【文献】
BRUYNEEL, Filip,Method for measuring the cell gap in liquid-crystal displays,Optical Engineering,SPIE,2001年 2月 1日,Vol. 40, No. 2,pp. 259-267
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記膜厚特定ステップにおいて、前記第1の膜の膜厚の値及び前記第2の膜の膜厚の値に対する前記表面反射率の値、前記表面透過率の値、及び前記裏面反射率の値を算出し、前記第1の膜の膜厚の値及び前記第2の膜の膜厚の値を変化させることによって、前記複数の理論分光反射率を取得することを特徴とする、請求項1に記載の膜厚計測方法。
前記膜厚特定ステップにおいて、前記実測分光反射率に最も近い前記理論分光反射率の前記表面反射率の値及び前記表面透過率の値の少なくともいずれか一方の値に基づいて前記第1の膜の膜厚の値を求めることを特徴とする、請求項1または2に記載の膜厚計測方法。
前記膜厚特定ステップにおいて、前記実測分光反射率に最も近い前記理論分光反射率に基づいて前記第2の膜の膜厚を更に決定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の膜厚計測方法。
前記膜厚特定ステップにおいて、前記実測分光反射率に最も近い前記理論分光反射率の前記裏面反射率の値に基づいて前記第2の膜の膜厚の値を求めることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の膜厚計測方法。
前記膜厚特定ステップにおいて、前記実測分光透過率に最も近い前記理論分光透過率に基づいて前記第2の膜の膜厚を更に決定することを特徴とする、請求項8または9に記載の膜厚計測方法。
前記膜厚算出部が、前記第1の膜の膜厚の値及び前記第2の膜の膜厚の値に対する前記表面反射率の値、前記表面透過率の値、及び前記裏面反射率の値を算出し、前記第1の膜の膜厚の値及び前記第2の膜の膜厚の値を変化させることによって、前記複数の理論分光反射率を取得することを特徴とする、請求項12に記載の膜厚計測装置。
前記膜厚算出部が、前記実測分光反射率に最も近い前記理論分光反射率の前記表面反射率の値及び前記表面透過率の値の少なくともいずれか一方の値に基づいて前記第1の膜の膜厚の値を求めることを特徴とする、請求項12または13に記載の膜厚計測装置。
前記膜厚算出部が、前記実測分光反射率に最も近い前記理論分光反射率の値に基づいて前記第2の膜の膜厚を更に求めることを特徴とする、請求項12〜15のいずれか一項に記載の膜厚計測装置。
前記膜厚算出部が、前記実測分光透過率に最も近い前記理論分光透過率に基づいて前記第2の膜の膜厚を更に決定することを特徴とする、請求項18または19に記載の膜厚計測装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
基材の表面に形成された薄膜の厚さを計測する方法として、薄膜に光を照射してその反射光を検出し、該反射光の分光スペクトルに基づいて厚さを特定する方法がある。しかしながら、近年、樹脂フィルムやガラス基材の表面上及び裏面上の双方に種々の薄膜が形成される場合がある。一例としては、クリアハードコートが表面上に塗布され、光学調整層/接着層/透明導電膜(ITO)が裏面上に順に積層された、タッチパネル用途の透明導電性フィルムなどが挙げられる。このような場合、基材の裏面側からの反射光が影響するため、上記の方法によって薄膜の厚さを精度良く計測することが困難となることがある。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、基材の表面上及び裏面上の双方に薄膜が形成されている場合であっても、表面上の薄膜の厚さを精度よく計測することができる膜厚計測方法及び膜厚計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明による第1の膜厚計測方法は、表面及び裏面を有する基材と、表面上に形成された第1の膜と、裏面上に形成された第2の膜とを備える計測対象物の膜厚を計測する方法であって、計測対象物の表面側に光を照射する光照射ステップと、計測対象物の表面側における反射光の波長毎の強度を検出する光検出ステップと、光検出ステップにおける検出結果に基づいて得られる波長毎の反射率(以下、実測分光反射率という)と、表面側における反射率(以下、表面反射率という)、表面側における透過率(以下、表面透過率という)、及び
、第2の膜の屈折率及び膜厚に依存する裏面側における反射率(以下、裏面反射率という)が加味された理論上の波長毎の反射率(以下、理論分光反射率という)とを比較することにより第1の膜の膜厚を決定する膜厚特定ステップと、を備え、膜厚特定ステップにおいて、表面反射率の値、表面透過率の値、及び裏面反射率の値を変化させて得られる複数の理論分光反射率と実測分光反射率とを比較し、該実測分光反射率に最も近い理論分光反射率に基づいて第1の膜の膜厚を決定することを特徴とする。
【0010】
前述したように、基材の表面上及び裏面上の双方に薄膜が形成されている場合、基材の裏面側からの反射光が表面上の薄膜の厚さ計測に影響を与える。この影響の大きさは基材の裏面側における反射率に依存し、裏面側における反射率は、裏面上に形成されている薄膜の屈折率や厚さによって変動する。上記の第1の膜厚計測方法では、膜厚特定ステップにおいて、表面側における反射率、表面側における透過率、及び裏面側における反射率が加味された理論分光反射率と、実測分光反射率との比較(フィッティング)をしており、より詳細には、表面側の反射率の値、表面側の透過率の値、及び裏面側の反射率の値をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光反射率のうち、実測分光反射率に最も近い理論分光反射率に基づいて、第1の膜の膜厚を決定している。このような方法によれば、裏面側の反射光による影響を理論分光反射率に反映させることができるので、裏面上に形成されている第2の膜の厚さや屈折率の影響を考慮して、表面上の第1の膜の厚さを精度良く計測することができる。
【0011】
また、本発明による第2の膜厚計測方法は、表面及び裏面を有する基材と、表面上に形成された第1の膜と、裏面上に形成された第2の膜とを備える計測対象物の膜厚を計測する方法であって、計測対象物の表面側に光を照射する光照射ステップと、計測対象物の裏面側における透過光の波長毎の強度を検出する光検出ステップと、光検出ステップにおける検出結果に基づいて得られる波長毎の透過率(以下、実測分光透過率という)と、表面側における透過率(以下、表面透過率という)及び反射率(以下、表面反射率という)、並びに
、第2の膜の屈折率及び膜厚に依存する裏面側における透過率(以下、裏面透過率という)及び反射率(以下、裏面反射率という)が加味された理論上の波長毎の透過率(以下、理論分光透過率という)とを比較することにより第1の膜の膜厚を決定する膜厚特定ステップと、を備え、膜厚特定ステップにおいて、表面透過率の値及び表面反射率の値、並びに裏面透過率の値及び裏面反射率の値をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光透過率と実測分光透過率とを比較し、該実測分光透過率に最も近い理論分光透過率に基づいて第1の膜の膜厚を決定することを特徴とする。
【0012】
上記の第2の膜厚計測方法では、膜厚特定ステップにおいて、表面側における透過率及び反射率、並びに裏面側における透過率及び反射率が加味された理論分光透過率と実測分光透過率との比較(フィッティング)をしており、より詳細には、表面側の透過率の値、表面側の反射率の値、裏面側の透過率の値、及び表面側の反射率の値をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光透過率のうち、実測分光透過率に最も近い理論分光透過率に基づいて、第1の膜の膜厚を決定している。このような方法によれば、裏面側の第2の膜による影響を理論分光透過率に反映させることができるので、裏面上に形成されている第2の膜の厚さや屈折率の影響を考慮して、表面上の第1の膜の厚さを精度良く計測することができる。
【0013】
また、本発明による第1の膜厚計測装置は、表面及び裏面を有する基材と、表面上に形成された第1の膜と、裏面上に形成された第2の膜とを備える計測対象物の膜厚を計測する装置であって、計測対象物の表面側に光を照射する光照射部と、計測対象物の表面側における反射光の波長毎の強度を検出する光検出部と、光検出部における検出結果に基づいて得られる波長毎の反射率(以下、実測分光反射率という)と、表面側における反射率(以下、表面反射率という)及び透過率(以下、表面透過率という)、並びに
