特許第6290082号(P6290082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290082
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】特殊ポリカーボネート製偏光アイウェア
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/12 20060101AFI20180226BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20180226BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20180226BHJP
   C08G 64/06 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   G02C7/12
   G02C7/10
   G02B5/30
   C08G64/06
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-530547(P2014-530547)
(86)(22)【出願日】2013年8月12日
(86)【国際出願番号】JP2013071756
(87)【国際公開番号】WO2014027633
(87)【国際公開日】20140220
【審査請求日】2016年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-179788(P2012-179788)
(32)【優先日】2012年8月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】後藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】光畑 和久
(72)【発明者】
【氏名】中村 恭介
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 雅俊
【審査官】 渡邉 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−305341(JP,A)
【文献】 特開2005−025149(JP,A)
【文献】 特開2005−031611(JP,A)
【文献】 特開平08−313701(JP,A)
【文献】 特開平03−039903(JP,A)
【文献】 特開2008−163194(JP,A)
【文献】 特開2012−103507(JP,A)
【文献】 特開2009−294445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 −13/00
A61B 3/00 − 3/16
C08G 64/06
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムの片一面に、下記一般式(A)または(B)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸ジエステルによりカーボネート結合させてなる芳香族ポリカーボネート樹脂を50質量%以上含む波長600nmにおけるリタデーション値が2000nm以下のシート(A)を積層し、
前記偏光フィルムの他方の面に、ジヒドロキシ化合物を炭酸ジエステルによりカーボネート結合させてなるポリカーボネート樹脂であって、前記ジヒドロキシ化合物の70〜100モル%が一般式(1)で表される化合物である特殊ポリカーボネート樹脂を50質量%以上含むシート(B)を積層した偏光多層シートを曲げ加工して得られた、偏光レンズを用いたアイウェア。
【化1】
【化2】
【化3】
(前記一般式(A)及び(B)中、RとRは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基またはハロゲンであり、RとRは、同じでも異なっていてもよい。また、mおよびnは、置換基数を表し0〜4の整数である。RおよびRは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基あるいはフェニル基であり、RとRが結合し環を形成していてもよい。)
【化4】
(前記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルコキシル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。また、前記一般式(1)中、Xは、それぞれ独立に、炭素数2〜8のアルキレン基、炭素数5〜12のシクロアルキレン基、又は、炭素数6〜20のアリーレン基を表す。)
【請求項2】
前記シート(B)に含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の80〜95モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である、請求項1記載のアイウェア。
【請求項3】
前記シート(B)に含まれる樹脂が、前記特殊ポリカーボネート樹脂のみであって、該特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の80〜95モル%が一般式(1)で表される化合物であり、残りの20〜5モル%が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物である、請求項1または2に記載のアイウェア。
【請求項4】
前記シート(B)に含まれる樹脂が、前記特殊ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂とからなり、前記特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の100モル%が一般式(1)で表される化合物であり、前記芳香族ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物であり、前記シート(B)に含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の80〜95モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である、請求項1または2に記載のアイウェア。
【請求項5】
前記シート(B)のガラス転移点と、前記リタデーション値が2000nm以下のシート(A)のガラス転移点の温度差が10℃以下である、請求項1から4のいずれかに記載のアイウェア。
【請求項6】
前記一般式(1)で表される化合物において、R及びRが水素原子であり、Xがエチレン基である、請求項1から5のいずれかに記載のアイウェア。
【請求項7】
前記一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物が下記構造式(1)で表される化合物である、請求項3または4に記載のアイウェア。
【化5】
【請求項8】
前記一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物が下記一般式(2)で表される化合物である、請求項3または4に記載のアイウェア。
【化6】
(一般式(2)中、Yは、炭素数1〜10のアルキレン基又は炭素数4〜20のシクロアルキレン基を表す。)
【請求項9】
前記一般式(2)で表される化合物が、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、及びペンタシクロペンタデカンジメタノールから選ばれる少なくとも1つである、請求項8に記載のアイウェア。
【請求項10】
前記一般式(2)で表される化合物が、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールである、請求項8に記載のアイウェア。
【請求項11】
前記シート(B)の波長600nmにおけるリタデーション値が20nm以下である、請求項1から10のいずれかに記載のアイウェア。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のアイウェアにおいて、シート(B)側の面が凸面になるように球面あるいは非球面に曲げ加工を行っていることを特徴とするアイウェア。
【請求項13】
凹面側に更に芳香族ポリカーボネート樹脂からなる射出成型体を有する、請求項12記載のアイウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート多層偏光シートを曲面形状に曲げ加工した防眩用のアイウェア(サングラス、ゴーグル等)に関する。また、本発明はポリカーボネート多層偏光シートを曲面形状に曲げ加工した後に一方の面にポリカーボネートを射出して成形した防眩用のアイウェアも包含する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート製の偏光シートは耐衝撃性に優れ軽量であることから液晶ディスプレイをはじめ、建物の窓や自動車のサンルーフに使用されている。
