(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289839
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】酸性調味料用玉葱加工品の製造方法及び該製造方法により得られた酸性調味料用玉葱加工品を含有する酸性調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20180226BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20180226BHJP
A23B 7/06 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L27/60 A
A23B7/06
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-182313(P2013-182313)
(22)【出願日】2013年9月3日
(65)【公開番号】特開2015-47138(P2015-47138A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 仁雄
【審査官】
川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−189324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 19/00
A23B 7/06
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A工程及びB工程を含むことを特徴とする酸性調味料用玉葱加工品の製造方法。
A工程:ホール状の玉葱を、蒸気を用いて中心温度が60℃〜80℃となるように加熱す
る工程
B工程:A工程で得られた玉葱を細断又はペースト化する工程
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得られた酸性調味料用玉葱加工品を含有する酸性調味料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性調味料に用いる玉葱加工品の製造方法及び該製造方法により得られた酸性調味料用玉葱加工品を含有する酸性調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
玉葱は酸性調味料においてよく使用される香味野菜の1つである。市場で見かける酸性調味料は、ローストした玉葱を使用しているものが多いが、当該加工方法では生玉葱が本来持っているフレッシュ感が失われてしまうという問題がある。
【0003】
また、生玉葱をそのままカット処理もしくはペースト化した加工品は、過度な苦味・辛味が感じられ酸性調味料に適さない。さらに当該加工品を酸性調味料に添加すると、玉葱本来の黄白色が経過時間と共に赤色に変化してしまうという問題がある。
【0004】
さらに、玉葱をカット処理した上で加熱する場合や、ボイルで加熱する場合は、ドリップが発生し、旨みが流出してしまうという問題がある。
【0005】
玉葱の加工に関する従来の技術としては、生の玉ねぎをカットして所定の時間が経過した後に、所定の温度範囲で加熱することを特徴とする玉ねぎの加工方法(特許文献1参照)、外皮を除いたタマネギをブランチング処理に付し、次いで糖質分解酵素から選択される1以上の酵素を作用させる工程を含む、液状化タマネギの製造方法(特許文献2参照)、剥皮した生オニオンをそのままで用いるか、或いはこれを一片の体積が8cm
3以上になるようにカットしたものを用い、該オニオン100質量部あたり、0〜600質量部の熱水と接触させ、品温90℃〜100℃で5〜120分間蒸煮することを特徴とするオニオンピューレの製造方法(特許文献3参照)、カットした野菜に過熱水蒸気処理を行い、加熱処理と同時に水分を減少させた後に冷凍処理を行うことで、解凍時に発生するドリップを抑制することを特徴とする冷凍食品の製造方法(特許文献4参照)、野菜を鮮度よく長期にわたって保存する保存方法であって、低温水洗浄工程、低温スチーミング工程及び予備冷却工程を順に経た野菜を、0℃から前記野菜が凍りはじめる直前までの温度帯で保存する野菜の保存方法(特許文献5参照)、ユリ科野菜を80℃以上の水浴中で加熱し、その中心部の温度が60〜80℃に達した時から0〜20分間当該温度に保つことを特徴とするユリ科野菜の甘味を引き出す方法(特許文献6参照)、カット処理した生タマネギを冷凍処理する方法であって、生タマネギを温水処理した後、直ちに急速冷凍処理を施すことを特徴とする冷凍タマネギの製造方法(特許文献7参照)等が知られている。
