特許第6289966号(P6289966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289966
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20180226BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
   B60T8/17 B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-67910(P2014-67910)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189329(P2015-189329A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−114005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体に回転するブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、電動のモータと、このモータの出力を摩擦パッドの押圧力に変換する伝達機構と、ブレーキ操作手段の操作量を検出して目標ブレーキ力として指令するブレーキ力指令手段と、前記目標ブレーキ力の指令に応じて前記モータを駆動するブレーキ制御装置とを有する電動ブレーキ装置において、
前記ブレーキ制御装置に、
前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値が零から上昇して行く過程の初期における一定区間は前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずにブレーキ力をゼロのまま維持する不感帯とする不感帯設定手段と、
前記不感帯において、前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずブレーキ力が零であり、かつ前記モータが所定値以上の角速度で回転している状態となるように前記モータを駆動させる先行駆動手段とを設け、
前記一定区間は、ブレーキペダルに一般的に設けられる遊びに相当する範囲とした、
ことを特徴とする、電動ブレーキ装置。
【請求項2】
車輪と一体に回転するブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、電動のモータと、このモータの出力を摩擦パッドの押圧力に変換する伝達機構と、ブレーキ操作手段の操作量を検出して目標ブレーキ力として指令するブレーキ力指令手段と、前記目標ブレーキ力の指令に応じて前記モータを駆動するブレーキ制御装置とを有する電動ブレーキ装置において、
前記ブレーキ制御装置に、
前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値が零から上昇して行く過程の初期における一定区間は前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずにブレーキ力をゼロのまま維持する不感帯とする不感帯設定手段と、
前記不感帯において、前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずブレーキ力が零であり、かつ前記モータが所定値以上の角速度で回転している状態となるように前記モータを駆動させる先行駆動手段とを設け、
前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値の出力履歴を記憶する機能を有し、前記出力履歴のうち、前記零を超えた目標ブレーキ力指令が生じた瞬間の前後所定時間内に記憶した出力履歴を除く出力履歴から、ブレーキ力を発生させる必要が有る閾値を設定し、前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値が前記閾値を上回った場合のみ、前記不感帯における前記先行駆動手段による動作を行わせる先行動作必要性判断手段を設けた電動ブレーキ装置。
【請求項3】
車輪と一体に回転するブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、電動のモータと、このモータの出力を摩擦パッドの押圧力に変換する伝達機構と、ブレーキ操作手段の操作量を検出して目標ブレーキ力として指令するブレーキ力指令手段と、前記目標ブレーキ力の指令に応じて前記モータを駆動するブレーキ制御装置とを有する電動ブレーキ装置において、
前記ブレーキ制御装置に、
前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値が零から上昇して行く過程の初期における一定区間は前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずにブレーキ力をゼロのまま維持する不感帯とする不感帯設定手段と、
前記不感帯において、前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずブレーキ力が零であり、かつ前記モータが所定値以上の角速度で回転している状態となるように前記モータを駆動させる先行駆動手段とを設け、
