波レベルは、中央パルス211の各次数の高調波電圧の二乗和の平方根で規定される。
【0135】
図28に示すように、高変調率ほど高調波振幅の閾値iが低くなるように設定している。これは、高変調率の時は高負荷、低変調率の時は低負荷である条件のもとに設定したためである。即ち、低変調率では半周期の端部のパルスで高調波が多いと、デッドタイム等の影響で出力電圧波形が崩れて制御が不安定化し易いため、高調波レベルを中央パルスで高くする。逆に、高変調率では、負荷電流が中央パルス付近で高くなるため、高調波損失を低減するために中央パルスの高調波レベルを低くなるようにする。この高調波レベルの閾値i1、i2、i3は、パルス数やスイッチングレグの段数によって変えてよい。
【0136】
中央パルス高調波低減部206では、スイッチング位相th3a、th3bにより生成される中央パルス211について、各次高調波電圧成分の二乗和の平方根で規定される高調波レベルである高調波振幅と閾値iとの関係を規定した、スイッチング位相th3a、th3bを変数とした関数Yc(th3a、th3b)を、式(24)に示すように定義する。
式(24)において、kは式(23)と同様に低減対象の高調波次数を表し、ここでは、5次、・・・・13次の、合計4個の種別の次数を対象としている。そして、後述する式(25)、式(26)において、式(24)での5次〜13次の高調波成分の二乗和が高調波レベルの閾値iの二乗の値以下となるスイッチング位相を得ることを目的としている。
【0137】
更に、関数合成部123は、式(25)に示すように、関数f、関数fc、関数Yおよび関数Ycの自由度(変数としてのスイッチング位相thiの数が相当し、ここでは6個の変数)に更に追加変数を付加して自由度を増やした評価関数Xを定義する。この評価関数Xは、インバータ4の出力波形で変調率を確保し、各次高調波電圧成分の二乗和を低減し、また中央パルス211の基本波が変調率mと比率jとの積で求められる中央パルス用基本波振幅を確保し、かつ、中央パルス211の各次高調波電圧の二乗和が決定された閾値(i
2)以下となるように定義される。
具体的には、式(23)に示す関数Y(thi)と、式(21)、式(22)、式(24)に示す、関数f(thi)、関数fc(th3a,th3b)、関数Yc(th3a,th3b)にそれぞれ重み付け変数α、β、γを乗算した値との和である、各スイッチング位相thiおよび重み付け変数α、β、γを変数とする評価関数X(thi、α、β、γ)を定義している。
【0138】
そして、スイッチング位相算出部124は、この評価関数X(thi、α、β、γ)の9個の変数α、β、γ、th1a〜th3bの偏微分を取り、それらを0または0以下と置く、式(26)に示す9元連立方程式を作成する。そして、この9元連立方程式を、例えば、Newton法を用いて解くことにより、要求された変調率mを確保するとともに、多くの次数の高調波電圧成分の総合的な値を最小とし、さらに中央パルス211の基本波振幅の変調率mに対する比率や、中央パルス211の多くの次数の高調波電圧成分を、変調率をもとに適切になるように設定したスイッチングパターンを得ることができる。
【0140】
以上のように、この発明の実施の形態6による電力変換装置では、スイッチングパターン決定部12B内の変調率確保部121Aが、第1関数として、基本第1関数(関数f)および補助第1関数(関数fc)を設定し、高調波低減部122Aが、第2関数として、基本第2関数(関数Y)および補助第2関数(関数Yc)を設定する。そして、これらの関数と追加変数とから得られる評価関数Xを用いてスイッチングパターンを決定する。これにより、上記実施の形態1で説明した効果に加え、中央パルス211の基本波振幅の変調率mに対する比率や、中央パルス211の多くの次数の高調波電圧成分を、変調率をもとに適切に制御できる。このため、多くの次数の高調波電圧成分を最小にするだけでなく、負荷や出力電圧の大きさによらず、スイッチング損失及びそれによるスイッチング素子の熱発生が少なく、かつ低電圧でも安定した制御ができる。
【0141】
そのため、多くの次数の高調波電圧成分を最小にするだけでなく、負荷や出力電圧の大きさによらず、スイッチング損失及びそれによるスイッチング素子の熱発生が少なく、かつ低電圧でも安定した制御ができるスイッチングパターンを得ることができる。
