特許第6290553号(P6290553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290553
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】複合磁性体
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20180226BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20180226BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20180226BHJP
   C08L 61/04 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20180226BHJP
   C08L 83/08 20060101ALI20180226BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H05K9/00 X
   C08L63/00 B
   C08L61/04
   C08K5/3415
   C08K3/08
   C08L83/08
   C08G59/62
【請求項の数】16
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-153956(P2013-153956)
(22)【出願日】2013年7月24日
(65)【公開番号】特開2015-26651(P2015-26651A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 武司
(72)【発明者】
【氏名】服部 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 光次郎
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−062318(JP,A)
【文献】 特開2009−059753(JP,A)
【文献】 特開2011−017006(JP,A)
【文献】 特開2009−059752(JP,A)
【文献】 特開2004−352963(JP,A)
【文献】 特開平11−026222(JP,A)
【文献】 特開平07−053864(JP,A)
【文献】 特開2009−097993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
C08G 59/62
C08K 3/08
C08K 5/3415
C08L 61/04
C08L 63/00
C08L 83/08
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:エポキシ基を有するアクリル共重合体と、(B)成分:フェノ−ル樹脂と、(C)成分:下記式で示されるマレイミド基を2個以上含有する化合物(1)および化合物(2)とを含有し、
前記(A)成分のエポキシ価が0.03〜0.5eq/kgである
樹脂組成物中に、軟磁性金属粉末が分散されていることを特徴とする複合磁性体。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記軟磁性金属粉末が、軟磁性の金属または合金からなるアトマイズ粉末を扁平にした平均粒径30〜200μm、扁平度30〜200のフレーク状粉末であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項3】
前記軟磁性粉末が、Fe−Si系合金粉末、Fe−Si−Al系合金粉末、Fe−Ni系合金粉末、Fe−Ni−Mo系合金粉末、Fe−Ni−Mo−Cu系合金粉末、Fe−Cr系合金粉末から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合磁性体。
【請求項4】
前記軟磁性金属粉末/[(A)成分+(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、2〜19であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項5】
前記(A)成分が、ガラス転移点温度が−30〜40℃のアクリル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項6】
前記(A)成分が、重量平均分子量が10万〜300万のアクリル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項7】
前記(B)成分が、レゾール型のアルキルフェノールを含むフェノ−ル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項8】
前記(B)成分が、レゾール型のフェノール樹脂とノボラック型のフェノール樹脂とを併用することを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項9】
前記(C)成分が、化合物(2)/化合物(1)で表される質量比が、1〜15であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項10】
(A)成分/[(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、0.1〜10であり、かつ、(B)成分/[(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、0.1〜0.9であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項11】
前記(A)成分、(B)成分、(C)成分以外に、(D)成分:ジアミン化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項12】
前記(D)成分が、下記式で示される化合物(3)であることを特徴とする請求項11に記載の複合磁性体。
【化3】
(式中、R1は2価の芳香族基を表す)
【請求項13】
(D)成分が、重量平均分子量200〜7,000の下記式で示される化合物(4)であることを特徴とする請求項11に記載の複合磁性体。
【化4】
(式中、R2はプロピレン基またはフェノキシメチレン基を表し、nは0ないし7の整数を示す)
【請求項14】
平均粒径0.1〜3μmの水酸化アルミニウム又は/及び水酸化マグネシウムからなる難燃剤と、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、リン酸エステルから選ばれる少なくとも1種からなる難燃助剤とを含有することを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項15】