【0003】
また、ポリビニルアルコールフィルムを延伸して二色性色素で染色した偏光シートの両面に保護層として接着層を介して芳香族ポリカーボネートシートを貼った偏光シート(以下、「芳香族ポリカーボネート偏光シート」と記す)は特に耐衝撃性に優れ、加えて高い耐熱性も併せ持つので曲げ加工や射出成形を施し、マリンスポーツ、ウインタースポーツ、釣り等に用いるアイウェア(サングラスやゴーグル等)用の偏光レンズに使用されている。
【0004】
しかしながら、芳香族ポリカーボネートは光弾性定数が大きいので、サングラスやゴーグルのような球面あるいは非球面の面形状に曲げ加工を施した際に、リタデーションによる着色干渉縞(虹目)が生じやすく、この着色干渉縞は偏光レンズの外観を損ね、特に、外観の美しさが製品の購買力に影響を与えるアイウェア分野においては大きな問題となる。また、着色干渉縞により、眼精疲労などの健康上のトラブルを引き起こす等の問題も抱えている。
【0005】
曲げ加工を施した際に生じるリタデーションの対処について、保護層に使用する芳香族ポリカーボネートシートに予め延伸処理を施して大きなリタデーションを生じさせておくことにより、着色干渉縞を見えなくした芳香族ポリカーボネート偏光シート(以下、「延伸ポリカーボネート偏光シート」と記す)が知られている(特許文献1)。
【0006】
しかし、延伸ポリカーボネート偏光シートを使った場合、着色干渉縞は防止できるが、芳香族ポリカーボネートシートが延伸されていることから、曲げ加工時に芳香族ポリカーボネートが延伸方向に収縮し、形成された偏光レンズの垂直方向のベースカーブと水平方向のベースカーブの差の絶対値(以下、「ベースカーブ異方性」と記す)が大きくなり、その結果レンズの解像度が低くなってしまうという問題がある。
【0007】
一方、前述の延伸ポリカーボネート偏光シートに曲げ加工を施して形成した偏光レンズよりもさらに耐衝撃性を向上させる、あるいは焦点屈折力を持つ矯正用レンズを形成する目的で、球面あるいは非球面の面形状に曲げ加工した延伸ポリカーボネート偏光シートを金型内にインサートし芳香族ポリカーボネートを射出して成形した偏光レンズが知られている(特許文献2、3)。しかし、このような偏光レンズであっても、着色干渉縞や解像度の問題は解決していなかった。
【0008】
また、曲げ加工時の着色干渉縞を防止し、曲げ形状を改善するため、延伸を無くした、あるいは少なくした芳香族ポリカーボネートシートを凹面側に使用する方法も知られている(特許文献3)。しかし、このような場合であっても、凸面側には延伸した芳香族ポリカーボネートシートを使用していることから、曲げ形状ベースカーブ異方性による解像度の低下の改善は十分ではない。
【0009】
下記一般式(1)で表される化合物99モル%〜5モル%と、その他のジヒドロキシ化合物1モル%〜95モル%との2種の成分を、炭酸ジエステルによりカーボネート結合させてなるポリカーボネート樹脂を使ったフィルムは、低複屈折、高透明、高ガラス転移温度をバランスよく有する光学フィルムであることが知られている(特許文献4参照)。また、このようなフィルムを平面状のフラットパネルディスプレイの偏光シート保護フィルムとして使用した偏光シートは報告されているが(特許文献5参照)、この特殊なポリカーボネート樹脂を用いた偏光シートを、曲げ加工を行う偏光レンズ用の偏光シートとして用いることについては、全く検討されていない。
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平03−39903号公報
【特許文献2】特開平08−52817号公報
【特許文献3】特開平08−313701号公報
【特許文献4】特開2008−163194号公報
【特許文献5】特開2012−103507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、曲げ加工時の虹目発生が防止され、かつ、解像度の高いポリカーボネート製偏光アイウェアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、偏光フィルムの一方の面に、芳香族ポリカーボネート樹脂を50質量%以上含む波長600nmにおけるリタデーション値が2000nm以下のシート(A)を積層し、前記偏光フィルムの他方の面に、ジヒドロキシ化合物を炭酸ジエステルによりカーボネート結合させてなるポリカーボネート樹脂であって、前記ジヒドロキシ化合物の70〜100モル%が一般式(1)で表される化合物であるポリカーボネート樹脂(以下、「特殊ポリカーボネート樹脂」と記す)を含むポリカーボネートシート(以下、「シート(B)」あるいは「特殊ポリカーボネートシート」と記す)を積層した偏光多層シートを用いることで、本発明を完成させた。
【化2】
(前記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルコキシル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。また、前記一般式(1)中、Xは、それぞれ独立に、炭素数2〜8のアルキレン基、炭素数5〜12のシクロアルキレン基、又は、炭素数6〜20のアリーレン基を表す。)
【0013】
すなわち、本発明は、以下の特殊ポリカーボネート偏光アイウェアを提供するものである。
1. 偏光フィルムの片一面に、芳香族ポリカーボネート樹脂を50質量%以上含む波長600nmにおけるリタデーション値が2000nm以下のシート(A)を積層し、
前記偏光フィルムの他方の面に、ジヒドロキシ化合物を炭酸ジエステルによりカーボネート結合させてなるポリカーボネート樹脂であって、前記ジヒドロキシ化合物の70〜100モル%が一般式(1)で表される化合物である特殊ポリカーボネート樹脂を含むシート(B)を積層した偏光多層シートを曲げ加工して得られた、偏光レンズを用いたアイウェア。
2. 前記シート(B)に含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の80〜95モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である、上記1記載のアイウェア。
3. 前記シート(B)に含まれる樹脂が、前記特殊ポリカーボネート樹脂のみであって、該特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の80〜95モル%が一般式(1)で表される化合物であり、残りの20〜5モル%が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物である、上記1または2に記載のアイウェア。
4. 前記シート(B)に含まれる樹脂が、前記特殊ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂とからなり、前記特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の100モル%が一般式(1)で表される化合物であり、前記芳香族ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物であり、前記シート(B)に含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の80〜95モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である、上記1または2に記載のアイウェア。
5. 前記シート(B)のガラス転移点と前記リタデーション値が2000nm以下の芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移点の温度差が10℃以下である、上記1から4のいずれかに記載のアイウェア。
6. 前記一般式(1)で表される化合物において、R及びRが水素原子であり、Xがエチレン基である、上記1から5のいずれかに記載のアイウェア。
7. 前記一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物が構造式(1)で表される化合物である、上記1から6のいずれかに記載のアイウェア。
【化3】
8. 前記一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物が一般式(2)で表される化合物である、上記1から6のいずれかに記載のアイウェア。
【化4】
(一般式(2)中、Yは、炭素数1〜10のアルキレン基又は炭素数4〜20のシクロアルキレン基を表す。)
9. 前記一般式(2)で表される化合物が、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、及びペンタシクロペンタデカンジメタノールから選ばれる少なくとも1つである、上記8に記載のアイウェア。