また、インバータ4の出力電圧半周期の一部区間の波形として、位相(1/2)π、(3/2)πを挟む中央パルス211を用いた。中央パルス211は、出力電圧波形への貢献および影響が大きい部分であり、所望のスイッチングパターンが効果的に得られる。
【0142】
なお、中央パルス比率決定部202における変調率の各基準値m1、m2と、中央パルス高調波レベル決定部205における変調率の各基準値m3、m4とは、同じでもよいし、異なっていてもよい。また、中央パルス比率決定部202、中央パルス高調波レベル決定部205で用いる各変調率の基準値の個数も2個に限らず、3個以上でも良い。
【0143】
また、中央パルス高調波低減部206では、低減する高調波次数kの種別を式(24)に示すように4個としたが、パルス高調波低減部204と同じ次数種別、即ち5次から25次までの8個としてもよいし、それ以上の種別数を低減対象にしてもよい。
【0144】
さらにまた、上記実施の形態6では、インバータ4の出力電圧半周期の一部区間の波形として、中央パルス211を用いたが、この限りではない。基本波振幅の変調率mに対する比率を設定する一部区間の位相範囲は自由に設定してよい。
【0145】
実施の形態7.
次に、この発明の実施の形態7における電力変換装置について説明する。この実施の形態7では、上記実施の形態6と同様に、中央パルスに着目してスイッチングパターンを決定するものであり、複数のスイッチングレグの制御をバランスさせるものである。
図29は、この実施の形態7によるスイッチングパターン決定部12Cの内部構成を示す図である。その他の構成は上記実施の形態1と同様である。
また、
図30は、変調率m、パルス数Pnum=5の場合における、1周期(2π)にわたる、出力電圧波形の例であり、5レベルインバータ4の単相分の出力電圧波形と、直列接続された2つのスイッチングレグ8a、8bの出力電圧波形との関係を示したものである。
【0146】
図30に示すように、5レベルインバータ4で出力される出力電圧波形において、半周期の一部区間である、位相(1/2)π、(3/2)πをそれぞれ挟む所定の中央区間に、出力電圧波形の部分波形である中央パルス列212がある。この中央パルス列212は、スイッチングレグ8aの出力電圧VLaにおける3個の中央パルスから成る中央パルス列212aと、スイッチングレグ8bの出力電圧VLbにおける3個の中央パルスから成る中央パルス列212bとを加算して構成される。
この実施の形態では、スイッチングパターン決定部12Cが、以下のようにスイッチングパターンを決定する。各スイッチングレグ8a、8bの出力波形全体の基本波を確保すると共に、スイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212の基本波の振幅差を低減する。同時に、5レベルインバータ4の出力波形全体の各次高調波成分を低減し、かつ各スイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212における各次高調波成分を低減する。
【0147】
図29に示すように、スイッチングパターン決定部12Cは、変調率確保部121Bと、高調波低減部122Bと、関数合成部123と、スイッチング位相算出部124と、スイッチングパターン記憶部125とから構成される。
変調率確保部121Bは、各レグパルス基本波確保部221と、各レグ中央パルス基本波振幅差確保部222とから構成され、第1関数として、各スイッチングレグ8a、8b毎の基本第1関数(関数fa、関数fb)とバランス関数(関数fd)とを設定する。なお、関数fa、関数fbは上記実施の形態4と同様に設定されるものである。
【0148】
各レグパルス基本波確保部221は、各スイッチングレグ8a、8b毎に同一の変調率を確保するための関数であって、変調率、パルス数およびスイッチングレグ段数に基づき、インバータ4の出力電圧半周期の基本波成分と変調率とを関係づける基本第1関数として、各スイッチングレグ8a、8b毎に関数fa、関数fbを生成する。