前記難燃剤/[(A)成分+(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、0.4〜1.5であり、前記難燃助剤/[(A)成分+(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、0.01〜0.1であることを特徴とする請求項14に記載の複合磁性体。
【請求項16】
複合磁性体の片面ないし両面に耐熱粘着層を積層したことを特徴とする請求項1に記載の複合磁性体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等から発生する電磁波ノイズを吸収し、外部への放出や外部からの侵入を抑制する、あるいは電子機器内部における部品間の干渉による誤動作を防止する等の目的のために使用される複合磁性体において、回路基板、電子部品、フレキシブルプリント配線板等の凹凸等に追従できる柔軟性を有し、さらに、150℃での長期耐熱信頼性試験後も柔軟性、寸法安定性を有し、チップ部品等の電子部品の基板への表面実装技術の基本プロセスとなっているリフローはんだ付けに使用できる複合磁性体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化により、電子部品の作動周波数は高周波化されており、放射されるノイズ電磁波の強度が増し、かつ、より広範囲の周波数成分を含むようになってきている。これらの電子機器には、さらなる小型化、軽量化の要求が高まっており、この要求に伴い、使用される電子部品は、小型化、薄型化及び高密度実装化される傾向にある。電子機器が高周波化、高密度実装化されるに伴い、電子部品やプリント配線、あるいはモジュール間の配線から放射されるノイズ電磁波が発生しやすくなるという問題がある。
一般に、各種電子機器のノイズ電磁波の抑制策として、複合磁性体が用いられている。
複合磁性体としては、例えば、塩素化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム等のバインダー樹脂に、軟磁性金属の粉末としてセンダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)やFe−Cr合金等のアトマイズ粉末を分散させシート状に成形した電磁波抑制シートが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
複合磁性体のノイズ電磁波の抑制能力は、その厚さに依存し、用途に応じて、種々の厚さの複合磁性体が供給されている。このため、複合磁性体の供給においては、製造効率の向上のために、任意の厚さの複合磁性体を製造し、これをユーザーの要望に応じて積層している。例えば、特許文献1の発明の電磁波抑制シートのように、熱可塑性樹脂が用いられた複合磁性体は、軟磁性金属粉末が液状の樹脂組成物に分散されて溶液状態(Aステージ)の磁性体塗料とされ、この磁性体塗料が基材に塗工され乾燥されて半硬化状態(Bステージ)の半硬化状シート物とされ、半硬化状シート物が硬化されて硬化状態(Cステージ)とされる。そして、電磁波抑制シートは、必要に応じて重ねられ、熱プレスされることで、所望の厚さの電磁波抑制シートとされている。
【0004】
ところで、チップ部品等の電子部品の基板への表面実装技術は、リフローはんだ付けが基本プロセスとなっている。一般的な複合磁性体は、耐熱性に乏しいため、リフローはんだ付け時のリフロー炉での加熱により、軟化して形状が保持できなかったり、局部的な粉化、ひび、割れ、発泡等の形態不良が生じやすく、リフローはんだ付け等の高温雰囲気で使用できない。従って、複合磁性体をリフローはんだ付け後に貼り付けなければならず、これがプロセス上の問題となっていた。
【0005】
従来、耐熱性の向上や柔軟性の向上を図った発明が提案されている。
例えば、偏平状軟磁性粉末をポリウレタン樹脂中に分散させた電磁波抑制シートを半導体部品の上面に塔載し、該電磁波抑制シートを覆うように、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を塗布し固定した後、240℃のはんだリフロー炉を通過させて、熱硬化性樹脂を硬化させ、電磁波抑制シートを熱硬化性樹脂で封じ込めて固定する発明が提案されている(例えば、特許文献2)。特許文献2の発明によれば、リフロー工程後でも、電磁波抑制シートに変質や不具合が発生しなかったと記載されている。
また、軟磁性金属粉末をエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂のいずれかの熱硬化性樹脂シート中に埋設した電磁波抑制シートが提案されている(例えば、特許文献3)。
あるいは、1分子中に2個以上の、カルボキシル基及び/又はその酸無水物基を有する化合物、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物、及び軟磁性粉を含む電磁波吸収材料組成物が提案されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−299112号公報
【特許文献2】特開平11−307983号公報
【特許文献3】特開2002−111276号公報
【特許文献4】特開2005−252221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2〜3の発明は、リフローはんだ付けにおける形態不良の防止(耐リフロー性)が図られているものの、柔軟性を満足できるものではなかった。特許文献4の発明は、柔軟性の向上が図られているものの、満足できる耐リフロー性ではなかった。加えて、熱硬化性樹脂が用いられた複合磁性体は、硬化状態のものを重ね、熱プレスしても密着しにくい。このため、半硬化状シート物を最終製品の厚さに応じて製造する必要があり、効率的に製造できないという問題があった。
そこで、本発明は、効率的に製造でき、かつ十分な柔軟性と耐リフロー性とを両立できる複合磁性体を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一般に、高耐熱性のエンジニアリングプラスチックスは、電磁波抑制機能を得るために軟磁性金属粉末の充填量を多くすると、成形体が脆くなったり、柔軟性が損なわれ、満足できる複合磁性体を得ることが困難である。他方、耐熱性の低い熱可塑性樹脂の中には、軟磁性金属粉末の充填量を多くすることができるものがあるが、これにより得られる複合磁性体の耐熱性は不十分となる。
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の架橋性官能基を有するアクリル共重合体と、フェノ−ル樹脂と、マレイミド基を2個以上含有する化合物とを特定の比率で配合することで、電磁波抑制機能を損ねることなく、十分な柔軟性と耐リフロー性、および、150℃での長期耐熱信頼性とを両立でき、かつ、半硬化状シート物を重ね、熱処理を施して積層することで、任意の厚さの複合磁性体を効率的に製造できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明の複合磁性体は、(A)成分:エポキシ基を有するアクリル共重合体と、(B)成分:フェノ−ル樹脂と、(C)成分:下記式で示されるマレイミド基を2個以上含有する化合物(1)および化合物(2)とを含有し、前記(A)成分のエポキシ価が0.03〜0.5eq/kgである樹脂組成物中に、軟磁性金属粉末が分散されていることを特徴とする。
