特許第6290402号(P6290402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290402
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】無機粒子分散体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20180226BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20180226BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20180226BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20180226BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C08L101/02
   C08K5/01
   C08K5/05
   C08K5/06
   C08K5/09
   C08K5/10
   C08K9/04
   C09C3/08
   C09C3/10
   C09D17/00
【請求項の数】9
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-528031(P2016-528031)
(86)(22)【出願日】2016年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2016002236
(87)【国際公開番号】WO2016181636
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2016年5月2日
【審判番号】不服2016-19668(P2016-19668/J1)
【審判請求日】2016年12月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-98002(P2015-98002)
(32)【優先日】2015年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129632
【弁理士】
【氏名又は名称】仲 晃一
(72)【発明者】
【氏名】新谷 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】外村 卓也
【合議体】
【審判長】 大島 祥吾
【審判官】 西山 義之
【審判官】 小柳 健悟
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/030310(WO,A1)
【文献】 特開2014−194057(JP,A)
【文献】 特開2010−150543(JP,A)
【文献】 特開2009−97074(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/190076(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に炭素数6以下の短鎖アミンを有する無機粒子と、
顔料親和性基を主鎖及び/若しくは複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子、主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子、又は、主鎖の片末端に顔料親和性基からなる顔料親和部分を有する直鎖状の高分子を含む高分子分散剤と、
分散媒と、を含み、
前記分散媒中に酸価を有する高分子保護分散剤を含み、
前記保護分散剤の酸価が1〜200であり、
前記保護分散剤の添加量が、前記無機粒子の固形分に対して0.1〜10重量%以下であり、
前記分散媒がテルペン系材料であり、
粘度が15mPa・s以上であり、
前記無機粒子の製造後に前記無機粒子に前記保護分散剤を添加して得られること、
を特徴とする無機粒子分散体。
【請求項2】
前記短鎖アミンがアルキルアミン及び/又はアルコキシアミンからなること、
を特徴とする請求項1に記載の無機粒子分散体。
【請求項3】
前記短鎖アミンがブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、2−メトキシエチルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、4−メトキシブチルアミンから成る群より選択される少なくとも1種であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の無機粒子分散体。
【請求項4】
前記分散媒の含有量が1〜90質量%であること、
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無機粒子分散体。
【請求項5】
前記分散媒が、テルピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、p−サイメン、ピネン、ピナン、リモネン、イソボルニルアセテート、カルベオール、カリオフィレン、ターピニルオキシエタノール、ジヒドロターピニルオキシエタノールからなる群より選択される少なくとも一種であること、
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無機粒子分散体。
【請求項6】
熱分析によって室温から200℃まで加熱した時の重量減少率が5%以下であり、かつ、200℃から500℃まで加熱した時の重量減少率が10%以下であること、
を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の無機粒子分散体。
【請求項7】
前記分散媒が沸点150℃以上の脂肪酸を0.5〜10質量%含んでいること、
を特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無機粒子分散体。
【請求項8】
前記脂肪酸がステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸からなる群より選択される少なくとも一種であること、
を特徴とする請求項7に記載の無機粒子分散体。
【請求項9】
前記テルペン系材料がテルペンエーテル系材料であること、
を特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の無機粒子分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子を含有する無機粒子分散体に関し、より具体的には、優れた分散安定性を有し、かつ、比較的低温での金属部品の接合、電子材料の配線や電極に好適に用いることができる無機粒子分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、比表面積が大きく反応活性が高い金属ナノ粒子(又は金属コロイド粒子)は、バルクや金属原子に比べて、低温で融着(低温焼結)する性質を有することが知られており、この特性を活かし、例えば無機粒子分散体(導電性ペースト)として多様な分野への応用が期待されている。ここで、無機粒子分散体の適用範囲を種々の印刷方法に拡大するためには、無機粒子分散体の粘度調整が極めて重要となる。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2009−097074号公報)等においては、金属ナノ粒子(A)と、この金属ナノ粒子(A)を被覆する保護コロイド(B)とで構成された金属コロイド粒子、およびこの金属コロイド粒子の分散媒を含むペーストであって、前記保護コロイド(B)が、アミン類(B1)と、炭素数4以上のカルボン酸(B2)とで構成されている金属ナノ粒子ペースト、が提案されている。
【0004】
上記特許文献1の金属ナノ粒子ペーストにおいては、金属ナノ粒子を被覆する保護コロイドを、有機質バインダー(樹脂バインダー)ではなく、低温で蒸発又は分解しやすく、バインダーとしても作用する特定の化合物で構成しているため、比較的厚い膜を形成するスクリーン印刷法や、凹版印刷法によっても、低温で焼結パターンを形成できる、としている。
【0005】
また、特許文献2(特開2010−150543号公報)では、銀ナノ粒子と、炭化水素溶媒と、アルコール共溶媒と、を含む、インク組成物であり、前記炭化水素溶媒は、少なくとも5個の炭素原子から20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素または7個の炭素原子から18個の炭素原子を有する芳香族炭化水素であり、前記アルコール共溶媒は、重量で大部分がα−テルピネオールであるテルピネオール溶媒であるインク組成物、が提案されている。
【0006】
上記特許文献2のインク組成物においては、銀ナノ粒子が炭化水素溶媒とアルコール共溶媒の混合物中に溶解または分散されており、改善されたインク安定性および均一な印刷特徴によって、60μmという低い線幅を達成することができることに加え、異なる表面エネルギーを有する様々な基材表面上に噴射させ、印刷特徴を得ることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−097074号公報
【特許文献2】特開2010−150543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の金属ナノ粒子ペーストにおいては、金属ナノ粒子の分散安定性が十分に確保されていない。また、上記特許文献2に記載のインク組成物においては、分散安定性のためにドデカンのような炭化水素溶媒(炭素数5〜20)や芳香族炭化水素を併用することが必須となっており、これらの炭化水素溶媒の使用に伴って、低粘度のインクしか実現することができない。
【0009】
また、従来、金属ナノ粒子を含むインク組成物の粘度を高める手法としては、当該金属ナノ粒子の濃度増加や増粘剤の添加が知られているが、金属ナノ粒子の濃度を高くすると溶媒の比率が低下し、印刷適性や保湿性を担保することができない。一方で、増粘剤を添加すると、金属ナノ粒子の分散性及びインク組成物の導電性が低下する。
【0010】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、広い粘度範囲(特に高粘度範囲)で優れた分散安定性を有すると共に、比較的低温で焼成することができる無機粒子分散体を提供することにある。
【0011】
ここで、通常のインクジェットや反転オフセット印刷用のインクは、5〜15mPa・sという低粘度範囲で調整を行うのが一般的である。つまり、粘度が15mPa・s以上の場合、印刷技術で使用するインクとしては高粘度であると言える。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく無機粒子分散体の組成や分散剤等について鋭意研究を重ねた結果、適当な溶媒を選定し、酸価を有する分散剤を添加すること等が、極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
表面の少なくとも一部に炭素数6以下の短鎖アミンを有する無機粒子と、
