特許第6290206号(P6290206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6290206無電解金属めっきのブリッジ防止液およびこれを用いたプリント配線板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290206
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】無電解金属めっきのブリッジ防止液およびこれを用いたプリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20180226BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20180226BHJP
   H05K 3/24 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C23C18/20 Z
   H05K3/18 D
   H05K3/24 A
   H05K3/18 E
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-522655(P2015-522655)
(86)(22)【出願日】2014年5月12日
(86)【国際出願番号】JP2014062551
(87)【国際公開番号】WO2014203649
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2016年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-127319(P2013-127319)
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120386
【氏名又は名称】株式会社JCU
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 樹一
(72)【発明者】
【氏名】石川 久美子
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−316305(JP,A)
【文献】 特開2008−106354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/20
H05K 3/18
H05K 3/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリチオール化合物を含有する無電解金属めっきのブリッジ防止液であって、
ポリチオール化合物が、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,2−エタンジチオールおよびトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)から選ばれる、ジチオール化合物およびトリチオール化合物の1種または2種以上である、
ことを特徴とする無電解金属めっきのブリッジ防止液。
【請求項2】
ポリチオール化合物が、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,2−エタンジチオールおよびトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の無電解金属めっきのブリッジ防止液。
【請求項3】
更に、有機溶媒を含有するものである請求項1または2記載の無電解金属めっきのブリッジ防止液。
【請求項4】
有機溶媒が、エタノールおよび2−プロパノールから選ばれる1種または2種以上である請求項3記載の無電解金属めっきのブリッジ防止液。
【請求項5】
更に、金属析出触媒の除去液を含有するものである請求項1〜の何れかに記載の無電解金属めっきのブリッジ防止液。
【請求項6】
金属析出触媒の除去液が、チオ尿素化合物、有機酸および無機酸から選ばれる1種または2種以上である請求項記載の無電解金属めっきのブリッジ防止液。
【請求項7】
配線基板の樹脂上に金属析出触媒を付与後、無電解銅めっきを行い、その後電気銅めっきを行い、次いで不要な銅皮膜をエッチングすることにより回路パターンを形成した後、請求項1〜の何れかに記載の無電解金属めっきのブリッジ防止液を作用させ、更にその回路上に無電解金属めっきを行うことを特徴とするプリント配線板のブリッジ防止方法。
【請求項8】
配線基板の樹脂上に金属析出触媒を付与後、無電解銅めっきを行い、その後電気銅めっきを行い、次いで不要な銅皮膜をエッチングすることにより回路パターンを形成し、その回路上に無電解金属めっきを行うプリント配線板の製造方法において、前記エッチングと無電解金属めっき工程の間に、配線基板の樹脂上に請求項1〜の何れかに記載の無電解金属めっきのブリッジ防止液を作用させることを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【請求項9】
