(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289909
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】アノードチャンバーを備え、該アノードチャンバー内に水を凝縮し、除去する区域を備える燃料電池積層体、及び該チャンバー内で水を凝縮し、形成された水を除去する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20180226BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20180226BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20180226BHJP
H01M 8/04291 20160101ALI20180226BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20180226BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/02
H01M8/0202
H01M8/04291
H01M8/04 N
H01M8/10
【請求項の数】19
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-555917(P2013-555917)
(86)(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公表番号】特表2014-507057(P2014-507057A)
(43)【公表日】2014年3月20日
(86)【国際出願番号】FR2012000072
(87)【国際公開番号】WO2012117172
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2015年1月26日
(31)【優先権主張番号】1100628
(32)【優先日】2011年3月2日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510225292
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】バンサン、フォシュー
(72)【発明者】
【氏名】アントワーヌ、ラトゥール
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ、テリ
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ、バロン
【審査官】
清水 康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−259779(JP,A)
【文献】
特開2009−061375(JP,A)
【文献】
特表2007−522629(JP,A)
【文献】
特開2009−289540(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0068543(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0246580(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードチャンバー(2)内に入る水素注入口(3)を有するアノードチャンバー(2)を備えてなる燃料電池であって、
前記燃料電池が、それぞれアノード(10)及びカソード(11)を形成する電極の対により境界が定められた複数の基本電池を備えてなり、各対が電解質膜(9)により分離されており、前記アノードが、全て前記アノードチャンバー(2)内に配置されており、 前記アノードチャンバー(2)の内側を、第1の内側面と前記第1の内側面に面する第2の外側面を有し、前記アノードチャンバー(2)の外側から分離する壁(4)が、
− 前記第1の内側面から前記第2の外側面に広がり、前記壁の、前記第1の内側面と前記第2の外側面との間で測定される第一熱伝導抵抗を有する主要領域(5)であって、前前記第1の内側面と第2の外側面との間の水の移動をブロックする、主要領域(5)と、
