(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289845
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20180226BHJP
F16C 33/46 20060101ALI20180226BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20180226BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20180226BHJP
B61C 9/38 20060101ALN20180226BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C33/46
F16C19/36
F16C33/66 Z
!B61C9/38 Z
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-195387(P2013-195387)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-59648(P2015-59648A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100101616
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 吉之
(72)【発明者】
【氏名】田中 崇剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−351301(JP,A)
【文献】
特開平11−201149(JP,A)
【文献】
特開2008−256207(JP,A)
【文献】
特開平9−32858(JP,A)
【文献】
実開昭49−130247(JP,U)
【文献】
特開2010−31901(JP,A)
【文献】
特開2012−163166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56,33/30−33/66
B61C 9/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、複数の円すいころと、保持器を有する円すいころ軸受において、
前記内輪の大つばの外径面全体を、内輪の正面側から背面側にゆくほど徐々に大径となる傾斜面とすることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記複数の円すいころの外径面の母線が、前記円すいころの中心軸と交わる点を頂点とし、
前記内輪の軌道面と前記頂点とを結ぶ仮想線と、前記内輪の大つば面と前記円すいころとの接触点と前記頂点とを結ぶ仮想線と、がなす角度をθとしたとき、前記大つば面の外径位置を1.007×θ以上とした請求項1の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記大つばの外径面の傾斜角度を、前記内輪の軌道面の角度以上、前記保持器の柱の内径面角度以下とした請求項1または2の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記内輪の大つば面から前記内輪の背面まで貫通した通路穴を設けた請求項1、2または3の円すいころ軸受。
【請求項5】
前記大つば面側開口位置における前記通路穴の最外径端の半径方向位置を0.093×θ以下とした請求項4の円すいころ軸受。
【請求項6】
前記保持器の柱のポケットに面する側面を凸形状とした請求項1から5のいずれか1項の円すいころ軸受。
【請求項7】
鉄道車両駆動装置における小歯車用である請求項1から6のいずれか1項の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は円すいころ軸受に関するもので、たとえば鉄道車両駆動装置における小歯車(ピニオン)用の軸受に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
図6に示すように、鉄道車両の駆動装置2は、主電動機3の出力軸4から小歯車6と大歯車7を介して、車輪9を支持した車軸8に動力を伝達するようになっている。小歯車6を取り付けた歯車軸5は、一対の円すいころ軸受1によって回転自在に支持されている。大歯車7に比べて小歯車6の方が回転数が高く、負荷も大きい。したがって、円すいころ軸受1は過酷な環境下で使用されることになるが、このような環境下でもすぐれた転動疲労寿命と信頼性が要求される(特許文献1)。
【0003】
円すいころ軸受は転動体として円すいころを用いたラジアル軸受であって、内輪と、外輪と、内輪と外輪との間に転動自在に介在させた複数の円すいころと、円すいころを円周方向で等間隔に保持する保持器とを主要な構成要素としている。円すいころ軸受の回転中、円すいころにはその小端面側から大端面側に向かう推力が作用し、この推力は、内輪の大径側に設けた大つばで支持される。
【0004】
