(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289912
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法とその仮受け構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20180226BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
E04G23/02 F
E04H9/02 331A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-2287(P2014-2287)
(22)【出願日】2014年1月9日
(65)【公開番号】特開2015-129425(P2015-129425A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 保則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三輪 明広
(72)【発明者】
【氏名】菊田 繁美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信也
(72)【発明者】
【氏名】手塚 純一
(72)【発明者】
【氏名】舘野 孝信
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 悟司
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−049873(JP,A)
【文献】
特開2006−083516(JP,A)
【文献】
特許第3725818(JP,B2)
【文献】
特開2000−291134(JP,A)
【文献】
米国特許第06324795(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04H 9/02
E04B 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の既存柱の一部を切断した箇所に免震装置を設置する際に、
前記建物の軸力を仮受けする仮受け部材を当該既存柱に貫通させた圧着部材で圧着し、
前記既存柱に掛かる軸力を前記仮受け部材および該仮受け部材に載置したジャッキで一旦仮受けする仮受け方法において、
前記仮受け部材が上下に分割したプレキャストコンクリートブラケットである場合に、そのブラケットの水平方向の分割面は、前記既存柱に上下のプレキャストコンクリートブラケットを設置した状態でこれらを側面視して、上側のプレキャストコンクリートブラケットの上面で軸力の掛かる位置と下側のプレキャストコンクリートブラケットの下部の内側角部を結んだ仮想線に対して直交する傾斜面となっていること、
を特徴とする免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法。
【請求項2】
プレキャストコンクリートブラケットにおける既存柱との接合面には、該接合面と対向した既存柱の接合面との間に介在する高強度モルタルに突出するシアキーが突設されていること、
を特徴とする請求項1に記載の免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法。
【請求項3】
仮受け部材が上下に分割したプレキャストコンクリートブラケットである場合に、分割された上下のプレキャストコンクリートブラケットを、水平方向の圧着材のみで既存柱に設置すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法。
【請求項4】
建物の既存柱の一部を切断した箇所に免震装置を設置する際に、
前記建物の軸力を仮受けする仮受け部材を当該既存柱に貫通させた圧着部材で圧着し、
前記既存柱に掛かる軸力を前記仮受け部材および該仮受け部材に載置したジャッキで一旦仮受けする仮受け構造において、
前記仮受け部材が上下に分割したプレキャストコンクリートブラケットである場合に、そのブラケットの水平方向の分割面は、前記既存柱に上下のプレキャストコンクリートブラケットを設置した状態でこれらを側面視して、上側のプレキャストコンクリートブラケットの上面で軸力の掛かる位置と下側のプレキャストコンクリートブラケットの下部の内側角部を結んだ仮想線に対して直交する傾斜面となっていること、
を特徴とする免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け構造。
【請求項5】
プレキャストコンクリートブラケットにおける既存柱との接合面には、該接合面と対向した既存柱の接合面との間に介在する高強度モルタルに突出するシアキーが突設されていること、
を特徴とする請求項4に記載の免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け構造。
【請求項6】
仮受け部材が上下に分割したプレキャストコンクリートブラケットである場合に、分割された上下のプレキャストコンクリートブラケットが、水平方向の圧着材のみで既存柱に設置されていること、
を特徴とする請求項4または5に記載の免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、既存建物の中間層における柱などに免震装置を新しく入れたり、免震装置を交換したり等する場合の、免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法と仮受け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、免震レトロフィットの鉛直荷重の仮受けは、免震装置を新規に設置する既存柱に作用する鉛直軸力を、そのまま受けかえるため、数千kN以上の大きな荷重を支えることになる。また、仮受けする方法も、直接、仮設支柱で軸力を受ける他に、鋼製や鉄筋コンクリート(RC)の荷重受けブラケットを既存躯体にPC鋼材で圧着するものまで多彩である。例えば、
