(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290204
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ピストンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20180226BHJP
F02F 3/18 20060101ALI20180226BHJP
F01P 3/08 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
F02F3/00 G
F02F3/18
F01P3/08 Z
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-521977(P2015-521977)
(86)(22)【出願日】2013年7月18日
(65)【公表番号】特表2015-522137(P2015-522137A)
(43)【公表日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】DE2013000404
(87)【国際公開番号】WO2014012531
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年6月13日
(31)【優先権主張番号】102012014194.7
(32)【優先日】2012年7月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ザシャ−オリヴァー ボチェク
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ビショフベアガー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー シャープ
【審査官】
木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03609840(US,A)
【文献】
特開2005−127300(JP,A)
【文献】
特開平06−002613(JP,A)
【文献】
米国特許第05309818(US,A)
【文献】
特公昭43−28323(JP,B2)
【文献】
特表2014−525536(JP,A)
【文献】
特開昭52−66126(JP,A)
【文献】
特開昭62−96762(JP,A)
【文献】
特表2012−507651(JP,A)
【文献】
特表2010−529357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
F01P 3/08
F02F 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用のピストン(1)を製造する方法において、以下の方法ステップ、
ピストン上側部分(2)とピストン下側部分(3)とを製作する第1のステップであって、ピストン上側部分(2)および/またはピストン下側部分(3)が少なくとも1つの凹部(4,4´)を有する第1のステップと、
室温では固形状またはペースト状でかつピストンの作動温度では液状となる、少なくとも2種の合金元素を有する熱伝達媒体(6)を、前記凹部(4,4´)のうちの少なくとも1つの凹部内に導入する第2のステップであって、熱伝達媒体(6)の前記少なくとも2種の合金元素を、ピストン下側部分(3)および/またはピストン上側部分(2)に設けられた前記少なくとも1つの凹部(4,4´)の、互いに連通された少なくとも2つの中空範囲に、互いに異なる組成で導入する第2のステップと、
前記少なくとも1つの凹部(4,4´)を閉鎖して、前記熱伝達媒体(6)を内蔵した、少なくとも1つの閉じられた中空室(5)を形成する第3のステップと、
ピストン上側部分(2)とピストン下側部分(3)とを結合する第4のステップであって、熱伝達媒体(6)の前記少なくとも2種の合金元素を1つの共通の閉じられた中空室(5)の内部に封入する第4のステップと、を有することを特徴とする、ピストンを製造する方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの凹部(4,4´)の閉鎖を、ピストン上側部分(2)とピストン下側部分(3)との摩擦溶接により行い、閉じられた前記中空室(5)が、ピストン上側部分(2)とピストン下側部分(3)との間に配置されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも2種の合金元素は、ナトリウム(7)とカリウム(8)とである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
