(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290249
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】一時的に出力を増大させる装置および方法
(51)【国際特許分類】
F02C 9/16 20060101AFI20180226BHJP
F02C 7/143 20060101ALI20180226BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20180226BHJP
F02C 9/42 20060101ALI20180226BHJP
F02C 9/00 20060101ALI20180226BHJP
F02C 6/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
F02C9/16 A
F02C7/143
F02C7/00 F
F02C9/42
F02C9/00 A
F02C6/02
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-548717(P2015-548717)
(86)(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公表番号】特表2016-503139(P2016-503139A)
(43)【公表日】2016年2月1日
(86)【国際出願番号】FR2013053152
(87)【国際公開番号】WO2014096694
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】1262433
(32)【優先日】2012年12月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516235451
【氏名又は名称】サフラン・ヘリコプター・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モワンヌ,ベルトラン
(72)【発明者】
【氏名】ユンベール,ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】ラボルド,パトリス
(72)【発明者】
【氏名】ミネル,ロラン
(72)【発明者】
【氏名】プランシバレ,レミ
【審査官】
高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03518023(US,A)
【文献】
特開2002−221045(JP,A)
【文献】
特開平11−072029(JP,A)
【文献】
特開2007−022268(JP,A)
【文献】
特表平08−502805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 6/02
F02C 7/00
F02C 7/143
F02C 9/00
F02C 9/16
F02C 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1のタービンエンジン(5A)の出力を一時的に増大させる装置(13)にして、
冷却液のタンク(14)と、
前記タンク(14)に接続され、第1のタービンエンジン(5A)の少なくとも1つの圧縮段(8)から上流側に設置されるのに適した少なくとも1つの噴射ノズル(22)へとつながる第1の噴射回路(16A)と
を備える装置(13)であって、
第1の噴射回路(16A)は、少なくとも第1のフロー弁(23)を含み、前記第1のフロー弁(23)は、第1の噴射回路(16A)の前記噴射ノズル(22)に向かって冷却液を流すことができるように、第1のフロー弁(23)から上流側の圧力が第2のタービンエンジン(5B)の少なくとも1つの圧縮段(8)から下流側の圧力を所定閾値より高い値まで超えた場合に開放される構造であること、および装置(13)は、前記タンク(14)を加圧するために第1のタービンエンジン(5A)の少なくとも1つの圧縮段(8)に接続されるのに適しており、前記タンク(14)の減圧を防ぐためのチェック弁(21)を含む少なくとも1つの加圧回路(15A)をさらに含むことを特徴とする、装置(13)。
【請求項2】
前記タンク(14)に接続され、少なくとも1つの噴射ノズル(22)へとつながり、少なくとも1つのフロー弁(23)を含む第2の噴射回路(16B)をさらに含み、フロー弁(23)は、冷却液を第2の噴射回路(16B)の前記噴射ノズル(22)に向かって流すことができるように、圧力が少なくとも1つの圧縮段から下流側の圧力に比べて所定の閾値を超えた場合に開放される構造である、請求項1に記載の装置(13)。
【請求項3】
