(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CIE1976(L*,a*,b*)色空間において、熱サイクル試験後の前記マグネシウム部材のL*値が75以上、a*値が−2.00〜2.00、かつb*値が−2.00〜2.00である請求項1に記載のマグネシウム部材。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0011】
1.マグネシウム部材
本発明は、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる基材と、前記基材の表面に形成された非透水性の無機系透明保護膜と、を有するマグネシウム部材であって、前記基材の表面の算術平均粗さ(Ra)が0.30μm〜25μmであり、CIE1976(L*,a*,b*)色空間において、前記マグネシウム部材のL*値が75以上、a*値が−2.00〜2.00、かつb*値が−2.00〜2.00であることを特徴とするマグネシウム部材(以下、「本発明のマグネシウム部材」と記載する場合がある。)に関する。
【0012】
本発明のマグネシウム部材の特徴のひとつは、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる基材(以下、「マグネシウム基材」または「基材」と記載する場合がある。)として、上記の算術平均粗さ(Ra)の表面を有する基材を用い、その表面に非透水性の無機系透明保護膜が形成されていることである。
【0013】
本発明においては、マグネシウム基材の表面に非透水性の無機系透明保護膜が形成されることで、マグネシウム基材の表面への水酸化マグネシウムの発生を抑制できるため、マグネシウムの変色を抑制していると推察される。また、マグネシウム基材の表面の算術平均粗さ(Ra)が0.30μm〜25μmであるため、素材と塗膜の密着性を向上して隙間が減少し、水分の侵入を極力抑えられるため、長期にわたって金属質感が損なわれないと推察される。
【0014】
また、マグネシウム基材は、表面を粗面化することで、透明保護膜と十分に密着させることができるが、表面を粗面化しすぎると、素材と塗膜間の隙間が増加し密着性を悪くするとともに変色の原因である水分の浸入の起点となり、また、金属光沢が失われるため、透明保護膜との密着性と金属質感とを両立することが困難であった。ここで、マグネシウム基材の表面の粗面化の程度を表すためには、最大高さ粗さ(Rz)が通常用いられるが、マグネシウム基材の最大高さ粗さ(Rz)では、局所的に粗い面がある場合に、密着にむらができ、マグネシウム基材と透明保護膜との密着性が得られなかったりするおそれがある。
本発明のマグネシウム部材は、局所的な粗さの影響を受けにくい算術平均粗さ(Ra)が上記の数値範囲を有しているので、金属質感を維持しつつ、マグネシウム基材と透明保護膜との面内の密着性のむらが少なく、より均一に密着するので、マグネシウム基材と透明保護膜との密着性を強固なものとすることができ、脆弱部からのマグネシウムの変色、劣化が抑制されると推察される。
また、マグネシウム基材の表面には、無機系透明保護膜が形成されているので、有機系透明保護膜と比較して、高温、低温、高湿、低温の繰り返しのような環境変化が大きい条件下でも透明保護膜の劣化がなくマグネシウムの腐食が抑制され、また、透明保護膜自体が変色しにくいので、金属質感が損なわれにくいと推察される。
【0015】
また、本発明のマグネシウム部材は、CIE1976(L*,a*,b*)色空間において、マグネシウム部材のL*値が75以上、a*値が−2.00〜2.00、かつb*値が−2.00〜2.00である。
【0016】
マグネシウム部材のL*値、a*値およびb*値は、例えば、色差計(分光測色計CM−700d:コニカミノルタ株式会社)により測定することができる。L*値が75より小さくなると、得られるマグネシウム部材が黒ずんで見える。また、a*値が−2.00より小さい場合は、緑色の色味が強くなり、2.00を超える場合は、赤色の色味が強くなり、b*値が−2.00より小さい場合は、青色の色味が強くなり、2.00を超える場合は、黄色の色味が強くなる。そのため、マグネシウムの金属質感を活かしたマグネシウム部材とするためには、L*値が75以上、a*値が−2.00〜2.00、かつb*値が−2.00〜2.00である必要がある。
