(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、車両が停止し、かつ、パーキングブレーキをかけた状態においては、ブレーキペダルの操作がなくても車両は停止した状態を保持するが、このような状況においても、運転者がブレーキペダルを踏むことがある(例えば、パーキングブレーキをかけて信号待ちしている状況において運転者がブレーキペダルを踏んだときや、駐車中の車内で待機している状況において運転者が無意識のうちにブレーキペダルを踏んだとき等)。
【0009】
同様に、上記特許文献1の電動ブレーキ装置においても、車両が停止し、かつ、パーキングブレーキをかけた状態で、運転者がブレーキペダルを踏むことが想定される。このとき、ブレーキペダルの操作に応じて電動モータが作動すると、電動モータから中間ギヤに伝達するトルクが、上記反力トルク(すなわちパーキングブレーキをかけたときに、摩擦パッドがディスクロータを押圧する押圧力の反力によって中間ギヤに作用する制動解除方向の回転トルク)を超えたときに、中間ギヤとロックピンの間の摩擦抵抗が無くなり、中間ギヤの係止孔とロックピンとの係合が外れるおそれが生じる。
【0010】
そうすると、運転者がブレーキペダルから足を離した後、運転者は、継続してパーキングブレーキが効いているはずだと思っているにもかかわらず、実際には、中間ギヤの係止孔とロックピンとの係合が外れた状態(パーキングブレーキが外れた状態)になっている可能性がある。
【0011】
このとき、もし坂道であれば、車両の自重によって勝手に車両が動き出してしまい、平坦路であっても、トルクコンバータ搭載のAT車やCVT車であれば、エンジンからトルクコンバータを介して伝わるクリープトルクによって車両が勝手に動き出してしまうこととなり、大変危険である。
【0012】
この発明が解決しようとする課題は、パーキングブレーキ動作が完了した状態でブレーキペダルの操作があったときに、パーキングブレーキが意図せずに外れる危険を防ぐことができるパーキング機能付き電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本願の発明者は、次の構成をパーキング機能付き電動ブレーキ装置に採用した。
電動モータと、
その電動モータから伝達される動力で、車輪と一体に回転するロータに摩擦部材を押し付けて、前記車輪に制動力を負荷する制動機構と、
前記電動モータから前記制動機構に動力を伝達する経路上にある回転部材と、
その回転部材が制動解除方向に回転するのを阻止するように前記回転部材に係合するパーキングロック位置と、前記回転部材との係合を解除するアンロック位置との間で移動可能に設けられたロック部材と、
前記パーキングロック位置と前記アンロック位置との間で前記ロック部材を移動させるロックアクチュエータと、
前記電動モータと前記ロックアクチュエータとを制御するブレーキ制御部とを有し、
前記ブレーキ制御部は、
ブレーキペダルの操作があったときに、前記電動モータを作動させて前記車輪に制動力を負荷する制御を行なうサービスブレーキ制御手段と、
パーキングブレーキの作動要求があったときに、前記電動モータを作動させて前記車輪に制動力を負荷し、その状態で前記ロックアクチュエータを作動させてアンロック位置からパーキングロック位置に前記ロック部材を移動させる制御を行なうパーキングブレーキ制御手段と、
そのパーキングブレーキ制御手段によるパーキングブレーキ動作が完了した状態か否かを判定するパーキングブレーキ判定手段と、
車両が停止しているか否かを判定する車両停止判定手段と、
前記車両停止判定手段で車両が停止していると判定され、かつ、前記パーキングブレーキ判定手段でパーキングブレーキ動作が完了した状態であると判定されたときは、前記ブレーキペダルの操作があっても、前記サービスブレーキ制御手段における電動モータの作動を禁止するモータ作動禁止制御手段とを有するパーキング機能付き電動ブレーキ装置。
【0014】
このようにすると、車両が停止し、かつ、パーキングブレーキ動作が完了した状態のときは、運転者がブレーキペダルを操作しても、モータ作動禁止制御手段がサービスブレーキ制御手段における電動モータの作動を禁止するので、電動モータから回転部材にトルクが伝達せず、回転部材とロック部材の係合が外れてしまう事態を防止することができる。
【0015】
前記ブレーキ制御部は、前記車両停止判定手段で車両が停止していないと判定されたときは、前記ブレーキペダルの操作があったときに、前記サービスブレーキ制御手段における電動モータの作動を許容するモータ作動許容制御手段を有するように構成すると好ましい。
【0016】