前記電動ブレーキ装置を搭載する車両がこの車両を加速させるための加速指令手段を有し、先行駆動手段は、前記加速指令手段の出力が所定値以下の場合のみ、前記不感帯で前記モータを駆動させる電動ブレーキ装置。
【請求項4】
車輪と一体に回転するブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、電動のモータと、このモータの出力を摩擦パッドの押圧力に変換する伝達機構と、ブレーキ操作手段の操作量を検出して目標ブレーキ力として指令するブレーキ力指令手段と、前記目標ブレーキ力の指令に応じて前記モータを駆動するブレーキ制御装置とを有する電動ブレーキ装置において、
前記ブレーキ制御装置に、
前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値が零から上昇して行く過程の初期における一定区間は前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずにブレーキ力をゼロのまま維持する不感帯とする不感帯設定手段と、
前記不感帯において、前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずブレーキ力が零であり、かつ前記モータが所定値以上の角速度で回転している状態となるように前記モータを駆動させる先行駆動手段とを設け、
前記ブレーキ操作手段が操作量零以下から操作されたときの、前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値が前記不感帯を脱してブレーキ力が発生し始める瞬間または直前までの時間である不感帯脱出時間を推定する脱出時間推定手段を前記ブレーキ制御装置に設け、前記先行駆動手段は、前記脱出時間推定手段で推定された不感帯脱出時間の経過時にブレーキ力が発生し始めるように前記モータを制御する電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動ブレーキ装置において、前記脱出時間推定手段は、前記不感帯における前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値、およびこのブレーキ指令値の微分値の何れか一方または両方の値を用いて、前記不感帯脱出時間を推定する電動ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の電動ブレーキ装置において、前記脱出時間推定手段は、前記不感帯における前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値およびこのブレーキ指令値の微分値のいずれか一方または両方が所定の閾値より大きいか否かを判断し、大きい場合に、前記微分値から前記不感帯脱出時間を推定する電動ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項に記載の電動ブレーキ装置において、前記脱出時間推定手段は、前記ブレーキ力指令手段によりブレーキ指令値が零以下から出力される都度、実際に生じた前記不感帯脱出時間を記憶し、この記憶した所定数以上の前記不感帯脱出時間の記憶値を用いて、現在の前記ブレーキ力指令手段の操作時における前記不感帯脱出時間の推定を行う電動ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置において、前記ブレーキ力指令手段が、前記電動ブレーキ装置を搭載した車両に備え付けられた前記ブレーキ操作手段であるペダルに設けられたストロークセンサである電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車における電動ブレーキ装置に関し、特にその制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ブレーキ装置の制御法として、以下の提案がなされている。
アクセルペダルOFFの際に、パッドクリアランスを小さくして、制動開始時の制動力の応答を速くする提案(特許文献1)。
車速及びアクセルペダル開度に応じて、パッドクリアランスを広げて引き摺り抵抗を低減する提案(特許文献2)。
ねじ機構および電動モータを使用した電動式直動アクチュエータについての提案(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4166336号公報
【特許文献2】特許第4495621号公報
【特許文献3】特開2006−194356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦パッドとブレーキロータの摺動抵抗で制動をかける摩擦ブレーキにおいて、引き摺りトルク低減のために摩擦パッドとブレーキロータ間に所定以上のクリアランスを設けることが求められる。一方で、このクリアランスを広げると、非制動状態からブレーキをかける際の応答速度が低下する問題がある。
