特許第6290274号(P6290274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社栄電社の特許一覧

特許6290274バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法
<>
  • 特許6290274-バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法 図000002
  • 特許6290274-バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法 図000003
  • 特許6290274-バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法 図000004
  • 特許6290274-バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法 図000005
  • 特許6290274-バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法 図000006
  • 特許6290274-バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290274
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/10 20060101AFI20180226BHJP
   C12M 1/40 20060101ALI20180226BHJP
   C02F 3/06 20060101ALI20180226BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C02F3/10 Z
   C12M1/40 A
   C02F3/06
   C02F3/34 101A
   C02F3/34 101D
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-22188(P2016-22188)
(22)【出願日】2016年2月8日
(65)【公開番号】特開2017-140558(P2017-140558A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】301042941
【氏名又は名称】株式会社栄電社
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(74)【代理人】
【識別番号】100194984
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】満石 公一
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−238672(JP,A)
【文献】 特開2003−190985(JP,A)
【文献】 特開2004−016855(JP,A)
【文献】 特開2007−098195(JP,A)
【文献】 実開昭54−024966(JP,U)
【文献】 特開2012−223747(JP,A)
【文献】 特開2004−351303(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3022757(JP,U)
【文献】 特開2007−044685(JP,A)
【文献】 特開平11−147008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00− 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質素材を含有するポリエチレンからなる糸状体が網目を形成するように配置された第1の網状体と、
ポリエステルからなる糸状体が網目を形成し、前記第1の網状体の表裏面にそれぞれ隣接して、該第1の網状体を挟むように積層配置された第2の網状体と、
前記第1の網状体の外周縁と、前記第2の網状体が重なる部分を接合する周縁接合部と、
該第2の網状体の外周辺部に沿った第1の方向において所定の間隔で、前記第1の網状体と前記第2の網状体を積層方向に接合する第1方向接合部と、
前記第2の網状体の外周辺部に沿って前記第1の方向に略直交する第2の方向において所定の間隔で、前記第1の網状体と前記第2の網状体を積層方向に接合する第2方向接合部と、を備える
バイオリアクター素子。
【請求項2】
多孔質素材を含有するポリエチレンからなる糸状体が網目を形成するように配置された第1の網状体、ポリエステルからなる糸状体が網目を形成し、前記第1の網状体の表裏面にそれぞれ隣接して、該第1の網状体を挟むように積層配置された第2の網状体から構成されたバイオリアクター素子に微生物を吸着固定化する工程と、
微生物が吸着固定化した前記バイオリアクター素子を排水処理槽内に配置し、所定の排水処理を行う工程と、を備える
