(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289993
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】変速機クラッチトルク推定方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20180226BHJP
F16H 59/14 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/14
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-96139(P2014-96139)
(22)【出願日】2014年5月7日
(65)【公開番号】特開2015-102241(P2015-102241A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2017年3月6日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0143664
(32)【優先日】2013年11月25日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 鎭 成
(72)【発明者】
【氏名】白 承 三
【審査官】
尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−251447(JP,A)
【文献】
特開2008−069851(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0058153(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0273607(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 59/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサーにより測定されたエンジン角速度、データマップから導出されたエンジン静トルク、及び走行負荷による負荷トルクからエンジン過渡トルクを導出するエラー補正段階と、
エンジン静トルク及びエンジン過渡トルクからエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階と、
エンジン角速度推定値とエンジン角速度との差から、変速機クラッチのスリップによるクラッチトルク推定値を導出する結果導出段階と、
を含んでなることを特徴とする変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項2】
角速度導出段階は、結果導出段階で推定されたクラッチトルク推定値のフィードバックを受け、エンジン静トルク、エンジン過渡トルク、及びクラッチトルク推定値を合わせて考慮してエンジン角速度推定値を導出することを特徴とする請求項1に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項3】
エラー補正段階は、エンジン角速度の微分及びエンジン慣性モーメントを用いてエンジン出力トルクを導出し、エンジン出力トルク、エンジン静トルク、及び負荷トルクからエンジン過渡トルクを導出することを特徴とする請求項1に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項4】
エラー補正段階は、エンジン出力トルクからエンジン静トルクを除算し、負荷トルクを加算してエンジン過渡トルクを導出することを特徴とする請求項3に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項5】
エラー補正段階は、導出されたエンジン過渡トルクを低域通過フィルタリングしてエンジン過渡トルクの最終結果として導出することを特徴とする請求項1に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項6】
角速度導出段階は、エンジン静トルクとエンジン過渡トルクとを合算し、エンジン慣性モーメントを用いてエンジン角速度推定値を逆に導出することを特徴とする請求項1に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項7】
過渡状態におけるエンジン過渡トルクに該当するエンジン過渡トルクを導出するエラー補正段階と、
エンジン静トルク及びエンジン過渡トルクからエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階と、
エンジン角速度推定値とエンジン角速度の差異から変速機クラッチのスリップによるクラッチトルク推定値を導出する結果導出段階と、
を含むことを特徴とする変速機クラッチトルク推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機クラッチトルク推定方法に係り、より詳しくは、DCTの乾式クラッチにおいて、スリップによって伝達されるトルク値を正確に推定するための変速機クラッチトルク推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動変速機の運転便宜性と、手動変速機の高燃費性能及び高動力効率性と、を同時に達成することが可能なデュアルクラッチ変速機(DCT)の開発が盛んに行われている。DCTは、手動変速機システムをベースとする自動化変速機であって、2つのトルク伝達軸を有し、トルクコンバータなしでクラッチを自動制御するシステムにであって、燃費効率が高いという利点がある。ところが、乾式クラッチを用いるDCTシステムは、トルクコンバータなしでクラッチを直ちに締結するため、クラッチ制御性能が車両の発進及び変速性能を左右する。しかも、クラッチディスク摩擦面に発生する伝達トルクを直接測定することが不可能であるため、車両に取り付けられた既存のセンサーのセンサー値情報を活用してクラッチ伝達トルク値を推定することが重要となる。
【0003】