、第2の膜の屈折率及び膜厚に依存する裏面側における反射率(以下、裏面反射率という)が加味された理論上の波長毎の反射率(以下、理論分光反射率という)とを比較することにより第1の膜の膜厚を決定する膜厚算出部と、を備え、膜厚算出部は、表面反射率の値及び表面透過率の値、並びに裏面反射率の値をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光反射率と実測分光反射率とを比較し、該実測分光反射率に最も近い理論分光反射率に基づいて第1の膜の膜厚を決定することを特徴とする。
【0014】
上記の第1の膜厚計測装置では、膜厚算出部が、表面側における反射率、表面側における透過率、及び裏面側における反射率が加味された理論分光反射率と実測分光反射率との比較(フィッティング)をしており、より詳細には、表面側の反射率の値、表面側の透過率の値、及び裏面側の反射率の値をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光反射率のうち、実測分光反射率に最も近い理論分光反射率に基づいて、第1の膜の膜厚を決定している。これにより、裏面側の反射光による影響を理論分光反射率に反映させることができるので、裏面上に形成されている第2の膜の厚さや屈折率の影響を考慮して、表面上の第1の膜の厚さを精度良く計測することができる。
【0015】
また、本発明による第2の膜厚計測装置は、表面及び裏面を有する基材と、表面上に形成された第1の膜と、裏面上に形成された第2の膜とを備える計測対象物の膜厚を計測する装置であって、計測対象物の表面側に光を照射する光照射部と、計測対象物の裏面側における透過光の波長毎の強度を検出する光検出部と、光検出部における検出結果に基づいて得られる波長毎の透過率(以下、実測分光透過率という)と、表面側における透過率(以下、表面透過率という)及び反射率(以下、表面反射率という)、並びに
、第2の膜の屈折率及び膜厚に依存する裏面側における透過率(以下、裏面透過率という)及び反射率(以下、裏面反射率という)が加味された理論上の波長毎の透過率(以下、理論分光透過率という)とを比較することにより第1の膜の膜厚を決定する膜厚算出部と、を備え、膜厚算出部は、表面透過率の値及び表面反射率の値、並びに裏面透過率の値及び裏面反射率の値をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光透過率と実測分光透過率とを比較し、該実測分光透過率に最も近い理論分光透過率に基づいて第1の膜の膜厚を決定することを特徴とする。
【0016】
上記の第2の膜厚計測装置では、膜厚算出部が、表面側における透過率、表面側における反射率、裏面側における透過率、及び裏面側における反射率が加味された理論分光透過率と実測分光透過率との比較(フィッティング)をしており、より詳細には、表面側の透過率の値、表面側の反射率の値、裏面側の透過率の値、及び裏面側の反射率の値をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光透過率のうち、実測分光透過率に最も近い理論分光透過率に基づいて、第1の膜の膜厚を決定している。これにより、裏面側の第2の膜による影響を理論分光透過率に反映させることができるので、裏面上に形成されている第2の膜の厚さや屈折率の影響を考慮して、表面上の第1の膜の厚さを精度良く計測することができる。
【0017】
また、上記の第1の膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、膜厚特定ステップにおいて若しくは膜厚算出部が、第1の膜の膜厚の値及び第2の膜の膜厚の値に対する表面反射率の値、表面透過率の値、及び裏面反射率の値を算出し、第1の膜の膜厚の値及び第2の膜の膜厚の値を変化させることによって、複数の理論分光反射率を取得することを特徴としてもよい。これにより、複数の理論分光反射率を好適に取得することができる。
【0018】
また、上記の第1の膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、膜厚特定ステップにおいて若しくは膜厚算出部が、実測分光反射率に最も近い理論分光反射率の表面反射率の値及び表面透過率の値の少なくともいずれか一方の値に基づいて第1の膜の膜厚の値を求めることを特徴としてもよい。
【0019】
また、上記の第1の膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、第1の膜が複数の層を含み、膜厚特定ステップにおいて若しくは膜厚算出部が、実測分光反射率に最も近い理論分光反射率に基づいて第1の膜の複数の層それぞれの層厚を決定することを特徴としてもよい。また、上記の第2の膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、第1の膜が複数の層を含み、膜厚特定ステップにおいて若しくは膜厚算出部が、実測分光透過率に最も近い理論分光透過率に基づいて第1の膜の複数の層それぞれの層厚を決定することを特徴としてもよい。
【0020】
第1の膜が複数の層を含む場合、これらの層厚に応じて表面側の反射率及び透過率が変化し、それに伴って理論分光反射率及び理論分光透過率が変化する。従って、第1の膜に含まれる複数の層の厚さの値をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光反射率若しくは理論分光透過率と、実測分光
反射率若しくは実測分光透過率とを比較することにより、第1の膜の複数の層それぞれの層厚を精度よく求めることができる。
【0021】
また、上記の第1の膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、膜厚特定ステップにおいて若しくは膜厚算出部が、実測分光反射率に最も近い理論分光反射率に基づいて第2の膜の膜厚を更に決定することを特徴としてもよい。また、上記の第2の膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、膜厚特定ステップにおいて若しくは膜厚算出部が、実測分光透過率に最も近い理論分光透過率に基づいて第2の膜の膜厚を更に決定することを特徴としてもよい。これらの方法及び装置によって、一回の計測により第1及び第2の膜の各膜厚を同時に精度よく計測することができる。
【0022】
また、上記の第1の膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、膜厚特定ステップにおいて若しくは膜厚算出部が、実測分光反射率に最も近い理論分光反射率の裏面反射率の値に基づいて第2の膜の膜厚の値を求めることを特徴としてもよい。これにより、第2の膜の膜厚の値を好適に得ることができる。
【0023】
また、上記の第1の膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、第2の膜が複数の層を含み、膜厚特定ステップにおいて若しくは膜厚算出部が、実測分光反射率に最も近い理論分光反射率に基づいて第2の膜の複数の層それぞれの層厚を決定することを特徴としてもよい。また、上記の第2の膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、第2の膜が複数の層を含み、膜厚特定ステップにおいて若しくは膜厚算出部が、実測分光透過率に最も近い理論分光透過率に基づいて第2の膜の複数の層それぞれの層厚を決定することを特徴としてもよい。
【0024】
第2の膜が複数の層を含む場合、これらの層厚に応じて裏面側の反射率及び透過率が変化し、それに伴って理論分光反射率及び理論分光透過率が変化する。従って、第2の膜に含まれる複数の層の厚さの値をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光反射率若しくは理論分光透過率と、実測分光
反射率若しくは実測分光透過率とを比較することにより、第2の膜の複数の層それぞれの層厚を精度よく求めることができる。
【0025】
なお、特許文献1に記載された方法では、基材フィルムに光吸収材を混入させる必要があるので計測対象物が限定されてしまう問題がある。特に、上述した透明導電性フィルムなどのように透明な基材が使用されている場合には、このような方法を使用することができない。これに対し、上述した各膜厚計測方法及び各膜厚計測装置によれば、基材の両面に膜が形成されている場合に、基材の透光性に関係なく、膜厚測定を精度良く行うことが可能となる。
【0026】
