(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289888
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】構造物用制振ダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/023 20060101AFI20180226BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20180226BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20180226BHJP
F16F 9/30 20060101ALI20180226BHJP
F16F 9/02 20060101ALI20180226BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
F16F15/023 A
F16F15/02 K
F16F9/32 H
F16F9/30
F16F9/02
E04H9/02 351
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-253832(P2013-253832)
(22)【出願日】2013年12月9日
(65)【公開番号】特開2015-113846(P2015-113846A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】503121088
【氏名又は名称】株式会社ビービーエム
(74)【代理人】
【識別番号】100119220
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100094787
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 健二
(72)【発明者】
【氏名】合田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】田中 健司
(72)【発明者】
【氏名】小泉 貴宏
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭50−056892(JP,U)
【文献】
米国特許第04032126(US,A)
【文献】
特開平11−210815(JP,A)
【文献】
実開昭48−095084(JP,U)
【文献】
特開2002−115738(JP,A)
【文献】
特開平08−261265(JP,A)
【文献】
特開平08−061312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H9/00−9/16
F16F9/00−9/58
15/00−15/36
F16J1/00−1/24
7/00−10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震時に相対変位する一方の構造体に固定される一端が閉じ、他端が開口したシリンダー部材と、
他方の構造体に固定され、前記シリンダー部材の開口から内部に伸び、前記シリンダー部材との間で相対変位可能に配置され、先端に前記シリンダー部材の内径とほぼ同じ外径を有し、流通路を形成した弁体を備えたピストンロッドと、
前記弁体から所定間隔をおいた前記ピストンロッド外周面にその内周面が固定され前記シリンダー部材内周面にその外周面が固定される弾性ゴム体と、
前記ピストンロッド外周と前記シリンダー部材内周面に固定され一定以上の負荷により破断する剛性部材と、
前記弾性ゴム体と前記弁体との間に外周部が前記シリンダー部材内周面に固定されたその内周部が前記ピストンロッド外周部と摺動可能に配置され、自身と前記シリンダー部材の閉じられた一端間を密封空間とするリング状隔壁部材と、
を備えることを特徴とする構造物用制振ダンパー。
【請求項2】
前記弾性ゴム体を高減衰性ゴムとすることを特徴とする請求項1に記載の構造物用制振ダンパー。
【請求項3】
前記シリンダー部材の前記弾性ゴム体を固定する部分の内径を他の部分の内径より大きくすることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物用制振ダンパー。
【請求項4】