このようにすると、パーキングブレーキ動作が完了した状態のときでも、車両が停止していなければ、ブレーキペダルの操作に応じて電動モータを作動させることが可能となる。そのため、例えば、パーキングブレーキ動作が完了しているにもかかわらず、万一坂道の傾斜等によって車両が動き出し、その車両を停止させようとして運転者がブレーキペダルを踏み込んだときに、サービスブレーキとしての制動力を発生することが可能となり、車両の安全性を確保することが可能となる。
【0017】
前記車両停止判定手段は、車両に搭載したGPS受信機で検出される車両の現在位置に基づいて車両が停止しているか否かを判定する構成のものを採用することもできるが、この場合、GPS衛星から見て車両が建物等の陰にあるときに、車両が停止しているか否かの判定精度が低下する可能性がある。そこで、前記車両停止判定手段は、車輪の回転を検出する車速センサの出力信号に基づいて車両が停止しているか否かを判定するものを採用すると好ましい。このようにすると、車両が建物等の陰にあっても、車両が停止しているか否かを正確に判定することができるため、確実な制御が可能となる。
【0018】
前記パーキングブレーキ制御手段は、次の構成のものを採用することができる。
前記パーキングブレーキの作動要求があったときに、前記摩擦部材がロータを押圧する押圧力が予め設定された目標値に達するように電動モータを作動させるモータ作動制御手段と、
そのモータ作動制御手段で前記押圧力が目標値に達したときに、前記ロック部材がアンロック位置からパーキングロック位置に移動するように前記ロックアクチュエータを作動させるロックアクチュエータ作動制御手段と、
そのロックアクチュエータ作動制御手段で前記ロックアクチュエータを作動させた後、そのロックアクチュエータの作動を継続した状態で前記電動モータへの通電を停止させるモータ通電停止制御手段と、
そのモータ通電停止制御手段で前記電動モータへの通電を停止した後に、前記ロックアクチュエータへの通電を停止させるロックアクチュエータ通電停止制御手段とを有するパーキングブレーキ制御手段。
【0019】
このようにすると、パーキングブレーキの作動要求があったときに、摩擦部材がロータを押圧する押圧力が目標値に達するように電動モータが作動し、この電動モータの作動により押圧力が目標値に達したときにロックアクチュエータが作動し、その後、ロックアクチュエータの作動を継続した状態で電動モータへの通電が停止し、その後、ロックアクチュエータへの通電が停止する。ここで、ロックアクチュエータが作動したとき、または、ロックアクチュエータの作動を継続した状態で電動モータへの通電を解除したときに、ロック部材は、回転部材と係合した状態となる。そして、電動モータへの通電を解除した後、回転部材には、摩擦部材がロータを押圧する押圧力の反力によって制動解除方向の回転トルク(反力トルク)が作用するので、ロックアクチュエータへの通電も停止しても、反力トルクによって回転部材とロック部材の間に生じる摩擦抵抗により、回転部材とロック部材の係合が保持される。このように、電動モータおよびロックアクチュエータへの通電を停止した状態でも、車輪の制動力を保つことができるので、パーキングブレーキをかけたときの消費電力を抑えることが可能である。
【0020】
前記パーキングブレーキ制御手段は、路面が傾斜しているときの前記目標値が、路面が傾斜していないときの前記目標値よりも大きくなるように、前記目標値を補正する目標値補正手段を有する構成とすると好ましい。
【0021】
このようにすると、傾斜した路面でパーキングブレーキをかけたときに摩擦部材がロータを押圧する押圧力が、傾斜していない路面でパーキングブレーキをかけたときの押圧力よりも大きくなる。そのため、傾斜した路面でパーキングブレーキをかけたときに車両が動き出すのを防止することができ、安全性が高い。
【発明の効果】
【0022】
この発明のパーキング機能付き電動ブレーキ装置は、車両が停止し、かつ、パーキングブレーキ動作が完了した状態のときは、運転者が無意識にブレーキペダルを操作しても、モータ作動禁止制御手段が電動モータの作動を禁止するので、電動モータから回転部材に作用するトルクに起因して、運転者の意に反し回転部材とロック部材の係合が外れてしまう事態を防止することができる。このように、この発明のパーキング機能付き電動ブレーキ装置は、パーキングブレーキ動作が完了した状態でブレーキペダルの操作があったときに、パーキングブレーキが意図せずに外れる危険を防ぐことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の実施形態のパーキング機能付き電動ブレーキ装置を図面に基づいて説明する。この電動ブレーキ装置は、ブレーキペダルの操作に応じて制動力を発生するサービスブレーキとしての電動ブレーキ装置に、駐車中の車輪に制動力を継続的に負荷するパーキングブレーキの機能を一体化したものである。
