【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によれば、本発明は、架橋結合されてビーズの形態を形成するアルブミンと、前記アルブミン架橋物内に含まれた陰イオン性高分子であるデキストランサルフェートと、を含む第1生分解性マイクロビーズと、架橋結合されてビーズの形態を形成するアルブミンと、前記アルブミン架橋物内に含まれた陰イオン性高分子であるグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)類高分子と、を含む第2生分解性マイクロビーズと、を含み、前記第1生分解性マイクロビーズ及び前記第2生分解性マイクロビーズは、これらビーズに含まれた陰イオン性高分子の静電気的引力を通じてビーズの表面に抗癌剤を吸着することができることを特徴とする化学塞栓用組成物を提供する。
【0017】
本発明の他の一態様によれば、本発明は、前記化学塞栓用組成物の製造のための前記第1生分解性マイクロビーズ及び前記第2生分解性マイクロビーズの用途を提供する。
【0018】
本発明者らは、化学塞栓用マイクロビーズから放出される薬物の放出速度をビーズの使用環境と使用目的などによって効果的に調節することができる技術開発のために研究努力してきた。その結果、本発明者らは、アルブミン/デキストランサルフェートビーズとアルブミン/グリコサミノグリカンビーズとの薬物放出特性が互いに異なることを見つけ、これら2つのビーズを特定の比率で混合して使う場合、混合比によって薬物の放出速度が調節されることを確認した。
【0019】
本発明の一具現例によれば、第1生分解性マイクロビーズ及び第2生分解性マイクロビーズを含む本発明の組成物は、体内投与時に抗癌剤を周辺に放出し、このときの抗癌剤の放出速度は、組成物に含まれた第1生分解性マイクロビーズ及び第2生分解性マイクロビーズの配合比によって変わる。
【0020】
下記の実施例を通じて確認したように、アルブミン/デキストランサルフェートビーズ(第1生分解性マイクロビーズ)の抗癌剤の放出速度は、アルブミン/グリコサミノグリカンビーズ(第2生分解性マイクロビーズ)に比べて、著しく遅く、これらマイクロビーズを混合した場合には、混合比率によって、それぞれ異なる抗癌剤の放出特性(溶出特性)を示した(
図6ないし
図10参照)。したがって、第1生分解性マイクロビーズ及び第2生分解性マイクロビーズの混合比率を調節することによって、組成物が表わす抗癌剤の放出速度(溶出速度)を調節することができる。
【0021】
本発明の一具現例によれば、本発明の組成物に含まれた第1生分解性マイクロビーズと第2生分解性マイクロビーズとの比率は、0.01〜99.99:99.99〜0.01(v/v%)である。
【0022】
本発明の一具現例によれば、本発明の組成物が表わす抗癌剤の放出速度は、第1生分解性マイクロビーズに対する第2生分解性マイクロビーズの比率の増加によって早くなる。
【0023】
本発明の化学塞栓用組成物は、固形癌治療のために体内投与される。一例として、本発明の組成物は、肝癌化学塞栓術(肝動脈塞栓術)のために体内に投与される。肝癌の以外に適用可能な固形癌としては、直腸動脈を通じて直腸細胞癌腫を治療する方法が挙げられる(K.Tsuchiya,Urology.Apr;55(4):495−500(2000))。
【0024】
本発明の一具現例によれば、本発明の組成物は、第1生分解性マイクロビーズ及び第2生分解性マイクロビーズを適切な容器(例えば、バイアル)にパッケージングして具現可能である。この際、前記生分解性マイクロビーズを溶液と共にバイアルにパッケージングし(湿式)、また生分解性マイクロビーズを粉末化してバイアルにパッケージングすることができる(乾式)。また、前記第1生分解性マイクロビーズ及び前記第2生分解性マイクロビーズは、容器内に混合された状態で存在しても、選択的に別途に区画された空間に別途に存在しても良い。
【0025】
以下、前記第1生分解性マイクロビーズ及び前記第2生分解性マイクロビーズについて詳しく説明する。前記マイクロビーズに関する説明は、それぞれ特許文献2及び特許文献3にも記載されており、前記文献は、本明細書に参考として組み込まれる。
【0026】