【0011】
【化1】
【0012】
【化2】
【0013】
前記(A)成分は、ガラス転移点温度が−30〜40℃の架橋性官能基を有するアクリル共重合体であることが好ましく、重量平均分子量が10万〜300万であることがさらに好ましい。架橋性官能基は、ポリマー側鎖中に有していても、ポリマー鎖末端に有していてもよく、架橋性官能基としては、エポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基等が挙げられるが、エポキシ基が好ましい。
【0014】
前記(B)成分は、レゾール型のアルキルフェノールを含むフェノ−ル樹脂であることが好ましく、レゾール型のフェノール樹脂とノボラック型のフェノール樹脂とを併用することがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合磁性体によれば、効率的に製造でき、十分な柔軟性、および、150℃長期耐熱信頼性と耐リフロー性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(複合磁性体)
本発明の複合磁性体は、樹脂組成物中に軟磁性金属粉末が分散されたものであり、例えば、シート状に成形されたものである。
【0017】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、(A)成分:架橋性官能基を有するアクリル共重合体と、(B)成分:フェノ−ル樹脂と、(C)成分:下記式で示されるマレイミド基を2個以上含有する化合物(1)および化合物(2)とを含有するものである。
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
複合磁性体中の樹脂組成物の含有量は、2〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。上記下限値未満であると、軟磁性金属粉末のバインダーとしての機能が損なわれ、複合磁性体の成形性が損なわれるおそれがあり、上記上限値超であると、複合磁性体の電磁波制御性能が不十分になるおそれがある。
【0021】
≪(A)成分:架橋性官能基を有するアクリル共重合体≫
(A)成分は、架橋性官能基を有するアクリル共重合体であり、架橋性官能基は、ポリマー側鎖中に有していても、ポリマー鎖末端に有していてもよい。架橋性官能基としては、エポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基等が挙げられるが、エポキシ基が好ましく、エポキシ基を有するアクリル酸エステル(メタクリル酸エステルも含む、以下同様)とアクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸エステルも含む、以下同様)を主成分とし、必要に応じてエチレン、アクリロニトリル、スチレン等を含む共重合体である。アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル(メタクリル酸メチルも含む、以下同様)、アクリル酸エチル(メタクリル酸エチルも含む、以下同様)、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル(メタクリル酸ブチルも含む、以下同様)、アクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ウンデシル、アクリル酸ラウリル、等の単量体および、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アリルアルコール等の水酸基を有する単量体があげられる。これらの中から、1種類または2種類以上を選択して使用できる。中でも、複合磁性体の柔軟性を考慮するとアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシルが好ましい。エポキシ基を有するアクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルが挙げられる。エポキシ基の含有量としては、エポキシ価で0.03〜0.5eq/kgが好ましく、0.05〜0.4eq/kgがより好ましく、0.07〜0.3eq/kgがさらに好ましい。エポキシ価が、下限値未満であると、耐リフロー性の向上が図りにくく、上記上限値超であると、柔軟性が低下する傾向にある。
【0022】
(A)成分は、1種類単独で用いても、2種類以上を併用しても良い。
架橋性官能基を有するアクリル共重合物としては、高圧ラジカル重合により合成されたもの、乳化重合により合成されたもの等が例示されるが、副生成物の発生が少なく、乳化剤等の添加の必要のない高圧ラジカル重合により合成されたものが好ましい。高圧ラジカル重合の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
架橋性官能基を有するアクリル共重合体のガラス転移点温度は−30〜40℃であることが好ましく、−25〜30℃がより好ましく、−20〜20℃がさらに好ましい。ガラス転移点温度が下限値未満であると、耐リフロー性の向上が図りにくく、上記上限値超であると、柔軟性が低下したり、半硬化状シート物同士を積層しにくくなることにより、複合磁性体の製造作業性が低下したりするおそれがある。
ガラス転移点温度は、JIS K7121に準拠して、示差熱分析装置(セイコーインスツル株式会社製)を用いて測定される値である。
架橋性官能基を有するアクリル共重合体の重量平均分子量は10万〜300万であることが好ましく、30万〜200万がより好ましく、50万〜150万がさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であると、複合磁性体の熱安定性が良好になり、耐リフロー性がより高まる。加えて、重量平均分子量が上記範囲内であると、溶剤溶解性の向上、溶融粘度の低下により、磁性体塗料の加工性、接着性が良好となる。重量平均分子量が上記下限値未満であると、樹脂組成物の耐熱性が低下し、耐リフロー性が低下するおそれがある。また、半硬化状シート物における溶融粘度が低下し、後述する製膜工程で磁性体塗料の流れ出しが多くなり、加工性を低下させるおそれがある。重量平均分子量が上記上限値超であると、後述する塗料調製工程で、溶剤への溶解性が低下したり、後述する製膜工程で、磁性体塗料の流動性が低下し、製膜が困難になったり、半硬化状シート物同士を積層しにくくなったりして、複合磁性体の製造効率が低下するおそれがある。