顔料親和性基を主鎖及び/若しくは複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子、主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子、又は、主鎖の片末端に顔料親和性基からなる顔料親和部分を有する直鎖状の高分子を含む高分子分散剤と、
分散媒と、を含み、
前記分散媒中に酸価を有する高分子保護分散剤を含み、
前記保護分散剤の酸価が1〜200であり、
前記保護分散剤の添加量が、前記無機粒子の固形分に対して0.1〜10重量%以下であり、
前記分散媒がテルペン系材料であり、
粘度が15mPa・s以上であり、
前記無機粒子の製造後に前記無機粒子に前記保護分散剤を添加して得られること、
を特徴とする無機粒子分散体を提供する。
【0014】
ここで、本発明の無機粒子分散体においては、前記短鎖アミンがアルキルアミン及び/又はアルコキシアミンからなること、が好ましく、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、2−メトキシエチルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、4−メトキシブチルアミンから成る群より選択される少なくとも1種であること、がより好ましい。
【0015】
上記の構成を有する本発明の無機粒子分散体は、低分子量のアミンを含むため低温での焼結が可能、即ち低温焼結性に優れており、高分子分散剤を含むため分散性に優れており長期的な分散安定性が確保できる。また、低温焼結性に寄与する成分(主として炭素数6以下のアルキルアミン)と分散安定性に寄与する成分(主として高分子分散剤)を併用することで無機粒子の表面に両成分が吸着し、それぞれの性質を発現する。なお、上記のように高分子分散剤を含むことにより分散安定性が確保できることから、汎用印刷適性のために種々の物性調製剤の添加が可能である。
【0016】
無機粒子の表面の少なくとも一部に存在するアミンを、炭素数が6以下である短鎖アミンとすることで、加熱によって無機粒子の表面の少なくとも一部に付着したアミンを容易に除去することができ、無機粒子(金属粒子)の良好な低温焼結性(例えば、100〜350℃における焼結性)を担保することができる。
【0017】
また、上記高分子分散剤は、顔料親和性基が側鎖に存在し、溶媒和部分を構成する側鎖を有するグラフト構造のもの(下記櫛形構造の高分子(1));主鎖に、顔料親和性基を有するもの(下記高分子(共重合体)(2)及び上記直鎖状の高分子(3))であるので、無機粒子からなるコロイド粒子の分散性が良好であり、無機粒子に対する保護コロイドとして好適である。上記高分子分散剤を使用することにより、無機粒子を高い濃度で含有する無機粒子分散体からなる無機粒子分散体(導電性インク及び導電性ペースト)を得ることができる。
【0018】
更に、本発明の無機粒子分散体は、無機粒子合成後に添加される酸価を有する保護分散剤(即ち、無機粒子を分散させるための酸価を有する保護分散剤)を含むことを特徴とする。ここでいう「酸価を有する保護分散剤」とは、吸着基乃至は官能基としてアミン価や水酸基価等を有さない分散剤全てを包含するものである。かかる保護分散剤を用いることで、溶媒中の無機粒子の分散安定性を向上させることができる。当該保護分散剤の酸価は1〜200であり、当該分散剤がリン酸由来の官能基を有することが好ましい。「酸価を有する保護分散剤」が好ましい理由は、必ずしも明らかではないが、本発明者らは、金属への吸着作用だけではなく、短鎖アミンと相互作用することによって、より密な形態で吸着することができ、低温焼結性を有しつつ高い分散性を発現させているものと考えている。
【0019】
保護分散剤の酸価が1以上であるとアミンと配位し粒子表面が塩基性となっている金属物への酸塩基相互作用での吸着が起こり始め、200以下であると過度に吸着サイトを有さないため好適な形態で吸着するからである。また、保護分散剤がリン酸由来の官能基を有することでリンPが酸素Oを介して金属Mと相互作用し引き合うので金属や金属化合物との吸着には最も効果的であり、必要最小限の吸着量で好適な分散性を得ることができるからである。ここで「酸価」とは、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表される。酸価の測定法として、指示薬法(p−ナフトールベンゼイン指示薬)や電位差滴定法をあげることができる。
・ISO6618−1997:指示薬滴定法による中和価試験法→指示薬滴定法(酸価)に対応
・ISO6619−1988:電位差滴定法(酸価)→電位差滴定法(酸価)に対応
【0020】
また、当該保護分散剤の添加量は、前記無機粒子の固形分に対して0.1〜10重量%以下である。保護分散剤の含有量が0.1%以上であれば得られる無機粒子分散体の分散安定性が良くなるが、含有量が多過ぎる場合は低温焼結性が低下することとなる。このような観点から、保護分散剤のより好ましい含有量は0.3〜10質量%であり、更に好ましい含有量は0.5〜8質量%である。
【0021】
また、本発明の無機粒子分散体においては、前記分散媒の含有量が1〜90質量%であること、が好ましい。分散媒の含有量が1質量%以上であれば、安定した分散性が得られる傾向があり、90質量%以下であれば、インクから形成した被膜が良好な導電性を発現する傾向がある。分散媒のより好ましい含有量は20〜80質量%であり、更に好ましい含有量は30〜70質量%である。
【0022】
また、本発明の無機粒子分散体においては、前記分散媒が、ジエチレングリコールジブチルエーテル、イソトリデカノール、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、テルピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、p−サイメン、ピネン、ピナン、リモネン、イソボルニルアセテート、カルベオール、カリオフィレン、ターピニルオキシエタノール、ジヒドロターピニルオキシエタノールからなる群より選択される少なくとも一種であること、が好ましい。
【0023】
本実施形態の分散体は、更に、熱分析によって室温から200℃まで加熱したときの重量減少率が5%以下であり、かつ、200℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が10%以下であることが好ましい。ここで、200℃までの重量減少率は主として低温焼結性に寄与する低温成分である短鎖アミンの含有量を示し、200〜500℃での高温性分の重量減少率は主として分散安定性に寄与する酸価の分散剤の含有量を示す。短鎖アミンや高温成分が過剰になると低温焼結性が損なわれる。即ち、室温から200℃まで加熱したときの重量減少率が5%以下で、200℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が10%以下であれば低温焼結性がより優れる。
【0024】
更に、本発明の無機粒子分散体においては、前記分散媒が沸点150℃以上の脂肪酸を0.5〜10質量%含んでいること、が好ましく、前記脂肪酸がステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸からなる群より選択される少なくとも一種であること、がより好ましい。分散媒に脂肪酸が含まれていることで、無機粒子(金属粒子)の融着速度(焼成速度)を適度に遅らせることができ、有機成分の揮発と金属粒子の融着とのバランスがよくなり、より強固な接合層を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、優れた分散安定性と高い粘度を兼ね備えると共に、比較的低温で焼成することができる無機粒子分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の無機粒子分散体の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、本発明の一実施形態を示すに過ぎずこれらによって本発明が限定されるものではなく、また、重複する説明は省略することがある。
【0027】
本実施形態の無機粒子分散体は、
表面の少なくとも一部に炭素数6以下の短鎖アミンを有する無機粒子と、
顔料親和性基を主鎖及び/若しくは複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子、主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子、又は、主鎖の片末端に顔料親和性基からなる顔料親和部分を有する直鎖状の高分子を含む高分子分散剤と、
分散媒と、を含み、
前記分散媒中に酸価を有する高分子保護分散剤を含み、
前記保護分散剤の酸価が1〜200であり、
前記保護分散剤の添加量が、前記無機粒子の固形分に対して0.1〜10重量%以下であり、
前記分散媒がテルペン系材料であり、
粘度が15mPa・s以上であり、
前記無機粒子の製造後に前記無機粒子に前記保護分散剤を添加して得られること、
を特徴とする。
【0028】
上述のとおり、上記無機粒子分散体は、無機粒子の合成時だけでなく、当該無機粒子を分散させたい粘度の分散媒(特に高粘度の分散媒)に酸価を有する保護分散剤を添加することで、無機粒子の分散性が著しく向上している。また、良好な低温焼結を有している。
【0029】
無機粒子分散体の粘度を高粘度(15mPa・s以上)とするためには、高粘度・高沸点溶媒であるテルペン系材料等を分散媒として用いることが好ましい。しかしながら、有機溶媒に分散させた無機粒子はテルペン系材料の官能基(OH基等)が粒子を不安定化させる傾向にあるため、単独もしくは主溶媒としてテルペン系材料を用いることが困難である。
【0030】
これに対し、本実施形態の無機粒子分散体では、高分子分散剤について種々検討し、無機粒子の製造後に酸価を有する高分子分散剤(保護分散剤)を少量添加することで、導電性を維持したまま無機粒子の分散性を飛躍的に向上させている。ここで、酸価を有さない保護分散剤を用いても分散性は改善されず、酸価が高すぎる場合も同様に効果は得られない。
【0031】
酸価を有する保護分散剤は無機粒子への吸着作用だけでなく、短鎖アミンと相互作用することによって、より密な形態で吸着することができ、高い分散性が発現するものと考えられる。また、酸価を有する高分子分散剤をテルペン系材料(分散媒)への分散性が向上する理由については必ずしも明らかではないが、保護分散剤を後添加することで、保護分散剤が無機粒子に吸着せず溶媒中に浮遊する。ここで、浮遊している当該保護分散剤は、テルペン系材料である高粘度分散媒中での無機粒子凝集抑制効果が大きく、無機粒子の分散安定性への寄与が大きいことが原因であると考えられる。なお、保護分散剤を後添加しない場合は、沈殿精製の際の洗浄操作で無機粒子に吸着した保護分散剤以外は除去されるため、浮遊する保護分散剤は基本的には存在しない。
【0032】
保護分散剤は分散媒に予め添加しておくことが好ましいが、無機粒子を分散媒に分散させた後に添加してもよい。なお、保護分散剤を分散媒に添加する方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法で添加すればよい。
【0033】