前記第1生分解性マイクロビーズは、構成成分としてアルブミン及びデキストランサルフェートを含む。前記アルブミンは、架橋結合されてマイクロビーズの形態を形成し、保持する支持体としての役割を果たす。前記デキストランサルフェートは、陰イオン性高分子として架橋結合されたアルブミン内に含まれて抗癌剤をビーズの表面に吸着させる役割を果たす。前記アルブミン及びデキストランサルフェートは、いずれも生体適合性高分子物質として体内で分解が可能であるために、従来のポリビニルアルコールを用いたビーズが有する体内で分解されないことで発生する問題点、例えば、ポリビニルアルコールが不特定に広がって炎症を起こすか、血管に乗って他の臓器に広がって行って脳血栓などを起こしうる問題点を解決しうる。
【0027】
前記第2生分解性マイクロビーズは、構成成分としてアルブミン及びグリコサミノグリカン類高分子を含む。前記アルブミンは、第1生分解性マイクロビーズと同様に、架橋結合されてマイクロビーズの形態を形成し、保持する支持体としての役割を果たす。前記グリコサミノグリカン類高分子は、陰イオン性高分子として架橋結合されたアルブミン内に含まれて抗癌剤をビーズの表面に吸着させる役割を果たす。前記アルブミン及びグリコサミノグリカン類高分子は、いずれも生体適合性高分子物質として体内で分解が可能であるために、前記第1生分解性マイクロビーズと同様に、従来のポリビニルアルコールを用いたビーズが有する体内で分解されないことで発生する問題点、例えば、ポリビニルアルコールが不特定に広がって炎症を起こすか、血管に乗って他の臓器に広がって行って脳血栓などを起こしうる問題点を解決しうる。
【0028】
本発明の一具現例によれば、前記第1生分解性マイクロビーズ及び/又は第2生分解性マイクロビーズの陰イオン性高分子は、架橋結合されたアルブミンとアミド結合されている。この場合、前記アルブミンは、陰イオン性高分子のカルボキシル基又はアミン基とアミド結合され、アルブミン同士で架橋結合されてマイクロビーズの形態を形成し、保持する支持体としての役割を果たす。前記陰イオン性高分子は、アルブミンのアミン基又はカルボキシル基とアミド結合され、抗癌剤をビーズの表面に吸着させる役割を果たす。
【0029】
本発明の一具現例によれば、前記第2生分解性マイクロビーズは、架橋結合されたアルブミンと陰イオン性高分子であるグリコサミノグリカン類高分子とがアミド結合されて形成されたアルブミン−グリコサミノグリカンコンジュゲートを含む。
【0030】
本明細書で使われた用語、“生分解性”とは、生理的溶液(physiological solution)に露出されたとき、分解されうる性質を意味し、例えば、ヒトを含んだ哺乳動物の生体内で体液又は微生物などによって分解されうる性質を意味する。
本発明の一具現例によれば、前記アルブミンは、生体細胞や体液中に広く分布されているタンパク質であって、動物性アルブミン及び植物性アルブミンを含む。
【0031】
1つの特定例によれば、前記動物性アルブミンは、オボアルブミン、血清アルブミン、ラクトアルブミン及びミオゲンを含み、前記植物性アルブミンは、ロイコシン(麦種子)、レグメリン(豌豆)及びリジン(唐胡麻種子)を含む。前記アルブミンには、アルブミンの変異体も含まれる。
【0032】
本発明の一具現例によれば、前記グリコサミノグリカン類高分子は、コンドロイチンサルフェート(chondroitin sulfate)、デルマタンサルフェート(dermatan sulfate)、ケラタンサルフェート(keratan sulfate)、ヘパランサルフェート(heparan sulfate)、ヘパリン(heparin)、及びヒアルロナン(hyaluronan)で構成された群から選択される。
【0033】
本発明の一具現例によれば、前記アルブミンの架橋は、熱架橋又はアルデヒド類架橋剤によるものである。
【0034】
1つの特定例によれば、前記アルデヒド類架橋剤は、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、ジアルデヒド澱粉、スクシンアルデヒド、アクリルアルデヒド、オキサルアルデヒド、2−メチルアクリルアルデヒド、及び2−オキソプロパノールで構成された群から選択される。
【0035】
本発明の一具現例によれば、前記第1生分解性マイクロビーズ及び前記第2生分解性マイクロビーズは、それぞれビーズ1ml当たり10〜100mgの抗癌剤を吸着することができる。
【0036】