ガラス転移点温度は、JIS K7252に準拠して、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(日本分光株式会社製)を用いて測定される値である。
樹脂組成物の(A)成分の含有量は、(A)成分/[(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、0.1〜10であることが好ましく、0.6〜8であることがより好ましく、2.3〜5であることがさらに好ましい。質量比が、上記下限値未満であると、半硬化状シート物、および、150℃超耐熱信頼性試験後のシート物の柔軟性が損なわれやすくなり、上記上限値超であると、耐リフロー性の向上がはかりにくくなる。
【0023】
≪(B)成分:フェノール樹脂≫
(B)成分は、フェノ−ル樹脂である。(B)成分としては、公知のものが使用できるが、半硬化状シート物を重ねて、熱プレスを施して積層する場合の温度、半硬化状シート物を硬化状態にする場合の温度を低温化でき、また、半硬化状シート物間の充分な接着力を得られることから、レゾール型アルキルフェノール樹脂であることが好ましく、レゾール型のフェノール樹脂とノボラック型のフェノール樹脂とを併用することがより好ましい。[レゾール型フェノール樹脂/ノボラック型フェノール樹脂]で表される質量比は、1〜20であることが好ましく、2〜10であることがさらに好ましい。質量比が上記下限値未満であると、ノボラック型フェノール樹脂は単独での硬化性が劣る為、硬化性が低下し、耐リフロー性の向上がはかりにくく、上記上限値超であると、半硬化状シート物の表面にタック性が発現し安くなり、半硬化状シート物を重ね合わせるときの作業性が低下する。レゾール型のアルキルフェノールを含むフェノ−ル樹脂としては、p−t−ブチルフェノールレゾール樹脂が挙げられ、ノボラック型のフェノール樹脂としてはp−t−ブチルフェノールノボラック樹脂、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、ポリp−ビニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。
【0024】
≪(C)成分:マレイミド基を2個以上含有する化合物≫
(C)成分は、マレイミド基を2個以上含有する化合物である。(C)成分は、前記式で示した化合物(1)と化合物(2)を併用することが必要であり、[化合物(2)/化合物(1)]で表される質量比が、1〜15であることが好ましく、1.3〜6.5であることがより好ましい。質量比が上記下限値未満であると、半硬化状シート物を重ねて、熱プレスを施して積層する場合の温度と、半硬化状シート物を硬化状態にする場合の温度が高温になり、エネルギー効率が悪くなり、上記上限値超であると、耐リフロー性の向上がはかりにくくなる。
樹脂組成物中の(B)成分の含有量は、(B)成分/[(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、0.1〜0.9であることが好ましい。質量比が、上記下限値未満であると、半硬化状シート物の柔軟性が損なわれやすくなり、上記上限値超であると、耐リフロー性の向上がはかりにくくなる。
【0025】
樹脂組成物中の必須成分である(A)〜(C)成分の合計量は、多ければ多いほど、本発明の効果を高められ、90質量%以上が好ましく、95質量%以上が好ましく、100質量%がさらに好ましい。
【0026】
≪樹脂組成物中の任意成分≫
樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、(A)〜(C)成分以外の樹脂(任意樹脂)、(C)成分の硬化剤(任意硬化剤)、硬化促進剤等の任意成分(以下、総じて樹脂組成物の任意成分という)を含有してもよい。
【0027】
任意樹脂としては、例えば、(A)成分以外の天然ゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの任意樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。樹脂組成物中の任意樹脂の含有量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、実質的に含まれない(1質量%以下)ことがさらに好ましい。
樹脂組成物の任意成分としては、樹脂組成物の硬化温度調整のための、(C)成分の硬化剤、(D)成分:ジアミン化合物が挙げられる。(D)成分は、下記式で示される化合物(3)または化合物(4)であることがより好ましい。
【0028】
【化5】
(式中、Rは2価の芳香族基を表す)
【0029】
【化6】
(式中、Rはプロピレン基またはフェノキシメチレン基を表し、nは0ないし7の整数を示す)
【0030】
化合物(3)としては、特に限定されず、例えば、3,3’−ジアミノビフェニル、3,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−(3,3’−ジアミノジフェニル)プロパン、2,2−(3,4’−ジアミノジフェニル)プロパン、2,2−(4,4’−ジアミノジフェニル)プロパン、2,2−(3,3’−ジアミノジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−(3,4’−ジアミノジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−(4,4’−ジアミノジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、1,3−ビス[1−(3−アミノフェニル)−1−メチルエチル]ベンゼン、1,3−ビス[1−(4−アミノフェニル)−1−メチルエチル]ベンゼン、1,4−ビス[1−(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルエーテル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルエーテル、3,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルエーテル、3,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルエーテル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルエーテル、1,4−ビス[1−(4−アミノフェニル)−1−メチルエチル−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(3−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0031】
化合物(4)は、溶剤に溶解しやすく、取り扱いが容易になるため、重量平均分子量200〜7,000であることが好ましい。