図4(A)に示すように、RCブラケットの例として特許文献1に記載の免震装置設置方法が知られている。また、
図4(B)に示すように、鋼製ブラケットの例としては、特許文献2に記載の免震化工法、その他、特許文献3に記載の免震装置の設置方法(図示せず)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−49873号公報
【特許文献2】特許第3725818号公報
【特許文献3】特開2002−227425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法においては、例えば、前記鋼製ブラケットの例では、剛性が低く、負担できる軸力は800t未満である。また、RCブラケットの例では、剛性は高いものの、設置するのにコンクリートの養生期間が必要で工期が長くなる。更に、前記RCブラケットに係るコンクリートを撤去するために、費用が掛かると言う課題がある。本発明に係る免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、建物の既存柱の一部を切断した箇所に免震装置を設置する際に、前記建物の軸力を仮受けする仮受け部材を当該既存柱に貫通させた圧着部材で圧着し、前記既存柱に掛かる軸力を前記仮受け部材および該仮受け部材に載置したジャッキで一旦仮受けする仮受け方法において、
前記仮受け部材が上下に分割したプレキャストコンクリート(PCaと記載することあり、以下同じ)ブラケットである場合に、そのブラケットの水平方向の分割面は、前記既存柱に上下のプレキャストコンクリートブラケットを設置した状態でこれらを側面視して、上側のプレキャストコンクリートブラケットの上面で軸力の掛かる位置と下側のプレキャストコンクリートブラケットの下部の内側角部を結んだ仮想線に対して直交する傾斜面となっていることである。
【0007】
前記プレキャストコンクリートブラケットにおける既存柱との接合面には、該接合面と対向した既存柱の接合面との間に介在する高強度モルタルに突出するシアキーが突設されていることである。
【0008】
前記仮受け部材が上下に分割したプレキャストコンクリートブラケットである場合に、分割された上下のプレキャストコンクリートブラケットを、水平方向の圧着材のみで既存柱に設置することを含むものである。
【0009】
本発明に係る免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け構造の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、建物の既存柱の一部を切断した箇所に免震装置を設置する際に、前記建物の軸力を仮受けする仮受け部材を当該既存柱に貫通させた圧着部材で圧着し、前記既存柱に掛かる軸力を前記仮受け部材および該仮受け部材に載置したジャッキで一旦仮受けする仮受け構造において、
前記仮受け部材が上下に分割したプレキャストコンクリートブラケットである場合に、そのブラケットの水平方向の分割面は、前記既存柱に上下のプレキャストコンクリートブラケットを設置した状態でこれらを側面視して、上側のプレキャストコンクリートブラケットの上面で軸力の掛かる位置と下側のプレキャストコンクリートブラケットの下部の内側角部を結んだ仮想線に対して直交する傾斜面となっていることである。
【0011】
前記プレキャストコンクリートブラケットにおける既存柱との接合面には、該接合面と対向した既存柱の接合面との間に介在する高強度モルタルに突出するシアキーが突設されていることである。
【0012】
前記仮受け部材が上下に分割したプレキャストコンクリートブラケットである場合に、分割された上下のプレキャストコンクリートブラケットが、水平方向の圧着材のみで既存柱に設置されていることである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法とその構造によれば、小型化・軽量化されたPCaブラケットを使用するので、高軸力(8000kN以上)の免震レトロフィット工事が可能となる。また、PCaブラケットを使用することで、RCブラケットに比べて強度発現までの養生時間が省略され、現場の作業時間を短縮できる。このほか、前記PCaブラケットにして分割されていることで、軽くて取り扱いやすくなり、現場の施工性が向上する。更に、PCaブラケットを撤去することも容易になると言う優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け構造で、仮受け部材を水平方向に分割した例の一部拡大斜視図である。
【
図2】同本発明の免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け構造で、仮受け部材を水平方向に分割した例の一部側面図である。
【
図3】本発明に係る免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け構造で、仮受け部材を垂直方向に分割した例の一部拡大斜視図である。
【
図4】従来例に係る免震レトロフィット工事を示す、RCブラケットの例を示す側面図(A)、鋼製ブラケットの例を示す側面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法は、
図1に示すように、分割したPCaブラケット3a,3bを、若しくは、
図3に示すように、分割したPCaブラケット3dを使用するものである。
【実施例1】
【0016】
本発明に係る免震レトロフィット工事においては、
図1に示すように、建物の既存柱2の一部を切断した箇所に、免震装置10を設置する工事である。その際に、前記建物の荷重を仮受けする仮受け部材(PCaブラケット3a,3b)を、該仮受け部材と前記既存柱2の表面との間に高強度モルタル4を充填・固化させて、当該既存柱2に貫通させた圧着部材(PC鋼棒7)で圧着し、建物の既存柱に掛かる軸力を前記仮受け部材および該仮受け部材に載置したジャッキ9で、一旦仮受けする鉛直荷重の仮受け方法である。
【0017】