10. 前記一般式(2)で表される化合物が、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールである、上記8に記載のアイウェア。
11. 前記シート(B)の波長600nmにおけるリタデーション値が20nm以下である、上記1から10のいずれかに記載のアイウェア。
12. 前記1から11のいずれかに記載のアイウェアにおいて、シート(B)側の面が凸面になるように球面あるいは非球面に曲げ加工を行っていることを特徴とするアイウェア。
13. 凹面側に芳香族ポリカーボネート樹脂を射出成型してなる、上記12記載のアイウェア。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、曲げ加工時の虹目発生を防止しながら、解像度の高い偏光多層レンズを提供することができる。また、前記構成による偏光多層レンズは、曲げ加工時の虹目発生を防止しながら、所望の曲げ形状が得られやすいことから、従来の偏光アイウェア以上の機能を確保しつつ、優れた審美性を備えた、これまでにない特徴を有する偏光アイウェアを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】偏光シートの打ち抜き形状の例を示す図である。
図2】本発明の偏光多層レンズの一例を示す概略構成図である。
図3】本発明の偏光多層レンズの一例を示す概略構成図である。
図4】解像度チャートを示す図である。
図5】実施例1の虹目観測結果を示す図である。
図6】比較例5の虹目観測結果を示す図である。
図7】比較例5の虹目観測結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の偏光多層レンズに関して説明する。
本発明の偏光多層シートは、まず、偏光フィルムを作製し、片面に特殊ポリカーボネート樹脂を含有するシート(B)を積層する。次に、芳香族ポリカーボネート樹脂を50質量%以上含む波長600nmにおけるリタデーション値が2000nm以下のシート(A)を積層して偏光多層シートとする。このようにして作製された偏光多層シートは、偏光フィルムと芳香族ポリカーボネート樹脂の間に別の樹脂シート(例えば、特殊ポリカーボネートシートなど)が存在していても構わない。次に上記偏光多層シートを曲げ加工してアイウェア用の偏光多層レンズとする。また、さらに耐衝撃性、焦点屈折力を持つ矯正用レンズを形成する場合、曲げ加工した偏光多層シートにさらにポリカーボネートを射出成型することも出来る。
【0017】
以下に本発明の偏光多層レンズを構成する各層について説明する。
【0018】
偏光フィルム
偏光フィルムの作製方法は特に限定されないが、例えば、基材となる樹脂フィルムを水中で膨潤させた後に、二色性色素などの染料を含有する染色液に、一方向に延伸させつつ含浸することにより、二色性色素を基材樹脂中に配向した状態で分散させて、偏光性を付与した偏光フィルムを得ることができる。
【0019】
芳香族ポリカーボネートシート(シート(A))
芳香族ポリカーボネートシートからなる保護層の貼り付けは特に限定されないが、偏光フィルムの片面に接着層を介して貼付する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂とは、特殊ポリカーボネート樹脂とは全く別の樹脂であり、上記一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物を構成成分として含む樹脂であり、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させる事によって作られる分岐していてもよい熱可塑性ポリカーボネート重合体である。前記芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネートシート中に50質量%以上含まれていればよく、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含まれていればよい。その他の成分を添加しても良いが、100質量%が最も良い。本発明で使用される芳香族ジヒドロキシ化合物とは、下記一般式(A)または一般式(B)で表される化合物である。
【0021】
【化5】
【化6】
【0022】
上記一般式(A)において、
【化7】
ここで、RとRは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基またはハロゲンであり、RとRは、同じでも異なっていてもよい。また、mおよびnは、置換基数を表し0〜4の整数である。RおよびRは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基あるいはフェニル基であり、RとRが結合し環を形成していてもよい。
【0023】
上記一般式(A)または一般式(B)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシー3,3’−ジメチルフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等が用いられる。これらのうちで、特に2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA:BPA)が好ましい。また、一般式(A)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物は、2種類以上の併用も可能である。
このような芳香族ポリカーボネートのガラス転移点は135〜155℃程度である。
【0024】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、結晶核剤、強化剤、染料、帯電防止剤、抗菌剤、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
さらに、芳香族ポリカーボネートシートの分子量については、シート自体の成形における点から粘度平均分子量で12,000〜40,000のものが好ましく、シート強度、耐熱性、耐久性あるいは曲げ加工性の点から、特に20,000〜35,000のものが好ましい。
【0026】
また、芳香族ポリカーボネートシートの波長600nmにおけるリタデーション値については、曲げ加工時の表面形状の精度を高める点から、2000nm以下であれば良く、1000nm以下が望ましく、500nm以下が特に望ましい。また、リタデーション値の最低値は、測定可能限界である0nmである。
【0027】
特殊ポリカーボネートシート(シート(B))
本発明に用いる特殊ポリカーボネートシートに含まれる特殊ポリカーボネート樹脂は、少なくとも、所定の特殊ポリカーボネート樹脂を含有してなり、さらに必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。特殊ポリカーボネートシートからなる保護層の貼付け方法は特に限定されないが、偏光フィルムの片面に接着層を介して貼付する方法等が挙げられる。
【0028】
上記の特殊ポリカーボネートシートを構成する特殊ポリカーボネート樹脂としては、一般式(1)で表される化合物を必須成分として含むジヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸ジエステルと反応させたものであり、ジヒドロキシ化合物の70〜100モル%が一般式(1)で表される化合物であるものであればよく、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。特殊ポリカーボネートシート中の特殊ポリカーボネート樹脂の濃度は、50質量%以上であればよく、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【化8】
(前記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルコキシル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。また、前記一般式(1)中、Xは、それぞれ独立に、炭素数2〜8のアルキレン基、炭素数5〜12のシクロアルキレン基、又は、炭素数6〜20のアリーレン基を表す。)
【0029】
本発明の好ましい一実施形態は、前記特殊ポリカーボネートシートに含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の80〜95モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である態様である。ここで、前記特殊ポリカーボネートシートに含まれる樹脂とは、特殊ポリカーボネート樹脂のみならず、それ以外の芳香族ポリカーボネート樹脂なども含まれる。そして、前記全ジヒドロキシ化合物とは、一般式(1)で表される化合物のみならず、それ以外のジヒドロキシ化合物を含めた合計を意味する。より好ましくは、前記特殊ポリカーボネートシートに含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の85〜90モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である態様であり、特に好ましくは、前記特殊ポリカーボネートシートに含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の87モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である態様である。