本実施形態の無機粒子分散体は、熱分析によって室温から200℃まで加熱したときの重量減少率が5質量%以下であり、かつ、200℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が10質量%以下であること、が好ましい。ここで、200℃までの重量減少率は主として低温焼結性に寄与する低温成分(主として炭素数6以下の短鎖アミン)の含有量を示し、200〜500℃での重量減少率は主として分散安定性に寄与する高温成分(主として高分子分散剤)の含有量を示す。
【0034】
低温成分が過剰になると分散安定性が損なわれ、高温成分が過剰になると低温焼結性が損なわれる。即ち、室温から200℃まで加熱したときの重量減少率が5質量%以下であれば分散安定性がより優れ、200℃から500℃まで加熱したときの重量減少率が10質量%以下であれば低温焼結性がより優れる。
【0035】
本実施形態の無機粒子分散体には、主成分として、後述する無機粒子(金属粒子)がコロイド化した金属コロイド粒子が含まれるが、かかる金属コロイド粒子の形態に関しては、例えば、金属粒子の表面の一部に有機物が付着して構成されている金属コロイド粒子、上記金属粒子をコアとして、その表面が有機物で被覆されて構成されている金属コロイド粒子、それらが混在して構成されている金属コロイド粒子等が挙げられるが、特に限定されない。なかでも、金属粒子をコアとして、その表面が有機物で被覆されて構成されている金属コロイド粒子が好ましい。当業者は、上述した形態を有する金属コロイド粒子を、当該分野における周知技術を用いて適宜調製することができる。
【0036】
本実施形態の無機粒子分散体は、金属粒子と有機物とで構成されるコロイド粒子を主成分とする流動体であり、金属粒子、金属コロイド粒子を構成する有機物のほかに、金属コロイド粒子を構成しない有機物、分散媒又は残留還元剤等を含んでいてもよい。
【0037】
基材上に本実施形態の無機粒子分散体を塗布する方法としては、例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー方式、バーコート法、スピンコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、ピントランスファー法、スタンピング法、刷毛による塗布方式、流延法、フレキソ法、グラビア法、オフセット法、転写法、親疎水パターン法、又はシリンジ法等のなかから適宜選択して採用することができるようになる。
【0038】
粘度の調整は、金属粒子の粒径の調整、有機物の含有量の調整、分散媒その他の成分の添加量の調整、各成分の配合比の調整、増粘剤の添加等によって行うことができる。本実施形態の無機粒子分散体の粘度は、コーンプレート型粘度計(例えばアントンパール社製のレオメーターMCR301)により測定することができる。
【0039】
以下、本実施形態の無機粒子分散体の各成分について、より詳細に説明する。
【0040】
(1−1)無機粒子(金属粒子)について
本実施形態の無機粒子分散体の無機粒子としては、特に限定されるものではなく、例えば金、銀、銅、ニッケル、ビスマス、スズ、鉄並びに白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金)のうちの少なくとも1種が挙げられる。上記金属としては、金、銀、銅、ニッケル、ビスマス、スズ又は白金族元素よりなる群から選択される少なくとも1種の金属の粒子であることが好ましく、更には、銅又は銅よりもイオン化傾向が小さい(貴な)金属、即ち、金、白金、銀及び銅のうちの少なくとも1種であるのが好ましい。これらの金属は単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよく、併用する方法としては、複数の金属を含む合金粒子を用いる場合や、コア−シェル構造や多層構造を有する金属粒子を用いる場合がある。
【0041】
例えば、上記無機粒子分散体の無機粒子として銀粒子を用いる場合、本実施形態の無機粒子分散体を用いて形成した塗布層(塗膜)の導電率は良好となるが、マイグレーションの問題を考慮して、銀及びその他の金属からなる無機粒子分散体を用いることによって、マイグレーションを起こりにくくすることができる。当該「その他の金属」としては、上述のイオン化列が水素より貴である金属、即ち金、銅、白金、パラジウムが好ましい。
【0042】
本実施形態の無機粒子分散体における金属粒子(乃至は金属コロイド粒子)の平均粒径は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではないが、融点降下が生じるような平均粒径を有するのが好ましく、例えば、1〜200nmであればよい。更には、2〜100nmであるのが好ましい。金属粒子の平均粒径が1nm以上であれば、良好な塗膜を形成可能な無機粒子分散体が得られ、金属粒子製造がコスト高とならず実用的である。また、200nm以下であれば、金属粒子の分散性が経時的に変化しにくく、好ましい。
【0043】
また、必要に応じてミクロンメートルサイズの金属粒子を併用して添加することも可能である。そのような場合は、ナノメートルサイズの金属粒子がミクロンメートルサイズの金属粒子の周囲で融点降下することにより、良好な導電パスを得ることができる。
【0044】
本発明者は、特にこのように融点降下を発現する粒径の小さい金属粒子を用い、当該金属粒子の表面の少なくとも一部に付着しているアミンを含む無機粒子分散体において、特定の温度範囲における加熱時の重量減少率を特定の範囲に最適化にすることで、そうではない無機粒子分散体に比べて、低温焼結性及び分散安定性がバランスよく向上することを見出した。
【0045】
なお、本実施形態の無機粒子分散体における金属粒子の粒径は、一定でなくてもよい。また、無機粒子分散体が、任意成分として、後述する分散媒、樹脂成分、増粘剤又は表面張力調整剤等を含む場合、平均粒径が200nm超の金属コロイド粒子成分を含む場合があるが、凝集を生じたりせず、本発明の効果を著しく損なわない成分であればかかる200nm超の平均粒径を有する粒子成分を含んでもよい。
【0046】
ここで、本実施形態の無機粒子分散体における金属粒子の粒径は、動的光散乱法、小角X線散乱法、広角X線回折法で測定することができる。ナノサイズの金属粒子の融点降下を示すためには、広角X線回折法で求めた結晶子径が適当である。例えば広角X線回折法では、より具体的には、理学電機(株)製のRINT−UltimaIIIを用いて、回折法で2θが30〜80°の範囲で測定することができる。この場合、試料は、中央部に深さ0.1〜1mm程度の窪みのあるガラス板に表面が平坦になるように薄くのばして測定すればよい。また、理学電機(株)製のJADEを用い、得られた回折スペクトルの半値幅を下記のシェラー式に代入することにより算出された結晶子径(D)を粒径とすればよい。
D=Kλ/Bcosθ
ここで、K:シェラー定数(0.9)、λ:X線の波長、B:回折線の半値幅、θ:ブラッグ角である。
【0047】
(1−2)炭素数6以下の短鎖アミン
本実施形態の無機粒子分散体において、無機粒子の表面の少なくとも一部には炭素数が6以下である短鎖アミンが付着している。なお、無機粒子の表面には、原料に最初から不純物として含まれる微量有機物、後述する製造過程で混入する微量有機物、洗浄過程で除去しきれなかった残留還元剤、残留分散剤等のように、微量の有機物が付着していてもよい。
【0048】
短鎖アミンは炭素数が6以下であれば特に限定されず、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また、側鎖を有していてもよいが、アルキルアミン及び/又はアルコキシアミンからなること、が好ましく、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、2−メトキシエチルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、4−メトキシブチルアミンから成る群より選択される少なくとも1種であること、がより好ましい。
【0049】
上記短鎖アミンは、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、アミン以外の官能基を含む化合物であってもよい。また、上記アミンは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加えて、常圧での沸点が300℃以下、更には250℃以下であることが好ましい。
【0050】
本実施形態の無機粒子分散体は、本発明の効果を損なわない範囲であれは、上記の炭素数が6以下である短鎖アミンに加えて、カルボン酸を含んでいてもよい。カルボン酸の一分子内におけるカルボキシル基が、比較的高い極性を有し、水素結合による相互作用を生じ易いが、これら官能基以外の部分は比較的低い極性を有する。更に、カルボキシル基は、酸性的性質を示し易い。また、カルボン酸は、本実施形態の無機粒子分散体中で、無機粒子の表面の少なくとも一部に局在化(付着)すると(即ち、無機粒子の表面の少なくとも一部を被覆すると)、溶媒と無機粒子とを十分に親和させることができ、無機粒子同士の凝集を防ぐことができる(分散性を向上させる。)。
【0051】
カルボン酸としては、少なくとも1つのカルボキシル基を有する化合物を広く用いることができ、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸、ヘキサン酸、アクリル酸、オクチル酸、オレイン酸等が挙げられる。カルボン酸の一部のカルボキシル基が金属イオンと塩を形成していてもよい。なお、当該金属イオンについては、2種以上の金属イオンが含まれていてもよい。
【0052】
上記カルボン酸は、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、カルボキシル基以外の官能基を含む化合物であってもよい。この場合、カルボキシル基の数が、カルボキシル基以外の官能基の数以上であることが好ましい。また、上記カルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加えて、常圧での沸点が300℃以下、更には250℃以下であることが好ましい。また、アミンとカルボン酸はアミドを形成する。当該アミド基も無機粒子表面に適度に吸着するため、無機粒子表面にはアミド基が付着していてもよい。
【0053】
無機粒子と当該無機粒子の表面に付着した有機物(上記炭素数が6以下である短鎖アミン等)によってコロイドが構成される場合、当該コロイド中の有機成分の含有量は、0.5〜50質量%であることが好ましい。有機成分含有量が0.5質量%以上であれば、得られる無機粒子分散体の貯蔵安定性が良くなる傾向があり、50質量%以下であれば、無機粒子分散体を加熱して得られる焼成体の導電性が良い傾向がある。有機成分のより好ましい含有量は1〜30質量%であり、更に好ましい含有量は2〜15質量%である。
【0054】
(1−3)高分子分散剤
本実施形態の無機粒子分散体に含まれる高分子分散剤は、顔料親和性基が側鎖に存在し、溶媒和部分を構成する側鎖を有するグラフト構造のもの(下記櫛形構造の高分子(1));主鎖に、顔料親和性基を有するもの(下記高分子(共重合体)(2)及び上記直鎖状の高分子(3))である。そのため、無機粒子からなるコロイド粒子の分散性が良好であり、無機粒子に対する保護コロイドとして好適である。上記高分子分散剤を使用することにより、無機粒子を高い濃度で含有する無機粒子分散体からなる無機粒子分散体を得ることができる。
【0055】
