(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290173
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】流体の吸収スペクトルを高速取得するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20180226BHJP
【FI】
G01N21/3504
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-503880(P2015-503880)
(86)(22)【出願日】2013年4月4日
(65)【公表番号】特表2015-512521(P2015-512521A)
(43)【公表日】2015年4月27日
(86)【国際出願番号】EP2013057112
(87)【国際公開番号】WO2013150102
(87)【国際公開日】20131010
【審査請求日】2014年11月20日
【審判番号】不服2017-8128(P2017-8128/J1)
【審判請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】102012007030.6
(32)【優先日】2012年4月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】308011030
【氏名又は名称】ドレーゲルヴェルク アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト アウフ アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Draegerwerk AG & Co.KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ブーフタール
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ドライアー
(72)【発明者】
【氏名】リヴィオ フォルナシエーロ
【合議体】
【審判長】
福島 浩司
【審判官】
▲高▼見 重雄
【審判官】
▲高▼橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−321244(JP,A)
【文献】
特開2008−26397(JP,A)
【文献】
特開2004−309296(JP,A)
【文献】
特表2003−501622(JP,A)
【文献】
特開2010−286291(JP,A)
【文献】
特開2010−169625(JP,A)
【文献】
特開平9−79980(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0225917(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-21/01,21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスペクトル領域の放射を第1の放射経路(11)に沿って放出する第1の放射源(1)と、
前記第1の放射経路(11)に配置された第1の測定区間(5)と、
前記第1の放射経路(11)に配置されたチューニング可能なファブリペロー干渉計(7)と、
前記第1のスペクトル領域の放射の強度を測定するための第1の検出器(9,35)と
を有する、流体の吸収スペクトルを取得するための装置であって、
前記放射は前記第1の測定区間(5)に沿って前記流体を通過し、
前記ファブリペロー干渉計(7)は可変のバンドパスフィルタとして、前記第1のスペクトル領域の放射を透過させる装置において、
前記装置は、透過する波長領域に関する特性が不変である、前記放射のスペクトル変調を行うための第1のエタロン(3)を有し、
前記第1のエタロン(3)は前記第1の放射経路(11)に配置されており、前記第1のスペクトル領域において複数の最大透過率(17)を示し、
前記ファブリペロー干渉計(7)は、当該ファブリペロー干渉計(7)により形成されるバンドパスフィルタを前記第1のスペクトル領域全体にわたってシフトできるように構成されており、これにより、前記ファブリペロー干渉計(7)のチューニングによって前記第1のエタロン(3)による前記放射の強度のスペクトル変調、および、これに付随するバンドパスフィルタのシフトが、当該放射の強度の時間的変調に転換され、当該放射の強度の時間的変調が前記第1の検出器(9,35)により測定され、これにより、伝送波長、ひいては流体の吸収スペクトルが求められる、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記第1の検出器(9,35)により測定された前記放射の強度から前記流体の吸収スペクトルを求めるために、第1のロックイン増幅器が設けられている、
請求項1記載の装置。
【請求項3】
第2の放射源(39)が第2の放射経路(45)に沿って、第2のスペクトル領域の放射を放出し、
前記装置は、前記第2のスペクトル領域の放射の強度を測定するための第2の検出器を有し、
前記第2の放射経路(45)に、前記第2の放射源(39)が放出した放射が前記流体を通過するときに通る第2の測定区間(5’)が配置されており、
前記第1の放射経路(11)および前記第2の放射経路(45)は、当該第1の放射経路(11)および第2の放射経路(45)に前記ファブリペロー干渉計(7)が位置するように設けられており、
前記ファブリペロー干渉計(7)は可変のバンドパスフィルタとして、前記第2のスペクトル領域の放射を透過させ、
前記装置は、前記放射をスペクトル変調するための第2のエタロン(47)を有し、
前記第2のエタロン(47)は前記第2の放射経路(45)に配置されており、前記第2のスペクトル領域において複数の最大透過率(17)を有し、
前記第2のエタロン(47)による前記放射のスペクトル変調が、当該放射の強度の時間的変調として前記第2の検出器により測定できるようにするため、前記ファブリペロー干渉計(7)により形成されるバンドパスフィルタを前記第2のスペクトル領域にわたってシフトできるように、当該ファブリペロー干渉計(7)は構成されている、
請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記ファブリペロー干渉計(7)は、前記第1のスペクトル領域と前記第2のスペクトル領域とにおいて同時に放射を透過させるように構成されており、