【0025】
図1〜
図3に示すように、電動ブレーキ装置は、電動モータ1と、電動モータ1から入力される回転を減速して出力する減速機構2と、この減速機構2で減速された回転を直線運動に変換する直動機構3と、減速機構2および直動機構3を介して電動モータ1から伝達される動力で摩擦パッド4,5をディスクロータ6に押し付けて制動力を発生する制動機構7とを有する。
【0026】
図1に示すように、制動機構7は、車輪と一体に回転するディスクロータ6を間に挟んで対向する一対の対向部10,11をディスクロータ6の外径側に位置するブリッジ12で連結した形状のキャリパボディ13と、このキャリパボディ13の各対向部10,11とディスクロータ6との間に配置された一対の摩擦パッド4,5とからなる。ディスクロータ6の両側に配置された一対の摩擦パッド4,5のうち、片側の摩擦パッド5の背面に、直動機構3が配置されている。
【0027】
図2に示すように、キャリパボディ13は、車輪を支持するナックル(図示せず)にボルト14で固定されたキャリパブラケット15に取り付けた一対のスライドピン16で、ディスクロータ6の軸方向に移動可能に支持されている。これにより、
図1に示す直動機構3で摩擦パッド5をディスクロータ6に押し付けたときに、ディスクロータ6から受ける反力によってキャリパボディ13がディスクロータ6の軸方向に移動し、このキャリパボディ13の移動によって、反対側の摩擦パッド4もディスクロータ6に押さえ付けられるようになっている。
【0028】
図3に示すように、直動機構3が配置される側にある対向部11は、軸方向の前後両端が開口した円筒状の直動機構ハウジング11Aと、直動機構ハウジング11Aの軸方向後側の端部から直動機構3の軸方向と直角な方向(ディスクロータ6と平行な方向)に延びるキャリパフランジ11Bとからなる。直動機構ハウジング11Aには、直動機構3が収容されている。キャリパフランジ11Bには、直動機構3と平行に電動モータ1が取り付けられている。直動機構ハウジング11Aの軸方向後側の端部開口とキャリパフランジ11Bの側面は、減速機構カバー17で覆われており、この減速機構カバー17内に減速機構2が収容されている。
【0029】
電動モータ1は、ロータ20とステータ21とモータハウジング22とを有する。モータハウジング22はキャリパフランジ11Bに固定されている。ロータ20は、モータハウジング22に装着した2個の軸受23で回転可能に支持されたロータ軸20Aと、ロータ軸20Aの外周に固定されたロータコア20Bとからなる。ステータ21は、モータハウジング22の内周に固定されたステータコア21Aと、ステータコア21Aに巻回された電磁コイル21Bとからなる。電磁コイル21Bに通電すると、ステータコア21Aとロータコア20Bの間に働く電磁力によってロータコア20Bに回転力が発生し、ロータコア20Bと一体にロータ軸20Aが回転する。
【0030】
減速機構2は、電動モータ1のロータ軸20Aの回転を減速して伝達する第1のギヤ列25と、第1のギヤ列25から伝達された回転を更に減速して伝達する第2のギヤ列26と、第2のギヤ列26から伝達された回転を更に減速して直動機構3の回転軸に伝達する第3のギヤ列27とを有し、この複数のギヤ列25,26,27により、電動モータ1から入力された回転を順次減速して直動機構3に伝達するものを採用している。この実施形態では3段のギヤ列を有する減速機構2を採用しているが、2段あるいは4段以上のギヤ列を有する減速機構2を採用することも可能である。
【0031】
減速機構2には、制動力が解除される方向へのギヤの回転を阻止するパーキングロック状態と、制動力が解除される方向へのギヤの回転を許容するアンロック状態とを切り替え可能なロック機構60(後述する)が設けられている。
【0032】
図4に示すように、直動機構3は、減速機構2から回転が入力される回転軸30と、この回転軸30を囲むように回転軸30と同軸に設けられた外輪部材31と、回転軸30に外接すると同時に外輪部材31に内接する複数の遊星ローラ32と、これらの遊星ローラ32を自転可能かつ公転可能に支持するキャリヤ33とを有する。
【0033】
直動機構ハウジング11A内には、外輪部材31に対して軸方向後方に離れた位置に環状の軸受支持部材34が組み込まれ、この軸受支持部材34の内周に設けた2個のラジアル軸受35で、回転軸30が回転可能に支持されている。外輪部材31は、摩擦パッド5の背面との係合によって直動機構ハウジング11Aに対して回り止めされ、かつ、直動機構ハウジング11Aの内面で軸方向に移動可能に支持されている(