ここで、上記高分子分散剤について、上記顔料親和性基とは、無機粒子からなる顔料の表面に対して強い吸着力を有する官能基をいい、例えば、第3級アミノ基、第4級アンモニウム、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等を挙げることができる。本発明において、上記顔料親和性基は、金属粒子に対して強い親和力を示す。上記高分子量顔料分散剤は、上記顔料親和性基を有することにより、金属粒子の保護コロイドとして充分な性能を発揮することができる。
【0056】
上記櫛形構造の高分子(1)は、上記顔料親和性基を有する複数の側鎖とともに、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を主鎖に結合した構造のものであり、これらの側鎖があたかも櫛の歯のように主鎖に結合されているものである。本明細書中、上述の構造を櫛形構造と称する。上記櫛形構造の高分子(1)において、上記顔料親和性基は、側鎖末端に限らず、側鎖の途中や主鎖中に複数存在していてもよい。なお、上記溶媒和部分は、溶媒に親和性を有する部分であって、親水性又は疎水性の構造をいう。上記溶媒和部分は、例えば、水溶性の重合鎖、親油性の重合鎖等から構成されている。
【0057】
上記櫛形構造の高分子(1)としては特に限定されず、例えば、特開平5−177123号公報に開示されている1個以上のポリ(カルボニル−C3〜C6−アルキレンオキシ)鎖を有し、これらの各鎖が3〜80個のカルボニル−C3〜C6−アルキレンオキシ基を有しかつアミド又は塩架橋基によってポリ(エチレンイミン)に結合されている構造のポリ(エチレンイミン)又はその酸塩からなるもの;特開昭54−37082号公報に開示されているポリ(低級アルキレン)イミンと、遊離のカルボン酸基を有するポリエステルとの反応生成物よりなり、各ポリ(低級アルキレン)イミン連鎖に少なくとも2つのポリエステル連鎖が結合されたもの;特公平7−24746号公報に開示されている末端にエポキシ基を有する高分子量のエポキシ化合物に、アミン化合物と数平均分子量300〜7000のカルボキシル基含有プレポリマーとを同時に又は任意順に反応させて得られる顔料分散剤等を挙げることができる。
【0058】
上記櫛形構造の高分子(1)は、顔料親和性基が1分子中に2〜3000個存在するものが好ましい。2個未満であると、分散安定性が充分ではなく、3000個を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、金属粒子からなるコロイド粒子の粒度分布が必要以上に広くなり、分散安定性が低下する場合がある。より好ましくは、25〜1500個である。
【0059】
上記櫛形構造の高分子(1)は、溶媒和部分を構成する側鎖が1分子中に2〜1000存在するものが好ましい。2未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、金属粒子からなるコロイド粒子の粒度分布が必要以上に広くなり、分散安定性が低下する場合がある。より好ましくは、5〜500である。
【0060】
上記櫛形構造の高分子(1)は、数平均分子量が2000〜1000000であることが好ましい。2000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、金属粒子からなるコロイド粒子の粒度分布が必要以上に広くなり、分散安定性が低下する場合がある。より好ましくは、4000〜500000である。
【0061】
上記主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子(共重合体)(2)は、複数の顔料親和性基が主鎖にそって配置されているものであり、上記顔料親和性基は、例えば、主鎖にペンダントしているものである。本明細書中、上記顔料親和部分は、上記顔料親和性基が1つ又は複数存在して、無機粒子からなる顔料表面に吸着するアンカーとして機能する部分をいう。
【0062】
上記共重合体(2)としては、例えば、特開平4−210220号公報に開示されているポリイソシアネートと、モノヒドロキシ化合物及びモノヒドロキシモノカルボン酸又はモノアミノモノカルボン酸化合物の混合物、並びに、少なくとも1つの塩基性環窒素とイソシアネート反応性基とを有する化合物との反応物;特開昭60−16631号公報、特開平2−612号公報、特開昭63−241018号公報に開示されているポリウレタン/ポリウレアよりなる主鎖に複数の第3級アミノ基又は塩基性環式窒素原子を有する基がペンダントした高分子;特開平1−279919号公報に開示されている水溶性ポリ(オキシアルキレン)鎖を有する立体安定化単位、構造単位及びアミノ基含有単位からなる共重合体であって、アミン基含有単量単位が第3級アミノ基若しくはその酸付加塩の基又は第4級アンモニウムの基を含有しており、該共重合体1g当たり0.025〜0.5ミリ当量のアミノ基を含有する共重合体;特開平6−100642号公報に開示されている付加重合体からなる主鎖と、少なくとも1個のC1〜C4 アルコキシポリエチレン又はポリエチレン−コプロピレングリコール(メタ)アクリレートからなる安定化剤単位とからなり、かつ、2500〜20000の重量平均分子量を有する両親媒性共重合体であって、主鎖は、30重量%までの非官能性構造単位と、合計で70重量%までの安定化剤単位及び官能性単位を含有しており、上記官能性単位は、置換されているか又は置換されていないスチレン含有単位、ヒドロキシル基含有単位及びカルボキシル基含有単位であり、ヒドロキシル基とカルボキシル基、ヒドロキシル基とスチレン基及びヒドロキシル基とプロピレンオキシ基又はエチレンオキシ基との比率が、それぞれ、1:0.10〜26.1;1:0.28〜25.0;1:0.80〜66.1である両親媒性高分子等を挙げることができる。
【0063】
上記共重合体(2)は、顔料親和性基が1分子中に2〜3000個存在するものが好ましい。2個未満であると、分散安定性が充分ではなく、3000個を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、無機粒子からなるコロイド粒子の粒度分布が必要以上に広くなり、分散安定性が低下する場合がある。より好ましくは、25〜1500個である。
【0064】
上記共重合体(2)は、数平均分子量が2000〜1000000であることが好ましい。2000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、無機粒子からなるコロイド粒子の粒度分布が必要以上に広くなり、分散安定性が低下する場合がある。より好ましくは、4000〜500000である。
【0065】
上記主鎖の片末端に顔料親和性基からなる顔料親和部分を有する直鎖状の高分子(3)は、主鎖の片末端のみに1つ又は複数の顔料親和性基からなる顔料親和部分を有しているが、顔料表面に対して充分な親和性を有するものである。
【0066】
上記直鎖状の高分子(3)としては特に限定されず、例えば、特開昭46−7294号公報に開示されている一方が塩基性であるA−Bブロック型高分子;米国特許第4656226号明細書に開示されているAブロックに芳香族カルボン酸を導入したA−Bブロック型高分子;米国特許第4032698号明細書に開示されている片末端が塩基性官能基であるA−Bブロック型高分子;米国特許第4070388号明細書に開示されている片末端が酸性官能基であるA−Bブロック型高分子;特開平1−204914号公報に開示されている米国特許第4656226号明細書に記載のAブロックに芳香族カルボン酸を導入したA−Bブロック型高分子の耐候黄変性を改良したもの等を挙げることができる。
【0067】
上記直鎖状の高分子(3)は、顔料親和性基が1分子中に2〜3000個存在するものが好ましい。2個未満であると、分散安定性が充分ではなく、3000個を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、無機粒子からなるコロイド粒子の粒度分布が必要以上に広くなり、分散安定性が低下する場合がある。より好ましくは、5〜1500個である。
【0068】
上記直鎖状の高分子(3)は、数平均分子量が1000〜1000000であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、無機粒子からなるコロイド粒子の粒度分布が必要以上に広くなり、分散安定性が低下する場合がある。より好ましくは、2000〜500000である。
【0069】
上記高分子分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。上記市販品としては、例えば、ソルスパース(SOLSPERSE)11200、ソルスパース13940、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(日本ルーブリゾール(株)製;ディスパービック(DISPERBYK)102;ディスパービック110、ディスパービック111、ディスパービック142、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック174、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック2155、BYK-P104、BYK-P105(ビックケミー・ジャパン(株)製);EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49(EFKAケミカル社製);ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453(EFKAケミカル社製);アジスパーPB711、アジスパーPA111、アジスパーPB811、アジスパーPW911(味の素社製);フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンTG−730W、フローレンG−700、フローレンTG−720W(共栄社化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0070】
高分子分散剤は、これらのなかでも、前記が、ソルスパース11200、ソルスパース13940、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース28000、ディスパービック142、ディスパービック174又はディスパービック2155であること、が、低温焼結性及び分散安定性の観点から好ましい。
【0071】
本実施形態の無機粒子分散体における上記高分子分散剤の含有量は0.1〜15質量%であるのが好ましい。上記高分子分散剤の含有量が0.1質量%以上であれば、得られる無機粒子分散体の分散安定性が良くなる傾向があり、15質量%以下であれば、無機粒子分散体の導電性が良くなる傾向がある。上記高分子分散剤のより好ましい含有量は0.5〜5質量%であり、更に好ましい含有量は0.5〜4質量%である。
【0072】
(1−4)分散媒
本実施形態の無機粒子分散体は、顔料である無機粒子を分散させる分散媒を含む。かかる分散媒としては、従来公知のものを用いることができるが、ジエチレングリコールジブチルエーテル、イソトリデカノール、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、テルピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート、p−サイメン、ピネン、ピナン、リモネン、イソボルニルアセテート、カルベオール、カリオフィレン、ターピニルオキシエタノール、ジヒドロターピニルオキシエタノールからなる群より選択される少なくとも一種であること、が好ましい。
