特許第6290107号(P6290107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6290107耐摩耗性に優れた内燃機関用バルブシートおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290107
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】耐摩耗性に優れた内燃機関用バルブシートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20180226BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20180226BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20180226BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20180226BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20180226BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20180226BHJP
   C22C 22/00 20060101ALI20180226BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20180226BHJP
   F01L 3/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C22C38/00 304
   B22F7/00 Z
   C22C19/07 F
   C22C19/03 F
   C22C27/04 102
   C22C19/05 A
   C22C22/00
   C22C27/04 101
   C22C27/02 101Z
   F01L3/02 F
   F01L3/02 H
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-559770(P2014-559770)
(86)(22)【出願日】2014年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2014052241
(87)【国際公開番号】WO2014119720
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2016年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-16959(P2013-16959)
(32)【優先日】2013年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】池見 聡史
(72)【発明者】
【氏名】大重 公志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢一
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−248234(JP,A)
【文献】 特開平05−202451(JP,A)
【文献】 特開2008−030071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
B22F 7/00
C22C 19/03
C22C 19/05
C22C 19/07
C22C 22/00
C22C 27/02
C22C 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体化した2層からなる鉄基焼結体製内燃機関用バルブシートであって、前記バルブシートの少なくともバルブ当たり面側の層が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、Co、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で70%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、硬質粒子をビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVであるCo基金属間化合物粒子とし、該硬質粒子を前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で10〜65%含み、かつ該硬質粒子を1000個/mm以上分散させてなる基地部組織とを有し、
前記バルブ当たり面側の層と一体化された着座面側の層が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成または、質量%でC:0.3〜2.0%を含み、Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で10%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有すること
を特徴とする耐摩耗性に優れた内燃機関用バルブシート
【請求項2】
前記Co基金属間化合物粒子が、Mo−Fe−Cr−Si系Co基金属間化合物粒子であることを特徴とする請求項に記載の内燃機関用バルブシート。
【請求項3】
固体潤滑剤粒子を、前記基地部組織中に、前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用バルブシート
【請求項4】
固体潤滑剤粒子を、前記着座面側の層の基地相中に、前記着座面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の内燃機関用バルブシート。