1つの特定例によれば、前記生分解性マイクロビーズの抗癌剤の吸着能力は、マイクロビーズ1ml当たり20〜60mgであり、他の特定例では、マイクロビーズ1ml当たり20〜55mgであり、さらに他の特定例では、マイクロビーズ1ml当たり20〜50mgである。
【0037】
本発明の一具現例によれば、前記第1生分解性マイクロビーズ及び前記第2生分解性マイクロビーズは、陰イオン性高分子との静電気的引力によってビーズの表面に吸着された抗癌剤をさらに含む。
【0038】
1つの特定例によれば、前記抗癌剤は、アントラサイクリン系抗癌剤である。前記アントラサイクリン系抗癌剤には、例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ゲムシタビン、ミトキサントロン、ピラルビシン及びバルルビシンなどがある。
【0039】
他の特定例によれば、前記抗癌剤は、イリノテカンである。
【0040】
本発明の他の態様によれば、本発明は、次の工程を含むことを特徴とする化学塞栓用組成物の製造方法を提供する:
(a)アルブミンと陰イオン性高分子であるデキストランサルフェートとを含むビーズ製造用溶液をエマルジョン化して形成されたマイクロサイズのバブルを架橋して、アルブミンが架橋結合され、前記アルブミン架橋物内にデキストランサルフェートが含まれた第1生分解性マイクロビーズを製造する工程と、
(b)アルブミンと陰イオン性高分子であるグリコサミノグリカン類高分子とを含むビーズ製造用溶液をエマルジョン化して形成されたマイクロサイズのバブルを架橋して、アルブミンが架橋結合され、前記アルブミン架橋物内にグリコサミノグリカン類高分子が含まれた第2生分解性マイクロビーズを製造する工程と、
(c)前記第1生分解性マイクロビーズ及び前記第2生分解性マイクロビーズを一定比率で混合して容器にパッケージングする工程であって、前記第1生分解性マイクロビーズ及び前記第2生分解性マイクロビーズの配合比によって組成物の抗癌剤の放出速度が調節される工程。
【0041】
本発明の一具現例によれば、本発明の方法は、工程(a)及び/又は工程(b)以後に製造された第1生分解性マイクロビーズ及び第2生分解性マイクロビーズに抗癌剤を接触させてマイクロビーズの陰イオン性高分子の静電気的引力によって抗癌剤をビーズの表面に吸着させる工程をさらに含む。
【0042】
本発明の他の具現例によれば、本発明の方法は、工程(c)以後に容器にパッケージングされた第1生分解性マイクロビーズ及び第2生分解性マイクロビーズに抗癌剤を接触させてマイクロビーズの陰イオン性高分子の静電気的引力によって抗癌剤をビーズの表面に吸着させる工程をさらに含む。この際、抗癌剤の吸着は、前記生分解性マイクロビーズが容器にパッケージングされた状態で実施し、あるいはマイクロビーズを容器から取り出した後、別途の容器で実施することもできる。
【0043】
本発明の一具現例によれば、前記工程(a)及び工程(b)のビーズ製造用溶液のエマルジョン化は、天然オイル又は粘度増加剤を含有する有機溶媒を使って行う。
【0044】
使用可能な天然オイルの例としては、MCTオイル、綿実油、トウモロコシ油、アーモンド油、あんず油、アボカド油、ババスヤシ油、カモミール油、キャノーラ油、ココアバター油、ココナッツ油、タラ肝油、コーヒー油、魚油、亜麻仁油、ホホバ油、ヒョウタン油、ブドウ種子油、ヘーゼルナッツ油、ラベンダー油、レモン油、マンゴー種子油、オレンジ油、オリーブ油、ミンク油、シュロ油、ローズマリー油、胡麻油、シアバター油、大豆油、ヒマワリ油及びクルミ油などが挙げられる。
【0045】
使用可能な有機溶媒としては、アセトン、エタノール及び酢酸ブチルなどが挙げられる。前記有機溶媒は、適切な粘度を付与するために粘度増加剤を含む。前記粘度増加剤の例としては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸酪酸セルロースなどのセルロース系のポリマーが挙げられる。
【0046】
本発明の一具現例によれば、前記工程(a)及び工程(b)のマイクロサイズのバブルは、マイクロ流体システム又はエンカプスレーターを用いて形成されうる。マイクロ流体システムは、微細構造のチップを用いてビーズを製造する方法であって、大きな管の内部にさらに小さな管を位置させた後、互いに逆方向に水状と油状とを流せば、互いの張力によってビーズが形成される。すなわち、ビーズ製造用溶液を内部流体とし、同時に前記天然オイル又は有機溶媒(収集溶液)を外部流体として流せば、張力によってビーズが形成され、それを再び収集溶液に収集し、架橋反応を通じてビーズを製造することができる。