例えば特許文献1の手法において、アクセルペダルの非操作時にパッドクリアランスを小さくする場合、例えば一定の速度を保つようにドライバが操作する際に、アクセルペダルON/ OFFを頻繁に繰り返すことで、電動ブレーキ装置に不要な動作が発生し、作動音の悪化や消費電力の増加が懸念される。また、アクセルペダルをOFFにするたびにクリアランスを小さくすることで引き摺りトルクが大きくなり、主に高速走行時には燃費/ 電費の悪化に繋がる可能性がある。
【0005】
特許文献2の手法では、主に高速走行時にパッドクリアランスを広げて引き摺りトルクを低減する手法が提案されているが、パッドクリアランスを広げることで、高速走行時から緊急に制動が必要になるような場合に、ブレーキの応答時間が遅くなる可能性がある。 特許文献3のようなモータを使用した電動ブレーキ装置において、応答遅れの主な要因はモータの慣性モーメントであり、慣性モーメントを小さくすると必然的にトルクも低下するため、モータ設計におけるトレードオフとなる。また、モータを急激に加速させることで発生する作動音により、ブレーキ操作のフィーリングが悪化する可能性がある。
【0006】
この発明は、上記課題を解消するものであり、モータの慣性による影響を低減できて、素早いブレーキ力の発揮、ドライバの操作フィーリングの向上、トルクの大きなモータ設計、消費電力の低減が可能となり、またトルク変動により発生する作動音を低減できる電動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の電動ブレーキ装置は、車輪3と一体に回転するブレーキロータ4と、このブレーキロータ4と接触して制動力を発生させる摩擦パッド5と、電動のモータ6と、このモータ6の出力を摩擦パッド5の押圧力に変換する伝達機構7と、ブレーキ操作手段13の操作量を検出して目標ブレーキ力として指令するブレーキ力指令手段13aと、前記目標ブレーキ力の指令に応じて前記モータ6を駆動するブレーキ制御装置2とを有する電動ブレーキ装置において、
前記ブレーキ制御装置2に、
前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値が零から上昇して行く過程の初期における一定区間は前記摩擦パッド5が前記ブレーキロータ4に接触せずにブレーキ力をゼロのまま維持する不感帯を設定する不感帯設定手段17と、
前記不感帯において、前記摩擦パッド5が前記ブレーキロータ4に接触せずブレーキ力が零であり、かつ前記モータ6が所定値以上の角速度で回転している状態となるように前記モータ6を駆動させる先行駆動手段18とを設けた、
ことを特徴とする。
前記ブレーキ力指令手段13aは、例えば車両に備え付けられた前記ブレーキ操作手段13であるペダルに設けられたストロークセンサである。前記不感帯は、ブレーキペダルに通常に設けられる遊びに相当する範囲であり、適宜の値に設定する。
前記一定区間は、例えば、ブレーキペダルに一般的に設けられる遊びに相当する範囲とする。
【0008】
この構成によると、ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値に応じてモータ6を駆動するブレーキ制御装置2に不感帯を設け、この不感帯では、ブレーキ操作手段13の操作に基づいて、ブレーキ力を発生しない領域で予めモータ6を所定値以上の角速度に加速させておく。そのため、モータ6の慣性による影響を低減し、素早くブレーキ力を発揮することが可能となり、ドライバの操作フィーリングが向上する。また、モータ6の慣性増加による応答速度の低下を補えるため、トルクの大きなモータ6を用いる設計が可能になり、消費電力の低減が可能となる。モータ6の急激な出力変動も抑えられ、そのため電源への最大負荷が低減する。さらに、トルク変動により発生する作動音を低減できる。
【0009】
この発明において、前記ブレーキ操作手段13がブレーキ指令値零以下から操作されたときの、前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値が前記不感帯を脱してブレーキ力が発生し始める瞬間または直前までの時間である不感帯脱出時間を推定する脱出時間推定手段19を前記ブレーキ制御装置2に設け、前記先行駆動手段18は、前記脱出時間推定手段19で推定された不感帯脱出時間の経過時にブレーキ力が発生し始めるように前記モータ6を制御するようにしても良い。
不感帯脱出時間を推定することにより、不測にブレーキ力が発生しない範囲で不感帯をできるだけ大きく取り、モータ6の加速を十分に高めておくことができる。不感帯脱出時間の推定は、適宜の方法で行えば良いが、例えば次のようにして推定できる。
【0010】
前記脱出時間推定手段19は、前記不感帯における前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値、およびこのブレーキ指令値の微分値の何れか一方または両方の値を用いて、前記不感帯脱出時間を推定しても良い。
ブレーキロータ4に対する摩擦パッド5の待機位置と距離は既知であり、またブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値に対する摩擦パッド5の移動速度、つまりモータ6の回転角度の変化量も既知であるため、前記ブレーキ指令値およびこのブレーキ指令値の微分値の何れか一方が分かれば、前記不感帯脱出時間を推定できる。ブレーキ指令値とその微分値の両方を用いると、より精度良く不感帯脱出時間を推定できる。
