特許第6289929号(P6289929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289929
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】構造物の制振装置及びその諸元設定方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
   E04H9/02 301
   E04H9/02 341A
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-27316(P2014-27316)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-151785(P2015-151785A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187805
【弁理士】
【氏名又は名称】毛利 弘人
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 孝治
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−181366(JP,A)
【文献】 特開2010−070908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延びるように設置され、複数の質点を有する振動モデルでモデル化可能な構造物に対し、その振動を抑制するための構造物の制振装置であって、
前記構造物の長さ方向に沿って連続的に延び、当該構造物と別個に設置されたフレームと、
各々が慣性質量要素及び減衰要素を有し、前記複数の質点にそれぞれ対応するとともに、前記構造物と前記フレームの間を連結するように設けられた複数のダンパと、
を備え、
前記構造物は、前記各質点及びそれを支持する支持バネ部である主系支持バネ部を一組とする複数組の質点・支持バネ部によって、主振動系を構成し、
前記制振装置は、前記各ダンパ、及びそれを支持する支持バネ部である、前記フレームの付加系支持バネ部を一組とし、前記複数組の質点・支持バネ部と同数でかつこれらにそれぞれ対応する複数組のダンパ・支持バネ部によって、前記主振動系の振動を抑制するための付加振動系を構成しており、
前記付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部において、
前記慣性質量要素の慣性質量、及び前記付加系支持バネ部の剛性の一方は、前記主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における前記質点の質量、及び前記主系支持バネ部の剛性の対応する一方に対し、所定倍数に設定され、前記慣性質量要素の慣性質量及び前記付加系支持バネ部の剛性の他方は、前記設定された所定倍数に応じ、前記主振動系の全次数モードの固有振動数に対して同調するように設定されることを特徴とする構造物の制振装置。
【請求項2】
前記付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における前記慣性質量要素の慣性質量md(i)が、前記主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における前記質点の質量Ms(i)のβ倍に設定されたときに、
前記主振動系の各組の質点・支持バネ部における前記主系支持バネ部の剛性Ks(i)に対する前記付加振動系の対応する組のダンパ・支持バネ部における前記付加系支持バネ部の剛性kb(i)の比である剛性比αが、式(1)又は式(2)で設定され、これらにそれぞれ基づき、前記剛性kb(i)が式(3)又は(4)に基づいて設定されることを特徴とする請求項1に記載の構造物の制振装置。
【数1】
【請求項3】
前記付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における前記付加系支持バネ部の剛性kb(i)が、前記主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における前記主系支持バネ部の剛性Ks(i)のα倍に設定されたときに、
前記主振動系の各組の質点・支持バネ部における前記質点の質量Ms(i)に対する前記付加振動系の対応する組のダンパ・支持バネ部における前記慣性質量要素の慣性質量md(i)の比である質量比βが、式(5)又は式(6)で設定され、これらにそれぞれ基づき、前記慣性質量md(i)が式(7)又は式(8)に基づいて設定されることを特徴とする請求項1に記載の構造物の制振装置。
【数2】
【請求項4】
前記αの値を用い、式(9)から最適減衰定数hdが設定され、これを用い、前記付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における前記減衰要素の減衰係数cd(i)が、式(10)に基づいて設定されることを特徴とする請求項2又は3に記載の構造物の制振装置。
【数3】
【請求項5】
所定方向に延びるように設置され、複数の質点を有する振動モデルでモデル化可能な構造物に対し、その振動を抑制するための構造物の制振装置の諸元設定方法であって、
前記制振装置は、前記構造物の長さ方向に沿って連続的に延び、当該構造物と別個に設置されたフレームと、各々が慣性質量要素及び減衰要素を有し、前記複数の質点にそれぞれ対応するとともに、前記構造物と前記フレームの間を連結するように設けられた複数のダンパと、を備えており、
前記構造物は、前記各質点及びそれを支持する支持バネ部である主系支持バネ部を一組とする複数組の質点・支持バネ部によって、主振動系を構成し、
前記制振装置は、前記各ダンパ、及びそれを支持する支持バネ部である、前記フレームの付加系支持バネ部を一組とし、前記複数組の質点・支持バネ部と同数でかつこれらにそれぞれ対応する複数組のダンパ・支持バネ部によって、前記主振動系の振動を抑制するための付加振動系を構成しており、
前記付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部において、
前記慣性質量要素の慣性質量、及び前記付加系支持バネ部の剛性の一方を、前記主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における前記質点の質量、及び前記主系支持バネ部の剛性の対応する一方に対し、所定倍数に設定する第1工程と、
前記慣性質量要素の慣性要素及び前記付加系支持バネ部の剛性の他方を、前記設定された所定倍数に応じ、前記主振動系の全次数モードの固有振動数に対して同調するように設定する第2工程と、
を備えていることを特徴とする構造物の制振装置の諸元設定方法。
【請求項6】
前記第1工程において、前記付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における前記慣性質量要素の慣性質量md(i)を、前記主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における前記質点の質量Ms(i)のβ倍に設定し、
前記第2工程において、前記主振動系の各組の質点・支持バネ部における前記主系支持バネ部の剛性Ks(i)に対する前記付加振動系の対応する組のダンパ・支持バネ部における前記付加系支持バネ部の剛性kb(i)の比である剛性比αを、式(1)又は(2)で設定し、これらにそれぞれ基づき、前記剛性kb(i)を式(3)又は(4)に基づいて設定することを特徴とする請求項5に記載の構造物の制振装置の諸元設定方法。
【数1】
【請求項7】