配線基板の樹脂上に金属析出触媒を付与後、無電解銅めっきを行い、その後電気銅めっきを行い、次いで不要な銅皮膜をエッチングすることにより回路パターンを形成し、その回路上に無電解金属めっきを行うプリント配線板の製造方法において、前記エッチングと無電解金属めっき工程の間に、配線基板の樹脂上に金属析出触媒の除去液を作用させた後、更に請求項1〜の何れかに記載の無電解金属めっきのブリッジ防止液を作用させることを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板製造時に、プリント配線板上の銅回路パターン上に、無電解金属めっきを行う際に、めっきが必要とされない樹脂表面への無電解金属めっきの析出を防止するためのブリッジ防止液およびこれを用いたプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の製造工程において、積層樹脂上に回路を形成する場合は、樹脂基材上全面にパラジウム触媒等の金属析出触媒を付着させ、無電解銅めっきをつけ、さらに電気銅めっきで10〜20μmの銅層を形成した後にレジストを使用して不要な銅皮膜をエッチングすることにより回路を形成するという方法がとられている。そして、プリント配線板製造の最終工程では、端子部分や部品の実装部分に、通常は銅層上に下地めっきとして無電解ニッケルめっきを行い、その上に金めっきを行うことが多い。
【0003】
しかし、この無電解ニッケルめっきの際に、樹脂表面上にもめっきが析出し、回路配線が短絡してしまうブリッジと呼ばれる不良が発生する場合があった。このブリッジの主原因の1つは、樹脂上へのパラジウム等の金属析出触媒の残留であるが、無電解ニッケルめっき自体の特性も原因となっている。具体的にはめっき析出反応時に発生する水素による還元作用や、ニッケルめっき皮膜が横へ広がりやすいという性質等が挙げられる。近年配線パターンの細線化、高密度化が進んだため、ブリッジが発生しやすくなっており、特に次世代の製品ではさらに高密度となるため、ブリッジ防止が大きな課題となっている。
【0004】
一方、回路形成後の樹脂表面は、下地の無電解銅めっき層がエッチングにより除去されていても、微量ながらパラジウム等の金属析出触媒が残留している場合が多く、その影響により配線間の絶縁性が低下するという問題があった。
【0005】
これまでブリッジを防止する技術としては、メルカプトベンゾチアゾールなどのモノチオール化合物を主剤とする液で処理を行う、または塩酸、硝酸を含む液で処理し触媒を除去する、またはこれらを併用した処理を行った後、無電解ニッケルめっきを行う方法(特許文献1、2)が知られている。
【0006】
しかし、これらの技術では、現行では高密度とされるライン/スペース(L/S)=15/15μmの配線パターンに対してブリッジを防止することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4113846号
【特許文献2】特許第4351079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、回路パターン形成後に行う無電解金属めっきが、配線基板の樹脂上に析出するブリッジを防止する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、回路パターン形成後に、ポリチオール化合物を含有するブリッジ防止液を配線基板の樹脂上に作用させることにより、その後に行う無電解金属めっきによるブリッジが防止できることを見出した。また、上記ブリッジ防止液と、金属析出触媒の除去液を組み合わせて使用することにより、銅配線腐食性を抑制し、かつ配線間の樹脂上に付着した触媒を除去でき、より高密度な配線間であってもブリッジが防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)の発明である。
(1)ポリチオール化合物を含有することを特徴とする無電解金属めっきのブリッジ防止液。
(2)配線基板の樹脂上に金属析出触媒を付与後、無電解銅めっきを行い、その後電気銅めっきを行い、次いで不要な銅皮膜をエッチングすることにより回路パターンを形成した後、上記無電解金属めっきのブリッジ防止液を作用させ、更にその回路上に無電解金属めっきを行うことを特徴とするプリント配線板のブリッジ防止方法。
(3)配線基板の樹脂上に金属析出触媒を付与後、無電解銅めっきを行い、その後電気銅めっきを行い、次いで不要な銅皮膜をエッチングすることにより回路パターンを形成し、その回路上に無電解金属めっきを行うプリント配線板の製造方法において、前記エッチングと無電解金属めっき工程の間に、配線基板の樹脂上に上記無電解金属めっきのブリッジ防止液を作用させることを特徴とするプリント配線板の製造方法。
(4)配線基板の樹脂上に金属析出触媒を付与後、無電解銅めっきを行い、その後電気銅めっきを行い、次いで不要な銅皮膜をエッチングすることにより回路パターンを形成し、その回路上に無電解金属めっきを行うプリント配線板の製造方法において、前記エッチングと無電解金属めっき工程の間に、配線基板の樹脂上に金属析出触媒の除去液を作用させた後、更に上記無電解金属めっきのブリッジ防止液を作用させることを特徴とするプリント配線板の製造方法。
(5)チオ尿素化合物を含有することを特徴とする金属析出触媒の除去液。
(6)金属析出触媒が付着した樹脂に、上記金属析出触媒の除去液を作用させることを特徴とする樹脂に付着した金属析出触媒の除去方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無電解金属めっきのブリッジ防止液は、回路パターン形成後、無電解金属めっきをした際に、配線基板の樹脂上に析出するのを防止することができる。
【0012】
従って、本発明の無電解金属めっきのブリッジ防止液をプリント配線板の製造に利用することにより、ブリッジの生じることのないプリント配線板を製造することができる。
【0013】
更に、上記プリント配線板の製造において、本発明の無電解金属めっきのブリッジ防止液に加えて触媒除去液を併用することにより、ブリッジが生じることがなく、かつ銅配線腐食性を抑制し、かつ配線間の樹脂上に付着した触媒を除去でき、触媒残渣がなく絶縁信頼性が高いプリント配線板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の無電解金属めっきのブリッジ防止液(以下、「本発明防止液」という)は、ポリチオール化合物を含有するものである。