各レグ中央パルス基本波振幅差確保部222は、変調率、パルス数、スイッチングレグ段数に基づき、出力電圧半周期における、2つのスイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212の基本波成分の振幅差と、予め設定した上限値とを関係づけるバランス関数として関数fdを生成する。
【0149】
高調波低減部122Bは、パルス高調波低減部223と、各レグ中央パルス高調波低減部224とから構成され、第2関数として、基本第2関数(関数Y)と各スイッチングレグ8a、8b毎の補助第2関数(関数Yca、関数Ycb)とを設定する。
パルス高調波低減部223は、インバータ4の出力波形の高調波成分を低減するための関数であって、パルス数およびスイッチングレグ段数に基づき、インバータ4の出力電圧半周期の各次高調波成分で決まる各次高調波要素の加算値である基本第2関数として関数Yを生成する。なお、この関数Yは上記実施の形態1における関数Yと同じ関数である。
各レグ中央パルス高調波低減部224は、各スイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212の各次高調波成分で決まる各次高調波要素の加算値と、変調率に応じて予め設定された高調波レベルの閾値iとを関係づける補助第2関数として、各スイッチングレグ8a、8b毎に関数Yca、関数Ycbを生成する。
【0150】
関数合成部123は、第1関数である関数fa、関数fbおよび関数fdと、第2関数である関数Yおよび関数Yca、関数Ycbと、1以上の追加変数とからなる第3関数である評価関数Xを設定する。スイッチング位相算出部124は、評価関数Xをスイッチング位相および追加変数について最小化することにより変調率を確保するとともに各次高調波要素の加算値を低減するスイッチング位相を算出する。そしてスイッチングパターン記憶部125は、スイッチング位相算出部124で算出されたスイッチング位相で決まるスイッチングパターンを各変調率および各パルス数毎に記憶する。
【0151】
以上の第1関数(基本第1関数fa、fbおよびバランス関数fd)、第2関数(基本第2関数Yおよび補助第2関数Yca、Ycb)、および評価関数Xの具体例を以下に示す。ここでは、式(27)〜式(29)に示す3つの関数で第1関数を定義し、式(30)〜式(32)に示す3つの関数で第2関数を定義し、式(33)に示す関数で評価関数を定義する。
【0155】
変調率確保部121B内の各レグパルス基本波確保部221は、スイッチングレグ8a、8bの負担の均一化を図るため、出力する変調率mをスイッチングレグ8a、8bの両者で互いに等分に分担するように、各スイッチングレグ8a、8b毎に、各スイッチング位相を変数とする関数fa、関数fbを、式(27)、式(28)に示すように定義する。即ち、関数faは、スイッチングレグ8aのスイッチング位相(th1a、th2a、th3a、th4a、th5a)と変調率mとの関係を規定した、スイッチングレグ8aのスイッチング位相を変数とする関数である。また、関数fbは、スイッチングレグ8bのスイッチング位相(th1b、th2b、th3b、th4b、th5b)と変調率mとの関係を規定した、スイッチングレグ8bのスイッチング位相を変数とする関数である。
【0156】
また、変調率確保部121B内の各レグ中央パルス基本波振幅差確保部222は、2つのスイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212の基本波成分の振幅差と、予め設定した上限値difflimとを関係づける関数fdを、式(29)に示すように定義する。即ち、関数fdは、スイッチングレグ8aにおけるスイッチング位相(th3a、th4a、th5a)で定義した中央パルス列212aの基本波振幅と、スイッチングレグ8bにおけるスイッチング位相(th3b、th4b、th5b)で定義した中央パルス列212bの基本波振幅との差と、上限値difflimとの関係を規定した、スイッチングレグ8a、8bのスイッチング位相(th3a、th4a、th5a、th3b、th4b、th5b)を変数とする関数である。また、関数fdは、それぞれ関数合成部123およびスイッチング位相算出部124により定義される、後段で説明する式(33)および式(34)に反映されることで、スイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212a、212bの基本波振幅の差≦上限値difflimを確保するものである。