図3参照)。
【0034】
図5に示すように、遊星ローラ32は、周方向に間隔をおいて複数配置されている。各遊星ローラ32は、回転軸30の外周および外輪部材31の内周にそれぞれ転がり接触している。回転軸30の外周は円筒面である。そして、回転軸30が回転したとき、遊星ローラ32は、ローラ軸39を中心に自転しながら、回転軸30を中心に公転する。すなわち、遊星ローラ32は、回転軸30の外周から受ける回転力によって自転し、これに伴い、遊星ローラ32は外輪部材31の内周を転がって公転する。
【0035】
図4に示すように、キャリヤ33は、遊星ローラ32を間にして軸方向に対向する一対のキャリヤプレート36,37と、周方向に隣り合う遊星ローラ32の間を軸方向に延びてキャリヤプレート36,37同士を連結する連結部38と、各遊星ローラ32を自転可能に支持するローラ軸39とを有する。各キャリヤプレート36,37は回転軸30を貫通させる環状に形成され、その内周には回転軸30の外周に摺接する滑り軸受40がそれぞれ装着されている。
【0036】
各ローラ軸39の両端部は、一対のキャリヤプレート36,37にそれぞれ形成された長孔41で外輪部材31の半径方向に移動可能に支持されている。さらに、各ローラ軸39の両端部には、周方向に間隔をおいて配置されたすべての遊星ローラ32のローラ軸39に外接するように弾性リング42が掛け渡されている。この弾性リング42は、各遊星ローラ32を回転軸30の外周に押さえ付けることにより、遊星ローラ32と回転軸30の間の滑りを防止している。
【0037】
外輪部材31の内周には、螺旋凸条45が設けられている。螺旋凸条45は、円周方向に対して斜めに延びる螺旋状の凸状である。遊星ローラ32の外周には、螺旋凸条45と係合する円周溝46が設けられている。そのため、遊星ローラ32が外輪部材31の内周を転がって公転するとき、外輪部材31と遊星ローラ32は、螺旋凸条45と円周溝46のリード角の差によって軸方向に相対移動する。この実施形態では遊星ローラ32の外周にリード角が0度の円周溝46を設けているが、円周溝46のかわりに、螺旋凸条45と異なるリード角をもつ螺旋溝を設けてもよい。
【0038】
外輪部材31の軸方向前側の端部には、外輪部材31の軸方向前端の開口を閉塞するシールカバー47が取り付けられている。このシールカバー47は、外輪部材31の内部に異物が侵入するのを防止している。また、軸方向に伸縮可能に形成された筒状のベローズ48の一端が、外輪部材31の軸方向前側の端部に固定され、ベローズ48の他端が、直動機構ハウジング11Aの軸方向前側の開口縁部に固定されている。ベローズ48は、外輪部材31と直動機構ハウジング11Aの摺動面間に異物が侵入するのを防止している。
【0039】
各遊星ローラ32とその軸方向後側のキャリヤプレート37との間には、遊星ローラ32を自転可能に支持するスラスト軸受50が組み込まれている。また、遊星ローラ32の軸方向後側のキャリヤプレート37と軸受支持部材34との間には、キャリヤプレート37と一体に公転するスラスト板51と、スラスト板51を公転可能に支持するスラスト軸受52とが組み込まれている。
【0040】
軸受支持部材34は、直動機構ハウジング11Aの軸方向後側の端部内周に装着したストッパリング53によって軸方向後方への移動が規制されている。そして、この軸受支持部材34は、スラスト板51とスラスト軸受52とを介してキャリヤプレート37を軸方向に支持することで、キャリヤ33の軸方向後方への移動を規制している。また、軸方向前側のキャリヤプレート36は、回転軸30の軸方向前端に装着した止め輪54で軸方向前方への移動が規制されている。したがって、キャリヤ33は、軸方向前方と軸方向後方の移動がいずれも規制され、キャリヤ33に保持された遊星ローラ32も軸方向移動が規制された状態となっている。
【0041】
この直動機構3は、減速機構2から回転軸30に回転が入力されると、遊星ローラ32が自転しながら公転する。このとき螺旋凸条45と円周溝46のリード角の差によって外輪部材31と遊星ローラ32が軸方向に相対移動するが、遊星ローラ32はキャリヤ33と共に軸方向の移動が規制されているので、遊星ローラ32は軸方向に移動せず、外輪部材31が軸方向に移動する。このとき、外輪部材31が軸方向前方に移動する方向の回転が減速機構2から回転軸30に入力されると、
図1に示す摩擦パッド4,5がディスクロータ6に押し付けられて、ディスクロータ6と一体に回転する車輪に制動力が負荷される。また、外輪部材31が軸方向後方に移動する方向の回転が減速機構2から回転軸30に入力されると、