前記第1工程において、前記付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における前記付加系支持バネ部の剛性kb(i)を、前記主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における前記主系支持バネ部の剛性Ks(i)のα倍に設定し、
前記第2工程において、前記主振動系の各組の質点・支持バネ部における前記質点の質量Ms(i)に対する前記付加振動系の対応する組のダンパ・支持バネ部における前記慣性質量要素の慣性質量md(i)の比である質量比βを、式(5)又は(6)で設定し、これらにそれぞれ基づき、前記慣性質量md(i)を式(7)又は(8)に基づいて設定することを特徴とする請求項5に記載の構造物の制振装置の諸元設定方法。
【数2】
【請求項8】
前記αの値を用い、式(9)から最適減衰定数hdを設定し、これを用い、前記付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における前記減衰要素の減衰係数cd(i)を、式(10)に基づいて設定することを特徴とする請求項6又は7に記載の構造物の制振装置の諸元設定方法。
【数3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物や橋梁などの構造物に対し、その振動を抑制するための構造物の制振装置及びその諸元設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の構造物の制振装置として、例えば本出願人がすでに出願し、特許された特許文献1に開示したものが知られている。この制振装置は、ビルなどの建物の構造物を制振するためのものであり、構造物と同じ高さを有するとともに構造物と別個に設置されたフレームと、構造物とフレームの間に設けられたマスダンパとを備えている。フレームは、H鋼などから成り、鉛直に延びる一対の柱と、両柱間に水平に延びる複数の梁で構成されたラーメン構造を有している。一方、マスダンパは、回転慣性効果を得るための回転マス、及び減衰効果を得るための粘性要素を有しており、構造物及びフレームのそれぞれの最上部間を連結するように設置されている。
【0003】
上記のマスダンパ及びフレームによる制振装置により、主振動系としての構造物に付加されかつその構造物の振動を抑制する付加振動系が構成されている。そして、この付加振動系の固有振動数、具体的には、マスダンパの回転マスの回転慣性質量及びフレームの剛性によって定まる固有振動数が、構造物の固有振動数に同調するように設定されている。これにより、構造物が地震などによって振動すると、マスダンパは、構造物とフレームの間の相対変位を回転マスの回転運動に変換しながら、構造物の振動に共振するように作動し、構造物の振動エネルギーを付加振動系で吸収することによって、構造物の振動を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5189213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ビルなどの多層建物の構造物では、それを振動モデルでモデル化すると、層数と同じ数の質点が存在し、例えばn個の質点(n自由度)を有する多質点系の振動モデルで表される構造物では、その振動は、n個の固有振動数と固有モード(1〜n次モードの振動の形態)を有している。しかし、上記の制振装置では、付加振動系の1つの固有振動数を構造物の1つの固有振動数に同調するように設定することにより、構造物の振動における単一の固有モード(例えば、1次モード)のみを制御することで、構造物を制振している。つまり、制御される単一の固有モード以外の他の固有モードの振動については何ら制御されない。したがって、上記の制振装置では、構造物の振動の全ての固有モード(以下「全次数モード」という)に対する制御、及びそれによる構造物の制振という点では十分とは言えず、改善の余地がある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、構造物の振動の全次数モードを同調効果により制御し、それにより、構造物の振動を適切に抑制することができる構造物の制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、所定方向に延びるように設置され、複数の質点を有する振動モデルでモデル化可能な構造物に対し、その振動を抑制するための構造物の制振装置であって、構造物の長さ方向に沿って連続的に延び、構造物と別個に設置されたフレームと、各々が慣性質量要素及び減衰要素を有し、複数の質点にそれぞれ対応するとともに、構造物とフレームの間を連結するように設けられた複数のダンパと、を備え、構造物は、各質点及びそれを支持する支持バネ部である主系支持バネ部を一組とする複数組の質点・支持バネ部によって、主振動系を構成し、制振装置は、各ダンパ、及びそれを支持する支持バネ部である、フレームの付加系支持バネ部を一組とし、複数組の質点・支持バネ部と同数でかつこれらにそれぞれ対応する複数組のダンパ・支持バネ部によって、主振動系の振動を抑制するための付加振動系を構成しており、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部において、慣性質量要素の慣性質量、及び付加系支持バネ部の剛性の一方は、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における質点の質量、及び主系支持バネ部の剛性の対応する一方に対し、所定倍数に設定され、慣性質量要素の慣性質量及び付加系支持バネ部の剛性の他方は、設定された所定倍数に応じ、主振動系の全次数モードの固有振動数に対して同調するように設定されることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、所定方向に延びるように設置された構造物の振動が、上記フレーム及び複数のダンパを備えた制振装置によって抑制される。上記の構造物は、複数の質点を有する振動モデルでモデル化可能であり、各質点及びそれを支持する主系支持バネ部を一組とする複数組の質点・支持バネ部によって、制振対象としての主振動系を構成する。また、構造物と別個に設置されたフレームは、構造物の長さ方向に沿って連続的に延びており、複数のダンパは、各々が慣性質量要素及び減衰要素を有し、主振動系の複数の質点にそれぞれ対応するとともに、構造物とフレームの間を連結するように設けられている。加えて、制振装置は、各ダンパ及びそれを支持するフレームの付加系支持バネ部を一組とし、主振動系の複数の質点・支持バネ部と同数でかつこれらにそれぞれ対応する複数組のダンパ・支持バネ部によって、主振動系の振動を抑制するための付加振動系を構成する。そして、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部において、その諸元が、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部の諸元に対して、以下のように設定される。
【0009】
具体的には、まず、各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量、及び付加系支持バネ部の剛性の一方は、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における質点の質量、及び主系支持バネ部の剛性の対応する一方に対し、所定倍数に設定され、慣性質量要素の慣性質量及び付加系支持バネ部の剛性の他方は、設定された所定倍数に応じ、主振動系の全次数モードの固有振動数に対して同調するように設定される。以上により、主振動系の各組の質点・支持バネ部に対し、それらを最適に制振するために、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量、及び付加系支持バネ部の剛性が、適切に設定される。