【請求項5】
原料粉末として、鉄系粉末と硬質粒子粉末と黒鉛粉末と、あるいはさらに合金元素粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを配合し混合して混合粉とし、該混合粉を金型に挿入し圧縮成形して所定形状、密度の圧粉体とし、該圧粉体を焼結して、1層または一体化した2層からなる鉄基焼結体製バルブシートとする、内燃機関用バルブシートの製造方法であって、
前記バルブシートの少なくともバルブ当たり面側の層形成用として、前記硬質粒子粉末が、ビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVであるCo基金属間化合物粉末であり、前記原料粉末を、焼結後の基地部組成が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、Co、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で70%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成となるように配合し、かつ焼結後の基地部の組織が、前記硬質粒子を前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で10〜65%含み、かつ該硬質粒子を1000個/mm以上分散させてなる組織となるように、前記硬質粒子粉末の一部または全部を、平均粒径で15〜50μmの粉末とし、かつ前記鉄系粉末を平均粒径が15〜50μmの粉末として配合し、
前記焼結後の前記バルブ当たり側の層が、前記基地部組成と、前記硬質粒子をビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVであるCo基金属間化合物粒子とし、該硬質粒子を前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で10〜65%含み、かつ該硬質粒子を1000個/mm以上分散させてなる基地部組織とを有する層である鉄基焼結体製バルブシートとする、
ことを特徴とする耐摩耗性に優れた内燃機関用バルブシートの製造方法
【請求項6】
前記Co基金属間化合物粉末が、Mo−Fe−Cr−Si系Co基金属間化合物粉末であることを特徴とする請求項に記載の内燃機関用バルブシートの製造方法。
【請求項7】
前記固体潤滑剤粒子粉末を、焼結後の前記バルブ当たり面側の層の基地相中に、前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%となるように混合することを特徴とする請求項5または6に記載の内燃機関用バルブシートの製造方法。
【請求項8】
前記焼結後、さらに成形と焼結とを少なくとも1回以上繰返すことを特徴とする請求項ないしのいずれかに記載の内燃機関用バルブシートの製造方法。
【請求項9】
前記バルブシートが前記バルブ当たり面側の層と一体化された着座面側の層を有し、該着座面側の層形成用として、前記混合粉を、前記原料粉末として鉄系粉末と黒鉛粉末と、あるいはさらに合金元素粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを、焼結後の着座面側の層の基地部組成が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成、または質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で10%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成、となるように配合し、かつ前記鉄系粉末を平均粒径が60〜80μmの粉末として配合した混合粉とすることを特徴とする請求項ないしのいずれかに記載の内燃機関用バルブシートの製造方法。
【請求項10】
前記固体潤滑剤粒子粉末を、焼結後の前記着座面側の層の基地相中に、前記着座面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%となるように混合することを特徴とする請求項に記載の内燃機関用バルブシートの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に使用される1層または2層形式のバルブシートに係り、とくに耐摩耗性の更なる向上に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、吸気口、排気口を開閉するバルブを着座させるバルブシートには、燃焼室の気密性を保持することができるとともに、バルブの繰返し当接による摩耗に十分に耐えられる耐摩耗性を保持することが要求されている。近年の内燃機関の高出力化、燃費向上の要求に伴い、バルブシートに対しては、更なる耐摩耗性の向上が要求されるようになっている。とくに、CNG、LPG等のガスエンジン、アルコール燃料等のエンジンでは、バルブシートの摩耗が増大し、バルブシートの更なる耐摩耗性向上が要求されている。
【0003】
このような要求に対し、例えば、特許文献1には、優れた耐摩耗性を発揮するFe基焼結合金製バルブシートの製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術は、素地形成用原料粉末として質量%で、C:0.5〜1.5%、Ni:0.1〜3%、Mo:0.5〜3%、Co:3〜8%、Cr:0.2〜3%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成および20〜50μmの平均粒径を有するFe基合金粉末を、硬質分散相形成用原料粉末として質量%で、Mo:20〜32%、Cr:5〜10%、Si:0.5〜3%を含有し、残部がCoと不可避的不純物からなる組成および20〜50μmの平均粒径を有するCo基合金粉末を使用し、Co基合金粉末をFe基合金粉末との合計量に対する割合で25〜35質量%配合し、混合してなる混合粉末のプレス成形体を、真空雰囲気で固相焼結して、質量%で、C:0.5〜1.5%、Ni:0.1〜3%、Mo:0.5〜3%、Co:13〜22%、Cr:1〜5%、Si:0.1〜1%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の基地に、Mo−Fe−Co系合金の硬質分散相が均一に分布し、10〜20%の気孔率を有するFe基焼結合金基体を形成し、銅または銅合金を溶浸してFe基焼結合金製バルブシートとする技術である。