【0030】
本発明の別の好ましい一実施形態は、前記特殊ポリカーボネートシートに含まれる樹脂が、前記特殊ポリカーボネート樹脂のみであって(即ち、特殊ポリカーボネートシート中の特殊ポリカーボネート樹脂の濃度が100質量%)、該特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の80〜95モル%が一般式(1)で表される化合物であり、残りの20〜5モル%が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物である態様である。より好ましくは、前記特殊ポリカーボネートシートに含まれる樹脂が、前記特殊ポリカーボネート樹脂のみであって、前記特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の85〜90モル%が一般式(1)で表される化合物であり、残りの15〜10モル%が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物である態様であり、特に好ましくは、前記特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の87モル%が一般式(1)で表される化合物であり、残りの13モル%が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物である態様である。
【0031】
本発明の更に別の好ましい一実施形態は、前記特殊ポリカーボネートシートに含まれる樹脂が、前記特殊ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂とからなり、前記特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の100モル%が一般式(1)で表される化合物であり、前記芳香族ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物であり、前記シート(B)に含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の80〜95モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である態様である。より好ましくは、前記特殊ポリカーボネートシートに含まれる樹脂が、前記特殊ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂とからなり、前記特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の100モル%が一般式(1)で表される化合物であり、前記芳香族ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物であり、前記シート(B)に含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の85〜90モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である態様であり、特に好ましくは、前記特殊ポリカーボネートシートに含まれる樹脂が、前記特殊ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂とからなり、前記特殊ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物の100モル%が一般式(1)で表される化合物であり、前記芳香族ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物が一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物であり、前記シート(B)に含まれる樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物の87モル%が、前記一般式(1)で表される化合物である態様である。
【0032】
−一般式(1)で表される化合物−
前記一般式(1)で表される化合物は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(前記一般式(1)で表される化合物において、R及びRが水素原子であり、Xがエチレン基である)、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
これらの中でも、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(前記一般式(1)において、R及びRが水素原子であり、Xがエチレン基である)が、ガラス転移点以外の他の物性(水蒸気透過率など)も芳香族ポリカーボネート樹脂と近い物性にすることができることから、所望の曲げ形状が得られやすく望ましい。
【0034】
−ジヒドロキシ化合物−
前記一般式(1)で表わされる化合物以外のジヒドロキシ化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、構造式(1)で表される化合物(ビスフェノールA)や、一般式(2)で表される化合物などが挙げられる。一般式(2)で表わされる化合物としては、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、デカリン−2,6−ジメタノール、ノルボルナンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、シクロペンタン−1,3−ジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。前記ジヒドロキシ化合物は、上記のビスフェノールAおよび、一般式(2)からなる群から、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を選択し併用してもよい。
【化9】
【化10】
(一般式(2)中、Yは、炭素数1〜10のアルキレン基又は炭素数4〜20のシクロアルキレン基を表す。)
【0035】
前記一般式(1)で表わされる化合物以外のジヒドロキシ化合物は、前記の中でも、ビスフェノールA、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、及びペンタシクロペンタデカンジメタノールが好ましく、ビスフェノールA及びトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールがより好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0036】
−炭酸ジエステル−
前記炭酸ジエステルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ジフェニルカーボネートが、入手しやすい点で、好ましい。
【0037】
本発明の特殊ポリカーボネートシートのリタデーション値は、全可視光領域で、10nm以下が望ましい。
【0038】
また、本発明の特殊ポリカーボネートシートの波長600nmにおけるリタデーション値は20nm以下であることが好ましく、10nm以下がより好ましい。前記リタデーション値が、20nmを超えると、曲げ加工した偏光多層レンズにリタデーション値による着色干渉縞が生じることがある。リタデーション値が可視光の波長よりはるかに長い場合、着色干渉縞は減少する。
【0039】
本発明の特殊ポリカーボネートシートの光弾性係数としては、50×10−12/N以下が好ましく、40×10−12/N以下がより好ましい。前記光弾性係数が、50×10−12/Nを超えると、リタデーションが大きくなってしまうことがある。一方、前記光弾性係数が、より好ましい範囲内であると、リタデーションを小さくすることができる点で有利である。前記光弾性係数は、例えば、エリプソメーター(商品名:M220、日本分光製)を用いて、厚さ100μmのキャストフィルムに、波長633nmのレーザー光線を照射し、フィルムにかけた荷重の変化に対する複屈折の変化を測定し算出することにより測定することができる。
【0040】