先端が閉じ前記弁体が摺動するシリンダー部材と、前記弾性ゴム体が固定されるシリンダー部材とをそれぞれ別体とし、夫々のシリンダー部材の長さや内径が異なるように形成して各シリンダー部材を連結固定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の構造物用制振ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や橋梁等の構造物の地震時の振動を抑制する構造物用制振ダンパーに関し、特に地震の際の構造物の大きな変位に対して効率良く地震エネルギーを吸収することが可能な弾性ゴムの変形を利用した構造物用制振ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物用制振ダンパーとしてオイルダンパー、エアーダンパーや粘弾性ダンパー、弾性ゴムダンパーが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2541073号公報
【特許文献2】特許第2566833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オイルダンパーやエアーダンパーは、温度依存性がなく、高速時のエネルギー吸収性に優れ、繰り返しの変形に強いという利点を有するが、低速時の性能が低く、密閉性が必要で、液漏れが発生しやすいという問題がある。また、オイルダンパーやエアーダンパーは,シリンダー内部を密閉するために,シリンダー先端の蓋に設けた穴の内周部とロッド外周部の間で,シール材等を用いて密閉しまた滑動可能としている。ダンパーの外部に露出したピストンロッドの外周部には,外気によって錆びが生じやすい。ロッドの外周部表面に錆びによって凸凹が生じた場合には,密閉および滑動の役割を担うシール材が,ロッド外周部の凸凹によって容易に削られて破損する。その結果,ダンパーの密閉性が失われる。この障害を取り除くために,従来のダンパーではロッド外周部の錆を,定期的に除去するメンテナンスが必要となるという問題を有する。
【0005】
粘弾性ダンパー等の弾性体の変形による振動吸収機能を有する制振ダンパーは、構造が簡単でメンテナンスも容易であるという利点を有する。しかし、地震時に構造物には方向の異なる大きな変位が作用し、構造物の相対変位する2つの構造にそれぞれ一端を固定したシリンダー部材とピストン部材の軸方向の変位にぶれが生じ、その結果、装置の一部に荷重が集中して装置自体を破壊する恐れがある。
【0006】
弾性ゴムの弾性変形によるダンパーは、ゴムの組成を変えることにより性能を変化することができ、繰り返し変形に強いという利点を有するが、変形性能に限界があり、温度依存性があるという問題を有する。
【0007】
本発明は、従来技術の持つ問題を解決する、構造が簡単で、製造が容易で弾性ゴムダンパーの持つ欠点を補い、効率良く地震エネルギー吸収を可能とする構造物用制振ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構造物用制振ダンパーは、前記課題を解決するために、地震時に相対変位する一方の構造体に固定される一端が閉じ、他端が開口したシリンダー部材と、他方の構造体に固定され、前記シリンダー部材の開口から内部に伸び、前記シリンダー部材との間で相対変位可能に配置され、先端に前記シリンダー部材の内径とほぼ同じ外径を有し、流通路を形成した弁体を備えたピストンロッドと、前記弁体から所定間隔をおいた前記ピストンロッド外周面にその内周面が固定され前記シリンダー部材内周面にその外周面が固定される弾性ゴム体と、前記ピストンロッド外周と前記シリンダー部材内周面に固定され一定以上の負荷により破断する剛性部材と、前記弾性ゴム体と前記弁体との間に外周部が前記シリンダー部材内周面に固定されたその内周部が前記ピストンロッド外周部と摺動可能に配置され
、自身と前記シリンダー部材の閉じられた一端間を密封空間とするリング状隔壁部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の構造物用制振ダンパーは、前記弾性ゴム体を高減衰性ゴムとすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の構造物用制振ダンパーは、前記シリンダー部材の前記弾性ゴム体を固定する部分の内径を他の部分の内径より大きくすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の構造物用制振ダンパーは、先端が閉じ前記弁体が摺動するシリンダー部材と、前記弾性ゴム体が固定されるシリンダー部材と、前記剛性部材が固定されるシリンダー部材をそれぞれ別体とし、夫々のシリンダー部材の長さや内径が異なるように形成して各シリンダー部材を連結固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
