特許第6290595号(P6290595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6290595アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290595
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/22 20060101AFI20180226BHJP
   C11D 9/12 20060101ALI20180226BHJP
   C11D 9/06 20060101ALI20180226BHJP
   C11D 9/10 20060101ALI20180226BHJP
   C11D 9/14 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C23G1/22
   C11D9/12
   C11D9/06
   C11D9/10
   C11D9/14
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-228544(P2013-228544)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-86463(P2015-86463A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】荻原 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】松川 真彦
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−160527(JP,A)
【文献】 特開昭52−090433(JP,A)
【文献】 特表2014−522889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00−5/06
C23C 22/00−22/86
C23F 1/00−4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性であり、
炭酸ジルコニウム塩をジルコニウム原子換算で10質量ppm以上含有し、
前記炭酸ジルコニウム塩は、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム及び炭酸ジルコニウムナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であるアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液。
【請求項2】
アルカリ金属水酸化物、無機リン酸アルカリ金属塩、珪酸アルカリ金属塩及び炭酸アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも一種のアルカリビルダーを0.05〜50.0g/L含有し、
前記炭酸ジルコニウム塩をジルコニウム原子換算で10〜5,000質量ppm含有し、
pHは10〜12である請求項1に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液を30〜80℃に加熱して、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に2秒以上接触させるアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単にアルミニウムという場合がある)から製造される飲料缶等のアルミニウム缶は、ドローイング・アンド・アイアニング加工(以下、DI加工という)と呼ばれる引き抜き加工等によって製造される。DI加工によって製造されたアルミニウム缶の表面には、引き抜き時に削られて発生したアルミニウム粉末(以下、スマットという)や潤滑油が付着している。
【0003】
通常、アルミニウム缶には、化成処理及び塗装処理がなされる。強固な化成皮膜及び塗膜を形成するためには、化成処理前のアルミニウム缶の表面に付着したスマットや潤滑油を十分に除去した上で、アルミニウム缶の表面に形成されている酸化皮膜をエッチングによって除去する必要がある。
【0004】
アルミニウム缶を表面処理する際には、アルミニウム缶の表面を適度にエッチングすることのできる、酸性の洗浄液(以下、酸洗浄液という場合がある)を用いるのが一般的である。しかし、酸洗浄液でアルミニウム缶を洗浄する場合には、エッチングの進行を速めるために、酸洗浄液を加熱する必要があるので、エネルギーコストが高くなる。また、酸洗浄液はステンレス等から構成されている設備を腐食させてしまう場合がある。