前記特殊ポリカーボネート樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20,000〜300,000が好ましく、35,000〜120,000がより好ましい。前記特殊ポリカーボネート樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が、20,000未満であると、シートが脆くなることがあり、300,000を超えると、溶融粘度が高くなるため、製造後の樹脂の抜き取りが困難となり、また、溶剤への溶解性が悪くなってキャスト法でのシート成形が困難となり、溶融粘度が高くなるため押し出し成形が困難となる、などの問題が生じることがある。なお、前記ポリスチレン換算重量平均分子量は、GPC(商品名:GPC System−21H、昭和電工(株)製)を用い、クロロホルムを展開溶媒として、既知の分子量(分子量分布=1)の標準ポリスチレンを用いて作成した検量線に基づいて、GPCのリテンションタイムから算出することができる。
【0041】
前記特殊ポリカーボネート樹脂の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ランダム構造、ブロック構造、交互共重合構造、などが挙げられる。
【0042】
特殊ポリカーボネートシートのガラス転移点と、リタデーション値が2000nm以下の芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移点との温度差は10℃以下であることが好ましく、5℃以下がより好ましい。ガラス転移点の温度差が10℃より大きいと曲げ加工を行ったときにベースカーブ異方性が大きくなり、解像度が低下するといった問題が発生することがある。また、上記のガラス転移点の温度差は、特殊ポリカーボネート樹脂に含まれる一般式(1)で表わされる化合物の含有量によっても調整することが出来、具体的には、一般式(1)で表わされる化合物の含有量を70モル%以上にすることにより、10℃以下に調整でき、一般式(1)で表わされる化合物の含有量を80モル%以上にすることにより、5℃以下に調整できる。
特殊ポリカーボネートシートのガラス転移点は、好ましくは135〜155℃であり、より好ましくは140〜150℃である。
【0043】
なお、本発明でいうガラス転移点(Tg)とは、JIS−K7121に準拠し、示差走査熱量分析計(DSC)(セイコーインスツルメンツ(株)製)測定により得られる中間点ガラス転移温度として定義される。DSC測定において複数の成分に由来する複数のガラス転移点が確認された場合は、1/Σ(Wn/Tgn)〔式中、Wnは各成分の質量分率でΣWn=1、Tgn(℃)は各成分によるガラス転移温度、nは各成分の種類を表す。〕で計算される値をガラス転移点として定義する。DSC測定条件は試料10mg程度、窒素雰囲気下中、昇温速度20℃/分である。
【0044】
−特殊ポリカーボネート樹脂の製造方法−
特殊ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、炭酸ジエステルによりカーボネート結合させてなるものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、日本特許4196326、WO2007−142149に開示された方法により製造することができる。
【0045】
特殊ポリカーボネート樹脂の製造における、一般式(1)で表される化合物の仕込み量としては、前記一般式(1)で表される化合物と一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物との合計に対して、70モル%〜100モル%である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、80モル%〜100モル%がより好ましく、85モル%〜100モル%が特に好ましい。
前記一般式(1)で表される化合物の仕込み量が、70モル%未満となると、特殊ポリカーボネート樹脂の複屈折が大きくなる。一方、前記一般式(1)で表される化合物の仕込み量が前記好ましい範囲内であると、特殊ポリカーボネート樹脂の複屈折が小さくなる点で有利である。
【0046】
特殊ポリカーボネート樹脂の製造における、前記一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物の仕込み量としては、前記一般式(1)で表される化合物と一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物との合計に対して、0モル%〜30モル%である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0モル%〜20モル%がより好ましく、0モル%〜15モル%が特に好ましい。一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物の仕込み量が、30モル%を超えると、特殊ポリカーボネート樹脂の複屈折が大きくなる。一方、一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物の仕込み量が前記好ましい範囲内であると、特殊ポリカーボネート樹脂の複屈折が小さくなる点で有利である。
【0047】
特殊ポリカーボネート樹脂の製造における、炭酸ジエステルの仕込み量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記一般式(1)で表される化合物及び一般式(1)で表される化合物以外のジヒドロキシ化合物との合計1モルに対して、0.97モル〜1.20モルが好ましく、0.98モル〜1.10モルがより好ましい。前記炭酸ジエステルの仕込み量が、0.97モル未満である、又は、1.20モルを超えると、高分子量の樹脂が得られないことがある。
【0048】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、結晶核剤、強化剤、染料、帯電防止剤、抗菌剤、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明の特殊ポリカーボネートシートの厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm〜500μmが好ましく、100μm〜300μmがより好ましい。前記厚みが、50μm未満であると、強度が低下することがあり、500μmを超えると、透明性が低下し、リタデーションが高くなり、外観が悪くなることがある。一方、前記厚みが、より好ましい範囲内であると、強度を保ちつつ、外観が良好となる点で有利である。なお、前記厚みは、例えば、電子マイクロ膜厚計(商品名:KL1300B、アンリツ社製)を用いて、測定することができる。
【0050】
本発明の特殊ポリカーボネートシートの引張強度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60MPa以上が好ましく、70MPa以上がより好ましい。前記引張強度が、60MPa未満であると、強度不足となることがある。なお、前記引張強度は、例えば、引っ張り試験機(商品名:オートグラフAGS−100G、島津製作所製)を用いて、ASTM D882−61Tに基づき測定することができる。
【0051】
本発明の特殊ポリカーボネートシートの形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶融押出法、キャスト法、などが挙げられる。これらの中でも、溶融押出法が、生産性の点で好ましい。
【0052】
溶融押出法における条件としては、特に制限はなく、Tダイを用いた方法、インフレーション法など、目的に応じて適宜選択することができるが、厚さムラが小さく、厚さ15μm〜500μmに加工しやすいTダイを用いる方法が好ましい。
【0053】
この特殊ポリカーボネートシートを偏光フィルムの光入射側、すなわち、アイウェア使用時に人の目の反対側に位置するように用いることにより着色干渉縞を生じ難くすることが出来る。
【0054】
偏光フィルムの両面に保護層を貼り合わせるために用いる接着剤としては、アクリル樹脂系材料、ウレタン樹脂系材料、ポリエステル樹脂系材料、メラミン樹脂系材料、エポキシ樹脂系材料、シリコーン系材料等が使用でき、特に、接着層自体あるいは接着した際の透明性と芳香族ポリカーボネート樹脂との接着性の点から、ウレタン樹脂系材料であるポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ウレタン樹脂が好ましい。このようにして特殊ポリカーボネート偏光シートを得る。
【0055】
偏光フィルムと保護層の芳香族ポリカーボネートシート(シート(A))あるいは特殊ポリカーボネートシート(シート(B))を接着する接着剤には、調光染料を溶解させた接着剤を用いても良く、このような調光染料を用いて作製された偏光多層シートは、調光機能も併せ持つ偏光多層トシートとなり、虹目の発生が抑えられる効果も有するため優れた外観となる。
【0056】