しかし、これらの技術は一長一短であり、上記した問題を十分に解決しているとは言えず、従来より、酸性調味料に適した酸性調味料用玉葱加工品が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−32907号公報
【特許文献2】特開2004−33022号公報
【特許文献3】特開2004−81096号公報
【特許文献4】特開2006−271352号公報
【特許文献5】特開2007−159516号公報
【特許文献6】特開2007−319139号公報
【特許文献7】特開2011−91号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はフレッシュ感、適度な苦み・辛味、十分な旨みを有し、酸性調味料に添加した際に変色しない酸性調味料用玉葱加工品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、ホール状の玉葱を蒸気により加熱して得た玉葱加工品が、上記課題を解決することを見出した。本発明者は、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
1.下記A工程及びB工程を含むことを特徴とする酸性調味料用玉葱加工品の製造方法、
A工程:ホール状の玉葱を、蒸気を用いて中心温度が60℃〜80℃となるように加熱する工程
B工程:A工程で得られた玉葱を細断又はペースト化する工程
2.前記製造方法により得られた酸性調味料用玉葱加工品を含有する酸性調味料、
からなっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により、フレッシュ感、適度な苦み・辛味、十分な旨みを有し、酸性調味料に添加した際に変色しない酸性調味料用玉葱加工品を提供することできる。
【0010】
本発明で用いられるホール状の玉葱とは、球が保たれている状態の玉葱であれば特に制限はない。好ましくは、外皮を取り除き、首部と茎盤部を取り除いたものである。玉葱の品種としては特に制限はないが、例えば、極早生、早生、中生、晩生等が挙げられる。
【0011】
本発明の製造方法は、ホール状の玉葱を、蒸気を用いて中心温度が60℃〜80℃となるように加熱する工程(A工程)、A工程で得られた玉葱を細断又はペースト化する工程(B工程)を含むことを特徴とする製造方法である。以下、各工程につき述べる。
【0012】
[A工程]
本発明のA工程における加熱の方法は熱源として蒸気を用いる加熱方法であれば特に制限はない。加熱の装置としては公知の加熱器を用いることができ、例えば、スチームコンベクションオーブン等である。
蒸気を用いて加熱する際の雰囲気温度としては、好ましくは60℃〜80℃、さらに好ましくは60℃〜70℃である。
【0013】
本発明における玉葱の中心温度とは、玉葱の最も加熱されにくい中心の温度である。ホール状の玉葱の場合、玉葱の直径をなぞる線で描かれる円の中心の温度である。玉葱の中心温度の測定方法に特に制限はないが、例えば、スティック型の温度計等を中心に差し込み測定する方法が挙げられる。
【0014】
本発明における蒸気を用いた加熱は、玉葱の中心温度が60℃〜80℃、好ましくは60℃〜70℃となるように行う。玉葱の中心温度が60℃未満だと、苦味・辛味が過度に感じられ、また酸性調味料に添加した際に赤く変色してしまう。一方、玉葱の中心温度が80℃を超えると、生玉葱が本来持つフレッシュ感が失われてしまう。
【0015】
本発明における蒸気による加熱において、玉葱の中心温度が60〜80℃に達してからの加熱時間は特に制限はないが、0分〜60分、好ましくは0分〜15分である。
【0016】
[B工程]
本発明のB工程における細断とは玉葱を酸性調味料の原料として用いるのに適した大きさにすることであり、例えば、ダイス状・スライス状・みじん状のカット処理等が挙げられる。細断後の大きさとしては、酸性調味料に使用できる大きさであれば特に制限はないが、好ましくは一辺5mm以下である。細断又はペースト化の方法は特に制限はないが、ダイサー、スライサー、摩砕機、フードプロセッサー等を用いることができる。
【0017】
本発明の製造方法には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、任意の工程を含んでも良い。例えば、A工程とB工程の間の任意の工程として、A工程で得られた玉葱を冷却する工程が挙げられる。冷却する方法としては特に制限はないが、冷凍する方法がB工程における細断又はペースト化がしやすくなり好ましい。冷凍する方法としては特に制限はないが、例えば、急速凍結器を用いて急速凍結を行う方法が挙げられる。