図1に示す摩擦パッド4,5がディスクロータ6から離反して、車輪に対する制動力が解除される。
【0042】
図6に示すように、ロック機構60は、減速機構2を構成する複数のギヤのうち、電動モータ1の回転が入力される入力ギヤ61から、直動機構3に回転を出力する出力ギヤ62(
図3参照)までの動力伝達経路上にある中間ギヤ63(ここでは第2のギヤ列26の出力側のギヤ)に形成された係止孔64と、この係止孔64に係脱可能に設けられたロックピン65と、このロックピン65を駆動するためのロックアクチュエータ66とを有する。
【0043】
図7に示すように、係止孔64は、中間ギヤ63の側面に同一円周上に等間隔となるように複数形成されている。ロックピン65は、中間ギヤ63の側面の係止孔64を通る円周上の定位置に向けて進退することにより、パーキングロック位置とアンロック位置との間で移動可能となっている。パーキングロック位置は、ロックピン65が中間ギヤ63の係止孔64に係合するように前進した位置であり、アンロック位置は、ロックピン65が中間ギヤ63の係止孔64との係合を解除するように後退した位置である。
【0044】
図8に示すように、各係止孔64の内面には、ロックピン65が係止孔64に係合した状態で中間ギヤ63に制動解除方向(図に鎖線で示す矢印の方向)の回転トルクが入力されたときに、ロックピン65と干渉して中間ギヤ63の制動解除方向の回転を阻止するストッパ面67と、ロックピン65が係止孔64に係合した状態で中間ギヤ63に制動方向(図に実線で示す矢印の方向)の回転トルクが入力されたときに、ロックピン65を係止孔64から抜け出る方向に誘導して中間ギヤ63の制動方向の回転を許容するテーパ面68とが形成されている。つまり、各係止孔64は、ロックピン65が係止孔64に係合した状態において、中間ギヤ63の制動解除方向への回転を禁止するが、中間ギヤ63の制動方向への回転は許容するように、ラチェット形状とされている。
【0045】
ロックアクチュエータ66は、中間ギヤ63の側面に向けて一端が開口し、他端が閉塞した筒状のソレノイドケース70と、ソレノイドケース70内に設けられたソレノイドコイル71と、ソレノイドコイル71が巻回された非磁性体からなる筒状のコイルボビン72と、コイルボビン72内にスライド可能に挿入された棒状の可動鉄心73と、ソレノイドコイル71に通電したときに可動鉄心73をソレノイドケース70の閉塞端側から開口端側に向けて吸引する固定鉄心74と、可動鉄心73をソレノイドケース70の開口端側から閉塞端側に向けて付勢するリターンスプリング75とを有する。ロックアクチュエータ66は、キャリパフランジ11Bに固定されている(
図6参照)。
【0046】
ロックピン65は、可動鉄心73と一体に移動するように、可動鉄心73のソレノイドケース70の開口端側の端部に接続されている。そして、ソレノイドコイル71に通電すると、可動鉄心73が固定鉄心74に吸引されてソレノイドケース70の閉塞端側から開口端側に向けて移動し、この可動鉄心73の移動に伴って、ロックピン65が、アンロック位置からパーキングロック位置に向けて前進するようになっている。一方、ソレノイドコイル71への通電を停止すると、リターンスプリング75の付勢力によって可動鉄心73がソレノイドケース70の開口端側から閉塞端側に向けて移動し、この可動鉄心73の移動に伴って、ロックピン65が、パーキングロック位置からアンロック位置に向けて後退するようになっている。
【0047】
この電動ブレーキ装置の電動モータ1およびロックアクチュエータ66は、
図9に示すブレーキ制御部80で制御される。このブレーキ制御部80の入力側には、ブレーキペダル81の操作量を検知するストロークセンサ82と、摩擦パッド5がディスクロータ6を押圧する押圧力を検知する押圧力センサ83と、運転者によって操作されるパーキングブレーキスイッチ84と、現在の車輪85の回転数を検知する車速センサ86と、路面の傾斜を検知する傾斜センサ87とが接続されている。
【0048】
押圧力センサ83としては、例えば、摩擦パッド5でディスクロータ6を押圧したときにその押圧力の大きさに応じてたわみを生じる軸受支持部材34のたわみ量または変位量に基づいて摩擦パッド5の押圧力を検知するものや、摩擦パッド5でディスクロータ6を押圧したときにスラスト軸受52と軸受支持部材34の間に作用する圧力に基づいて摩擦パッド5の押圧力を検知するもの等を採用することができる。
【0049】
ブレーキ制御部80の出力側には、電動モータ1と、ロックアクチュエータ66と、異常報知部88とが接続されている。異常報知部88は、パーキングブレーキの異常を運転者に報知する車載装置であり、例えば、運転席に設けられたモニタディスプレイ、ブレーキ警告灯、音声出力装置等を採用することができる。