− 前記第1の内側面から前記第2の外側面に広がり、水の凝集を促進する領域であって、前記第一熱伝導抵抗より厳密に小さい、前記第1の内側面と前記第2の外側面との間で測定される第二熱伝導抵抗を有し、前記アノードチャンバー(2)内で水凝縮区域(7)の境界を定め、前前記第1の内側面と第2の外側面との間の水の移動をブロックする、水の凝縮を促進する領域(6)と
を備えてなり、
前記凝縮水を除去するための排出チャネル(8)が、前記凝縮区域(7)を前記アノードチャンバー(2)の外側に接続していて、
前記アノードチャンバー(2)から取り出した水を吸収するために、前記アノードチャンバー(2)の外側に配置され、前記排出チャネル(8)に取り付けられた液体水の貯蔵部及び蒸発要素(17)を備え、
前記貯蔵部及び蒸発要素(17)が前記凝縮領域(6)と接触している、燃料電池。
【請求項2】
少なくとも2個の基本電池が共通の電解質膜(9)を備えてなる、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記燃料電池が、複数の個別の電解質膜(9)を備えてなり、それぞれの電解質膜(9)が基本電池に対応する、請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記凝縮領域(6)が、前記アノードチャンバー(2)の前記壁(4)の局所的に薄い部分(12)により形成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項5】
前記凝縮領域(6)が、前記薄い部分(12)のレベルにおける前記アノードチャンバー(2)の外側に配置された突出部(13)を備えてなる、請求項4に記載の電池。
【請求項6】
前記凝縮領域(6)が、前記壁(4)の、前記アノードチャンバー(2)の外側と前記アノードチャンバー(2)の内側とを連絡する穴を充填する挿入物を備えてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項7】
前記挿入物が、前記主要領域(5)の境界を定めるのに使用される材料よりも高い熱伝導率を有する材料から製造される、請求項6に記載の電池。
【請求項8】
前記排出チャネル(8)が、前記排出チャネル(8)を通して、前記凝縮水の前記除去を制御するバルブ(14)に接続されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電池。
【請求項9】
前記凝縮区域(7)に水の存在を検知するセンサー(15)が取り付けてあり、前記センサー(15)が前記バルブ(14)に接続されて、前記凝縮区域(7)に水(16)が存在する場合に除去を開始する、請求項8に記載の電池。
【請求項10】
前記貯蔵部及び蒸発要素が、水素の触媒燃焼を行うように形成された材料(19)を備えてなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電池。
【請求項11】
親水性多孔質材料(18)が前記アノードチャンバー(2)内に配置されている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電池。
【請求項12】
前記主要領域(5)と前記凝縮領域(6)とが、前記アノードチャンバー(2)内の同一の前記壁(4)に配置されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の電池。
【請求項13】
前記貯蔵部及び蒸発要素(17)が、前記凝縮領域(6)と前記壁(4)の外側表面で接触している、請求項1〜12のいずれか一項に記載の電池。
【請求項14】
前記貯蔵部及び蒸発要素(17)が、水を連続的に蒸発させるように、十分に多孔質である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の電池。
【請求項15】
多孔質の貯蔵部及び蒸発要素の細孔径が、1μm〜1mmである、請求項14に記載の電池。
【請求項16】
前記親水性多孔質材料(18)が、少なくとも前記凝縮区域(7)に配置される、請求項11に記載の電池。
【請求項17】
前記壁(4)が、マイクロチャネル(20a、20b)により相互接続された凝縮領域(6a、6b、6c)を備えてなり、前記排出チャネル(8)が、1つの前記凝縮領域の少なくとも1つの凝縮区域(7)を前記アノードチャンバー(2)の外側に接続している、請求項1〜16のいずれか一項に記載の電池。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の燃料電池のアノードチャンバー内で水を凝縮させ、形成された水を除去する方法であって、