【0005】
これらの問題に対して、酸洗浄液よりも低温でアルミニウムの表面をエッチングすることが可能であり、且つ、設備を腐食させる蓋然性の低いアルカリ性の洗浄液(以下、アルカリ洗浄液という場合がある)が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−173785号公報
【特許文献2】特開2005−97726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、アルミニウムをアルカリ洗浄液で処理した場合には、アルミニウムがエッチングされる際に生成する水酸化アルミニウムが、皮膜を形成してアルミニウム表面に残存する。アルミニウム表面の水酸化アルミニウムの皮膜上に、化成皮膜及び塗膜を形成すると、水酸化アルミニウムの皮膜が脆いことから、その上に形成された化成皮膜や塗膜が水酸化アルミニウムごと剥離してしまう場合がある。
【0008】
特許文献1及び2では、塗膜の密着性について言及されているが、水酸化アルミニウムの皮膜と、その上に形成される化成皮膜や塗膜の剥離については言及されておらず、水酸化アルミニウムの皮膜に起因する化成皮膜や塗膜の剥離について十分に抑制できるものではない。このように、化成皮膜や塗膜をアルミニウム基材に十分に密着させることのできるアルカリ洗浄液については見出されていないのが現状である。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の基材の表面を十分に洗浄できる上に、洗浄後の基材の表面に化成皮膜及び塗膜を十分に密着させることのできる、アルカリ洗浄液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アルカリ性であり、ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で10質量ppm以上含有するアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液に関する。
【0011】
前記アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液は、アルカリ金属水酸化物、無機リン酸アルカリ金属塩、珪酸アルカリ金属塩及び炭酸アルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも一種のアルカリビルダーを0.05〜50.0g/L含有し、前記ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で10〜5,000質量ppm含有し、pHは10〜12であることが好ましい。
【0012】
前記ジルコニウム化合物は、炭酸ジルコニウム塩であることが好ましい。
【0013】
本発明は、前記アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液を30〜80℃に加熱して、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に2秒以上接触させるアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の基材の表面を十分に洗浄できる上に、洗浄後の基材の表面に化成皮膜及び塗膜を十分に密着させることのできる、アルカリ洗浄液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液>
本実施形態に係るアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液(以下、単に洗浄液という場合がある)は、アルカリ性であり、ジルコニウム化合物を含有する。
本実施形態に係る洗浄液により処理されるアルミニウム又はアルミニウム合金としては、アルミニウム、アルミニウム−銅合金、アルミニウム−マンガン合金、アルミニウム−珪素合金、アルミニウム−マグネシウム合金、アルミニウム−マグネシウム−珪素合金、アルミニウム−亜鉛合金、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム合金等を挙げることができる。本実施形態に係る洗浄剤は、板、棒、缶等の任意の形状のアルミニウムの処理に適用できる。特に、本実施形態に係る洗浄剤は、アルミニウム缶の洗浄に好適に適用できる。より具体的には、本実施形態に係る洗浄剤は、飲料缶に頻用されている3000系合金等の洗浄に好適に用いられる。
【0017】
