(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記濾材が、セルロースを主成分とした濾紙に、前記濾紙の重量に対して少なくとも5%のリン酸化合物を主成分とする難燃剤と、少なくとも10%のフェノール系熱硬化性樹脂と、の混合物を含浸させ、乾燥させることによって形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルタエレメント。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0013】
図1に示すように、実施例のフィルタエレメント1は、プリーツ状に加工された濾材2と、濾材2を保持する枠体3と、から構成されており、自動車用内燃機関等のエアクリーナとして用いられる。濾材2は、例えば、木材パルプやセルロースを主成分とする濾紙から構成され、剛性ならびに耐久性の付与や、形状保持のために、必要に応じて熱硬化性樹脂が含浸処理される。さらに後述するように、濾材2自体がDIN53428のF1相当の難燃性を有することが好ましく、濾紙に難燃性を付与するために難燃剤が含浸処理される。
【0014】
尚、本発明のフィルタエレメントは、
図1のような矩形立体形状のものに限定されるものではなく、例えばプリーツ加工された濾紙を菊花状に配置した周知の円筒状のフィルタエレメントであってもよく、また濾材がポリエステル等の化学繊維を主体とする不織布で構成されてもよい。また、セルロースを主成分とする濾紙に、化学繊維が含まれてもよい。
【0015】
本実施例の濾材2は、抄造された濾紙表面に、難燃剤と熱硬化性樹脂とを混合させたものをキスロール加工等により含浸させ、これを乾燥させた後に加熱しながらプリーツ加工することによって製造され、それにより
図1に示すひだ折状の構造が形成される。この時点では、濾材自体は乾燥した状態となっている。
【0016】
本発明においては、望ましくは、原紙の重量に対して少なくとも5%のリン酸化合物を主成分とする難燃剤と、少なくとも10%のフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂との混合物が含浸される。リン酸化合物が5%未満だと難燃性が確保できなくなり、熱硬化性樹脂との混合物が10%未満だと濾材の強度が確保できなくなる。
【0017】
次いでこの濾材2を枠体3に配置した後に、
図1に示すように、適当な粘度を有するリン酸エステル系難燃剤を吹き付け等により塗布することにより、濾材表面をウェット状に維持している。フィルタ使用時の濾材表面をウェット状に保つことにより、捕捉されたダストがリン酸エステル系難燃剤の浸透に伴って次第に堆積してケーキ層を形成し、通気抵抗の増加を抑制するため、ドライタイプの濾材に比べてダスト捕捉量が数倍高くなるという利点がある。
【0018】
リン酸エステル系難燃剤の粘度は、40°C条件下で10〜50mm
2/sであることが好ましい。動粘度が10mm
2/sより低いと、濾材への付着度が低くなり、圧力差による濾材からの吹き抜け(いわゆるオイル抜け)が生じやすくなるという欠点があり、一方、動粘度が50mm
2/sより高いと濾材の目詰まり等が生じやすくなり、ダストの捕捉性能が十分に発揮できなくなるという欠点がある。
【0019】
ここで、リン酸エステル系難燃剤として、ハロゲン系リン酸エステル、脂肪族系リン酸エステル、芳香族系リン酸エステルベースの難燃剤が挙げられるが、粘性と難燃性能との両立の観点から、芳香族系リン酸エステルベースの難燃剤を用いることが望ましい。
【0020】
本発明においては、望ましくは、2種類の芳香族系リン酸エステル、すなわち、低粘度でリンの含有量が高く難燃性が高いクレジルジフェニルホスフェートと、高粘度なクレジル2,6−キシレニルフォスフェートと、を100:0〜60:40の割合(重量%)で混合し、40°C条件下での動粘度を10〜50mm
2/sの範囲に調製したものをリン酸エステル系難燃剤として濾材2に塗布している。
【0021】
具体的な一例では、セルロースを主成分とする濾紙に、原紙の重量に対してリン酸化合物を主成分とする難燃剤を30%、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を30%混合させたものをキスロール加工等により濾紙表面に含浸させ、これを乾燥させた後に加熱しながらプリーツ加工することにより、ひだ折状の難燃性の乾燥濾材2を形成する。次いでこの濾材2を、