【0017】
マグネシウム部材の金属質感をより高めるためには、L*値は80以上が好ましく、より好ましくは84以上である。また、a*値、b*値が0に近いほど無彩色に近づき金属質感をより高めることができるため、a*値が−1.00〜1.00が好ましく、より好ましくはa*値が−0.50〜0.50であり、さらに好ましくは、a*値が−0.20〜0.20である。また、b*値が−1.00〜1.00が好ましく、より好ましくはb*値が−0.60〜0.60であり、さらに好ましくは、b*値が−0.20〜0.20である。
【0018】
また、本発明のマグネシウム部材は、CIE1976(L*,a*,b*)色空間において、熱サイクル試験後のマグネシウム部材のL*値が75以上、a*値が−2.00〜2.00、かつb*値が−2.00〜2.00であることが好ましい。より好ましくは、L*値は80以上であり、さらに好ましくは84以上である。また、a*値は、−1.00〜1.00がより好ましく、さら好ましくはa*値が−0.50〜0.50であり、a*値が−0.20〜0.20が最も好ましい。また、b*値は、−1.00〜1.00がより好ましく、さらに好ましくはb*値が−0.60〜0.60であり、b*値が−0.20〜0.20が最も好ましい。
なお、熱サイクル試験とは、一般的に自動車部品の使用環境下での複合サイクル試験のことであり、本明細書において、熱サイクル試験とは、[1]高温:85℃16時間、[2]低温:−20℃8時間、[3]高湿50℃98%以上16時間、[4]低温:−20℃8時間を1サイクルとして、3サイクル実施する試験である。
熱サイクル試験後のマグネシウム部材のL*値が75以上、a*値が−2.00〜2.00、かつb*値が−2.00〜2.00である場合、より長期の使用において、安定してマグネシウム本来の金属質感を維持することができる。
【0019】
また、本発明のマグネシウム部材は、熱サイクル試験前後の色差(△E=√((試験
後のL*値−試験前のL*値)
2+(試験
後のa*値−試験前のa*値)
2+(試験
後のb*値−試験前のb*値)
2))が6.5以下であることが好ま
しく、3.2以下であることがより好ましい。
なお、この値は、熱サイクル試験([1]高温:85℃16時間、[2]低温:−20℃8時間、[3]高湿50℃98%以上16時間、[4]低温:−20℃8時間を1サイクルとして、3サイクル実施する試験)前後で色差を求めたときの値である。
熱サイクル試験前後の色差が6.5以下である場合、より長期の使用において、安定してマグネシウム本来の金属質感を維持することができる。
【0020】
以下、本発明のマグネシウム部材を構成するそれぞれの構成要素について説明する。
【0021】
[マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる基材]
本発明のマグネシウムまたはマグネシウム合金(以下、「マグネシウム合金など」と記載する場合がある。)からなる基材は、原料のマグネシウム合金などを成形したチクソモールド成形体、ダイカスト成形体、圧延成形体およびそれらの成形体を用いた展伸材や鋳造素材、鍛造素材および粉末焼結や3Dプリンターによる積層造形法による成形体などを用いることができ、結晶粒系が小さく、より耐食性に優れているため、チクソモールド成形体を用いることが好ましい。
【0022】
マグネシウム基材の原料としては、例えば、Mg、Mg−Al系合金(AM系)、Mg−Al−Zn系合金(AZ系)、Mg−Zn−Zr系合金(ZK系)、Mg−Cu−Zn系合金(ZC系)、Mg−RE−Zr系合金(EZ系)、Mg−Zr−Re−Ag系合金(QE系)、Mg−Y−RE系合金(WE系)、Mg−Al−Si系合金(AS系)、Mg−Al−RE系合金(AE系)およびMg−Mn系合金(M系)の鋳造用マグネシウム合金(ダイカスト用、チクソモールド用を含む)や展伸用マグネシウム合金(圧延板材、押出棒材、押出形材)などが挙げられる。アルミニウム含有のマグネシウム合金を用いることが好ましく、アルミニウム含有量が多いほど耐食性が良いため、6wt%以上の高アルミニウム含有量であると好ましい。また、前記合金にCaを加えた合金(AZX系、AMX系など)を用いても良い。具体的には、AZ91D、または、AM60B、AZ31B、AZX911などのマグネシウム合金が挙げられ、AZ91Dがマグネシウム基材の原料として好適に用いられるである。