洗浄液は、アルカリ性であり、pHが10〜12であることが好ましい。洗浄液のpHが10未満であると、アルミニウム缶の表面のエッチングの進行が遅くなる傾向にあり、十分にエッチングを進行させるために洗浄液による処理時間を長くする必要がある。洗浄液のpHが12よりも高いと、アルミニウム缶の表面のエッチングの進行が速くなり、エッチング量の制御が難しくなる傾向にある。
【0018】
洗浄液は、アルカリビルダーを含有するが、アルカリビルダーとしてはアルカリ金属水酸化物、無機リン酸アルカリ金属塩、珪酸アルカリ金属塩及び炭酸アルカリ金属塩を挙げることができる。ここで、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が挙げられ、無機リン酸アルカリ金属塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム等が挙げられ、珪酸アルカリ金属塩としては、メタ珪酸ナトリウム等が挙げられ、炭酸アルカリ金属塩としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等が挙げられる。これら化合物の1種を選択してアルカリビルダーとしてもよいし、2種以上の化合物を組み合わせてアルカリビルダーとしてもよい。
【0019】
洗浄液は、アルカリビルダーを0.05〜50.0g/L含有することが好ましい。洗浄液のアルカリビルダーの含有量が、0.05g/L未満である場合にはアルミニウム表面のエッチングが十分に進行し難い傾向にあり、50.0g/Lを超える場合にはアルミニウム表面のエッチングの制御が難しくなる傾向にある。洗浄液のアルカリビルダーの含有量は1.0〜10.0g/Lであることがより好ましい。アルカリビルダーとして複数の化合物を組み合わせて使用する場合は、それら化合物の合計濃度が前記範囲内となるように調整する。
【0020】
洗浄液は、ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で10質量ppm以上含有する。洗浄液の含有するジルコニウム化合物によって、洗浄液がアルカリ性であることからアルミニウム表面に形成されてしまう水酸化アルミニウムの皮膜は、ジルコニウムとアルミニウムの錯体として洗浄液中に溶解される。このように、洗浄液がジルコニウム化合物を含有することで、ジルコニウムとアルミニウムの錯体が生成されるので、化成皮膜及び塗膜の剥離の原因となる水酸化アルミニウムの皮膜の形成を抑えることができる。水酸化アルミニウムの皮膜の形成を抑えることができれば、化成皮膜及び塗膜の剥離を防止できる。洗浄液のジルコニウム化合物の含有量がジルコニウム原子換算で10質量ppm未満の場合には、化成皮膜及び塗膜の剥離の原因となる水酸化アルミニウムの皮膜の形成を抑えるのが難しくなる。洗浄液のジルコニウム化合物の含有量は、ジルコニウム原子換算で5,000質量ppm以下であることが好ましい。ジルコニウム原子換算で5,000質量ppmを超える量のジルコニウム化合物を含有する洗浄液は、浴安定性が低下する傾向にある。
【0021】
洗浄液の含有するジルコニウム化合物としては、炭酸ジルコニウム塩を挙げることができる。炭酸ジルコニウムを用いれば、ジルコニウムイオンをアルカリ性の洗浄液に溶解させるのが容易になる。炭酸ジルコニウム塩としては、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム等が例示される。先に、洗浄液に炭酸ジルコニウム塩以外のジルコニウム化合物を添加して、その後に炭酸塩を添加することで、洗浄液にジルコニウムイオンを溶解させるようにしてもよい。
【0022】
洗浄液は、界面活性剤を含有することが好ましい。
界面活性剤は、主として、アルミニウムの表面の油脂成分や潤滑剤を除去する機能を有する。また、除去された油脂成分や潤滑剤成分が、洗浄液中に浮遊することを防止する機能も有する。すなわち、油脂成分や潤滑剤成分が洗浄液中で浮遊してしまった場合には、アルミニウム缶の表面に再吸着してしまうおそれがあるが、洗浄液に界面活性剤を含有させることにより、この問題を回避できる。
【0023】
界面活性剤としては、ノニオン系、カチオン系、アニオン系の界面活性剤のいずれを用いてもよく、これらを二種以上混合して用いてもよい。これらのうち、洗浄液の他の成分と親和性が高いことからノニオン系の界面活性剤を用いるのが好ましく、例えばエトキシ化アルキルフェノール系、炭酸水素誘導体、アビエチン酸誘導体、第1級エトキシ化アルコール、変性ポリエトキシ化アルコール等が好ましく用いられる。
【0024】