次いで、偏光多層シートに曲げ加工が施される。曲げ加工の方法に関して特に制限はなく、目的に応じて球面あるいは非球面に形状を付与できるような工程を経て加工すればよい。偏光多層シートの曲げ加工条件については、特に制限はないが、射出成形に用いる金型表面に沿うように曲げられている必要があり、また偏光フィルムは曲げ加工において延伸方向に沿った亀裂、いわゆる膜切れが生じやすいのでこれらの点から、偏光多層シートの曲げ加工における金型温度は偏光多層シートに使用した芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移点前後の温度が好ましく、加えて、予熱処理により曲げ加工直前の偏光多層シート温度が芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移点より50℃低い温度以上ガラス転移点未満の温度であることが好ましく、特に、ガラス転移点より40℃低い温度以上ガラス転移点より5℃低い温度未満であることが好ましい。
【0057】
射出成型ポリカーボネート
本願発明の別の態様では、偏光多層シートに芳香族ポリカーボネート樹脂が射出される。なお、芳香族ポリカーボネート樹脂を曲げ加工後に射出して偏光多層レンズを成型する場合、屈折率差による外観悪化を防止するため、射出した芳香族ポリカーボネート樹脂と接する面はシート(A)の芳香族ポリカーボネート樹脂にすることが望ましい。射出成形の加工条件については、特に制限はないが、外観に優れている必要があり、この点から、金型温度は偏光多層シートに使用した芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移点より50℃低い温度以上ガラス転移点未満の温度が好ましく、特に、ガラス転移点より40℃低い温度以上ガラス転移点より15℃低い温度未満が好ましい。
射出成型用の芳香族ポリカーボネート樹脂の種類としては強度、耐熱性、及び耐久性から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンや2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジハロゲノフェニル)アルカンで代表されるビスフェノール化合物から周知の方法で製造された重合体等が挙げられ、中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0058】
射出成型ポリカーボネート偏光多層レンズは、金型内に芳香族ポリカーボネート樹脂を射出して充填するので、インサートした偏光多層シートの厚みムラが見えなくなるという利点もあり、焦点屈折力を持たないレンズにおいても耐衝撃性、外観や眼精疲労に対して特に優れた製品に使用されている。
【0059】
射出成型ポリカーボネート偏光多層レンズのように金型内に熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂を充填して得られるレンズにおいては、両面それぞれの金型の表面形状と両面の間隔を適宜設定することにより、成形されたレンズの両面それぞれの形状と肉厚を自由に設定出来るので、成形されたレンズの焦点屈折力、プリズム屈折力、および像歪が所望の値になるよう光学設計に基づいて金型の表面形状と両面の間隔が設定される。
【0060】
成形されたレンズの表面形状と成形時に接していた金型の表面形状は多くの場合同一だが、レンズの表面形状に非常に高い精度が要求される場合には、金型内に充填した熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂が固化する際に生じる体積収縮によるレンズ肉厚の減少や表面形状の変化を補償するために、両面それぞれの金型の表面形状と両面の間隔を適宜微調整する場合がある。
【0061】
ハードコート処理
ハードコートの材質あるいは加工条件については、特に制限はないが、外観や下地の特殊ポリカーボネートシートに対して、あるいは続いてコートされるミラーコートや反射防止コート等の無機層に対する密着性に優れている必要がある。この点から、焼成温度は偏光多層シートに使用した芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移点より50℃低い温度以上ガラス転移点未満の温度が好ましく、特に、ガラス転移点より40℃低い温度以上ガラス転移点より15℃低い温度未満である120℃前後の温度であり、ハードコートの焼成に要する時間は概ね30分から2時間の間である。
【0062】
このように形成された偏光多層レンズの表面には、適宜、ハードコート、反射防止膜などが形成され、次いで玉摺り、穴あけ、ネジ締め等によりフレームに固定してアイウェア(サングラスやゴーグルなど)になる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、下記実施例中で記載されるTorrは圧力の単位であり、760Torrは1atm(1気圧)に相当する。
【0064】
(特殊ポリカーボネートシートA1の作製)
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン15.46kg(35.26モル)、ビスフェノールA 1.203kg(5.269モル)、ジフェニルカーボネート11.269kg(52.66モル)、及び炭酸水素ナトリウム0.02602g(3.097×10−4モル)を、攪拌機及び留出装置付きの50L反応器に入れ、窒素雰囲気760Torr(1気圧)の条件下で1時間かけて215℃に加熱し撹拌した。
その後、15分間かけて減圧度を150Torrに調整し、215℃、150Torrの条件下で20分間保持しエステル交換反応を行った。さらに、37.5℃/hrの速度で240℃まで昇温し、240℃、150Torrの条件下で10分間保持した。その後、10分間かけて120Torrに調整し、240℃、120Torrの条件下で70分間保持した。その後、10分間かけて100Torrに調整し、240℃、100Torrの条件下で10分間保持した。さらに、40分間かけて1Torr以下とし、240℃、1Torr以下の条件下で10分間撹拌下重合反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み加圧にし、生成したポリカーボネート樹脂をペレタイズしながら抜き出した。得られたポリカーボネート樹脂のMw=56900、Tg=145℃であった。このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥し、樹脂に対して、高分子量酸化防止剤(商品名:IRGANOX1010、BASFジャパン製)1000ppmを添加し、リン系酸化防止剤(アデカスタブPEP−36、(株)ADEKA製)500ppmを添加して、押出機により250℃で混練して、ペレタイズし、ペレットを得た。このペレットの分子量(Mw)が56100であった。
該ペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度250℃、ダイ温度250℃で、ロール温度135℃でフィルム成形し、厚みが300μmの特殊ポリカーボネートシートA1を得た。得られた特殊ポリカーボネートシートA1は、光弾性係数が37×10−12/Nであり、波長600nmにおけるリタデーション値(Re)が3.6nmであり、水蒸気透過率が17g/m/dayであった。
なお、分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg)、厚み、光弾性係数、波長600nmにおけるリタデーション値、及び水蒸気透過率は、以下のように測定し、以下の実施例及び比較例でも同様とした。
【0065】
<分子量(Mw)の測定方法>
前記分子量(Mw)は、GPC(商品名:GPC System−21H、昭和電工(株)製)を用い、クロロホルムを展開溶媒として、既知の分子量(分子量分布=1)の標準ポリスチレンを用いて作成した検量線に基づいて、GPCのリテンションタイムから算出した。
【0066】
<ガラス転移温度(Tg)の測定方法>
前記ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析計(DSC)(セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて測定した。
【0067】
<厚みの測定方法>
前記厚みは、ダイヤル式厚さゲージ(商品名:ダイヤルスイフトゲージQ−1、尾崎製作所製)を用いて、測定した。
【0068】
<光弾性係数の測定方法>
前記光弾性係数は、エリプソメーター(商品名:M220、日本分光製)を用いて、厚さ100μmのキャストフィルムに、波長633nmのレーザー光線を照射し、フィルムにかけた荷重の変化に対する複屈折の変化を測定し算出することにより測定した。
【0069】
<波長600nmにおけるリタデーション値(Re)の測定方法>
前記波長600nmにおけるリタデーション値(定義:複屈折Δn×厚さd)は、エリプソメーター(商品名:M220、日本分光製)を用いて、測定対象のシートまたはフィルムをセットしてスキャンすることにより測定した。