− 前記アノードチャンバー(2)内の、前記アノードチャンバー(2)の壁(4)の少なくとも一個の凝縮区域(7)の温度を局所的に下げる工程と、
− 前記燃料電池の作動の際に逆拡散により得られる水蒸気を凝縮区域(7)で凝縮させる工程と、
− 前記凝縮区域(7)で凝縮した前記水を、前記凝縮区域(7)を前記アノードチャンバー(2)の外側に接続する排出チャネル(8)を通して除去する工程と
を含んでなる、方法。
【請求項19】
前記除去工程の前に、凝縮区域(7)における凝縮した水の存在を検出する工程を行い、凝縮した水(16)が前記凝縮区域(7)で検出された場合にのみ、前記除去工程が行われる、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノードチャンバー内に入る水素注入口を有するアノードチャンバーを備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
1個又は数個のアノードを収容できるアノードチャンバー型燃料電池では、アノードにおける水素型燃料の酸化、およびカソードにおける空気酸素型の酸化剤の還元により、発電が起こる。一般的に、アノード及びカソードは、Nafion(登録商標)から製造されることが多い電解質膜により分離されている。燃料として水素を使用する具体的な例では、水素がアノードで解離(H
2→2H
++2e
−)してH
+イオンを与え、これが膜を横切り、酸化剤が流れるカソードで反応し、水を発生する(1/2O
2+2H
++2e
−→H
2O)。しかし、カソード側で発生した水の一部は、膜を通って逆拡散し、最後にはアノードチャンバー内で蒸気の形態になる。外側の条件(温度、湿度)及び作動条件(効率、システムの密閉状態)により、そのような逆拡散は、カソードで発生した水の10%〜40%にもなる。
【0003】
さらに、化学的水素化物の加水分解によりアノードの上流で水素が発生する場合、加水分解に起因する一定量の水がガス中に存在することが課され、この水がアノードレベルに達している。
【0004】
このように、燃料電池が作動する際、アノードチャンバーは水蒸気で満たされ、これが少しずつ凝縮し、凝縮した水が、アノードの触媒サイトに向かう水素の通過を妨害するので、燃料電池の性能低下を引き起こす。
【0005】
文書米国特許出願公開第2006/0121326号には、アノードに、水素注入チャネル並びに未反応水素及び不純物を外に出すチャネルを備えた燃料電池が記載されている。排出チャネルは、不純物をパージ(除去)するように形成され、決められた時間だけ開くバルブを備えている。
【0006】
文書米国特許出願公開第2006/0121326号のパージシステムは、アノードチャンバーを有する型の燃料電池には適用できない。事実、そのような電池では、水がアノードチャンバー内で凝縮し、停滞するようになる。燃料電池は、どのような位置ででも使用され得るので、燃料電池の停滞した水を除去する効率を大きく損なうことなく、パージバルブを設置することは困難であり、大量の水素がアノードチャンバーの外側に排出される。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、燃料電池の位置に関係なく、アノードチャンバーに含まれる水を効率的にパージすることができる燃料電池を形成することである。この目的は、添付の請求項により達成される傾向にある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
他の利点及び特徴は、本発明を制限しない例としてのみ記載され、添付図面に示される、下記の本発明の特別な態様の説明からより明らかになるであろう。
【
図4】水の存在を検知するセンサーを取り付けた凝縮領域を中心とする断面図を示す。
【
図5】水貯蔵部及び蒸発要素を取り付けた凝縮領域を中心とする断面図を示す。
【0009】
以下に説明する燃料電池は、その作動の際に、水の凝縮及び凝縮した水の除去の両方を促進する区域により、特に燃料電池カソードで発生した水の逆拡散による、アノードチャンバー内で凝縮した水を除去することができる。