【0050】
次に、
図10〜
図12に基づいて、ブレーキ制御部80による電動モータ1およびロックアクチュエータ66の制御の一例を説明する。
【0051】
図10に示すように、ブレーキ制御部80は、パーキングブレーキの作動要求があるか否かを判定し(ステップS
1)、パーキングブレーキの作動要求があると判定されたときはパーキングブレーキ制御を実行する(ステップS
2)。パーキングブレーキの作動要求があるか否かの判定は、例えば、運転者がパーキングブレーキスイッチ84を操作したときに、パーキングブレーキの作動要求があると判定することができる。その他にも、運転者がシフトレバーを操作してパーキングレンジを選択したときに、パーキングブレーキの作動要求があると判定することも可能である。
【0052】
一方、パーキングブレーキの作動要求がないと判定されたときはサービスブレーキ制御を実行する(ステップS
3)。サービスブレーキ制御は、ブレーキペダル81の操作があったときに、電動モータ1を作動させて車輪に制動力を負荷する制御である。
【0053】
図11に基づいて、パーキングブレーキ制御を説明する。パーキングブレーキの作動要求があったときは、電動モータ1に通電し、摩擦パッド5がディスクロータ6を押圧する押圧力(すなわち押圧力センサ83で検知される押圧力)が予め設定された目標値に達するように電動モータ1を作動させる(ステップS
11,S
12)。
【0054】
そして、摩擦パッド5がディスクロータ6を押圧する押圧力が目標値に達したときに、電動モータ1への通電を維持した状態のまま、ロックピン65がアンロック位置からパーキングロック位置に前進するようにロックアクチュエータ66を作動させる(ステップS
13)。その後、ロックアクチュエータ66の作動を継続した状態で電動モータ1への通電を停止させ(ステップS
14)、その後、ロックアクチュエータ66への通電を停止する(ステップS
15)。
【0055】
ここで、ロックアクチュエータ66を作動させたとき、
図8に示すロックピン65の位置と中間ギヤ63の係止孔64の位置が合致していれば、ロックピン65は係止孔64に係合するが、ロックピン65の位置と係止孔64の位置がずれている場合、ロックピン65が係止孔64に係合しない可能性がある。しかし、この場合でも、電動モータ1への通電を停止したときに、摩擦パッド5がディスクロータ6を押圧する押圧力の反力によって、中間ギヤ63が制動解除方向(図の鎖線で示す矢印の方向)に回転するので、この回転によりロックピン65の位置と中間ギヤ63の係止孔64の位置が合致し、結局、ロックピン65は係止孔64に係合する。
【0056】
そして、電動モータ1への通電を解除したとき、中間ギヤ63には、摩擦パッド5がディスクロータ6を押圧する押圧力の反力によって制動解除方向の回転トルク(反力トルク)が作用し、この反力トルクによって中間ギヤ63とロックピン65の間に摩擦抵抗が生じる。そのため、電動モータ1およびロックアクチュエータ66への通電を解除した後も、中間ギヤ63とロックピン65の係合が保持される。
【0057】
次に、
図11に示すように、パーキングブレーキが成功したか否かの判定を行ない(ステップS
16)、パーキングブレーキが成功したと判定されたときは、パーキングブレーキ制御を終了する。この判定は、例えば、車速センサ86で検知される車速が、所定時間ゼロを維持しているか否かに基づいて行なうことができる。車速センサ86で検知される車速がゼロに維持されないときは、路面の勾配等により車両が動き出していると考えられるため、パーキングブレーキが成功していないと判定する。
【0058】
パーキングブレーキが成功していないと判定されたとき、パーキングブレーキの異常を運転者に報知するように異常報知部88を作動させるとともに(ステップS
17)、再び電動モータ1に通電し、摩擦パッド5がディスクロータ6を押圧する押圧力が予め設定された最大押圧力に達するように電動モータ1を作動させる(ステップS
18,S
19)。これにより、路面の傾斜等により動き出した車両を、確実に停止させることが可能となる。その後、再び、ロックピン65がアンロック位置からパーキングロック位置に前進するようにロックアクチュエータ66を作動させる(ステップS
13)。そして、ロックアクチュエータ66の作動を継続した状態で電動モータ1への通電を停止させ(ステップS
14)、その後、ロックアクチュエータ66への通電を停止する(ステップS
15)。
【0059】
ここで、パーキングブレーキをかけたときに、路面の勾配により車両が動き出すのを防止するため、路面が傾斜しているときの目標値が、路面が傾斜していないときの目標値よりも大きくなるように、押圧力の目標値を補正する制御を行なうことができる(ステップS