【0011】
この場合に、前記脱出時間推定手段19は、前記不感帯における前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値およびこのブレーキ指令値の微分値のいずれか一方または両方が所定の閾値より大きいか否かを判断し、大きい場合に、前記微分値から前記不感帯脱出時間を推定しても良い。
ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値やその微分値が小さい場合は、例えばブレーキペダルの振動や、センサノイズの可能性が高い。そのため、ブレーキ指令値およびその微分値のいずれか一方または両方を閾値と比較し、大きい場合にのみ、前記微分値から前記不感帯脱出時間を推定することで、無駄な計算や動作を行わなくて済む。
【0012】
前記脱出時間推定手段19は、前記ブレーキ力指令手段13aによりブレーキ指令値が零以下から出力される都度、実際に生じた前記不感帯脱出時間を記憶し、この記憶した所定数以上の前記不感帯脱出時間の記憶値を用いて、現在の前記ブレーキ力指令手段の操作時における前記不感帯脱出時間の推定を行うようにしても良い。
実際に生じた不感帯脱出時間を記憶しておき、その記憶値を利用することで、不感帯脱出時間の推定を精度良く行える。
【0013】
この発明において、前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値の出力履歴を記憶する機能を有し、前記出力履歴のうち、前記零を超える目標ブレーキ力指令が生じた瞬間の前後所定時間内に記憶した出力履歴を除く出力履歴から、ブレーキ力を発生させる必要が有る閾値を設定し、前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値が前記閾値を上回った場合のみ、前記不感帯における前記先行駆動手段18による動作を行わせる先行動作必要性判断手段20を設けても良い。
このように出力履歴によって、ブレーキ力を発生させる必要を判断する閾値を設け、閾値を上回った場合のみ、前記不感帯における前記先行駆動手段18による動作を行わせれば、実際にブレーキ力発生に繋がらない無駄な先行動作のモータ6駆動を行わずに済み、電力消費が節減できる。
【0014】
この発明において、この電動ブレーキ装置を搭載する車両がこの車両を加速させるための加速指令手段12aを有し、先行駆動手段18は、前記加速指令手段12aの出力が所定値以下の場合のみ、前記不感帯で前記モータ6を駆動させるようにしても良い。前記加速指令手段12aは、例えばアクセルペダルのストロークセンサである。前記所定値は適宜定める。
ある程度低速の場合にのみ不感帯でモータ6を駆動させ、高速では不感帯でモータ6を駆動させないようにすることで、電動ブレーキ装置の調整の狂い等が生じていた場合等に、万一、不測にブレーキ力が発生したとしても、走行の安全性が低下することが回避される。
【発明の効果】
【0015】
この発明の電動ブレーキ装置は、車輪と一体に回転するブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、電動のモータと、このモータの出力を摩擦パッドの押圧力に変換する伝達機構と、ブレーキ操作手段のブレーキ指令値を検出して目標ブレーキ力として指令するブレーキ力指令手段と、前記目標ブレーキ力の指令に応じて前記モータを駆動するブレーキ制御装置とを有する電動ブレーキ装置において、前記ブレーキ制御装置に、前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値が零から目標ブレーキ力に対応する量へ上昇して行く過程の初期における一定区間は前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずにブレーキ力をゼロのまま維持する不感帯を設定する不感帯設定手段と、前記不感帯において、前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに接触せずブレーキ力が零であり、かつ前記モータが所定値以上の角速度で回転している状態となるように前記モータを駆動させる先行駆動手段とを設けたため、モータの慣性による影響を低減できて、素早いブレーキ力の発揮、ドライバの操作フィーリングの向上、トルクの大きなモータ設計、消費電力の低減が可能となり、またトルク変動により発生する作動音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の一実施形態に係る電動ブレーキ装置の概念構成を示すブロック図である。
図2】(A)〜(C)はそれぞれ、同電動ブレーキ装置を操作したときの時間とブレーキブレーキ指令値の関係、時間とブレーキ力との関係、および時間とモータ回転角との関係を示すグラフである。
図3】同電動ブレーキ装置の制御動作の一例を示す流れ図である。