バイオリアクター素子を用いた排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法に関する。詳しくは、排水処理槽の内部に担体を固定化して使用する固定床型のバイオリアクター素子であり、省スペース、かつ低コストでありながら微生物を効率的に吸着固定化することができる水処理能力の高いバイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
下水や工業排水等(以下、総称して「排水」という。)を処理するための方法として、排水処理槽内に微生物を充填し、その微生物による反応を利用した生物処理方法が数多く提案されている。この種の排水の生物処理方法としては、主に活性汚泥法が広く知られている。
【0003】
活性汚泥法は、活性汚泥に含まれる微生物により排水を浄化する方法であり、多種の好気性微生物を曝気により活性化させ、排水中の有機物を二酸化炭素と水に分解させる工程を繰り返すことにより、排水を浄化する方法である。このような活性汚泥法では、分解反応が遅いため設備の大規模化が必要であり、設置面積が大きく、高い運転コストが必要となるという問題があった。
【0004】
また、近年では、微生物を固定化できる担体を用い、排水処理槽内の微生物濃度を高めて、排水浄化の反応速度を高める方法が用いられている。このような、担体を用いた排水の処理方法には、担体を排水処理槽内に投入して流動させる流動床法と、担体を排水処理槽内の一定の位置に設置する固定床法がある。
【0005】
流動床法は、排水処理槽内を流動できる担体に、微生物を担持させることにより微生物濃度を高めた方法であり、優れた処理能力を得ることができる。しかし、排水処理槽内から担体が流出することを防止するために担体を処理水から分離する装置が必要となり、また分離装置の目詰まりの問題もあって、メンテナンスの維持管理等、ランニングコストが高くなるという問題がある。
【0006】
これに対して、固定床法は、排水処理槽内の一定の位置に固定した担体に、微生物を高密度に吸着固定化させ、排水の処理能力を高めることができ、また流動床法のような担体分離も不要となるため、装置全体のコンパクト化、及びメンテナンスが容易であることから、ランニングコストを抑えることができるというメリットがある。
【0007】
一方、固定床法では、例えば担体としての中空糸膜の表面に微生物を吸着固定化する際に長時間を必要とする等の課題を有する。このような課題に対して、本発明者は特許文献1において、硝化菌、及び脱窒菌を含有する汚泥物質を用いて、そのイオン強度を高めることにより、担体である中空糸の表面に硝化菌、及び脱窒菌を効果的に短時間で吸着固定化することができるバイオリアクター素子を提案している。
【0008】
具体的には、図6に示すように、担体として中空糸102周囲のイオン強度を0.2〜0.3まで上昇させることで、微生物の中空糸102表面への直接的、かつ不可逆的な吸着固定化を促進することができる。ここで、微生物の中空糸102表面への吸着固定化に際しては、先ず、中空糸102表面に直接接触する第1層103の微生物を薄膜状に固定化し、この第1層103への微生物が十分固定化されていれば、第1層103の微生物上に固定化される第2層104以降は、第1層103の微生物をベースに強固な薄膜が容易に形成される。
【0009】
本特許文献1によれば、従来、微生物の中空糸102表面への第1層103の吸着固定化には、2〜3週間程度の期間を要していたが、イオン強度を著しく高めることにより、微生物の中空糸102表面への吸着固定化を、常温にて48時間程度で固定化することを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−284617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示の技術のように、担体として使用する中空糸は、本来、家庭用浄水器等における水に含まれる不純物除去のために使用されるものであり、排水処理としての使用例が少ないことから、原材料費が高いという問題がある。
【0012】
また、中空糸への微生物の吸着固定化を促進するために、アルコール類、糖類、及び有機酸塩のうち少なくとも1つからなる有機物と無機塩類と含有させた懸濁液を生成し、そのイオン強度を調整する必要がある等、排水処理前段階での準備に多くの工数が必要となる。
【0013】
更に、中空糸はコンパクトである反面、機械的強度が小さいため、排水処理装置の運転中、又はメンテナンス中に破断しやすく、定期的な取替えが必要となる。
【0014】
以上のように、特許文献1に開示のバイオリアクター素子では、短期間での微生物の吸着固定化を可能としたものの、原材料コストや、準備工程等に多くの工数を必要とし、実用化が低いものとなっていた。