既存のクラッチトルク予測方法は、制御工学の観測者理論(observer theory)を活用する方法が使用されている。この方法は、エンジントルクをベースとして、クラッチディスクスリップの際に発生する伝達トルクを計算する方法である。この際、ECU(エンジンコントロールユニット)から出力されるエンジントルク値は、静的状態で反復実験によって得たデータをベースとする。しかし、クラッチトルク情報が必要な時点は、クリープ/発進など、常にエンジンの過渡状態に該当するので、ECUの提供するエンジントルク値と実際のトルク値との間に差が生ずる。よって、不確実なエンジントルク値から得られたクラッチトルク予測値もエラーを持つという問題点がある。
【0004】
本発明は、不確実なエンジントルクモデルのエラーを補正して正確なクラッチトルク値を予測する方法を提供する。
前述の発明の背景となる技術として説明された事項は、本発明の背景に関する理解促進のためのものに過ぎず、当該技術分野における通常の知識を有する者に既に知られている従来の技術に該当することを認めるものと受け入れてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国特許公開第10−2013−0060071号明細書
【特許文献2】特開2013−19514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、変速機クラッチ、特に、DCTの乾式クラッチにおいて、スリップによって伝達される正確なトルク値を推定するための変速機クラッチトルク推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の変速機クラッチトルク推定方法は、センサーにより測定されたエンジン角速度、データマップから導出されたエンジン静トルク、及び走行負荷による負荷トルクからエンジン過渡トルクを導出するエラー補正段階と、エンジン静トルク及びエンジン過渡トルクからエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階と、エンジン角速度推定値とエンジン角速度との差から、変速機クラッチのスリップによるクラッチトルク推定値を導出する結果導出段階と、を含んでなることを特徴とする。
【0008】
前記角速度導出段階は、結果導出段階で推定されたクラッチトルク推定値のフィードバックを受け、エンジン静トルク、エンジン過渡トルク、及びクラッチトルク推定値を合わせて考慮してエンジン角速度推定値を導出することができる。
【0009】
前記エラー補正段階は、エンジン角速度の
微分及びエンジン慣性モーメントを用いてエンジン出力トルクを導出し、エンジン出力トルク、エンジン静トルク、及び負荷トルクからエンジン過渡トルクを導出することができる。
【0010】
また、エラー補正段階は、エンジン出力トルクからエンジン静トルクを除算し、負荷トルクを加算してエンジン過渡トルクを導出することができる。
また、エラー補正段階は、導出されたエンジン過渡トルクを低域通過フィルタリングしてエンジン過渡トルクの最終結果として導出することができる。
【0011】
また、角速度導出段階は、エンジン静トルクとエンジン過渡トルクとを合算し、エンジン慣性モーメントを用いてエンジン角速度推定値を逆に導出することができる。
【発明の効果】
【0012】
上述したような構造を持つ変速機クラッチトルク推定方法によれば、クラッチ、特にDCTの乾式クラッチにおいて、スリップにより伝達される正確なトルク値を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法のブロック図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の順序図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法について説明する。
図1は本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法のブロック図であり、
図2は本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の順序図である。
【0015】
本発明に係る変速機クラッチ推定方法は、センサーにより測定されたエンジン角速度、データマップから導出されたエンジン静トルク、及び走行負荷による負荷トルクからエンジン過渡トルクを導出するエラー補正段階と、エンジン静トルク及びエンジン過渡トルクからエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階と、エンジン角速度推定値とエンジン角速度の差異から変速機クラッチのスリップによるクラッチトルク推定値を導出する結果導出段階と、を含んでなる。
【0016】
図1に示すように、エンジンシステムの場合、ダイナミックな観点からみれば、エンジン静トルクTe_TQIとエンジン過渡トルクδeとがエンジンの総発生トルクとして規定され、これから走行負荷による実際負荷トルクTLと変速機クラッチのスリップによる実際クラッチトルクTCの損失とが発生した後、フライホイール側に出力される。フライホイールには速度センサーが設けられ、実際のエンジン角速度Weが測定される。
【0017】
すなわち、ペダル踏み込み量APS、及びフライホイール側の速度センサーで測定されたエンジン角速度Weの入力を受け、これを、エンジンECUに予め試験値として設けられたデータマップに代入することにより、定常状態(STEADY STATE)のエンジン静トルクTe_TQIを得ることができる。そのエンジン静トルクTe_TQIにエンジン過渡トルクδeが加わって実際エンジンの駆動トルクが構成される。
【0018】
したがって、変速機のクラッチスリップトルクを正確に予測するためには、このようなエンジンの低いRPM領域でよく発生する過渡状態(TRANSIENT STATE)のエンジン過渡トルクを正確に予測しなければならず、これを反映しなければ正確なクラッチトルクを推定することができない。これはまた、特にDCT変速機の乾式クラッチを制御する際にクラッチの耐久度に大きい影響を及ぼす。
【0019】
エンジンダイナミックスに関する定理は、次の式で表現できる。