少なくとも前記第1の噴射回路(16A)がさらに、前記第1の噴射回路(16A)の第1のフロー弁(23)と並列接続され、冷却液を第1の噴射回路(16A)の前記噴射ノズル(22)に向かって流すことができるように、圧力が第3のタービンエンジン(5C)の圧縮段(8)から下流側の圧力に比べて所定閾値を超えた場合に開放される構造である少なくとも1つの第2のフロー弁(23´)を含む、請求項1または請求項2に記載の装置(13)。
【請求項4】
それぞれの噴射回路(16A、16B)がさらに、少なくとも1つのフロー弁(23、23´)から上流側に追加弁(29)を含む、請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項に記載の装置(13)。
【請求項5】
少なくとも第1のタービンエンジン(5A)と、第2のタービンエンジン(5B)と、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の装置(13)とを有するパワープラント(4)であって、第1の噴射回路(16A)の前記噴射ノズル(22)は、第1のタービンエンジン(5A)の前記少なくとも1つの圧縮段(8)から上流側に設置され、第1の噴射回路(16A)の第1のフロー弁(23)は、前記第1のフロー弁(23)を制御するために第2のタービンエンジン(5B)の前記圧縮段(8)に接続される、パワープラント(4)。
【請求項6】
請求項5に記載のパワープラント(4)を含む、航空機(1)。
【請求項7】
第1のタービンエンジン(5A)の出力を一時的に増大する方法であって、冷却液タンク(14)に接続され、第1のタービンエンジン(5A)の少なくとも1つの圧縮段(8)から上流側の少なくとも1つの噴射ノズル(22)へとつながる第1の噴射回路(16A)の第1のフロー弁(23)は、冷却液が第1の噴射回路(16A)内を流れて、第1のタービンエンジン(5A)の少なくとも1つの圧縮段(8)から上流側の前記噴射ノズル(22)によって噴射されるように、前記第1のフロー弁(23)から上流側の圧力が第2のタービンエンジン(5B)の少なくとも1つの圧縮段(8)から下流側の圧力より所定閾値を超える値まで高くなった場合に開放され、前記タンク(14)は、第1のタービンエンジン(5A)の少なくとも1つの圧縮段(8)に接続され、前記タンク(14)の減圧を防ぐためにチェック弁(21)を含む少なくとも1つの加圧回路(15A)によって加圧される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンエンジンの分野に関し、特に、少なくとも第1のタービンエンジンの出力を一時的に増大させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、用語「タービンエンジン」は、作動流体がタービン内で膨張することによって前記作動流体からの熱エネルギーを機械エネルギーに変換することができる任意の機械を指すのに使用されている。より詳細には、作動流体は、燃焼室内での燃料と空気との化学反応によって発生よる燃焼ガスとすることができる。したがって、本明細書において解釈されるタービンエンジンは、特に、直流形もしくはバイパス形のターボジェット、ターボプロップ、ターボシャフトエンジン、およびガスタービンを含む。本明細書において、用語「上流側」および「下流側」は、タービンエンジンを通過する作動流体の正常な流れ方向に対して定義される。
【0003】
特定の状況では、タービンエンジンの出力を一時的に増大させるのが望ましい場合がある。例えば、複数のタービンエンジンを備えたパワープラントでは、複数のタービンエンジンのうちの1つのタービンエンジンの故障により、故障したタービンエンジンの出力損失を補償するために、緊急時に一時的に他のタービンの出力を増大させる必要が生じる。
【0004】
このように出力を一時的に増大させるための当業者に周知の解決策の1つは、例えば、水もしくは水と不凍液(例えば、メタノール、エタノール、もしくはグリコール)との混合物によって構成される冷却液を噴射することであり、この液体は、燃焼室から上流側の吸気口に噴射される。この噴射により、まず、燃焼室から上流側の空気が冷却され、そのことにより、空気の密度が増して、燃焼室に吸入される酸素の質量流量が上昇する。次に、燃焼室内でこの冷却液が気化することにより、燃焼室から下流側の圧力および/または体積流量が大幅に上昇し、ひいては、タービン内で回収される機械的仕事量が大幅に増大する。
【0005】