化合物(4)としては、特に限定されず、例えば、ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、アミノプロピル末端のジメチルシロキサン4量体、アミノプロピル末端のジメチルシロキサン8量体、ビス(3−アミノフェノキシメチル)テトラメチルジシロキサン等が挙げられ、これらを混合して用いてもよい。
(D)成分の含有量は、(C)成分のマレイミド基1モル当量に対して、(D)成分のアミノ基が0.01〜2.0モル当量であることが好ましく、0.1〜1.0モル当量であることがより好ましい。(D)成分の含有量が、上記下限値未満であると、半硬化状シート物を重ねて、熱プレスを施して積層する場合の温度と、半硬化状シート物を硬化状態にする場合の温度の調整が図りにくくなり、上記上限値超であると、耐リフロー性の向上がはかりにくくなる。
【0032】
任意硬化剤としては、ジアザビシクロオクタン、またはメチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5トリメチルヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−クミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−ミリスティルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−メトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−アリルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクテート、t−ヘキシルパーオキシネオデカネート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオヘキサネート、アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアリルカーボネート等の有機過酸化物、1,2−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール・トリメリット酸塩、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチル−5−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−フェニル−4−ベンジルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−イソプロピルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾリウムトリメリテート、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2−メチルイミダゾリウムイソシアヌール酸付加物、2−フェニルイミダゾリウムイソシアヌール酸付加物、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン−イソシアヌール酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ベンジル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、4,4’−メチレン−ビス−(2−エチル−5−メチルイミダゾール)、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ(シアノエトキシメチル)イミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、2−メチルイミダゾール・ベンゾトリアゾール付加物、1−アミノエチル−2−エチルイミダゾール、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N,N’−[2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル]−アジポイルジアミド、N,N’−ビス−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、N,N’−[2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル]ドデカンジオイルジアミド、N,N’−[2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル]エイコサンジオイルジアミド、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール・塩化水素酸塩等のイミダゾール類、トリフェニルフォスフィン等が挙げられる。
樹脂組成物中の任意硬化剤の含有量は、(A)成分+(B)成分100質量部に対し、0.1〜5質量部が好ましい
【0033】
<軟磁性金属粉末>
軟磁性金属粉末としては、従来、複合磁性体に用いられているものが挙げられ、例えば、純鉄粉末、Fe−Si系合金粉末、Fe−Si−Al系合金粉末、Fe−Ni系合金粉末、Fe−Ni−Mo系合金粉末、Fe−Ni−Mo−Cu系合金粉末、Fe−Co系合金粉末、Fe−Ni−Co系合金粉末、Fe−Cr系合金粉末、Fe−Cr−Si系合金粉末、Fe−Ni−Cr系合金粉末、あるいはFe−Cr−Al系合金粉末等が挙げられ、中でも、それ自体の保磁力が低い、PCパーマロイ粉末等のFe−Cr系合金粉末、Fe−Si系合金粉末、Fe−Si−Al系合金粉末、Fe−Co系合金粉末、Fe−Ni系合金粉末が好ましい。軟磁性金属粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、粉砕法又は化学処理を用いた湿式法により得られる。
軟磁性金属粉末としては、前記アトマイズ粉末をアトライタ又はビーズミルにより処理したものが好ましい。このような処理を施すことで、軟磁性金属粉末を所望する平均粒径又は扁平度とすることができる。
軟磁性金属粉末の平均粒径は、30〜200μmが好ましい。平均粒径が上記下限値未満であると磁気特性が低位となりやすく、平均粒径が上記上限値超であると所望する形状を維持しにくくなる。
平均粒径は、レーザー回析・散乱式粒子径・粒度分布測定装置により求められる値である。
【0034】
軟磁性金属粉末の扁平度は、30〜200が好ましい。扁平度が上記下限値未満であると、磁気特性が低位となりやすく、扁平度が上記上限値超であると所望する形状を維持しにくくなる。
ここで、「扁平度」の値は、L/dで表されるものである。Lは軟磁性金属粉末の平均径であり、軟磁性金属粉末を面方向からSEM観察し、長軸Lと短軸Sとを測定し、その平均値(L+S)/2で求められるものである。dは、軟磁性金属粉末の厚さであり、軟磁性金属粉末を樹脂に埋め込んで研磨し、粉末の厚さ方向を光学顕微鏡で観察して最大厚さdmaxと最小厚さdminとを測定して、その平均値(dmax+dmin)/2で求められるものである。