【0023】
マグネシウム基材の大きさおよび形状については特に制限はなく、目的に応じて選択でき、例えば、板状、棒状、線、管でもよく、様々な形状に加工された各種の部品などであってもよい。
【0024】
また、本発明のマグネシウム基材の表面の算術平均粗さ(Ra)は0.3μm〜25μmである。0.3μmより小さいと、マグネシウム基材と、マグネシウム基材の表面に形成された保護層との密着性が著しく低下するため、時間の経過とともにマグネシウム部材が変色する。また、25μmより大きいと、マグネシウムの金属質感が損なわれ、得られるマグネシウム合金の意匠性が低下し、また、マグネシウム基材と、透明保護層との密着のむらが大きくなるため、時間の経過とともに剥がれなどが生じやすい。密着性をより向上させるためには、0.4μm以上であることがより好ましく、0.5μmであることがさらに好ましい。また、意匠性の観点からは、6.3μm以下であることがより好ましく、3.2μm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
また、本発明のマグネシウム基材の表面の最大高さ粗さ(Rz)は1.60μm〜100μmであることが好ましい。1.60μmより小さいと、マグネシウム基材と、マグネシウム基材の表面に形成された保護層との密着性が不十分となりやすい。また、100μmより大きいと、マグネシウムの金属質感が損なわれ、得られるマグネシウム合金の意匠性が損なわれやすい。密着性をより向上させるためには、2.00μm以上であることがより好ましく、3.0μmであることがさらに好ましい。また、意匠性の観点からは、25μm以下であることがより好ましく、12.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、「最大高さ粗さ(Rz)」と「算術平均粗さ(Ra)」は、「JIS B 0601−2013 表面粗さ−定義および表示」に準じた方法で測定したパラメーターである。
【0027】
本発明のマグネシウム基材の表面形状は、上記表面粗さを満足することができれば、どのような形状でもよく、目的に応じて適宜選択することができ、後述するような表面加工処理を施すことにより様々な形状をとることができる。得られるマグネシウム部材が金属質感を最大限発揮することができるため、ヘアライン加工が施されているものが好ましく、本発明で用いられるマグネシウム基材の表面が、ヘアライン形状であることが好ましい。
なお、「ヘアライン加工」とは、単一方向に髪の毛のような細い溝をつける加工を意味し、「ヘアライン形状」とは、単一方向に髪の毛のような細い線を有する形状を意味し、ヘアライン加工により成形できる。
【0028】
[無機系透明保護膜]
本発明のマグネシウム部材を構成する無機系透明保護膜(以下、「本発明の無機系透明保護膜」と記載する場合がある。)は、マグネシウム合金などからなる基材の表面に形成された非透水性の膜(例えば、塗装膜など)であり、いわゆる化成処理皮膜や陽極酸化皮膜のようなマグネシウムを溶解、化学反応や電気化学的反応させ、マグネシウムの表面に形成させる膜は含まない。
なお、本明細書において、「非透水性」とは、完全に水や水蒸気を通さないという意味ではなく、本発明のマグネシウム部材が、CIE1976(L*,a*,b*)色空間において、L*値が75以上、a*値が−2.00〜2.00、かつb*値が−2.00〜2.00を維持できる程度に水や水蒸気を通さないことを意味する。
【0029】
また、「無機系」とは、無機成分を主成分とする膜のことであり、本発明の目的を阻害しない限りで、有機成分を含んでいてもよい。
本発明の無機系透明保護膜は、マグネシウム部材の使用用途やマグネシウム基材の性質に合わせて、適宜、硬度や膜密度などを調整すればよい。