地震時に相対変位する一方の構造体に固定される一端が閉じ、他端が開口したシリンダー部材と、他方の構造体に固定され、前記シリンダー部材の開口から内部に伸び、前記シリンダー部材との間で相対変位可能に配置され、先端に前記シリンダー部材の内径とほぼ同じ外径を有し、流通路を形成した弁体を備えたピストンロッドと、前記弁体から所定間隔をおいた前記ピストンロッド外周面にその内周面が固定され前記シリンダー部材内周面にその外周面が固定される弾性ゴム体と、前記ピストンロッド外周と前記シリンダー部材内周面に固定され一定以上の負荷により破断する剛性部材と、前記弾性ゴム体と前記弁体との間に外周部が前記シリンダー部材内周面に固定されたその内周部が前記ピストンロッド外周部と摺動可能に配置され
、自身と前記シリンダー部材の閉じられた一端間を密封空間とするリング状隔壁部材と、を備えることで、1本のピストンロッドに複数の異なるダンパー機能を配置することができる。そして、異なるダンパー機能の其々が持つ欠点を他のダンパー機能が補填して効率良く地震エネルギーを吸収することが可能となり、シリンダー部材内密封空間の体積を弾性ゴム体の変形に拘わらず一定とし地震エネルギーの減衰性を向上することが可能となる。
弾性ゴム体を高減衰性ゴムとすることで、地震エネルギーの減衰性能を向上することが可能となる。
シリンダー部材の弾性ゴム体を固定する部分の内径を他の部分の内径より大きくすることで、弾性ゴム体の体積を大きくすることで弾性ゴムの変形による地震エネルギーの減衰性を向上することが可能となる。
先端が閉じ弁体が摺動するシリンダー部材と、弾性ゴム体が固定されるシリンダー部材と、剛性部材が固定されるシリンダー部材をそれぞれ別体とし、夫々のシリンダー部材の長さや内径が異なるように形成して各シリンダー部材を連結固定することで、弾性ゴム体を固定するシリンダー部材の内径を大きくして弾性ゴム体の弾性変形量を大きくしたり、設置場所に応じてシリンダー部材の長さを調整することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の構造物用制振ダンパーの実施の形態を図により説明する。
図1は、構造物用制振ダンパーの一実施形態を示す図である。
【0022】
構造物用制振ダンパー1は、建築物や橋梁等の構造物の一方の構造体に連結される一端が閉じ他端が開口したシリンダー部材2と、他方の構造体に連結するピストンロッド3を備えている。ピストンロッド3は、シリンダー部材2の開口からその内部に伸び、シリンダー部材2に対して相対変位可能に配置される。
【0023】
シリンダー部材2は、断面円形の部材で、閉じた側の端部には一方の構造体に連結するためのシリンダー側取付部材4が固定される。
【0024】
ピストンロッド3の一端部には、他方の構造体に連結するためのピストンロッド側取付部材5が固定される。ピストンロッド3の他端部には、シリンダー部材2の内径とほぼ同じ外径の弁体6が形成される。
【0025】
ピストンロッド3の弁体6の後部外周部とシリンダー部材2の内壁間に弾性ゴム体7が固定される。一端が閉じられたシリンダー部材2とピストンロッド3の弁体6の後部外周部とシリンダー部材2の内壁間に固定される弾性ゴム体7により、シリンダー部材2の閉じた側と弁体6間の空間Aと、弁体6と弾性ゴム体7間の空間Bは、外部から密封状態にする。弾性ゴム体7がシール材として機能するのでシール材が必要でなくなる。
【0026】
ピストンロッド3外周部とシリンダー部材2内壁部への弾性ゴム体7の固定は、加硫一体成形により実施する。加硫一体成形による固定は、鋼材とゴムとの接着部の劣化が防止され、密封状態を長期間維持することが可能となる。また,弾性ゴム体7はシリンダー部材2とピストンロッド3が相対変位した場合に弾性変形するために,従来のダンパーにおけるシール材が必要でないために,ピストンロッド3外周部の錆びによってシリンダー部材2の密閉性が失われることがない。
【0027】
図4、
図5に示すように、弁体6には、空間A,Bと連通する流通路が形成される。
図4に示される実施形態では、流通路は弁体6を貫通する小孔8として形成される。
図5に示される実施形態では、流通路は弁体6の外周に切欠9として形成される。
【0028】