2種または2種以上のアルカリ金属(7,8)を有する冷却剤(6)を使用するか、または
ガリウムとインジウムとスズとを有するガリンスタン(登録商標)合金を使用するか、または
ビスマス合金を使用する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ピストン(1)を、ピストン上側部分(2)とピストン下側部分(3)との結合後に仕上げ加工する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法により製造されたピストン(1)において、前記中空室(5)の5〜33%が、熱伝達媒体(6)で充填されていることを特徴とする、ピストン。
【請求項7】
請求項6記載の少なくとも1つのピストン(1)を備えた内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の、内燃機関用のピストンを製造する方法に関する。本発明はさらに、このような方法により製造されたピストンならびに少なくとも1つのこのようなピストンを備えた内燃機関に関する。
【0002】
最近の内燃機関は、そのピストンに関して高度に負荷されているので、このような内燃機関は通常、アクティブに冷却されなければならない。表面温度を減少させるためのこのようなアクティブな冷却は、特にクーリングチャンネル内に連続的に導入されるエンジンオイルによって達成され得る。このエンジンオイルは、オイル循環路への戻り流の際に熱を導出する。特にディーゼルエンジンにおいては、しばしば鋼ピストンが使用される。この場合、燃焼室内の高い温度に基づき、冷却オイルの最大に耐え得る温度が超過される恐れがあり、その場合、冷却オイルの早期の変性もしくはコークス化が生じる。その結果、クーリングチャンネルの周面にオイルカーボンが形成され、このようなオイルカーボンの形成は、ピストンに対する良く知られている作用、たとえば断熱層の形成や、ピストンの温度の一層の増大を招く。しかし、オイルの高い温度は早期のオイル老化の原因となり、ひいては比較的短いオイル交換インターバルの原因となる。
【0003】
公知の鋼ピストンは通常、ピストン上側部分と、このピストン上側部分に、たとえば摩擦溶接結合を介して結合されたピストン下側部分とから製作される。ピストン上側部分とピストン下側部分とは、互いに接合された状態において、環状に延びる1つのクーリングチャンネルを取り囲んでおり、このクーリングチャンネルの、ピストン頂面とは反対の側の下側は、ピストンから熱を導出するエンジンオイル用の吹きかけ・流出開口を有している。
【0004】
エンジンオイルが耐えられる温度よりも高い温度において熱導出を可能にするためには、完全に閉じられた中空室内にナトリウムカリウム合金を含んでいるピストンが提供されている。ナトリウムカリウム合金は作動中に対流によってピストン頂面から離れる方向に熱を運搬する。第2の段において、熱は、たとえばピストン頂面から大きく遠ざけられた、もはやそれほど高温ではないピストン範囲にエンジンオイルを吹きかけることによって公知の手段でオイル循環路内に導出される。
【0005】
閉じられた中空室内に前記合金を装入するためには、あとから装入開口が提供されなければならない。しかし、この装入開口は引き続き再び閉じられ、そして、高反応性の金属の流出を阻止するために、あとでシール性に関しても検査されなければならない。その結果、たとえば装入開口の穿孔加工のような付加的な加工ステップや、付加的な部分、たとえば外部の閉鎖栓体が生ぜしめられ、このことは両者ともに、このようなピストンにかかる製造コストを高めることに寄与する。さらに、この場合に特に重要となるのは、ピストンが充填時に特に注意深い取扱いを必要とすることである。なぜならば、ピストンは既に仕上げ加工済みであり、したがって極端に損傷を受け易いからである。
【0006】
したがって、本発明は、ピストンを製造するための冒頭で述べた方法のために、ピストンの特に単純化され、しかもそれと同時に合理的な製作を可能にするような改善された構成を提供するという問題を扱っている。
【0007】
この問題は、本発明によれば、独立項形式の各請求項の対象により解決される。有利な実施態様は、従属項形式の各請求項の対象である。
【0008】