【0073】
従来の技術では、高粘度のテルペン系溶媒に無機粒子を分散させる場合、分散安定性のためにドデカンのような炭化水素系溶媒(炭素数5〜20)や芳香族炭化水素を併用することが必須となっており、これらの炭化水素溶媒を使用することで、低粘度なインクしか得ることができなかった。また、無機粒子分散体を高粘度にするためには、無機粒子の濃度を増加させたり、増粘剤を添加したりすることが知られているが、無機粒子の濃度を増加させると溶媒の比率が低下するため、印刷適性や保湿性を保つことが困難である。また、増粘剤を添加する方法では、無機粒子の分散性や導電性が低下してしまう。これに対し、上記分散媒を用い、酸価を有する保護分散剤の添加を伴って無機粒子を分散させることで、優れた分散安定性と高い粘度を兼ね備えた無機粒子分散体を得ることができる。
【0074】
本実施形態の無機粒子分散体における上記分散媒の含有量は、10〜90質量%であるのが好ましい。上記分散媒の含有量が10質量%以上であれば、安定した分散性が得られる傾向があり、90質量%以下であれば、インクから形成した被膜が良好な導電性を発現する傾向がある。上記分散媒のより好ましい含有量は20〜80質量%であり、更に好ましい含有量は30〜70質量%である。
【0075】
本実施形態の無機粒子分散体における上記分散媒には、更には、沸点150℃以上の脂肪酸が0.5〜10質量%添加されていることが好ましい。分散媒に脂肪酸が含まれていることで、無機粒子(金属粒子)の融着速度(焼成速度)を適度に遅らせることができ、有機成分の揮発と金属粒子の融着とのバランスがよくなり、より強固な接合層を得ることができる。
【0076】
上記脂肪酸はカルボキシル基を少なくとも一つ有していればよく、カルボキシル基以外の官能基を有していてもよい。脂肪酸はステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、脂肪酸の炭素数が18以上であれば上述の有機成分の揮発と金属粒子の融着とのバランスがよくなり、より強固な接合層を得ることができる。
【0077】
(1−5)保護分散剤
本実施形態の無機粒子分散体は、無機粒子合成後に添加される酸価を有する保護分散剤(即ち、無機粒子を分散させるための酸価を有する保護分散剤)を含むことを特徴とする。ここでいう「酸価を有する保護分散剤」とは、吸着基乃至は官能基としてアミン価や水酸基価等を有さない分散剤全てを包含するものである。かかる保護分散剤を用いることで、溶媒中の無機粒子の分散安定性を向上させることができる。当該保護分散剤の酸価は1〜200であり、当該分散剤がリン酸由来の官能基を有することが好ましい。「酸価を有する保護分散剤」が好ましい理由は、必ずしも明らかではないが、本発明者らは、金属への吸着作用だけではなく、短鎖アミンと相互作用することによって、より密な形態で吸着することができ、低温焼結性を有しつつ高い分散性を発現させているものと考えている。
【0078】
保護分散剤の酸価が1以上であるとアミンと配位し粒子表面が塩基性となっている金属物への酸塩基相互作用での吸着が起こり始め、200以下であると過度に吸着サイトを有さないため好適な形態で吸着するからである。また、保護分散剤がリン酸由来の官能基を有することでリンPが酸素Oを介して金属Mと相互作用し引き合うので金属や金属化合物との吸着には最も効果的であり、必要最小限の吸着量で好適な分散性を得ることができるからである。
【0079】
また、当該保護分散剤の添加量は、前記無機粒子の固形分に対して0.1〜10重量%以下である。保護分散剤の含有量が0.1%以上であれば得られる無機粒子分散体の分散安定性が良くなるが、含有量が多過ぎる場合は低温焼結性が低下することとなる。このような観点から、保護分散剤のより好ましい含有量は0.3〜10質量%であり、更に好ましい含有量は0.5〜8質量%である。
【0080】
(1−6)その他の成分
本実施形態の無機粒子分散体には、上記の成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、使用目的に応じた適度な粘性、密着性、乾燥性又は印刷性等の機能を付与するために、分散媒や、例えばバインダーとしての役割を果たすオリゴマー成分、樹脂成分、有機溶剤(固形分の一部を溶解又は分散していてよい。)、界面活性剤、増粘剤又は表面張力調整剤等の任意成分を添加してもよい。かかる任意成分としては、特に限定されない。
【0081】
任意成分のうちの分散媒としては、本発明の効果を損なわない範囲で種々のものを使用可能であり、例えば炭化水素及びアルコール等が挙げられる。
【0082】
炭化水素としては、脂肪族炭化水素、環状炭化水素及び脂環式炭化水素等が挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。脂肪族炭化水素としては、例えば、テトラデカン、オクタデカン、ヘプタメチルノナン、テトラメチルペンタデカン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トリデカン、メチルペンタン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。環状炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。更に、脂環式炭化水素としては、例えば、リモネン、ジペンテン、テルピネン、ターピネン(テルピネンともいう。)、ネソール、シネン、オレンジフレーバー、テルピノレン、ターピノレン(テルピノレンともいう。)、フェランドレン、メンタジエン、テレベン、ジヒドロサイメン、モスレン、イソテルピネン、イソターピネン(イソテルピネンともいう。)、クリトメン、カウツシン、カジェプテン、オイリメン、ピネン、テレビン、メンタン、ピナン、テルペン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0083】
また、アルコールは、OH基を分子構造中に1つ以上含む化合物であり、脂肪族アルコール、環状アルコール及び脂環式アルコールが挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、OH基の一部は、本発明の効果を損なわない範囲でアセトキシ基等に誘導されていてもよい。
【0084】
脂肪族アルコールとしては、例えば、ヘプタノール、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール等)、デカノール(1−デカノール等)、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、オクタデシルアルコール、ヘキサデセノール、オレイルアルコール等の飽和又は不飽和C6-30脂肪族アルコール等が挙げられる。環状アルコールとしては、例えば、クレゾール、オイゲノール等が挙げられる。更に、脂環式アルコールとしては、例えば、シクロヘキサノール等のシクロアルカノール、テルピネオール(α、β、γ異性体、又はこれらの任意の混合物を含む。)、ジヒドロテルピネオール等のテルペンアルコール(モノテルペンアルコール等)、ジヒドロターピネオール、ミルテノール、ソブレロール、メントール、カルベオール、ペリリルアルコール、ピノカルベオール、ソブレロール、ベルベノール等が挙げられる。
【0085】
樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ブロックドイソシアネート等のポリウレタン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、メラミン系樹脂又はテルペン系樹脂等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
有機溶剤としては、上記の分散媒として挙げられたものを除き、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、重量平均分子量が200以上1,000以下の範囲内であるポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、重量平均分子量が300以上1,000以下の範囲内であるポリプロピレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、グリセリン又はアセトン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
増粘剤としては、例えば、クレイ、ベントナイト又はヘクトライト等の粘土鉱物、例えば、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂又はブロックドイソシアネート等のエマルジョン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム又はグアーガム等の多糖類等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
界面活性剤を添加してもよい。多成分溶媒系の金属コロイド分散液においては、乾燥時の揮発速度の違いによる被膜表面の荒れ及び固形分の偏りが生じ易い。本実施形態の無機粒子分散体に界面活性剤を添加することによってこれらの不利益を抑制し、均一な塗膜を形成することができる無機粒子分散体が得られる。
【0089】
本実施形態において用いることのできる界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の何れを用いることができ、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。少量の添加量で効果が得られるので、フッ素系界面活性剤が好ましい。
【0090】
(2)無機粒子分散体の調製
本実施形態の無機粒子分散体を製造するためには、主成分としての、表面の少なくとも一部に炭素数6以下の短鎖アミンを有する無機粒子を調整する。
【0091】
なお、「炭素数6以下の短鎖アミン」量及び重量減少率の調整は、特に限定しないが、加熱を行って調整するのが簡便である。無機粒子を作製する際に添加する「炭素数6以下のアルキルアミン」の量を調整することで行ってもよい。無機粒子調整後の洗浄条件や回数を変えてもよい。また、加熱はオーブンやエバポレーター等で行うことができる。加熱温度は50〜300℃程度の範囲であればよく、加熱時間は数分間〜数時間であればよい。加熱は減圧下で行ってもよい。減圧下で加熱することで、より低い温度で有機物量の調整を行うことができる。常圧下で行う場合は、大気中でも不活性雰囲気中でも行うことができる。更に、有機分量の微調整のためにアミンを後で加えることもできる。
【0092】
本実施形態の炭素数6以下の短鎖アミンで被覆された無機粒子を調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、無機粒子を含む分散液を調製し、次いで、その分散液の洗浄を行う方法等が挙げられる。無機粒子を含む分散液を調製する工程としては、例えば、下記のように、溶媒中に溶解させた金属塩(又は金属イオン)を還元させればよく、還元手順としては、化学還元法に基づく手順を採用すればよい。また、金属アミン錯体法を用いることもできる。