しかし、搭載される車両、特に、航空機では、上記冷却液の使用は、車両によって運搬することができる冷却液の重量によって制限される。英国特許出願公開第2046681(A)号明細書には、固定タンクから冷却液を航空機に供給することが提案されている。しかし、この解決策は、航空機が静止状態である、もしくはほとんど静止状態である場合のみ実施可能であることは明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】英国特許出願公開第2046681号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
追加の出力をできる限り長期間にわたって利用可能にするという要求は、冷却液で構成される追加の重量を最小限に抑えるという要求と全く矛盾する。
【0008】
さらに、この一時的に出力を増大させるのが別のタービンエンジンの故障を補償するために行われる場合、この増大が自動的に、かつできる限り迅速に起動されるのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、上述の欠点を克服することである。より詳細には、本発明の目的は、少なくとも第1のタービンエンジンの出力を一時的に増大させる装置であって、冷却液のタンクと、前記タンクに接続され、前記第1のタービンの少なくとも1つの圧縮段から上流側に設置されるのに適した少なくとも1つの噴射ノズルへとつながる第1の噴射回路とを備え、そのことにより第2のタービンエンジンが故障した場合に自動的に冷却液の噴射が起動されるようにする装置を提案することである。
【0010】
該装置の少なくとも1つの実施形態において、上記目的は、第1の噴射回路は少なくとも第1のフロー弁を含み、前記第1のフロー弁は、第1の噴射回路の前記噴射ノズルに向かって冷却液を流すことができるように、第1のフロー弁から上流側の圧力が第2のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段から下流側の圧力を所定閾値より高い値まで超えた場合に開放される構造であること、および一時的に出力を増大させる装置はさらに、前記タンクを加圧するために第1のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段に接続されるのに適しており、タンクの減圧を防ぐためのチェック弁を含む少なくとも1つの加圧回路を含むことによって達成される。
【0011】
上記条件により、装置が作動すると、圧縮機によって供給される圧力の降下をもたらす第2のタービンエンジンの故障により、フロー弁から上流側の圧力が圧縮機によって供給されるこの圧力よりも、フロー弁を開放するための所定閾値を超える値まで高くなり、その結果、フロー弁が開放されて、噴射ノズルに向かって冷却液が流される。フロー弁から上流側の圧力は第2のタービンエンジンの圧縮機によって加圧されているタンクによって決まるので、この第1のフロー弁が開放されるか否かは、少なくとも第1のタービンエンジンによって供給される圧力と第2のタービンエンジンによって供給される圧力との差に左右される。両方のタービンエンジンが同じ速度(一般的には、正常状態)で動作している場合、これらの2つの圧力はほぼ等しく、過剰圧力は所定閾値を超えることはないので、第1のフロー弁は閉鎖されたままとなる。一方、故障したために第2のタービンエンジンの速度が第1のタービンエンジンの速度より遅くなった場合、第1のタービンエンジンによって供給される圧力は、第2のタービンエンジンによって供給される圧力に比べて、第1のフロー弁を開放させることができ、冷却液を噴射ノズルに向かって流すことができる。
【0012】
フロー弁が開放位置にあれば、タンクの加圧は冷却液の流れを第1の噴射回路へと進める働きをする。したがって、第1の噴射回路を通って噴射される冷却液の流量はタンクと大気圧との圧力差によって受動的に調整されるので、冷却液の流量をより多く第1の噴射回路に噴射することにより、必然的に、高空における第1のタービンエンジンの性能低下を少なくとも一部補償することができる。
【0013】
特に、第2のタービンエンジンが故障した場合に、また第1のタービンエンジンが故障した場合に、同様に十分にタンクを加圧し続けるために、一時的に出力を増大させる装置はさらに、第2のタービンエンジンの圧縮段に接続するための第2の加圧回路を含んでもよい。また、タンクは、タービンエンジンが停止した場合にタンク内で大気圧を回復する働きをし、タービンエンジンの一方または他方が過速度になった場合に、この加圧による機械的応力を制限するために、タンク内の圧力が過剰になるのを防ぐ働きをする少なくとも1つの減圧電磁弁および/または少なくとも1つの安全弁を含んでもよい。
【0014】