10)。これにより、傾斜した路面でパーキングブレーキをかけたときに摩擦パッド5がディスクロータ6を押圧する押圧力が、傾斜していない路面でパーキングブレーキをかけたときの押圧力よりも大きくなる。そのため、傾斜した路面でパーキングブレーキをかけたときに車両が動き出すのを防止して、安全性を高めることができる。
【0060】
パーキングブレーキを解除するときは、
図8に示すロックピン65がアンロック位置に後退するようにロックアクチュエータ66への通電を停止した状態で、中間ギヤ63が制動方向に僅かに回転するように電動モータ1に通電する。このとき、中間ギヤ63の係止孔64の内面とロックピン65の間の摩擦抵抗が無くなるので、ロックピン65は、リターンスプリング75でアンロック位置に向けて付勢されるとともに、ロックピン65の先端が、中間ギヤ63の係止孔64のテーパ面68で係止孔64から押し出されることによって、パーキングロック位置からアンロック位置に後退移動する。その後、電動モータ1を逆転させ、車輪85に負荷された制動力を解除する。
【0061】
図12に基づいて、サービスブレーキ制御を説明する。まず、ブレーキペダル81の操作があるか否かを判定する(ステップS
20)。そして、ブレーキペダル81の操作があったときは、パーキングブレーキ動作が完了した状態であるか否かの判定(ステップS
21)と、車両が停止しているか否かの判定(ステップS
22)とを行なう。
【0062】
パーキングブレーキ動作が完了した状態であるか否かの判定は、例えば、パーキングブレーキ制御においてパーキングブレーキが成功したと判定(ステップS
16)された後、パーキングブレーキの解除動作が行なわれるまでの間は、常時、パーキングブレーキ動作が完了した状態であると判定することにより行なうことができる。また、例えば、ロックピン65がパーキングロック位置にあるか否かに基づいて、パーキングブレーキ動作が完了した状態であるか否かを判定することもできる。ロックピン65の位置は、ソレノイドコイル71にパルス電圧または交流電圧を印可し、このときソレノイドコイル71に流れる電流に基づいて検知することが可能である。また、車両が停止しているか否かの判定は、車速センサ86の出力信号に基づいて行なうことができる。
【0063】
パーキングブレーキ動作が完了した状態ではないと判定(ステップS
21)されるか、車両が停止していないと判定(ステップS
22)されたときは、電動モータ1に通電し、摩擦パッド5がディスクロータ6を押圧する押圧力が、ブレーキペダル81の操作量に応じた大きさとなるように電動モータ1を作動させる(ステップS
23)。
【0064】
一方、パーキングブレーキ動作が完了した状態であり、かつ、車両が停止していると判定されたときは、ブレーキペダル81の操作があっても、電動モータ1への通電は行なわず、電動モータ1の作動を禁止する(ステップS
21,S
22,S
24)。
【0065】
上記構成の電動ブレーキ装置を使用すると、パーキングブレーキ動作が完了した状態で、ブレーキペダル81の操作があったときに、パーキングブレーキが意図せずに外れる危険を防ぐことができる。以下説明する。
【0066】
すなわち、車両が停止し、かつ、パーキングブレーキをかけた状態においては、通常、ブレーキペダル81の操作がなくても車両は停止した状態を保持するが、このような状況においても、運転者がブレーキペダル81を踏むことがある(例えば、パーキングブレーキをかけて信号待ちしている状況において運転者がブレーキペダル81を踏んだときや、駐車中の車内で待機している状況において運転者が無意識のうちにブレーキペダル81を踏んだとき等)。
【0067】
このとき、ブレーキペダル81の操作に応じて電動モータ1が作動すると、電動モータ1から中間ギヤ63に伝達するトルクが、上記反力トルク(すなわちパーキングブレーキをかけたときに、摩擦パッド5がディスクロータ6を押圧する押圧力の反力によって中間ギヤ63に作用する制動解除方向の回転トルク)を超えたときに、
図8に示す中間ギヤ63とロックピン65の間の摩擦抵抗が無くなり、リターンスプリング75の作用によりロックピン65がパーキングロック位置からアンロック位置に後退し、この結果、中間ギヤ63の係止孔64とロックピン65との係合が外れるおそれが生じる。
【0068】
そうすると、運転者がブレーキペダル81から足を離した後、運転者は、継続してパーキングブレーキが効いているはずだと思っているにもかかわらず、実際には、中間ギヤ63の係止孔64とロックピン65との係合が外れた状態(パーキングブレーキが外れた状態)になっている可能性がある。このとき、もし坂道であれば、車両の自重によって勝手に車両が動き出してしまい、平坦路であっても、トルクコンバータ搭載のAT車やCVT車であれば、エンジンからトルクコンバータを介して伝わるクリープトルクによって車両が勝手に動き出してしまうこととなり、大変危険である。