【0015】
本発明防止液に用いられる、ポリチオール化合物は、チオール基を2個以上含有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ジチオール化合物、トリチオール化合物、テトラチオール化合物等が挙げられる。具体的に、ジチオール化合物としては、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、ジチオエリトリトール、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、ビス(3−メルカプトブタン酸)テトラメチレン、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)等が挙げられ、トリチオール化合物としては、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)等が挙げられ、テトラチオール化合物としては、ペンタエリトリトールテトラ(3−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3−メルカプトブチラート)等が挙げられる。これらのポリチオール化合物の中でもジチオール化合物が好ましく、特に3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,2−エタンジチオールが好ましい。これらのポリチオール化合物は1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
本発明防止液におけるポリチオール化合物の含有量は特に限定されないが、例えば、0.1〜100g/L、好ましくは0.2〜50g/Lである。
【0017】
また、本発明防止液は、水系でも非水系でも特に問題はないが、水系が好ましい。本発明防止液を水系とする場合には、上記ポリチオール化合物の水への溶解性を向上させるために、有機溶媒を添加することが好ましい。有機溶媒としては、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、エステル等が挙げられる。具体的に、アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール等が挙げられ、エーテルとしては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられ、ケトンとしては、アセトン等が挙げられ、エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。これらの有機溶媒の中でもアルコールが好ましく、エタノール、2−プロパノールがより好ましい。また、これらの有機溶媒は1種または2種以上を用いることができる。
【0018】
本発明防止液における有機溶媒の含有量は特に限定されないが、例えば、1〜800g/L、好ましくは2〜500g/Lである。
【0019】
また、本発明防止液には、上記ポリチオール化合物の溶解性を更に向上させるために、あるいは浸透性の向上等よる析出防止効果の向上のために、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤、四級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤、アルキルベタイン等の両性界面活性剤を本発明防止液の効果を損なわない程度で添加してもよい。
【0020】
以下、本発明防止液の好ましい態様を以下に示す。
<本発明防止液>
(組成1)
1,2−エタンジチオール:0.1〜100g/L、好ましくは0.2〜50g/L
エタノール:1〜800g/L、好ましくは2〜500g/L
(組成2)
1,8−オクタンジチオール:0.1〜100g/L、好ましくは0.2〜50g/L
2−プロパノール:1〜800g/L、好ましくは2〜500g/L
(組成3)
3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール:0.1〜100g/L、好ましくは0.2〜50g/L
2−プロパノール:1〜800g/L、好ましくは2〜500g/L
【0021】
更に、本発明防止液には、金属析出触媒の除去液を含有させることが好ましい。これによりブリッジ防止と、配線基板上にある無電解銅めっき等に使用されるパラジウム等の触媒の除去を同時に行うことができる。
【0022】
金属析出触媒の除去液としては、従来公知の金属析出触媒の除去液を利用することができ、例えば、硫酸、塩酸、燐酸、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、スルファミン酸等の無機酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、2−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、2−ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、イセチオン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、グリコール酸、グルコン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸等を含有するものが挙げられ、これ以外にも、特開平7−207466号公報に記載されているシアン化物、ニトロ安息香酸誘導体を主成分とするもの、特許第4583549号に記載されている硝酸、塩素イオンを主成分とし、含窒素複素環化合物、多価アルコール、非イオン界面活性剤、カチオン系界面活性剤のうち1種以上を添加したもの、特許第4113846号に記載されている硝酸、塩素イオンおよびカチオン性ポリマーを含有するもの等を利用することができる。これらの金属析出触媒の除去液であれば銅配線腐食性を抑制し、かつ配線間の樹脂上に付着した触媒を除去できる。