本発明は、熱伝達媒体を、ピストンの対流式の冷却のために、既にピストン上側部分とピストン下側部分との本来の結合の前に、固形の状態で、両ピストン部分のうちの少なくともいずれか一方の部分に設けられた少なくとも1つの凹部内に導入する、という一般的な思想に基づいている。引き続き、熱伝達媒体は、少なくとも1つの閉じられた中空室内に封入される。この中空室は、両ピストン部分が互いに結合される前または間に、ピストン下側部分および/またはピストン上側部分に形成される。有利な実施態様では、閉じられた中空室が、両ピストン部分の間に配置されており、この場合、中空室の閉鎖は、ピストン上側部分とピストン下側部分との結合の過程自体により行われる。これにより、中空室をあとから穿孔加工し、液状の熱伝達媒体を装入し、かつ中空室を閉鎖する、という一連の過程が不要となり得る。したがって、内燃機関用のピストンを製造する本発明による方法では、第1の製作ステップにおいてピストン上側部分とピストン下側部分とが製造され、この場合、両ピストン部分のそれぞれが、あるいは両ピストン部分の少なくともいずれか一方が、好ましくはピストン下側部分が、閉じられた中空室を形成するための凹部を有している。引き続き、室温では固形状またはペースト状でかつピストンの作動温度では液状となる熱伝達媒体、特に金属合金の、ピストン下側部分および/またはピストン上側部分に設けられた凹部内への導入が行われ、この場合、熱伝達媒体は、あとでピストンの作動状態においてはじめて、つまり著しく高められた温度においてはじめて、液化し、かつ対流によって特にピストン頂面から別の範囲へ熱を導出する。この別の範囲において、熱は、当業者に知られているピストン冷却方法、たとえばピストンへのエンジンオイルの直接的な吹きかけまたは連続的にエンジンオイルを供給される開いたクーリングチャンネルによってオイル循環路内へ導出され得る。室温では固形状またはペースト状である熱伝達媒体をピストン下側部分もしくはピストン上側部分に形成された凹部内に導入した後に、前記少なくとも1つの閉じられた中空室を形成するための、熱伝達媒体を内蔵した凹部の閉鎖およびピストン上側部分とピストン下側部分との結合が行われる。
【0009】
閉鎖のステップは、固有のステップとして、たとえばまだピストン上側部分とピストン下側部分とを結合するステップの前に、閉じられた中空室を分離するために、凹部内に分離エレメント、たとえば分離金属薄板を挿入することにより行われ得る。分離金属薄板は、曲げプリロードをかけられて、凹部の壁に密に接触して、有利には突出部に支持され得る。これにより、分離金属薄板は、加速作用を受けて確実に保持されて、熱伝達媒体を確実に封入することができる。択一的または付加的に、分離金属薄板は前記壁に溶接、ろう接または接着されていてよい。別の有利な実施態様では、閉じられた中空室が、ピストン上側部分とピストン下側部分との結合の過程ではじめて両ピストン部分の間に、たとえば2つの環状の同心的な摩擦溶接シームの間の中間室として形成され得る。
【0010】
たとえば摩擦溶接結合による両ピストン部分の結合の後では、室温では固形状またはペースト状である熱伝達媒体が、全ての側で閉じられた中空室内に封入されている。この場合、熱伝達媒体の液化、ひいては中空室内での熱伝達媒体の往復スロッシング(揺動)によるピストンの冷却可能性も、内燃機関の作動中にはじめて行われるか、またはたとえばピストンの早期の加熱によっても行われる。たとえば内燃機関の遮断後の、ピストンの冷却の後では、熱伝達媒体は、再び固形の状態を取ることができるが、しかし液状の状態のままにもなり得る。これにより、ピストンの製作時ではさしあたり固形状であった熱伝達媒体は、熱導入によって液状となり、引き続き少なくともほぼ温度とは無関係に液状のままとなる。
【0011】
後者の事例、つまりピストンの製作時ではさしあたり固形状であった熱伝達媒体は、熱導入によって液状となり、引き続き少なくともほぼ温度とは無関係に液状のままとなる事例は、有利な実施態様において、熱伝達媒体が、2種またはそれ以上の元素、たとえばアルカリ金属、好ましくはナトリウムおよびカリウムを含有していて、これらのアルカリ金属が、完全にまたは部分的に混合分離されて1つまたは複数の凹部内に導入され、そして加工温度もしくは室温では固形状またはペースト状の状態で存在することにより達成され得る。その後ではじめて、前記凹部は閉じられて、1つまたは複数の閉じられた中空室を形成し、ピストンの上側部分とピストン下側部分とが、たとえば摩擦溶接により結合される。
【0012】
本発明による方法を用いると、特に従来必要であった高価な別の加工ステップ、たとえば閉じられた中空室をあとから穿孔加工し、穿孔された装入開口を通じて中空室内へ熱伝達媒体を装入し、かつ前記装入開口を閉鎖し、そしてこの閉鎖部のシール性をあとから検査する、という一連のステップが不要となる。したがって、本発明による方法を用いると、ピストンが著しく単純化されてかつ特に一層合理的かつ経済的に製造され得る。なぜならば、上で挙げた作業ステップが不要にされ得るだけでなく、これまで必要であった閉鎖エレメントまでも、もはや必要とされなくなるからである。