【0157】
高調波低減部122B内のパルス高調波低減部223は、高調波を低減するため、インバータ4の出力波形の各スイッチング位相(th1a〜th5a、th1b〜th5b:以下thiとする)と、各高調波要素の加算値として、インバータ4の出力波形の各次高調波電圧成分に各次重み付け係数w(k)(k=k1〜kj)を乗算した値の二乗和との関係を規定した、各スイッチング位相thiを変数とする関数Y(thi)を、式(30)に示すように定義する。
なお、式(30)は、上記実施の形態1における関数Y(thi)を表す式(6)と同様に設定されるが、ここでは低減対象の高調波次数の種別数を10個としている。即ち、式(30)において、kは低減対象の高調波次数を表し、ここでは、5次、・・・・31次の、合計10個の種別の次数を対象としている。ここでの重み付け係数w(k)の定義と設定方法は実施の形態1と同様である。
【0158】
また、高調波低減部122B内の各レグ中央パルス高調波低減部224は、各スイッチングレグ8a、8b毎に、中央パルス列212a、212bの各次高調波要素の加算値と、高調波レベルの閾値iとを関係づける補助第2関数として、各スイッチングレグ8a、8bのスイッチング位相を変数とする関数Yca、関数Ycbを、式(31)、式(32)に示すように定義する。即ち、関数Ycaは、スイッチングレグ8aのスイッチング位相(th3a、th4a、th5a)を変数とし、関数Ycbは、スイッチングレグ8bのスイッチング位相(th3b、th4b、th5b)を変数として定義される。また、各次高調波電圧成分の二乗和の平方根で規定される高調波レベルである高調波振幅の閾値iは、変調率毎に予め設定される。
式(31)、式(32)において、kは式(30)と同様に低減対象の高調波次数を表し、ここでは、5次、・・・・13次の、合計4個の種別の次数を対象としている。
【0159】
更に、関数合成部123は、式(33)に示すように、関数fa、関数fb、関数fd、関数Y、関数Yca、および関数Ycbの自由度(変数としてのスイッチング位相thiの数が相当し、ここでは10個の変数)に更に追加変数を付加して自由度を増やした評価関数Xを定義する。この評価関数Xは、インバータ4の各スイッチングレグ8a、8bによる出力波形で変調率を等分に負担して基本波成分を確保し、各次高調波電圧成分の二乗和を低減するように設定される。また同時に、2つのスイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212a、212bの基本波振幅の差が上限値以下となるように該基本波振幅を確保し、かつ、各中央パルス列212a、212bの各次高調波電圧の二乗和が決定された閾値(i
2)以下となるように定義される。
【0160】
具体的には、式(30)に示す関数Y(thi)と、式(27)〜式(29)、式(31)、式(32)に示す、関数fa、関数fb、関数fd、関数Yca、関数Ycbにそれぞれ重み付け変数α1、α2、β、γ、δを乗算した値との和である、各スイッチング位相thi及び重みづけ変数α1、α2、β、γ、δを変数とする評価関数X(thi、α1、α2、β、γ、δ)を定義している。
【0161】
そして、スイッチング位相算出部124は、この評価関数X(thi、α1、α2、β、γ、δ)の15個の変数α1、α2、β、γ、δ、th1a〜th5bの偏微分を取り、それらを0または0以下と置く、式(34)に示す15元連立方程式を作成する。そして、この15元連立方程式を、例えば、Newton法を用いて解くことにより、所望のスイッチングパターンを得ることができる。即ち、各スイッチングレグ8a、8bが等分の負担により要求された変調率mを確保するとともに、多くの次数の高調波電圧成分の総合的な値を最小とできる。さらに2つのスイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212a、212bの基本波振幅の差を低減し、かつ各中央パルス列212a、212bの各次高調波電圧成分を低減できるスイッチングパターンが得られる。
【0163】