【0030】
本発明の無機系透明保護膜は、無色透明でも、着色透明でもよいが、マグネシウム基材の金属質感を最大限に活かすためには無色透明が好ましい。
【0031】
本発明の無機系透明保護膜の膜厚は、本発明の目的を達成できる範囲で適宜設計可能だが、マグネシウムの腐食をより抑制するために5μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上がより好ましい。上限値としては、密着性と意匠性の観点から、35μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、無機系透明保護膜の膜厚は、電磁誘導式膜厚計(例えば、デュアルタイプ膜厚計LZ−373:株式会社ケツト科学研究所)を用いて測定した値である。
【0032】
本発明の無機系透明保護膜は、本発明の目的を阻害しない限り、適宜選択でき、例えば、シリカ質膜などが挙げられ、緻密化しやすいシリカ質膜であることが好ましい。なお、「シリカ質膜」とは、シロキサン結合を有する構造を主成分とする膜のことであり、Siの含有量がSiO
2換算で50重量%以上含むことが好ましく、炭素原子を含むシリカ質膜であることがより好ましい。炭素原子を含むシリカ質膜であれば、炭素の含有量を調整することで、本発明のマグネシウム部材の耐水性を維持しつつ、使用目的に応じて、撥水性、耐酸性や耐アルカリ性、耐油脂汚染性などの特性を調整しやすくなる。なお、耐油脂汚染性とは、日焼け止めクリームやハンドクリームによるマグネシウム部材の変色や劣化に対する耐性のことである。
【0033】
本発明の無機系透明保護膜を形成する材料(以下、「保護膜形成剤」と記載する場合がある。)は、本発明の目的を阻害しない限り、適宜選択できる。本発明の透明保護膜を形成する材料としては、具体的には、アルコキシシランやアルコキシシラン縮合物、ポリシロキサンなどが挙げられる。これらの材料は、マグネシウム部材の使用用途やマグネシウム基材の性質に合わせて、適宜、反応性や重合具合などを調整して用いることができ、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
アルコキシシランは、下記式で表される化合物であり、アルコキシシランを加水分解、重縮合させたものが、アルコキシシラン縮合物である。
【0035】
【化1】
(式中、R
1は官能基、R
2は低級アルキル基である。mは0〜3の整数である)
上記化学式において、R
1としては、ビニル、3−グリシドキシプロピル、3−グリシドキシプロピルメチル、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチル、p−スチリル、3−メタクリロキシプロピル、3−メタクリロキシプロピルメチル、3−アクリロキシプロピル、3−アミノプロピル、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピル、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチル、3−トリエトキシシリル―N−(1、3−ジメチルーブチリデン)プロピルアミン、N―フェニル―3−アミノプロピル、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル―3−アミノプロピル、トリス―(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3−ウレイドプロピル、3−メルカプトプロピル、3−メルカプトプロピルメチル、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピル、3―プロピルコハク酸無水物などを例示できる。
【0036】
上記化学式において、R
2としては、具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、1−エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチルなどの炭素数1〜6程度の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。R