【0010】
図1〜3で、燃料電池1は、アノードチャンバー2内に入る水素注入口3を有するアノードチャンバー2を備える。壁4は、アノードチャンバー2の内側を、アノードチャンバー2の外側から分離する。壁4は、アノードチャンバー2の外側と内側の間の第一熱伝導抵抗を有する主要領域5を備える。壁4は、水の凝縮を促進する特殊領域6をさらに備え、この特殊領域6は、第一熱伝導抵抗より厳密に小さい、アノードチャンバー2の外側と内側との間の第二熱伝導抵抗を有し、アノードチャンバー2内で水凝縮区域7の境界を定める。
【0011】
凝縮した水を排出するためのチャネル8が、凝縮表面7をアノードチャンバー2の外側と接続している。好ましくは、排出チャネル8は、水凝縮領域6を横切る。排出チャネル8は、水が除去される開放状態、及びアノードチャンバー2の内側がアノードチャンバー2の外側に対して気密になる閉鎖状態を、該排出チャネル8のレベルで取ることができる。排出チャネル8は、毛管であってもよい。毛管は、管を形成し、アノードチャンバー2の内側からアノードチャンバー2の外側に向かう過圧により、該管内の水を排除することができる。
【0012】
この特殊な配置は、アノードチャンバー2内で蒸気形態で存在する水の凝縮を、凝縮表面7上で促進することができる。これは、アノードチャンバー2の内側表面の少なくとも一点(ここでは、凝縮区域7)が、主要領域5の残りの部分より厳密に低い温度になるように、アノードチャンバー2の内側と外側間の壁4の温度差を利用することで、本燃料電池により可能となる。
【0013】
実際、熱伝導抵抗は、2表面間の熱伝導流の通過に対する抵抗により、要素を規定することができる。したがって、熱抵抗が高い程、その要素を横切る熱の量は低い。当然のことながら、断熱材料は、高い熱伝導抵抗を有すると言えることになる。したがって、上に定義する主要領域5の特徴及び凝縮領域6の特徴は、好ましくはアノードチャンバー2の内側温度T
intがアノードチャンバー2の外側温度T
extより厳密に高い場合、燃料電池の特定の場所における凝縮を促進することができる。
【0014】
図1〜3の具体的な例では、アノードチャンバー2が、電解質膜9及び/又は少なくとも1つのアノード10と共に、アノードチャンバー2の内側の境界を定める複数の壁を備える。壁は、アノードチャンバー2の内側の少なくとも一部の境界を定める第一表面、及びアノードチャンバー2の外側の少なくとも一部の境界を定める第二表面を備える。例えばNafion(登録商標)製の膜9は、アノードチャンバー2の内側に配置されたアノード10と接触している。アノードと関連するカソード11は、アノードチャンバー2の外側の膜9に接触して配置されている。図に示す例では、燃料電池1は、電極(アノード/カソード)の対により境界が定められた幾つかの基本電池(本例では3個)を備え、各対は電解質膜9により分離されている。電解質膜9は、各基本電池に対して特有であってもよい。この場合、燃料電池は、複数の個別の膜を備え、それぞれが基本電池に対応する。変形により、同じ電解質膜9が少なくとも2個の基本電池に共通である。アノードは、水素がアノードの触媒サイトに拡散し、反応H
2→2H
++2e
−を促進するように全て配置されている。燃料電池が、数個の壁を備える場合、これらの壁は、少なくとも一個の主要領域をそれぞれ備える。少なくとも一個の壁が、上記特性を有する少なくとも一個の凝縮領域6を備える。好ましくは、膜は、凝縮領域の熱伝導抵抗より大きな熱伝導抵抗を有し、アノードチャンバー2内のアノードにおける水の凝縮を回避する。好ましくは、チャンバーの内側と外側の間の凝縮領域6の熱伝導抵抗は、全主要領域のチャンバーの内側と外側の間の熱伝導抵抗より厳密に小さい。無論、壁は、幾つかの凝縮領域及びそれらと関連する排出チャネルを備えることができる。さらに、異なった壁は、1個又は数個の凝縮領域及びそれらと関連する排出チャネルをそれぞれ備えることができる。
【0015】
図1は、アノードチャンバー2の外側とアノードチャンバー2の内側を連絡する壁4の穴を充填する挿入物によって凝縮領域6が形成される、第一の態様を例示する。
【0016】