【0015】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、排水処理槽の内部に担体を固定化して使用する固定床型のバイオリアクター素子であり、省スペース、かつ低コストでありながら微生物を効率的に吸着固定化することができる水処理能力の高いバイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明のバイオリアクター素子は、多孔質素材からなる糸状体が網目を形成するように配置された第1の網状体と、繊維系素材からなる糸状体が網目を形成し、前記第1の網状体の表裏面にそれぞれ隣接して、該第1の網状体を挟むように積層配置された第2の網状体とを備えている。
【0017】
ここで、第1の網状体が多孔質素材から構成されていることにより、表面積を大きくすることができるため、大量の微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0018】
また、第1の網状体が網目を形成するように構成されていることにより、例えば、大量の微生物を含む汚水で満たされた排水処理槽内にバイオリアクター素子を設置した場合に、網目の目開き部分を通じて汚水の対流を促進することができる。従って、汚水が滞ることが無く、バイオリアクター素子全体において均一に微生物を吸着固定化することができる。
【0019】
また、第2の網状体が繊維系素材から構成されていることにより、親水性が高いため、微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0020】
また、第2の網状体が網目を形成するように構成されていることにより、前記した通り、微生物を含む汚水で満たされた排水処理槽内にバイオリアクター素子を設置した場合に、網目の目開き部分を通じて汚水が対流するため、バイオリアクター素子全体において均一に微生物を吸着固定化することができる。
【0021】
また、第2の網状体が、第1の網状体の表裏面にそれぞれ隣接して、第1の網状体を挟むように積層配置されていることにより、汚水に含まれる微生物は、先ず第1の網状体の表面(裏面)に隣接する第2の網状体に吸着固定化する。この時、汚水はポンプ、ブロア、攪拌機等によって排水処理槽内で対流しているため、第2の網状体に吸着固定化した微生物の一部は剥がれ落ちるが、剥がれ落ちた微生物は、内側層である第1の網状体に吸着固定化する。
【0022】
更に、第1の網状体に吸着固定化した微生物の一部が剥がれ落ちても、第1の網状体の裏面(表面)に隣接する第2の網状体に吸着固定化する。このように、少なくとも三段階で微生物のバイオリアクター素子への吸着固定化を行うことができるため、大量の微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0023】
また、多孔質素材からなる第1の網状体が、繊維系素材からなる第2の網状体に挟まれるように積層配置されていることにより、繊維系素材に比して親水性が低い多孔質素材を、親水性の高い繊維系素材である第2の網状体で保護することができ、微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0024】
また、第2の網状体が、第1の網状体の表裏面の全体を被覆する場合には、親水性の高い第2の網状体で第1の網状体の全体を被覆するため、大量の微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0025】
また、第1の網状体の外周縁と、第2の網状体が重なる部分を接合する周縁接合部を有する場合には、第1の網状体と第2の網状体を積層状態で一体化することができるため、排水処理槽内への設置が容易なものとなる。更に、例えば、内側層である第1の網状体から剥がれ落ちた微生物は、第1の網状体と第2の網状体の間で保持することが可能となる。
【0026】
また、第2の網状体の外周辺部に沿った第1の方向において所定の間隔で、第2の網状体と第1の網状体を積層方向に接合する第1方向接合部と、第2の網状体の外周辺部に沿って第1の方向に略直交する第2の方向において所定の間隔で、第1の網状体と第2の網状体を積層方向に接合する第2方向接合部とを有する場合には、第1の網状体と第2の網状体を強固に接合することができるため、繰り返し使用による劣化を防止することができる。
【0027】
更に、第1方向接合部と第2方向接合部により区切られた小区画室が形成されるため、内側層に位置する第1の網状体から剥がれ落ちた微生物は、各小区画室で保持することが可能となる。
【0028】
また、多孔質素材が樹脂系素材に竹炭を含有する場合には、竹炭は製造コストが比較的安価であり樹脂系素材との相性も良いため、第1の網状体を容易に製作することができる。また、竹炭は多孔質素材の中でも比表面積が大きく、吸着能力も高いため、大量の微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0029】
また、竹炭が第1の網状体100重量%に対して3〜5重量%含有する場合には、第1の網状体の強度と吸着能力を両立させることができる。即ち、竹炭が第1の網状体100重量%に対して3重量%よりも少ない場合は、吸着固定化する微生物の量が少なくバイオリアクター素子の水処理能力が劣り、一方、竹炭が第1の網状体100重量%に対して5重量%を超えると、第1の網状体の強度が弱くなり、使用に際して破損し易くなる。