【数1】
【0020】
具体的には、
図1に示すように、センサーによって測定されたエンジン角速度We、データマップにから導出されたエンジン静トルクTe_TQI、及び走行負荷による負荷トルクTL0から
を導出するエラー補正段階を行う。
【0021】
エラー補正段階は、エンジン角速度の
微分及びエンジン慣性モーメントを用いてエンジン出力トルクを導出し、エンジン出力トルク、エンジン静トルク、及び負荷トルクからエンジン過渡トルクを導出することができる。
すなわち、エラー補正段階は、エンジン出力段階からエンジン静トルクを除算し、負荷トルクを加算してエンジン過渡トルクを導出することができる。
【0022】
エラー補正段階は、導出されたエンジン過渡トルクを低域通過フィルタリングしてエンジン過渡トルクの最終結果として導出することができる。
すなわち、測定されたエンジン角速度Weを
微分し、その値にエンジン慣性モーメントJeを掛けてエンジン出力端の実測トルクを求める。
【0023】
エンジン実測トルクからデータマップによるエンジン静トルクTe_TQIを除去する。また、その値に、計算された走行負荷による負荷トルクTL0を加えることにより、
を算出することができる。
参考として、図1において、前記エンジン角速度Weを微分した値は、そのラプラス変換形態である「s」で表現している。
これを直観的にみると、センサーで測定されたエンジン角速度とエンジン慣性モーメントを用いて求められるエンジントルクは、マップで求められたエンジン静トルク、エンジン過渡トルク、走行負荷、およびクラッチトルクの組み合わせによって得られるものであるから、この測定されたエンジン角速度とエンジン慣性モーメントをベースとするエンジントルクから前記エンジン静トルクと走行負荷を除去すると、エンジン過渡トルクとクラッチトルクのみ残り、その中でも、クラッチトルクは求めようとする対象であって、以後の過程で推定される値であるから、これを無視すると、結局エンジン過渡トルクが求められるのである。
【0024】
一方、
正確な変速機クラッチトルク推定に障害となるエンジンの過渡状態は、エンジンが5Hz程度の低い周波数で動作するときであるので、上述のように求められたエンジン過渡トルクをさらに5Hz程度の低域通過フィルターを経る
ようにすることにより、得ようとするエンジン過渡トルクを正確に求めることができる。求められた
はロジック上で推定値として定義される。
【0025】
参考として、負荷トルクTL0の計算は次の式によって行われる。
【数2】
【0026】
その後に、エンジン静トルクとエンジン過渡トルクからエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階を行
い、導出されたエンジン角速度推定値と測定されたエンジン角速度を用いて結果導出関係を行うが、これらの角速度導出段階と結果導出段階は、実質的には既に公知になった技術であって、いわゆる「unknown input observer」を構成するのである。
すなわち、従来では、エンジン静トルクのみを用いて前記角速度導出段階と結果導出段階を行うことにより、クラッチトルクを推定したが、これに対し、本発明では、エンジンが過渡運転状況である場合には、エンジン静トルクだけでなく、上述したように求められたエンジン過渡トルクを共に考慮して前記角速度導出段階と結果導出段階を行うことにより、より正確なクラッチトルクの推定を可能としたのである。
角速度導出段階は、結果導出段階で推定されたクラッチトルク推定値のフィードバックを受け、エンジン静トルク、エンジン過渡トルク、及びクラッチトルク推定値を同時に考慮してエンジン角速度推定値を導出することができる。
【0027】
また、角速度導出段階は、エンジン静トルクとエンジン過渡トルクとを合計してエンジン慣性モーメントを用いてエンジン角速度推定値を逆に導出することができる。
【0028】
すなわち、推定された
とエンジン静トルクTe_TQIを加えてエンジンの総トルクを求める。これをエンジン慣性モーメントJeで割った後、積分して
を求める。
【0029】
実際測定されたエンジン角速度Weと
の差異分にはクラッチトルクによる影響が反映されているという理論的仮定の下で、その差異から積分と係数L1、L2を用いて
を得ることができる。
【0030】
は、実際測定されたエンジン角速度Weと
の差異分と共に更にフィードバックされ、クラッチトルク推定値の導出に用いられる。
【0031】
フィードバックされる値は、
図1に示すように、エンジン静トルクTe_TQIと
との合算分から除去した後、
を導出するようにすることにより、反復的なフィードバックを介して正確なクラッチトルク推定値に収斂する。
【0032】
このようなフィードバック制御における係数L0、L1、L2は、チューニングファクターとして存在する。
すなわち、エンジンダイナミックスを次のとおり表現すると、
【数3】
【数4】
【数5】
このように任意に適切なL0、L1、L2を定めた状態で反復的にオブザーバーのルーフを回すと、漸次正しいクラッチトルク推定値に収斂するのである。
ここで、前記L0、L1、L2を0より大きい値に定めると、解が存在しうる。
このような本発明によれば、ECUエンジントルク値と、実際エンジントルクと、の間のエラーを実時間で補正してクラッチトルクの予測に活用し、エンジントルクが不確実な走行領域においてもクラッチトルクを正確に予測することができる。また、既存のエンジントルクをベースとする技法により信頼性/正確性の向上を図り、定常状態では、エンジントルクエラー補正ロジックを除外することもできる。
【0033】
更に、本発明によれば、クラッチトルク−クラッチアクチュエータの位置間情報(トルク−ストローク線図)が不要であるという利点がある。
【0034】
本発明は、特定の実施例に関連して図示及び説明したが、特許請求の範囲によって提供される本発明の技術的思想から外れない限度内において、本発明に様々な改良及び変化を加え得ることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には自明であろう。
【符号の説明】
【0035】
S100 エラー補正段階
S200 角速度導出段階
S300 結果導出段階