以上のように、この発明の実施の形態7による電力変換装置では、スイッチングパターン決定部12C内の変調率確保部121Bが、第1関数として、各スイッチングレグ8a、8b毎の基本第1関数(関数fa、関数fb)とバランス関数(関数fd)とを設定し、高調波低減部122Bが、第2関数として、基本第2関数(関数Y)と各スイッチングレグ8a、8b毎の補助第2関数(関数Yca、関数Ycb)とを設定する。そして、これらの関数と追加変数とから得られる評価関数Xを用いてスイッチングパターンを決定する。これにより、上記実施の形態1で説明した効果に加え、各スイッチングレグ8a、8bの負担を均一化でき、さらに2つのスイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212a、212bの基本波振幅の差を低減し、かつ各中央パルス列212a、212bの各次高調波電圧成分を低減できる。
【0164】
これにより、複数のスイッチングレグ構成によるマルチレベルインバータにおいても、スイッチング損失のアンバランスを低減し、素子の寿命を長くできるだけでなく、スイッチング損失及び高調波によるモータ損失を低減したスイッチングを実現できる。
【0165】
また、上記実施の形態4で示したような、複数のスイッチングパターンを所定の周期で入れ替えるようにゲート信号17を生成する場合では、スイッチングレグの段数が増えると入れ替えシーケンスが複雑になり、また入れ替え周期が長くなるため、スイッチングレグ間のアンバランス解消が難しい。この実施の形態では、予め各スイッチングレグの高調波損失を抑え、各損失アンバランスを低減したスイッチングパターンを決定して用いるためスイッチングレグの段数が多い場合にも有効である。
【0166】
なお、各スイッチングレグ8a、8bの中央パルス列212a、212bの基本波振幅の差に対する上限値difflimは、変調率毎に値を設定してもよい。また、予め変調率に対して上限値difflimを段階的に複数種設定して、決定しても良い。
【0167】
また、高調波レベルである高調波振幅の閾値iは、変調率と対応した閾値iのテーブルを予め設けても良い。また、上記実施の形態6と同様の中央パルス高調波レベル決定部205を備えて、
図31に示すように、変調率に応じて段階的に設定しても良い。
【0168】
実施の形態8.
次に、この発明の実施の形態8における電力変換装置について説明する。電力変換装置の全体構成は、上記実施の形態1の
図1、
図2で示したものと同様である。この場合、制御部10内のパルス数決定部13の動作が異なる。
ところで、電力変換装置2のインバータ4において、直列に接続される3レベルスイッチングレグ8a、8bの段数が増えると、インバータ4から出力できる電圧レベルが増える。基本波半周期での各スイッチングレグ8a、8bから出力されるパルス数を増やすと、スイッチング回数も1/4周期で(パルス数増加分×段数)分増える。例えば、基本波半周期で各スイッチングレグ8a、8bが出力する3レベル電圧のパルス数Pnumを3パルスから5パルス、あるいは5パルスから3パルスに変えると、1/4周期のインバータ4でのスイッチング回数はパルス増分×2段=4回増減する。つまり、パルス数の増減によりスイッチング回数の増減分はレグ段数に比例して増える。
【0169】
パルス数決定部13は、インバータ4の出力周波数指令値Fcに基づき、PWM制御における基本波半周期当たりのパルス数Pnumを決定する。これは、スイッチング速度が遅い大容量インバータでも、スイッチングが追従できるように、高速運転になるとスイッチング回数を減らすためである。
この実施の形態8では、パルス数決定部13は、インバータ4の出力周波数指令値Fcと変調率とに応じて、複数のスイッチングレグ8a、8b毎にパルス数を決定してパルス数の組み合わせを出力するものとする。
【0170】
図32は、この実施の形態におけるパルス数決定部13による動作を説明する図であり、パルス数決定条件の一例を示したものである。
図32に示すように、インバータ4の出力周波数指令値Fc(横軸)と、変調率に相当する出力電圧振幅値Vp(縦軸)に応じて、スイッチングレグ8a、8bのパルス数の組み合わせが決定される。この場合、周波数指令値Fcの基準値F1、F2、F3、F4と、電圧振幅値Vpの基準値Vp1を設定し、その条件の組み合わせにより、9通りのパルス数の組み合わせが決定される。