第1のタービンエンジンによって供給される出力を一時的に増大させることによって、第2のタービンエンジンの故障を補償できるだけでなく、さらに第2のタービンエンジンによって供給される出力を一時的に増大させることによって第1のタービンエンジンの故障を補償することができることが望ましく、またこれらを同じ形で行うのが望ましい。そのためには、一時的に出力を増大させる装置はさらに、前記タンクに接続され、少なくとも1つの噴射ノズルへとつながり、少なくとも1つのフロー弁を含む第2の噴射回路をさらに含んでもよく、フロー弁は、冷却液を第2の噴射回路の前記噴射ノズルに向かって流すことができるように、圧力が第1のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段から下流側の圧力に比べて所定の閾値を超えた場合に開放される構造である。第1のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段から下流側の圧力に比べて、この高い方の圧力は、第2のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段から下流側および/または第2の噴射回路のフロー弁から上流側の圧力とすることができる。
【0015】
3つ以上の複数のタービンエンジンのうちの1つのタービンエンジンの故障の影響が小さい場合でも、本発明はこの複数のタービンエンジンにも適用可能である。したがって、第2のタービンエンジンもしくは第3のタービンエンジンが故障した場合に、少なくとも第1のタービンエンジンの出力を一時的に増大させる上記装置を起動させるために、第1の噴射回路はさらに、前記第1の噴射回路の第1のフロー弁と並列接続され、冷却液を第1の噴射回路の前記噴射ノズルに向かって流すことができるように、圧力が第3のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段から下流側の圧力に比べて所定閾値を超えた場合に開放される構造である少なくとも第2のフロー弁を含む。2つのフロー弁を並列配置することにより、第2のタービンエンジンが故障した場合および第3のタービンエンジンが故障した場合共に、冷却液を少なくとも1つの噴射ノズルに向かって流すことができるようになる。さらに、装置は、それぞれのタービンエンジンに対して1つの噴射回路を有してもよく、それぞれの並列接続のフロー弁は他のタービンエンジンのそれぞれの噴射回路に対応する。
【0016】
それぞれの噴射回路はさらに、前記少なくとも1つのフロー弁から上流側に追加の弁を含んでもよい。この追加弁は、噴射回路を作動もしくは停止させる働きをする、特に、必要でないと見なされた状況では冷却液の噴射を回避する働きをする。
【0017】
さらに、本明細書は、少なくとも第1のタービンエンジンと、第2のタービンエンジンと、少なくとも第1のタービンエンジンの出力を一時的に増大させる上記装置とを有するパワープラントであって、第1の噴射回路の前記噴射ノズルは第1のタービンエンジンの前記圧縮段から上流側に設置され、第1の噴射回路の第1のフロー弁は前記第1のフロー弁を制御するために第2のタービンエンジンの前記圧縮段に接続される、パワープラントを提供する。
【0018】
さらに、本明細書は、上記パワープラントを含む、例えば、回転翼航空機のような航空機に関する。
【0019】
本明細書はさらに、第1のタービンエンジンンの出力を一時的に増大する方法であって、噴射液タンクに接続され、第1のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段から上流側の少なくとも1つの噴射ノズルへとつながる第1の噴射回路の第1のフロー弁は、冷却液が第1の噴射回路内を流れて、第1のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段から上流側の前記噴射ノズルによって噴射されるように、前記第1のフロー弁から上流側の圧力が第2のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段から下流側の圧力より所定閾値を超える値まで高くなった場合に開放され、前記タンクは、第1のタービンエンジンの少なくとも1つの圧縮段に接続され、タンクの減圧を防ぐためにチェック弁を含む少なくとも1つの加圧回路によって加圧される方法に関する。
【0020】
非限定的な例として挙げられた一実施形態の詳細な説明を読めば、本発明はより十分に理解され、本発明の利点がより明らかになるであろう。添付図面を参照しながら本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一時的に出力を増大させる装置の第1の実施形態を含むパワープラントを有する航空機の図である。
【
図3】一時的に出力を増大させる装置の第2の実施形態を含むパワープラントの図である。
【
図4】一時的に出力を増大させる装置の第3の実施形態を含むパワープラントの図である。
【