【0030】
また、第1の網状体が樹脂系素材としてポリエチレンを採用する場合には、製造コストが安価で大量生産が可能であるとともに、耐水、及び耐薬品性に優れるため、排水処理槽内での繰り返し使用による劣化を防止することができる。
【0031】
また、第2の網状体が繊維系素材であるポリエステルから構成されている場合には、製造コストが安価で大量生産が可能であるとともに、親水性が高いため微生物の吸着固定化を迅速に行うことができる。更に、耐水、及び耐薬品性に優れるため、排水処理槽内での繰り返し使用による劣化を防止することができる。
【0032】
上記の目的を達成するために、本発明のバイオリアクター素子は、多孔質素材と、繊維系素材からなる糸状体が網目を形成し、前記多孔質素材の全体を被覆する網状体と、を備える。
【0033】
ここで、バイオリアクター素子が多孔質素材を有することにより、表面積を大きくすることができるため、大量の微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0034】
また、網状体が繊維系素材から構成されていることにより、親水性が高いため、微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0035】
また、網状体が網目を形成するように構成されていることにより、微生物を含む汚水で満たされた排水処理槽内にバイオリアクター素子を設置した場合に、網目の目開き部分を通じて汚水が対流するため、バイオリアクター素子全体において均一に微生物を吸着固定化することができる。
【0036】
また、網状体が、多孔質素材の全体を被覆することにより、汚水に含まれる微生物は、先ず、多孔質素材を覆う網状体に吸着固定化する。この時、汚水はポンプ、ブロア、攪拌機等によって排水処理槽内で対流しているため、網状体に吸着固定化した微生物の一部は剥がれ落ちるが、剥がれ落ちた微生物は、網状体の内部にある多孔質素材に吸着固定化する。
【0037】
更に、多孔質素材に吸着固定化した微生物の一部が剥がれ落ちても、多孔質素材の全体は、網状体により被覆されているため、多孔質素材から剥がれ落ちた微生物の一部は、再度網状態に吸着固定化する。このように、少なくとも二段階で微生物のバイオリアクター素子への吸着固定化を行うことができるため、大量の微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0038】
上記の目的を達成するために、本発明のバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法は、多孔質素材からなる糸状体が網目を形成するように配置された第1の網状体と、繊維系素材からなる糸状体が網目を形成し、前記第1の網状体の表裏面にそれぞれ隣接して、該第1の網状体を挟むように積層配置された第2の網状体から構成されたバイオリアクター素子に微生物を吸着固定化する工程と、微生物が吸着固定化した前記バイオリアクター素子を排水処理槽内に配置し、所定の排水処理を行う工程とを備えている。
【0039】
ここで、多孔質素材からなる第1の網状体の表裏面に隣接して、繊維系素材からなる第2の網状体を積層配置したバイオリアクター素子に微生物を吸着固定化する工程を有することにより、排水の生物処理において必要となる大量の微生物の吸着固定化を迅速に行うことができるとともに、排水処理も迅速に行うことができる。
【0040】
また、微生物が吸着固定化したバイオリアクター素子を排水処理槽内部に配置して、所定の排水処理を行う工程を有することにより、微生物による反応を利用して、排水を浄化することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係るバイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法は、省スペース、かつ低コストでありながら微生物を短時間で効率良く吸着固定化することができ水処理能力が高いものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の実施形態に係るバイオリアクター素子の構成を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るバイオリアクター素子の平面図である。
図3図2において、線A−Aに沿って見た断面図である。
図4】本発明の実施形態に係るバイオリアクター素子を排水処理槽内に設置した状態を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係るバイオリアクター素子を用いた、排水の処理方法を示す図である。
図6】従来技術を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、バイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法に関する本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0044】