【0004】
また、特許文献2には、耐摩耗性焼結部材の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術では、基地形成粉末と硬質形成粉末を含む原料粉末を圧粉成形し焼結するに際し、基地形成粉末を90質量%以上が最大粒径46μmの微粉末とし、硬質形成粉末を原料粉末の40〜70質量%としている。なお、特許文献2に記載された技術では、基地形成粉末をCr:11〜13質量%含有する鉄基合金粉とすることが好ましいとしている。これにより、耐摩耗性および強度をより向上させ、さらには耐食性にも優れた焼結部材を得ることができるとしている。
【0005】
また、特許文献3には、焼結バルブシートの製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術では、最大粒径が74μmの基地形成粉末に、最大粒径が150μmでMo:20〜60質量%、Cr:3〜12質量%、Si:1〜5質量%、および残部Coと不可避的不純物よりなる硬質相形成粉を40〜70質量%と、黒鉛粉末:0.8〜2.0質量%とを添加して混合した原料粉末を圧粉成形した後、焼結する焼結バルブシートの製造方法である。なお、基地形成粉末は、粒径46μm以下の粉末が90%以上、粒径74μm以下の粉末が残部となる粒度構成を有することが好ましいとしている。また、基地形成粉末としては、Mo、Cr、Ni、V、Co等を単独または複合して比較的多量に含有する鋼粉末を用いることが好ましいとしている。なお、特許文献3に記載された発明では、気孔を銅、銅合金、鉛、鉛合金で充填するとしている。これにより、苛酷な環境下でも、なお一層の高い耐摩耗性を発揮できるとしている。
【0006】
また、特許文献4には、バルブシート用鉄基焼結合金材が記載されている。特許文献4に記載された技術は、2種類の硬質粒子を分散含有した鉄基焼結合金材であり、第1硬質粒子を平均一次粒子径が5〜20μmの硬質粒子とし、第2硬質粒子を平均一次粒子径が20〜150μmの硬質粒子として、これらの粒子を用いて混合した場合の混合硬質粒子のピークトップ位置に相当する粒径のうち、隣接するピークトップ位置の粒径の差を15〜100μmの範囲となるように、第1、第2の硬質粒子を選択的に用い、第1硬質粒子と第2の硬質粒子とが合計で10〜60面積%を占めるように配合するとしている。これにより、バルブシートとしたときの耐摩耗性向上、相手バルブ攻撃性の低減、機械的強度の向上を同時に達成することが可能となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−124162号公報
【特許文献2】特開2007−107034号公報
【特許文献3】特開2007−113101号公報
【特許文献4】WO 2009/122985 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3に記載された技術では、基地形成用粉末として、Ni、Mo、Co、Cr等の合金元素を比較的多量に含有する粉末を使用しており、混合粉の成形性が低下し、さらに、強度、被削性、密度等が低下するという問題を残していた。
また、特許文献4に記載された技術では、更なる耐摩耗性の向上のために、微細な硬質粒子を多量に含有すると、硬質粒子が凝集して、均一に分散しにくくなり、しかも凝集した硬質粒子が摩耗の起点になるという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、硬質粒子を基地相中に均一かつ微細に分散させた、耐摩耗性に優れかつ圧環強度にも優れた内燃機関用バルブシートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、基地相中での硬質粒子の分散に影響する各種要因について、鋭意検討した。その結果、硬質粒子粉末以外の粉末の性状が、硬質粒子の分散に大きく影響していることを見出した。
そして、微細な硬質粒子を分散させて更なる耐摩耗性の向上を図ろうとして、微細な硬質粒子粉末を多量に配合すると、硬質粒子同士が凝集しやすくなり、かえって硬質粒子の分散が粗くなる場合があることを見出した。これは、純鉄粉や合金鋼粉などの基地形成のための鉄系粉末を、硬質粒子粉末に比べて粒径が大きい粗い粉末で構成した場合に顕著になることを知見した。
【0011】
そこで、本発明者らは、硬質粒子が凝集し硬質粒子相として粗く分散することを防止するためには、混合粉中に配合される硬質粒子粉末を、#350の篩を通過する平均粒径が15〜50μmの微細な粉末(−#350)とするとともに、基地形成用粉末(鉄系粉末)を、上記した硬質粒子とほぼ等しい粒径である、#325の篩を通過する平均粒径が15〜50μmの微細な粉末(−#325)とすることが肝要であることに思い至った。
【0012】
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