2の選択により、使用目的に応じて、撥水性、耐酸性や耐アルカリ性、耐油脂汚染性などの特性を調整することが可能である。
【0037】
上記化学式で表されるアルコキシシランの具体例としては、Si(OCH
3)
4、Si(OC
2H
5)
4、CH
3Si(OCH
3)
3、CH
3Si(OC
2H
5)
3、C
2H
5Si(OCH
3)
3、C
2H
5Si(OC
2H
5)
4、CHCH
2Si(OCH
3)
3、CH
2CHOCH
2O(CH
2)
3Si(CH
3O)
3、CH
2C(CH
3)COO(CH
2)
3Si(OCH
3)
3、CH
2CHCOO(CH
2)
3Si(OCH
3)
3、NH
2(CH
2)
3Si(OCH
3)
3、SH(CH
2)
3Si(CH
3)
3、NCO(CH
2)
3Si(C
2H
5O)
3を挙げることができる。
【0038】
また、本発明の無機系透明保護膜は、マグネシウムへの水の透過をより抑制し、マグネシウムの変色をより抑制できるので、撥水性を有することが好ましい。また、無機系透明保護膜に撥水性を付与するために、膜の表面をプラズマ処理などの物理的処理により撥水化したり、表面改質剤などを用いる化学的処理により撥水化してもよい。
【0039】
本発明において、透明保護膜は、単層でもよいし、2層以上の積層構造としてもよい。2層以上の積層構造の場合、それぞれの膜の組成は同一でも、異なってもよい。
また、無機系透明保護膜は、保護膜形成剤の他に、本発明の目的を達成できる範囲であれば、硬化剤などの適宜添加剤を含んでも良い。
【0040】
2.マグネシウム部材の製造方法
本発明のマグネシウム部材は、特に限定されず、公知の方法を組み合わせて製造することができる。例えば、本発明のマグネシウム部材は、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる基材の表面の算術平均粗さ(Ra)が0.30μm〜25μmとなるように表面加工する工程と、前記基材の表面に非透水性の無機系透明保護膜を形成する工程と、を含む製造方法により製造できる。
【0041】
本発明のマグネシウム基材は、上記のマグネシウム合金などを原料として、公知のチクソモールド法、ダイカスト法、圧延などにより製造することができる。
特に、チクソモールド法は、寸法精度よく、機械的性質や表面特性が優れたマグネシウム基材を製造し易いため、チクソモールド法により製造されたマグネシウム基材は、本発明のマグネシウム基材として特に好適に用いられる。チクソモールド法により製造されたマグネシウム基材は、金属光沢が得やすい。
公知のチクソモールド法、ダイカスト法、圧延などにより製造されたマグネシウム基材は、必要に応じて、研磨などの処理を行った後に、マグネシウム基材の表面の算術平均粗さ(Ra)を0.30μm〜25μmに加工する。
【0042】
[表面加工する工程]
マグネシウム基材の表面を算術平均粗さ(Ra)が0.30μm〜25μmとするための表面加工は、適宜選択することができ、基材を成形する際の金型表面に溝を入れ成型時に基材に転写する工法、基材を成形後に切削や研削で溝を付加する工法、基材を成形後にブラッシングやショットピーニングで溝を付加する工法、基材を成形後に酸を用いた腐食加工などが挙げられる。具体的には、ヘアライン加工、ダイヤカット加工、スピンカット加工、ショットブラスト加工、およびエッチング加工などの表面加工処理などがあげられる。
【0043】
得られるマグネシウム部材が金属質感を最大限発揮できるため、表面加工は、ヘアライン加工であることが好ましい。ヘアライン加工は、例えば、研磨紙#80〜#400、好適には、研磨紙#150〜#320を用いて一方向に研磨し、髪の毛のような極細形状の溝を付ける方法があり、使用目的や安全性を考慮して、湿式ヘアライン加工、乾式ヘアライン加工を適宜選択すればよい。
マグネシウム基材の表面は、これらの表面加工のうち1種で加工されてもよいし、複数種を組み合わせて加工されてもよい。
【0044】