図1に示すように、枠体3に配置した後、クレジルジフェニルホスフェートと、クレジル2,6−キシレニルフォスフェートと、を86:14(重量%)の割合で混合して、40°Cでの動粘度を18.84mm
2/sに調製したものをリン酸エステル系難燃剤として濾材2表面上に吹き付け等により塗布することにより、濾材をウェット状とする。
【0022】
このような構成により、後述するように、従来のビスカスオイルと同等のダスト捕捉性能を維持しつつ、比較的に低い電気絶縁性と所望の難燃性能を実現することができる。
【0023】
以下、本発明の難燃性を有する濾材にリン酸エステル系難燃剤を塗布したフィルタエレメントの難燃性能およびダスト性能について詳述する。これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されることはない。
【0024】
1.DIN53438難燃試験
本発明のフィルタエレメントの難燃性能に関する評価試験をDIN53438の難燃試験に基づいて実施した。試験片として、
図2に示すように、セルロースを主成分とした、長さ230mm、幅90mm、厚さ5mmの濾紙を準備した。
【0025】
(実施例)
上記の試験片に難燃性を付与すべく、濾紙の重量に対してリン酸化合物を主成分とした難燃剤を30%、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を30%混合させたものを塗布し、乾燥させた。
【0026】
このようにして得られた難燃性を有する乾燥濾紙にリン酸エステル系難燃剤の液体を42g塗布することにより、実施例の試験片を得た。
【0027】
リン酸エステル系難燃剤としては、クレジルジフェニルホスフェートと、クレジル2,6−キシレニルフォスフェートと、を86:14(重量%)の割合で混合し、40°Cの動粘度を18.84mm
2/sに調製したものを使用した。
【0028】
次いで、実施例の試験片をDIN53438に準拠するフレームにセットし、
図2に示すように、試験片の下部から40mmの位置および190mmの位置に印を付けた。次いでバーナを垂直にセットし、炎の高さを垂直状態で20mmに調節した後、バーナを45度に傾けた状態で、炎を試験片の下部から40mmのマーク位置中央部に15秒間、接触させた。尚、バーナの燃焼温度は1500〜1800°Cであった。
【0029】
試験片の難燃試験の評価は以下の基準に基づいて判定された。
【0030】
<DINの評価基準>
F1:燃焼試験試料の炎の先端が上部マーク位置(下部から190mmの位置)までに達しない(炎はそれまでに消えてしまう)
F2:燃焼試験試料の炎の先端が上部マーク位置までに達するのに、20秒以上かかる
F3:燃焼試験試料の炎の先端が上部マーク位置までに達するまでに20秒以内である
難燃試験の結果、試験片は、炎の先端が上部マーク位置に達する前に自己消火性を示した。すなわち、実施例の試験片の評価は、F1であった。
【0031】
(比較例1)
上記実施例と同様の手順で得られた難燃濾紙にビスカスオイルを42g塗布したものを比較例1の試験片として使用し、上記の手順により難燃試験を行った。その結果、試験片は20秒以内に完全に燃焼した。比較例1の試験片の評価は、F3であった。
【0032】
(比較例2)
試験片として、上記と同様のセルロースを主成分とした、長さ230mm、幅90mm、厚さ5mmの濾紙を用意した。尚、この濾紙に対しては難燃処理を行わなかった(通常濾紙)。この濾紙に対し、上記のリン酸エステル系難燃剤の液体を42g塗布することにより比較例2の試験片を作成し、上記の手順により難燃試験を行った。その結果、上記のリン酸エステル系難燃剤を塗布したことにより比較例2の試験片は完全には燃焼しなかったものの、濾紙自体が難燃性を有していないため、炎の先端が上部マーク位置に20秒以内で達した。比較例2の試験片の評価は、F3であった。
【0033】
(比較例3)
上記比較例2と同様の通常濾紙に対し、ビスカスオイルを42g塗布したものを試験片として使用し、同様の手順により難燃試験を行った。その結果、比較例3の試験片は20秒以内に完全に燃焼した。試験片の評価は、F3であった。