【0093】
即ち、上記のような炭素数6以下の短鎖アミンで被覆された無機粒子は、無機粒子を構成する金属の金属塩と、炭素数6以下の短鎖アミンと、上記高分子分散剤と、上記分散媒と、を含む原料液を還元することにより調製することができる。なお、原料液の成分の一部が溶解せず分散していてもよく、また、水が含まれていてもよい。
【0094】
炭素数6以下の短鎖アミンで被覆された無機粒子を得るための出発材料としては、種々の公知の金属塩又はその水和物を用いることができ、例えば、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、シュウ酸銀、ギ酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀等の銀塩;例えば、塩化金酸、塩化金カリウム、塩化金ナトリウム等の金塩;例えば、塩化白金酸、塩化白金、酸化白金、塩化白金酸カリウム等の白金塩;例えば、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、酸化パラジウム、硫酸パラジウム等のパラジウム塩等が挙げられるが、適当な分散媒中に溶解し得、かつ還元可能なものであれば特に限定されない。また、これらは単独で用いても複数併用してもよい。
【0095】
また、上記原料液においてこれらの金属塩を還元する方法は特に限定されず、例えば、還元剤を用いる方法、紫外線等の光、電子線、超音波又は熱エネルギーを照射する方法等が挙げられる。なかでも、操作の容易の観点から、還元剤を用いる方法が好ましい。
【0096】
上記還元剤としては、例えば、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニドン、ヒドラジン等のアミン化合物;例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヨウ素化水素、水素ガス等の水素化合物;例えば、一酸化炭素、亜硫酸等の酸化物;例えば、硫酸第一鉄、酸化鉄、フマル酸鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、硫化鉄、酢酸スズ、塩化スズ、二リン酸スズ、シュウ酸スズ、酸化スズ、硫酸スズ等の低原子価金属塩;例えば、エチレングリコール、グリセリン、ホルムアルデヒド、ハイドロキノン、ピロガロール、タンニン、タンニン酸、サリチル酸、D−グルコース等の糖等が挙げられるが、分散媒に溶解し上記金属塩を還元し得るものであれば特に限定されない。上記還元剤を使用する場合は、光及び/又は熱を加えて還元反応を促進させてもよい。
【0097】
上記金属塩、炭素数6以下の短鎖アミン、分散溶媒及び還元剤を用いて、炭素数6以下の短鎖アミンで被覆された金属粒子を調製する具体的な方法としては、例えば、上記金属塩を有機溶媒(例えばトルエン等)に溶かして金属塩溶液を調製し、当該金属塩溶液に分散剤としての有機物を添加し、ついで、ここに還元剤が溶解した溶液を徐々に滴下する方法等が挙げられる。
【0098】
上記のようにして得られた炭素数6以下の短鎖アミンで被覆された金属粒子を含む分散液には、金属粒子の他に、金属塩の対イオン、還元剤の残留物や分散剤が存在しており、液全体の電解質濃度や有機物濃度が高い傾向にある。このような状態の液は、電導度が高いので、金属粒子の凝析が起こり、沈殿し易い。あるいは、沈殿しなくても、金属塩の対イオン、還元剤の残留物、又は分散に必要な量以上の過剰な分散剤が残留していると、導電性を悪化させるおそれがある。そこで、上記金属粒子を含む溶液を洗浄して余分な残留物を取り除くことにより、有機物で被覆された金属粒子を確実に得ることができる。
【0099】
上記洗浄方法としては、例えば、炭素数6以下の短鎖アミンで被覆された金属粒子を含む分散液を一定時間静置し、生じた上澄み液を取り除いた上で、アルコール(メタノール等)を加えて再度撹枠し、更に一定期間静置して生じた上澄み液を取り除く工程を幾度か繰り返す方法、上記の静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外濾過装置やイオン交換装置等により脱塩する方法等が挙げられる。このような洗浄によって余分な残留物を取り除くと共に有機溶媒を除去することにより、本実施形態の炭素数6以下の短鎖アミンで被覆された金属粒子を得ることができる。
【0100】
なお、沈殿を精製するための洗浄用溶媒は、メタノールや水等の高極性溶剤が用いられることが多いが、無機粒子の極性に合わせて、更に低極性の溶剤を用いることができる。例えば、アセトンやアセトンとメタノールとの混合溶媒等を用いることができる。
【0101】
本実施形態のうち、金属コロイド分散液は、上記において得た炭素数6以下の短鎖アミンで被覆された金属粒子と、上記本実施形態で説明した分散媒と、を混合することにより得られる。かかる炭素数6以下の短鎖アミンで被覆された金属粒子と分散媒との混合方法は特に限定されるものではなく、攪拌機やスターラー等を用いて従来公知の方法によって行うことができる。スパチュラのようなもので撹拌したりして、適当な出力の超音波ホモジナイザーを当ててもよい。
【0102】
複数の金属を含む金属コロイド分散液を得る場合、その製造方法としては特に限定されず、例えば、銀とその他の金属とからなる金属コロイド分散液を製造する場合には、上記の有機物で被覆された金属粒子の調製において、金属粒子を含む分散液と、その他の金属粒子を含む分散液とを別々に製造し、その後混合してもよく、銀イオン溶液とその他の金属イオン溶液とを混合し、その後に還元してもよい。
【0103】
上記金属アミン錯体法を用いる場合は、例えば、炭素数が6以下である短鎖アミンを含むアミン混合液と、金属原子を含む金属化合物とを混合して、当該金属化合物とアミンを含む錯化合物を生成する第1工程と、当該錯化合物を加熱することで分解して金属粒子を生成する第2工程と、により金属粒子を製造すればよい。
【0104】
例えば、銀を含むシュウ酸銀等の金属化合物とアミンから生成される錯化合物をアミンの存在下で加熱して、当該錯化合物に含まれるシュウ酸イオン等の金属化合物を分解して生成する原子状の銀を凝集させることにより、アミンの保護膜に保護された銀粒子を製造することができる。
【0105】
このように、金属化合物の錯化合物をアミンの存在下で熱分解することで、アミンにより被覆された金属粒子を製造する金属アミン錯体分解法においては、単一種の分子である金属アミン錯体の分解反応により原子状金属が生成するため、反応系内に均一に原子状金属を生成することが可能であり、複数の成分間の反応により金属原子を生成する場合に比較して、反応を構成する成分の組成揺らぎに起因する反応の不均一が抑制され、特に工業的規模で多量の金属粉末を製造する際に有利である。
【0106】
また、金属アミン錯体分解法においては、生成する金属原子にアミン分子が配位結合しており、当該金属原子に配位したアミン分子の働きにより凝集を生じる際の金属原子の運動がコントロールされるものと推察される。この結果として、金属アミン錯体分解法によれば非常に微細で、粒度分布が狭い金属粒子を製造することが可能となる。
【0107】
更に、製造される金属微粒子の表面にも多数のアミン分子が比較的弱い力の配位結合を生じており、これらが金属粒子の表面に緻密な保護被膜を形成するため、保存安定性に優れる表面の清浄な被覆金属粒子を製造することが可能となる。また、当該被膜を形成するアミン分子は加熱等により容易に脱離可能であるため、非常に低温で焼結可能な金属粒子を製造することが可能となる。
【0108】
また、固体状の金属化合物とアミンを混合して錯化合物等の複合化合物が生成する際に、被覆金属粒子の被膜を主に構成する長鎖・中鎖アミンに対して、炭素数が6以下である短鎖のアミンを混合して用いることにより、錯化合物等の複合化合物の生成が容易になり、短時間の混合で複合化合物を製造可能となる。また、当該短鎖のアミンを混合して用いることにより、各種の用途に応じた特性を有する被覆金属粒子の製造が可能である。
【0109】
以上のようにして得られる本実施形態の無機粒子分散体は、そのままの状態で金属接合用組成物として使用することができるが、無機粒子分散体の分散安定性及び低温焼結性を損なわない範囲で種々の無機成分や有機成分を添加することができる。
【0110】
(3)塗布方法
本実施形態の無機粒子分散体は、各種印刷方法を用いて塗布することができる。また、優れた分散安定性及び保湿効果(乾燥抑制効果)を有していることから、例えば、インクジェット印刷時において、高い吐出安定性を発揮することができる。
【0111】
本実施形態の無機粒子分散体を用いれば、基材に塗布した後、比較的低温(例えば300℃以下、好ましくは150〜250℃)で加熱・焼成して焼結させて導電性被膜を得ることができる。焼成を行う際、段階的に温度を上げたり下げたりすることもできる。また、無機粒子分散体を塗布する面に予め界面活性剤又は表面活性化剤等を塗布しておくことも可能である。
【0112】
ここで、本実施形態の無機粒子分散体の「塗布」とは、無機粒子分散体を面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念である。塗布されて、加熱・焼成される前の状態の無機粒子分散体からなる塗膜の形状は、所望する形状にすることが可能である。したがって、加熱・焼成により焼結した本実施形態の無機粒子分散体の塗膜は、面状の塗膜及び線状の塗膜のいずれも含む概念であり、これら面状の塗膜及び線状の塗膜は、連続していても不連続であってもよく、連続する部分と不連続の部分とを含んでいてもよい。
【0113】
本実施形態において用いることのできる基材としては、無機粒子分散体を塗布して加熱・焼成して焼結させることのできるものであればよく、特に制限はないが、加熱・焼成時の温度により損傷しない程度の耐熱性を具備した部材であるのが好ましい。
【0114】
このような基材を構成する材料としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ビニル樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー、セラミクス、ガラス又は金属等を挙げることができる。
【0115】
また、基材は、例えば板状又はストリップ状等の種々の形状であってよく、リジッドでもフレキシブルでもよい。基材の厚さも適宜選択することができる。接着性若しくは密着性の向上又はその他の目的ために、表面層が形成された部材や親水化処理等の表面処理を施した部材を用いてもよい。
【0116】
無機粒子分散体を基材に塗布する工程では、種々の方法を用いることが可能であるが、上述のように、例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー式、バーコート式、スピンコート式、インクジェット式、ディスペンサー式、ピントランスファー法、スタンピング法、刷毛による塗布方式、流延式、フレキソ式、グラビア式、オフセット法、転写法、親疎水パターン法、又はシリンジ式等のなかから適宜選択して用いることができる。
【0117】
本実施形態においては、無機粒子分散体がバインダー成分を含む場合は、塗膜の強度向上等の観点から、バインダー成分も焼結することになるが、場合によっては、各種印刷法へ適用するために無機粒子分散体の粘度を調整することをバインダー成分の主目的として、焼成条件を制御してバインダー成分を全て除去してもよい。
【0118】