また、本発明のマグネシウム基材の表面粗さを算術平均粗さ(Ra)が0.30μm〜25μmに維持できれば、上述したような表面加工処理を施した後、必要に応じて、適宜、洗浄工程、脱脂工程、乾燥工程などを含んでもよく、さらに、化成処理や陽極酸化処理などの皮膜形成処理により、基材の表面に皮膜を形成させてよい。
【0045】
[透明保護膜を形成する工程]
本発明の無機系透明保護膜を形成させる方法については、本発明の目的を達成することができれば、湿式法でも乾式法でもよく、特に限定的ではないが、マグネシウム基材と、形成される無機系透明保護膜との密着性がより優れたものとなるため湿式法を用いることが好ましい。
【0046】
本発明の無機系透明保護膜を湿式法で形成させる方法としては、例えば、保護膜形成剤を溶媒に溶解または分散した塗布液(以下、「保護膜形成液」と記載する場合がある。)を、マグネシウム基材の表面に塗布した後、熱処理を行えばよい。
溶媒は、適宜選択可能で、水や、アルコール系、グリコール系、グリコールエーテル系、エーテル系、エーテルアルコール系、ケトン系などの有機溶剤を用いることが好ましい。
保護膜形成液における保護膜形成剤の濃度については、限定的ではないが、0.1〜50重量%程度である。
【0047】
また、保護膜形成液には、保護膜形成剤と溶媒の他に、本発明の目的を阻害しない限りで、硬化剤などの触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの添加剤を適宜添加して用いてよい。添加剤の配合量は、特に限定的ではないが、保護膜形成液の全体を基準として、通常、0.01〜20重量%程度とすればよく、0.1〜10重量%程度とすることが好ましい。また、コロイダルシリカなどのシリカ微粒子を添加してもよい。
耐食性のより優れた無機系透明保護膜を形成するためには、保護膜形成液には、硬化剤などの触媒を添加することが好ましく、触媒としては、酸、塩基、有機金属化合物などを用いることができる。触媒の配合量は、特に限定的ではないが、保護膜形成液の全体を基準として、通常、0.01〜20重量%程度とすればよく、0.1〜10重量%程度とすることが好ましい。これらの触媒は、一種単独または二種以上混合して用いることができる。
【0048】
塗布方法としては、例えば、ディップコート、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、バーコートなどの公知の方法を適用できる。
【0049】
熱処理温度は、通常、20〜200℃程度とすればよく、熱処理時間は、30秒〜30分程度とすればよい。
【0050】
保護膜形成剤として、アルコキシシランまたはアルコキシシラン縮合物の少なくとも一方を含む保護膜形成剤を用いる場合、調整された保護膜形成液のシリカ濃度については、0.1〜50重量%程度とすることが好ましく、5〜30重量%程度とすることがより好ましい。
また、アルコキシシランやアルコキシシラン縮合物は、水を加えることでアルコキシシランやアルコキシシラン縮合物が加水分解し、縮重合が進行して、シリカ質膜を形成することができるが、水の量が多すぎると均一なシリカ質膜を形成しにくくなるので、保護膜形成剤を、適当な有機溶媒に溶解し調製した液に、更に、水および触媒を加えて、保護膜形成液を調整する。水の添加量については、通常、アルコキシシラン縮合物を含有する保護膜形成液の全体を基準として、0.1〜20重量%程度とすればよい。
【0051】
3.マグネシウム製品
本発明のマグネシウム製品は、上述したマグネシウム部材を含む製品であり、その使用用途は特に限定されない。本発明のマグネシウム部材は、マグネシウム基材の表面粗さや、無機系透明保護層の膜厚、組成を調整することで、耐水性に加え、耐酸性や耐アルカリ性、熱サイクル耐性、塩水耐性、耐油脂汚染性などの特性を使用用途に応じて調整できるため、マグネシウム製品として様々な用途への応用が可能である。このようなマグネシウム製品としては、具体的には、航空機、鉄道車両、自動車などの輸送機器の部品、テレビや冷蔵庫などの家電製品、ノート型パーソナルコンピュータやカメラなどの携帯用機器の筐体、建築の内装部材、医療機器、ゴルフや釣り具などのレジャー品などの用途に用いられる部材が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(評価)