【0013】
本発明による解決手段の有利な改良形では、唯一種の適当な化学的元素、好ましくはアルカリ金属、特にナトリウムしか有しない熱伝達媒体が使用される。ナトリウムは、たとえば約98℃の融点を有するので、固形状の形から液状の形への移行は、約98℃においてはじめて行われる。この温度よりも下では、ナトリウムは固形状であるので、ナトリウムは、たとえば内燃機関の比較的長い停止時間においては、再び固形の状態を取る。内燃機関の作動時に、ピストンは、作動時間が増大するにつれて加熱され、この場合、中空室内に封入されたナトリウムは、約98℃の温度が超えられると液状となり、ピストンが過度に高温になる前に、ピストン頂面からの有効な熱導出を実施することができる。
【0014】
本発明による解決手段の有利な改良形では、少なくとも2種の合金元素、特にナトリウムとカリウムとを有する熱伝達媒体が使用される。これら両合金元素は、さしあたり完全にまたは部分的に混合分離もしくは互いに隔離された状態で、すなわち元素の形で、または互いに異なる組成の、それぞれ室温では固体状となる合金の形で、空間的に分離されてピストン下側部分もしくはピストン上側部分に形成された冷却チャンネルの凹部内に導入され、その後にはじめて、凹部の閉鎖による閉じられた中空室の形成ならびにピストン上側部分とピストン下側部分との結合が行われる。カリウムは63℃の溶融温度を有し、それに対してナトリウムは約98℃の溶融温度を有する。したがって、約60℃までは、両元素は分離された状態で固形状である。それに対して、ナトリウムカリウム合金(NaK)の融点ならびに一般に別の金属の合金の融点も、単独元素の融点よりも低くなり、共融混合物における最小値に達し、本例ではNaKの場合にNa22%で−12.6℃に達する。一般にNaK合金は、混合比の広い範囲において、すなわちたとえばNa約10〜60%を有する混合比において、20℃で液状となり、それに対して、別の混合比および両純粋な元素は固形状で存在する。有利な実施態様では、合金の融点が、作動中に、さしあたり空間的に分離された2種の物質を混合することによって室温よりも下に降下され得る。
【0015】
本発明により製造されたピストンが内燃機関において作動させられると、ピストンの温度は上昇する。この場合、冷却媒体の混合分離された個別成分の融点よりも上では、このカリウムが液状となり、これによりその他の成分と不可逆的に混合する。このときに生じる、ナトリウムとカリウムとから成る混合物は、最初に導入された固形物の形よりも低い融点を有するので、一度混合された熱伝達媒体は、内燃機関の遮断後でも室温で常時液状のままとなる。このようなナトリウムカリウム含有の熱伝達媒体は、高い熱伝達能力を有し、たとえばカリウム40〜90質量%と残りのナトリウムとから成り、特にナトリウム22%とカリウム78%とから成る。当然ながら、室温で固形状であり、作動温度で溶融しかつ完全な混合後には好ましくは室温でも液状のままとなるような多数の元素またはその合金が種々の混合比で使用され得る。ナトリウムとカリウムとには、たとえばさらにセシウムが添加され得る。この場合に生じるNa−K−Cs合金は、−78℃までの一層低い融点を有する。
【0016】
本発明の解決手段のさらに別の有利な実施態様では、冷却剤として、さしあたり分離された合金元素ガリウム、インジウムおよびスズを有するガリンスタン合金(登録商標)が使用される。このようなガリンスタン合金は通常、室温で液状であり、たとえばガリウム65質量%〜95質量%、インジウム5質量%〜26質量%およびスズ0質量%〜16質量%から成っている。有利な合金は、たとえばガリウム68質量%〜69質量%、インジウム21質量%〜22質量%およびスズ9.5質量%〜10.5質量%を有する合金である。このような合金は、たとえば−19℃の溶融温度を有する。択一的には、ガリウム62質量%、インジウム22質量%およびスズ16質量%を有するガリンスタン合金も考えられる。その場合、このガリンスタン合金は、10.7℃の溶融温度を有する。同じく、ガリウム59.6質量%、インジウム26質量%およびスズ14.4質量%を有する合金、すなわち11℃の溶融温度を有する三元系の共晶合金も考えられる。
【0017】