前記第1のエタロン(3)と前記第2のエタロン(47)とによる放射のスペクトル変調を当該放射の強度の時間的変調として前記第1の検出器および第2の検出器(9,35)が測定できるようにするため、当該ファブリペロー干渉計(7)により形成されるバンドパスフィルタを前記第1のスペクトル領域と前記第2のスペクトル領域とにわたって同時にシフトできるように、当該ファブリペロー干渉計(7)は構成されている、
請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記第2の検出器により測定された前記放射の強度から前記流体の吸収スペクトルを求めるために、第2のロックイン増幅器が設けられている、
請求項3または4記載の装置。
【請求項6】
前記第1のエタロン(3)は、前記第2のエタロン(47)と一体を成すように構成されている、
請求項3から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
前記第1の測定区間(5)は前記第2の測定区間(5’)と一致する、
請求項3から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
前記第1の検出器(9,35)は、前記第2の検出器と一体を成すように構成されている、
請求項3から7までのいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
前記第1の放射源(1)は、前記第2の放射源(39)と一体を成すように構成されている、
請求項3から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
前記第1の放射源(1)は熱放射光源であり、
前記両スペクトル領域のうち1つのスペクトル領域の放射の強度の相対変化が、他方のスペクトル領域の放射の強度の相対変化より顕著に顕れるように、前記第1の放射源(1)の強度は時間的に高速で変調される、
請求項9記載の装置。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の装置を用いて、第1のスペクトル領域における流体の吸収スペクトルを取得する方法において、
前記ファブリペロー干渉計(7)により形成されるバンドパスフィルタを前記第1のスペクトル領域にわたってシフトさせるように、前記ファブリペロー干渉計(7)をチューニングし、これにより、前記第1のエタロン(3)による前記放射の強度のスペクトル変調、および、これに付随するバンドパスフィルタのシフトを当該放射の強度の時間的変調に転換し、当該放射の強度の時間的変調を前記第1の検出器(9,35)により測定し、これにより、伝送波長、ひいては流体の吸収スペクトルを求める、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項2に記載の装置を用いて、前記第1のスペクトル領域における吸収スペクトルを求めるため、前記第1のロックイン増幅器を用いて、前記第1の検出器(9,35)により出力された測定信号(33)と基準信号とを比較する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項3に記載の装置を用いて、前記第2のエタロン(47)による前記放射のスペクトル変調が当該放射の強度の時間的変調として前記第2の検出器により測定されるように、前記ファブリペロー干渉計(7)により形成されるバンドパスフィルタを前記第2のスペクトル領域にわたってシフトさせるため、当該ファブリペロー干渉計(7)をチューニングする、
請求項11記載の方法。
【請求項14】
請求項5に記載の装置を用いて、前記第2のスペクトル領域における吸収スペクトルを求めるため、前記第2のロックイン増幅器を用いて、前記第2の検出器により出力された測定信号(33)と基準信号とを比較する、
請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項4に記載の装置を用いて、前記第1のスペクトル領域と前記第2のスペクトル領域とにおいて同時に前記流体の吸収スペクトルを測定できるようにするため、前記ファブリペロー干渉計(7)をチューニングする、請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のスペクトル領域の放射を第1の放射経路に沿って放出する第1の放射源と、当該第1の放射経路に位置する第1の測定区間と、当該第1の放射経路に配置されたチューニング可能なファブリペロー干渉計と、前記第1のスペクトル領域の放射の強度を測定するための第1の検出器とを有する、流体の吸収スペクトルを取得するための装置であって、前記放射は前記第1の測定区間に沿って前記流体を通過し、前記ファブリペロー干渉計は可調整のバンドパスフィルタとして、前記第1のスペクトル領域の放射を透過させる、装置に関する。本発明はさらに、流体の吸収スペクトルの取得方法にも関する。
【0002】
医療技術分野ではしばしば、呼吸気中の選択した成分の濃度を測定ないしは監視しなければならないことが多い。たとえば、患者に麻酔をかけたときに、呼吸気中に含まれる使用されている麻酔ガスの濃度を一呼吸のたびに何回も測定したり、または、自動車の運転者の検問時に呼気中のアルコール含有量を測定する。各成分の濃度を測定するためには、分光分析法を用いる。こうするためには通常、複数の個別のフィルタを用いて、ガスが吸光を示す波長帯域で信号を取得して基準値と比較する。これにより、特定のガスに特徴的なこの波長での信号の変化から、呼吸気中のガスの濃度を推定することができる。
【0003】
従来技術から、選択された波長での吸光測定、または、スペクトル領域にわたる吸光測定を行うことにより、たとえば呼吸気等の気体または流体中の選択された成分の濃度を測定するための装置が多数公知である。このような装置は、選択された連続的なスペクトル領域にわたって放射を放出する放射源を有する。放射源と、これより下流に位置する、放射が流体を通過するときに通る測定区間との間には、濃度測定を行う対象であるガスの成分に特徴的な波長に前記放射のスペクトルを制限する光学的バンドパスフィルタが配置されている。以下、この光学的バンドパスフィルタを単に「フィルタ」と称する。放射が上述のフィルタと測定区間とを通過した後に、適切な検出器を用いてこの放射の強度を測定する。ここで、当該成分の濃度が既知である参照流体における参照測定に対する強度の減衰から、流体中の当該成分の濃度を推定することが可能となる。
【0004】