図1に示されるように、弾性ゴム体7の後部に複数のロッド状の剛性部材10が一端をピストンロッド3に固定手段11を介して固定され、他端をシリンダー部材2に固定手段12を介して固定される。剛性部材10は、樹脂又はアルミ等の金属性で、耐力性能の上限が設定されている。つまり、一定値以下の負荷に対しては剛性部材10が抵抗するが、一定値以上の負荷に対しては剛性部材10が破断してそのエネルギーを吸収する機能を有する。
図1において剛性部材10は弾性ゴム体7の後部に配置されているが、
図2に弾性ゴム体7の前部に配置しても良い。
【0029】
図1,2に示される実施形態では、シリンダー部材2を複数に分割したものである。一端が閉じ弁体6が摺動するシリンダー部材2aと、弾性ゴム体7が配置されるシリンダー部材2bと、剛性部材10を配置したシリンダー部材2cを夫々別体として形成し、連結固定する。この実施形態では、弾性ゴム体7を固定するシリンダー部材2bの内径を、弁体6が摺動するシリンダー部材2aの内径より大きくしている。その結果、弾性ゴム体7の弾性変形量を大きくすることができる。また、各シリンダー部材2a、2b、2cの長さを調節して、設置場所に応じたシリンダー部材の長さに設定することが可能となる。
【0030】
図1、
図2に示される実施形態では、シリンダー部材2内の弾性ゴム体7と弁体6との間に、外周部がシリンダー部材2内周面に固定されたリング状隔壁部材9をその内周部がピストンロッド3外周部に対して摺動可能に配置する。弾性ゴム体7の変形によりシリンダー部材内の密封空間A+Bの体積が若干変化する。シリンダー部材2内の密封空間の体積の変化は、流体ダンパーの地震エネルギーの減衰性に少し影響する。
図1.2に示される実施形態では、リング状隔壁部材9を配置することで、シリンダー部材2内の密封空間の体積を一定として流体ダンパーの地震エネルギー減衰性を保持する。リング状隔壁部材9の材質としては硬質ゴム等とする。
【0031】
図6に示される実施形態は、シリンダー部材2の弾性ゴム体7の配置部分の内径Kを他のシリンダー部材2の部分の内径kより大きくする。
図7に示される実施形態では、弾性ゴム体7を配置するシリンダー部材2の内壁部を削り薄肉部2dとしその内径Kを、シリンダー部材2の他の部分の内径kより大きくしている。また、
図3に示される実施形態は、弾性ゴム体7を配置するシリンダー部材2bの内径を、弁体6が摺動するシリンダー部材2aの内径より大きくしている。シリンダー部材2の弾性ゴム体7の配置部分の内径を他の部分の内径より大きくすることにより、配置する弾性ゴム体7の体積を増加させ、弾性ゴム体7の変形による地震エネルギーの減衰性能を向上することが可能となる。
【0032】
図7は、ピストンロッド3とシリンダー部材2が矢印方向に相対変位した場合を示す図である。剛性部材10は、耐力性能の上限が設定されおり、一定値以下の負荷に対しては剛性部材10が抵抗するが、一定値以上の負荷に対しては剛性部材10が破断してそのエネルギーを吸収する。
図8では、一定以上の負荷により剛性部材10が破断した状態を示す。
【0033】
シリンダー部材2内に封入される流体として空気等の気体を選択した場合の本発明の作用を説明する。ピストンロッド2の矢印方向への相対変位により弁体6も矢印方向に移動する。その結果、空間A内の気体は圧縮されその体積が減少し圧力が増加する。一方、空間B内の気体は膨張しその体積が増加し圧力が減少する。その結果、圧力の高い空間A内の気体は、弁体6に形成した流通路8から圧力の低い空間Bに流れる。流通路8の形状は、
図3、
図4に示す小孔8aでも切欠き8bでも良いが、流通路8から気体が流れる際の流体移動抵抗による地震エネルギーの減衰性を考慮し、流通路8の口径、形状、数等を設定する。
【0034】
シリンダー部材2とピストンロッド3の相対変位に伴い、弾性ゴム体7が
図7に示すように弾性変形する。このように、シリンダー部材2とピストンロッド3の相対変位に伴い空間A、空間B内の気体の圧縮、膨張によるクッション効果、流通路8を通しての気体の移動の際の流体移動抵抗により地震エネルギーが減衰され、さらに、シリンダー部材2内を密封する弾性ゴム体7の弾性変形により地震エネルギーを減衰する。弾性ゴム体7を高減衰性ゴムとすることにより、地震エネルギーの減衰性能を向上することが可能となる。
【0035】
図7は、ピストンロッド3とシリンダー部材2が矢印方向に相対変位した場合を示す図である。剛性部材10は、耐力性能の上限が設定されおり、一定値以下の負荷に対しては剛性部材10が抵抗するが、一定値以上の負荷に対しては剛性部材10が破断してそのエネルギーを吸収する。
図7では、一定以上の負荷により剛性部材10が破断した状態を示す。