図4】同電動ブレーキ装置の制御動作の他の例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図3と共に説明する。この電動ブレーキ装置は、機械的な構成部分であるブレーキ本体1と、このブレーキ本体1を制御するブレーキ制御装置2とで構成される。ブレーキ本体1は、車輪3と一体に回転するブレーキディスク等のブレーキロータ4と、このブレーキロータ4と接触して制動力を発生させる摩擦パッド5と、電動のモータ6と、このモータ6の出力を摩擦パッド5の押圧力に変換する伝達機構7とで構成される。モータ6は、減速機付きモータであっても、減速機無しのモータであっても良い。モータ6は、この例では、モータロータ(図示せず)の回転角度を検出する回転角推定手段8を有している。回転角推定手段8は、モータロータの回転角度を直接検出する手段の他に、車輪3の回転軸等の検出値からモータロータの回転角度を推定する手段であっても良い。
【0018】
制御系を説明する。この電動ブレーキ装置を搭載した自動車のメインの電気制御ユニットであるECU11に、アクセル操作手段12の操作量を検出する加速指令手段12aの検出信号と、ブレーキ操作手段13の操作量を検出するブレーキ力指令手段13aの検出信号であるブレーキ指令値とが入力される。アクセル操作手段12およびブレーキ操作手段13は、例えば、それぞれアクセルペダルおよびブレーキペダルからなる。加速指令手段12aおよびブレーキ力指令手段13aは、それぞれ各ペダルの操作量を検出するストロークセンサからなる。ECU11は、加速指令手段12aから入力された操作量に従い、エンジンまたはモータ等の走行駆動源(図示せず)を制御を行う。ブレーキ力指令手段13aからECU11に入力されたブレーキ指令値である目標ブレーキ力の指令は、ECU11から各輪の電動ブレーキ装置のブレーキ制御装置2へ分配される。ECU11は、この他に、自動車の全体の統合制御,協調制御等を行う。
【0019】
ブレーキ制御装置2は、ブレーキ専用のECUであり、その基本的な構成として、基本ブレーキ制御装置15と、電力変換手段16とを備える。基本制御手段15は、入力されたブレーキブレーキ指令値である目標ブレーキ力が生じるように、モータ駆動指令を生成し、そのモータ駆動指令を電力変換手段16へ出力する。電力変換手段16は、モータ駆動指令に従ってモータ6へ印加するモータ電流を制御する。モータ6が同期モータや誘導モータ等の交流モータである場合、電力変換手段16はインバータ〈図示せず〉を備え、例えばPWM制御でモータ電流を制御する。基本制御手段15は、回転角推定手段8による回転角の検出値を用い、回転角のフィードバック制御や、モータ6を効率化する位相制御等を行う。前記フィードバック制御では、比例積分(PI)制御、または比例積分微分(PID)制御を行う。
【0020】
この実施形態は、このような基本構成の電動ブレーキ装置において、ブレーキ制御装置2に、不感帯設定手段17および先行駆動手段18を設け、さらに脱出時間推定手段19、および先行動作必要性判断手段20を設けて構成される。
【0021】
不感帯設定手段17は、ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値が零から上昇して行く過程の初期における一定区間は前記摩擦パッド5がブレーキロータ4に接触せずにブレーキ力を零のまま維持する不感帯を設定する手段である。前記不感帯は、これまでの油圧式ブレーキの場合にブレーキペダルに一般的に設けられる遊びに相当する範囲とされる。不感帯設定手段17は、例えば基本制御手段15内に設けられ、またはその前段に設けられる。なお、不感帯設定手段17は、前記ブレーキ力指令手段13aに設けても良いが、その場合でも、請求項で言うブレーキ制御装置は不感帯設定手段17を含める概念である。
【0022】
先行駆動手段18は、前記不感帯において、前記摩擦パッド5が前記ブレーキロータ4に接触せずブレーキ力が零であり、かつ前記モータが所定値以上の角速度で回転している状態となるように前記モータを駆動させる手段である。先行駆動手段18には、ブレーキ力指令手段13aのECU11を介してブレーキ制御装置2に与えられる目標ブレーキ力が入力され、基本制御手段15が不感帯のために動作しない間に、基本制御手段15に代わってモータ駆動指令を電力変換手段16に出力する。
先行駆動手段18は、この実施形態では、前記加速指令手段12aの出力が所定値以下の場合のみ、前記不感帯で前記モータ6を駆動させるようにしている。
【0023】
脱出時間推定手段19は、ブレーキ操作手段13がブレーキ指令値零以下から操作されたときの、前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値が前記不感帯を脱してブレーキ力が発生し始める瞬間または直前までの時間である不感帯脱出時間を推定する手段である。
前記先行駆動手段18は、前記脱出時間推定手段で推定された不感帯脱出時間の経過時にブレーキ力が発生し始めるように前記モータ6を制御する。
【0024】