複数の成分の濃度を測定しようとする場合、各成分ごとに専用の適切なフィルタを用いる必要がある。複数の異なる成分の濃度を短時間で‐可能な限り一呼吸で、いわゆる一呼吸単位での測定として‐測定するためには、複数の異なるフィルタをいわゆるフィルタホイールに配置する。フィルタホイールとは、複数のフィルタを高速のシーケンスで、放射源と検出器との間の放射経路に入れるようにした回転盤である。しかしその欠点は、検査できる成分の数が少数であることである。というのも、各成分ごとに専用のフィルタを設けなければならず、また、フィルタホイールの大きさが限られているからである。その上、機械的な部品を用いることも一般的には不利である。というのも、この機械的部品によって保守にかかるコストが増大し、また、機械的部品は故障しやすいからである。
【0005】
完全な吸収スペクトルは、DE102006045253B3に記載されているように、チューニング可能なファブリペロー干渉計を用いて取得することができる。こうするためには、放射源と検出器との間の放射経路に、フィルタを配置する代わりにファブリペロー干渉計を配置する。ファブリペロー干渉計は、相互に平行に配置された2つの部分透過性のミラーを有する装置であり、これら2つのミラーの、反射性コーティングが施された鏡面が相互に対向している。両鏡面の相互間の距離が、ファブリペロー干渉計により透過される狭帯域の波長領域、ないしは、ファブリペロー干渉計が透過性を示す狭帯域の波長領域を決定する。ファブリペロー干渉計により透過される波長領域の幅はスペクトル分解能と称され、波長に依存する。チューニング可能なファブリペロー干渉計の場合、鏡面間の距離を変化させることにより、透過される波長領域をシフトすることができる。よってファブリペロー干渉計は、当該ファブリペロー干渉計のスペクトル分解能に相当する帯域を有する可変のバンドパスフィルタとなる。選択したスペクトル領域全体にわたって流体の吸収スペクトルを完全に検出しようとする場合には、この選択したスペクトル領域においてのみファブリペロー干渉計をチューニングすればよい。
【0006】
鏡面に適切なコーティングを施すと、ファブリペロー干渉計を2つの異なる波長領域に対して同時に透過性とすることも可能になる。よって、流体の吸収スペクトルをこれら2つの波長領域で同時に記録することができる。このようなファブリペロー干渉計を用いて流体の吸収スペクトルを取得するための装置は、DE102009011421B3から公知である。
【0007】
流体の各成分の濃度を求めるためには、検出器により記録されたスペクトルと参照測定結果とを比較する必要がある。こうするためには通常、ロックイン増幅器を用いる。ロックイン増幅器では、測定した信号に参照信号を乗算し、この乗算結果をローパスにおいて積分する。つまり、ロックイン増幅器は、測定された信号と参照信号との相互相関を形成する。
【0008】
しかしロックイン増幅器を使用できるようにするためには、検出器から出力された信号を時間的に変調することにより、放射源から放出される放射を時間的変調しなければならない。ここで時間的変調とは、放射の強度を時間と共に変化させることを指す。最も簡単なケースでは、放射源をオンオフ切替することにより、または、放射源と検出器との間の放射経路を繰り返し遮断するチョッパを後置することにより、上述の時間的変調を行うことができる。
【0009】
呼吸気中に含まれる選択した成分の吸光度は、有利には2μm〜15μmの間の波長で測定される。この波長領域の、使用可能な広帯域放射源は、通常は熱放射光源である。一呼吸単位での測定に必要な周波数である100Hz以上の周波数で、この熱放射光源を電気的に時間的変調する場合、強度の相対変調度は観察対象の波長に大きく依存し、短波長から長波長になるほどこの変調度が低下していく。2μm〜15μmのスペクトル領域では、100Hz以上の周波数の場合、波長が長くなると強度変調度は大きく低下し、ロックイン増幅器と共に用いるのに十分な強度変調度ではなくなってしまう。
【0010】
機械的なチョッパを用いることは基本的には可能であるが、これも機械的部品であり、これを保守するのは面倒である上、小型化が困難である。
【0011】
前記検出器として光音響センサまたは焦電型センサを用いる場合にも同様の問題が生じる。というのもこれら2種類のセンサは、放射の強度が時間的に変化するときしか使用できないからである。
【0012】
したがって課題は、光音響センサまたは焦電型センサを測定区間に配置して検出器として用いることができるほど高速に、放射源から放出される放射を、選択したスペクトル領域全体にわたって時間的変調できるようにすることである。さらに本発明の課題は、測定された吸収スペクトルと参照スペクトルとを比較するために、ロックイン増幅器を後置して動作できるほど高速に、放射を時間的変調できるようにすることである。
【0013】
前記課題は、放射のスペクトル変調を行うための第1のエタロンを有し、当該第1のエタロンは第1の放射経路に配置されており、第1のスペクトル領域において複数の最大透過率を示す装置により解決される。さらに、ファブリペロー干渉計は、前記第1のエタロンによる放射のスペクトル変調を、当該放射の強度の時間的変調として第1の検出器により測定できるように、当該ファブリペロー干渉計により形成されるバンドパスフィルタを前記第1のスペクトル領域全体にわたって調整できるように構成されている。
【0014】
前記装置はまず第一に、前記第1のスペクトル領域で放射を放出する第1の放射源を有する。この放射は、有利には連続スペクトルを有する。呼吸気中の成分の濃度を測定するためには、前記第1の放射源としてはたとえば、2μm〜20μmの間の波長領域の連続スペクトルを有するダイヤフラム放射体が適している。これに代えて択一的に、上述のスペクトル領域を放出する高出力のフィラメント放射体や他の熱放射光源を使用することも可能である。前記放射源から放出された放射は、有利にはレンズ構成体または反射器により十分にコリメートされ、第1の放射経路に沿って前記装置を通るように導光される。
【0015】
第1の放射経路上において放射の伝搬方向で見て検出器より上流に、第1の測定区間と、ファブリペロー干渉計と、第1のエタロンとが配置されている。放射が第1の測定区間とファブリペロー干渉計と第1のエタロンとを通過する順序は任意である。
【0016】
第1の放射経路に配置される第1の測定区間は、たとえば、検査対象である流体を内部に配置したキュベットとすることができる。
【0017】
エタロンとはここでは、鏡面間の距離を変化させることができないファブリペロー干渉計、ないしは、測定中は当該距離を変化させないファブリペロー干渉計を指す。エタロンとしてはたとえば、コーティング処理されていない研磨された薄いウェハであって、シリコンまたはゲルマニウムから成るかないしは主にシリコンまたはゲルマニウムを含むウェハを用いることができる。これに代えて択一的に、たとえば金属コーティングまたは誘電体コーティングが施された透光性のガラス板をエタロンとして用いたり、または、相互に平行になるよう離隔されたコーティング処理またはコーティング未処理の2つのプレートを用いることができる。また、エタロンを用いる代わりに、櫛状の透過特性または反射特性を有する光学部品を用いることもできる。この光学部品はたとえば、特定のプラスチックフィルム、または、顕著な櫛状の吸光特性を有するガスを充填したキュベット等である。