【0035】
複合磁性体中の軟磁性金属粉末の含有量は、樹脂組成物の含有量を勘案して決定でき、軟磁性金属粉末/樹脂組成物で表される質量比(以下、金属/樹脂比ということがある)が、好ましくは2〜12とされる。金属/樹脂比が上記下限値未満であると、電磁波抑制特性が低下するおそれがあり、金属/樹脂比が上記上限値超であると、樹脂組成物による軟磁性金属粉末の密着性が不十分になるおそれがある。
特に前記軟磁性金属粉末/[(A)成分+(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、2〜19であることが好ましい。
【0036】
<複合磁性体中の任意成分>
軟磁性金属粉末は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、難燃剤、難燃助剤、充填剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、可塑剤、抗菌剤、防黴剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤、安定剤、カップリング剤等の任意成分(以下、総じて、複合磁性体の任意成分という)を含有してもよい。
【0037】
難燃剤としては、従来公知の難燃剤が挙げられ、ハロゲンフリーと、耐リフロー性のさらなる向上との観点から、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムが挙げられる。
複合磁性体中の難燃剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して40〜150質量部が好ましい。上記下限値未満であると、十分な難燃性が得られないおそれがあり、上記上限値超であると軟磁性金属粉末の密着性が不十分となる場合がある。
【0038】
難燃助剤としては、従来公知の難燃助剤が挙げられ、ハロゲンフリーの観点から、例えば、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン及びリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
複合磁性体中の難燃助剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。上記下限値未満であると、十分な難燃性が得られないおそれがあり、上記上限値超であると耐熱性が低下するおそれがある。
複合磁性体は、平均粒径0.1〜3μmの水酸化アルミニウム又は/及び水酸化マグネシウムからなる難燃剤と、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、リン酸エステルから選ばれる少なくとも1種からなる難燃助剤とを含有することが好ましい。
複合磁性体は、前記難燃剤/[(A)成分+(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、0.4〜1.5であり、前記難燃助剤/[(A)成分+(B)成分+(C)成分]で表される質量比が、0.01〜0.1であることが好ましい。
【0039】
(製造方法)
本発明の複合磁性体の製造方法は、例えば、(A)〜(C)成分と軟磁性金属粉末とが溶剤に分散された磁性体塗料を得る工程(塗料調製工程)と、磁性体塗料を所望の厚さに塗布、乾燥して半硬化状シート物を得る工程(製膜工程)と、半硬化状シート物を加熱して硬化させる工程(硬化工程)とを有するものが挙げられる。
【0040】
磁性体塗料の調製方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、溶剤に(A)〜(C)成分と、必要に応じて樹脂組成物の任意成分とを添加し、攪拌して樹脂溶液とし、この樹脂溶液に軟磁性金属粉末と、必要に応じて複合磁性体の任意成分とを添加し、攪拌する方法が挙げられる。また、例えば、(A)〜(C)成分と、必要に応じて樹脂組成物の任意成分又は複合磁性体の任意成分とを溶剤に添加し、攪拌し、次いで、軟磁性金属粉末を添加し、攪拌する方法が挙げられる。
【0041】
塗料調製工程に用いられる溶剤としては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤、セロソルブアセテート、メチルセロソルブアセテート等のセロソルブ溶剤、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶剤、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶剤が挙げられる。
磁性体塗料中の溶剤の含有量は、磁性体塗料に求める粘度等を勘案して、適宜決定される。
【0042】
製膜工程は、従来公知の製膜方法を用いることができ、例えば、剥離性フィルムに、磁性体塗料を任意の厚さで塗布し、これを乾燥するものが挙げられる。
塗布方法としては、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いた方法が挙げられる。
半硬化状シート物の厚さは、特に限定されないが、例えば、50〜500μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。
【0043】
剥離性フィルムとしては、ポリプロピレンフィルム、フッ素樹脂系フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、紙及びこれらにシリコーン樹脂で剥離処理を施したもの(剥離処理フィルム)等が挙げられる。
剥離性フィルムの厚さは、特に限定されないが、1〜200μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。
剥離性フィルムは、ピール強度が0.01〜7.0g/cmが好ましい。上記下限値以上であれば、複合磁性体と剥離性フィルムとが容易に剥離せず、複合磁性体の取扱いが容易であり、上記上限値未満であれば、複合磁性体を剥離性フィルムから剥離する際に、欠損等を生ぜず、製造効率が高まる。
【0044】
乾燥方法は、剥離性フィルムに塗布された磁性体塗料中の溶剤を蒸発させ、樹脂組成物を半硬化状態にするものであれば特に限定されず、例えば、剥離性フィルムに塗布された磁性体塗料を任意の温度で加熱する方法が挙げられる。
製膜工程における加熱温度は、(A)成分、(C)成分や溶剤の種類等を勘案して決定できる。
製膜工程における加熱時間は、(A)成分、(C)成分や溶剤の種類等を勘案して決定できる。
半硬化状シート物は、乾燥後、直ちに硬化工程に供されてもよいし、仕掛品として保管されてもよい。
【0045】
硬化工程は、半硬化状シート物を加熱し、樹脂組成物を硬化させ、複合磁性体を得る工程である。