前記脱出時間推定手段19は、この例では、不感帯におけるブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値、およびこのブレーキ指令値の微分値の何れか一方または両方の値を用いて、前記不感帯脱出時間を推定する。この場合に、前記脱出時間推定手段19は、前記不感帯における前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値およびこのブレーキ指令値の微分値のいずれか一方または両方が所定の閾値より大きいか否かを判断し、大きい場合に、前記微分値から前記不感帯脱出時間を推定する。
【0025】
先行動作必要性判断手段20は、前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値の出力履歴を記憶する機能を有し、前記出力履歴のうち、前記零を超える目標ブレーキ力指令が生じた瞬間の前後所定時間内に記憶した出力履歴を除く出力履歴から、ブレーキ力を発生させる必要が有る閾値を設定し、前記ブレーキ力指令手段のブレーキ指令値が前記閾値を上回った場合のみ、前記不感帯における前記先行駆動手段18による動作を行わせる手段である。
【0026】
上記構成による動作の概念を、図2と共に説明する。同図は、電動ブレーキ装置へのブレーキ力指令手段13aの操作と、それに伴うブレーキ力およびモータ6の動作の概念を示す。
・ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値に応じて制御する基本制御手段15には、図2に示すような一定の不感帯がある。この不感帯は、通常にブレーキペダルに設けられる遊びに相当する範囲とする。
・ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値が出された際のブレーキ力およびモータ6の動作につき、この実施形態による提案手法を適用した場合を実線で、適用しない場合を点線で示す。この提案手法によって、ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値を認識する不感帯においてブレーキ力は発生しないが、ブレーキ力が発生する方向にモータ6は加速しており、前記ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値が不感帯を脱すると、直ちにブレーキ力6が発生する。
【0027】
・また、その際、この提案手法によってモータ6は緩やかに加速するため、トルク変動による作動音を抑制できる。すなわち、この提案手法では、予めモータ6を回転させておくため、基本制御手段で15におけるフィードバック制御の比例ゲインを小さくすることなどで、緩やかに加速させるようにしても、ブレーキ操作手段13の踏み始めから最大ブレーキ力に到達する時間を、従来手法と同じとできる。加えて、モータ6に投入するピーク電力が低下するため、例えばバッテリ(図示せず)における出力超過による電圧降下を抑制する等、電源への負荷を低減できる。
・予めモータ6を加速する方法については、例えばブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値の不感帯における変化量を観測し、その変化量より不感帯を脱する時間を推定しても良い。或いは、前記ブレーキ力指令手段13が操作される度に、不感帯を脱するまでの時間を記憶し、その記憶情報により推定しても良い。
【0028】
ブレーキ力推定手段14は、電動ブレーキ装置が車輪3に対して生じているブレーキ力を検出することで、または計算することで推定する手段である。ブレーキ力推定手段14は、例えば、ブレーキ本体2における伝達機構7やモータ6を支持するブレーキキャリパ等のフレーム(図示せず)の歪み検出する歪みセンサ(図示せず)や、車輪3の支持用の車輪用軸受等に設置されてその軸受の外輪等の歪みから各軸方向の作用荷重を検出する荷重センサの検出値からブレーキ力を推定する手段等で構成される。
【0029】
次に、上記構成の動作、および上記各手段15〜20のより具体的な機能を、図3の流れ図と共に説明する。図3は、ブレーキ制御装置2の全体の動作の流れを示す。同図は、ブレーキ力指令手段13aの出力に対する不感帯における動作の微分値より、不感帯を脱するまでの時間を推定する例を示す。
【0030】
電動ブレーキ装置2がブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値Ftを取得し(ステップS1)、ステップS2では基本制御手段15により、ブレーキ指令値Ftが零よりも大きいか否かを判断する。零よりも大きくない場合は、基本制御手段15は、非制動状態に移行し(ステップS10)、モータ6を所定位置に待機させる。この所定位置は、常時のパットクリアランスが生じる位置である。
【0031】
ステップS2は、図示の例ではブレーキ指令値Ftを零と比較したが、基本制御手段15がブレーキ指令値Ftにつき零ではないことを判定する際、例えばブレーキペダルの振動のような外乱要素やセンサノイズ等の影響を除去するため、零ではない所定の閾値を設け、ステップS2では、
Ft>閾値
として判断しても良い。
或いは、ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値Ftの出力に対し、前記外乱を除去するフィルタ(図示せず)を設け、このフィルタを通したブレーキ指令値Ftの出力をブレーキ制御装置2に入力し、ステップS2では、Ft>0、として判断しても良い。