上記加熱・焼成を行う方法は特に限定されるものではなく、例えば従来公知のオーブン等を用いて、基材上に塗布または描画した上記無機粒子分散体の温度が、例えば300℃以下となるように加熱・焼成することによって焼結させることができる。上記加熱・焼成の温度の下限は必ずしも限定されず、本発明の効果を損なわない範囲の温度であればよい。ここで、上記焼結後の塗膜においては、なるべく高い強度を得るという点で、有機物の残存量は少ないほうがよいが、本発明の効果を損なわない範囲で有機物の一部が残存していても構わない。
【0119】
(4)接合方法
本実施形態の無機粒子分散体を用いれば、加熱を伴う部材同士の接合において高い接合強度を得ることができる。即ち、無機粒子分散体を第1の被接合部材と第2の被接合部材との間に塗布する接合用組成物塗布工程と、第1の被接合部材と第2の被接合部材との間に塗布した無機粒子分散体を、所望の温度(例えば300℃以下、好ましくは150〜250℃)で焼成して接合する接合工程と、により、第1の被接合部材と第2の被接合部材とを接合することができる。
【0120】
この接合工程の際には、第1の被接合部材と第2の被接合部材とが対向する方向に加圧することもできるが、特に加圧しなくとも十分な接合強度を得ることができるのも本発明の利点のひとつである。また、焼成を行う際、段階的に温度を上げたり下げたりすることもできる。また、予め被接合部材表面に界面活性剤又は表面活性化剤等を塗布しておくことも可能である。
【0121】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、前記無機粒子分散体塗布工程での無機粒子分散体として、上述した本実施形態の無機粒子分散体を用いれば、第1の被接合部材と第2の被接合部材とを、高い接合強度をもってより確実に接合できる(接合体が得られる)ことを見出した。
【0122】
ここで、本実施形態の無機粒子分散体の「塗布」とは、無機粒子分散体を面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念である。塗布されて、加熱により焼成される前の状態の無機粒子分散体からなる塗膜の形状は、所望する形状にすることが可能である。したがって、加熱による焼成後の本実施形態の接合体では、無機粒子分散体は、面状の接合層及び線状の接合層のいずれも含む概念であり、これら面状の接合層及び線状の接合層は、連続していても不連続であってもよく、連続する部分と不連続の部分とを含んでいてもよい。
【0123】
本実施形態において用いることのできる第1の被接合部材及び第2の被接合部材としては、無機粒子分散体を塗布して加熱により焼成して接合することのできるものであればよく、特に制限はないが、接合時の温度により損傷しない程度の耐熱性を具備した部材であるのが好ましい。
【0124】
このような被接合部材を構成する材料としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ビニル樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー、セラミクス、ガラス又は金属等を挙げることができるが、なかでも、金属製の被接合部材が好ましい。金属製の被接合部材が好ましいのは、耐熱性に優れているとともに、金属粒子を主成分とする本発明の無機粒子分散体との親和性に優れているからである。
【0125】
また、被接合部材は、例えば板状又はストリップ状等の種々の形状であってよく、リジッドでもフレキシブルでもよい。基材の厚さも適宜選択することができる。接着性若しくは密着性の向上又はその他の目的ために、表面層が形成された部材や親水化処理等の表面処理を施した部材を用いてもよい。
【0126】
無機粒子分散体を被接合部材に塗布する工程では、種々の方法を用いることが可能であるが、上述のように、例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー式、バーコート式、スピンコート式、インクジェット式、ディスペンサー式、ピントランスファー法、スタンピング法、刷毛による塗布方式、流延式、フレキソ式、グラビア式、オフセット法、転写法、親疎水パターン法、又はシリンジ式等のなかから適宜選択して用いることができる。
【0127】
上記のように塗布した後の塗膜を、被接合部材を損傷させない範囲で、例えば300℃以下の温度に加熱することにより焼成し、接合体を得ることができる。本実施形態においては、先に述べたように、本実施形態の無機粒子分散体を用いるため、被接合部材に対して優れた密着性を有する接合層が得られ、強い接合強度がより確実に得られる。
【0128】
本実施形態においては、無機粒子分散体がバインダー成分を含む場合は、接合層の強度向上及び被接合部材間の接合強度向上等の観点から、バインダー成分も焼結することになるが、場合によっては、各種印刷法へ適用するために無機粒子分散体の粘度を調整することをバインダー成分の主目的として、焼成条件を制御してバインダー成分を全て除去してもよい。
【0129】
上記焼成を行う方法は特に限定されるものではなく、例えば従来公知のオーブン等を用いて、被接合部材上に塗布または描画した上記無機粒子分散体の温度が、例えば300℃以下となるように焼成することによって接合することができる。上記焼成の温度の下限は必ずしも限定されず、被接合部材同士を接合できる温度であって、かつ、本発明の効果を損なわない範囲の温度であることが好ましい。ここで、上記焼成後の無機粒子分散体においては、なるべく高い接合強度を得るという点で、有機物の残存量は少ないほうがよいが、本発明の効果を損なわない範囲で有機物の一部が残存していても構わない。
【0130】
なお、本発明の無機粒子分散体には、有機物が含まれているが、従来の例えばエポキシ樹脂等の熱硬化を利用したものと異なり、有機物の作用によって焼成後の接合強度を得るものではなく、前述したように融着した金属粒子の融着によって十分な接合強度が得られるものである。このため、接合後において、接合温度よりも高温の使用環境に置かれて残存した有機物が劣化ないし分解・消失した場合であっても、接合強度の低下するおそれはなく、したがって耐熱性に優れている。
【0131】
本実施形態の無機粒子分散体によれば、例えば150〜250℃程度の低温加熱による焼成でも高い導電性を発現する接合層を有する接合を実現することができるため、比較的熱に弱い被接合部材同士を接合することができる。また、焼成時間は特に限定されるものではなく、焼成温度に応じて、接合できる焼成時間であればよい。
【0132】
上記被接合部材と接合層との密着性を更に高めるため、上記被接合部材の表面処理を行ってもよい。上記表面処理方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理等のドライ処理を行う方法、基材上にあらかじめプライマー層や導電性ペースト受容層を設ける方法等が挙げられる。
【0133】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、無機粒子として金属粒子を採用した金属コロイド分散液について説明したが、例えば、導電性、熱伝導性、誘電性、イオン伝導性等に優れたスズドープ酸化インジウム、アルミナ、チタン酸バリウム、鉄リン酸リチウム等の無機粒子を用いることもできる。
【0134】
以下、実施例において本発明の無機粒子分散体について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0135】
≪実施例1≫
ブチルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:4、logP:1.0)0.9gと、ヘキシルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:6、logP:2.1)2.5gと高分子分散剤であるDISPERBYK−174(ビックケミー社製)を0.3gと、を混合し、マグネティックスターラーにてよく撹拌してアミン混合液を生成した。次いで、撹拌を行いながら、シュウ酸銀3.0gを添加した。シュウ酸銀の添加後、室温で攪拌を続けることでシュウ酸銀を粘性のある白色の物質へと変化させ、当該変化が外見的に終了したと認められる時点で撹拌を終了した(第1工程)。
【0136】
得られた混合液をオイルバスに移し、120℃で加熱撹拌を行った。撹拌の開始直後に二酸化炭素の発生を伴う反応が開始し、その後、二酸化炭素の発生が完了するまで撹拌を行うことで、銀微粒子がアミン混合物中に懸濁した懸濁液を得た(第2工程)。次に、当該懸濁液の分散媒を置換するため、メタノール10mLを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、分離した銀微粒子に対してメタノール10mLを加え、撹拌、遠心分離を行うことで銀微粒子を沈殿させて分離し、ターピネオールC2.4gに高分子分散剤SOLSPERSE16000(ルーブリゾール社製)を0.03g(銀固形分に対して1.5重量%)を加えて混合させたものに分散させ、銀微粒子分散体1を得た。
【0137】
[評価試験]
(1)分散性
上記のようにして得た銀微粒子分散体1を容器中に静置し、室温1日後、沈殿の有無及び上澄みの状態を目視で観察することにより、銀コロイド分散液1の分散性を評価した。容器下に沈降物がほとんど認められない場合を「○」、沈降物が少量認められた場合を「△」、容器上下で明らかに濃度差があり、沈降物がはっきり認められる場合を「×」と評価した。結果を表1に示した。ここで、室温とは25℃である。
【0138】
(2)希釈性
上記のようにして得た銀微粒子分散体1を分散媒に100倍希釈したときの分散性を目視で評価した。分散した場合を「○」、一部凝集や銀鏡が見られた場合を「△」、凝集・沈殿が生じた場合を「×」と評価した。結果を表1に示した。
【0139】
(3)粘度測定
上記のようにして得た銀微粒子分散体1の粘度を、コーンプレート型粘度計(アントンパール社製レオメーター,MCR301)を用いて測定した。測定条件は、測定モード:せん断モード,せん断速度:10s-1,測定治具:コーンプレート(CP−50−2;直径50mm,アングル2°,ギャップ0.045mm),測定温度:25℃とした。結果を表1に示した。
【0140】
(4)体積抵抗値
上記のようにして得た銀微粒子分散体1をスライドガラスに刷毛塗りして塗膜を形成し、ギヤオーブン中で150℃・30分、又は200℃・30分の条件で加熱・焼成することにより焼結させ、導電性被膜を形成した。この被膜の体積抵抗値を、横川メータ&インスツルメンツ(株)製の直流精密測定器「携帯用ダブルブリッジ2769」を用いて測定した。具体的には、以下の式に基づき、測定端子間距離と導電性被膜の厚みから体積抵抗値を換算した。体積抵抗値が20μΩ・cm以下の場合を「○」、20μΩ・cm超の場合を「×」と評価した。結果を表1に示した。
式:(体積抵抗値ρv)=
(抵抗値R)×(被膜幅w)×(被膜厚さt)/(端子間距離L)
【0141】
(5)有機分測定
上記のようにして得た銀微粒子分散体1に含まれる有機成分の含有量を、熱重量分析法で測定した。具体的には、銀微粒子分散体1の固形分を10℃/分の昇温速度で加熱し、室温〜200℃及び200〜500℃の重量減少量として有機成分の含有量を特定した。結果を表1に示した。ここで、室温とは25℃である。
【0142】
≪実施例2≫