【0070】
<水蒸気透過率の測定方法>
前記水蒸気透過率は、L80−4000L(LYSSY AG ZLLIKON社製)を使用して、40℃/90%RH条件で、JIS−K7209のA法に準じて測定した。
【0071】
<解像度の測定方法>
米国規格ANSI−Z87.1内「14.10 Refractive Power , Resolving Power and Astigmatism Tests」に記載されている方法により測定を行った。解像度チャートとしては図4のチャートを用いた。
【0072】
<虹目の観察方法>
光学的歪の測定方法;上記で得られた各レンズを次に示す方法により測定した。市販の蛍光灯スタンド(昼白色、15ワット球)を偏光度99.5%以上の偏光板で被い、偏光板を水平になる様、スタンドをセットした。この上にレンズの曲面加工を施した凸面が偏光板に接する様に置いた。レンズをその状態で回転させ、光学的歪による干渉縞が最も明確に見える位置で目視にて虹目の観察を行った。
【0073】
(特殊ポリカーボネートシートA2の作製)
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン13.22kg(30.10モル)、ジフェニルカーボネート6.14kg(28.7モル)、および炭酸水素ナトリウム0.0152g(1.81×10―4モル)を攪拌機および留出装置付きの50リットル反応器に入れ、窒素雰囲気760Torrの下1時間かけて215℃に加熱し撹拌した。その後、15分かけて減圧度を150Torrに調整し、215℃、150Torrの条件下で20分間保持しエステル交換反応を行った。さらに37.5℃/hrの速度で240℃まで昇温し、240℃、150Torrで10分間保持した。その後、10分かけて120Torrに調整し、240℃、120Torrで70分間保持した。その後、10分かけて100Torrに調整し、240℃、100Torrで10分間保持した。更に40分かけて1Torr以下とし、240℃、1Torr以下の条件下で10分間撹拌下重合反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み加圧にし、生成したポリカーボネート樹脂をペレタイズしながら抜き出した。得られたポリカーボネート樹脂のペレット7kg(9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン 15.94モル)と、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂“ユーピロンE−2000”(商品名:三菱エンジニアリングプラスチックス社製)のペレット0.59kg(ビスフェノールA 2.32モル)とをよく振り混ぜ、押出し機により260℃で混練りしてペレタイズし、ブレンドペレット5.4kgを得た。得られたブレンドペレットのTgは148℃であった。
該ブレンドペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度250℃、ダイ温度250℃で、ロール温度135℃でフィルム成形し、厚みが300μmの特殊ポリカーボネートシートA2を得た。得られた特殊ポリカーボネートシートA2は、光弾性係数が37×10−12/Nであり、波長600nmにおけるリタデーション値(Re)が3.2nmであり、水蒸気透過率が19g/m/dayであった。
【0074】
(ポリカーボネートシートBの作製)
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン21.95kg(50.0モル)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール9.80kg(50.0モル)、ジフェニルカーボネート21.85kg(52.0モル)、及び炭酸水素ナトリウム2.5×10−3g(3×10−5モル)を攪拌機及び留出装置付きの50L反応器に入れ、窒素雰囲気760Torrで、1時間かけて215℃まで加熱し、攪拌した。
その後、15分間かけて、減圧度を150Torrに調整し、215℃、150Torrの条件下で20分間保持し、エステル交換反応を行った。さらに、37.5℃/hrの速度で240℃まで昇温し、240℃、150Torrの条件下で10分間保持した。その後、10分間かけて120Torrに調整し、240℃、120Torrの条件下で70分間保持した。その後、10分間かけて100Torrに調整し、240℃、100Torrの条件下で10分間保持した。さらに、40分間かけて1Torr以下とし、240℃、1Torr以下の条件下で、10分間撹拌下重合反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み加圧にし、生成したポリカーボネート樹脂をペレタイズしながら抜き出した。得られたポリカーボネート樹脂は、分子量(Mw)が64500であり、ガラス転移温度(Tg)が125℃であった。このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥し、樹脂に対して、高分子量酸化防止剤(商品名:IRGANOX1010、BASFジャパン製)1000ppmを添加し、リン系酸化防止剤(アデカスタブPEP−36、(株)ADEKA製)500ppmを添加して、押出機により250℃で混練して、ペレタイズし、ペレットを得た。このペレットの分子量(Mw)が63500であった。該ペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度250℃、ダイ温度250℃で、ロール温度135℃でフィルム成形し、厚みが300μmのポリカーボネートシートBを得た。得られたポリカーボネートシートBは、光弾性係数が27×10−12/Nであり、波長600nmにおけるリタデーション値が4.8nmであり、水蒸気透過率が15g/m/dayであった。
【0075】
(偏光フィルムAの作製)
ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:クラレビニロン#750)をクロランチンファストレッド(C.I.28160)0.25g/L、クリソフェニン(C.I.24895)0.18g/L、ソロフェニルブルー4GL(C.I.34200)1.0g/L及び硫酸ナトリウム10g/Lを含む水溶液中で35℃で3分間染色した後、溶液中で4倍に延伸した。ついでこの染色シートを酢酸ニッケル2.5g/Lおよびほう酸6.6g/Lを含む水溶液中35℃で3分浸漬した。ついでそのシートを緊張状態が保持された状態で室温で3分乾燥を行った後、70℃で3分間加熱処理し、偏光フィルムAを得た。
【0076】
(射出成型用ポリカーボネート)
射出成型用のポリカーボネートとしてはビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジアニンリングプラスチック社製 CLS3400)を用いた。
【0077】
(実施例1)
偏光フィルムAの片面に特殊ポリカーボネートシートA1(Tg=145℃)、他方の面に厚さ0.3mmのビスフェノールA型芳香族ポリカーボネートシート(三菱瓦斯化学社製。リタデーション値300nm。Tg=145℃)をウレタン樹脂系接着剤にて貼り合わせて、偏光多層シートを作製した。
この偏光多層シートを、図1に示すような基本形状としては直径79.5mmの真円であり、垂直方向の幅が55mmにカットされる型でストリップ形状として打ち抜き、ベースカーブ7.95(曲率半径66.67mm)の金型を用いて曲げ加工を行い、図2に記載したような偏光多層レンズを作製した。曲げ加工においては金型温度138℃、保持時間120秒の条件にて成形した。ここで言うベースカーブとは、レンズ前面の曲率の意味で用いており、530をミリメータ単位の曲率半径で除した値のことである。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、図5に示すように虹目は観測されず、解像度は12であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることで特殊ポリカーボネート偏光アイウェアを作製した。
【0078】
(実施例2)
実施例1で作製した偏光多層レンズを射出成形用の金型内にインサートし、レンズの凹面側に溶融したポリカーボネートを射出成形して、図3に記載したような偏光多層レンズを作製した。射出成形においては、1回の射出で同時に2個の偏光多層レンズを形成できるベースカーブ7.932(曲率半径66.81mm)の金型を用い、計量値40mm、シリンダー温度300℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧60MPa、V−P切り替え位置8mmの条件にて成形した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、虹目は観測されず、解像度は17であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることで特殊ポリカーボネート偏光アイウェアを作製した。