硬化方法は、従来、公知の硬化方法を用いることができ、例えば、任意の温度で加熱する方法、任意の圧力でプレスしながら任意の温度で加熱する方法が挙げられる。
硬化工程における加熱温度は、(A)成分及び(C)成分の種類等を勘案して決定できる。
硬化工程でプレスする場合、その圧力は、特に限定されないが、例えば、5〜30MPaとされる。
樹脂組成物が硬化状態とされた複合磁性体は、所望する寸法に切り出されて、製品化される。
【0046】
必要に応じて、硬化工程の前又は後に、剥離性フィルム上の半硬化状シート物又は複合磁性体の露出面に新たな剥離性フィルムを積層してもよい。こうして、複合磁性体の両面に剥離性フィルムが設けられることで、異物の付着等を防止できる。
【0047】
また、複合磁性体には、片面又は両面に耐熱粘着層が設けられていてもよい。耐熱粘着層が設けられていることで、複合磁性体を貼付対象に容易に固定できる。
耐熱粘着層を構成する粘着剤としては、従来公知のものが挙げられ、例えば、メチルフェニル系シリコーン粘着剤、付加反応型シリコーン粘着剤、過酸化物硫化型シリコーン粘着剤等が挙げられる。
【0048】
上述の通り、本発明によれば、(A)成分と(B)成分とを特定の比率で含有するため、柔軟性と耐リフロー性とを両立できる。
加えて、硬化剤として(C)成分を用いるため、半硬化状シート物を必要に応じて重ね、熱プレス等を施すことで、所望の厚さの複合磁性体の製品を効率的に製造できる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
Fe−Si−Al合金の溶湯をガスアトマイズして、平均粒径が100μmの球状粉末を得た。これをアトライターに入れて攪拌することにより、平均粒径50μm、厚さ1μm、扁平度50の軟磁性金属粉末を得た。
(A)成分:エポキシ価0.21eq/kg、ガラス転移点温度12℃、重量平均分子量85万のエポキシ基を有するアクリル共重合体(商品名:「テイサンレジンSG−P3(固形分15%)」、ナガセケムテックス社製)20質量部、(B)成分:p−t−ブチルフェノール型レゾールフェノール樹脂(商品名:「CKM−1282」、昭和高分子社製)1.67質量部、および、p−t−ブチルフェノールとBis−Aの共重合型ノボラックフェノール樹脂(商品名:「CKM−2400」:昭和高分子社製)0.67質量部、(C)成分:市販の前記式で示した化合物(1)1.00質量部、および、市販の前記式で示した化合物(2)1.67質量部、難燃剤:水酸化アルミニウム25質量部、難燃助剤:赤リン1.5質量部をテトラヒドロフラン10質量部に加え攪拌し、さらに上記軟磁性金属粉末200質量部を加え、攪拌して、磁性体塗料を得た。
【0050】
得られた磁性体塗料を、乾燥後の厚さが130μmになるように剥離処理フィルム(PET製)の剥離処理面に塗布し、熱風循環型乾燥機中にて150℃で2分間加熱し、半硬化状シート物を得た。得られた半硬化状シート物について、積層性を評価した。さらに軟磁性金属粉末の配向性を高めるために、半硬化状シート物を熱圧プレス機にて180℃、60分間、20MPaでプレスして、厚さ99μmの複合磁性体を得た。得られた複合磁性体について、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表1に示した。
【0051】
(実施例2)
平均粒径30μm、厚さ1μm、扁平度30の軟磁性金属粉末を使用した以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表1に示した。
【0052】
(実施例3)
平均粒径50μm、厚さ2μm、扁平度25の軟磁性金属粉末を使用した以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、積層性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表1に示した。
【0053】
(実施例4)
平均粒径49μm、厚さ1μm、扁平度30のFe−Si合金の軟磁性金属粉末を使用した以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ98μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表1に示した。
【0054】
(実施例5)
平均粒径52μm、厚さが1μm、扁平度52のFe−Ni合金の軟磁性金属粉末を使用した以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ98μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表1に示した。
【0055】
(実施例6)
軟磁性金属粉末を125質量部とした以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表2に示した。
【0056】
(実施例7)
(A)成分をエポキシ価0.07eq/kg、ガラス転移点温度−14℃、重量平均分子量70万のエポキシ基を有するアクリル共重合体を20質量部、テトラヒドロフランを100質量部とした以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ103μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表2に示した。
【0057】
(実施例8)
(A)成分をエポキシ価0.21eq/kg、ガラス転移点温度12℃、重量平均分子量120万のエポキシ基を有するアクリル共重合体(商品名:「テイサンレジン(固形分15%)」)20質量部とした以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表2に示した。
【0058】
(実施例9)
(B)成分をp−t−ブチルフェノール型レゾールフェノール樹脂(CKM−1282:昭和高分子社製)2.34質量部とした以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表2に示した。
【0059】
(実施例10)
(B)成分をp−t−ブチルフェノール型レゾールフェノール樹脂(商品名:「CKM−1282」、昭和高分子社製)1.34質量部p−t−ブチルフェノールとBis−Aの共重合型ノボラックフェノール樹脂(CKM−2400:昭和高分子社製)1.00質量部とした以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表2に示した。
【0060】
(実施例11)
(C)成分を市販の前記式で示した化合物(1)0.50質量部、市販の前記式で示した化合物(2)2.17質量部とした以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表3に示した。
【0061】
(実施例12)