ジヒドロターピニルアセテートの代わりにジヒドロターピネオールを用いたこと以外は実施例2と同様にして銀微粒子分散体2を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表1に示した。
【0143】
≪実施例3≫
ブチルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:4、logP:1.0)0.9gの代わりに、3−メトキシプロピルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:4、logP:−1.5)0.9g用いたこと以外は実施例2と同様にして銀微粒子分散体3を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表1に示した。
【0144】
≪実施例4≫
ジヒドロターピネオールの代わりにターピニルオキシエタノール(テルソルブTOE−100:日本テルペン化学株式会社)を用いたこと以外は実施例3と同様にして銀微粒子分散体4を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表1に示した。
【0145】
≪実施例5≫
ターピニルオキシエタノール(テルソルブTOE−100:日本テルペン化学株式会社)に加える高分子分散剤をSOLSPERSE16000から有効成分50%のBYK−P104(ビックケミー社製)を0.06g(銀固形分に対して1.5重量%)、としたこと以外は、実施例4と同様にして銀微粒子分散体5を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表1に示した。
【0146】
≪実施例6≫
ターピニルオキシエタノール(テルソルブTOE−100:日本テルペン化学株式会社)の代わりにジヒドロターピニルオキシエタノールを用いたこと以外は実施例4と同様にして銀微粒子分散体6を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表1に示した。
【0147】
≪実施例7≫
ジヒドロターピニルオキシエタノールに加える高分子分散剤のSOLSPERSE16000の量を0.03gから0.015g(銀固形分に対して0.75重量%)に変えたこと以外は実施例6と同様にして銀微粒子分散体7を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表1に示した。
【0148】
≪実施例8≫
ジヒドロターピネオールに加える高分子分散剤をSOLSPERSE18000に変更し添加量は0.03g(銀固形分に対して1.5重量%)にしたこと以外は実施例2と同様にして得られた銀微粒子分散体8を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表1に示した。
【0149】
≪実施例9≫
ブチルアミン0.9gと、ヘキシルアミン2.5gと高分子分散剤であるSOLSPERSE16000を0.3gと、を混合し、マグネティックスターラーにてよく撹拌してアミン混合液を生成した。次いで、撹拌を行いながら、シュウ酸銀3.0gを添加した。シュウ酸銀の添加後、室温で攪拌を続けることでシュウ酸銀を粘性のある白色の物質へと変化させ、当該変化が外見的に終了したと認められる時点で撹拌を終了した(第1工程)。
【0150】
得られた混合液をオイルバスに移し、120℃で加熱撹拌を行った。撹拌の開始直後に二酸化炭素の発生を伴う反応が開始し、その後、二酸化炭素の発生が完了するまで撹拌を行うことで、銀微粒子がアミン混合物中に懸濁した懸濁液を得た(第2工程)。次に、当該懸濁液の分散媒を置換するため、メタノール/アセトン(比率4:1)の混合溶媒10mLを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、分離した銀微粒子に対して再度メタノール/アセトン(比率4:1)混合溶媒10mLを加え、撹拌、遠心分離を行うことで銀微粒子を沈殿させて分離し、ジヒドロターピニルオキシエタノール2.4gに高分子分散剤SOLSPERSE16000の量を0.002g(銀固形分に対して0.1重量%)を加え混合させたものに分散させ、銀微粒子分散体9を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表1に示した。
【0151】
≪実施例10≫
DISPERBYK−174の代わりにSOLSPERSE16000を0.3g入れ、ターピネオールCの代わりにジヒドロターピネオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして得られた銀微粒子分散体10を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表1に示した。
【0152】
≪比較例1≫
分散媒のターピネオールCの中に高分子分散剤を加えないこと以外は実施例1と同様にして比較銀微粒子分散体1を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0153】
≪比較例2≫
DISPERBYK−174の代わりに、SOLSPERSE16000を0.3g入れたこと以外は比較例1と同様にして比較銀微粒子分散体2を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0154】
≪比較例3≫
分散媒のターピネオールCの代わりにジヒドロターピネオールを用いたこと以外は比較例1と同様にして比較銀微粒子分散体3を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0155】
≪比較例4≫
ブチルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:4、logP:1.0)0.9gと、ヘキシルアミン(和光純薬工業(株)製試薬一級、炭素数:6、logP:2.1)2.5gを用いないこと以外は比較例2と同様にして比較銀微粒子分散体4を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0156】
≪比較例5≫
分散媒のジヒドロターピネオールの代わりにターピニルオキシエタノール(テルソルブTOE−100:日本テルペン化学株式会社)を用いたこと以外は比較例2と同様にして比較銀微粒子分散体5を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0157】
≪比較例6≫
分散媒のターピニルオキシエタノール(テルソルブTOE−100:日本テルペン化学株式会社)の代わりにジヒドロターピニルオキシエタノールを用いたこと以外は比較例2と同様にして比較銀微粒子分散体6を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0158】
≪比較例7≫
ジヒドロターピネオールに加える高分子分散剤をSOLSPERSE11200に変更し添加量は0.03g(銀固形分に対して1.5重量%)にしたこと以外は実施例10と同様にして得られた比較銀微粒子分散体7を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0159】
≪比較例8≫
ジヒドロターピネオールに加える高分子分散剤をBYK−P105(ビックケミー社製)を0.06g(銀固形分に対して1.5重量%)としたこと以外は実施例8と同様にして比較銀微粒子分散体8を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0160】
≪比較例9≫
ジヒドロターピニルオキシエタノールに加える高分子分散剤のSOLSPERSE16000の量を0.03gから0.001g(銀固形分に対して0.05重量%)に変えたこと以外は実施例9と同様にして比較銀微粒子分散体9を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0161】
≪比較例10≫
ブチルアミン0.9gと、ヘキシルアミン2.5gと高分子分散剤であるSOLSPERSE16000を0.4gと、を混合し、マグネティックスターラーにてよく撹拌してアミン混合液を生成した。次いで、撹拌を行いながら、シュウ酸銀3.0gを添加した。シュウ酸銀の添加後、室温で攪拌を続けることでシュウ酸銀を粘性のある白色の物質へと変化させ、当該変化が外見的に終了したと認められる時点で撹拌を終了した(第1工程)。
【0162】
得られた混合液をオイルバスに移し、120℃で加熱撹拌を行った。撹拌の開始直後に二酸化炭素の発生を伴う反応が開始し、その後、二酸化炭素の発生が完了するまで撹拌を行うことで、銀微粒子がアミン混合物中に懸濁した懸濁液を得た(第2工程)。次に、当該懸濁液の分散媒を置換するため、メタノール10mLを加えて撹拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、分離した銀微粒子に対して再度メタノール10mLを加え、撹拌、遠心分離を行うことで銀微粒子を沈殿させて分離し、ジヒドロターピニルオキシエタノール2.4gに分散させた比較銀微粒子分散体10を得た。
【0163】
≪比較例11≫
ジヒドロターピニルオキシエタノールに加える高分子分散剤のSOLSPERSE16000の量を0.03gから0.3g(銀固形分に対して15重量%)にしたこと以外は実施例6と同様にして比較銀微粒子分散体11を得た。実施例1と同様の評価試験を行ない、結果を表2に示した。
【0164】
【表1】
【0165】
【表2】
【0166】
表2に示す結果からわかるように、実施例のとおり、本発明の無機粒子分散体(銀微粒子分散体)は、低粘度であるジヒドロターピニルアセテートを溶媒とした銀微粒子分散体(銀微粒子分散体10)以外は、25℃において15mPa・s以上の高い粘度を有している。加えて、優れた分散性及び希釈性を有している。更に、良好な(十分に低い)体積抵抗値を示しており、優れた分散安定性と高い粘度を兼ね備えると共に、比較的低温で焼成することができる無機粒子分散体が得られていることが分かる。
【0167】
これに対し、保護分散剤を後添加しない場合(比較無機粒子分散体1〜3)、十分な分散性及び希釈性が得られていない。また、炭素数6以下の短鎖アミンを添加していない比較銀微粒子分散体4では、銀粒子を得ることができていない。
【0168】
保護分散剤を後添加することなくテルペンエーテル系(ターピニルオキシエタノール、ジヒドロターピニルオキシエタノール)を分散媒として用いた場合(比較銀微粒子分散体5及び6)、銀微粒子が分散する無機粒子分散体を得ることができなかった。一方で、保護分散剤を銀微粒子合成後に後添加することで、テルペンエーテル系(ターピニルオキシエタノール、ジヒドロターピニルオキシエタノール)に対する銀微粒子の分散性が著しく改善されている(銀微粒子分散体4〜7,9)。
【0169】
銀微粒子分散体6,7,9、比較銀微粒子分散体11の比較により、保護分散剤の添加量が導電性と分散性に影響することが分かる。具体的には、添加量が多過ぎる場合は、分散性は良いが導通せず、添加量が少な過ぎる場合は、体積抵抗値は低くなるが分散性が劣る結果となる。
【0170】
また、保護分散剤が酸価を有さない場合(比較銀微粒子分散体7)及び酸価が高すぎる場合(比較銀微粒子分散体8)では、十分な分散性が得られていない。
【0171】
なお、銀微粒子分散体9より、洗浄溶剤の最適化により分散性が改善されることが分かる。