また、特許文献2に記載された方法では、裏面反射係数寄与率γを得るために、膜が形成されていない状態での反射スペクトルと、光トラップなどを用いて基材の裏面からの反射を抑えた状態での反射スペクトルとをそれぞれ計測する必要があり、計測に手間を要する。これに対し、上述した各膜厚計測方法及び各膜厚計測装置によれば、単に波長毎の反射率(もしくは波長毎の透過率)を計測すれば足るので、基材の両面に膜が形成されている場合の膜厚測定を簡便に行うことが可能となる。
【0027】
また、特許文献3に記載された方法のように高速フーリエ変換法を用いる場合、例えば厚さ1μm以下といった薄い膜の厚さ計測には適さない。上述した各膜厚計測方法及び各膜厚計測装置によれば、このような極めて薄い膜であっても精度良く計測することが可能である。また、特許文献3に記載された方法では、屈折率が互いに異なる複数の層が膜内に含まれている場合、膜厚を精度良く計測することが困難である。これに対し、上述した各膜厚計測方法及び各膜厚計測装置によれば、第1及び第2の膜内に複数の層が含まれている場合であっても、膜厚を精度良く計測することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明による膜厚計測方法及び膜厚計測装置によれば、基材の表面上及び裏面上の双方に薄膜が形成されている場合であっても、表面上の薄膜の厚さを精度よく計測することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら本発明による膜厚計測方法及び膜厚計測装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0031】
(第1の実施の形態)
図1は、第1実施形態による膜厚計測方法及び膜厚計測装置の計測対象物100の構成を示す断面図である。
図1に示されるように、計測対象物100は、基材101と、第1の膜(表面膜)102と、第2の膜(裏面膜)103とを有している。基材101は、表面101aと裏面101bとを有する板状若しくはフィルム状の部材であって、例えば樹脂やガラス、半導体ウエハ等によって構成される。基材101の厚さは例えば100μm以上である。第1の膜102は、基材101の表面101a上に形成されている。第2の膜103は、基材101の裏面101b上に形成されている。第1の膜102及び第2の膜103は、例えば真空成膜などの成膜や塗布、エッチングなどの工程により形成される。計測対象物100の一例としては、タッチパネル、半導体デバイス、二次電池、太陽電池、FPD(フラットパネルディスプレイ)、光学フィルム等が挙げられる。計測対象物100がタッチパネル用途の透明導電性フィルムである場合、第1の膜102は光学調整層、接着層、透明導電膜(ITO)といった複数の層を含み、第2の膜103はクリアハードコート剤の層からなる。
【0032】
図2は、本実施形態の膜厚計測装置1Aの構成を模式的に示す図である。膜厚計測装置1Aは、
図1に示された計測対象物100の膜厚を計測する装置である。
図2に示されるように、膜厚計測装置1Aは、光照射部10と、光検出部20Aと、膜厚算出部30Aとを備えている。なお、計測対象物100は、図に示されるようにローラー110によって搬送されている状態であってもよく、或いは静止状態であってもよい。
【0033】
光照射部10は、計測対象物100の表面101a側の面に光を照射する。光照射部10は、光源11と、導光部材12と、光出射部13とを含んで構成されている。光源11は、非コヒーレント(インコヒーレント)な光L1を発生する。光L1の波長帯域は、可視波長域であっても良く、その場合、光源11としては、白色光を出射するランプ系光源若しくは白色LEDなどが好適である。また、光L1の波長帯域は、可視波長域から近赤外波長域に亘る波長帯であっても良く、赤外波長領域において略平坦な(ブロードな)スペクトルを有してもよい。特に、光L1の波長帯域が近赤外波長域を含む場合、計測対象物100に色味があっても光L1が透過することができるので、計測対象物100の色味による影響を低減することができる。その場合、光源11としては、ASE(Amplified Spontaneous Emission)光源、LED、SLD(Super Luminescent Diode)といった種々の発光要素が適用され得る。また、白色光源と光学フィルムなどの光学部品とが互いに組み合わされてもよい。
【0034】
導光部材12は、その一端が光源11に光結合されており、光源11から出射された光L1を導く。導光部材12としては、例えば、ライトガイドや光ファイバ等が好適に用いられる。光出射部13は、導光部材12の他端と光結合されており、導光部材12によって導かれた光L1を計測対象物100に照射する。光出射部13は、計測対象物100の第1の膜102と対向する位置、すなわち基材101の表面101aと対向する位置に配置される。
【0035】
光検出部20Aは、計測対象物100の表面101a側における反射光の波長毎の強度(スペクトル)を検出する。光検出部20Aは、光入射部21aと、導光部材22aと、分光検出部23aとを含んで構成されている。光入射部21aには、計測対象物100からの反射光L2が入射される。光入射部21aは、計測対象物100の第1の膜102と対向する位置、すなわち基材101の表面101aと対向する位置に配置される。なお、光出射部13の光軸と光入射部21aの光軸とは、互いに平行であってもよいし、計測対象物100において互いに交差してもよい。また、光出射部13の光軸と光入射部21aの光軸とが互いに一致してもよい。導光部材22aは、その一端が光入射部21aに光結合されており、光入射部21aに入射した反射光L2を導く。導光部材22aとしては、例えば、ライトガイドや光ファイバ等が好適に用いられる。分光検出部23aは、導光部材22aの他端と光結合されており、導光部材22aによって導かれた反射光L2を波長毎に分光し、分光された波長毎の光の強度を検出する。分光検出部23aは、例えば、分光光学素子(例えばプリズムやグレーティング素子など)と、撮像素子(例えばラインセンサ、エリアイメージセンサ、光電子増倍管、フォトダイオードなど)との組合せによって好適に構成される。分光検出部23aは、検出した光強度を電気信号として出力する。
【0036】
膜厚算出部30Aは、光検出部20Aにおける検出結果に基づいて、第1の膜102及び第2の膜103の膜厚を求める。すなわち、膜厚算出部30Aは、光検出部20Aにおける検出結果に基づいて得られる波長毎の反射率である実測分光反射率と、理論上の波長毎の反射率である理論分光反射率とを比較し、これらを互いにフィッティングすることにより、第1の膜102及び第2の膜103の膜厚を求める。
【0037】
膜厚計測装置1Aは、上記の構成に加えて、制御部40と、表示部50と、入力装置60とを更に備えている。制御部40は、光照射部10、光検出部20A、及び膜厚算出部30Aの動作を制御するための部分であって、たとえばCPU及びメモリを有するコンピュータによって好適に実現される。表示部50は、膜厚算出部30Aによって算出された第1の膜102及び第2の膜103の各膜厚の値、及び計測条件等を表示する。入力装置60は、例えばマウスやキーボードなどによって構成され、操作者が計測条件などを入力する際に用いられる。なお、表示部50及び入力装置60は、タッチパネルディスプレイとして一体化されてもよい。また、制御部40、表示部50、及び入力装置60は、膜厚計測装置1Aの外部に設けられてもよい。
【0038】
ここで、本実施形態の膜厚計測装置1Aを用いた膜厚計測方法について詳細に説明する。
図3は、膜厚計測の原理を説明するための図であって、基材B1上に形成されている膜B2の断面を示している。いま、膜B2にインコヒーレントな光Laが入射すると、膜B2の表面での反射光と、基材B1と膜B2との界面での反射光とが相互に干渉する。基材B1と膜B2との界面での反射光の光路長は、膜B2の表面での反射光の光路長に対して膜B2内の光路の分だけ長くなるので、これらの反射光の間には、膜B2の厚さに応じた位相差が生じる。
【0039】
図4(a)〜
図4(c)は、干渉後の反射光の強度と波長との関係を示すグラフである。
図4(a)は膜B2の膜厚が他の図よりも薄い場合を示しており、
図4(c)は膜B2の膜厚が他の図よりも厚い場合を示している。
図4に示されるように、干渉後の反射光のスペクトル(反射スペクトル)は干渉により波打つが、その波の間隔は膜B2の膜厚が厚くなるほど小さくなる。
【0040】
上記のような反射スペクトルと膜B2の膜厚との関係を利用して、膜B2の膜厚を求めることができる。具体的な手法としては、高速フーリエ変換法及びカーブフィッティング法がある。高速フーリエ変換法は、反射スペクトルに対し高速フーリエ変換を行い、そのピーク周波数から膜厚を求める方法である。カーブフィッティング法は、計測された反射スペクトルから求められる分光反射率(実測分光反射率)と、理論式から算出された理論分光反射率とをフィッティングし、フィットした理論分光反射率から膜厚を求める方法である。本実施形態では、カーブフィッティング法が用いられる。カーブフィッティング法によれば、膜B2の厚さが1μm以下であっても精度良く計測することができる。