洗浄液における界面活性剤の含有量は、0.1〜10.0g/Lであることが好ましい。洗浄液における界面活性剤の含有量が0.1g/L未満である場合には、洗浄性、特に脱脂性が低下する傾向にあり、10.0g/Lを超える場合には、洗浄液が発泡して処理が困難となるうえ、廃水処理に負荷がかかる傾向にある。
【0025】
洗浄液は、キレート剤を含有することが好ましい。
キレート剤は、主として、アルミニウムの表面におけるエッチングによって洗浄液に溶出したアルミニウムイオンを捕捉して洗浄液中に保持する機能を有する。また、エッチングによって洗浄液に溶出したアルミニウムイオンの濃度が高くなることで、アルミニウムが析出してしまうおそれがあるが、洗浄液にキレート剤を含有させることにより、この問題を回避できる。
【0026】
キレート剤としては、アルミニウムイオンを良好に保持することができることから、複数のカルボキシル基を有する化合物(多価カルボン酸)やアミノ酸を用いることが好ましい。キレート剤として用いられる多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸及びフマール酸等のジカルボン酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、クエン酸及び酒石酸等のヒドロキシカルボン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)及びニトリロトリ酢酸、3−ヒドロキシー2,2‘―イミノジコハク酸、メチルグリシン二酢酸、ジエチレントリアミノ5酢酸、ヒドロオキシエチルエチレンジアミン3酢酸等のアミノカルボン酸、ポリアミノカルボン酸、及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。アミノ酸としては、各種天然アミノ酸及び合成アミノ酸の他、1分子中に少なくとも1つのアミノ基及び少なくとも1つの酸基(カルボキシル基やスルホン酸基等)を有するアミノ酸を広く利用することができる。このなかでも、アラニン、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、フェニルアラニン、アスパラギン、アルギニン、グルタミン、システイン、ロイシン、リジン、プロリン、セリン、トリプトファン、バリン、及び、チロシン、ならびに、これらの塩からなる群から選択される少なくとも一種を好ましく使用することができる。また、アミノ酸に光学異性体が存在する場合、L体、D体、ラセミ体を問わず、いずれも好適に使用することができる。また、これらのうち二種以上を混合してキレート剤として用いてもよい。
【0027】
洗浄液におけるキレート剤の含有量は、0.1〜10.0g/Lであることが好ましい。洗浄液におけるキレート剤の含有量が0.1g/L未満である場合には、洗浄液のアルミニウムイオンを捕捉して洗浄液中に保持するが能力が低下する傾向にあり、10.0g/Lを超える場合には、廃水処理に負荷がかかる傾向にある。
【0028】
洗浄液は、必要に応じて上述の成分以外の成分、例えば、消泡剤、抗菌剤等を含有してもよい。また、本発明の洗浄剤は溶媒として水を含有するが、必要に応じて、油や有機溶媒を含有させてもよい。
【0029】
<アルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法>
本実施形態に係るアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法(以下、単に洗浄方法という場合がある)では、上述の洗浄液を用いてアルミニウム又はアルミニウム合金を洗浄する。
本実施形態に係る洗浄方法によって、アルミニウム表面の油脂成分は除去され、アルミニウム表面がエッチングされる。また、DI加工後のアルミニウム缶を洗浄する場合であれば、潤滑剤も除去される。
【0030】
本実施形態に係る洗浄方法において、アルミニウム表面のエッチング量を調整するためには、洗浄液のpH、洗浄液の温度、洗浄液をアルミニウムの表面に接触させる時間(洗浄時間)をコントロールする必要がある。より詳しくは、洗浄液のpHを高くすることで、アルミニウム表面のエッチング量を増加させることができ、逆に低くすることでエッチング量を減少させることができる。また、洗浄時間を長くすること、あるいは、洗浄液の温度を高くすることでもアルミニウム表面のエッチング量は増加させることができ、逆に、洗浄時間を短く、あるいは、洗浄液の温度を低くすることでエッチング量を減少させることができる。
【0031】
より具体的には、本実施形態に係る洗浄方法では、上述の洗浄液を30〜80℃に加熱して、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に2秒以上接触させることで、アルミニウム表面のエッチング量を最適化する。