図5】一時的に出力を増大させる装置の第4の実施形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、回転翼航空機1、より詳細には、パワープラント4によって駆動されるように結合された主回転翼2と反トルク尾部回転翼3とを有するヘリコプタを示した図である。図示されているパワープラント4は、2つのタービンエンジンを有し、より詳細には、主回転翼2と尾部回転翼3とを駆動するために、共に主ギアボックス7に接続された出力シャフト6をそれぞれ有する第1のターボシャフトエンジン5Aと第2のターボシャフトエンジン5Bとを有する。
【0023】
パワープラント4は、
図2に詳細に示されている。それぞれのターボシャフトエンジン5A、5Bは、圧縮機8と、燃焼室9と、ドライブシャフト11によって圧縮機8に接続される第1のタービン10と、出力シャフト6に結合される第2のタービン12もしくは「フリー」タービンとを備える。ターボシャフトエンジンン5Aもしくは5Bのうちの一方の故障による出力低下を少なくとも一時的に補償するために、パワープラント4は、他方のターボシャフトエンジン5A、5Bからの出力を一時的に増大させる装置13を有する。この装置13は、冷却液のタンク14と、タンク14を加圧するための第1の加圧回路15Aと、タンク14を加圧するための第2の加圧回路15Bと、第1の冷却液噴射回路16Aと、第2の冷却液噴射回路16Bとを備える。タンク14に収容されている冷却液は、例えば、水のみで構成されてもよいし、メタノール、エタノール、および/またはグリコールのような不凍液と混合された水で構成されてもよい。タンク14は、航空機1の中央制御ユニット19に接続される減圧電磁弁18を有する。中央制御ユニット19は、この電磁弁18を使用して、例えば、飛行が終了した後に、タンクを減圧することができる。
【0024】
第1の加圧回路15Aは、タンク14を第1のターボシャフトエンジン5Aの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側に位置する加圧空気取り出し点20Aに接続する。第1の加圧回路15Aは、加圧空気を圧縮機8からタンク14に向かって流すが、タンク14が反対方向に減圧されるのを防ぐことができるように配向されたチェック弁21を含む。第2の加圧回路15Bは、タンク14を第2のターボシャフトエンジン5Bの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Bに接続する。第2の加圧回路15Bは、加圧空気を圧縮機8からタンク14に向かって流すが、タンク14が反対方向に減圧されるのを防ぐことができるように配向されたチェック弁21を含む。この加圧回路15A、15Bの冗長性により、他方の回路が接続されているターボシャフトエンジンが故障した場合でも、確実にタンク14を加圧し続けることができる。
【0025】
第1の噴射回路16Aおよび第2の噴射回路16Bそれぞれは、タンク14に接続され、第1のターボシャフトエンジン5Aおよび第2のターボシャフトエンジン5Bの圧縮機8から上流側に設置された複数の噴射ノズル22へとつながる。これらの噴射回路16A、16Bそれぞれは、それぞれのフロー弁23を含む。フロー弁23は、噴射回路16A、16B経由でタンク14から対応するターボシャフトエンジン5A、5Bの圧縮機8から上流側の噴射ノズル22までの冷却液の流れを通過させる、もしくは遮断するための流体制御オンオフ弁である。この流体制御フロー弁23は、供給口26と制御口27と出口28とを有するチャンバ25内に摺動可能に取り付けられたピストン24を有する。供給口26と出口28は、ピストン24の同じ側に位置し、ピストン24は供給口26へと付勢されるが、制御口27は、ピストン24の反対側に位置する。したがって、フロー弁23は、供給口26の圧力が制御口27の圧力より高くなることによって開放される。この圧力差がピストン24の軸方向付勢によって定められた閾値を超えると、フロー弁23は開放されて冷却液がフロー弁23内を流れるようになる。
【0026】
2つの噴射回路16A、16Bそれぞれにおいて、フロー弁23の供給口26はタンク14に接続されるが、出口28はノズル22に接続される。一方、第1の噴射回路16Aでは、フロー弁23の制御口27は、第2のターボシャフトエンジン5Bの加圧空気取り出し点20Bに接続されたダクト17Aに接続されるが、第2の噴射回路16Bでは、フロー弁23の制御口27は、第1のターボシャフトエンジン5Aの加圧空気取り出し点20Aに接続されたダクト17Bに接続される。
【0027】