[密着性試験]
JIS K−5600−5−6に準拠して、マグネシウム基材と無機系透明保護膜との密着性を求めた。各正方形内の塗膜の50%以上が剥離したマスの数を調べた。剥離したマスの剥離が起こった界面を調べ、マグネシウム基材と無機系透明保護膜との間で剥離したマスの数が0〜5のものを○、剥離したマスの数が6〜20のものを△、剥離したマスの数が21〜100のもの×とした。
【0054】
[鉛筆硬度]
JIS K5600−5−4に準拠して評価を行なった。
【0055】
[耐酸性試験]
JIS D 0202:1988 自動車部品の塗膜通則に準拠して下記表1の条件で実施した。硫酸の10%溶液に24時間浸漬した後取り出し、更に空気中に1時間以上放置してから、外観を目視評価した。外観を目視評価した際に、試験前後で変化なしを○、跡付き、変色、溶解または縮み、ブリスター、剥がれが生じたものを×とした。
【0056】
【表1】
【0057】
[耐水性試験]
JIS D 0202:1988 自動車部品の塗膜通則に従って下記表2の条件で実施した。蒸留水に240時間浸漬した後、1時間以内に外観を目視評価した。外観を目視評価した際に、試験前後で変化なしを○、跡付き、変色、溶解または縮み、ブリスター、剥がれが生じたものを×とした。
【0058】
【表2】
【0059】
[熱サイクル試験]
[1]高温:85℃16時間、[2]低温:−20℃8時間、[3]高湿50℃98%以上16時間、[4]低温:−20℃8時間の1サイクルとして、3サイクル実施したものの外観を目視評価した際に、試験前後で変化なしを○、跡付き、変色、溶解または縮み、ブリスター、剥がれが生じたものを×とした。
【0060】
[塩水噴霧試験]
JIS Z2371−2015に準拠して、中性塩水噴霧試験を実施した。
【0061】
(実施例1)
所定数のマグネシウム部材(1)を下記方法にて製造した。
<マグネシウム部材(1)の製造>
ヘアライン加工を施したマグネシウム部材(140mm×40mm×4mm)を用意した。この基材の表面の表面粗さを、サーフコム5000DX(東京精密)を用いて、JIS B 0601−2013に準拠して求めたところ、算術平均粗さ(Ra)は0.59μmであり、最大高さ粗さ(Rz)は4.51μmであった。
【0062】
別途、テトラメトキシシラン15重量%、3−メルカプトプロピルシラン15重量%、およびイソプロピルアルコール70重量%からなる混合液を調製した。次に、水とチタンジオクチロキシビスオクチレングリコレートを上記混合液100重量部に対しそれぞれ10重量部加えて加水分解し縮重合させてシリカ成分の濃度が約25重量%のアルコキシシラン縮合物のアルコール溶液を得た。この溶液にコロイダルシリカの濃度が30重量%のイソプロピルアルコール分散液を固形分量として5重量%となるように混合して、保護膜形成液とした。
【0063】
次いで、ヘアライン形状のマグネシウム基材の表面に、保護膜形成液を塗工、加熱処理し、マグネシウム基材の表面に膜厚10μmのシリカ膜が形成されたマグネシウム部材(1)を得た。なお、膜厚は、株式会社ケツト科学研究所製のデュアルタイプ膜厚計LZ−373を用いて、130mm×30mmの領域を5点測定したときの平均値である。
【0064】
<マグネシウム部材(1)の評価>
製造したマグネシウム部材(1)の上記評価を行った。また、CIE1976(L*,a*,b*)色空間においての、マグネシウム部材(1)のL*値、a*値、b*値は、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM−700dを用いた。
【0065】
[密着性試験]
上述した方法にしたがって、マグネシウム部材(1)を製造直後に、初期密着性を評価した結果、剥離は観察されず、マグネシウム部材(1)は、マグネシウム基材と無機系透明保護膜との密着性が優れていることが確認された。
【0066】
[鉛筆硬度試験]
鉛筆硬度は、3Hであった。
【0067】
[耐酸性試験]