【0010】
前述したように、例えばn個の質点を有する振動モデルで表される構造物は、n個の固有振動数と固有モードを有しており、それにより、構造物が振動する際には、1〜n次モードの振動が発生する。本発明では、主振動系の複数組の質点・支持バネ部にそれぞれ対応し、かつ諸元が適切に設定された、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の複数組のダンパ・支持バネ部により、全ての質点・支持バネ部を適切に制御しながら、主振動系である構造物を制振する。このように、本発明では、構造物の振動の全次数モードを、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により制御し、それにより、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構造物の制振装置において、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)が、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における質点の質量Ms(i)のβ倍に設定されたときに、主振動系の各組の質点・支持バネ部における主系支持バネ部の剛性Ks(i)に対する付加振動系の対応する組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)の比である剛性比αが、式(1)又は式(2)で設定され、これらにそれぞれ基づき、剛性kb(i)が式(3)又は(4)に基づいて設定されることを特徴とする請求項1に記載の構造物の制振装置。
【数1】
【0012】
この構成によれば、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)が、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における質点の質量Ms(i)のβ倍に設定されたときに、上記の剛性比αが、式(1)又は式(2)で設定される。そして、これらの式にそれぞれ基づき、各組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)が、式(3)又は(4)に基づいて設定される。式(1)は、主振動系の相対変位応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものであり、したがって、式(3)に基づいて、上記剛性kb(i)が最適に設定される。また、式(2)は、主振動系の絶対加速度応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものであり、したがって、式(4)に基づいて、上記剛性kb(i)が最適に設定される。以上のように、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)を、定点理論に基づき、最適に設定することができる。
なお、定点理論とは、動吸振器などの制振器の最適設計に適用される理論であり、構造物の応答倍率曲線のピークを最小化するように、最適同調条件(最適同調振動数比、最適減衰定数)を満足する付加振動系の諸元の最適値を求めるための理論である。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の構造物の制振装置において、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)が、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における主系支持バネ部の剛性Ks(i)のα倍に設定されたときに、主振動系の各組の質点・支持バネ部における質点の質量Ms(i)に対する付加振動系の対応する組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)の比である質量比βが、式(5)又は式(6)で設定され、これらにそれぞれ基づき、慣性質量md(i)が式(7)又は式(8)に基づいて設定されることを特徴とする。
【数2】
【0014】
この構成によれば、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)が、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における主系支持バネ部の剛性Ks(i)のα倍に設定されたときに、上記の質量比βが、式(5)又は式(6)で設定される。そして、これらの式にそれぞれ基づき、各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)が、式(7)又は式(8)に基づいて設定される。式(5)は、主振動系の相対変位応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものであり、したがって、式(7)に基づいて、上記慣性質量md(i)が最適に設定される。また、式(6)は、主振動系の絶対加速度応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものであり、したがって、式(8)に基づいて、上記慣性質量md(i)が最適に設定される。以上のように、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)を、定点理論に基づき、最適に設定することができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項2又は3に記載の構造物の制振装置において、αの値を用い、式(9)から最適減衰定数hdが設定され、これを用い、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における減衰要素の減衰係数cd(i)が、式(10)に基づいて設定されることを特徴とする。
【数3】
【0016】
この構成によれば、前記αの値を用い、最適減衰定数hdが、式(9)で設定される。そして、設定された最適減衰定数hdを用い、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における減衰要素の減衰係数cd(i)が、式(10)に基づいて設定される。式(9)は、主振動系の相対変位応答や絶対加速度応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものであり、したがって、式(10)に基づいて、付加振動系の上記減衰係数cd(i)が最適に設定される。