【0032】
本実施形態に係る洗浄方法におけるアルミニウムを洗浄する温度(洗浄液を加熱する温度)が、30℃よりも低いとアルミニウム表面のエッチングが十分に進行し難い傾向にあり、80℃よりも高いと過度にエッチングが進行してしまう傾向にある。
【0033】
本実施形態に係る洗浄方法における洗浄液をアルミニウムの表面に接触させる時間(洗浄時間)が、2秒よりも短いとアルミニウム表面のエッチングが十分に進行し難い傾向にある。洗浄時間は、5〜40秒であることがより好ましい。
【0034】
本実施形態に係る洗浄方法におけるアルミニウムの処理方法は、特に限定されないが、スプレー法や浸漬法が挙げられる。
【0035】
<化成処理及び塗装処理>
本実施形態に係るアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液によって洗浄した後のアルミニウムは、従来公知の方法に従って水洗後、リン酸塩系やジルコン系の化成処理液による化成処理に供される。
化成処理後のアルミニウムは、必要に応じて水洗を行った後に、従来公知の方法に従って塗装処理に供されて塗膜が形成されるか、ラミネート処理により塗膜が形成される。前記塗装処理に用いることのできる塗料としては、エポキシ系水性塗料、エポキシ系溶剤塗料、塩ビ系溶剤塗料、ポリエステル系塗料等が挙げられる。
【0036】
本実施形態に係る洗浄液よって洗浄されたアルミニウムは、表面に形成される水酸化アルミニウムの皮膜が、ジルコニウム化合物を含有しないアルカリ洗浄液によって洗浄した場合に比べて薄いことから、剥離し難い塗膜(化成皮膜及び塗膜)を形成することができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りがない限り「ppm」は質量基準である。
【0038】
<実施例1>
アルミニウム缶として、JISA3004合金のアルミニウム板をDI加工して得られた、潤滑油とスマットが付着した蓋なし容器(直径66mm、高さ124mm)を準備した。このアルミニウム缶を、ジルコニウム化合物として炭酸ジルコニウムアンモニウムをジルコニウム原子換算で100質量ppm、アルカリビルダーとして重炭酸ナトリウム10g/L及び水酸化ナトリウム1.5g/L、キレート剤としてグルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びEDTA・4Naをそれぞれ2g/L、界面活性剤としてLA−375(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、株式会社ADEKA製)4g/L及びLG−109(ポリエーテル型消泡剤、株式会社ADEKA製)0.5g/L、を含有し、水酸化ナトリウムでpHを10.7に調整した洗浄剤で洗浄した。
洗浄液によるアルミニウム缶の洗浄は、処理温度55℃で15秒間スプレー処理することで行った。次いで、アルミニウム缶を、10秒間水道水で洗浄し、更に、ジルコン系化成処理剤(「アルサーフST550」、pH2.4、日本ペイント株式会社製)を処理温度40℃で8秒間スプレー処理することで、化成処理した。化成処理後、アルミニウム缶を、10秒間水道水で洗浄し、続いて、10秒間脱イオン水でスプレー水洗し、195℃で3分間乾燥させた。
【0039】
<実施例2〜16>
表1に示したジルコニウム化合物を、表1に示した量含有させて、水酸化ナトリウム又は炭酸ガスにて表1に示したpHに調整した以外は実施例1と同様に洗浄剤を調製した。それぞれ調製した洗浄剤を用いて、表1に示した処理温度と処理時間で、アルミニウム缶をスプレー処理する以外は実施例1と同様の工程でアルミニウム缶を処理した。
【0040】
<実施例17>
アルカリビルダーとして重炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムに代えて、炭酸ナトリウム10g/L及びリン酸三ナトリウム1.5g/Lを用いた以外は実施例3と同様に洗浄剤を調製し、アルミニウム缶を処理した。
【0041】
<実施例18>
キレート剤としてグルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びEDTA・4Naに代えて、マロン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム及びグリシンをそれぞれ2g/Lを用いた以外は実施例3と同様に洗浄剤を調製し、アルミニウム缶を処理した。
【0042】
<実施例19>