【0018】
第1のエタロンは、第1のスペクトル領域において複数の最大透過率を示す。これより後、第1のエタロンを通過した広帯域の放射は、当該エタロンに固有の最大強度と最小強度との変化を特徴とするスペクトル変調を示す。スペクトル変調とはここでは、放射の強度が波長ないしは周波数に依存することを指す。たとえば100μmの厚さのシリコンウェハは、4μm〜5μmの間のスペクトル領域において35個の最大透過率と、これと同数の最小透過率とを示す。8μm〜11μmの間のスペクトル領域では、同じウェハでも25個の最大透過率を示す。
【0019】
第1のエタロンは、当該第1のエタロンの複数の最大透過率のうち少なくとも複数が、流体中の濃度検査対象である成分に特徴的な波長を含むように構成することが可能である。このようにして、特徴的な吸収線が狭い、流体の各成分の濃度の測定を最適化することができる。
【0020】
有利には前記第1のエタロンは、前記複数の各最大透過率間の間隔が、第1のスペクトル領域におけるファブリペロー干渉計のスペクトル分解能よりも大きくなるように構成されている。ファブリペロー干渉計のスペクトル分解能が各最大透過率間の間隔より広幅であると、スペクトルの不所望の平滑化が生じてしまう。換言すると、ファブリペロー干渉計を用いて走査を行うと、第1のエタロンにより生成される最大強度はより広幅かつより平坦になって観察されてしまう。
【0021】
不所望のエタロン効果の増大を回避するのに有利なのは、第1のエタロンの表面の向きは、放射の伝搬方向で見て当該第1のエタロンの直ぐ上流と直ぐ下流とに配置された要素の表面に対して平行でないことである。
【0022】
第1の放射経路にはさらに、鏡面間の距離を調整できるファブリペロー干渉計が配置されている。このファブリペロー干渉計の鏡面間の距離は、前記第1のスペクトル領域において当該ファブリペロー干渉計が可変のバンドパスフィルタとなるように調整することができる。このファブリペロー干渉計により形成されるバンドパスフィルタは、第1のエタロンによるスペクトル変調が、放射の強度の時間的変調として第1の検出器により測定されるように、前記第1のスペクトル領域全体にわたって‐有利には連続的に‐シフトすることができる。換言すると、前記第1のエタロンによる放射のスペクトル変調はファブリペロー干渉計のチューニングによって放射の時間的な強度変調に転換され、かつ、これに付随するバンドパスフィルタのシフトも、放射の時間的な強度変調に転換される。このようにして、各時点におけるファブリペロー干渉計の既知の幅に基づき、伝送波長を推定することができ、これにより放射の波長を推定することも可能になる。
【0023】
たとえば、4μmから5μmまでのスペクトル領域において35個の最大透過率および最小透過率を有する、100μmの厚さのシリコンウェハから成る第1のエタロンを備えた装置の場合、当該スペクトル領域全体において1秒あたり5回、最小波長から最大波長まで往復してファブリペロー干渉計をチューニングすると、これは、350Hzの周波数での放射の強度変調に相当する。8μm〜11μmの間の波長を有するスペクトル領域では、同じシリコンウェハでも、たとえば25個の最大透過率および最小透過率を有する。したがって、このスペクトル領域全体にわたってファブリペロー干渉計を双方向に5回チューニングすると、これは、250Hzの周波数での放射の強度変調に相当する。
【0024】
さらに、前記装置は第1の検出器を有し、この第1の検出器は、放射が前記第1のエタロンとファブリペロー干渉計と第1の測定区間とを透過した後に、当該放射の強度を測定できるように配置されている。この第1の検出器は、たとえば半導体センサ、サーモパイル、サーミスタ、焦電型センサまたは光音響ガスセンサとすることができる。最後に挙げたセンサは、有利には第1の測定区間に配置される。
【0025】
このような装置が有利である理由は、当該装置がマクロメカニカル要素を何ら有さないこと、および、それにもかかわらず一呼吸単位での測定に十分に高い周波数で、幅広いスペクトル領域にわたって放射の強度を変調できることである。マクロメカニカル部品を省略できるので、前記装置はほぼ摩耗無しで動作することができ、このことにより、従来技術から公知の装置と比較して保守コストを格段に削減することができ、寿命を長くすることができる。
【0026】
1つの有利な実施形態では、第1の検出器により測定された放射の強度から流体の吸収スペクトルを求めるために、第1のロックイン増幅器が設けられている。このロックイン増幅器は、前記第1のセンサから出力された測定信号と参照信号との相互相関関数を形成し、強いノイズを含む信号でも、測定信号と参照信号との偏差が僅かであってもこれを検出できる、特に狭帯域のバンドパスフィルタとなる。それゆえこのロックイン増幅器は、流体の吸収スペクトルを記録するのに特に有利なものである。
【0027】
他の1つの有利な実施形態では前記装置は、第2の放射経路に沿って第2のスペクトル領域の放射を放出する第2の放射源と、第2の測定区間と、当該第2のスペクトル領域の放射の強度を測定するための第2の検出器とを有し、前記第2の放射源から放出された放射は、当該第2の測定区間を辿って流体を通過する。この実施形態では、前記第1の放射経路および前記第2の放射経路は、当該第1の放射経路および第2の放射経路に前記ファブリペロー干渉計が位置するように設けられている。ファブリペロー干渉計は可変のバンドパスフィルタとして、前記第2のスペクトル領域の放射を透過させることができる。前記装置はさらに、放射のスペクトル変調を行うための第2のエタロンを有し、当該第2のエタロンは第2の放射経路に配置されており、第2のスペクトル領域において複数の最大透過率を示す。さらに、ファブリペロー干渉計は、前記第2のエタロンによる放射のスペクトル変調を、当該放射の強度の時間的変調として第2の検出器により測定できるように、当該ファブリペロー干渉計により形成されるバンドパスフィルタを前記第2のスペクトル領域全体にわたってシフトできるように構成されている。
【0028】
上述の有利な実施形態にて設けられる第2の放射源が放出する放射の第2のスペクトル領域は有利には、前記第1のスペクトル領域の波長とは異なる波長を含む。たとえば、第1のスペクトル領域は2μm〜6μmの間の波長を‐有利には4μm〜5μmの間の波長を‐含み、第2のスペクトル領域は7μm〜15μmの間の波長を‐有利には8μm〜11μmの間の波長を‐含むことができる。また、前記第1の放射源と第2の放射源とが同一の波長スペクトルにわたって放射を放出し、対応するバンドパスフィルタによってのみ、それぞれのスペクトル領域に制限可能とすることもできる。