【0036】
図8によりシリンダー部材2内に封入される流体としてオイル等の液体を選択した場合の本発明の作用を説明する。地震時、構造物に作用する変位により、一方の構造部に連結されたシリンダー部材2と他方の構造部に連結されたピストンロッド3は互いに相対変位する。ピストンロッド2の矢印方向への相対変位により弁体6も矢印方向に移動する。その結果、空間B内の液体は、弁体6に形成した流通路8から空間Aに流れる。流通路8の形状は、
図3、
図4に示す小孔8aでも切欠き8bでも良いが、流通路8から液体が流れる際の流体移動抵抗による地震エネルギーの減衰性を考慮し、流通路8の口径、形状、数等を設定する。液体は気体と相違し非圧縮性流体であるため、液体の流通路8を通しての流体移動抵抗は、気体の場合に比較し精密な設定が必要である。
【0037】
剛性部材10は、耐力性能の上限が設定されおり、一定値以下の負荷に対しては剛性部材10が抵抗するが、一定値以上の負荷に対しては剛性部材10が破断してそのエネルギーを吸収する。
図8では、一定以上の負荷により剛性部材10が破断した状態を示す。シリンダー部材2とピストンロッド3の相対変位に伴い、弾性ゴム体7が
図8のように弾性変形する。このように、シリンダー部材2とピストンロッド3の相対変位に伴い流通路8を通しての液体の移動の際の流体移動抵抗により地震エネルギーが減衰され、さらに、シリンダー部材2内を密封する弾性ゴム体7の弾性変形により地震エネルギーを減衰する。弾性ゴム体7を高減衰性ゴムとすることにより、地震エネルギーの吸収性能を向上することが可能となる。
【0038】
本発明の構造物用制振ダンパー1は、1本のピストンロッド3に流体圧ダンパー、弾性ゴム体ダンパー及び剛性部材ダンパーと異なるダンパーを直列に配置している。各ダンパーの長所と短所を検討する。
【0039】
先ず、流体圧ダンパーの長所は、動的強度性能(速度比例)があること、ストロークを大きくできること、温度依存性が少ないこと、高速時のエネルギー吸収性が大きいこと、繰り返し変形に強いこと、エネルギー吸収性能を拡大できること、履歴は丸形で剛性がないので共振しないこと等である。一方、流体圧ダンパーの短所は、低速時又は小変形時の性能が低いこと、密閉性を必要とすること、液漏れが生じやすいこと等である。
【0040】
次に、弾性ゴム体ダンパーの長所は、密閉機能を有すること、静的強度性能(変位比例)があること、ゴム組成で性能を変えやすいこと、繰り返しの変形に強いこと、履歴は紡錘形であること等である。一方、弾性ゴム体ダンパーの短所は、変形性に限界があること、温度依存性があること、ハードニングがあること、エネルギー吸収性に限界があること、剛性があるため共振を防げないこと等である。
【0041】
続いて、剛性部材ダンパーの長所は、静的強度性能(変位比例)があること、小変形時の強度(剛性)を得やすいこと、温度依存性がないこと、塑性変形範囲内でのエネルギー吸収性能が大きいこと、履歴は線形又は矩形であること、剛性部材を破断させることにより耐力性能の上限を設定することができること等である。一方、剛性部材ダンパーの短所は、剛性があるため共振を防げないこと等である。
【0042】
長所及び短所を有する流体圧ダンパー、弾性ゴム体ダンパー及び剛性部材ダンパーをピストンロッド3に沿って直列に配置した本発明の構造物用制振ダンパー1の作用、効果を検討する。小さな変形の繰り返す等の変位に対しては、小変形時の強度(剛性)を得やすい剛性部材10が抵抗して対応し、低速時又は小変形時の性能が低いという流体圧ダンパーの短所をカバーする。
【0043】
剛性部材10は、繰り返しの大変形により破断する。剛性部材10が破断するまでの繰り返し変形に時間経過により弾性ゴム体ダンパーの温度が上昇し、弾性ゴム体ダンパーの短所である温度依存性によるエネルギー吸収性能の低下が回復する。
【0044】
剛性部材10の破断後、弾性ゴム体ダンパー及び流体圧ダンパーの長所を生かし、弾性ゴム体7の弾性変形と、弾性ゴム体7により密封された空間内流体の弁体6に形成された流通路8を通しての流体移動抵抗により地震エネルギーを効率良く減衰することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1:構造物用制振ダンパー、2:シリンダー部材、3:ピストンロッド、4:シリンダー側取付部材、5:ピストンロッド側取付部材、6:弁体、7:弾性ゴム体、8:流通路、8a:小孔、8b:切欠き、9:リング状隔壁部材,10:剛性部材、11:固定部材、12:固定部材