鉄系粉末と、硬質粒子粉末と、黒鉛粉末と、合金元素粉末と、固体潤滑剤粉末を原料粉として、原料粉の種類を種々変化させて配合し、V型混合機で混練して混合粉A,Cとした。これらの混合粉を金型に装入しメカニカルプレス機で圧縮成形して、圧粉密度:7.0g/cmの1層のバルブシート形状の圧粉体とし、この圧粉体に仮焼結処理を施し、さらに加圧成形したのち、還元雰囲気中で焼結温度:1150℃で焼結処理を施す、2P2S工程を施し、鉄基焼結体とした。なお、混合粉には、潤滑剤粒子粉末として、鉄系粉末と合金元素粉末と黒鉛粉末と硬質粒子粉末と固体潤滑剤粉末との合計量を100質量部として、ステアリン酸亜鉛を1.0質量部配合した。
【0013】
混合粉Aでは、鉄系粉末と合金元素粉末と黒鉛粉末と硬質粒子粉末と固体潤滑剤粉末とを使用し、それらの合計量に対する質量%で、鉄系粉末として、平均粒径60〜80μmのアトマイズ純鉄粉と平均粒径60〜80μmの高速度鋼粉とを合計で60%、硬質粒子粉末として、平均粒径5〜20μmのCo基金属間化合物粉末と平均粒径20〜150μmのCo基金属間化合物粉末とを合計で35%、黒鉛粉末を1.0%と、合金元素粉としてNi粉末を2.0%とし、固体潤滑材粉末としてMnS粉末を2.0%、配合し、混合粉とした。
【0014】
また、混合粉Cでは、鉄系粉末と合金元素粉末と黒鉛粉末と硬質粒子粉末と固体潤滑剤粉末とを使用し、それらの合計量に対する質量%で、鉄系粉末として、#325の篩を通過する平均粒径で15〜50μmのアトマイズ純鉄粉(−#325)と平均粒径で15〜50μmの高速度鋼粉(−#325)とを合計で60%、硬質粒子粉末として、#350の篩を通過する平均粒径で15〜50μmのCo基金属間化合物粉末(−#350)を35%、黒鉛粉末を1.0%、合金元素粉としてNi粉末を2.0%とし、固体潤滑材粉末としてMnS粉末を2.0%、配合し、混合粉とした。
【0015】
得られた鉄基焼結体から、切削、研削加工によりバルブシート(寸法形状:φ30×φ21×8mm)を加工し、単体リグ摩耗試験機を用いて単体リグ摩耗試験を実施した。単体リグ摩耗試験では、バルブシートをシリンダヘッド相当品の治具に圧入したのち、試験機に装着した熱源によりバルブおよびバルブシートを加熱しながらクランク機構によりバルブを上下させて、試験した。なお、摩耗量はバルブ沈み量で測定した。試験条件はつぎの通りとした。
【0016】
試験温度:300℃(シート面)
試験時間:6h
カム回転数:3000rpm
バルブ回転数:20rpm
スプリング荷重:2940kgf(300N)(セット時)
バルブ材:T400肉盛材
リフト量:9mm
なお、LPG+Air量、冷却水量は一定とした。
【0017】
また、得られた鉄基焼結体から、切削、研削加工によりバルブシート(寸法形状:φ28×φ22×6.5mm)に加工し、JIS Z 2507に準拠して、圧環強度を測定した。
得られた結果から、混合粉Aを用いた鉄基焼結体(基準材)を基準(1.00)にして、耐摩耗性および圧環強度を比較し、表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
混合粉Cを用いた鉄基焼結体は、基準材(混合粉Aを用いた鉄基焼結体)に比べて、耐摩耗性および圧環強度がともに増加している。
ついで、得られた鉄基焼結体から組織観察用試験片を採取し、断面を研磨し腐食(腐食液:マーブル液)して、光学顕微鏡で組織を観察した。その一例を混合粉Aを用いた鉄基焼結体および混合粉Cを用いた鉄基焼結体について、模式図とともに図1に示す。図1から、混合粉Aを使用した鉄基焼結体では、硬質粒子が凝集して粗大な硬質粒子相を形成している。これに対し、混合粉Cを使用した鉄基焼結体では、硬質粒子の凝集は認められず、硬質粒子相は基地中に比較的均一に分散している。
【0020】
この実験結果からは、混合粉に配合する硬質粒子粉末を平均粒径15〜50μmの微細な硬質粒子粉末(−#350)とし、鉄系粉末を平均粒径15〜50μmの微細な鉄系粉末(−#325)として配合した混合粉を使用して焼結体とすれば、すなわち、鉄系粉末および硬質粒子粉末をいずれも、平均粒径のほぼ等しい、平均粒径が15〜50μmの微細な粉末として配合すること、さらに#350や#325の篩により大きな径の粉末を除いたことにより、焼結体の基地相中に硬質粒子相を均一、微細に分散できることを知見した。
【0021】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)体化した2層からなる鉄基焼結体製内燃機関用バルブシートであって、前記バルブシートの少なくともバルブ当たり面側の層が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、Co、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で70%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、硬質粒子をビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVであるCo基金属間化合物粒子とし、該硬質粒子を前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で10〜65%含み、かつ該硬質粒子を1000個/mm以上分散させてなる基地部組織とを有し、前記バルブ当たり面側の層と一体化された着座面側の層が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成または、質量%でC:0.3〜2.0%を含み、Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で10%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有することを特徴とする耐摩耗性に優れた内燃機関用バルブシート
)()において、前記Co基金属間化合物粒子が、Mo−Fe−Cr−Si系Co基金属間化合物粒子であることを特徴とする内燃機関用バルブシート。