【0029】
前記装置はさらに、前記第2の放射経路に配置された第2のエタロンを有し、当該第2のエタロンは第2のスペクトル領域の放射を、前記第1のエタロンが第1のスペクトル領域の放射を変調するのと同様に変調する。特に、第2のエタロンは前記第2のスペクトル領域において複数の最大透過率を示し、これら複数の各最大透過率間の間隔は有利には、第2のスペクトル領域におけるファブリペロー干渉計の帯域幅またはスペクトル分解能より大きい。また、第2のエタロンの複数の最大透過率のうち少なくとも複数が、流体中の濃度検査対象である成分に特徴的な波長を含むように、当該第2のエタロンを構成することも可能である。
【0030】
不所望のエタロン効果の追加を回避するためには、第2のエタロンの表面の向きが、放射の伝搬方向で見て当該第2のエタロンの直ぐ上流と直ぐ下流とに配置された要素の表面に対して平行でないようにすることも有利である。
【0031】
この有利な実施形態はさらに、前記第2の放射源により放出された放射が流体を通過するときに辿る第2の測定区間も有する。この構成では、第1の測定区間と第2の測定区間とが等しい長さを有することも可能である。ここで測定区間の長さとは、前記放射が当該測定区間を辿って流体を通る区間を指す。1つの有利な実施形態では、前記第1の測定区間は第2の測定区間と一体を成すように形成されている。つまり、前記第1の測定区間と第2の測定区間とは一致するか、または、両測定区間は同一経路を通って流体を通過する。このような装置が特に有利である理由は、流体中の吸収スペクトルを同一の測定区間において2つのスペクトル領域で測定することができ、これにより、濃度測定が各成分の濃度の空間的差異に影響を受けないことを保証できることである。
【0032】
しかし、第1の測定区間と第2の測定区間とが異なる長さを有することも可能である。後者は特に、流体が吸光する程度が第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とで異なる場合に有利である。たとえば、流体中の濃度測定対象である成分が第1のスペクトル領域において吸光する程度が、ごく僅かのみであるようにすることも可能である。しかし、第1の検出器が測定できるような、吸光度の変化実現するためには、第1の測定区間をより長くして使用する。その逆に、たとえば、低濃度でも第2のスペクトル領域における吸光率が既に高い、流体中の成分の濃度を測定対象とすることも可能である。この場合、これに応じて第2の測定区間を短くし、かつ、高濃度でも第2の検出器によって未だ検出可能である変化が吸光度に生じるように選択することができる。
【0033】
本発明の上述の有利な実施形態では、ファブリペロー干渉計は第1の放射経路と第2の放射経路とに配置される。換言すると、前記第1の放射源が放出した放射も、前記第2の放射源が放出した放射も、双方ともファブリペロー干渉計を通過し、第1の放射経路と第2の放射経路とが平行に、またはほぼ平行に、または相互に重なってファブリペロー干渉計を通過する。
【0034】
たとえば、放射が各エタロンを通過した後は、第1の放射経路と第2の放射経路とが同一のビームスプリッタに入射することが可能である。その際にはたとえば、第1の放射源が放出した放射のうち、前記ビームスプリッタにより透過された成分が、ファブリペロー干渉計において前記第1の放射経路を成し、かつ、第2の放射源が放出した放射のうち、当該ビームスプリッタが反射した成分が当該ファブリペロー干渉計において前記第2の放射経路を成すように、当該ビームスプリッタを配置する。
【0035】
前記装置はさらに第2の検出器も有し、当該第2の検出器は、前記放射が第2のエタロンと第2の測定区間と前記ファブリペロー干渉計とを通過した後に当該放射を前記第2のスペクトル領域において測定するのに適したものである。
【0036】
前記ファブリペロー干渉計はさらに、前記第2のスペクトル領域において当該ファブリペロー干渉計が、シフト可能なバンドパスフィルタとなるように当該ファブリペロー干渉計の鏡面間の距離が調整可能であるように構成されている。このファブリペロー干渉計により形成されるバンドパスフィルタは、第2のエタロンによるスペクトル変調が、放射の強度の時間的変調として第2の検出器により測定されるように、前記第2のスペクトル領域全体にわたって‐有利には連続的に‐シフトすることができる。換言すると、前記第2のエタロンによる放射のスペクトル変調はファブリペロー干渉計のチューニングによって放射の時間的な強度変調に転換され、かつ、これに付随するバンドパスフィルタのシフトも、放射の時間的な強度変調に転換される。
【0037】
1つの有利な実施形態では前記ファブリペロー干渉計は、前記第1のスペクトル領域と前記第2のスペクトル領域とにおいて同時に放射を透過させるように構成されており、かつ、前記第1のエタロンと前記第2のエタロンとによる放射のスペクトル変調を当該放射の強度の時間的変調として前記第1の検出器および第2の検出器が測定できるように、当該ファブリペロー干渉計により形成されるバンドパスフィルタを前記第1のスペクトル領域と前記第2のスペクトル領域とにわたって同時にシフトできるように、当該ファブリペロー干渉計は構成されている。換言すると、ファブリペロー干渉計が第1のスペクトル領域および第2のスペクトル領域において同時にバンドパスを成すように、当該ファブリペロー干渉計の両鏡面間の距離を調整することができる。このようにして、第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とを同時に走査し、両スペクトル領域において流体の吸収スペクトルを特に短時間で取得することができ、このことにより、非常に短時間で組成が変化してしまう、流体中の成分の濃度を測定することが可能になる。
【0038】
他の1つの有利な実施形態では、第2の検出器により測定された放射の強度から流体の吸収スペクトルを求めるために、第2のロックイン増幅器が設けられている。
【0039】
さらに、第1のエタロンが第2のエタロンと一体を成すように構成することも有利である。換言すると、第1のエタロンと第2のエタロンとを設ける代わりに、前記第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とにおいて複数の最大透過率を示すエタロンを1つのみ設ける。たとえば、4μm〜5μmの間のスペクトル領域では35個の最大透過率を示し、かつ8μm〜11μmの間のスペクトル領域では25個の最大透過率を示すシリコン製の厚さ100μmのウェハを使用することができる。これにより、装置の構造サイズを格段に縮小することができる。