図5は、膜B2がITO膜(厚さ350nm)である場合のカーブフィッティングの例を示すグラフである。
図5において、グラフG11は実測分光反射率を示しており、グラフG12は理論分光反射率を示している。例えば、これらのグラフG11及びG12の差の二乗が最も小さくなる理論分光反射率における膜厚値が、膜B2の膜厚とされる。
【0041】
しかしながら、本実施形態の計測対象物100では、
図1に示されたように基材101の両面に膜102,103が形成されているので、第1の膜102による干渉後の反射スペクトルに、第2の膜103による干渉後の反射スペクトルが重畳してしまう。従って、上記の方法をそのまま適用して第1の膜102の膜厚を計測しようとしても正確な値を求めることが難しい。
【0042】
そこで、本実施形態の理論分光反射率としては、基材101内部の多重反射の影響を反映するために、第1の膜102の屈折率や膜厚に依存する基材101の表面101aにおける反射率(表面反射率)と、同じく第1の膜102の屈折率や膜厚に依存する基材101の表面101aにおける透過率(表面透過率)と、基材101の裏面101bにおける反射率(裏面反射率)とを加味している。ここで、基材101の裏面101bにおける反射率は、基材101内部を通る入射光L1が裏面101bで反射した光に加え、裏面101bを透過し、第2の膜103と周囲(空気や真空)の境界で反射して基材101へ戻る光の影響も含んでいるため、第2の膜103の屈折率や膜厚に依存する反射率となる。
【0043】
数式(1)及び(2)は、本実施形態の理論分光反射率R
theoryを示す式である。なお、λは波長である。また、
図6は、数式(1)及び(2)に含まれる各パラメータの定義を示す図である。
図6に示されるように、数式(1)及び(2)では、計測対象物100の周囲(空気や真空)の消衰係数をk
0とし、第1の膜102の消衰係数をk
1とし、基材101の消衰係数をk
2(但しk
2≧0)とし、第2の膜103の消衰係数をk
3とする。また、計測対象物100の周囲(空気や真空)の屈折率をn
0とし、第1の膜102の屈折率をn
1とし、基材101の屈折率をn
2とし、第2の膜103の屈折率をn
3とする。また、第1の膜102側における表面101aでの反射率(第1の表面反射率)をR
012(λ)とし、基材101側における裏面101bでの反射率(裏面反射率)をR
230(λ)とし、基材101側における表面101aでの反射率(第2の表面反射率)をR
210(λ)とする。また、第1の膜102側における表面101aでの透過率(表面透過率)をT
012(λ)とし、第1の膜102側における第1の膜102の表面での透過率をT
210(λ)とする。また、第1の膜102の膜厚をd
1とし、基材101の厚さをd
2とし、第2の膜103の膜厚をd
3とする。
【数1】
【数2】
【0044】
数式(1)及び(2)に示されるように、理論分光反射率R
theoryでは、第1の膜102側における基材101の表面101aでの反射率である第1の表面反射率R
012(λ)に加えて、基材101内部の多重反射の影響を反映するために、基材101側における表面101aでの反射率である第2の表面反射率R
210(λ)、表面101aでの透過率である表面透過率T
012(λ)、及び基材101側における裏面101bでの反射率(裏面反射率)R
230(λ)が考慮されている。すなわち、数式(1)右辺のΣ項が基材101内での多重反射成分を示しており、この多重反射成分は、基材101側から見た裏面101bでの反射率R
230(λ)と、基材101側から見た表面101aでの反射率R
210(λ)と、表面101aでの透過率T
012(λ)とに基づいている。
【0045】
図7は、本実施形態の膜厚計測装置1Aの動作及び膜厚計測方法を示すフローチャートである。
図7に示されるように、まず、光照射部10が、計測対象物100の表面101a側に対して白色光などの非コヒーレントな光L1を照射する(光照射ステップS11)。次に、光検出部20Aが、計測対象物100の表面101a側における反射光L2を波長毎に分光し、各波長の強度を検出する(光検出ステップS12)。
【0046】
続いて、膜厚算出部30Aが、第1の膜102及び第2の膜103の膜厚を求める(膜厚特定ステップS13)。この膜厚特定ステップS13では、膜厚算出部30Aは、まず光検出部20Aからの検出信号に基づいて実測分光反射率を算出する(ステップS131)。このために、膜厚算出部30Aは、まず、反射光L2の波長毎の強度から反射スペクトルS
sig(λ)を求める。次に、膜厚算出部30Aは、数式(3)に示されるように、標準計測対象物を用いて予め取得された標準反射スペクトルS
ref(λ)と、反射スペクトルS
sig(λ)との比を算出する。この比が、実測分光反射率R
sig(λ)となる。
【数3】
【0047】
続いて、膜厚算出部30Aは、理論分光反射率R
theoryを算出する(ステップS132)。まず、基材101の消衰係数k
2、屈折率n
2、及び厚さd
2と、第1の膜102の消衰係数k
1及び屈折率n
1と、第2の膜103の消衰係数k
3及び屈折率n
3とが操作者により入力される。膜厚算出部30Aは、数式(1)の第1の表面反射率R
012(λ)の値、第2の表面反射率R
210(λ)の値、表面透過率T
012(λ)の値、透過率T
210(λ)の値、及び裏面反射率R
230(λ)の値をそれぞれ変化させて、複数の第1の表面反射率R
012(λ)の値、複数の第2の表面反射率R
210(λ)の値、複数の表面透過率T
012(λ)の値、複数の透過率T
210(λ)の値、及び複数の裏面反射率R
230(λ)の値の組み合わせからなる複数の理論分光反射率R
theoryを求める。
【0048】
続いて、膜厚算出部30Aは、複数の理論分光反射率R
theoryと実測分光反射率R
sig(λ)とを相互に比較し、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い(フィットする)理論分光反射率R
theoryを求める(ステップS133)。このステップS133では、例えば最小二乗法が用いられる。すなわち、膜厚算出部30Aは、複数の理論分光反射率R
theoryそれぞれに対して、実測分光反射率R
sig(λ)と理論分光反射率R
theoryとの差の2乗の値を求め、その値が最小となる理論分光反射率R
theoryを選択する。
【0049】
続いて、膜厚算出部30Aは、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い(略一致する)理論分光反射率R
theoryに基づいて、第1の膜102の膜厚d
1を算出する(ステップS134)。理論的な第1の表面反射率R
theory012(λ)は、次の数式(4)〜(6)に示されるように、第1の膜102の屈折率や膜厚に依存しており、膜厚d
1の関数となっている。なお、数式(4)〜(6)において、r
01は空気と第1の膜102との界面における振幅反射係数であり、r
12は第1の膜102と基材101との界面における振幅反射係数であり、N
1=n
1−ik
1である。
【数4】
【数5】
【数6】
【0050】
また、理論的な第2の表面反射率R
theory210(λ)は、次の数式(7)〜(9)に示されるように、第1の膜102の屈折率や膜厚に依存しており、膜厚d
1の関数となっている。なお、数式(7)〜(9)において、r
21は基板と第1の膜102との界面における振幅反射係数であり、r
10は第1の膜102と空気との界面における振幅反射係数である。
【数7】
【数8】
【数9】
【0051】
さらに、理論的な表面透過率T
theory012(λ)もまた、次の数式(10)〜(12)に示されるように、第1の膜102の屈折率や膜厚に依存しており、膜厚d
1の関数となっている。なお、数式(10)〜(12)において、t
01は空気と第1の膜102との界面における振幅透過係数であり、t
12は第1の膜102と基板との界面における振幅透過係数であり、N
2=n
2−ik
2である。
【数10】
【数11】
【数12】
【0052】
さらに、理論的な第1の膜102の表面における透過率T
theory210(λ)もまた、次の数式(13)〜(15)に示されるように、第1の膜102の屈折率や膜厚に依存しており、膜厚d
1の関数となっている。なお、数式(13)〜(15)において、t
21は基板と第1の膜102との界面における振幅透過係数であり、t
10は第1の膜102と空気との界面における振幅透過係数である。
【数13】
【数14】
【数15】