好ましくは、挿入物は、主要領域5の境界を定めるのに使用される材料よりも高い熱伝導率を有する材料から製造される。例えば、主要領域5は断熱性プラスチック材料から製造し、挿入物は金属、例えばアルミニウム、ステンレス鋼、銅、ニッケル、等から製造することができる。挿入物は、好ましくは円筒形又は円錐形形状を有するが、壁4の対応する孔に挿入することができるどのような形状でも好適である。挿入物は、好ましくはアノードチャンバー2の気密性も確保し、排出チャネル8を閉鎖したときに、該挿入物のレベルで、アノードチャンバー2の内側からアノードチャンバー2の外側への水素の損失を回避する。挿入物は、接着剤を塗るか、または圧力ばめすることができる。挿入物は、好ましくはチャンバー2の内側と外側の腐食を回避する保護層で覆われている。アノードチャンバー2の内側における凝縮区域7を形成する挿入物の表面は、好ましくは0.05mm
2〜1cm
2の範囲である。そのような表面積は、10−W燃料電池のアノードチャンバーで凝縮により形成され得る水滴のサイズに実質的に相当する。
【0017】
挿入物は、排出チャネル8が毛管である場合、排出チャネル8のみによっても形成することができ、この場合、凝縮表面7は毛管の断面に相当する。
【0018】
第二の態様を例示する
図2において、凝縮領域6は、アノードチャンバー2の壁4の局所的に薄い部分12により、形成される。壁4の局所的に薄い部分は、アノードチャンバー2の内側の壁4に設けた窪みの形状でよい。つまり、主要領域5は、凝縮領域6の厚さより厳密に大きい厚さを有する。従って、主要領域5及び凝縮領域6が同じ材料から製造されていても、アノードチャンバー2の内側とアノードチャンバー2の外側との間のそれらの熱伝導抵抗は異なる。この実施態様では、排出チャネル8は、好ましくは薄くなった部分12の底部とアノードチャンバー2の外側とを接続する。この場合、薄くなった部分12の底部は、凝縮区域7を形成する。
【0019】
図3には、第二の態様の変形を例示する。この変形では、凝縮領域6は、局所的に薄い部分12と、局所的に薄い部分12のレベルにおけるアノードチャンバー2の外側の突出部13との両方により形成される。この変形では、突出部13は、アノードチャンバー2の外側における熱交換表面積を増加することにより、アノードチャンバー2の外側と凝縮区域7との間の熱交換を促進する役割を果たす。
【0020】
第二の態様及びその変形には、第一の態様に対して、製造面に関する利点がある。実際、アノードチャンバー2の気密性は、
図1に示すように壁4中に挿入物を配置するよりも、アノードチャンバー2内で壁4を局所的に薄くすることによって容易に達成される。
【0021】
上に考察した様々な実施態様で、排出チャネル8の閉鎖又は開放状態は、バルブ14(
図1〜3)を用いて得られる。つまり、排出チャネル8は、該排出チャネル8を通して、凝縮区域7上で凝縮した水の除去を制御するバルブ14に接続されている。
【0022】
実施に際して、毎時約1gの水を供給する10−W電池では、バルブ14は、10秒間ごとに1msだけ開くことができる。しかし、そのような連続した実施では、凝縮区域7のレベルで凝縮した水が無い場合には、水素損失を発生する。従って、水素損失は、燃料電池1の操作の際には、制限する必要がある。
【0023】
図4において、この必要性に応えるために、領域6の凝縮区域7には、該凝縮区域7上に水の存在を検知するセンサー15が取り付けてある。存在センサー15は、凝縮区域7に水が存在する場合に排水を開始するために、バルブ14に接続されている。例えば、存在センサー15は制御要素(図示せず)に接続されており、その制御要素はバルブ14に接続されている。
【0024】
存在センサー15は、互いに電気的に絶縁された2個の導電性端子15a、15bを備え、凝縮区域7上に水が存在する場合に電気的に接触するように、凝縮区域7のレベルに配置されている。好ましくは、チャネル8は、存在センサー15の端子15a、15b間に配置された開口部を備える。端子15a、15bで導電率を測定することにより、液体の水の存在又は非存在を検出することができる。水が無い場合、端子15a、15bにより形成される回路が開いており、抵抗は無限である。水16が存在する場合(
図4におけるように)、端子15a、15b間の導電率が検出される。それによって、存在センサー15の信号により、制御要素はバルブ14を開くかまたは開かないかを決定することができる。このように、凝縮区域7上に水が存在する時に排出を開始することにより、水素損失を制限する。さらに、存在センサー15により、端子15a、15bにより形成される回路が再び開くとすぐに、排出は停止することができる。存在センサー15は、記載した実施態様及び変形の全てに適用できる。