したがって、第1の噴射回路16Aでは、フロー弁23は、タンク14によって送られる冷却液の圧力が第2のターボシャフトエンジン5Bの圧縮機8によって供給される圧縮空気の圧力より高くなることによって制御されるが、第2の噴射回路16Bでは、フロー弁23は、冷却液の同じ圧力が第1のターボシャフトエンジン5Aの圧縮機8によって供給される圧縮空気の圧力より高くなることによって開放される。ほぼ同一の第1のターボシャフトエンジン5Aと第2のターボシャフトエンジン5Bとが同じ速度で動作する限り、これらの圧力差は0であり、両方の噴射回路16A、16Bのフロー弁23は閉鎖状態のままである。しかし、第2のターボシャフトエンジン5Bが故障し、第1のターボシャフトエンジン5Aが通常の速度で動作し続けている場合、タンク14A(第1のターボシャフトエンジン5Aの圧縮機8によって供給される圧縮空気によって変わらず加圧されている)内の圧力は、ダクト17Aを介して第2のターボシャフトエンジン5Bの圧縮機8によって供給される圧力より高くなり、さらに増加して最終的に第1の噴射回路16Aのフロー弁23のピストン24を閉鎖する付勢力を越えることにより、冷却液の通路を開放して、冷却液の流れを第1のターボシャフトエンジン5Aの圧縮機8の上流側端部へと噴射することができるようになる。このようにして第1のターボシャフトエンジン5Aの空気流に噴射された冷却液は、第2のターボシャフトエンジン5Bの故障を補償するために、一時的に第1のターボシャフトエンジン5Aの出力を増大させることができる。さらに、第1のターボシャフトエンジン5Aが故障し、第2のターボシャフトエンジン5Bが通常の速度で動作し続けている場合、タンク14(第2のターボシャフトエンジン5Bの圧縮機8によって供給される圧縮空気によって変わらず加圧されている)内の圧力は、ダクト17Bを介して第1のターボシャフトエンジン5Aの圧縮機8によって供給される圧力より高くなり、さらに増加し続けて最終的に第2の噴射回路16Bのフロー弁23のピストン24を閉鎖する付勢力を越えることにより、冷却液の通路を提供して、冷却液の流れを第2のターボシャフトエンジン5Bの圧縮機8の上流側端部へと噴射することができるようになる。このようにして第2のターボシャフトエンジン5Bの空気流に噴射された冷却液は、第1のターボシャフトエンジン5Aの故障を補償するために、一時的に第2のターボシャフトエンジン5Bの出力を増大させることができる。いずれの場合も、冷却液噴射の流量は、タンク14内の圧力が大気圧より高くなる値まで受動的に調整される。したがって、一時的に出力を増大させる装置13は、必然的に、冷却液の流量をより多く噴射することにより、高空におけるターボシャフトエンジン5A、5Bの性能低下を少なくとも一部補償する働きをすることができる。
【0028】
それぞれの噴射回路16A、16Bはさらに、フロー弁23のすぐ上流側に、噴射回路16A、16Bそれぞれを作動もしくは停止させるために、噴射回路16A、16Bから下流側にあるターボシャフトエンジン5A、5Bの個々の制御ユニット30に接続された電磁弁29を含む。したがって、中央制御ユニット19にも接続されている個々の制御ユニット30は、ターボシャフトエンジン5A、5Bそれぞれの動作パラメータおよび/またはユーザ(例えば、パイロット)からのコマンドに応じて、電磁弁29を開放させることによって、噴射回路16A、16Bを作動させることができ、電磁弁29を閉鎖させることによって、再度噴射回路16A、16Bを停止させることができる。それぞれの噴射回路16A、16Bはさらに、液体注入口31とチェック弁32とを含むことにより、ノズル26が圧縮機8の洗浄用にも使用できるようにする。それぞれの加圧回路15A、15B内のフィルタ33は、汚染物質がターボシャフトエンジン5A、5Bから入り込むことによってタンク14内の冷却液が汚染されるのを防ぐ働きをする。さらに、噴射回路16A、16B内の濾過フィルタ34により、他の汚染物質が冷却液と一緒にターボシャフトエンジン5A、5Bの空気流に噴射されるのを防ぐことができる。
【0029】
この第1の実施形態では、パワープラント4は、2つのターボシャフトエンジン5A、5Bのみを有するが、3つ以上のタービンエンジンを有するパワープラントにも同じ原理を適用することができる。したがって、
図3は、3つのターボシャフトエンジン5A、5B、5Cと、それらの出力を一時的に増大させる第2の実施形態の装置13とを有するパワープラント4を示している。
【0030】
この第2の実施形態では、装置14は、ターボシャフトエンジン5A、5B、もしくは5Cのうちの1つが故障した場合に、該故障によって起動されたパワープラント4の出力損失を一時的に補償するために、冷却液が他の2つのターボシャフトエンジンのうちの一方のターボシャフトエンジンから上流側の空気流に噴射されるように構成される。
【0031】