【0053】
そこで、膜厚算出部30Aは、ステップS133において選択された理論分光反射率R
theoryの第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面透過率T
012(λ)、及び透過率T
210(λ)それぞれから膜厚d
1の値を求める。そして、膜厚算出部30Aは、求められた複数の膜厚d
1の値の平均値や最小二乗値を、計測対象物100の第1の膜102の膜厚として決定し、出力する。なお、求められた複数の膜厚d
1の値のうち1つを計測対象物100の第1の膜102の膜厚と決定してもよい。特に、第1の膜102側における表面101aでの反射率R
012(λ)の影響が大きいため、理論分光反射率R
theoryの第1の表面反射率R
012(λ)から求まる膜厚d
1の値を第1の膜102の膜厚と決定してもよい。
【0054】
また、膜厚算出部30Aは、第2の膜103の膜厚d
3を算出する(ステップS135)。理論的な裏面反射率R
theory230(λ)は、次の数式(16)〜(18)に示されるように、第2の膜103の屈折率や膜厚に依存しており、膜厚d
3の関数となっている。なお、数式(16)〜(18)において、r
23は基材101と第2の膜103との界面における振幅反射係数であり、r
30は第2の膜103と空気との界面における振幅反射係数であり、N
3=n
3−ik
3である。
【数16】
【数17】
【数18】
【0055】
膜厚算出部30Aは、ステップS133において選択された理論分光反射率R
theoryの裏面反射率R
230(λ)にフィットする反射率R
theory230(λ)から数式(16)〜(18)に基づいて膜厚d
3の値を求め、計測対象物100の第2の膜103の膜厚として決定し、出力する。
【0056】
上記のように、本実施形態の膜厚特定ステップS13では、膜厚算出部30Aが、光検出ステップS12における検出結果に基づいて得られる実測分光反射率R
sig(λ)と、表面101a側における反射率である第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面101a側における透過率である表面透過率T
012(λ)及び透過率T
210(λ)、並びに裏面101b側における反射率である裏面反射率R
230(λ)が加味された理論分光反射率R
theoryとを比較することにより、第1の膜102の膜厚d
1及び第2の膜103の膜厚d
3を求める。なお、第1の膜102の膜厚d
1を算出するステップS134と、第2の膜103の膜厚d
3を算出するステップS135との順序は任意であり、ステップS135から先に行ってもよく、ステップS134及びS135を並行して行ってもよい。
【0057】
なお、本実施形態では、予め複数の理論分光反射率R
theoryを算出しておき、これらの理論分光反射率R
theoryに対して実測分光反射率R
sig(λ)をフィットさせる例を示したが、理論分光反射率R
theoryと実測分光反射率R
sig(λ)とのフィッティングはこのような形態に限られない。例えば、次のような方法でフィッティングを行ってもよい。すなわち、
図8に示されるように、或る一つの第1の表面反射率R
012(λ)の値、或る一つの第2の表面反射率R
210(λ)の値、或る一つの表面透過率T
012(λ)の値、或る一つの透過率T
210(λ)の値、及び或る一つの裏面反射率R
230(λ)の値の組み合わせからなる一つの理論分光反射率R
theoryを算出する(ステップS136)。この理論分光反射率R
theoryと実測分光反射率R
sig(λ)とのフィッティングを行う(ステップS137)。フィットしない(差の2乗が閾値を超えている等の)場合に(ステップS138;No)、第1の表面反射率R
012(λ)の値、第2の表面反射率R
210(λ)の値、表面透過率T
012(λ)の値、透過率T
210(λ)の値、及び裏面反射率R
230(λ)の値の組み合わせを変更し(ステップS139)、再度、変更後の理論分光反射率R
theoryと実測分光反射率R
sig(λ)とのフィッティングを行う。このような処理を繰り返すことによって、複数の理論分光反射率R
theoryのうち、実測分光反射率R
sig(λ)とフィットする理論分光反射率R
theoryを求めることができる。
【0058】
また、本実施形態では、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い理論分光反射率R
theory(λ)における第1の表面反射率R
012(λ)の値、第2の表面反射率R
210(λ)の値、表面透過率T
012(λ)の値、透過率T
210(λ)の値、及び裏面反射率R
230(λ)の値から第1の膜102の膜厚d
1及び第2の膜103の膜厚d
3を求める例を示したが、数式(6)、(9)、(12)、及び(15)の第1の膜102の膜厚d
1の値と、数式(18)の第2の膜103の膜厚d
3の値とをそれぞれ変化させることによって、理論分光反射率R
theoryを用意してもよい。すなわち、
図7に示された複数の理論分光反射率の算出ステップS132において、
図9に示されるように、まず、複数の第1の膜102の膜厚d
1の値及び第2の膜103の膜厚d
3の値を設定する(S1321)。次に、設定された複数の膜厚d
1の値及び膜厚d
3の値における複数の第1の表面反射率R
012(λ)の値、複数の第2の表面反射率R
210(λ)の値、複数の表面透過率T
012(λ)の値、複数の透過率T
210(λ)の値、及び複数の裏面反射率R
230(λ)の値をそれぞれ算出する(S1322)。そして、算出された複数の第1の表面反射率R
012(λ)の値、複数の第2の表面反射率R
210(λ)の値、複数の表面透過率T
012(λ)の値、複数の透過率T
210(λ)の値、及び複数の裏面反射率R
230(λ)の値に対応する複数の理論分光反射率R
theoryを算出する(S1323)。或いは、
図7に示される反射率及び透過率の変更ステップS139において、第1の膜102の膜厚d
1の値および第2の膜103の膜厚d
3の値を変更することにより、各反射率及び透過率の値を変更してもよい。これらの場合、或る膜厚d
1の値と或る膜厚d
3の値とに対応する理論分光反射率R
theory(λ)を実測分光反射率R
sig(λ)と比較することができるため、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い理論分光反射率R
theory(λ)が求めることによって、表面膜の膜厚d
1の算出ステップS134及び裏面膜の膜厚d
3の算出ステップS135を行わなくても、膜厚d
1の値と膜厚d
3の値とを決定することができる。
【0059】
以上に説明した、本実施形態による膜厚計測装置1A及び膜厚計測方法によって得られる効果について説明する。前述したように、基材の表面上及び裏面上の双方に薄膜が形成されている場合、基材の裏面側からの反射光が表面上の薄膜の厚さ計測に影響を与える。この影響の大きさは基材の裏面側における反射率に依存し、裏面側における反射率は、裏面上に形成されている薄膜の屈折率や厚さによって変動する。この問題を解決するため、本実施形態では、膜厚特定ステップS13において、膜厚算出部30Aが、基材101側における表面101aでの第2の表面反射率R
210(λ)、表面101aでの透過率T
012(λ)、及び基材101側における裏面101bでの裏面反射率R
230(λ)が加味された理論分光反射率R
theoryと、実測分光反射率R
sig(λ)との比較(フィッティング)を行っている。そして、基材101側における表面101aでの第2の表面反射率R
210(λ)、表面101aでの透過率T
012(λ)、及び基材101側における裏面101bでの裏面反射率R
230(λ)を変化させて得られる複数の理論分光反射率R
theoryのうち、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い理論分光反射率R
theoryに基づいて、第1の膜102の膜厚d
1を決定している。これにより、基材101内部の多重反射による影響を理論分光反射率R
theoryに反映させることができるので、表面101a上の第1の膜102の膜厚d
1を精度良く計測することができる。さらに、表面101a側における反射率として第1の表面反射率R
012(λ)及び第2の表面反射率R
210(λ)を、表面101a側における透過率として表面透過率T
012(λ)及び第1の膜102の表面における透過率T
210(λ)を、裏面101b側における反射率として裏面反射率R
230(λ)をそれぞれ加味した理論分光反射率R
theoryと、実測分光反射率R