【0023】
更に、金属析出触媒の除去液としては、本発明者らが新規に見出したチオ尿素化合物を含有するものが挙げられる。チオ尿素化合物としては、例えば、チオ尿素、N−メチルチオ尿素、1,3−ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,3−ジエチルチオ尿素、1,3−ジブチルチオ尿素、1,1,3−トリブチルチオ尿素、チオアセトアミド、4−メチルチオセミカルバジド、1−アリル2−チオ尿素、1−アセチル−2−チオ尿素、1−アリル−3−(2−ヒドロキシエチル)−2−チオ尿素、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、1−フェニル−2−チオ尿素、1,3−ジフェニルチオ尿素、1−アセチル−2−チオ尿素、N−ベンゾイルチオ尿素、グアニルチオ尿素、2,5−ジチオビチオ尿素等が挙げられる。これらのチオ尿素化合物は1種または2種以上を用いることができる。このチオ尿素化合物を含有する金属析出触媒の除去液であれば、従来の金属析出触媒の除去液よりも、より銅配線腐食性を抑制し、かつ配線間の樹脂上に付着した触媒を除去できる。
【0024】
上記したチオ尿素化合物を含有する金属析出触媒の除去液に、チオ尿素化合物は例えば、1〜140g/L、好ましくは10〜100g/L含有させる。
【0025】
また、チオ尿素化合物を含有する金属析出触媒の除去液には、無機酸および有機酸から選ばれる1種または2種以上を含有させ、液のpHを酸性にすることが好ましい。なお、この金属析出触媒の除去液に用いられる無機酸および有機酸は上記したもの同様である。
【0026】
更に、チオ尿素化合物を含有する金属析出触媒の除去液には、浸透性の向上等よる金属析出触媒除去効果の向上のために、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤、四級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤、アルキルベタイン等の両性界面活性剤等を含有させることができる。
【0027】
以下、チオ尿素化合物を含有する金属析出触媒の除去液の好ましい態様を以下に示す。
<金属析出触媒の除去液>
(組成1)
チオ尿素:1〜140g/L、好ましくは10〜100g/L
硫酸:5〜700g/L、好ましくは10〜600g/L
(組成2)
N−メチルチオ尿素:1〜100g/L、好ましくは10〜70g/L
メタンスルホン酸:5〜700g/L、好ましくは10〜600g/L
(組成3)
チオ尿素:1〜140g/L、好ましくは10〜100g/L
硫酸:5〜700g/L、好ましくは10〜600g/L
リンゴ酸:5〜400g/L、好ましくは10〜300g/L
【0028】
以上説明した金属析出触媒の除去液の中でも、チオ尿素化合物、無機酸および有機酸から選ばれる1種または2種以上を含有するものが好ましく、特にチオ尿素化合物を含有するものが好ましい。
【0029】
本発明防止液における、金属析出触媒の除去液の含有量は、金属析出触媒の除去液が金属析出触媒の除去作用を発揮する濃度であれば特に限定されないが、例えば、チオ尿素化合物、無機酸および有機酸であれば、それぞれ、1〜140g/L、好ましくは10〜100g/L、5〜700g/L、好ましくは10〜600g/L、5〜400g/L、好ましくは10〜300g/Lである。
【0030】
以下、金属析出触媒の除去液を含有する本発明防止液の好ましい態様を以下に示す。
<金属析出触媒の除去液を含有する本発明防止液>
(組成1)
1,2−エタンジチオール:0.1〜100g/L、好ましくは0.2〜50g/L
エタノール:1〜800g/L、好ましくは2〜500g/L
チオ尿素:1〜140g/L、好ましくは10〜100g/L
硫酸:5〜700g/L、好ましくは10〜600g/L
(組成2)
1,8−オクタンジチオール:0.1〜100g/L、好ましくは0.2〜50g/L
2−プロパノール:1〜800g/L、好ましくは2〜500g/L
N−メチルチオ尿素:1〜100g/L、好ましくは10〜70g/L
メタンスルホン酸:5〜700g/L、好ましくは10〜600g/L
(組成3)
1,8−オクタンジチオール:0.1〜100g/L、好ましくは0.2〜50g/L
2−プロパノール:1〜800g/L、好ましくは2〜500g/L
チオ尿素:1〜140g/L、好ましくは10〜100g/L
硫酸:5〜700g/L、好ましくは10〜600g/L
リンゴ酸:5〜400g/L、好ましくは10〜300g/L
【0031】
なお、本発明防止液は、水系または非水系の溶液に少なくともポリチオール化合物を添加し、撹拌、混合させることにより得られる。具体的に本発明防止液が水系の場合には、水にポリチオール化合物、必要により有機溶媒等を添加し、撹拌、混合させればよい。
【0032】