【0079】
(実施例3)
特殊ポリカーボネートシートA1を特殊ポリカーボネートシートA2に変更した以外は実施例1と同様にして、偏光多層レンズを作製した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、虹目は観測されず、解像度は12であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることで特殊ポリカーボネート偏光アイウェアを作製した。
【0080】
(実施例4)
実施例3で作製した偏光多層レンズを射出成形用の金型内にインサートし、レンズの凹面側に溶融したポリカーボネートを射出成形して、図3に記載したような偏光多層レンズを作製した。射出成形においては、1回の射出で同時に2個の偏光多層レンズを形成できるベースカーブ7.932(曲率半径66.81mm)の金型を用い、計量値40mm、シリンダー温度300℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧60MPa、V−P切り替え位置8mmの条件にて成形した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、虹目は観測されず、解像度は17であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることで特殊ポリカーボネート偏光アイウェアを作製した。
【0081】
(比較例1)
特殊ポリカーボネートシートA1(Tg=145℃)をポリカーボネートシートB(Tg=125℃)に変更した以外は実施例1と同様にして偏光多層レンズを作製した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、虹目は観測されず、解像度は12未満であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることでポリカーボネート偏光アイウェアを作製した。
【0082】
(比較例2)
比較例1で作製した偏光多層レンズを射出成形用の金型内にインサートし、レンズの凹面側に溶融したポリカーボネートを射出成形して、図3に記載したような偏光多層レンズを作製した。射出成形においては、1回の射出で同時に2個の偏光多層レンズを形成できるベースカーブ7.932(曲率半径66.81mm)の金型を用い、計量値40mm、シリンダー温度300℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧60MPa、V−P切り替え位置8mmの条件にて成形した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、虹目は観測されず、解像度は12未満であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることでポリカーボネート偏光アイウェアを作製した。
【0083】
(比較例3)
厚さ0.3mm、リタデーション値5500nmのビスフェノールA型芳香族ポリカーボネートシート(三菱瓦斯化学社製。Tg=145℃)の延伸軸と偏光フィルムAの延伸軸が共に偏光多層レンズの水平方向になるように、偏光フィルムAの両面に芳香族ポリカーボネートシートをウレタン樹脂系接着剤にて貼り合わせて、芳香族ポリカーボネート偏光シートを作製した。
この芳香族ポリカーボネート偏光シートを、図1に示すような基本形状としては直径79.5mmの真円であり、垂直方向の幅が55mmにカットされる型でストリップ形状として打ち抜き、ベースカーブ7.95(曲率半径66.67mm)の金型を用いて曲げ加工を行い、図2に記載したような偏光多層レンズを作製した。曲げ加工においては金型温度138℃、保持時間120秒の条件にて成形した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、虹目は観測されず、解像度は12未満であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることで偏光アイウェアを作製した。
【0084】
(比較例4)
比較例3で作製した偏光多層レンズを射出成形用の金型内にインサートし、レンズの凹面側に溶融したポリカーボネートを射出成形して、図3に記載したような偏光多層レンズを作製した。射出成形においては、1回の射出で同時に2個の偏光多層レンズを形成できるベースカーブ7.932(曲率半径66.81mm)の金型を用い、計量値40mm、シリンダー温度300℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧60MPa、V−P切り替え位置8mmの条件にて成形した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、虹目は観測されず、解像度は12未満であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることで偏光アイウェアを作製した。
【0085】
(比較例5)
偏光フィルムAの両面に厚さ0.3mmのポリカーボネートシート(三菱瓦斯化学社製。リタデーション値300nm)をウレタン樹脂系接着剤にて貼り合わせて、芳香族ポリカーボネート偏光シートを作製した。
この芳香族ポリカーボネート偏光シートを、図1に示すような基本形状としては直径79.5mmの真円であり、垂直方向の幅が55mmにカットされる型でストリップ形状として打ち抜き、ベースカーブ7.95(曲率半径66.67mm)の金型を用いて曲げ加工を行い、図2に記載したような偏光レンズを作製した。曲げ加工においては金型温度138℃、保持時間120秒の条件にて成形した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、図6に示すように虹目が観測され、解像度は12であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることで偏光アイウェアを作製した。
【0086】
(比較例6)
比較例5で作製した偏光多層レンズを射出成形用の金型内にインサートし、レンズの凹面側に溶融したポリカーボネートを射出成形して、図3に記載したような偏光多層レンズを作製した。射出成形においては、1回の射出で同時に2個の偏光多層レンズを形成できるベースカーブ7.932(曲率半径66.81mm)の金型を用い、計量値40mm、シリンダー温度300℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧60MPa、V−P切り替え位置8mmの条件にて成形した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、虹目が観測され、解像度は17であった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることで偏光アイウェアを作製した。
【0087】
(比較例7)
偏光フィルムAの両面に特殊ポリカーボネートシートA1(Tg=145℃)をウレタン樹脂系接着剤にて貼り合わせて、偏光多層シートを作製した。
この偏光多層シートを、図1に示すような基本形状としては直径79.5mmの真円であり、垂直方向の幅が55mmにカットされる型でストリップ形状として打ち抜き、ベースカーブ7.95(曲率半径66.67mm)の金型を用いて曲げ加工を行った。曲げ加工においては金型温度138℃、保持時間120秒の条件にて成形した。続いて、射出成形用の金型内にインサートし、レンズの凹面側に溶融したポリカーボネートを射出成形して、偏光多層レンズを作製した。射出成形においては、1回の射出で同時に2個の偏光多層レンズを形成できるベースカーブ7.932(曲率半径66.81mm)の金型を用い、計量値40mm、シリンダー温度300℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧60MPa、V−P切り替え位置8mmの条件にて成形した。偏光多層レンズの虹目観察と解像度測定を行った結果、虹目は観測されず、解像度は17であったが、射出成型時に溶融した特殊ポリカーボネート樹脂に由来する流れ模様が認められ、外観が悪いレンズであった。続いて、形状加工を行って枠を取り付けることでポリカーボネート偏光アイウェアを作製した。
【0088】
実施例1〜4及び比較例1〜7で作製したアイウェアの虹目観察結果、解像度、および射出成型の有無を下記に示す。なお、ここでTgはガラス転移温度であり、Reはリタデーションの値を示す。
【表1】
【表2】
【符号の説明】
【0089】
1 偏光フィルム
2 特殊ポリカーボネートシート
3 芳香族ポリカーボネートシート
4、5 接着層
6 芳香族ポリカーボネート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7