また、B工程を経た後の任意の工程として、酸性調味料用玉葱加工品を保存する工程が挙げられる。保存方法としては特に制限はないが、例えば、冷凍保存、冷蔵保存であり、好ましくは冷凍保存である。冷凍保存の方法としては特に制限はないが、例えば、急速凍結器を用いて急速凍結を行う方法が挙げられる。
【0018】
ここで本発明の酸性調味料用たまねぎ加工品の製造方法の一例を述べる。
早生種の玉葱を、外皮を取り除き、首部と茎盤部を取り除く。その後、庫温を60〜80℃に設定したスチームコンベクションオーブンで玉葱の中心温度が60℃〜80℃に達するまで加熱し、0分〜15分維持する。加熱処理した玉葱をフードプロセッサーを用いてペースト化し、酸性調味料用玉葱加工品が得られる。
【0019】
本発明の製造方法により得られた酸性調味料用玉葱加工品を含有する酸性調味料も本発明の形態の1つである。
【0020】
本発明において酸性調味料とは、食酢、かんきつ類の果汁等でpH3〜5に調整した液状又は半固体状の調味料である。例えば、ドレッシング、ドレッシングタイプ調味料、サラダ用調味料、ソース、たれ、スプレッド、フィリング等が挙げられる。本発明の酸性調味料の、酸性調味料用玉葱加工品以外の原料としては、例えば、食用植物油脂、鶏卵、醸造酢、かんきつ類の果汁、香辛料、調味料、増粘安定剤、食塩、糖類、香辛野菜等が挙げられる。
【0021】
上記食用植物油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、こめ油、ひまわり油、サフラワー油、とうもろこし油、オリーブ油、ごま油等が挙げられる。これらの食用植物油脂は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記醸造酢としては、例えば、りんご酢、麦芽酢、ぶどう酢、米酢、穀物酢等が挙げられる。これらの醸造酢は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記かんきつ類としては、例えば、ミカン、オレンジ、ダイダイ、レモン、ライム、ユズ等が挙げられる。これらのかんきつ類は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記香辛料としては、例えば、白こしょう、黒こしょう、マスタード、ガーリック、オニオン、ローリエ、パセリ、セロリ、パプリカ等が挙げられる。これらの香辛料は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記調味料としては、例えば、トマト加工品やウスターソース、しょうゆ、肉エキス、野菜エキス、L−グルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの調味料は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記増粘安定剤としては、例えば、キサンタンガム、グアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、モナトウガム、アラビアガム、トラガントガム等が挙げられる。これらの増粘安定剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記糖類としては、例えば、グラニュー糖、上白糖、中白糖、三温糖、白ザラ糖、中ザラ糖、水あめ、果糖ブドウ糖液等、ぶどう糖果糖液糖等が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記香味野菜としては、例えば、生姜、にんにく、たまねぎ、ねぎ、ニラ、セリ、茗荷、セロリ、しそ、みつば、わさび等が挙げられる。これらの香味野菜は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の酸性調味料は、上記原料を混合することにより製造する。混合の方法としては公知の装置を用いることができ、特に制限はないが、例えば、スティックミキサー、ディスパーミキサー、ホモミクサー、ホモジナイザー、コロイドミル等が挙げられる。
【0030】
ここで本発明を使用したドレッシングの製造方法の一例を述べる。
酸性調味料用玉葱加工品、食塩、砂糖、食酢、キサンタンガムをホモミクサーを用いて混合し、加熱・冷却した後、菜種サラダ油を加えることで、ドレッシングが得られる。
【0031】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0032】
<酸性調味料用玉葱加工品の作製>
[実施例1]