【0025】
図5において、一般的に上に記載した実施態様及びそれらの変形の全てに適用できるが、排出チャネル8は、アノードチャンバー2の内側から取り出した水を吸収することができるように、アノードチャンバー2の外側に配置した、排出チャネル8及び好ましくはバルブ14を取り付けた液体水の貯蔵部及び蒸発要素17に接続してもよい。
図5の例において、排出チャネル8は、アノードチャンバー2の壁4の外側表面に対して、好ましくは凝縮領域6に対して固定された、貯蔵部及び蒸発要素17中に入り込む。つまり、貯蔵部及び蒸発要素は、第一の態様における挿入物と接触し、第二の態様及びその変形では、局所的に薄くなった部分又は突出部のレベルで外側表面上の壁と接触する。
【0026】
貯蔵部及び蒸発要素17が、排出チャネル8を通して除去された水で少なくとも部分的に含浸されている場合、例えばバルブ14により、この水が、アノードチャンバー2の外側の空気と接触し、蒸発し、それによって貯蔵部及び蒸発要素17が冷却される。従って、凝縮領域6と、より詳しくは壁4の外側表面と接触している貯蔵部及び蒸発要素17は、アノードチャンバー2の内側にある凝縮区域7に温度を熱移動により伝達する。このように、凝縮領域6と要素17との間の接触により、要素17と領域6との間の熱移動が促進される。貯蔵部及び蒸発要素17は、水を連続的に蒸発させるように、十分に多孔質であるのが好ましい。細孔径は、蒸発機能を果たすには1μm〜1mmが好ましい。細孔の総体積は、好ましくは排出の際に除去した水を全て吸収するのに十分であり、燃料電池の出力及び逆拡散反応によって異なる。貯蔵部及び蒸発要素17は、どのような形状でも有することができ、例えば水の蒸発を促進する平行六面体フォームでよい。貯蔵部及び蒸発要素17は、セラミック、ポリマー、または好ましくは非常に良好な熱伝導体を形成するための金属から製造することができる。
【0027】
実験的に、表面積1cm
2あたり1.6mmフォーム厚に対して400ミクロン細孔を含むニッケルフォームの形状の貯蔵部及び蒸発要素17を形成した。5−W燃料電池の作動により発生する水に相当する水をニッケルフォーム中に移した。ニッケルフォームレベルにおける温度低下は、フォームレベルで22℃の外界温度に対してセ氏3度であった。そのような温度差は、アノードチャンバー2の温度が、アノードチャンバー2の外側温度と同じであっても、凝縮区域7で低温点を創出するのに十分であった。これによって、貯蔵部及び蒸発要素17を、アノードチャンバー2の外側の凝縮領域6に対して配置し、貯蔵部及び蒸発要素17の温度が、凝縮区域7に向かって拡散し、その温度を低下させるのが好ましい。
【0028】
したがって、アノードチャンバー2における温度がアノードチャンバー2の外側における温度と等しい場合、燃料電池が始動するとき、アノードチャンバー2の内側表面上に水滴が不規則に形成される開始段階があり、水滴が凝縮区域7上に形成されると、この水滴は、貯蔵部及び蒸発要素17により除去される。第一水滴が除去されるとすぐ、貯蔵部及び蒸発要素17中の水が、取り出された凝縮水の蒸発により、上記のように、貯蔵部及び蒸発要素17の温度を低下させる。貯蔵部及び蒸発要素17の温度は、凝縮領域6との接触により、アノードチャンバー2における凝縮区域7の温度を低下させる。次いで、水は、凝縮区域7上の凝縮領域6でのみ凝縮し、燃料電池は、永久作動状態と呼ばれる状態になる。
【0029】
無論、開始段階を回避するために、燃料電池を始動する前に、貯蔵部及び蒸発要素17を予備含浸させるか、または燃料電池を、アノードチャンバー2の内側の温度T
intがアノードチャンバー2の外側のT
extより厳密に高いような環境に置くことは可能である。
【0030】
一般的に、全ての実施態様及びそれらの変形において、親水性多孔質材料18(
図1)をアノードチャンバー2内に配置することで、アノード10以外の内側表面上に形成された水滴が衝撃で脱離し、アノード上に落下し、触媒サイトを満たし、そして、該燃料電池の効率を下げる危険性を回避することができる。
【0031】