以上のように、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における減衰要素の減衰係数cd(i)を、定点理論に基づき、最適に設定することができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、所定方向に延びるように設置され、複数の質点を有する振動モデルでモデル化可能な構造物に対し、その振動を抑制するための構造物の制振装置の諸元設定方法であって、制振装置は、構造物の長さ方向に沿って連続的に延び、構造物と別個に設置されたフレームと、各々が慣性質量要素及び減衰要素を有し、複数の質点にそれぞれ対応するとともに、構造物とフレームの間を連結するように設けられた複数のダンパと、を備えており、構造物は、各質点及びそれを支持する支持バネ部である主系支持バネ部を一組とする複数組の質点・支持バネ部によって、主振動系を構成し、制振装置は、各ダンパ、及びそれを支持する支持バネ部である、フレームの付加系支持バネ部を一組とし、複数組の質点・支持バネ部と同数でかつこれらにそれぞれ対応する複数組のダンパ・支持バネ部によって、主振動系の振動を抑制するための付加振動系を構成しており、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部において、慣性質量要素の慣性質量、及び付加系支持バネ部の剛性の一方を、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における質点の質量、及び主系支持バネ部の剛性の対応する一方に対し、所定倍数に設定する第1工程と、慣性質量要素の慣性要素及び付加系支持バネ部の剛性の他方を、設定された所定倍数に応じ、主振動系の全次数モードの固有振動数に対して同調するように設定する第2工程と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、前述した請求項1と同様、構造物が各質点及び主系支持バネ部を一組とする複数組の質点・支持バネ部によって主振動系を構成し、制振装置が各ダンパ及び付加系支持バネ部を一組とする複数組のダンパ・支持バネ部によって付加振動系を構成する。そして、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部において、その諸元を、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部の諸元に対して、以下のように設定する。
【0019】
まず、各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量、及び付加系支持バネ部の剛性の一方を、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における質点の質量、及び主系支持バネ部の剛性の対応する一方に対し、所定倍数に設定する(第1工程)。次いで、慣性質量要素の慣性質量、及び付加系支持バネ部の剛性の他方を、第1工程において設定された所定倍数に応じ、主振動系の全次数モードの固有振動数に対して同調するように設定する(第2工程)。以上により、主振動系の各組の質点・支持バネ部に対し、それらを最適に制振するために、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量、及び付加系支持バネ部の剛性が、適切に設定される。これにより、本発明では、前述した請求項1と同様、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の複数組のダンパ・支持バネ部により、主振動系の全ての質点・支持バネ部を適切に制御しながら、すなわち、構造物の振動の全次数モードを、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により制御し、それにより、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の構造物の制振装置の諸元設定方法において、第1工程において、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)を、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における質点の質量Ms(i)のβ倍に設定し、第2工程において、主振動系の各組の質点・支持バネ部における主系支持バネ部の剛性Ks(i)に対する付加振動系の対応する組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)の比である剛性比αを、式(1)又は(2)で設定し、これらにそれぞれ基づき、剛性kb(i)を式(3)又は(4)に基づいて設定することを特徴とする。
【数1】
【0021】
この構成によれば、第1工程において、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)を、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における質点の質量Ms(i)のβ倍に設定する。次いで、第2工程において、上記の剛性比αを、式(1)又は(2)で設定し、これらにそれぞれ基づき、各組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)を、式(3)又は(4)に基づいて設定する。前述したように、式(1)は、主振動系の相対変位応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、また式(2)は、主振動系の絶対加速度応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものである。したがって、式(3)又は(4)に基づいて、上記剛性kb(i)を設定することにより、前述した請求項2と同様、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)を、定点理論に基づき、最適に設定することができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載の構造物の制振装置の諸元設定方法において、第1工程において、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)を、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における主系支持バネ部の剛性Ks(i)のα倍に設定し、第2工程において、主振動系の各組の質点・支持バネ部における質点の質量Ms(i)に対する付加振動系の対応する組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)の比である質量比βを、式(5)又は(6)で設定し、これらにそれぞれ基づき、慣性質量md(i)を式(7)又は(8)に基づいて設定することを特徴とする。
【数2】
【0023】
この構成によれば、第1工程において、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における付加系支持バネ部の剛性kb(i)を、主振動系の対応する組の質点・支持バネ部における主系支持バネ部の剛性Ks(i)のα倍に設定する。次いで、第2工程において、上記の質量比βを、式(5)又は(6)で設定し、これらにそれぞれ基づき、各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)を、式(7)又は(8)に基づいて設定する。前述したように、式(5)は、主振動系の相対変位応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、また式(6)は、主振動系の絶対加速度応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものである。したがって、式(7)又は(8)に基づいて、上記慣性質量md(i)を設定することにより、前述した請求項3と同様、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における慣性質量要素の慣性質量md(i)を、定点理論に基づき、最適に設定することができる。
【0024】
請求項8に係る発明は請求項6又は7に記載の構造物の制振装置の諸元設定方法において、αの値を用い、式(9)から最適減衰定数hdを設定し、これを用い、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における減衰要素の減衰係数cd(i)を、式(10)に基づいて設定することを特徴とする。
【数3】
【0025】