早生種の玉葱を、外皮を取り除き、首部と茎盤部を取り除いた。その後、スチームコンベクションオーブン(型式:SSC−10DBNSTU;マルゼン社製)を用いて庫温60℃に設定し、玉葱の中心温度が60℃に達するまで加熱した。玉葱の中心温度はスティック型の温度計等を中心部に差し込み測定した。加熱処理した玉葱をハンドブレンダ―(型式:MR5555MCA;ブラウン社製)を用いてペースト化し、酸性調味料用玉葱加工品(実施例品1)を得た。
【0033】
[実施例2]
スチームコンベクションオーブンの庫温を70℃に設定し、玉葱の中心温度が60℃に達するまで加熱した以外は実施例1と同様の処理を行い、酸性調味料用玉葱加工品(実施例品2)を得た。
【0034】
[実施例3]
スチームコンベクションオーブンの庫温を80℃に設定し、玉葱の中心温度が80℃に達するまで加熱した以外は実施例1と同様の処理を行い、酸性調味料用玉葱加工品(実施例品3)を得た。
【0035】
[実施例4]
スチームコンベクションオーブンの庫温を80℃に設定し、玉葱の中心温度が70℃に達するまで加熱した以外は実施例1と同様の処理を行い、酸性調味料用玉葱加工品(実施例品4)を得た。
【0036】
[比較例1]
早生種の玉葱を、外皮を取り除き、首部と茎盤部を取り除いた。次に、当該玉葱を8分の1の大きさにカット処理した。スチームコンベクションオーブン(型式:SSC−10DBNSTU;マルゼン社製)を用いて庫温70℃に設定し、8分の1の大きさの玉葱の中心温度が60℃に達するまで加熱した。8分の1の大きさの玉葱の中心温度は、スティック型の温度計等を中心部に差し込み測定した。加熱処理した8分の1の大きさの玉葱をハンドブレンダ―(型式:MR5555MCA;ブラウン社製)を用いてペースト化し、酸性調味料用玉葱加工品(比較例品1)を得た。
【0037】
[比較例2]
早生種の玉葱を、外皮を取り除き、首部と茎盤部を取り除いた。鍋の中に水4000mL及び当該玉葱を入れ、ガスコンロを用いて湯温70℃で当該玉葱の中心温度が60℃に達するまで加熱した。玉葱の中心温度はスティック型の温度計等を中心部に差し込み測定した。加熱処理した玉葱をハンドブレンダ―(型式:MR5555MCA;ブラウン社製)を用いてペースト化し、酸性調味料用玉葱加工品(比較例品2)を得た。
【0038】
[比較例3]
スチームコンベクションオーブンの庫温を100℃に設定し、玉葱の中心温度が90℃に達するまで加熱した以外は、実施例1と同様の処理を行い、酸性調味料用玉葱加工品(比較例品3)を得た。
【0039】
[比較例4]
スチームコンベクションオーブンの庫温を60℃に設定し、玉葱の中心温度が50℃に達するまで加熱した以外は、実施例1と同様の処理を行い、酸性調味料用玉葱加工品(比較例品4)を得た。
【0040】
<ドレッシングの作製>
(1)原材料
酸性調味料用玉葱加工品(実施例品1〜4、比較例品1〜4)
ビート糖(商品名:HBSビートグラニュー糖;ホクレン農業協同組合連合会製)
食塩(商品名:ナイカイ食塩;関東塩業社製)
キサンタンガム(商品名:K−OB;大日本住友製薬社製)
酢(商品名:穀物酢;タマノイ酢社製)
菜種サラダ油(商品名:日清サラダ油;日清オイリオ社製)
水
【0041】
(2)配合
上記原材料を用い、ドレッシングを作製するための配合組成を表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
(3)ドレッシングの作製
表1に示した菜種サラダ油以外の原材料をホモミクサー(型式:MARK2 2.5型;プライミクス社製)を用いて混合し、90℃に達するまで加熱して、冷却した後、菜種サラダ油を加え、ドレッシング(試作品1〜8)を得た。
【0044】
<ドレッシングの評価>
(1)官能評価
得られたドレッシング(試作品1〜8)について、玉葱のフレッシュ感、苦味・辛味、旨みについての官能評価を、下記表2に示す評価基準に従い10名のパネラーで行った。結果はそれぞれ10名の評価点の平均値として求め、下記基準にて記号化した。結果を表3に示す。
記号化
◎: 平均値2.5以上
○: 平均値1.5以上2.5未満
△: 平均値0.5以上1.5未満
×: 平均値0.5未満
【0045】
【表2】
【0046】
(2)変色評価
得られたドレッシング(試作品1〜8)につき、製造直後と、室温(23℃)にて1週間静置した後とのそれぞれで赤色への変色の有無を目視にて確認した。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
結果より、実施例品1〜4を用いた試作品1〜4は、玉葱のフレッシュ感、苦味・辛味、旨みにつき、良好な評価が得られ、酸性調味料用玉葱加工品のドレッシングに添加した際の赤色への変色を抑制することができた。一方比較例品1〜4を用いた試作品5〜8は、全ての評価項目につき同時に良好な評価を得ることができなかった。