そのためには、第1の実施形態と同様に、装置13は、第1のターボシャフトエンジン5Aを通過する空気流の上流側端部に冷却液を噴射するための第1の回路16Aと、第2のターボシャフトエンジン5Bを通過する空気流の上流側端部に冷却液を噴射するため第2の回路16Bと、第3のターボシャフトエンジン5Cを通過する空気流の上流側端部に冷却液を噴射するため第3の回路16Cとを有する。
【0032】
これらの第1の噴射回路16A、第2の噴射回路16B、および第3の噴射回路16Cそれぞれは、タンク14に接続され、第1のターボシャフトエンジン5A、第2のターボシャフトエンジン5B、および第3のターボシャフトエンジン5Cのそれぞれの圧縮機8から上流側に設置された複数の噴射ノズル22へとつながる。これらの噴射回路16A、16B、16Cそれぞれは、タンク14から対応するターボシャフトエンジン5A、5B、5Cの圧縮機8から上流側の噴射ノズル22までの冷却液の流れを通過させる、もしくは遮断するためのフロー弁23を有する。
【0033】
噴射回路16A、16B、16C内のフロー弁23それぞれは、第1の実施形態のフロー弁と同じ構造で、同じように動作する流体制御オンオフ弁である。この第2の実施形態では、冷却液をターボシャフトエンジン5A、5B、もしくは5Cそれぞれの上流側端部に噴射するための回路16A、16B、もしくは16Cのフロー弁23は、冷却液の圧力が他の2つのターボシャフトエンジンのうちの一方の圧縮機8によって供給される圧力よりも高くなることによって制御される。したがって、第1の噴射回路16Aでは、ダクト17Aは、第1のフロー弁23の制御口27を第2のターボシャフトエンジン5Bの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Bに接続する。第2の噴射回路16Bでは、ダクト17Bは、第1のフロー弁23の制御口27を第3のターボシャフトエンジン5Cの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Cに接続する。最後に、第3の噴射回路16Cでは、ダクト17Cは、第1のフロー弁23の制御口27を第1のターボシャフトエンジン5Aの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Aに接続する。
【0034】
したがって、3つのターボシャフトエンジン5A、5B、5Cのうちのいずれか1つのターボシャフトエンジンが故障した場合に、他の2つのターボシャフトエンジンのうちの一方の上流側端部に冷却液を噴射するための回路のフロー弁23は、他のターボシャフトエンジンを通過する空気流に冷却液を噴射するために開放され、噴射流量は、必然的にタンク14内の圧力が大気圧より高くなる程度まで調整される。一時的に出力を増大させる装置13の他の構成要素は、第1の実施形態の構成要素とほぼ同じである。したがって、これらの構成要素には同じ参照番号が付与されている。特に、この第2の実施形態では、当然、同様に第3のターボシャフトエンジン5Cに接続される第3の加圧回路を備えることを想定できるが、ターボシャフトエンジン5A、5B、もしくは5Cのうちの1つの故障を補償するために十分な冗長性を提供するのに、第1の実施形態の同じ2つの加圧回路15A、15Bで十分である。
【0035】
特定の状況において、3つ以上のタービンエンジンを有するパワープラントでは、タービンエンジンの1つが故障した場合に、故障したタービンエンジンからの出力損失を補償するために、他のタービンエンジンのうちの2つ以上の出力を一時的に増大させるのが望ましい場合がある。
図4に示されている第3の実施形態は、第3番目のエンジンが故障した場合に、2つのターボシャフトエンジンの出力を一時的に増大させることができる出力を一時的に増大させるための装置13を有する3つのターボシャフトエンジン5A、5B、5Cを含むパワープラント4を有する。
【0036】
この第3の実施形態では、装置14は、ターボシャフトエンジン5A、5B、もしくは5Cのうちの1つが故障した場合に、該故障によって起動されたパワープラント4の出力損失を一時的に補償するために、冷却液が他の2つのターボシャフトエンジンを通る空気流の上流側端部に噴射されるように構成される。
【0037】
そのためには、第2の実施形態と同様に、装置13は、第1のターボシャフトエンジン5Aを通過する空気流の上流側端部に冷却液を噴射するための第1の回路16Aと、第2のターボシャフトエンジン5Bを通過する空気流の上流側端部に冷却液を噴射するため第2の回路16Bと、第3のターボシャフトエンジン5Cを通過する空気流の上流側端部に冷却液を噴射するため第3の回路16Cとを有する。
【0038】