これら本発明防止液は、回路パターン形成後に行う無電解金属めっきが、配線基板の樹脂上に析出するブリッジを防止することができるので、公知のプリント配線板の製造方法に利用することができる。具体的には、配線基板の樹脂上に金属析出触媒を付与後、無電解銅めっきを行い、その後電気銅めっきを行い、次いで不要な銅皮膜をエッチングすることにより回路パターンを形成し、その回路上に無電解金属めっきを行うプリント配線板の製造方法において、前記エッチングと無電解金属めっき工程の間に、配線基板の樹脂上に本発明防止液を作用させればよい。なお、各工程の間には水洗、乾燥等を適宜行ってもよい。
【0033】
上記プリント配線板の製造方法において、配線基板の樹脂上に本発明防止液を作用させる方法としては、特に限定されず、配線基板そのものを本発明防止液に浸漬するか、配線基板の樹脂上に本発明防止液をスプレー等により噴射すればよい。また、本発明防止液の使用条件は、浸漬、スプレーとも、10〜55℃、好ましくは30〜55℃の液温で、10秒〜5分、好ましくは1〜5分で作用させることが好ましい。
【0034】
なお、上記プリント配線板の製造方法においては、本発明防止液に添加される金属析出触媒の除去液を、本発明防止液に添加せずに、別途金属析出触媒の除去液として作用させた後、更に本発明防止液を作用させてもよい。こうすることにより本発明防止液に含有させた場合よりもより高密度な配線パターンに対してブリッジを防止することができる。
【0035】
配線基板の樹脂上に金属析出触媒の除去液を作用させる方法としては、特に限定されず、配線基板そのものを金属析出触媒の除去液に浸漬するか、配線基板の樹脂上に金属析出触媒の除去液をスプレー等により噴射すればよい。また、金属析出触媒の除去液の使用条件は、浸漬、スプレーとも、10〜55℃、好ましくは30〜55℃の液温で、10秒〜5分、好ましくは1〜5分で作用させることが好ましい。
【0036】
このようにして製造されるプリント配線板は、従来よりも高密度とされる配線パターン、例えば、ライン/スペース(L/S)=15/15μmの配線パターンに対してブリッジを防止することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
実 施 例 1
ブリッジ防止液の調製:
1,2−エタンジチオール2g/Lおよびエタノール100g/Lを含有する水溶液を調製し、これをブリッジ防止液とした。
【0039】
実 施 例 2
ブリッジ防止液の調製:
1,8−オクタンジチオール2g/Lおよびエタノール100g/Lを含有する水溶液を調製し、これをブリッジ防止液とした。
【0040】
実 施 例 3
ブリッジ防止液の調製:
3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール2g/Lおよびエタノール100g/Lを含有する水溶液を調製し、これをブリッジ防止液とした。
【0041】
実 施 例 4
ブリッジ防止液の調製:
トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)2g/Lおよびエタノール100g/Lを含有する水溶液を調製し、これをブリッジ防止液とした。
【0042】
比 較 例 1
ブリッジ防止液の調製:
2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム5g/Lおよび水酸化ナトリウム5g/Lを含有する水溶液を調製し、これをブリッジ防止液とした。
【0043】
比 較 例 2
ブリッジ防止液の調製:
メルカプトエチルアミン10g/Lおよびエタノール100g/Lを含有する水溶液を調製し、これをブリッジ防止液とした。
【0044】
試 験 例 1
ブリッジ防止試験:
実施例1〜4および比較例1〜2で調製したブリッジ防止液を用いて下記の方法により銅配線腐食性、触媒除去性およびブリッジ防止性を評価した。これらの結果を表1に示した。なお、下記の方法においてブリッジ防止液は50℃に加温したものを用い、処理(浸漬)時間は1分間である。
【0045】
<銅配線腐食性>
大きさ5×5cmのエポキシ樹脂製の基材に、無電解銅めっきを約0.3μm形成した。その後セミアディティブ法によりエポキシ樹脂製の基材上に、銅配線高さ約20μm、ライン/スペース(L/S)=20/20(μm)の銅配線パターンを形成し、これを試験片とした。この試験片を各ブリッジ防止液で処理後、銅配線の状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、処理前の試験片と比較して以下の評価基準で評価した。
【0046】
<銅配線腐食性評価基準>
(評価) (内容)
◎ : 変化なし
○ : ほぼ変化なし
△ : やや腐食あり
× : 腐食あり
【0047】
<触媒除去性>
大きさ5×10cmのエポキシ樹脂製の基材に、以下の工程で無電解銅めっきを約0.3μm形成し、その後、7%硫酸、2%過酸化水素の水溶液に浸漬して無電解銅めっき皮膜を剥離し、エポキシ樹脂製の基材上に触媒が残存した状態のものを作製し、これを試験片とした。この試験片を各ブリッジ防止液で処理後、パラジウム残留量を測定し、未処理の試験片とのパラジウム残留量の差を、パラジウム除去率として算出し評価した。パラジウム残留量の測定は、試験片を、37質量%塩酸と68質量%硝酸を3:1の容量比で混合し作製した王水約50mLに5分間浸漬して、その王水を100mLメスフラスコにサンプリングし、次に試験片をイオン交換水で洗浄し、その洗浄水も100mLメスフラスコにサンプリングして、最後に100mLに正確にメスアップした水溶液中のパラジウム濃度を、原子吸光分析装置(AA240FS;Varian社製)により分析した。
【0048】
<試験片の無電解銅めっき処理工程>
クリーナー/コンディショナー(PB−117S)50℃、5分