【0047】
カプセル化は、電気放射と類似した方法でノズルと収集溶液との間に電場を形成して、張力によって生成される水泡を細かく割って非常に小さなサイズの滴に分散させることをその特徴とする。ビーズ製造用溶液を容量に合う注射器に移し、それを注射器ポンプに装着した後、エンカプスレーターと連結する。そして、収集溶液も、容量に合うディッシュに移した後、撹拌機上に位置させ、エンカプスレーターの環境を適切に設定した後、ビーズ製造用溶液を収集溶液に噴射してバブルを形成させる。エンカプスレーターの条件は、流速1〜5ml/分間、加える電力1,000〜3,000V、超音波2,000〜−6,000Hz、回転数100rpm以下が適し、放出ノズルのサイズは、製造しようとするビーズのサイズに合わせて選択して使う。
【0048】
本発明の他の一具現例によれば、本発明の工程(a)及び工程(b)のマイクロサイズのバブルは、ビーズ製造用溶液と収集溶液とを混合した後、適切な回転数で撹拌する乳化法で製造することができる。この際、ビーズのサイズは、回転数と撹拌時間とに依存する。適切なサイズのバブルが形成されれば、バブルを架橋してマイクロビーズを形成させる。
【0049】
本発明の一具現例によれば、アルブミンの架橋反応が完了するまで撹拌し続けて反応を保持し、反応が完了すれば、収集溶液の洗浄のために過量のアセトンあるいはエタノールを用いてビーズを数回洗浄する。
【0050】
本発明の一具現例によれば、前記架橋は、アルデヒド類架橋剤を使って行うか、又は熱架橋によるものである。本発明のマイクロビーズを熱架橋して製造する場合、体内に有害な化学的架橋剤を使わず、身体適合性に優れ、化学的架橋剤の除去工程を省略することができて経済的である。
【0051】
本発明の一具現例によれば、前記熱架橋温度は、60℃以上(例えば、60〜160℃)であり、熱架橋時間は、1〜4時間である。
【0052】
本発明の一具現例によれば、前記工程(b)のビーズ製造用溶液は、アルブミンとグリコサミノグリカン類高分子とがアミド結合されたアルブミン−グリコサミノグリカンコンジュゲートを含む。この場合、工程(b)では、アルブミンとグリコサミノグリカン類高分子とがアミド結合されたアルブミン−グリコサミノグリカンコンジュゲートをエマルジョン化して形成されたマイクロサイズのバブルを架橋して、アルブミンが架橋結合された第2生分解性マイクロビーズを製造する。これにより、架橋結合されたアルブミンとグリコサミノグリカン類高分子とがアミド結合されたアルブミン−グリコサミノグリカンコンジュゲートを含む第2生分解性マイクロビーズが製造される。
【0053】
前記工程(c)では、化学塞栓用組成物が目的する抗癌剤の放出速度を表わせるために、第1生分解性マイクロビーズ及び第2生分解性マイクロビーズを一定比率で混合して容器(例えば、バイアル)にパッケージングする。この際、前記第1生分解性マイクロビーズと第2生分解性マイクロビーズとの混合比は、100%(v/v)を基準に0.01〜99.99:99.99〜0.01(v/v%)であり得る。
【0054】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、架橋結合されてビーズの形態を形成するアルブミンと、前記アルブミン架橋物内に含まれた陰イオン性高分子であるデキストランサルフェートと、を含む第1生分解性マイクロビーズと、架橋結合されてビーズの形態を形成するアルブミンと、前記アルブミン架橋物内に含まれた陰イオン性高分子であるグリコサミノグリカン類高分子と、を含む第2生分解性マイクロビーズと、を含む組成物を、それを必要とする患者に投与する工程を含み、前記第1生分解性マイクロビーズ及び前記第2生分解性マイクロビーズの表面には、前記ビーズに含まれた陰イオン性高分子の静電気的引力を通じて抗癌剤が吸着されていることを特徴とする癌の治療方法を提供する。
【0055】
本発明によれば、前記組成物を癌患者に投与して化学塞栓を通じて癌を治療することができる。
【0056】
本発明の一具現例によれば、前記患者は、肝癌患者であり、前記マイクロビーズは、前記患者の肝動脈に投与される。