sig(λ)との比較(フィッティング)を行い、そして、表面101a側の第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面透過率T
012(λ)、第1の膜102の表面での透過率T
210(λ)、及び裏面101b側の裏面反射率R
230(λ)をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光反射率R
theoryのうち、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い理論分光反射率R
theoryの第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面透過率T
012(λ)、及び透過率T
210(λ)の値のうち少なくも1つの値に基づいて、第1の膜102の膜厚d
1を決定することによって、表面101a上の第1の膜102の膜厚d
1の計測精度をより向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態のように、第1の膜102の膜厚の値及び第2の膜103の膜厚の値に対する表面101a側の第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面透過率T
012(λ)、第1の膜102の表面での透過率T
210(λ)、及び裏面101b側の裏面反射率R
230(λ)を算出し、第1の膜102の膜厚の値及び第2の膜103の膜厚の値を変化させることによって、複数の理論分光反射率R
theoryを取得してもよい。これにより、複数の理論分光反射率R
theoryを好適に取得することができる。
【0061】
また、本実施形態のように、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い理論分光反射率R
theoryの表面反射率R
012(λ)及びR
210(λ)の値と、表面透過率T
012(λ)及びT
210(λ)の値とのうち少なくともいずれか一方の値に基づいて、第1の膜102の膜厚の値を求めてもよい。これにより、第1の膜102の膜厚を好適に取得することができる。
【0062】
また、本実施形態のように、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い理論分光反射率R
theoryに基づいて、第2の膜103の膜厚d
3を決定してもよい。これにより、表面101a上の第1の膜102の膜厚d
1と、裏面101b上の第2の膜103の膜厚d
3との双方を、一回の計測で同時に精度良く計測することができる。なお、本実施形態の膜厚特定ステップS13及び膜厚算出部30Aでは、第1の膜102の膜厚d
1と第2の膜103の膜厚d
3とを決定しているが、第1の膜102の膜厚d
1のみを決定してもよい。
【0063】
また、本実施形態のように、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い理論分光反射率R
theoryの裏面反射率R
230(λ)の値に基づいて、第2の膜103の膜厚の値を計算により求めてもよい。これにより、第2の膜103の膜厚の値を好適に得ることができる。
【0064】
また、本実施形態では実測分光反射率R
sig(λ)と理論分光反射率R
theoryとを直接的にフィッティングしているが、例えば、実測分光反射率R
sig(λ)と理論分光反射率R
theoryとをそれぞれフーリエ変換し、実測分光反射率R
sig(λ)の周波数分布と理論分光反射率R
theoryの周波数分布とを相互にフィッティングしてもよい。
【0065】
(第1の変形例)
第1実施形態では第1の膜102及び第2の膜103が単層からなる場合を例示したが、第1の膜102及び第2の膜103の一方または双方が複数の層を含む場合であっても、各層の層厚を求めることが可能である。本変形例の理論分光反射率としては、第1の膜102に含まれる複数の層の屈折率や層厚に依存する表面101a側における反射率(第1の表面反射率)と、第2の膜103に含まれる複数の層の屈折率や層厚に依存する裏面101b側における反射率(裏面反射率)とが加味されたものが用いられる。
【0066】
図10は、本変形例における各パラメータの定義を示す図であって、第1の膜102が3つの層からなり、第2の膜103が2つの層からなる場合を例示している。
図10に示されるように、本変形例では、計測対象物100の周囲(空気)の消衰係数をk
0とし、第1の膜102の第1層102a〜第3層102cの消衰係数をそれぞれk
11〜k
13とし、基材101の消衰係数をk
2(但しk
2≧0)とし、第2の膜103の第1層103a及び第2層103bの消衰係数をそれぞれk
31及びk
32とする。また、計測対象物100の周囲(空気)の屈折率をn
0とし、第1の膜102の第1層102a〜第3層102cの屈折率をそれぞれn
11〜n
13とし、基材101の屈折率をn
2とし、第2の膜103の第1層103a及び第2層103bの屈折率をそれぞれn
31及びn
32とする。また、第1の膜102の第1層102a〜第3層102cの各層厚をそれぞれd
11〜d
13とし、基材101の厚さをd
2とし、第2の膜103の第1層103a及び第2層103bの各層厚をそれぞれd
31及びd
32とする。なお、表面反射率R
012(λ)、R
210(λ)、及びR
230(λ)、並びに透過率T
012(λ)及びT
210(λ)の定義は第1実施形態と同様である。
【0067】
この場合、第1の表面反射率R
012(λ)は前述した数式(4)〜(6)を、第2の表面反射率R
210(λ)は前述した数式(7)〜(9)を、表面透過率T
012(λ)は前述した数式(10)〜(12)を、第1の膜101の表面における透過率T
210(λ)は前述した数式(13)〜(15)をそれぞれ書き換えることにより、第1の膜102の各層の層厚d
11、d
12、及びd
13の関数として表される。また、裏面反射率R
230(λ)は、前述した数式(16)〜(18)を書き換えることにより、第2の膜103の各層の層厚d
31及びd
32の関数として表される。従って、本変形例では、第1の膜102及び第2の膜103が単層からなる場合と同様に、ステップS133において実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い理論分光反射率R
theoryを求めたのち、ステップS134において、その理論分光反射率R
theoryの第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面透過率T
012(λ)、及び第1の膜102の表面(つまり、第1層102aの表面)における透過率T
210(λ)にフィットする理論上の反射率R
theory012(λ)、反射率R
theory210(λ)、透過率T
theory012(λ)、及び透過率T
theory210(λ)を、層厚d
11〜d
13の値を変化させながら探索する。そして、膜厚算出部30Aは、フィットしたときの層厚d
11〜d
13の値を、第1層102a〜第3層102cの各層厚として出力する。また、ステップS135において、その理論分光反射率R
theoryの裏面反射率R
230(λ)にフィットする理論上の反射率R
theory230(λ)を、層厚d
31及びd
32の値を変化させながら探索する。そして、膜厚算出部30Aは、フィットしたときの層厚d
31及びd
32の値を、第1層103a及び第2層103bの各層厚として出力する。
【0068】
第1の膜102及び第2の膜103が複数の層を含む場合、これらの層厚に応じて第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面透過率T
012(λ)、第1の膜102の表面における透過率T
210(λ)、及び裏面反射率R
230(λ)が変化し、それに伴って理論分光反射率R
theoryが変化する。従って、本変形例のように、第1の膜102及び第2の膜103がそれぞれ複数の層を含む場合であっても、実測分光反射率R
sig(λ)に最も近い理論分光反射率R
theoryの第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面透過率T
012(λ)、第1の膜102の表面における透過率T
210(λ)、及び裏面反射率R
230(λ)の値に基づいて、各層厚d
11〜d
13、d
31及びd
32を精度良く求めることができる。なお、第1実施形態と同様に、各層厚d
11〜d
13を変化させながら探索する対象は、少なくとも理論分光反射率R
theoryの第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面透過率T