実際、上述の燃料電池は、表面7が凝縮を促進するために、あらゆる条件及び場所で使用できるという特徴がある。親水性多孔質材料18は、アノードチャンバー2の内側表面区域の、アノード10および膜9を除く、全部または一部を占めることができ、ポリマー材料、セルロース、または他の全ての親水性材料から製造することができる。有利には、親水性多孔質材料18は、少なくとも凝縮区域7上に配置し、該凝縮区域7のレベルで凝縮した水を、この水がチャネル8を通して除去されるまで保持する。
【0032】
凝縮した水を除去する際、先行技術と比較して水素損失は最少に抑えられてはいるが、この損失は100%回避されてはいない。事実、凝縮水を除去する際に、特にアノードチャンバー2内の水素が、チャンバーの外側にある外界空気の圧力よりも高い圧力にある場合(典型的には、アノードチャンバー2内の圧力が、厳密に1バールよりも高い場合)、水素はアノードチャンバー2の外に出る場合がある。ここで、環境上の理由から、大気中への水素の排出は回避するのが好ましい。環境安全性の要求に応えるために、貯蔵部及び蒸発要素17は、
図5に例示するように、水素の触媒燃焼を行うことができる材料19、例えば金属、を備えていてもよい。
【0033】
しかし、水素の燃焼は発熱反応であるので、水素を燃焼させることができる材料19と、アノードチャンバー2の壁の、凝縮領域6のレベルにおける外側表面との間の熱伝導度を制限することが好ましい。これを達成するには、貯蔵部及び蒸発要素17が、2つの部分を備え、第一部分が、アノードチャンバー2の、凝縮領域6のレベルにおける外側表面と接触し、第二部分が、水素を燃焼させることができる材料19を備える。好ましくは、第二部分19は、チャンバーの、凝縮領域6に関連する該外側表面から遠位にある、つまり遠く離れている。第一部分は、好ましくは金属系(水素の燃焼を促進しない金属から製造)であり、第二部分は、好ましくは粒子、例えば白金、パラジウム、ニッケル、または水素を燃焼させることができる他の元素、で覆われたポリマーから形成する。
【0034】
燃料電池の特定の作動条件では、アノードチャンバー2に逆拡散する水の量は、単一の凝縮領域6が処理し得る量よりも大きい場合がある。従って、壁は、
図6に示すように、主要領域5とは異なった複数の凝縮領域6a、6b、6cを備えることができ、各領域は、関連する凝縮区域7a、7b、7cを備えることができる。凝縮領域6a、6b、6cは、アノードチャンバー2の外側と内側との間の熱伝導抵抗が、壁4の主要領域5の熱抵抗より明らかに小さいという条件を満たし、アノードチャンバー2の内側の水凝縮区域7a、7b、7cの境界を定めなければならない。各凝縮領域6a、6b、6cは、例えば第一及び第二の態様に記載した、異なった型でよい。
【0035】
各凝縮区域は、関連するチャネル及びバルブ(図示せず)を備えることができる。しかし、費用のかかるバルブ数の増加を回避するために、少なくとも一個の排出チャネル8と連結した凝縮領域6a、6b、6cのネットワークを形成する(
図6)ことができる。
図6において、排出チャネル8は、凝縮区域7aをアノードチャンバー2の外側に接続するのみである。これによって、例えば壁4中に形成されたマイクロチャネル20a、20bと例えば接続することにより、凝縮領域6a、6b、6c間に排出システムを形成することができる。換言すれば、壁4は、マイクロチャネル20a、20bにより相互接続された凝縮領域6a、6b、6cを備え、排出チャネル8は、凝縮領域の1つである、凝縮区域7の少なくとも1つをアノードチャンバー2の外側に接続する。
【0036】
複数の凝縮領域を使用する方法は、上記の燃料電池の全ての態様及び変形に適用できる。そのような方法は、平型電池及び積層体電池にも適用できる。
【0037】
燃料電池のアノードチャンバー内に形成された水を除去する方法は、
− アノードチャンバー2の内側にある、アノードチャンバー2の壁の少なくとも一箇所の凝縮区域の温度を局所的に下げる工程と、
− 燃料電池の作動の際に逆拡散により得られる水蒸気を凝縮区域7で凝縮させる工程と、
− 凝縮区域7で凝縮した水を、該凝縮区域7をアノードチャンバー2の外側に接続する排出チャネル8を通して除去する工程と
を含むことができる。
【0038】
さらに、除去工程の前に、凝縮区域7で凝縮した水の存在を検出する工程を行うことができ、凝縮した水が凝縮区域7で検出されたときにのみ、除去工程を行うことができる。
【0039】
無論、本方法は、燃料電池の全ての態様で機能することができ、凝縮区域は、凝縮領域6の一部に形成される。