界面活性剤としてLA−375に代えて、エマルゲンMS−110(ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、花王株式会社製)2g/Lを用いた以外は実施例3と同様に洗浄剤を調製し、アルミニウム缶を処理した。
【0043】
<比較例1〜4>
比較例1はジルコニウム化合物を添加しないこと以外は実施例1と同様に洗浄剤を調製し、アルミニウム缶を処理した。
比較例2はジルコニウム化合物を添加しないこと以外は実施例12と同様に洗浄剤を調製し、アルミニウム缶を処理した。
比較例3はジルコニウム化合物を添加しないこと以外は実施例14と同様に洗浄剤を調製し、アルミニウム缶を処理した。
比較例4はジルコニウム化合物を添加しないこと以外は実施例15と同様に洗浄剤を調製し、アルミニウム缶を処理した。
【0044】
<参考例1>
酸洗浄液(「サーフクリーナーNHC260」、日本ペイント株式会社製)を用いて、表1に示した処理温度と処理時間で、アルミニウム缶をスプレー処理する以外は実施例1と同様の工程でアルミニウム缶を処理した。
【0045】
[評価]
(a)脱スマット性
実施例、比較例及び参考例で得られたアルミニウム缶の表面に透明粘着テープを密着し、次にこれを剥離して白色台紙上に貼り付け、テープ張り付け面の白さを他の台紙部分と比較した。台紙上に貼り付けたテープ張り付け面の汚染の程度に応じて以下の4段階で評価した。結果を表1に示す。なお、「B」以上の評価であれば、問題ない脱スマット性を有するアルミニウム缶であるものと判断できる。
A:汚染なし
B:痕跡程度のごく僅かな汚染
C:僅かな汚染
D:多大な汚染
【0046】
(b)水濡れ性
実施例、比較例及び参考例の、化成処理後のスプレー水洗の直後(乾燥前)のアルミニウム缶を3回振って水切りし、容器を上向きに静置して30秒後の容器外表面の水ぬれ面積(%)を目視にて測定し、以下の3段階で評価した。結果を表1に示す。
A:水濡れ面積90%以上
B:水濡れ面積50%以上90%未満
C:水濡れ面積50%未満
【0047】
(c)耐沸水黒変性(耐食性)
実施例、比較例及び参考例で得られたアルミニウム缶を、沸騰水道水中に30分間浸漬した後に目視し、外観を以下の3段階で評価した。結果を表1に示す。
A:外観の変化なし
B:部分的に黒変
C:全面黒変
【0048】
(d)塗膜密着性
上述したアルミニウム缶の外面にSUS304材(10mm×5mm×2mm片)を複数個所付着させて評価箇所とした。そのアルミニウム缶を実施例、比較例及び参考例の処理剤を用いて処理温度55℃で35秒間スプレー処理することで洗浄した。その後、上述した方法と同様の方法によって、洗浄後のアルミニウム缶を、順次、水道水による水洗、化成処理、水道水による水洗、イオン交換水による水洗及び乾燥に供した。SUS304材を外して乾燥した後のアルミニウム缶は、平板に切り開いてから塗料(エポキシフェノール系)を塗布した後に220℃で1分間焼付け処理した。焼付け後のアルミニウム缶は冷間圧延機によって10%圧延してハゼ折にした。その後、アルミニウム缶のSUS304材が付着していた部分の周辺に透明粘着テープを貼り付けてから剥がし、塗膜の剥離が発生した確率を以下の3段階で評価した。結果を表1に示す。
A:剥離発生確率30%未満
B:剥離発生確率30%以上70%未満
C:剥離発生確率70%以上
【0049】
【表1】
【0050】
実施例と比較例との比較から、ジルコニウム化合物を含有するアルカリ性の洗浄液でアルミニウム缶を洗浄した場合、ジルコニウム化合物を含有しないアルカリ性の洗浄液でアルミニウム缶を洗浄した場合に比べて、塗膜密着性において良好な結果が得られることが分かった。また、脱スマット性においても、ジルコニウム化合物を含有するアルカリ性の洗浄液でアルミニウム缶を洗浄した場合の方が、ジルコニウム化合物を含有しないアルカリ性の洗浄液でアルミニウム缶を洗浄した場合に比べて、概ね良好な結果が得られた。これらの結果から、ジルコニウム化合物を10質量ppm以上含有する洗浄液であればアルミニウム製又はアルミニウム合金製の基材の表面を十分に洗浄できる上に、洗浄後の基材の表面に化成皮膜及び塗膜を十分に密着させられることが確認された。
【0051】
更に、実施例と参考例との比較から、ジルコニウム化合物を含有するアルカリ性の洗浄液は、酸洗浄液よりもアルミニウム缶の洗浄における処理温度を低くできるにも関わらず、洗浄後のアルミニウム缶の評価結果(耐スマット性、水濡れ性、耐沸水黒変性、塗膜密着性)は良好であることが分かった。このことから、ジルコニウム化合物を含有するアルカリ性の洗浄液は、酸洗浄液よりも洗浄に用いた際のエネルギーコストが低いことが確認された。