)(1)または2)において、固体潤滑剤粒子を、前記基地部組織中に、前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%含有することを特徴とする内燃機関用バルブシート
)(ないし(3)のいずれかにおいて、固体潤滑剤粒子を、前記着座面側の層の基地相中に、前記着座面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%含むことを特徴とする内燃機関用バルブシート。
)原料粉末として、鉄系粉末と硬質粒子粉末と黒鉛粉末と、あるいはさらに合金元素粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを配合し混合して混合粉とし、該混合粉を金型に挿入し圧縮成形して所定形状、密度の圧粉体とし、該圧粉体を焼結して、1層または一体化した2層からなる鉄基焼結体製バルブシートとする、内燃機関用バルブシートの製造方法であって、前記バルブシートの少なくともバルブ当たり面側の層形成用として、前記硬質粒子粉末が、ビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVであるCo基金属間化合物粉末であり、前記原料粉末を、焼結後の基地部組成が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、Co、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で70%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成となるように配合し、かつ焼結後の基地部の組織が、前記硬質粒子を前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で10〜65%含み、かつ該硬質粒子を1000個/mm以上分散させてなる組織となるように、前記硬質粒子粉末の一部または全部を、平均粒径で15〜50μmの粉末とし、かつ前記鉄系粉末を平均粒径が15〜50μmの粉末として配合し、前記焼結後の前記バルブ当たり側の層が、前記基地部組成と、前記硬質粒子をビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVであるCo基金属間化合物粒子とし、該硬質粒子を前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で10〜65%含み、かつ該硬質粒子を1000個/mm以上分散させてなる基地部組織とを有する層である鉄基焼結体製バルブシートとする、ことを特徴とする耐摩耗性に優れた内燃機関用バルブシートの製造方法
)()において、前記Co基金属間化合物粉末が、Mo−Fe−Cr−Si系Co基金属間化合物粉末であることを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法。
)(または(6)において、前記固体潤滑剤粒子粉末を、焼結後の前記バルブ当たり面側の層の基地相中に、前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%となるように混合することを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法。
)()ないし()のいずれかにおいて、前記焼結後、さらに成形と焼結とを少なくとも1回以上繰返すことを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法。
)()ないし()のいずれかにおいて、前記バルブシートが前記バルブ当たり面側の層と一体化された着座面側の層を有し、該着座面側の層形成用として、前記混合粉を、前記原料粉末として鉄系粉末と黒鉛粉末と、あるいはさらに合金元素粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを、焼結後の着座面側の層の基地部組成が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成、または質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で10%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成、となるように配合し、かつ前記鉄系粉末を平均粒径が60〜80μmの粉末として配合した混合粉とすることを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法。
10)()において、前記固体潤滑剤粒子粉末を、焼結後の前記着座面側の層の基地中に、前記着座面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%となるように混合することを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、基地相中に硬質粒子相が均一かつ微細に分散し、耐摩耗性が従来より格段に向上し、かつ高い強度を有する内燃機関用バルブシートを容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】焼結体(バルブシート)断面における光学顕微鏡組織(b)およびその模式図(a)である。
図2】単体リグ試験機の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明では、原料粉末として、鉄系粉末と、合金元素粉としての黒鉛粉末と、硬質粒子粉末と、あるいはさらに黒鉛以外の合金元素粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末と、あるいはさらに潤滑剤粒子粉末とを配合し、混合して混合粉とする。そして、得られた混合粉を金型に挿入し圧粉成形して所定形状、所定密度の圧粉体とする。ついで、該圧粉体を焼結して、1層または一体化した上下2層からなる鉄基焼結体製バルブシートとする。