まず、本発明を適用した実施形態に係るバイオリアクター素子1の全体構成について、図1を用いて説明する。バイオリアクター素子1は、1〜3mm程度の目開きのメッシュ状に編み込み形成され、平板状に配置された内側網状体2(特許請求の範囲における「第1の網状体」)と、この内側網状体2の表裏面にそれぞれ隣接して、0.5mm〜1mm程度の目開きのメッシュ状に編み込み形成されるとともに、内側網状体2を挟むように積層配置された同形の外側網状体3、3(特許請求の範囲における「第2の網状体」)を有する。
【0045】
ここで、必ずしも、外側網状体3、3は、内側網状体2を挟んで、上層、及び下層において同形である必要はない。内側網状体2の全体を覆うことができれば、外側網状体3、3は異なる大きさ、形状であってもよい。
【0046】
また、必ずしも、外側網状体3、3は内側網状体2を挟んで上層、及び下層にそれぞれ二枚配置する必要はない。例えば、一枚の外側網状体3を中間部分で折り畳み、内側網状体を挟み込むような形態であってもよい。
【0047】
また、必ずしも、内側網状体2は一枚である必要はない。例えば、2枚、又はそれ以上に積層されていてもよい。但し、積層枚数が増えるほど、排水処理槽内での流体の対流が阻害され、微生物のバイオリアクター素子1への吸着固定化に時間を要したり、内部閉塞する可能性がある。従って、排水処理槽の大きさ等を考慮して適宜、積層枚数を変更することが好ましい。
【0048】
また、必ずしも、外側網状体3、及び内側網状体2の目開きは、それぞれ0.5mm〜1mm程度、及び1〜3mm程度の大きさに限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。但し、目開きの大きさが大きすぎると、微生物がメッシュ部分に絡みつかず、また、目開きの大きさが小さすぎると、排水処理槽7内での流体の対流が阻害され、何れの場合も微生物の吸着固定化が効率よく行えない。
【0049】
また、必ずしも、内側網状体3はメッシュ状に編み込み形成されている必要はない。例えば、シラス(火山噴出物)等の多孔質材料を加工したものであってもよい。
【0050】
内側網状体2は、樹脂系素材としてのポリエチレンに、多孔質物質としての、例えば竹炭を練り込んで形成された糸状体を、網目を形成するように編み込んで平板状に形成されている。この時、内側網状体100重量%に対して1〜10重量%、好ましくは3〜5重量%の竹炭の配合割合となるように構成されている。
【0051】
ここで、必ずしも、樹脂系素材としてポリエチレンを使用する必要はない。例えば、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルフォン等、汎用プラスチック材料から適宜選択することができる。但し、発明者が実験を繰り返した結果では、ポリエチレンを使用した場合において、最も効率よく微生物を吸着固定化することができた。
【0052】
また、必ずしも、多孔質物質として竹炭を用いる必要はない。例えば、活性炭、ゼオライト等、多数の細孔を有する物質から適宜選択することができる。但し、発明者が実験を繰り返した結果、竹炭が最も製造コストが安く、かつ、大きな比表面積を有し、効率よく微生物を吸着固定化することができた。
【0053】
また、必ずしも、竹炭の配合割合は内側網状体2の100重量%に対して、1〜10重量%、好ましくは3〜5重量%である必要はない。但し、竹炭の配合割合が1重量%よりも少なくなると、内側網状体2に吸着固定化する微生物の量が少なくバイオリアクター素子1の水処理能力が劣り、一方、竹炭の配合割合が10重量%を超えると、外側網状体3の強度が弱くなり、使用に際して破損し易くなる。
【0054】
外側網状体3は、繊維系素材としてのポリエステルを原料とした糸状体を、網目を形成するように編み込んで平板状に形成されている。
【0055】
ここで、必ずしも、繊維系素材としてポリエステルを使用する必要はない。例えば、ナイロン、ビニロン、ポリプロピレン等、繊維系素材から適宜選択することができる。但し、ポリエステルは他の繊維系素材に比して微生物との親和性が高いため、最も効率よく微生物を吸着固定化することができる。
【0056】
図2は、本発明の実施に係るバイオリアクター素子1の平面図である。このバイオリアクター素子1は、例えば、横100cm、縦150cmの長方形をした平面的大きさを有し、全周囲は、内側網状体2の外周縁と外側網状体3が重なる部分に沿って、バイオリアクター素子1の厚さ方向に全体を貫通するように糸で縫着され、外側網状体3と内側網状体2は一体化されている。なお、この周方向に縫着した部分を周縁接合部4と称する。
【0057】
ここで、必ずしも、バイオリアクター素子1は長方形である必要はない。例えば、正方形、ひし形、丸形等、バイオリアクター素子1を設置する排水処理槽の大きさや形状に応じて適宜選択することができる。
【0058】