試験前のマグネシウム部材(1)は、L*=90.77、a*=−0.53、b*=−0.25であった。上述した方法にしたがって、耐酸性を評価したところ、外観目視では、変色はなかった。さらに、試験後のマグネシウム部材(1)は、L*=90.37、a*=−0.01、b*=−0.15であり、試験前と試験後との色差(△E)を算出したところ、△E=0.66であり、良好な結果を得た。
また、密着性評価では、剥離は観察されなかった。
【0068】
[耐水性試験]
試験前のマグネシウム部材(1)は、L*=89.75、a*=−0.20、b*=0.89であった。上述した方法にしたがって、耐水性を評価したところ、外観目視では、僅かに湯じわが見られたものの、変色は観察されなかった。さらに、試験後のマグネシウム部材(1)は、L*=89.44、a*=0.03、b*=0.52であり、試験前と試験後との色差(△E)を算出したところ、△E=0.53であり、良好な結果を得た。
また、密着性評価では、剥離は観察されなかった。
【0069】
[熱サイクル試験]
試験前のマグネシウム部材(1)は、L*=90.62、a*=−0.22、b*=0.09であった。上述した方法にしたがって、評価したところ、外観目視では、変色は観察されなかった。さらに、試験後のマグネシウム部材(1)は、L*=90.34、a*=−0.12、b*=0.13であり、試験前と試験後との色差(△E)を算出したところ、△E=0.30であり、良好な結果を得た。
また、密着性評価では、剥離は観察されなかった。
【0070】
[塩水噴霧試験]
上述した方法にしたがって、塩水噴霧試験を実施したところ、外観目視では、変色はなかった。
【0071】
(実施例2)
実施例1において、ヘアライン加工の条件を変更した以外は同様にして、実施例2のマグネシウム部材(2)を得た。
マグネシウム部材(2)のマグネシム合金の表面の算術平均粗さ(Ra)、最大高さ粗さ(Rz)を、表3に示す。
また、実施例1と同様にして、マグネシウム部材(2)を密着性試験、鉛筆硬度、耐酸性試験、耐水性試験、熱サイクル試験、塩水噴霧試験により評価したところ、マグネシウム部材(2)についても、透明保護膜との密着性に優れ、また、優れた耐水性を有しており、各劣化試験後も金属質感を維持していた。
【0072】
(比較例1、2)
実施例1において、ヘアライン加工の条件を変更した以外は同様にして、比較例1、2のマグネシウム部材を得た。
比較例1、2のマグネシウム部材のマグネシム合金の表面の算術平均粗さ(Ra)、最大高さ粗さ(Rz)は、表1に示す。
また、実施例1と同様にして、比較例1のマグネシウム部材を密着性試験、鉛筆硬度、耐酸性試験、耐水性試験、熱サイクル試験、塩水噴霧試験により評価した。結果を表3に示す。
【0073】
(比較例3)
ヘアライン加工を施したマグネシウム部材を用意した。この基材の表面の表面粗さを、サーフコム5000DX(東京精密)を用いて、JIS B 0601−2013に準拠して求めたところ、算術平均粗さ(Ra)は0.42μmであり、最大高さ粗さ(Rz)は3.44μmであった。
さらに、アクリル/シリコン系塗料(キング、武蔵塗料株式会社)を塗工、加熱処理し、マグネシウム基材の表面に膜厚50μmのアクリル/シリコン系保護膜が形成されたマグネシウム部材を得た。
実施例1と同様にして、比較例3のマグネシウム部材を密着性試験、鉛筆硬度、耐酸性試験、熱サイクル試験、塩水噴霧試験により評価した。結果を表3に示す。
【0074】
(比較例4)
ヘアライン加工を施したマグネシウム部材を用意した。この基材の表面の表面粗さを、サーフコム5000DX(東京精密)を用いて、JIS B 0601−2013に準拠して求めたところ、算術平均粗さ(Ra)は0.41μmであり、最大高さ粗さ(Rz)は3.13μmであった。
次に、アクリルウレタン系塗料(オリジンツーク#100、オリジン電気株式会社)を塗工、加熱処理し、マグネシウム基材の表面に20μmのアクリルウレタン系保護膜を形成させたマグネシウム部材を得た。
実施例1と同様にして、比較例4のマグネシウム部材を密着性試験、鉛筆硬度、耐酸性試験、熱サイクル試験、塩水噴霧試験により評価した。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】