鉄道車両駆動装置における小歯車用軸受は、歯車のかみ合いや振動により発生するラジアル荷重とアキシアル荷重を支持しながら高速で回転する。一般に円すいころ軸受が使用され、潤滑方式は油浴潤滑や歯車によるはねかけ潤滑が採用される。軸受内部の潤滑油量は、軌道面やつば部の油量が多すぎると撹拌抵抗により過大発熱の原因となる。また、軸受内部を通過する潤滑油量が少ないと、潤滑剤による軸受冷却効果が低下する。したがって、軸受の発熱を抑制するには、適正な潤滑油量を軸受内部に流入、流出させる必要がある。
【0005】
円すいころ軸受における潤滑油の流れは、基本的に、軸受回転に伴ういわゆるポンプ作用によって、内輪の正面側から流入し背面側から流出する。ここで、軌道輪の正面とは、アキシアル荷重を支持しない軌道輪の側面をいい、軌道輪の背面とは、アキシアル荷重を支持する軌道輪の側面をいう。
従来、保持器形状を変更することで潤滑油流入量を制限し、潤滑油の撹拌抵抗に伴う軸受の回転トルクを低下させることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−293700号公報
【特許文献2】特開2009−204068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
刊行物2記載の従来技術のように、潤滑油の流入量を制限する方法では次のような問題がある。すなわち、初期起動時等の潤滑が希薄な条件下においては、軸受内部の潤滑剤が不足して潤滑不良を起こし、軸受が焼損したり、軸受内部を通過する潤滑油量の減少に伴い軸受冷却効果が低下して異常発熱に至ったりする。
【0008】
そこで、この発明の目的は、円すいころ軸受の内部に流入した潤滑油を適正に排出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、円すいころ軸受の内輪、外輪、保持器の形状を工夫し、回転に伴う遠心力の作用を利用して潤滑油の排出を促進することにより、軸受内部に流入する潤滑油量を制限することなく、軸受内部の潤滑油量を適正に保つようにしたものである。
【0010】
すなわち、この発明の円すいころ軸受は、内輪と、外輪と、複数の円すいころと、保持器を有する円すいころ軸受において、前記内輪の大つばの外径面
全体を、内輪の正面側から背面側にゆくほど徐々に大径となる傾斜面としたことを特徴とする。
また、前記複数の円すいころの外径面の母線が、前記円すいころの中心軸と交わる点を頂点とし、前記内輪の軌道面と前記頂点とを結ぶ仮想線と、前記内輪の大つば面と前記円すいころとの接触点と前記頂点とを結ぶ仮想線と、がなす角度をθとしたとき、前記大つば面の外径位置を1.007×θ以上とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、内輪の大つばの外径面を、内輪の正面側から背面側にゆくほど徐々に大径となる傾斜面としたことにより、回転に伴う遠心力の作用で、軸受内部の潤滑油の排出が促進される。このように、潤滑油の軸受内部からの排出を促進することで、軸受内部に流入する潤滑油量を制限することなく軸受内部の潤滑油量を適正に保ち、軸受の発熱を抑制し、焼損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】円すいころ軸受の基本的構成を示す断面図である。
【
図2】(A)は潤滑油の流れを模式的に示した
図1と類似の断面図、(B)は円すいころと保持器の部分展開平面図である。
【
図3】この発明の実施の形態を示し、(A)は円すいころと保持器の部分展開平面図、(B)は保持器柱部分の断面図である。
【
図4】この発明の実施の形態を示し、(A)は
図1と類似の断面図、(B)は円すいころの大端面側から内輪大つば面を見た図、(C)は(A)の部分拡大図、(D)は(B)の全体を示す図である。
【
図5】この発明の実施の形態を示す
図1と類似の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、上で
図6に関連して説明した鉄道車両駆動装置における小歯車用の円すいころ軸受に適用した場合を例にとり、この発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0014】
まず、円すいころ軸受の基本的構成について説明すると、円すいころ軸受は、
図1に示すように、内輪10と、外輪20と、複数の円すいころ30と、保持器40を有する。内輪10は外周に軌道面12を有し、外輪20は内周に軌道面22を有し、内輪10の軌道面12と外輪20の軌道面22との間に円すいころ30が介在している。軸受運転時、円すいころ30は、軌道面12、22上を転動し、自転しつつ公転する。
【0015】
内輪10の軌道面12は凸円すい面状で、その形状から内輪10はコーンとも呼ばれる。内輪10は、軌道面12の大径側の端部に大つば14が形成してあり、軸受運転時に、円すいころ30の大端面34と大つば14の内側面すなわち大つば面14aが接触してアキシアル方向の荷重を負担する。内輪10の軌道面12の小径側には、通常、小つばを設けたり、図示した例のように別体のリング16を固定したりしているが、これは組立時の円すいころの脱落を防止するためのものである。
【0016】
外輪20はカップとも呼ばれ、軌道面22は凹円すい面状である。
【0017】