【0040】
その際に特に有利なのは、放射の伝搬方向で見て第1の放射経路と第2の放射経路とが第1のエタロンより下流において平行であるように、当該第1のエタロンが当該第1の放射経路と第2の放射経路とにおいてビームスプリッタとして配置されていることである。換言すると、第1のエタロンおよび第2のエタロンに代えて、同時にビームスプリッタにもなるように構成された1つの共用のエタロンであって、放射の伝搬方向で見て当該エタロンより下流に位置するファブリペロー干渉計を、前記第1の放射源により放出された放射と前記第2の放射源により放出された放射とが平行に通過するように前記第1の放射経路と第2の放射経路とをまとめるエタロンを設ける、ということである。このようにして特にコンパクトな構成を実現できるので、上述の装置は特に有利である。
【0041】
また、第1の検出器が第2の検出器と一体を成すように構成することも有利である。換言すると、第1の検出器および第2の検出器に代えて、前記第1のスペクトル領域および第2のスペクトル領域の双方において前記放射の強度を測定する検出器を1つのみ設ける。このことにより、装置の構成を特にコンパクトにすることが可能となる。
【0042】
さらに、前記第1の放射源を前記第2の放射源と同一とすることも有利である。換言すると、2つの放射源を設ける代わりに、第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とにおいて放射を放出する放射源を1つのみ設ける。このことによっても、特にコンパクトな構成を実現することができる。
【0043】
1つの有利な実施形態では、前記第1の放射源は、前記両スペクトル領域のうち1つのスペクトル領域における放射の強度の相対変化が、他方のスペクトル領域における当該相対変化よりも顕著に現れるように、強度を時間的に高速変調できる熱放射光源である。放射源が1つのみ設けられており、かつ、当該1つの放射源が熱放射光源である場合、当該放射源の強度を時間的に高速に変調するのが有利である。
【0044】
変調周波数が十分に高い場合、強度変調が影響を及ぼすスペクトル領域は、前記両スペクトル領域のうち短波長のスペクトル領域のみとなり、長波長のスペクトル領域は実質的に変調されない。1つの検出器が前記第1のスペクトル領域の吸収スペクトルと第2のスペクトル領域の吸収スペクトルとの重なりを記録する場合、上述の付加的な、短波長のスペクトル領域の変調を用いて、第1の吸収スペクトルと第2の吸収スペクトルとを相互に分離できるという格別な利点が奏される。
【0045】
前記装置はまた、別のスペクトル領域における流体の吸光率を測定できるように構成することもできる。こうするためには、前記装置は前記別のスペクトル領域ごとに、各スペクトル領域において放射を放射経路に沿って放出する放射源を有する。各放射経路上にはそれぞれ測定区間とエタロンと検出器とが配置されており、放射は各放射経路を通って前記流体を通過し、各エタロンは、各スペクトル領域の放射を変調するために複数の最大透過率を有し、各検出器は、各スペクトル領域の放射の強度を測定するように構成されている。上記構成において各放射経路は、どの放射経路にもファブリペロー干渉計が位置するように構成されている。前記ファブリペロー干渉計は、どのスペクトル領域においても可変のバンドパスフィルタとして放射を透過するように構成されており、前記エタロンによる放射のスペクトル変調を当該放射の強度の時間的変調として、前記検出器が測定できるように、各バンドパスフィルタは前記スペクトル領域全体にわたってシフト可能であるように構成されている。上述の構成の装置の場合、すべての放射源を、および/または、すべてのエタロンを、および/または、すべての測定区間を、および/または、すべての検出器を相互に一体として構成することにより、広帯域の吸収スペクトル取得装置を特にコンパクトな構成で実現できるようにすることが可能である。
【0046】
前記課題はさらに、本発明の装置を使用する方法であって、前記第1のエタロンによる前記放射のスペクトル変調を当該放射の強度の変調として前記第1の検出器により測定されるように、前記ファブリペロー干渉計により形成されたバンドパスフィルタを前記第1のスペクトル領域全体にわたってシフトさせるように当該ファブリペロー干渉計をチューニングする方法によっても解決される。
【0047】
1つの有利な実施形態では、前記第1のスペクトル領域における吸収スペクトルを測定するために、前記第1のロックイン増幅器を用いて、前記第2の検出器が出力した測定信号と基準信号とを比較する。
【0048】
上記比較のために必要な基準信号を決定する種々の手法が数多く存在する。前記第1のエタロンおよびファブリペロー干渉計により生成される、前記放射の最大強度間の間隔は、通常は時間的に一定ではない。それゆえ通常は、周波数が一定である外部の基準信号を用いることができない。しかし、強度変調された前記放射の最大値が時間的に等間隔で生じるように、ファブリペロー干渉計の制御を適応調整することができる。このようにして、周波数が一定である基準信号を用いることが可能となる。
【0049】
上述の実施形態に代えて択一的に、まず最初に第1のスペクトル領域の全体の吸収スペクトルを記録し、評価ユニットを用いて、最大強度が時間的に等間隔となるように当該吸収スペクトルを変換することもできる。このようにして生成された測定信号も、外部で生成した基準信号と比較することができる。
【0050】
また、まず最初に、前記第1の測定区間および第2の測定区間に、既知の組成の参照流体を充填した状態、または両測定区間を真空化した状態の吸収スペクトルを取得し、このときに検出器が出力した測定信号を、後続の測定用の基準信号として用いることも可能である。
【0051】
ロックイン増幅器を用いない場合、前記検出器により測定された最大強度を積分して、吸収スペクトルを測定することも可能である。最大強度が現れる時点におけるファブリペロー干渉計の幅が既知である場合、当該時点から、当該ファブリペロー干渉計のこの設定で透過される波長を推定することができ、この透過波長の推定により、当該最大強度が生じたときの波長を推定することもできる。ここで、1つの最大強度すべてを積分すると、すなわち、1つの最大強度から次の最大強度まで積分を行うと、この積分の値と参照測定値とを比較することにより、前記波長における相対吸光度を推定することができ、ロックイン増幅器を必要とすることなく、第1のスペクトル領域における吸収スペクトルを完全に作成することができる。