【0069】
これに対し、上記の電動ブレーキ装置においては、
図12に示すように、車両が停止し、かつ、パーキングブレーキ動作が完了した状態のときは、運転者がブレーキペダル81を操作しても、電動モータ1の作動が禁止される(ステップS
21,S
22,S
24)。そのため、電動モータ1から中間ギヤ63にトルクが伝達せず、中間ギヤ63とロックピン65の係合が外れてしまう事態を防止することができる。また、パーキングブレーキの作動が完了し、かつ、車両が停止しているときは、ブレーキペダル81の操作があっても電動モータ1が作動しないので、電動モータ1の電力消費を抑えることができ、また電動モータ1の作動音を防止することもできる。
【0070】
また、上記の電動ブレーキ装置は、車両が停止していないと判定されたときは、ブレーキペダル81の操作があったときに、電動モータ1の作動を許容するように構成されている(ステップS
22,S
23)。すなわち、パーキングブレーキ動作が完了した状態のときでも、車両が停止していなければ、ブレーキペダル81の操作に応じて電動モータ1を作動させることが可能である。そのため、例えば、パーキングブレーキ動作が完了しているにもかかわらず、万一坂道の傾斜等によって車両が動き出し、その車両を停止させようとして運転者がブレーキペダル81を踏み込んだときに、サービスブレーキとしての制動力を発生することが可能であり、車両の安全性を確保することが可能である。
【0071】
車両が停止しているか否かの判断は、例えば、車両に搭載したGPS受信機で検出される車両の現在位置に基づいて行なうことも可能であるが、この場合、GPS衛星から見て車両が建物等の陰にあるときに、車両が停止しているか否かの判定精度が低下する可能性がある。そこで、上記実施形態のように、車輪85の回転を検出する車速センサ86の出力信号に基づいて車両が停止しているか否かを判定すると好ましい。このようにすると、車両が建物等の陰にあっても、車両が停止しているか否かを正確に判定することができるため、確実な制御が可能である。
【0072】
上記実施形態では、パーキングブレーキをかけたときに、中間ギヤ63の係止孔64の内面とロックピン65の外周との間に生じる摩擦抵抗によって、中間ギヤ63とロックピン65の係合を保持するものを例に挙げて説明したが、この発明は、例えば、
図13に示すように、中間ギヤ63の係止孔64の内面に形成した段部91と、ロックピン65の外周に形成した突起90との引っかかりによって中間ギヤ63とロックピン65の係合を保持するものにも適用することができる。
【0073】
また、上記実施形態では、パーキングロック位置とアンロック位置の間でロックピン65を移動させるロックアクチュエータ66として、ソレノイドコイル71への通電を停止したときに、可動鉄心73がリターンスプリング75の付勢力で自然復帰するプッシュ形ソレノイドを例に挙げて説明したが、ソレノイドコイル71への通電を停止したときに、可動鉄心73をそのままの位置に保持する永久磁石を組み込んだ自己保持形ソレノイドを採用することも可能である。また、上記実施形態では、ロックアクチュエータ66としてソレノイド式の直動アクチュエータを採用したが、他の電動方式の直動アクチュエータを採用することも可能である。
【0074】
また、上記実施形態では、中間ギヤ63に係脱するロック部材として、中間ギヤ63の側面に向けて進退可能に設けられた棒状のロックピン65を例に挙げて説明したが、ロック部材は、例えば、中間ギヤ63の外周に係脱するように揺動可能に設けられたロック爪等を採用することも可能である。
【0075】
また、上記実施形態では、ロック部材が係脱する回転部材として、減速機構2の中間ギヤ63を採用したものを例に挙げて説明したが、ロック部材を係脱させる回転部材は、直動機構3を構成する回転部材(例えば、回転軸30やキャリヤ33)など、電動モータ1から制動機構7に動力を伝達する経路上にある回転部材であれば他の部材でもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、車輪に制動力を負荷する制動機構として、車輪と一体に回転するディスクロータに摩擦パッドを押し付けるディスク方式のものを例に挙げて説明したが、この発明は、車輪と一体に回転するロータとしてのドラムの内周に、摩擦部材としてのブレーキシューを押し付けるドラム方式のものにも適用することが可能である。