この構成によれば、まず、前記αの値を用い、式(9)から最適減衰定数hdを設定する。そして、設定した最適減衰定数hdを用い、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における減衰要素の減衰係数cd(i)を、式(10)に基づいて設定する。前述したように、式(9)は、主振動系の相対変位応答や絶対加速度応答を、主振動系と同じ自由度を有する付加振動系の同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものである。したがって、式(10)に基づいて、上記減衰係数cd(i)を設定することにより、前述した請求項4と同様、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部における減衰要素の減衰係数cd(i)を、定点理論に基づき、最適に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)は、本発明の第1実施形態による制振装置を、10層構造物とともに模式的に示す図であり、(b)は、その構造物及び制振装置を振動モデルでモデル化して示す図である。
図2】制振装置におけるマスダンパの縦断面図である。
図3図1(b)と同じモデル図であり、主振動系の各組の質点・支持バネ部の諸元と、付加振動系の各組のダンパ・支持バネ部の諸元との対応関係を示す。
図4】3層構造物及び制振装置を振動モデルでモデル化して示す図である。
図5】3層構造物の各層において、地面からの相対変位応答倍率を示す図であり、(a)は構造物のみの場合、(b)は制振装置を適用した場合を示す。
図6】3層構造物の各層において、絶対加速度応答倍率を示す図であり、(a)は構造物のみの場合、(b)は制振装置を適用した場合を示す。
図7】本発明の第2実施形態を説明するための図であり、(a)は制振装置を高層構造物の上半部に適用した状態を模式的に示す図であり、(b)はその構造物及び制振装置を振動モデルでモデル化して示す図である。
図8】本発明の第3実施形態を説明するための図であり、(a)は制振装置のマスダンパを高層構造物の複数層ごとに設置した状態を模式的に示す図であり、(b)はその構造物及び制振装置を振動モデルでモデル化して示す図である。
図9】本発明の第4実施形態を説明するための図であり、(a)は制振装置を橋梁である構造物とともに模式的に示す図であり、(b)は、その構造物及び制振装置を振動モデルでモデル化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1(a)は、本発明の第1実施形態による制振装置1を、構造物2とともに模式的に示し、また同図(b)は、その構造物2及び制振装置1を振動モデルでモデル化して示している。同図(b)に示すように、この振動モデルでは、鉛直方向に延びる構造物2が制振対象としての主振動系Aを構成し、この主振動系Aの振動を抑制するための制振装置1が付加振動系Bを構成している。
【0028】
構造物2は、例えば、鉄骨構造を有し、基礎3上に立設された10階建てビルなどから成る10層構造物である。したがって、この構造物2をモデル化した主振動系Aは、層数と同じ数の10個(図1(b)では5個のみ図示)の質点4と、各質点4をそれぞれ支持する支持バネ部(以下「主系支持バネ部」という)5で構成されている。また、この主振動系Aは、各質点4とそれを支持する主系支持バネ部5を一組とする10組の質点・支持バネ部6Aで構成されている。なお、図1(b)に示す各主系支持バネ部5において、上側のばね様の記号5aは、主系支持バネ部5のせん断剛性を表し、下側の渦巻き様の記号5bは、主系支持バネ部5の曲げ剛性を表している。
【0029】
制振装置1は、構造物2とは別個に基礎3上に立設され、構造物2とほぼ同じ高さを有するフレーム7と、構造物2とフレーム7の間を連結するように設けられた10個のマスダンパ8(ダンパ)とを備えている。
【0030】
フレーム7は、例えば、H鋼などから成り、構造物2の外側に、その外壁に沿って上下方向に延びる複数の柱、水平に延びる複数の梁、及び斜めに延びるブレースなどで構成されたラーメン構造を有している。なお、フレーム7は、構造物2の複数の外壁(例えば四方の外壁)に沿って配置してもよく、また、構造物2の外側に限らず、その内側に設けることも可能である。
【0031】
一方、マスダンパ8は、本発明者が提案し、特許された前記特許文献1に開示されたものと同じであるので、以下、図2を参照しながら簡単に説明する。同図に示すように、マスダンパ8は、内筒11、ボールねじ12及び回転マス13(慣性質量要素)を有している。内筒11は、鋼材などで構成され、一端部が開口した円筒状のものであり、他端部は、第1フランジ14に取り付けられている。
【0032】
また、ボールねじ12は、ねじ軸12aと、ねじ軸12aに多数のボール12bを介して螺合するナット12cを有している。ねじ軸12aの一端部は、内筒11の開口に収容され、他端部は、第2フランジ15に取り付けられている。また、ナット12cは、軸受16を介して、内筒11に回転自在に支持されている。
【0033】
回転マス13は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されている。また、回転マス13は、内筒11及びボールねじ12の外側に、これらを覆うように設けられ、軸受17を介して、内筒11に回転自在に支持されている。回転マス13と内筒11の間の空間は、一対のリング状のシール材18、18で密閉されており、この空間には、シリコンオイルで構成された粘性体19(減衰要素)が充填されている。さらに、このマスダンパ8には、マスダンパ8自体からの過大な反力が構造物2やフレーム7に作用することによるそれらの損傷などを防止するために、マスダンパ8の軸線方向に作用する荷重を制限するための軸力制限機構10が設けられている。
【0034】
以上のように構成されたマスダンパ8は、両端側の第1フランジ14及び第2フランジ15の一方が、構造物2の各層の所定位置(質点4に対応する位置)に連結され、他方がフレーム7に連結されている。構造物2とフレーム7の間に相対変位が発生すると、その直線運動が、ボールねじ12で回転運動に変換された状態で、回転マス13に伝達されることによって、回転マス13が回転する。
【0035】
以上の構成のマスダンパ8は、前述したように、構造物2の各層とフレーム7の間を連結するように設けられている。したがって、制振装置1をモデル化した付加振動系Bは、10個の質点4にそれぞれ対応する10個のマスダンパ8と、各マスダンパ8をそれぞれ支持するフレーム7における10個の支持バネ部(以下「付加系支持バネ部」という)9で構成されている。また、この付加振動系Bは、各マスダンパ8とそれを支持する付加系支持バネ部9を一組とする10組のダンパ・支持バネ部6Bで構成されている。なお、図1に示す各付加系支持バネ部9の2つの記号9a及び9bはそれぞれ、主系支持バネ部5の記号5a及び5bと同様、付加系支持バネ部9のせん断剛性及び曲げ剛性を表している。
【0036】
付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bは、主振動系Aの各組の質点・支持バネ部6Aにそれぞれ対応するように設けられ、諸元も対応する組の質点・支持バネ部6Aに応じて、以下のように設定される。なお、この諸元の設定方法には、各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける回転マス13の回転慣性質量を先に決める方法(以下「方法1」という)と、各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける付加系支持バネ部9の剛性を先に決める方法(以下「方法2」という)がある。これらの方法1及び2について、図1及び3を参照しながら順に説明する。