【0052】
他の1つの有利な実施形態では、前記第2のエタロンによる放射のスペクトル変調が当該放射の強度の時間的変調として、前記第2の検出器により測定されるように、前記ファブリペロー干渉計により形成されたバンドパスフィルタを前記第2のスペクトル領域全体にわたってシフトさせるように当該ファブリペロー干渉計をチューニングする。この実施形態においても、前記第2のスペクトル領域における吸収スペクトルを測定するために、前記第2のロックイン増幅器を用いて、前記第2の検出器が出力した測定信号と基準信号とを比較すると、さらに有利である。
【0053】
さらに、前記第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とにおいて流体の吸収スペクトルが同時に測定されるようにファブリペロー干渉計をチューニングすることも特に有利である。この実施形態は、前記第1のスペクトル領域および第2のスペクトル領域の流体の吸収スペクトルを特に短時間で記録できるという格別な利点を奏する。
【0054】
このことは特に、第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とにおける前記放射の強度を測定するために使用する検出器を1つだけ用いる場合にも実現可能である。というのも、一体(すなわち一部品)とすることも可能である第1のエタロンおよび第2のエタロンによって、放射の強度変調が行われるからである。まず最初に、1つの検出器が前記第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とにおける前記吸収スペクトルの重なりを測定する。しかし、2つまたは1つの前記エタロンを通過した後の前記放射の最大強度間の間隔は、スペクトル領域に依存して異なるので、記録後に各吸収スペクトルを簡単に分離することができる。この分離は電子的に、フーリエ解析を用いて行うか、または、各スペクトル領域に特徴的である異なった基準信号を用いる2つのロックイン増幅器を用いて前記分離を行うことができる。つまりこの場合には、ロックイン手法のために振幅変調を使用する他に、信号列のフーリエ解析のために周波数変調を使用することができる。
【0055】
以下、4つの実施例を示す図面に基づき、本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図6】検出器により出力された測定信号から吸収スペクトルを求める方法を示す。
【
図7】第1の実施例のエタロンの第1のスペクトル領域の透過スペクトルを示す。
【
図8】第1の実施例のエタロンの第2のスペクトル領域の透過スペクトルを示す。
【
図9】
図7および8に示した透過スペクトルを重ね合わせたものを示す。
【0057】
図1に、本発明の第1の実施例の装置を示す。この装置は、第1の放射源1と、第1のエタロン3と、第1の測定区間5と、ファブリペロー干渉計7と、検出器9とを有し、これらは第1の放射経路11上に配置されている。第1の放射源1は、2μm〜20μmのスペクトル領域にわたって連続スペクトルを有する熱放射光源(たとえばダイヤフラム放射体、フィラメント放射体またはネルンストピン)であり、この連続スペクトルの最大は、約5μmにおいて現れる。
【0058】
放射の伝搬方向で見て放射源1より下流に配置されたエタロン3は、第1のスペクトル領域および第2のスペクトル領域において放射を透過する100μmの厚さのシリコンウェハから成り、このシリコンウェハは前記2つのスペクトル領域において、複数の最大透過率を示す。4μm〜5μmの波長を含む第1のスペクトル領域におけるエタロン3の計算された透過率を、
図7に示す。同図中、横軸13には波長を単位mで示しており、縦軸15には相対透過率を示す。第1のスペクトル領域では、エタロン3は35個の最大透過率17と、同数の最小透過率19とを示す。
図8に、8μm〜11μmの波長を含む第2のスペクトル領域におけるエタロン3の計算された透過率を示す。全図において、同一記載の構成要素には、同一の符号を使用している。
図8中、横軸13には波長を単位mで示しており、縦軸15にはエタロン3の相対透過率を示す。第2のスペクトル領域では、エタロン3は25の最大透過率17と、同数の最小透過率19とを示す。
【0059】
第1の放射経路11上における放射の伝搬方向で見て第1の測定区間5が配置されている。この第1の測定区間5は、たとえば呼気を充填したキュベットである。キュベットとエタロン3との間に不所望のエタロン効果が生じるのを回避するため、エタロン3は、キュベットの表面の方を向いた表面21が当該キュベットの表面に対して平行にならないように配置される。
【0060】
その次に、第1の放射経路11にはファブリペロー干渉計7が配置されている。このファブリペロー干渉計7は第1の鏡面23および第2の鏡面25を有し、第1の鏡面23は第2の鏡面25に対して平行であり、かつ、当該第2の鏡面25の方を向いている。ファブリペロー干渉計7により形成されるバンドパスフィルタが第1のスペクトル領域の放射と第2のスペクトル領域の放射とを同時に透過できるように、ファブリペロー干渉計7の両鏡面23,25間の距離を調整することができる。
【0061】
放射の伝搬方向で見て下流には、エタロン3と第1の測定区間5とファブリペロー干渉計7とを通過した後の放射の強度を測定する検出器9も配置されている。この検出器9はたとえば、量子検出器とするか、または、たとえば焦電センサ等の熱検出器とすることができる。
【0062】
第1の測定区間5に位置するガスの吸収スペクトルを取得するためには、ファブリペロー干渉計7により形成されるバンドパスフィルタが第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とを同時にサンプリングできるように、両鏡面23,25間の間隔を連続的に変化させる。各時点において検出器9は放射の強度を記録し、ファブリペロー干渉計7の鏡面23,25間の距離を介して、ファブリペロー干渉計7により形成されたバンドパスフィルタがこの距離で透過ないしは通過させることができる波長に、上述の記録された強度を各時点において割り当てることができる。したがって検出器9は、第1のスペクトル領域で放出された放射と第2のスペクトル領域で放出された放射とが重畳されたものを測定する。
【0063】
図9に、第1のエタロン3の、第1のスペクトル領域の透過スペクトルと第2のスペクトル領域の透過スペクトルとが上述のようにして重畳されたものを示しており、同図中、上方の横軸27は第1のスペクトル領域の波長を単位mで示しており、下方の横軸29は第2のスペクトル領域の波長を示しており、縦軸31は、検出器9にて測定された放射の相対強度を示す。