【0025】
混合粉には、原料粉末として、鉄系粉末と、合金元素としての黒鉛粉末と、硬質粒子粉末と、あるいはさらに黒鉛以外の合金元素粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末と、あるいはさらに潤滑剤粒子粉末とを配合する。
本発明におけるバルブシートのバルブ当り面側層は、基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有する、鉄系焼結合金製とする。基地相中に硬質粒子を分散させることにより、バルブシートの耐摩耗性が顕著に向上する。このため、配合する硬質粒子粉末は、ビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVの粉末とすることが好ましい。このような粉末としては、Co基金属間化合物粉末またはFe基金属間化合物粉末、あるいはFe-Mo系硬質粒子粉末が例示できる。なかでも、Co基金属間化合物粒子は、比較的軟らかなCo基地中に硬さの高い金属間化合物が分散した粒子であり、相手攻撃性が低いという特徴があり好ましい。また、Co基金属間化合物粉末は、Si−Cr−Mo系Co基金属間化合物、Si−Ni−Cr−Mo系Co基金属間化合物、Mo−Fe−Cr−Si系Co基金属間化合物粉末が、また、Fe基金属間化合物粉末は、Co−Ni−Cr−Mo系Fe基金属間化合物が、それぞれ例示できる。なお、Co基金属間化合物粒子、Fe基金属間化合物粒子の硬さは500〜1200HV0.1であることが好ましい。
Co基金属間化合物粒子の中では、Mo−Fe−Cr−Si系Co基金属間化合物粒子が、硬質粒子としてとくに耐摩耗性を向上する作用が顕著である。Mo−Fe−Cr−Si系Co基金属間化合物粒子は質量%で、Mo:35〜47%、Fe:3〜15%、Cr:3〜10%、Si:2〜5%、残部Coおよび不可避的不純物からなる組成とすることが好ましい。
【0026】
また、本発明では、バルブ当り面側層で、焼結後の基地部組織が、硬質粒子を、バルブ当り面側層全量に対する質量%で、10〜65%含み、かつ該硬質粒子が1000個/mm以上分散した組織となるように、硬質粒子を配合するものとする。
硬質粒子の分散量が、10%未満では、所望の耐摩耗性が確保できない。一方、65%を超える分散は、効果が飽和し、添加量に見合う効果が期待できなくなる。このため、バルブ当り面側層における硬質粒子の分散量をバルブ当り面側層全量に対する質量%で、10〜65%の範囲に限定した。なお、より好ましくは30〜40%である。
【0027】
本発明では、分散する硬質粒子の個数を、硬質粒子の微細かつ均一分散の指標とする。本発明では、バルブ当り面側層においては、硬質粒子を上記した含有量でかつ分散する個数を1000個/mm以上に限定する。分散する硬質粒子の個数が1000個/mm未満では、硬質粒子の凝集が著しく、耐摩耗性の顕著な向上が望めない。このため、分散する硬質粒子の個数を1000個/mm以上に限定した。なお、好ましくは1200〜2000個/mmである。
【0028】
なお、分散する硬質粒子の個数は、分析装置付き走査型電子顕微鏡を用いて、硬質粒子に含まれる重金属を分析し、その像(COMP像)を撮像し、その分布状況から、独立した硬質粒子を識別して、単位面積当たりでの個数を測定して求めるものとする。なお、個数の測定にあたっては、測定を容易にするために、硬質粒子に含まれる重金属元素のCOMP像とそれ以外の元素のCOMP像とに2値化して行うことが好ましい。
【0029】
また、バルブ当り面側層では、上記した硬質粒子に加えて、さらに固体潤滑剤をバルブ当り面側層全量に対する質量%で、0.5〜2.0%含有させてもよい。含有量が、0.5%未満では、所望の潤滑効果が期待できないうえ、切削性が低下する。一方、2.0%を超える含有は、切削性向上効果が飽和するうえ、強度の低下を招く。このため、含有する場合には、0.5〜2.0%の範囲に限定することが好ましい。固体潤滑剤としては、MnS、CaFが例示できる。
【0030】
また、本発明では、1層の場合の層形成用として、または一体化した2層の場合の、バルブ当たり面側の層形成用として、混合粉には、焼結後の基地部組成が、基地相と、上記したように硬質粒子、あるいはさらに固体潤滑粒子を含み、C:0.3〜2.0%で、さらにCo、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で70%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するように、原料粉末を配合するものとする。
【0031】
基地部の組成限定理由について説明する。ここで「%」は、とくに断らない限り、質量%を意味する。
C:0.3〜2.0%
Cは、焼結体の強度、硬さを増加させ、焼結時に金属原子の拡散を容易にする元素であり、本発明では、0.3%以上含有させることが好ましい。一方、2.0%を超える含有は、基地中にセメンタイトが生成しやすくなるとともに、焼結時に液相が発生しやすく、寸法精度が低下するという問題がある。このため、Cは0.3〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.9〜1.1%である。
【0032】
Co、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上:合計で70%以下