(D)成分として1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン0.08質量部を加えた以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表3に示した。
【0062】
(実施例13)
(D)成分として1,4−ジアミノベンゼン0.08質量部を加えた以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表3に示した。
【0063】
(比較例1)
(A)〜(C)成分に換えて、塩素化ポリエチレン(塩素化PE)25質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表4に示した。
【0064】
(比較例2)
(A)成分を用いず、難燃剤:水酸化アルミニウム5質量部、難燃助剤:赤リン0.9質量部、軟磁性金属粉末40質量部とした以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表4に示した。
【0065】
(比較例3)
(B)成分を用いず(C)成分を5質量部に代えた以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表4に示した。
【0066】
(比較例4)
(C)成分を用いず(B)成分を5質量部に代えた以外は、実施例1と同様にして、半硬化状シート物及び厚さ100μmの複合磁性体を得、積層性、透磁率、耐リフロー性、150℃長期耐熱信頼性、柔軟性、内部応力緩和性について評価した。これらの評価結果を表4に示した。
【0067】
(評価方法)
<透磁率>
各例の複合磁性体について、実数項及び虚数項を求め、実数項80以上かつ虚数項20以上のものを合格「○」とし、実数項80未満又は虚数項20未満のものを不合格「×」と評価した。
【0068】
≪透磁率の実数項≫
各例の複合磁性体を外径7mm×内径3mmのリング状に打ち抜き、これに12ターンの巻き線を施して試験片とした。この試験片について、アジレントテクノロジー社製のインピーダンス測定器「プレシジョンインピーダンスアナライザーHP4294A」を用い、1MHzにおけるインピーダンスにより算出した。
【0069】
≪透磁率の虚数項≫
前記≪透磁率の実数項≫で作製した試験片について、アジレントテクノロジー社製のSパラメータ測定器「ネットワークアナライザーE5071C」を用い、1MHz〜10GHzの範囲において損失項を測定し、その最大値を虚数項とした。
【0070】
≪耐リフロー性≫
各例の複合磁性体を50mm長×50mm幅の試験片とした。この試験片について、JIS C−5012「プリント配線板試験方法」10.4.1「はんだフロート法」に準拠し、はんだリフロー試験(260℃で10秒間×2回)を施した。はんだリフロー試験後の試験片を肉眼で観察し、下記評価基準に従って評価した。
【0071】
[評価基準]
◎:リフロー試験後に、外観に全く変化が認められない。
○:リフロー試験後に、外観に殆ど変化が認められない。
△:リフロー試験後に、歪みが認められるものの、膨れ、粉化、ひび及び割れは認められない。
×:リフロー試験後に、膨れ、粉化、ひび又は割れが認められる。
【0072】
≪150℃長期耐熱信頼性≫
各例の複合磁性体を100mm長×100mm幅の試験片とした。この試験片について、150℃長期耐熱信頼性試験(150℃で2,000時間)を施した。150℃長期耐熱信頼性試験前後の試験片について、マイクロメーターを使用して、厚さ変化を測定し、下記評価基準に従って評価した。
【0073】
[評価基準]
◎:厚さ変化が5%以内。
○:厚さ変化が6〜10%。
△:厚さ変化が11〜15%。
×:厚さ変化が15%超。
【0074】
≪柔軟性≫
各例の複合磁性体を50mm長×50mm幅の試験片とした。この試験片について、JIS C−5012「プリント配線板試験方法」10.4.1「はんだフロート法」に準拠し、はんだリフロー試験(260℃で10秒間×2回)、および、150℃長期耐熱信頼性試験(150℃で2,000時間)を施した。はんだリフロー試験前後、および、150℃長期耐熱信頼性試験前後の試験片について、株式会社東洋精機製作所製、MIT耐揉疲労試験機、型番:DA、試験条件を屈曲速度175回/分、屈曲角度135°、荷重4.9Nとして、屈曲させた。屈曲後の試験片を肉眼で観察し、下記評価基準に従って評価した。
【0075】
[評価基準]
◎:屈曲部に白化、ひび及び割れが全く認められない。
○:屈曲部にひび及び割れは認められないが、白化が認められる。
△:屈曲部にひび又は割れが認められる。
×:屈曲部で切断された。
【0076】
≪内部応力緩和性≫
各例の複合磁性体を市販のガラスエポキシ−プリント配線板に150℃で貼り合わせ、その後、熱圧プレス機にて150℃、20MPaでプレスして試験片とした。この試料片について、150℃×2時間、−40℃×2時間を1サイクルとし、10サイクルの熱サイクル試験を行った。熱サイクル試験後の試験片を肉眼で観察し、下記評価基準に従って評価した。
【0077】
[評価基準]
◎:熱サイクル試験後に、外観に全く変化が認められない。
○:熱サイクル試験後に、外観に殆ど変化が認められない。
△:熱サイクル試験後に、歪みが認められるものの、膨れ、粉化、ひび及び割れは認められない。
×:熱サイクル試験後に、膨れ、ひび又は割れが認められる。
【0078】
≪積層性≫
各例の半硬化状シート物を3枚重ね合わせ、150℃、20MPaで10秒間の熱プレスを施した。熱プレス後、複合磁性体を目視で観察し、密着状態を下記評価基準に従って評価した。
【0079】
[評価基準]
◎:各層の境界が認められず、全体として1つの複合磁性体となっている。
○:各層の境界が認められるが、各層間が密着していて剥離しない。
△:各層の境界が認められ、手指で各層を剥離できる。
×:各層が剥離し分離している(効率的な製造が不可能な状態となる)。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1〜13は、いずれも透磁率が「○」であり、電子機器等から発生する電磁波ノイズを十分に吸収できるものであった。加えて、実施例1〜13は、内部応力緩和性が「◎」であり、長期の使用においても品質劣化が生じにくいものであった。さらに、実施例1〜13は、耐リフロー性、柔軟性、積層性及び150℃長期耐熱信頼性が「◎」であった。
樹脂組成物を塩素化ポリエチレンとした比較例1と(C)成分を用いなかった比較例4は、耐リフロー性が「×」であり、はんだリフロー後には、変形が著しく、柔軟性を評価できなかった。
(A)成分を用いなかった比較例2は、柔軟性、積層性、内部応力緩和性が「×」であり、複合磁性体のシート化および積層化が困難であった。
(B)成分を用いなかった比較例3は、積層性が「×」であり、高い製造効率で複合磁性体を製造することができなかった。
これらの結果から、本発明を適用することで、十分な柔軟性を有すると共に、リフローはんだ付けにおいて形態不良を生じず、高い製造効率で製造できる複合磁性体を得られることが判った。