上記鉛直荷重の仮受け方法の手順を説明する。まず、工場(場合によってはサイト)等においてPCaブラケット3a,3bを形成する。前記仮受け部材であるPCaブラケット3a,3bを、前記既存柱2に設置する状態において、予め上下に分割した状態で、小型化・軽量化したプレキャストコンクリートブラケットとして形成しておくものである。
【0018】
そして、前記仮受け部材が上下に分割した、上側のPCaブラケット3a,下側のPCaブラケット3bである場合に、
図2に示すように、そのブラケットの水平方向の分割面3cは、既存柱2に上下のPCaブラケット3a,3bを設置した状態で、これらを側面視して、上側のPCaブラケット3aの上面で軸力の掛かる位置と、下側のPCaブラケット3bの下部の内側角部を結んだ仮想線8に対して直交する傾斜面となっている。
【0019】
前記分割面3cを傾斜させたのは、増設柱2,既存柱2aに掛かる軸力を仮受けする際に、実際に仮受け部材(PCaブラケット)に掛かる軸力に対して、上側のPCaブラケット3a,下側のPCaブラケット3bの分割面3cにおいて、軸力に対して垂直な面になるようにするためである。
【0020】
また、PCaブラケット3a,3bにおける既存柱2との接合面には、該接合面と対向した既存柱2の接合面との間に介在させる高強度モルタル4に突出すべく、シアキー5が適宜の数・配置にて突設されている。
【0021】
前記シアキー5により、すべり破壊面が高強度モルタル4と既存柱2との接合面になる。また、PCaブラケット3a,3bに、PC鋼棒挿通用の貫通孔を水平方向と垂直方向とに形成しておく。このように、予めPCaブラケット3a,3bを工場で製作しておき、現場へトラック等で運搬・搬入する。
【0022】
次に、建物の既存柱2aにおいて、鉛直荷重を仮受けするための補強を行う。それには、
図1に示すように、既存柱2aにPC鋼棒用の孔を水平に穿孔する工事を行う。そして、その後、前記既存柱2aの柱頭において、油圧ジャッキ9を受けるためにキャピタルを増設する。また、増設柱2にPC鋼棒用の鞘管を既存柱2aに穿孔した孔に合わせて設置しておいて、柱脚に補強コンクリートを打設して、既存柱2aを増設し「フカシ」を施工する。こうして増設柱2を形成する。
【0023】
前記キャピタルのコンクリートが固化して所定の強度に達した後、ポストテンション方式で埋設しておいた緊張材をジャッキで引張り、所定の張力を導入してプレストレスを付与する。
【0024】
次に、前記PCaブラケット3a,3bを現場に搬入して、増設柱2の鞘管に前記PC鋼棒7を挿通させて、当該PCaブラケット3a,3bを前記既存柱2に設置する。また、
図2に示すように同時に、PCaブラケット3a,3bにおける上下方向の貫通孔に貫通させるPC鋼棒6によって、水平方向に分割した当該PCaブラケット3a,3b同士を、プレート6a,定着ナット6bで締め付けることで、圧着し一体化する。
【0025】
更に、
図2に示すように、このPCaブラケット3a,3bと増設柱2との隙間(一例として20〜30mm程度)に、間隙維持用のスペーサ等を挟んでおき、更に、モルタル用の型枠を前記隙間の周囲に組んだ後、高強度モルタル4を充填する。
【0026】
前記増設柱2と高強度モルタル4とが、所定の強度に達した後、前記PC鋼棒7をジャッキで引張り、所定の張力を導入する。これによりPCaブラケット3a,3bと増設柱2との摩擦力で、上部架構の軸力が支持可能となる。その後、前記PCaブラケット3aの上に油圧ジャッキ9を必要数設置する。
【0027】
前記油圧ジャッキ9を稼動させてジャッキアップし、建物の上部架構の長期軸力を、前記PCaブラケット3a,3bを介して、増設柱2と既存柱2aに支持させる。その後、増設柱2から上部に露出している既存柱2aをワイヤーソーで切断する。
【0028】
前記既存柱2aの切断箇所に、新しい免震装置10を所定の位置に設置する。更に、免震装置10の上下に、補強部を設け、該補強部に補強コンクリート2b,2cを打設する。このコンクリートが硬化した後に、隙間部にグラウトを注入する。
【0029】
前記補強部の補強コンクリート2b,2cと、隙間部のグラウトとが所定の強度に達した後、油圧ジャッキ9のジャッキダウンを行う。これにより、建物の上部架構の長期軸力が免震装置10に移行する。
【0030】
次に、PC鋼棒6,7の定着ナット6b,7bを弛緩して外し、PCaブラケット3a,3bを増設柱2から撤去する。PC鋼棒7を撤去した後の増設柱2,既存柱2aにおける孔に、グラウトを充填する。このようにして、上記の仮受け構造1による鉛直荷重の仮受け方法が完了する。
【実施例2】
【0031】
鉛直荷重の仮受け構造1の他の実施例として、
図3に示すように、垂直方向に分割面3eで分割したPCaブラケット3dを用いた構造がある。このような垂直方向に分割して小型化、軽量化を図ることで、免震装置10の設置が容易となるものである。
【実施例3】
【0032】
このほか、鉛直荷重の仮受け方法の他の実施例として、仮受け部材が上下に分割したPCaブラケット3a,3bである場合に、当該上下のPCaブラケット3a,3bを、水平方向の圧着材であるPC鋼棒7のみで増設柱2,既存柱2aに設置する。即ち、PCaブラケット3a,3b同士を上下方向に圧着するPC鋼棒6を省く方法である。
【0033】
図2において、PC鋼棒6は、水平方向のPC鋼棒7によって張力が導入されると、実質的に不要となる。従って、PC鋼棒6が不要となって材料費が低減され、取付、引張等の施工が不要となって、工期も短縮される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る免震レトロフィット工事における鉛直荷重の仮受け方法とその仮受け構造によれば、仮受け部材のPCaブラケットを分割して小型化して施工できるので、建物の中間層の既存柱、若しくは基礎に対して免震装置を新たに設置する場合に限らず、新旧の免震装置を交換する場合にも適用できるものである。
【符号の説明】
【0035】
1 仮受け構造、
2 増設柱、 2a 既存柱、
3a,3b 水平方向に分割したPCaブラケット、
3c 分割面、
3d 垂直方向に分割したPCaブラケット、
3e 分割面、
4 高強度モルタル、
5 シアキー、
6 PC鋼棒、
7 PC鋼棒、
8 仮想線、
9 油圧ジャッキ、
10 免震装置、
11 キャピタル。