【0171】
具体的には次のようになる。まず、周波数指令値Fcが、5個の領域、即ち、Fc<F1、F1≦Fc<F2、F2≦Fc<F3、F3≦Fc<F4、F4≦Fc、のどの領域内であるかにより基本のパルス数が決定され、基本のパルス数は順に9、7、5、3、1となる。
そして、上記5つの領域のそれぞれにおいて、電圧振幅値Vpが、Vp1以上か未満かにより、各スイッチングレグ8a、8bのパルス数が同じか異なるかが決定される。異なるパルス数の組み合わせとなる場合は、基本のパルス数と、基本のパルス数より2個少ないパルス数との組み合わせとなる。
【0172】
各スイッチングレグ8a、8bのパルス数が異なる場合のスイッチングパターンの決定について、以下に説明する。例えば、上記実施の形態1の
図8で示したスイッチングパターン決定部12によりスイッチングパターンを決定する例を示す。
図33は、パルス数決定部13で決定されるパルス数の組み合わせが、5パルス+3パルスである場合の、5レベルインバータ4の単相分の出力電圧波形を示す図である。この場合、スイッチングレグ8aのパルス数が3で、スイッチングレグ8bのパルス数が5であり、5レベルインバータ4の単相分の出力電圧波形と、直列接続された2つのスイッチングレグ8a、8bの出力電圧波形との関係が
図33に示されている。
【0173】
まず、変調率確保部121は、式(35)、式(36)に示すように、スイッチングレグ8a、8bのそれぞれについて、スイッチング位相と変調率との関係を規定する第1関数としての、関数fa(th1a、th2a、th3a)および関数fb(th1b、th2b、th3b、th4b、th5b)を定義する。この場合、スイッチングレグ8a、8bの負担の均一化を図るため、出力する変調率mをスイッチングレグ8a、8bの両者で互いに等分に分担するように、関数fa、関数fbを設定する。
【0175】
次に、高調波低減部122は、式(37)に示すように、高調波を低減するため、各スイッチング位相thiと、各高調波要素の加算値として、インバータ4の出力波形の各次高調波電圧成分に各次重み付け係数w(k)(k=k1〜kj)を乗算した値の二乗和との関係を規定した、各スイッチング位相thiを変数とする第2関数Y(thi)を定義する。
式(37)において、kは低減対象の高調波次数を表し、ここでは、5次、・・・、31次の、合計10個の種別の次数を対象としているが、これに限られることはない。
【0177】
更に、関数合成部123は、式(38)に示すように、変調率を確保し各次高調波電圧成分に係る上述した二乗和を低減するため、第1関数fa、fbと第2関数Yの自由度(変数としてのスイッチング位相thiの数が相当し、ここでは8個の変数)に更に追加変数を付加して自由度を増やした評価関数Xを定義する。
具体的には、式(37)に示す関数Y(thi)と、式(35)、式(36)に示す関数fa、fbに、それぞれ重み付け変数α1、α2を乗算した値との和である、各スイッチング位相thiおよび重み付け変数α1、α2を変数とする評価関数X(thi、α1、α2)を定義している。
【0179】
そして、スイッチング位相算出部124は、この評価関数X(thi、α1、α2)の10個の変数α1、α2、th1a〜th5bの偏微分を取り、それらをすべて0と置く、式(39)に示す10元連立方程式を作成する。そして、この10元連立方程式を、例えば、Newton法を用いて解く。これにより、異なるパルス数の組み合わせで、要求された変調率mを確保し、かつ、スイッチングレグ8a、8bの負担が均一となり、多くの次数の高調波電圧成分の総合的な値を最小とするスイッチングパターンを得ることができる。
【0181】
以上のように、この実施の形態では、パルス数決定部13は、インバータ4の出力周波数指令値Fcと変調率とに応じて、複数のスイッチングレグ8a、8b毎にパルス数を決定してパルス数の組み合わせを出力するものとした。このため、パルス数の組み合わせを変調率に応じて変えることができ、同一時間内での、単位出力電圧あたりのスイッチング回数の変動を小さくし、運転周波数、変調率の変動によらず、スイッチング損失を低減できる。
【0182】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。