012(λ)、及び第1の膜102の表面における透過率T
210(λ)のうち1つであればよい。また、第1の膜102及び第2の膜103が複数の層を含む場合には、例えば、各層厚d
11〜d
13、d
31及びd
32を変化させることによって、第1の表面反射率R
012(λ)、第2の表面反射率R
210(λ)、表面透過率T
012(λ)、第1の膜102の表面における透過率T
210(λ)、及び裏面反射率R
230(λ)を変化させ、複数の理論分光反射率R
theoryを用意し、実測分光反射率R
sig(λ)とフィットする理論分光反射率R
theoryでの各層の厚みを、各層厚d
11〜d
13、d
31及びd
32として決定してもよい。
【0069】
(第2の実施の形態)
図11は、第2実施形態による膜厚計測装置1Bの構成を模式的に示す図である。膜厚計測装置1Bは、
図1に示された計測対象物100の膜厚を計測する装置である。
図11に示されるように、膜厚計測装置1Bは、光照射部10、光検出部20B、膜厚算出部30B、制御部40、表示部50、及び入力装置60を備えている。光照射部10、制御部40、表示部50、及び入力装置60の構成は、第1実施形態と同様である。なお、計測対象物100は、図に示されるようにローラー110によって搬送されている状態であってもよく、或いは静止状態であってもよい。
【0070】
光検出部20Bは、計測対象物100の裏面101b側における透過光L3の波長毎の強度(スペクトル)を検出する。光検出部20Bは、光入射部21bと、導光部材22bと、分光検出部23bとを含んで構成されている。光入射部21bには、計測対象物100からの透過光L3が入射される。光入射部21bは、計測対象物100の第2の膜103と対向する位置、すなわち基材101の裏面101bと対向する位置に配置される。導光部材22bは、その一端が光入射部21bに光結合されており、光入射部21bに入射した透過光L3を導く。分光検出部23bは、導光部材22bの他端と光結合されており、導光部材22bによって導かれた透過光L3を波長毎に分光し、分光された波長毎の光の強度を検出する。導光部材22b及び分光検出部23bは、例えば第1実施形態の導光部材22a及び分光検出部23aと同様の構成を有することができる。分光検出部23bは、検出した光強度を電気信号として出力する。
【0071】
膜厚算出部30Bは、光検出部20Bにおける検出結果に基づいて、第1の膜102及び第2の膜103の膜厚を求める。すなわち、膜厚算出部30Bは、光検出部20Bにおける検出結果に基づいて得られる波長毎の透過率である実測分光透過率と、理論上の波長毎の透過率である理論分光透過率とを比較し、これらを互いにフィッティングすることにより、第1の膜102及び第2の膜103の膜厚を求める。
【0072】
本実施形態の理論分光透過率としては、第1の膜102の屈折率や膜厚に依存する表面101a側における透過率(表面透過率)及び反射率(表面反射率)と、第2の膜103の屈折率や膜厚に依存する裏面101b側における透過率(裏面透過率)及び反射率(裏面反射率)とが加味されたものが用いられる。数式(19)は、本実施形態の理論分光透過率T
theoryを示す式である。なお、λは波長であり、数式(19)内の各パラメータの定義及びA
2、R
210(λ)の算出式は第1実施形態と同様である。
【数19】
数式(11)に示されるように、理論分光透過率T
theoryでは、表面101a側における透過率(表面透過率)T
012(λ)に加えて、裏面101b側における透過率(裏面透過率)T
230(λ)が考慮されている。また、この理論分光透過率T
theoryでは、基材101内での多重反射成分が考慮されている。すなわち、数式(19)右辺のΣ項が基材101内での多重反射成分を示しており、この多重反射成分は、基材101側から見た裏面101bでの反射率(裏面反射率)R
230(λ)と、基材101側から見た表面101aでの反射率(表面反射率)R
210(λ)とに基づいている。
【0073】
図12は、本実施形態の膜厚計測装置1Bの動作及び膜厚計測方法を示すフローチャートである。
図12に示されるように、まず、光照射部10が、計測対象物100の表面101a側に対して白色光などの非コヒーレントな光L1を照射する(光照射ステップS31)。次に、光検出部20Bが、計測対象物100の裏面101b側における透過光L3を波長毎に分光し、各波長の強度を検出する(光検出ステップS32)。
【0074】
続いて、膜厚算出部30Bが、第1の膜102及び第2の膜103の膜厚を求める(膜厚特定ステップS33)。この膜厚特定ステップS33では、膜厚算出部30Bは、まず光検出部20Bからの検出信号に基づいて実測分光透過率を算出する(ステップS331)。このために、膜厚算出部30Bは、まず、透過光L3の波長毎の強度から透過スペクトルS’
sig(λ)を求める。次に、膜厚算出部30Bは、数式(20)に示されるように、標準計測対象物を用いて予め取得された標準透過スペクトルS’
ref(λ)と、透過スペクトルS’
sig(λ)との比を算出する。この比が、実測分光透過率T
sig(λ)となる。
【数20】
【0075】
続いて、膜厚算出部30Bは、理論分光透過率T
theoryを算出する(ステップS332)。まず、基材101の消衰係数k
2、屈折率n
2、及び厚さd
2と、第1の膜102の消衰係数k
1及び屈折率n
1と、第2の膜103の消衰係数k
3及び屈折率n
3とが操作者により入力される。膜厚算出部30Bは、数式(20)の表面透過率T
012(λ)、表面反射率R
210(λ)、裏面透過率T
230(λ)、及び反射率R
230(λ)の各値をそれぞれ変化させて、複数の表面透過率T
012(λ)及び表面反射率R
210(λ)の値と複数の裏面透過率T
230(λ)及び裏面反射率R
230(λ)の値との組み合わせを含む複数の理論分光透過率T
theoryを求める。
【0076】
続いて、膜厚算出部30Bは、複数の理論分光透過率T
theoryと実測分光透過率T
sig(λ)とを相互に比較し、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い(フィットする)理論分光透過率T
theoryを求める(ステップS333)。このステップS333では、例えば最小二乗法が用いられる。すなわち、膜厚算出部30Bは、複数の理論分光透過率T
theoryそれぞれに対して、実測分光透過率T
sig(λ)と理論分光透過率T
theoryとの差の2乗の値を求め、その値が最小となる理論分光透過率T
theoryを選択する。
【0077】
続いて、膜厚算出部30Bは、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い(フィットする)理論分光透過率T
theoryに基づいて、第1の膜102の膜厚d
1を算出する(ステップS334)。理論的な表面透過率T
theory012(λ)は、次の数式(21)〜(23)に示されるように、膜厚d
1の関数となっている。なお、数式(21)〜(23)において、t
01は空気と第1の膜102との界面における振幅透過係数であり、t
12は第1の膜102と基材101との界面における振幅透過係数であり、N
1=n
1−ik
1である。
【数21】
【数22】
【数23】
【0078】
理論的な表面反射率R
theory210(λ)もまた、次の数式(24)〜(26)に示されるように、膜厚d
1の関数となっている。
【数24】
【数25】
【数26】
そこで、膜厚算出部30Bは、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い(フィットする)理論分光透過率T
theoryにおける表面透過率T
theory012(λ)及び表面反射率R
theory210(λ)に基づいて、数式(21)〜(23)及び数式(24)〜(26)を用いて膜厚d
1の値を算出し、それらの平均値を計測対象物100の第1の膜102の膜厚として出力する。
【0079】
また、膜厚算出部30Bは、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い(フィットする)理論分光透過率T
theoryに基づいて、第2の膜103の膜厚d
3を算出する(ステップS335)。理論的な裏面透過率T
theory230(λ)は、次の数式(27)〜(29)に示されるように、膜厚d
3の関数となっている。なお、数式(27)〜(29)において、t
23は基材101と第2の膜103との界面における振幅透過係数であり、t
30は第2の膜103と空気との界面における振幅透過係数であり、N
3=n
3−ik
3である。
【数27】
【数28】
【数29】
【0080】
理論的な裏面反射率R
theory230(λ)もまた、次の数式(30)〜(32)に示されるように、膜厚d