また、必ずしも、外側網状体3の外縁部に沿ってバイオリアクター素子1の全周囲を縫着する必要はない。例えば、内側網状体2を挟み込む外側網状体3として、一枚の外側網状体3を中間部分で折り畳み、内側網状体2を挟み込むような形態である場合には、折り曲げた中間部分を除いた三辺を縫着すればよい。
【0059】
また、必ずしも、外側網状体3と内側網状体2を一体化させる手段として、糸により縫着させる必要はない。例えば、接着剤等、他の公知の接着手段により接着させ、一体化させることが可能である。
【0060】
バイオリアクター素子1は、外側網状体3の外周辺部に沿って第1の方向である長手方向、即ち図2においては縦方向に、糸でバイオリアクター素子1の全体を厚さ方向に貫通するように縫着されている。なお、この縦方向に縫着した部分を第1方向接合部5と称する。
【0061】
また、この第1の方向と略直交する第2の方向である短手方向、即ち図2においては横方向に、バイオリアクター素子1の全体を厚さ方向に貫通するように糸で縫着されている。なお、この横方向に縫着した部分を第2方向接合部6と称する。このように、バイオリアクター素子1は、糸により外側網状体3の外周辺部に沿って、碁盤目状に内側網状体2と一体化されるように縫着されている。
【0062】
図3は、図2に示したバイオリアクター素子1の線A−Aに沿って見た断面図である。図3に示すように、バイオリアクター素子1は内側網状体2を挟んで、内側網状体2の表裏面に隣接して外側網状体3が位置し、第1方向接合部5、及び第2方向接合部6により外側網状体3と内側網状体2が一体化するように碁盤目状に縫着され、小区画室15が形成されている。
【0063】
ここで、必ずしも、第1方向接合部5、及び第2方向接合部6を有している必要はない。例えば、外側網状体3と内側網状体2は、周縁接合部4のみで一体化されていてもよい。但し、第1方向接合部5、及び第2方向接合部6により碁盤目状に縫着され、小区画室15が形成されることにより、外側網状体3、及び内側網状体2に吸着固定化された微生物が、外力等何らかの影響で剥がれ落ちた場合でも、剥がれ落ちた微生物を小区画室15内で受け止めることができるため、第1方向接合部5、及び第2方向接合部6を有していることが好ましい。
【0064】
また、必ずしも、第1方向接合部5は、バイオリアクター素子1の横幅を均等に5分割した4ヶ所の位置で縫着する必要はない。例えば、4分割以下、又は6分割以上になるように第1方向接合部を設けてもよい。更に、各第1方向接合部5の離間距離は均等である必要はなく、不均等に構成されていてもよい。
【0065】
また、必ずしも、第2方向接合部6は、バイオリアクター素子1の縦幅を均等に6分割した5ヶ所の位置で縫着する必要はない。例えば、5分割以下、又は7分割以上になるように第2方向接合部を設けてもよい。更に、各第2方向接合部の離間距離は均等である必要はなく、不均等に構成されていてもよい。
【0066】
また、必ずしも、第1方向接合部5と第2方向接合部6が交差する角度は、略直角である必要はない。第1方向接合部5と第2方向接合部6が鋭角(鈍角)となるように交差していてもよい。
【0067】
但し、各第1方向接合部5、及び各第2方向接合部6がそれぞれ均等な離間距離に位置し、第1方向接合部5と第2方向接合部6が略直交するように交差する場合には、各小区画室15の表面積、及び体積が一定となり、バイオリアクター素子1全体として均一な微生物の吸着固定化が可能となるため、排水の安定的な処理が可能となる。
【0068】
図4は、バイオリアクター素子1を排水処理槽7内に設置した状態を示す図である。バイオリアクター素子1は支持フレーム8に取り付けられ、排水処理槽7内に設置される。排水処理槽7内への設置形態としては、例えば図4(a)に示すように、平板状のバイオリアクター素子1の一辺を支持フレーム8に取り付けた状態で、排水処理槽7の排水の流入側、及び処理水の流出側のそれぞれ二ヶ所の位置に、排水処理槽7に懸架して設置されている。この時、バイオリアクター素子1の平面部は、排水の流入する方向に対面するように設置される。
【0069】
ここで、必ずしも、バイオリアクター素子1の平面部が、排水の流入する方向に対面するように設置される必要はない。例えば、バイオリアクター素子1の平面部が排水の流入方向に対して平行となるように、又は任意の角度をもって取り付けられてもよい。更に、図4(b)に示すように、支持フレーム8を共通にして、周方向に複数のバイオリアクター素子1を取り付けるように配置してもよい。
【0070】
また、必ずしも、バイオリアクター素子1は排水の流入側、及び処理水の流出側の二ヶ所にそれぞれ設置されている必要はない。例えば、何れか一ヶ所、又は、三ヶ所以上に設置されていてもよい。但し、一ヶ所に設置した場合には、微生物の吸着固定化する総面積が小さくなり、排水の処理能力が相対的に低くなる。また、三ヶ所以上に設置した場合には、排水処理槽内7における排水の対流が阻害される可能性があり、バイオリアクター素子1への微生物の吸着固定化が効率よく行えない可能性がある。そのため、排水処理槽7の容積に応じて適宜選択する必要がある。
【0071】
次に、本発明を適用したバイオリアクター素子1を利用した排水処理装置9の全体構成について図5を用いて説明する。