【0037】
方法1
この方法1ではまず、ステップ1(第1工程)として、付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける回転マス13の回転慣性質量md(i)を、主振動系Aの対応する組の質点・支持バネ部6Aにおける質点4の質量Ms(i)のβ倍に設定する。なお、β倍は、例えば5%や10%(β=0.05、0.10)などが採用される。
【0038】
次いで、ステップ2(第2工程)として、主振動系Aの各組の質点・支持バネ部6Aにおける主系支持バネ部5の剛性(せん断剛性Ks(i)及び曲げ剛性Ksθ(i))に対する各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける付加系支持バネ部9の剛性(せん断剛性kb(i)及び曲げ剛性kbθ(i))の比である剛性比αを、下式(1)又は(2)に基づいて算出する。なお、主系支持バネ部5及び付加系支持バネ部9の剛性にはいずれも、せん断剛性に加えて曲げ剛性が含まれているが、以下の説明では適宜、せん断剛性及び曲げ剛性をまとめて、主系支持バネ部5の剛性を「Ks(i)」で表し、付加系支持バネ部9の剛性を「kb(i)」で表すものとする。
【数4】
【0039】
式(1)は、主振動系Aの相対変位応答を、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものであり、剛性比αが、ステップ1において設定されたβの値に応じて算出される。一方、式(2)は、主振動系Aの絶対加速度応答を、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものであり、剛性比αが、前記βの値に応じて算出される。
【0040】
そして、式(1)及び(2)からそれぞれ、下式(3)及び(4)により、各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける付加系支持バネ部9の剛性kb(i)を算出する。
【数5】
【0041】
次いで、主振動系Aの相対変位応答倍率及び絶対加速度応答倍率曲線の最大値が最小になるように、下式(9)により、付加振動系Bの最適減衰定数hdを算出する。式(9)は、主振動系Aの相対変位や絶対加速度応答を、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものである。そして、算出した最適減衰定数hd、主振動系Aのみの解析モデルの固有値解析結果から得られる1次固有円振動数ωs1、及び各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける回転マス13の回転慣性質量md(i)を用い、下式(10)に基づいて、各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける粘性体19による減衰係数cd(i)を算出する。
【数6】
【0042】
以上のようにして設定又は算出された付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bの諸元、すなわち、回転マス13の回転慣性質量md(i)、付加系支持バネ部9のせん断剛性kb(i)及び曲げ剛性kbθ(i)、並びに粘性体19の減衰係数cd(i)は、図3に示すように、剛性比α及び質量比βを用い、主振動系Aの対応する組の質点・支持バネ部6Aに応じてそれぞれ設定される。
【0043】
方法2
この方法2ではまず、ステップ1(第1工程)として、付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける付加系支持バネ部9の剛性kb(i)を、主振動系Aの対応する組の質点・支持バネ部6Aにおける主系支持バネ部5の剛性Ks(i)のα倍に設定する。なお、α倍は、例えば5%や10%(α=0.05、0.10)などが採用される。
【0044】
次いで、ステップ2(第2工程)として、主振動系Aの各組の質点・支持バネ部6Aにおける質点4の質量Ms(i)に対する各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける回転マス13の回転慣性質量md(i)の比である質量比βを、下式(5)又は(6)に基づいて算出する。
【数7】
【0045】
式(5)は、主振動系Aの相対変位応答を、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものであり、質量比βが、ステップ1において設定されたαの値に応じて算出される。一方、式(6)は、主振動系Aの絶対加速度応答を、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により最小にするよう、定点理論から得られるものであり、質量比βが、前記αの値に応じて算出される。
【0046】
そして、式(5)及び(6)からそれぞれ、下式(7)及び(8)により、各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける回転マス13の回転慣性質量md(i)を算出する。
【数8】
【0047】
次いで、前述した方法1と同様、主振動系Aの相対変位応答倍率及び絶対加速度応答倍率曲線の最大値が最小になるように、前記式(9)により、付加振動系Bの最適減衰定数hdを算出し、それを用い、前記式(10)に基づいて、各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける粘性体19による減衰係数cd(i)を算出する。そして、以上のようにして設定又は算出された付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bの諸元は、前述した方法1と同様、図3に示すように、主振動系Aの対応する組の質点・支持バネ部6Aに応じてそれぞれ設定される。
【0048】
次に、上述した方法1及び2をそれぞれ適用し、付加振動系Bにおける各組のダンパ・支持バネ部6Bの具体的な諸元の設定例、及びそれらの振動解析結果について、図1及び図4を参照しながら説明する。本例では、図4のモデル図で示すように、3階建てビルなどから成る3層構造物22に制振装置21を適用し、また、その構造物22である主振動系Aの諸元は、以下のとおりとする。
各層の質量:Ms1=120(ton)、Ms2=100(ton)、Ms3=110(ton)
各層の剛性:Ks1=20000(kN/m)、Ks2=19000(kN/m)、Ks3=18000(kN/m)
【0049】
上記の構造物22のみの固有値解析結果は、下表1のとおりである。
【表1】
【0050】
また、構造物22の各層(1F〜3F)における各次数モードの固有ベクトルは、下表2のとおりである。
【表2】
【0051】
まず、方法2を適用し、主振動系Aの相対変位応答が、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により最小になるように制御する場合について説明する。ステップ1において、図4に示す付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける付加系支持バネ部9の剛性kb1〜kb3を、主振動系Aの対応する組の質点・支持バネ部6Aにおける主系支持バネ部5の剛性Ks(i)の0.05倍(α=0.05)に設定する。これにより、各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける付加系支持バネ部9の剛性kb1〜kb3は、以下のとおりである。
kb1=αKs1=1000(kN/m)
kb2=αKs2=950(kN/m)