【0032】
ステップS2でブレーキ指令値Ftが零よりも大きいと判断した場合は、基本制御手段15が制動状態に移行するが(ステップS3)、ブレーキ指令値Ftが不感帯閾値Fblk未満であるか否か、つまり不感帯の範囲内であるか否かを、不感帯設定手段17により判断する(ステップS4)。
ブレーキ指令値Ftが不感帯閾値Fblk未満である場合は、脱出時間推定手段19により、所定時間tの傾きdFt/dtを演算する(ステップS5)。その後、不感帯を脱出する時間、すなわち、
∫dFt(t)/dt・dτ<tblk
となる最短時間tblkを演算する(ステップS6)。この最短時間tblkを、不感帯脱出推定時間とする。なお、所定時間tは適宜定める。
【0033】
この後、ステップS7に示すように、次の2式、
ω(tblk)=ω′
θ(tblk)<θ
ここで、ω′:所定値(任意に設定する)
θ:パッド接触位置となる回転角
で定まる条件を満たすモータトルクを、先行駆動手段18により推定する。
なお、不感帯を脱出する不感帯脱出時間tblkにおける回転角θ(tblk)について、不感帯を脱する前に制動力が発生してしまう問題を防ぐため、上記の比較式では、パッド接触位置θから所定の回転角を減算した値以下と比較しても良い。すなわち、上記の式は、
θ(tblk)<θ−(所定の回転角)
としても良い。所定の回転角は、適宜設計した値とする。
【0034】
先行駆動手段18は、このように推定したモータトルクでモータ6を駆動する。すなわち電動ブレーキ装置を駆動する(ステップS8)。
ステップS4の判断で、ブレーキ指令値Ftが不感帯閾値Fblk以上になると、すなわち不感帯を脱したと判断されると、ステップS9に進み、ブレーキ操作手段の操作量であるブレーキ力指令値のブレーキ力となるように、基本制御手段15によりモータ6を駆動させ、電動ブレーキ装置を通常に駆動する(ステップS8)。
【0035】
図4は、図1図3に示す上記実施形態において、不感帯脱出時間の推定方法を変えた例を示す。この実施形態において、特に説明する事項の他は、図1図3に示す第1の実施形態と同様である。
この実施形態では、ブレーキ操作手段13(図1)が操作されブレーキ力指令手段13aがブレーキ指令値を出力する度に、操作開始から不感帯を脱するまでの時間を記憶し、その記憶情報に基づいて不感帯を脱するまでの時間を推定する。
【0036】
具体的には、ステップS2でブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令値Ftが零でないと判断され、ステップS4で不感帯内であると判断されると、図1の脱出時間推定手段19は、計時用のカウンタ(図示せず)を加算し(ステップS5′)、ステップS6′で、記憶済みのカウンタ値より、
∫dFt(t)/dt・dτ<tblk
となる最短時間tblkを求め、この値を不感帯脱出時間として推定する。
【0037】
この後、図3の制御例と同様に、条件を満たすモータトルクの計算(ステップS7)、モータ6の駆動(電動ブレーキ装置の駆動)を行い(ステップS8)、スタートからステップS8までの処理を繰り返し、この繰り返しの間はカウンタの加算(ステップS5′)を行って計時する。不感帯を脱したか否かを判断ステップS4で脱したと判断されると、そのときのカウンタ値を不感帯脱出時間として記憶し、通常のブレーキ指令値に対応するブレーキ力となるようにモータ6の駆動(電動ブレーキ装置の駆動)を行う。この記憶したカウンタ値が、ステップS6′での推定に用いられる。ステップS2でブレーキ指令値Ftが零以下と判断されると、カウンタをクリアする。
【0038】
なお、ステップS6′で不感帯脱出時間tblkを推定する際に、所定回数部の記憶値の平均値または偏差等を取得し、推定に用いても良い。
【0039】
これらの実施形態によると、上記のように、ブレーキ力指令手段13aのブレーキ指令に応じてモータ6を駆動するブレーキ制御装置2に不感帯を設け、この不感帯では、ブレーキ力指令手段13aの操作に基づいて、ブレーキ力を発生しない領域で予めモータを所定値以上の角速度に加速させておく。そのため、次の各効果が得られる。
・モータ6の慣性による影響を低減し、素早くブレーキ力を発揮することが可能となる。そめため、ドライバのフィーリングが向上する。また、モータ6の慣性増加による応答速度の低下を補えるため、トルクの大きなモータ6を用いる設計が可能になり、消費電力の低減が可能となる。
・モータ6の急激な出力変動を抑えられる為、電源への最大負荷が低減する。
・トルク変動により発生する作動音を低減できる。
【符号の説明】
【0040】
1…ブレーキ本体
2…ブレーキ制御装置
3…車輪
4…ブレーキロータ
5…摩擦パッド5
6…モータ
7…伝達機構
8…回転角推定手段
11…ECU
12a…加速指令手段
13…ブレーキ操作手段
13a…ブレーキ力指令手段
14…ブレーキ力推定手段
15…基本制御手段
17…不感帯設定手段
18…先行駆動手段
19…脱出時間推定手段
20…先行動作必要性判断手段
図1
図2
図3
図4