【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、基地相中での硬質粒子の分散に影響する各種要因について、鋭意検討した。その結果、硬質粒子粉末以外の粉末の性状が、硬質粒子の分散に大きく影響していることを見出した。
そして、微細な硬質粒子を分散させて更なる耐摩耗性の向上を図ろうとして、微細な硬質粒子粉末を多量に配合すると、硬質粒子同士が凝集しやすくなり、かえって硬質粒子の分散が粗くなる場合があることを見出した。これは、純鉄粉や合金鋼粉などの基地形成のための鉄系粉末を、硬質粒子粉末に比べて粒径が大きい粗い粉末で構成した場合に顕著になることを知見した。
【0011】
そこで、本発明者らは、硬質粒子が凝集し硬質粒子相として粗く分散することを防止するためには、混合粉中に配合される硬質粒子粉末を、#350の篩を通過する平均粒径が15〜50μmの微細な粉末(−#350)とするとともに、基地形成用粉末(鉄系粉末)を、上記した硬質粒子とほぼ等しい粒径である、#325の篩を通過する平均粒径が15〜50μmの微細な粉末(−#325)とすることが肝要であることに思い至った。
【0012】
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
鉄系粉末と、硬質粒子粉末と、黒鉛粉末と、合金元素粉末と、固体潤滑剤粉末を原料粉として、原料粉の種類を種々変化させて配合し、V型混合機で混練して混合粉A,Cとした。これらの混合粉を金型に装入しメカニカルプレス機で圧縮成形して、圧粉密度:7.0g/cm
3の1層のバルブシート形状の圧粉体とし、この圧粉体に仮焼結処理を施し、さらに加圧成形したのち、還元雰囲気中で焼結温度:1150℃で焼結処理を施す、2P2S工程を施し、鉄基焼結体とした。なお、混合粉には、潤滑剤粒子粉末として、鉄系粉末と合金元素粉末と黒鉛粉末と硬質粒子粉末と固体潤滑剤粉末との合計量を100質量部として、ステアリン酸亜鉛を1.0質量部配合した。
【0013】
混合粉Aでは、鉄系粉末と合金元素粉末と黒鉛粉末と硬質粒子粉末と固体潤滑剤粉末とを使用し、それらの合計量に対する質量%で、鉄系粉末として、平均粒径60〜80μmのアトマイズ純鉄粉と平均粒径60〜80μmの高速度鋼粉とを合計で60%、硬質粒子粉末として、平均粒径5〜20μmのCo基金属間化合物粉末と平均粒径20〜150μmのCo基金属間化合物粉末とを合計で35%、黒鉛粉末を1.0%と、合金元素粉としてNi粉末を2.0%とし、固体潤滑材粉末としてMnS粉末を2.0%、配合し、混合粉とした。
【0014】
また、混合粉Cでは、鉄系粉末と合金元素粉末と黒鉛粉末と硬質粒子粉末と固体潤滑剤粉末とを使用し、それらの合計量に対する質量%で、鉄系粉末として、#325の篩を通過する平均粒径で15〜50μmのアトマイズ純鉄粉(−#325)と平均粒径で15〜50μmの高速度鋼粉(−#325)とを合計で60%、硬質粒子粉末として、#350の篩を通過する平均粒径で15〜50μmのCo基金属間化合物粉末(−#350)を35%、黒鉛粉末を1.0%、合金元素粉としてNi粉末を2.0%とし、固体潤滑材粉末としてMnS粉末を2.0%、配合し、混合粉とした。
【0015】
得られた鉄基焼結体から、切削、研削加工によりバルブシート(寸法形状:φ30×φ21×8mm)を加工し、単体リグ摩耗試験機を用いて単体リグ摩耗試験を実施した。単体リグ摩耗試験では、バルブシートをシリンダヘッド相当品の治具に圧入したのち、試験機に装着した熱源によりバルブおよびバルブシートを加熱しながらクランク機構によりバルブを上下させて、試験した。なお、摩耗量はバルブ沈み量で測定した。試験条件はつぎの通りとした。
【0016】
試験温度:300℃(シート面)
試験時間:6h
カム回転数:3000rpm
バルブ回転数:20rpm
スプリング荷重:2940kgf(300N)(セット時)
バルブ材:T400肉盛材
リフト量:9mm
なお、LPG+Air量、冷却水量は一定とした。
【0017】
また、得られた鉄基焼結体から、切削、研削加工によりバルブシート(寸法形状:φ28×φ22×6.5mm)に加工し、JIS Z 2507に準拠して、圧環強度を測定した。
得られた結果から、混合粉Aを用いた鉄基焼結体(基準材)を基準(1.00)にして、耐摩耗性および圧環強度を比較し、表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
混合粉Cを用いた鉄基焼結体は、基準材(混合粉Aを用いた鉄基焼結体)に比べて、耐摩耗性および圧環強度がともに増加している。
ついで、得られた鉄基焼結体から組織観察用試験片を採取し、断面を研磨し腐食(腐食液:マーブル液)して、光学顕微鏡で組織を観察した。その一例を混合粉Aを用いた鉄基焼結体および混合粉Cを用いた鉄基焼結体について、模式図とともに
図1に示す。
図1から、混合粉Aを使用した鉄基焼結体では、硬質粒子が凝集して粗大な硬質粒子相を形成している。これに対し、混合粉Cを使用した鉄基焼結体では、硬質粒子の凝集は認められず、硬質粒子相は基地中に比較的均一に分散している。
【0020】
この実験結果からは、混合粉に配合する硬質粒子粉末を平均粒径15〜50μmの微細な硬質粒子粉末(−#350)とし、鉄系粉末を平均粒径15〜50μmの微細な鉄系粉末(−#325)として配合した混合粉を使用して焼結体とすれば、すなわち、鉄系粉末および硬質粒子粉末をいずれも、平均粒径のほぼ等しい、平均粒径が15〜50μmの微細な粉末として配合すること、さらに#350や#325の篩により大きな径の粉末を除いたことにより、焼結体の基地相中に硬質粒子相を均一、微細に分散できることを知見した。
【0021】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)
一体化した2層からなる鉄基焼結体製内燃機関用バルブシートであって、前記バルブシートの少なくともバルブ当たり面側の層が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、Co、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で70%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成と、硬質粒子を
ビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVであるCo基金属間化合物粒子とし、該硬質粒子を前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で10〜65%含み、かつ該硬質粒子を1000個/mm
2以上分散させてなる基地部組織とを有
し、前記バルブ当たり面側の層と一体化された着座面側の層が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成または、質量%でC:0.3〜2.0%を含み、Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で10%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有することを特徴とする耐摩耗性に優れた内燃機関用バルブシート
。
(
2)(
1)において、前記Co基金属間化合物粒子が、Mo−Fe−Cr−Si系Co基金属間化合物粒子であることを特徴とする内燃機関用バルブシート。
(
3)(1)
または(
2)において、固体潤滑剤粒子を、前記基地部組織中に、前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%含有することを特徴とする内燃機関用バルブシート
。
(
4)(
1)
ないし(3)のいずれかにおいて、固体潤滑剤粒子を、前記着座面側の層の基地相中に、前記着座面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%含むことを特徴とする内燃機関用バルブシート。
(
5)原料粉末として、鉄系粉末と硬質粒子粉末と黒鉛粉末と、あるいはさらに合金元素粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを配合し混合して混合粉とし、該混合粉を金型に挿入し圧縮成形して所定形状、密度の圧粉体とし、該圧粉体を焼結して、1層または一体化した2層からなる鉄基焼結体製バルブシートとする、内燃機関用バルブシートの製造方法であって、前記バルブシートの少なくともバルブ当たり面側の層形成用として、
前記硬質粒子粉末が、ビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVであるCo基金属間化合物粉末であり、前記原料粉末を、焼結後の基地部組成が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、Co、Si、Ni、Mo、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で70%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成となるように配合し、かつ焼結後の基地部の組織が、前記硬質粒子を前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で10〜65%含み、かつ該硬質粒子を1000個/mm
2以上分散させてなる組織となるように、
前記硬質粒子粉末の一部または全部を、平均粒径で15〜50μmの粉末とし、かつ前記鉄系粉末を平均粒径が15〜50μmの粉末として配合
し、前記焼結後の前記バルブ当たり側の層が、前記基地部組成と、前記硬質粒子をビッカース硬さHV0.1で500〜1200HVであるCo基金属間化合物粒子とし、該硬質粒子を前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で10〜65%含み、かつ該硬質粒子を1000個/mm2以上分散させてなる基地部組織とを有する層である鉄基焼結体製バルブシートとする、ことを特徴とする耐摩耗性に優れた内燃機関用バルブシートの製造方法
。
(
6)(
5)において、前記Co基金属間化合物粉末が、Mo−Fe−Cr−Si系Co基金属間化合物粉末であることを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法。
(
7)(
5)
または(6)において、前記固体潤滑剤粒子粉末を、焼結後の前記バルブ当たり面側の層の基地相中に、前記バルブ当たり面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%となるように混合することを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法。
(
8)(
5)ないし(
7)のいずれかにおいて、前記焼結後、さらに成形と焼結とを少なくとも1回以上繰返すことを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法。
(
9)(
5)ないし(
8)のいずれかにおいて、前記バルブシートが前記バルブ当たり面側の層と一体化された着座面側の層を有し、該着座面側の層形成用として、前記混合粉を、前記原料粉末として鉄系粉末と黒鉛粉末と、あるいはさらに合金元素粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末とを、焼結後の着座面側の層の基地部組成が、質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成、または質量%で、C:0.3〜2.0%を含み、Mo、Si、Ni、Cr、Mn、S、W、Vのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で10%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成、となるように配合し、かつ前記鉄系粉末を平均粒径が60〜80μmの粉末として配合した混合粉とすることを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法。
(
10)(
9)において、前記固体潤滑剤粒子粉末を、焼結後の前記着座面側の層の基地
相中に、前記着座面側の層全量に対する質量%で0.5〜2.0%となるように混合することを特徴とする内燃機関用バルブシートの製造方法
。