【0064】
本発明の第1の実施例は、マクロメカニカル部品を用いる必要なく、2つのスペクトル領域の強度変調された放射を同時に用いて流体の吸収スペクトルを記録できる特にコンパクトな装置を実現することができるので、特に有利である。このような装置は、低メンテナンス性および長寿命であり、かつ、製造コストが低い。
【0065】
第1のスペクトル領域および第2のスペクトル領域の吸収スペクトルを得るためには、検出器9が出力した測定信号33を分離しなければならない。こうするためには、第1のスペクトル領域および第2のスペクトル領域の最大透過率17が現れる頻度を用いることができる。この各頻度は異なっており、かつ、最大透過率17の各位置は既知である。たとえば、前記装置は第1のロックイン増幅器および第2のロックイン増幅器(図示されていない)を有することができ、これら2つのロックイン増幅器を用いて、測定信号33をそれぞれスペクトル領域に適した基準信号と比較する。前記基準信号としてはたとえば、各スペクトル領域での参照測定の測定信号33を用いることができる。
【0066】
また、フーリエ解析を用いて第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とを分離することも可能であり、その際にも、両スペクトル領域の最大透過率が現れるそれぞれ異なる頻度を利用する。
【0067】
図2に、本発明の第2の実施例の装置を示す。この実施例は、ファブリペロー干渉計7および第1の測定区間5の順序を入れ替えたものである。さらに、検出器35は広帯域の光音響センサ(たとえばマイクロフォン、カンチレバー、音叉形水晶発振器等)であり、この光音響センサは、前記第1の測定区間5を形成するキュベット37内に配置されている。光音響センサを用いると、幅広い波長領域およびダイナミクス領域にわたって吸収スペクトルを検出できるので有利である。また、吸収性の流体が実際に存在するときだけ信号が生成されるという利点も奏される。それゆえ、小信号すなわち弱い吸収も、良好なコントラストで検出することができる。
【0068】
第3の実施例を
図3に示しており、同図では、第1の放射源1の他に第2の放射源39も設けられている。第1の放射源1および第2の放射源39は双方とも広帯域の熱放射光源であり、これらの光源の光は適切なバンドパスフィルタ41,43によって第1のスペクトル領域と第2のスペクトル領域とに制限される。第2の放射源39から放出された放射は、第2の放射経路45に沿って前記装置を通るように導光される。
【0069】
第1の放射経路11および第2の放射経路45上には、伝搬方向で見て前記バンドパスフィルタより下流に第1のエタロン3および第2のエタロン47が配置されており、これらのエタロンは、第1のスペクトル領域ないしは第2のスペクトル領域において複数の最大透過率を示す。
【0070】
第1の放射源および第2の放射源から放出された放射は同じビームスプリッタ49に入射する。このビームスプリッタ49は、それより下流にて第1の放射経路と第2の放射経路とが相互に重なるように、または平行に、第2の測定区間と一体を成すように形成された(第2の測定区間と一致する)第1の測定区間5と、ファブリペロー干渉計7とを通過し、同じ検出器9に当たるように配置されている。
【0071】
図3に示した実施例は、第1の放射源1と第2の放射源39とを相互に依存せずにスイッチングすることができ、このスイッチングにより、両スペクトル領域のうち一方のスペクトル領域のみの吸収スペクトルを容易に記録することができるので、有利である。また、異なる厚さのエタロン3および47を用いることもできる。これにより、第1のスペクトル領域および第2のスペクトル領域の各変調をそれぞれ別個に、流体の吸収スペクトルに合わせて調整することができる。
【0072】
図4に、
図3に示された第3の実施例を変更したものである第4の実施例を示す。第1のエタロン3と第2のエタロン47とビームスプリッタ49を用いる代わりに、ビームスプリッタとして機能すると同時に、第1および第2のスペクトル領域においてエタロンとしても機能する第1のエタロン3のみを用いる。この実施例では、エタロンが放射を反射する場合、バンドパスフィルタの機能も有することを利用する。
図4に示した本発明の装置は、2つの独立した放射源を有するにもかかわらず、特にコンパクトな構成を有するという格別な利点を奏する。
【0073】
図5に第5の実施例を示しており、同図では、内部にてガスが流れているキュベット37より上流に第1のエタロン3および第2のエタロン47を用いている構成を示している。両エタロン3,47内では、第1の測定区間5および第2の測定区間5’に沿って放射がガスを通過し、第1の測定区間5および第2の測定区間5’の長さは相違する。この構成の利点は、より長い経路上で、小さい有効吸収断面でガスを検出することができ、かつ、より短い経路上で、大きな有効吸収断面でガスを幅広い濃度領域にわたって検出できることである。
【0074】
最後に
図6に、測定信号から吸収スペクトルを求める方法を概略的に示す。
図6中の上方のグラフの横軸51上には波長を示しており、縦軸53上にはエタロンおよびファブリペロー干渉計の透過率を示している。破線の曲線55はエタロンの透過率を表しており、実線の曲線57はファブリペロー干渉計の透過率を表しており、これは、短波長から長波長にシフトさせている。吸収スペクトルを求めるためには、測定信号を記録している間、最大強度および最小強度を積分する。これを、
図6中の下方のグラフに概略的に示している。同グラフにおいても、横軸51上に波長を示しており、縦軸59上には測定信号61を積分したものを示している。位置が既知である最小値ないしは最大値について積分した値と参照測定結果とを比較することにより、吸収スペクトルを求めることができ、これにより、流体中に含まれる成分の濃度が分かる。この方法は、ロックイン増幅器を用いる必要なく流体の吸収スペクトルを求めることができるという格別な利点を奏する。
【符号の説明】
【0075】
1 第1の放射源
3 第1のエタロン
5 第1の測定区間
7 ファブリペロー干渉計
9 検出器
11 第1の放射経路
13 横軸
15 縦軸
17 最大透過率
21 第1のエタロンの、キュベットの方を向いた表面
23 鏡面加工面
25 鏡面加工面
27 上方の横軸
29 下方の横軸
31 縦軸
33 測定信号
35 検出器
37 キュベット
39 第2の放射源
41 バンドパスフィルタ
43 バンドパスフィルタ
45 第2の放射経路
47 第2のエタロン
49 ビームスプリッタ
51 横軸
53 縦軸
55 エタロンの透過曲線
57 ファブリペロー干渉計の透過曲線
59 縦軸
61 積分された測定信号