【0072】
排水処理装置9は、基本構成として、排水処理槽としての脱窒槽10、及び硝化槽11が1基ずつ連結され、更に沈殿槽12が連結されている。脱窒槽10、及び硝化槽11には、予めスラッジを含む汚水が満たされている。この汚水で満たされた脱窒槽10、及び硝化槽11にバイオリアクター素子1を設置し、30℃前後の温度に調整した汚水に所定の期間浸漬することにより、バイオリアクター素子1の外側網状体3、及び内側網状体2には脱窒菌、及び硝化菌をはじめとする無数の微生物が吸着固定化する。
【0073】
ここで、必ずしも、バイオリアクター素子1を浸漬する汚水の温度は30℃前後に調整されている必要はない。例えば、30℃よりも高い温度、又は、30℃よりも低い温度に設定されていてもよい。但し、発明者が実験を繰り返した結果、汚水の温度を30℃前後に設定すると、バイオリアクター素子1への大量の微生物の吸着固定化を短期間で完了することができた。
【0074】
また、必ずしも、排水処理槽としての脱窒槽10、及び硝化槽11は1基ずつ連結されている必要はない。例えば2基ずつ、又はそれ以上に連結、或いは脱窒槽10、又は硝化槽11の何れか一方のみ有していてもよく、処理すべき排水に応じて適宜変更することができる。
【0075】
また、必ずしも、汚水で満たされた脱窒槽10、及び硝化槽11にバイオリアクター素子1を浸漬する必要はない。例えば、予め脱窒槽10、及び硝化槽11にバイオリアクター素子1を設置しておき、その後、脱窒槽10、及び硝化槽11に汚水を投入してもよい。
【0076】
脱窒槽10、及び硝化槽11に設置されたバイオリアクター素子1に微生物が吸着固定化したことを確認して、先ず、処理すべき排水は脱窒槽10に供給される。この脱窒槽10には硝化槽11で処理された処理水の一部が循環液として供給されるように構成されている。
【0077】
脱窒槽10では、無酸素状態とした嫌気状態のもとで、排水に含まれる亜硝酸、硝酸、及び水素供与体としての有機物によりバイオリアクター素子1に吸着固定化された微生物のうちの脱窒菌が増殖性を高めることになる。なお、排水に含まれる有機物が不足するような場合には、メータノール等の有機物が外部から供給される。
【0078】
また、脱窒槽10には攪拌機13が設けられており、硝化槽11で処理され循環液として供給された処理水が混合される。ここで、硝化槽11からの循環液は亜硝酸、及び硝酸を含んでいるため、脱窒槽10においては脱窒菌が亜硝酸、及び硝酸を使い、排水中の有機物を水素供与体として、亜硝酸、及び硝酸を還元して無害な窒素ガスに変えて空気中に放出する脱窒処理が行われる。
【0079】
ここで、必ずしも、脱窒槽10内に攪拌機13が設けられている必要はない。例えば、ポンプ等の撹拌手段により撹拌してもよい。
【0080】
脱窒槽10で処理された処理水は、硝化槽11に流入される。この硝化槽11の底部には、曝気空気管14が設けられている。曝気空気管14により硝化槽11内は曝気されているため、硝化槽11内は溶存酸素濃度が高い状態(好気状態)となっており、アンモニア性窒素の存在下でバイオリアクター素子1に吸着固定化された微生物のうち硝化菌が増殖性を高めることになる。
【0081】
ここで、必ずしも、硝化槽11内に曝気空気管14が設けられている必要はない。但し、硝化菌は、他の従属栄養細菌と比較して溶存酸素濃度が高い条件を必要とするため、バイオリアクター素子1に硝化菌をより多く吸着固定化するためにも、曝気空気管14を設け硝化槽11内を曝気することが好ましい。
【0082】
また、増殖した硝化菌は、硝化槽11内の酸素を利用して、脱窒槽10から供給された処理水に含まれるアンモニアを亜硝酸、又は硝酸に酸化する硝化処理を行う。
【0083】
硝化槽11からの処理水は、一部が脱窒槽10に循環され、他部は沈殿槽12に流入される。この沈殿槽12では、硝化槽11からの処理液中の固形物(汚泥)を沈殿分離し、汚泥が除去された上澄水が処理水として外部に排出される。一方、沈殿槽12の底部に沈殿した沈殿汚泥は、余剰汚泥として系外に排出し廃棄物として処理される。
【0084】
ここで、必ずしも、沈殿槽12の底部に沈殿した沈殿汚泥の全てを余剰汚泥として系外に排出し廃棄物として処理する必要はない。例えば、余剰汚泥の一部を返送汚泥として脱窒槽10に返送し、脱窒処理を行うこともできる。
【0085】
以上のように、本発明を適用したバイオリアクター素子、及びバイオリアクター素子を用いた排水の処理方法は、省スペース、かつ低コストでありながら微生物を短時間で吸着固定化することができ、水処理能力が高いものとなっている。
【符号の説明】
【0086】
1 バイオリアクター素子
2 内側網状体
3 外側網状体
4 周縁接合部
5 第1方向接合部
6 第2方向接合部
7 排水処理槽
8 支持フレーム
9 排水処理装置
10 脱窒槽
11 硝化槽
12 沈殿槽
13 攪拌機
14 曝気空気管
15 小区画室
101 バイオリアクター
102 中空糸
103 第1層
104 第2層
図1
図2
図3
図4
図5
図6