Co、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vはいずれも、焼結体の強度、硬さを増加させ、さらには耐摩耗性を向上させる元素であり、このような効果を得るためには、硬質粒子起因を含め、少なくとも1種を選択し合計で25%以上含有することが望ましい。一方、これらの元素の含有量が合計で70%を超えると、成形性が低下し、強度も低下する。このため、Co、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で、70%以下に限定した。なお、好ましくは合計で60%以下、さらに好ましくは40%以下である。
【0033】
上記した成分以外のバルブ当り面側層の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
また、混合粉に原料粉末として配合される硬質粒子粉末は、焼結体中で基地相中に分散し耐摩耗性向上に寄与する。配合する硬質粒子粉末を微細な粉末とするほど、基地中に微細に分散する傾向があり、耐摩耗性の向上のためには、できるだけ微細な粉末を使用することが好ましい。このため、本発明では、硬質粒子粉末は、製造性、とくに流動性の観点から、微細な硬質粒子粉末である、平均粒径が15〜50μm(−#350程度)の粉末とした。なお、粉末の平均粒径測定は、例えば、レーザー回析法を用いて得られた値を用いるものとする。
【0034】
本発明では、原料粉末の一つとして混合粉に配合され、基地を構成する鉄系粉末は、硬質粒子粉末の平均粒径と略同程度であるか、より細かい平均粒径を有する粉末とすることが好ましい。基地を形成する鉄系粉末が、硬質粒子粉末の平均粒径より大きくなると、硬質粒子粉末が凝集しやすくなり、硬質粒子粉末の均一かつ微細分散が困難となる。このため、本発明では配合する鉄系粉末を、硬質粒子と略同じ平均粒径の粉末である、平均粒径が15〜50μmを有する粉末とした。なお、平均粒径は、好ましくは25〜35μmである。
【0035】
なお、配合する鉄系粉末としては、アトマイズ純鉄粉、合金元素の合計量が5質量%以下の合金鋼粉、高速度鋼粉などが例示できる。これら粉末を、焼結後の基地部組成に適合するように、単独で、あるいは複合して配合することが好ましい。
硬質粒子粉末、固体潤滑剤粉末、鉄系粉末以外に、混合粉に配合される粉末、例えばNi粉、Co粉、黒鉛粉等の合金元素粉末も、硬質粒子を微細に分散させるという観点から、平均粒径が15〜50μmを有する粉末とすることが好ましい。上記した平均粒径を超えて大きな粉末では、硬質粒子を微細に分散させることができなくなる。
【0036】
一方、バルブシートが、バルブ当り面側層と一体化した着座面側の層(着座面側層)を有する場合には、着座面側層は、焼結によりバルブ当り面側層と境界面を介して一体化され、バルブ当り面側層と同様に鉄系焼結合金製である。着座面側層は、バルブとは接触せず、バルブ当り面側層を支え、単にバルブシートとして所望の強度を確保できる組成とすることが好ましい。
【0037】
着座面側の層形成用としては、原料粉末として鉄系粉末と黒鉛粉末と、あるいはさらに合金元素粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを配合し混合した混合粉を用いることが好ましい。なお、この際、原料粉末として配合する鉄系粉末は、バルブ当り面側層と同様の粉末がいずれも好適であるが、アトマイズ鉄粉とすることが好ましく、しかも平均粒径が60〜80μmの粉末とすることが好ましい。
【0038】
また、着座面側層では、固体潤滑剤粒子粉末を、着座面側層全量に対する質量%で、0.5〜2.0%含有させてもよい。含有量が、0.5%未満では、所望の潤滑効果が期待できないうえ、切削性が低下する。一方、2.0%を超える含有は、切削性向上効果が飽和するうえ、強度の低下を招く。このため、含有する場合には、0.5〜2.0%の範囲に限定することが好ましい。固体潤滑剤としては、MnS、CaFが例示できる。
【0039】
着座面側の層形成用の混合粉には、焼結後の基地相組成(なお、固体潤滑剤粒子が分散している場合にはそれを含む基地部組成)が、C:0.3〜2.0%を含み、あるいはさらに、Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で10%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成となるように、原料粉末を配合することが好ましい。
なお、着座面側層の焼結後の基地相組成(なお、固体潤滑剤粒子が分散している場合にはそれを含む基地部組成)の限定理由はつぎのとおりである。
【0040】
C:0.3〜2.0%
Cは、焼結体の強度、硬さを増加させる元素であり、本発明では、バルブシートとして所望の強度、硬さを確保するために、着座面側層では0.3%以上含有することが望ましいが、2.0%を超える含有は、基地中にセメンタイトが生成しやすくなるとともに、焼結時に液相が発生しやすく、寸法精度が低下するという問題がある。このため、Cは0.3〜2.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.9〜1.1%である。
【0041】
上記した成分が着座面側層の基本の成分であるが、この基本成分に加えてさらに、選択元素として、Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で10%以下、含有してもよい。
Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上:合計で10%以下
Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vはいずれも、着座面側層の強度、硬さを増加させる元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。このような効果を得るためには、合計で1%以上含有することが望ましいが、これら元素の含有量が合計で10%を超えて含有しても効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、含有する場合には合計で10%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは5〜6%である。