水洗

ソフトエッチング(PB−228)30℃、2分

水洗

プリディップ(塩酸)30℃、1分

パラジウム触媒付与(PB−318)30℃、5分

アクセラレーター(PB−445)30℃、5分

水洗

無電解銅めっき(PB−503F)30℃、15分
(塩酸以外の薬品は何れも(株)JCU製)
【0049】
<ブリッジ防止性>
エポキシ樹脂製の基材をセミアディティブ法により処理し、銅配線高さ約20μm、ライン/スペース(L/S)=15/15、20/20、25/25、30/30(μm)の3種類の銅配線パターンを有する試験片を作成した。この試験片を各ブリッジ防止液で処理後、これらの各試験片に対し、下記工程の無電解ニッケルめっきを施した。各試験片のパターン間のめっき析出状態を調べ、下記評価基準により評価した。また、ブリッジ防止液に浸漬しなかった試験片についても同様にめっき析出状態を調べ、同様に評価した。更に無電解ニッケルめっきの膜厚を測定した。
【0050】
<無電解ニッケルめっき工程>
酸性脱脂(PB−242D)、45℃、5分

水洗

ソフトエッチ(SC−300)、30℃、1分

水洗

触媒付与(PB−305)、30℃、3分

水洗

無電解ニッケルめっき(PB−606)、80℃、20分
(硫酸以外の薬品は何れも(株)JCU製)
【0051】
<めっき析出状態の評価基準>
(評価) (内容)
◎ : ほとんど析出がない
○ : 部分的に析出がある(短絡はなし)
× : 析出が多い(短絡がある)
××: 全面的に析出がある
【0052】
【表1】
【0053】
ポリチオール化合物を含有するブリッジ防止液(実施例1〜4)で処理した場合、L/S=15/15でもブリッジが発生しなかった。一方、ブリッジ防止液で処理を行わない場合には、L/S=30/30でも全面に析出し、モノチオール化合物を含有するブリッジ防止液(比較例1、2)で処理した場合には、L/S=25/25以下でブリッジが発生した。なお、それぞれの処理により、銅配線への影響は認められなかったが、触媒もまったく除去されなかった。
【0054】
実 施 例 5
ブリッジ防止液の調製:
実施例1のブリッジ防止液に、更に、チオ尿素60g/Lおよびメタンスルホン酸200g/Lを含有させたブリッジ防止液を調製した。
【0055】
実 施 例 6
ブリッジ防止液の調製:
実施例2のブリッジ防止液に、更に、N−メチルチオ尿素70g/Lおよびメタンスルホン酸600g/Lを含有させたブリッジ防止液を調製した。
【0056】
実 施 例 7
ブリッジ防止液の調製:
実施例3のブリッジ防止液に、更に、N−メチルチオ尿素70g/Lおよびメタンスルホン酸600g/Lを含有させたブリッジ防止液を調製した。
【0057】
実 施 例 8
ブリッジ防止液の調製:
実施例4のブリッジ防止液に、更に、チオ尿素60g/Lおよびメタンスルホン酸400g/Lを含有させたブリッジ防止液を調製した。
【0058】
比 較 例 3
ブリッジ防止液の調製:
チオ尿素60g/Lおよびメタンスルホン酸200g/Lを含有する水溶液を調製し、これをブリッジ防止液とした。
【0059】
比 較 例 4
ブリッジ防止液の調製:
比較例1のブリッジ防止液に、更に、チオ尿素60g/Lおよびメタンスルホン酸200g/Lを含有させたブリッジ防止液を調製した。
【0060】
比 較 例 5
ブリッジ防止液の調製:
比較例2のブリッジ防止液に、更に、チオ尿素60g/Lおよびメタンスルホン酸200g/Lを含有させたブリッジ防止液を調製した。
【0061】
試 験 例 2