【0034】
実施例および比較例1〜3の結果を下記の表1に示す。
【0036】
上記の結果から、濾紙自体を難燃化することに加えて、ダスト捕捉性の向上のために塗布するビスカスオイルをリン酸エステル系の難燃剤に置き換えることにより、本発明のビスカス濾材においてDIN53438のF1相当の優れた自己消火性を達成できることが判明した。
【0037】
2.ダスト性能試験
次に、本発明のフィルタエレメントのダスト性能に関する評価試験をJIS D 1612の「自動車用エアクリーナ試験方法」に基づいて実施した。尚、以下の各濾材の試験条件、試験用ダスト、試験装置は全てJIS D 1612に準拠したものを使用した。
【0038】
(実施例)
濾材として、上記燃焼試験の実施例と同様、濾紙の重量に対し、リン酸化合物を主成分とする難燃剤を30%、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を30%混合させたものを含浸させた難燃性の乾燥濾紙を使用し、この濾紙表面に、同じくクレジルジフェニルホスフェートと、クレジル2,6−キシレニルフォスフェートと、を86:14(重量%)の割合で混合して、40°Cでの動粘度を18.84mm
2/sに調製した混合物をビスカス材として42g塗布したものを用意した。
【0039】
次いで、この濾材を試験装置にセットし、6.72m
3/minの定格空気流量で試験用ダストを供給し、JIS D 1612の試験条件に基づいて濾材が捕捉できるダストの全質量(ダスト保持量)を測定した。ダスト保持量は、74gであった。
【0040】
(比較例2)
濾材として、上記燃焼試験の比較例2と同様の、難燃処理を行っていない乾燥濾紙(通常濾紙)を使用し、この濾紙表面に、上記実施例と同様の条件で調製したクレジルジフェニルホスフェートと、クレジル2,6−キシレニルフォスフェートと、の混合物をビスカス材として42g塗布した。
【0041】
次いでこの濾材のダスト保持量を、上記実施例と同様の手順で測定した。 ダスト保持量は、95gであった。
【0042】
(比較例4)
濾材として、上記実施例の乾燥濾紙と同様、セルロースを主成分とする濾紙の重量に対し、リン酸化合物を主成分とする難燃剤を30%、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を30%混合させたものを含浸させた難燃性の乾燥濾紙を使用した。尚、ビスカス材の塗布は行わなかった。
【0043】
次いでこの濾材のダスト保持量を、上記実施例と同様の手順で測定した。ダスト保持量は、49gであった。
【0044】
(比較例5)
濾材として、上記比較例2と同様の通常濾紙を使用し、この濾紙表面に従来のビスカスオイルを42g塗布した。
【0045】
次いでこの濾材のダスト保持量を、上記実施例と同様の手順で測定した。ダスト保持量は、97gであった。
【0046】
実施例および比較例2,4,5の結果を下記の表2に示す。
【0048】
上記の結果から、本発明の実施例の濾材は、ビスカス材が塗布されていないドライタイプの難燃濾材(比較例4)に比べて、ダスト保持量が1.5倍以上に向上することが分かった。
【0049】
一方、本発明の実施例の濾材は、難燃性を備えていない通常濾紙にリン酸エステル系難燃剤を塗布した濾材(比較例2)に比べてダスト保持性能が若干劣るが、前述の難燃試験での比較により、(比較例2)の濾材に比べて難燃性が大幅に向上しているという観点から、難燃性の濾材を用いることに加えて、リン酸エステル系難燃剤を塗布することにより、所望のダスト性能と比較的低い電気絶縁性とを兼ね備えながらも、難燃性に優れたウェットタイプのフィルタエレメントを提供することができる、という利点があることが分かる。
【0050】
さらに、通常濾紙にリン酸エステル系難燃剤が塗布された濾材(比較例2)のダスト保持量と、通常濾紙に可燃性のビスカスオイルが塗布された濾材(比較例5)のダスト保持量と、がほとんど変わらないことから、リン酸エステル系難燃剤が塗布されたフィルタエレメントにおいても、従来の可燃性ビスカスオイルが塗布されたフィルタエレメントに匹敵するダスト捕捉性能を発揮できることが分かる。