kb3=αKs3=900(kN/m)
【0052】
次いで、ステップ2において、主振動系Aの相対変位応答を、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により最小にするよう、前記式(5)に基づき、質量比βが以下のように算出される。
β=md(i)/Ms(i)
=α/(α+1)2
=0.05/(0.05+1)2
=0.0453515
【0053】
そして、上記の質量比β及び前記式(7)により、付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける回転マス13の回転慣性質量md1〜md3が、以下のように算出される。
md1=βMs1=5.442(ton)
md2=βMs2=4.535(ton)
md3=βMs3=4.989(ton)
【0054】
次いで、前記式(9)に基づき、付加振動系Bの最適減衰定数hdが以下のように算出される。
hd=√{(3α)/8(α+1)}=0.13336307
【0055】
そして、上記の最適減衰定数hdにより、前記式(10)に基づいて、付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける粘性体19による減衰係数cd1〜cd3が、以下のように算出される。なお、主振動系Aのみの1次固有円振動ωs1は、前記表1から、5.97721(rad/s)である。
cd1=2hdωs1md1=8.694(kNs/m)
cd2=2hdωs1md2=7.245(kNs/m)
cd3=2hdωs1md3=7.969(kNs/m)
【0056】
以上のように算出された各組のダンパ・支持バネ部6Bを備えた付加振動系Bである制振装置21、及び構造物22の固有値解析結果は、下表3のとおりである。また、これらの制振装置21及び構造物22の各層(1F〜3F)における各次数モードの固有ベクトルは、下表4のとおりである。
【表3】
【表4】
【0057】
図5は、構造物22における各層(1F〜3F)において、地面からの相対変位応答倍率を示しており、(a)は構造物22のみの場合、(b)は制振装置21を適用した場合を示している。図5の(a)と(b)を対比して明らかなように、制振装置21を適用した場合には、1F〜3Fの全ての層において、1次〜3次モードのいずれの相対変位応答倍率も低下し、特に、1次モードの振動による相対変位応答倍率が大幅に低減できることがわかる。なお、構造物22(主振動系)自体の構造減衰は、1次モードに対し1%の剛性比例型減衰として解析している。
【0058】
次に、方法1を適用し、主振動系Aの絶対加速度応答が、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により最小になるように制御する場合について説明する。ステップ1において、図4に示す付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける回転マス13の回転慣性質量md(i)を、主振動系Aの対応する組の質点・支持バネ部6Aにおける質点4の質量Ms(i)の0.05倍(β=0.05)に設定する。これにより、各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける回転マス13の回転慣性質量md(i)は、以下のとおりである。
md1=βMs1=6.0(ton)
md2=βMs2=5.0(ton)
md3=βMs3=5.5(ton)
【0059】
次いで、ステップ2により、主振動系Aの絶対加速度応答を、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により最小にするよう、前記式(2)に基づき、剛性比αが以下のように算出される。
α=kb(i)/Ks(i)
={1−√(1−2β)}/√(1−2β)
=0.054093
【0060】
そして、上記の剛性比α及び前記式(4)により、付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける付加系支持バネ部9の剛性kb1〜kb3が、以下のように算出される。
kb1=αKs1=1081.9(kN/m)
kb2=αKs2=1027.8(kN/m)
kb3=αKs3=973.7(kN/m)
【0061】
次いで、前記式(9)に基づき、付加振動系Bの最適減衰定数hdが以下のように算出される。
hd=√{(3α)/8(α+1)}=0.1387219
【0062】
そして、上記の最適減衰定数hdにより、前記式(10)に基づいて、付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bにおける粘性体19による減衰係数cd1〜cd3が、以下のように算出される。なお、主振動系Aのみの1次固有円振動ωs1は、前記表1から、5.97721(rad/s)である。
cd1=2hdωs1md1=9.950(kNs/m)
cd2=2hdωs1md2=8.292(kNs/m)
cd3=2hdωs1md3=9.121(kNs/m)
【0063】
以上のように算出された各組のダンパ・支持バネ部6Bを備えた付加振動系Bである制振装置21、及び構造物22の固有値解析結果は、下表5のとおりである。また、これらの制振装置21及び構造物22の各層(1F〜3F)における各次数モードの固有ベクトルは、下表6のとおりである。
【表5】
【表6】
【0064】
図6は、構造物22における各層(1F〜3F)において、絶対加速度応答倍率を示しており、(a)は構造物22のみの場合、(b)は制振装置21を適用した場合を示している。図6の(a)と(b)を対比して明らかなように、制振装置21を適用した場合には、1F〜3Fの全ての層において、1次〜3次モードのいずれの絶対加速度応答倍率も低下し、特に、1次モードの振動による絶対加速度応答倍率が大幅に低減できることがわかる。なお、構造物22(主振動系)自体の構造減衰は、1次モードに対し1%の剛性比例型減衰として解析している。
【0065】
以上詳述したように、本実施形態によれば、構造物2である主振動系Aの各組の質点・支持バネ部6Aに対し、制振装置1である付加振動系Bの対応する組のダンパ・支持バネ部6Bにおける回転マス13の回転慣性質量md(i)、付加系支持バネ部9の剛性kb(i)、及び粘性体19の減衰係数cd(i)が、定点理論に基づいて、最適に設定される。このように、主振動系Aの複数組の質点・支持バネ部6Aにそれぞれ対応し、かつ諸元が適切に設定された、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの複数組のダンパ・支持バネ部6Bにより、全ての質点・支持バネ部6Aを適切に制御しながら、主振動系Aである構造物2を制振する。その結果、本実施形態では、構造物2の振動の全次数モードを、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により制御し、それにより、構造物2の振動を適切に抑制することができる。
【0066】
図7は、本発明の第2実施形態を示しており、制振装置31を高層構造物32の上半部に適用したものである。なお、以下の説明では、前述した第1実施形態と同一の構成部分については、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略するものとする。
【0067】
図7(a)に示すように、この高層構造物32は、基礎3上に立設され、32階建てビルなどから成る32層の構造物である。また、この構造物32は、ほぼ上半部(20層)の上層部34が、ほぼ下半部(12層)の下層部35に対して、セットバックされた状態に構成されている。一方、制振装置31は、構造物32における下層部35の天井部35a上に立設され、上層部34とほぼ同じ高さを有するフレーム7と、上層部34の各層とフレーム7の間を連結するように設けられた20個のマスダンパ8とを備えている。