同じく、たとえば低融点を有するビスマス合金も使用される。低融点を有するビスマス合金には、たとえばLBE(124℃の融点を有する鉛ビスマス共晶合金)が属している。低融点を有するビスマス合金には、さらに以下のものが属している:ビスマス50質量%、鉛28質量%およびスズ22質量%を有しかつ98℃の溶融温度を有するローズメタル(Roses Metall)、ビスマス42質量%、鉛42質量%およびスズ16質量%を有しかつ108℃の溶融温度を有するオリオンメタル(Orionmetall)、ビスマス52質量%、鉛32質量%およびスズ16質量%を有しかつ96℃の融点を有するクイックはんだ(Schnelllot)、ビスマス50質量%、鉛25質量%およびスズ25質量%を有するダルセメタル(d'Arcets-Metall)、ビスマス50質量%、鉛25質量%およびスズ12.5質量%、カドミウム12.5質量%を有しかつ71℃の溶融温度を有するウッドメタル(Woodsches Metall)、ビスマス50質量%、鉛27質量%およびスズ13質量%、カドミウム10質量%を有しかつ70℃の溶融温度を有するリポヴィッツメタル(Lipowitzmetall)、ビスマス44質量%、鉛25質量%およびスズ25質量%、カドミウム6質量%を有しかつ75℃の溶融温度を有するハーパースメタル(Harpers Metall)、ビスマス44.7質量%、鉛22.6質量%、インジウム19.1質量%、スズ8.3質量%およびカドミウム5.3質量%を有しかつ47℃の融点を有するセロロー(Cerrolow)117、ビスマス57質量%、インジウム26質量%、スズ17質量%を有しかつ78.9℃の融点を有するセロロー(Cerrolow)174、ビスマス32質量%、インジウム51質量%、スズ17質量%を有しかつ62℃の融点を有するフィールドメタル(Fields Metall)ならびにビスマス45質量%、鉛28質量%、スズ22質量%、アンチモン5質量%を有するウォーカ合金(Walkerlegierung)。
【0018】
前記中空室は約5%〜約33%、好ましくは10%〜15%だけが、熱伝達媒体で充填されていることが好適である。また、中空室内に収容された熱伝達媒体の容積が、多くとも中空室の容積の10%であることも考えられる。このことは、熱伝達媒体がエンジン作動中にシェーカ効果を受けるという大きな利点を提供する。この場合、熱伝達媒体は、中空室内でピストンの行程方向とは逆向きに運動させられる。したがって、ピストンの下降行程時では、熱伝達媒体は、ピストン頂面の方向に運動させられて、熱を吸収することができ、それに対してピストンの上昇行程時では、熱伝達媒体はピストンスカートの方向に運動させられ、これにより吸収された熱をピストンスカートの方向に導出することができ、このことは冷却作用を改善する。
【0019】
本発明の別の重要な特徴および利点は、従属形式の各請求項、図面および対応する図面の説明から明らかである。
【0020】
もちろん、前で挙げた特徴および以下に説明する特徴は、それぞれ記載された組合せの形でのみ使用可能であるわけではなく、本発明の枠を逸脱することなしに別の組合せの形または単独の形でも使用可能である。
【0021】
以下に、本発明の有利な実施形態を図面につき詳しく説明する。図面中、同一の構成部分または類似の構成部分または同一機能の構成部分は同じ符号で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ピストンを製造する本発明による方法のシーケンスを示す概略図である。
【
図2】本発明により製造されたピストンの互いに異なる断面図である。
【0023】
図1に示したように、ピストン1(
図2参照)を製造する本発明による方法は、少なくとも3つの方法ステップA,B,Cを有する。方法ステップAでは、まず、それぞれ1つの凹部4,4´を備えたピストン上側部分2とピストン下側部分3とが接合され、これにより両凹部4,4´の間に位置する共通の閉じられた中空室5が形成される。この閉じられた中空室5は、ピストン軸線に対して同心に環状に延びる、凹部4,4´から形成された1つの環状チャンネルを有する。この環状チャンネルは、エンジンオイルを供給される公知のクーリングチャンネルに類似しているが、しかし流入開口または流出開口を有しない。
【0024】
当然ながら、この場合、ピストン上側部分2にのみ、またはピストン下側部分3にのみ、凹部4,4´が設けられることも考えられる。方法ステップBでは、引き続き、室温では固形状またはペースト状である熱伝達媒体6、特に金属合金が、ピストン下側部分3に設けられた凹部4´内に、かつ/またはピストン上側部分2に設けられた凹部4内に導入され、この場合、熱伝達媒体6の導入は通常、ピストン下側部分3の凹部4´内へのみ行われる。熱伝達媒体6はこの場合、ピストン1の作動状態においてはじめて、すなわち室温に対して著しく高められた温度においてはじめて、液化し、これによりピストン1を冷却するシェーカ作用を発揮するように形成されている。方法ステップCでは、引き続き、ピストン上側部分2がピストン下側部分3に固く結合され、これにより閉じられた環状チャンネルもしくは中空室5が形成される。ピストン上側部分2とピストン下側部分3との結合は、たとえば摩擦溶接または接着またはろう接によって行われ得る。凹部4´が比較的浅いと、既にピストン上側部分2とピストン下側部分3との溶接の際に、熱伝達媒体6の望ましくない液化が行われる恐れがある。