第2の実施形態と同様に、第1の噴射回路16A、第2の噴射回路16B、および第3の噴射回路16Cそれぞれは、タンク14に接続され、第1のターボシャフトエンジン5A、第2のターボシャフトエンジン5B、および第3のターボシャフトエンジン5Cのそれぞれの圧縮機8から上流側に設置された複数の噴射ノズル22へとつながる。それでも、これらの噴射回路16A、16B、16Cそれぞれは、タンク14から対応するターボシャフトエンジン5A、5B、もしくは5Cの圧縮機8から上流側の噴射ノズル22までの冷却液の流れを通過させる、もしくは遮断するために並列接続された第1のフロー弁23と第2のフロー弁23´とを有する。
【0039】
噴射回路16A、16B、16Cそれぞれの第1のフロー弁23および第2のフロー弁23´それぞれは、第1の実施形態のフロー弁と同じ構造で、同じように動作する流体制御フロー弁である。この第3の実施形態では、冷却液をターボシャフトエンジン5A、5B、5Cの上流側端部に噴射するための回路16A、16B、16Cそれぞれのフロー弁23、23´はそれぞれ、冷却液の圧力が他の2つのターボシャフトエンジンのうちの一方のターボシャフトエンジンの圧縮機8によって供給される圧力よりも高くなることによって制御される。したがって、第1の噴射回路16Aでは、ダクト17Aは、第1のフロー弁23の制御口27を第2のターボシャフトエンジン5Bの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Bに接続するが、ダクト17A´は、第2のフロー弁23´の制御口27を第3のターボシャフトエンジン5Cの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Cに接続する。第2の噴射回路16Bでは、ダクト17Bは、第1のフロー弁23の制御口27を第3のターボシャフトエンジン5Cの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Cに接続するが、ダクト17C´は、第2のフロー弁23´の制御口27を第1のターボシャフトエンジン5Aの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Aに接続する。最後に、第3の噴射回路16Cでは、ダクト17Cは、第1のフロー弁23の制御口27を第1のターボシャフトエンジン5Aの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Aに接続するが、ダクト17B´は、第2のフロー弁23´の制御口27を第2のターボシャフトエンジン5Bの圧縮機8の少なくとも1つの段から下流側の加圧空気取り出し点20Bに接続する。
【0040】
したがって、3つのターボシャフトエンジン5A、5B、5Cのうちのいずれか1つのターボシャフトエンジンが故障した場合に、他の2つのターボシャフトエンジンの上流側端部に冷却液を噴射するための回路の第1のフロー弁23もしくは第2のフロー弁23´は、この他の2つの回路の空気流に冷却液を噴射するために開放され、噴射流量は、必然的にタンク14内の圧力が大気圧より高くなる程度まで調整される。一時的に出力を増大させる装置13の残りの構成要素は、第2の実施形態の構成要素とほぼ同じである。したがって、これらの構成要素には同じ参照番号が付与されている。特に、この第3の実施形態では、第2の実施形態と同様に、当然、第3のターボシャフトエンジン5Cに接続される第3の加圧回路を有することを想定できるが、ターボシャフトエンジン5A、5B、5Cのうちの1つの故障を補償することができる冗長性を提供するのに、2つの加圧回路15A、15Bで十分である。
【0041】
最後に、3つの上述の実施形態のフロー弁は流体制御弁であるが、他の制御手段を使用することも可能である。したがって、
図5に示されている第4の実施形態では、2つのフロー弁23は、対応するターボシャフトエンジン5A、5Bの個々の制御ユニット30に接続される電動制御弁である。加圧回路15A、15B内に配置され、中央制御ユニット19に接続される圧力センサ36A、36Bは、第1の実施形態で使用される流体制御と同様の形で2つの圧力の差に応じてそれぞれのフロー弁23を開放するために、2つのターボシャフトエンジン5A、5Bの圧縮機8によって供給される空気圧を感知して比較する働きをする。一時的に出力を増大させる装置13の残りの構成要素は、第1の実施形態の構成要素とほぼ同じである。したがって、これらの構成要素には同じ参照番号が付与されている。
【0042】
本発明を特定の実施形態に関して説明してきたが、請求項で定義される本発明の一般的範囲から逸脱せずに、上述の実施形態に種々の修正や変更を加えてもよいことは明らかである。さらに、上述した種々の実施形態の個々の特徴は別の実施形態に組み込まれてもよい。したがって、本明細書の説明および図面は、限定的というよりは例示的であると考えるべきである。