【0068】
これらの構造物32及び制振装置31をモデル化した図7(b)に示すように、構造物32の上層部34は、前記第1実施形態と同様、主振動系Aを構成しており、上層部34の層数と同じ数の20個(図7(b)では4個のみ図示)の質点4と、各質点4をそれぞれ支持する主系支持バネ部5により、20組の質点・支持バネ部6Aで構成されている。一方、制振装置31は、前記第1実施形態と同様、付加振動系Bを構成しており、20個のマスダンパ8と、各マスダンパ8をそれぞれ支持するフレーム7における付加系支持バネ部9により、20組のダンパ・支持バネ部6Bで構成されている。そして、本実施形態における付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bは、主振動系Aの各組の質点・支持バネ部6Aにそれぞれ対応するように設けられ、諸元についても、前述した第1実施形態と同様にして、対応する組の質点・支持バネ部6Aに応じて設定される。
【0069】
本実施形態によれば、構造物32における上層部34に対し、その振動の全次数モードを、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により制御し、制振効果を向上させることができ、特に、ホイッピング現象などを効果的に防止することができる。
【0070】
図8は、本発明の第3実施形態を示しており、制振装置41のマスダンパ8を高層構造物42の複数層ごとに設置したものである。同図(a)に示すように、この高層構造物42は、基礎3上に立設され、例えば25階建てビルなどからなる25層の構造物であり、5層ごとに、鉄骨ブレース材の設置により形成されるスーパーラーメンフレーム43を構成している。一方、制振装置41は、基礎3上に立設され、構造物42とほぼ同じ高さを有するフレーム7と、スーパーラーメンフレーム43に対応する層とフレーム7の間を連結するように設けられた5つのマスダンパ8とを備えている。
【0071】
これらの構造物42及び制振装置41をモデル化した図8(b)に示すように、構造物42は、前記第1実施形態と同様、主振動系Aを構成しており、スーパーラーメンフレーム43が配置された層数と同じ数の5個の質点4と、各質点4をそれぞれ支持する主系支持バネ部5により、5組の質点・支持バネ部6Aで構成されている。一方、制振装置41は、前記第1実施形態と同様、付加振動系Bを構成しており、5個のマスダンパ8と、各マスダンパ8をそれぞれ支持するフレーム7における付加系支持バネ部9により、5組のダンパ・支持バネ部6Bで構成されている。そして、本実施形態における付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bは、主振動系Aの各組の質点・支持バネ部6Aにそれぞれ対応するように設けられ、諸元についても、前述した第1実施形態と同様にして、対応する組の質点・支持バネ部6Aに応じて設定される。
【0072】
本実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様、構造物42のスーパーラーメンフレーム(主振動系A)の振動の全次数モードを、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により制御し、それにより、構造物42の振動を適切に抑制することができる。また、複数層ごとにマスダンパ8を設置するので、各層にマスダンパ8を設置する第1実施形態に比べて、マスダンパ8の設置数を削減でき、その分、制振装置41の設置コストなどを低減することができる。
【0073】
図9は、本発明の第4実施形態を示しており、制振装置51を橋梁である構造物52に適用したものである。同図(a)に示すように、この構造物52は、互いに所定距離を隔てた両岸間においてほぼ水平に延び、両岸の基礎53、53を連結するように設けられた鉄骨構造の橋梁である。一方、制振装置51は、両岸間においてほぼ水平に延び、両端部が両岸の基礎53、53に固定され、前記フレーム7と同様に構成されたフレーム54と、構造物52とフレーム54の間を連結するように設けられた複数のマスダンパ8とを備えている。
【0074】
これらの構造物52及び制振装置51をモデル化した図9(b)に示すように、構造物52は、前記第1実施形態と同様、主振動系Aを構成しており、複数(本実施形態では8つであり、図9(b)では4つのみ図示)の質点4と、各質点4をそれぞれ支持する主系支持バネ部5により、8組(図9(b)では4組のみ図示)の質点・支持バネ部6Aで構成されている。一方、制振装置51は、前記第1実施形態と同様、付加振動系Bを構成しており、8個のマスダンパ8と、各マスダンパ8をそれぞれ支持するフレーム54における付加系支持バネ部9により、8組(図9(b)では4組のみ図示)のダンパ・支持バネ部6Bで構成されている。そして、本実施形態における付加振動系Bの各組のダンパ・支持バネ部6Bは、主振動系Aの各組の質点・支持バネ部6Aにそれぞれ対応するように設けられ、諸元についても、前述した第1実施形態と同様にして、対応する組の質点・支持バネ部6Aに応じて設定される。
【0075】
本実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様、構造物52の振動の全次数モードを、主振動系Aと同じ自由度を有する付加振動系Bの同調効果により制御し、それにより、構造物52の振動を適切に抑制することができる。
【0076】
なお、本発明は、説明した各実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、各実施形態の制振装置1、21、31、41及び51では、本発明の慣性質量要素及び減衰要素として、回転マス13及び粘性体19を備えたマスダンパ8を採用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、慣性効果及び減衰効果がを得られるとともに、慣性質量及び減衰係数を調整可能なものであれば、種々のダンパを採用することが可能である。
【0077】
また、パルス型の入力による応答性状の向上や、制振装置の設計諸元変動に伴うロバスト性に関する制振効果の向上のために、本発明により算出される付加振動系Bの固有振動数を大きい方向、つまり、付加振動系Bの剛性を、質量比や剛性比に応じて、硬めに設定してもよい。
【0078】
さらに、実施形態で示した制振装置1などの細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 制振装置
2 構造物
4 質点
5 主系支持バネ部
6A 質点・支持バネ部
6B ダンパ・支持バネ部
7 フレーム
8 マスダンパ(ダンパ)
9 付加系支持バネ部
13 回転マス(慣性質量要素)
19 粘性体(減衰要素)
21 制振装置
22 構造物
31 第2実施形態の制振装置
32 第2実施形態の構造物
41 第3実施形態の制振装置
42 第3実施形態の構造物
43 スーパーラーメンフレーム
51 第4実施形態の制振装置
52 第4実施形態の構造物
54 フレーム
A 主振動系
B 付加振動系
Ms(i) 質点の質量
Ks(i) 主系支持バネ部の剛性、主系支持バネ部のせん断剛性
Ksθ(i) 主系支持バネ部の曲げ剛性
md(i) 回転マス(慣性質量要素)の慣性質量
kb(i) 付加系支持バネ部の剛性、付加系支持バネ部のせん断剛性
kbθ(i) 付加系支持バネ部の曲げ剛性
hd 最適減衰定数
cd(i) 粘性体(減衰要素)の減衰係数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9