【0025】
図2を見ると、両凹部4,4´が一緒になって環状の環状チャンネルを形成していることが判る。この場合、凹部4´は引き続き、軸方向でピストン下側部分3内に延びる複数の縦長の切欠き9を有している。この切欠き9は環状チャンネルを起点としてテーブル脚状に延びていて、これによって部分的に比較的深く形成されている。室温では固形状またはペースト状である熱伝達媒体6が、このような「テーブル脚」状の切欠き9内に装入されると、ピストン上側部分2とピストン下側部分3との溶接時に生じる熱は通常、熱伝達媒体6を液化するためには不十分となる。ピストン上側部分2とピストン下側部分3との結合の後に、ピストン1の仕上げ加工が行われる。ピストン1は通常、鋼から形成されている。
【0026】
一般に、熱伝達媒体6は唯一種の元素、たとえばナトリウム7しか有しなくてよい。この場合、ナトリウム7はピストン1の作動時に溶融温度が超過された後でしか液状にならない。択一的には、熱伝達媒体6が少なくとも2種の合金元素、たとえばナトリウム7およびカリウム8を有することも考えられる。この場合、両合金元素7,8はピストン下側部分3に設けられた互いに異なる切欠き9内に装入される。しかし、択一的には、両合金元素7,8を、同じ切欠き9内に、または両凹部4,4´から形成された環状チャンネルの範囲に、空間的に別個に、たとえば上下に配置することもできる。ピストン1の作動時に、ピストン1の温度は上昇し、この場合、カリウム8の溶融温度が超過されると、すなわち63℃が超過されると、カリウム8は液化し、次いでナトリウム7と混合し、これによりナトリウムカリウム合金が形成される。このナトリウムカリウム合金は、適当な混合比において、室温よりも下の溶融温度、たとえば−11℃の溶融温度を有するので、この合金混合物はピストン1の冷却後でも、もはや凝固しない。ナトリウム22%とカリウム78%とを有する共晶ナトリウムカリウム合金が製造される場合、融点はそれどころか−12.6℃にまで低下する。当然ながら、別の混合比および/または別の合金元素、たとえばセシウムを、ピストン下側部分3の各凹部4´もしくはピストン上側部分2の所属の凹部4内に、室温では固形状またはペースト状の形で導入することもできる。この場合、ナトリウム12質量%とカリウム47質量%とセシウム41質量%とを有するナトリウムカリウムセシウム合金は、−78℃の融点を有する。
【0027】
別の好ましい合金は、たとえばさしあたり別個に装入される合金元素ガリウム、インジウムおよびスズを有するガリンスタン(Galinstan;登録商標)合金ならびに低融点を有するビスマス合金である。
【0028】
閉じられた中空室5内に収容された熱伝達媒体6の量は、その熱伝導能力および所望の温度制御の度合いに関連する。好ましくは、中空室5内に収容された熱伝達媒体6の容積は、中空室5の容積の最大10%もしくは10〜15%であり、このことは、熱伝達媒体6がエンジン作動中に「シェーカ効果」を受ける、という大きな利点を提供する。この場合、熱伝達媒体6は中空室5内でピストン1の行程方向とは逆向きに運動させられる。ピストン1の下降行程の間、熱伝達媒体6はピストン頂面の方向に運動させられて、熱を吸収することができる。それに対して、ピストン1の上昇行程の際には、熱伝達媒体6はピストンスカートの方向に運動させられ、これにより、吸収された熱をピストンスカートの方向に導出することができる。
【0029】
ピストン1の単純化された経済的な製造のための本発明による方法を用いると、少なくとも以下に挙げる利点を得ることができる。まず第1に、中空室5をあとから穿孔加工し、熱伝達媒体6を装入し、かつ引き続き中空室5を閉じる、という一連の過程を不要にすることができる。これにより、かなりの数の別個の加工ステップが回避され得るだけではなく、熱伝達媒体6を内蔵した中空室5のシール性も長期間保証され得るようになる。なぜならば、装入開口における閉鎖部の望ましくない開放がもはや生じないからである。同じく、装入開口を閉鎖する部分、たとえば閉鎖栓体も不要にされ得る。これにより、製作コストおよび保管・ロジスティックコストも低減され得る。さらに、中空室5を熱伝達媒体6で充填する際のピストン1の注意深い取扱いを配慮する必要もなくなる。なぜならば、ピストン1の仕上げ加工は、熱伝達媒体6の装入後にしか行われず、従来の場合のように装入前には行われないからである。