なお、上記した以外の着座面側層の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
【0042】
つぎに、バルブシートの好ましい成形方法について説明する。
本発明では、ダイ、コアロッド、上パンチ、下パンチと、互いに独立して駆動可能な2種のフィーダーとを有するプレス成形機を用いることが好ましい。以下、バルブ当り面側層と着座面側層との2層からなるバルブシートを例にして説明する。
【0043】
まず、下パンチを相対的に下降させ、下パンチとダイとコアロッドとで着座面側層用の充填空間を形成し、該充填空間に、第1のフィーダーを移動させ、着座面側層用の混合粉を充填する。ついで、ダイとコアロッドを下パンチに対し相対的に上昇させて、バルブ当り面側層用の充填空間を形成し、該充填空間に、第2のフィーダーを移動させ、バルブ当り面側層用混合粉を充填する。そして、上パンチを下降させて、バルブ当り面側層用混合粉および着座面側層用混合粉とを一体的に加圧し、圧粉体とする。なお、加圧条件は、所望に応じて適宜決定すればよく、とくに限定する必要はないが、所望のバルブシート特性と関連して、5.0〜7.5g/cmの範囲の圧粉体密度となるように調整することが好ましい。
そして、得られた圧粉体に、ついで焼結処理を施して上下2層構造の焼結体とする。焼結処理の条件としては、還元雰囲気中で行なうこと以外は、所望の特性に応じて適宜、決定すればよく、とくに限定する必要はない。なお、焼結温度は、1100〜1200℃とすることが焼結拡散の観点から好ましい。
【0044】
なお、強度確保の観点から、加圧成形と焼結処理とを少なくとも2回繰り返す、いわゆる2P2S工程とすることが好ましい。2P2S工程では、1回目の焼結処理は、仮焼結とし、2回目の焼結処理により所望の密度を有する焼結体とすることが好ましい。これにより、更なる密度向上が期待される。また、2P2S工程に代えて、鍛造成形ののち焼結処理を施す、鍛造−焼結工程、FS工程としてもよい。
以下、実施例に基づいて、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0045】
表2に示す原料粉末を、表2に示す配合量で配合し、V型混合機で混練し、各種のバルブ当り面側層用混合粉および着座面側用混合粉とした。なお、使用した鉄系粉末、硬質粒子粉末の種類、および平均粒径については表3に一括して示す。なお、混合粉No.A1は従来の配合例(従来例)である。
これら混合粉を、ダイ、コアロッド、上パンチ、下パンチと、互いに独立して駆動可能な2種のフィーダーと、を有するプレス成形機を用いて、上下2層の圧粉体とした。
【0046】
まず、下パンチを相対的に下降させ、下パンチとダイとコアロッドとで着座面側層用の充填空間を形成し、該充填空間に、第1のフィーダーを移動させ、着座面側層用混合粉を充填した。ついで、ダイとコアロッドを下パンチに対し相対的に上昇させて、バルブ当り面側層用の充填空間を形成し、該充填空間に、第2のフィーダーを移動させ、バルブ当り面側層用混合粉を充填した。そして、上パンチを下降させて、バルブ当り面側層用混合粉および着座面側層用混合粉とを一体的に加圧成形し、上下2層の圧粉体とした。なお、1部では1層の圧粉体とした。その場合には、第1のフィーダーは使用しなかった。
【0047】
得られた圧粉体に、仮焼結処理を施し、さらに粉末成形機で加圧成形(面圧:6〜10ton/cm)したのち、焼結処理(還元雰囲気中で、1100〜1200℃)を施す、2P2S工程を施し、焼結体とした。なお、一部の焼結体では、成形と焼結を1回とする1P1S工程とした。また、一部の焼結体では、2P2S工程に代えて、鍛造−焼結工程を施すFS工程とした。なお、焼結体の厚さは8mmとし、上下2層の場合には1:1とした。
得られた焼結体の各層から分析用試料を採取し、発光分析により各元素の含有量を求めた。測定は、2層の境界面より内側の断面とした。
【0048】
また、得られた焼結体について、アルキメデス法を用いて密度を測定した。
また、得られたバルブシート(焼結体)を、図2に示す単体リグ摩耗試験機に装入し、下記の試験条件
試験温度:300℃(シート面)
試験時間:6hr
カム回転数:3000rpm
バルブ回転数:20rpm
スプリング荷重:2940kgf(300N)(セット時)
リフト量:9mm
バルブ材質:T400肉盛材
なお、LPG+Air量、冷却水量は一定とした。
で運転し、試験後の試験片(バルブシート)の凹み深さを測定し、摩耗量(μm)を算出した。焼結体No.1の摩耗量を基準(1.00)として、当該焼結体の摩耗量比を算出した。基準より摩耗量が少ない場合を○、それ以外を×として耐摩耗性を評価した。
【0049】
また、得られた鉄基焼結体から、切削、研削加工によりバルブシート(寸法形状:(φ28×φ22×6.5mm)に加工し、JIS Z 2507に準拠して、圧環強度を測定した。焼結体No.1の圧環強度を基準(1.00)として、当該焼結体の圧環強度比を算出した。基準より圧環強度が高い場合を○、それ以外を×として圧環強度を評価した。
【0050】
得られた結果を表4、表5に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
本発明例はいずれも、従来例(焼結体No.1)に比べて、耐摩耗性に優れ、かつ高い圧環強度を示すバルブシート(鉄基焼結体)となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、耐摩耗性が低下しているか、圧環強度が低下しているか、あるいは両方とも低下している。
【符号の説明】
【0056】
1 バルブシート
2 セティングプレート
3 熱源(LPG+Air)
4 バルブ
図1
図2