ブリッジ防止試験:
実施例5〜8および比較例3〜5で調製したブリッジ防止液を用いて試験例1と同様にして銅配線腐食性、触媒除去性およびブリッジ防止性を評価した。これらの結果を表2に示した。
【0062】
【表2】
【0063】
ポリチオール化合物を含有するブリッジ防止液に、更に、金属析出触媒の除去液を含有させたもの(実施例5〜8)で処理した場合、L/S=15/15でもブリッジが発生しない上、触媒もよく除去されているため、樹脂上への析出も少なかった。一方、金属析出触媒の除去液をブリッジ防止液の代わりに用いて処理した場合(比較例3)またはモノチオール化合物を含有するブリッジ防止液に、更に、金属析出触媒の除去液を含有させたもの(比較例4〜5)で処理した場合には、L/S=20/20以下でブリッジが発生した。なお、金属析出触媒の除去液により樹脂上の触媒が90%以上除去され、銅配線への影響は比較例4以外、実用上問題のない程度であった。
【0064】
実 施 例 9
金属析出触媒の除去液の調製:
塩酸300g/Lおよび硝酸30g/Lを含有する水溶液を調製し、これを金属析出触媒の除去液とした。
【0065】
実 施 例 10
金属析出触媒の除去液の調製:
チオ尿素60g/Lおよびメタンスルホン酸200g/Lを含有する水溶液を調製し、これを金属析出触媒の除去液とした。
【0066】
実 施 例 11
金属析出触媒の除去液の調製:
N−メチルチオ尿素70g/Lおよびメタンスルホン酸600g/Lを含有する水溶液を調製し、これを金属析出触媒の除去液とした。
【0067】
比 較 例 6
ブリッジ防止液の調製:
2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム5g/Lおよびエタノール100g/Lを含有する水溶液を調製し、これをブリッジ防止液とした。
【0068】
試 験 例 3
ブリッジ防止試験:
実施例1〜3および比較例6で調製したブリッジ防止液と、実施例9〜11で調製した金属析出触媒の除去液を用いて試験例1と同様にして銅配線腐食性、触媒除去性およびブリッジ防止性を評価した。なお、金属析出触媒の除去液を用いた処理は、ブリッジ防止液を用いた処理の前に行った。また、この処理には、金属析出触媒の除去液を50℃に加温したものを用い、処理(浸漬)時間は1分間である。これらの結果を表3に示した。
【0069】
【表3】
【0070】
金属析出触媒の除去液(実施例9〜11)で処理を行った後、ポリチオール化合物を含有するブリッジ防止液で処理した場合(実施例1〜3)、L/S=15/15でもブリッジが発生しない上、触媒もよく除去されているため、樹脂上への析出が少なかった。一方、金属析出触媒の除去液(実施例9)のみで処理した場合、触媒はよく除去されたが、L/S=30/30でも全面に析出した。また、金属析出触媒の除去液(実施例9)で処理を行った後、モノチオール化合物を含有するブリッジ防止液(比較例6)で処理した場合には、L/S=20/20以下でブリッジが発生した。更に、金属析出触媒の除去液(実施例10)で処理を行った後、モノチオール化合物を含有するブリッジ防止液(比較例6)で処理した場合には、L/S=15/15以下でブリッジが発生した。なお、金属析出触媒の除去液により樹脂上の触媒が90%以上除去され、銅配線への影響は実用上問題のない程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の無電解金属めっきのブリッジ防止液は、プリント配線板の製造に利用することができる。

以 上