円すいころ30は、転動面32と、大端面34と、小端面36を有し、転動面32の形状が円すい状である。
【0018】
保持器40は円すいころ30を収容するための開口すなわちポケット42を有し、複数の円すいころ30を円周方向に等間隔に保持する役割を果たす。保持器40の全体外観は円すい台形状で、
図2に示すように、円周方向に隣り合った柱44と柱44の間にポケット42が形成され、各ポケット42の輪郭は、
図2(B)では円すいころ30の輪郭に対応した形状である。
図2(B)における符号50は、円すいころ30の転動面32とポケット40の柱44との間のすきまを示している。
【0019】
鉄道車両駆動装置における小歯車用の円すいころ軸受は、一般に、軸受の基本動ラジアル定格荷重Crに対し、ラジアル荷重は0.02×Cr程度、アキシアル荷重は0.01×Cr程度の荷重が負荷される。
【0020】
円すいころ軸受の断面形状は述べたように左右非対称で、
図1の場合、左側が小径、右側が大径となっている。そのため、内輪10が回転すると、
図2(A)に太い白抜き矢印で示すように、遠心力の作用で潤滑油は基本的に内輪10の正面F側から軸受内部に流入し、背面R側から排出される。軸受内部での潤滑油の動きは、基本的に、内輪10の軌道面12と外輪20の軌道面22に沿って移動するが、保持器40と内輪10との間の空間に流入した潤滑油の一部は、
図2に細い白抜き矢印で示すように、回転に伴う遠心力の作用で円すいころ30の転動面32と保持器40の柱44との間のすきま46を通って保持器40の外径側へ排出されることもある。
【0021】
潤滑油の初期流入量を減少させることなく排出性を向上させるためには、排出側すなわち背面R側の軸受形状を潤滑油の排出を阻害しないものとする必要がある。その方策として、例えば円すいころ30と保持器40の柱44との間のすきま46を通過する潤滑油に対しては、
図3(A)に示すように、保持器40の柱44のポケット42に面した側面をポケット42側に張り出した凸形状とすることが考えられる。
【0022】
また、
図3(B)に破線で示すように、保持器40の柱44のポケット42に面した側面44aと保持器40の外径面48とのつなぎ部に面取り46を設けて開口部を広くすることで、さらに排出性が向上する。
【0023】
内輪10での方策としては、
図4(A)に示すように、大つば14の外径面14bの寸法を内輪10の背面R側にゆくほど大径となるような傾斜面とすることが考えられる。ただし、大つば面14aには、アキシアル方向の荷重負荷により、
図4(B)に示すように、円すいころ30の大端面34と大つば面14aとの接触点を中心に接触領域Czが形成される。そのため、接触領域Czが大つば面14aに包含されるように、大つば面14aの外径寸法を設定する必要がある。
【0024】
前述の鉄道車両駆動装置における小歯車用の軸受の条件で使用された場合、接触領域Czの径方向位置は、
図4(C)に示すように、内輪10の軌道面12からころ接触点までの角度θに対して、(1±0.007)×θの範囲で形成される。したがって、大つば面14aの外径は1.007×θ以上に設定するのがよい。
【0025】
大つば14の外径面14bの傾斜角度は、潤滑油の動きの妨げにならないように決定すべきであるが、勾配が緩くなると遠心力による排出効果が低く、勾配があまりに急であると却って排出を妨げることになる。したがって、内輪10の軌道面12の角度と保持器40の柱44の内径面の角度との間におさまるように設定するのが妥当である。大つば14の外径面14bの傾斜は、回転中の潤滑油排出効率を上げるため、
図4(D)に示すように、全周にわたって連続的に設けるのがよい。
【0026】
図5は、大つば14を軸方向に貫通する通路穴18を設けた例である。内輪10の軌道面12と円すいころ30の転動面32との間に進入した潤滑油は、構造上最も排出されにくいが、大つば面14aから内輪10の背面R側まで貫通した通路穴18を設けて油路を確保することにより排出を促すことができる。
【0027】
通路穴18は接触領域Cz(
図4(B)参照)と干渉しないように、最上端
(大つば面14a側の開口位置における通路穴18の最外径端)の半径方向位置を0.093×θ以下に設定する。また、隣り合った円すいころ30同士の間から排出される潤滑油の流量を均一にするため、通路穴18の数は円すいころの数の整数倍とし、等間隔に配置する。さらに、図示するように、内輪10の正面F側から背面R側にゆくほど大径となるように傾斜させることにより、遠心力を利用して排出を促進することができる。
【0028】
以上、図面に例示した実施の形態に基づいてこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、特許請求の範囲を逸脱することなく種々の改変を加えて実施をすることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 内輪
12 軌道面
14 大つば
14a 大つば面
14b 外径面
16 リング
18 通路穴
20 外輪
22 軌道面
30 円すいころ
32 転動面
34 大端面
36 小端面
40 保持器
42 ポケット
44 柱
46 面取り
48 外径面
50 すきま
Cz 接触領域