3の関数となっている。
【数30】
【数31】
【数32】
そこで、膜厚算出部30Bは、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い(フィットする)理論分光透過率T
theoryにおける裏面透過率T
theory230(λ)及び裏面反射率R
theory230(λ)に基づいて、数式(27)〜(29)及び数式(30)〜(32)を用いて膜厚d
3の値を算出し、それらの平均値を計測対象物100の第2の膜103の膜厚として出力する。
【0081】
上記のように、本実施形態の膜厚特定ステップS33では、膜厚算出部30Bが、光検出ステップS32における検出結果に基づいて得られる実測分光透過率T
sig(λ)と、表面101a側における表面透過率T
012(λ)及び表面反射率R
210(λ)、並びに裏面101b側における裏面透過率T
230(λ)及び裏面反射率R
230(λ)が加味された理論分光透過率T
theoryとを比較することにより、第1の膜102の膜厚d
1及び第2の膜103の膜厚d
3を求める。なお、第1の膜102の膜厚d
1を算出するステップS334と、第2の膜103の膜厚d
3を算出するステップS335との順序は任意であり、ステップS335から先に行ってもよく、ステップS334及びS335を並行して行ってもよい。
【0082】
なお、本実施形態では、予め複数の理論分光透過率T
theoryを算出しておき、これらの理論分光透過率T
theoryに対して実測分光透過率T
sig(λ)をフィットさせる例を示したが、理論分光透過率T
theoryと実測分光透過率T
sig(λ)とのフィッティングはこのような形態に限られない。例えば、第1実施形態の
図8に示された方法と同様に、次のような方法でフィッティングを行ってもよい。すなわち、各一つの表面透過率T
012(λ)、表面反射率R
210(λ)、裏面透過率T
230(λ)及び裏面反射率R
230(λ)の組み合わせからなる一つの理論分光透過率T
theoryを算出する。この理論分光透過率T
theoryと実測分光透過率T
sig(λ)とのフィッティングを行う。フィットしない(差の2乗が閾値を超えている等の)場合に、表面透過率T
012(λ)、表面反射率R
210(λ)、裏面透過率T
230(λ)、及び裏面反射率R
230(λ)の組み合わせを変更し、再度、変更後の理論分光透過率T
theoryと実測分光透過率T
sig(λ)とのフィッティングを行う。このような処理を繰り返すことによって、複数の理論分光透過率T
theoryのうち、実測分光透過率T
sig(λ)とフィットする理論分光透過率T
theoryを求めることができる。
【0083】
また、本実施形態では、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い理論分光透過率T
theory(λ)における表面透過率T
012(λ)の値、表面反射率R
210(λ)の値、裏面透過率T
230(λ)の値、及び裏面反射率R
230(λ)の値とから第1の膜102の膜厚d
1及び第2の膜103の膜厚d
3を求める例を示したが、数式(23)及び(26)の第1の膜102の膜厚d
1の値と、数式(29)及び(32)の第2の膜103の膜厚d
3とをそれぞれ変化させることにより、理論分光反射率R
theoryを用意してもよい。すなわち、例えば、第1実施形態の
図9に示された方法と同様に、まず、複数の第1の膜102の膜厚d
1の値及び第2の膜103の膜厚d
3の値を設定し、設定された複数の膜厚d
1の値及び膜厚d
3の値における複数の表面透過率T
012(λ)の値、複数の表面反射率R
210(λ)の値、複数の裏面透過率T
230(λ)の値、及び複数の裏面反射率R
230(λ)の値をそれぞれ算出し、算出された複数の第1の表面透過率T
012(λ)の値、複数の第2の表面反射率R
210(λ)の値、複数の裏面透過率T
230(λ)の値、及び複数の裏面反射率R
230(λ)の値に対応する複数の理論分光透過率T
theoryを算出してもよい。また、
図7に示された反射率及び透過率の変更ステップS139において、第1の膜102の膜厚d
1の値および第2の膜103の膜厚d
3の値を変更することにより、各反射率及び透過率の値を変更してもよい。これらの場合、或る膜厚d
1の値と或る膜厚d
3の値とに対応する理論分光透過率T
theory(λ)を実測分光透過率T
sig(λ)と比較することができるため、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い理論分光透過率T
theory(λ)を求めることによって、表面膜の膜厚d
1の算出ステップS134及び裏面膜の膜厚d
3の算出ステップS135を行わなくても、膜厚d
1の値及び膜厚d
3の値を決定することができる。
【0084】
以上に説明した、本実施形態による膜厚計測装置1B及び膜厚計測方法によって得られる効果について説明する。本実施形態では、膜厚特定ステップS33において、膜厚算出部30Bが、表面101a側における表面透過率T
012(λ)、表面反射率R
210(λ)、裏面101b側における裏面透過率T
230(λ)、及び裏面反射率R
230(λ)が加味された理論分光透過率T
theoryと、実測分光透過率T
sig(λ)との比較(フィッティング)を行っている。そして、表面101a側の表面透過率T
012(λ)、表面反射率R
210(λ)、裏面101b側における裏面透過率T
230(λ)、及び裏面反射率R
230(λ)をそれぞれ変化させて得られる複数の理論分光透過率T
theoryのうち、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い理論分光透過率T
theoryに基づいて、第1の膜102の膜厚d
1を決定している。これにより、裏面101b側の第2の膜103による影響を理論分光透過率T
theoryに反映させることができるので、裏面101b上に形成されている第2の膜103の厚さや屈折率の影響を考慮して、表面101a上の第1の膜102の膜厚d
1を精度良く計測することができる。
【0085】
また、本実施形態のように、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い理論分光透過率T
theoryに基づいて、第2の膜103の膜厚d
3を決定してもよい。これにより、表面101a上の第1の膜102の膜厚d
1と、裏面101b上の第2の膜103の膜厚d
3との双方を、一回の計測で同時に精度良く計測することができる。なお、この場合、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い理論分光透過率T
theoryの裏面透過率T
230(λ)及び裏面反射率R
230(λ)の値に基づいて、第2の膜103の膜厚d
3を算出してもよい。また、本実施形態の膜厚特定ステップS33及び膜厚算出部30Bでは、第1の膜102の膜厚d
1と第2の膜103の膜厚d
3とを算出しているが、第1の膜102の膜厚d
1のみを算出してもよい。
【0086】
また、本実施形態では実測分光透過率T
sig(λ)と理論分光透過率T
theoryとを直接的にフィッティングしているが、例えば、実測分光透過率T
sig(λ)と理論分光透過率T
theoryとをそれぞれフーリエ変換し、実測分光透過率T
sig(λ)の周波数分布と理論分光透過率T
theoryの周波数分布とを相互にフィッティングしてもよい。
【0087】
(第2の変形例)
第2実施形態では第1の膜102及び第2の膜103が単層からなる場合を例示したが、第1の膜102及び第2の膜103の一方または双方が複数の層を含む場合であっても、各層の層厚を求めることが可能である。本変形例の理論分光透過率としては、第1の膜102に含まれる複数の層の屈折率や層厚に依存する表面101a側における透過率(表面透過率)及び反射率(表面反射率)と、第2の膜103に含まれる複数の層の屈折率や層厚に依存する裏面101b側における透過率(裏面透過率)及び反射率(裏面反射率)とが加味されたものが用いられる。
【0088】
第1実施形態の
図10に示された構成について考える。この場合、理論上の表面透過率T
theory012(λ)及び表面反射率R
theory210(λ)は、前述した数式(21)〜(26)を書き換えることにより、第1の膜102の各層の層厚d
11、d
12、及びd
13の関数として表される。また、理論上の裏面透過率T
theory230(λ)及び裏面反射率R
theory230(λ)は、前述した数式(27)〜(32)を書き換えることにより、第2の膜103の各層の層厚d
31及びd
32の関数として表される。従って、本変形例では、第1の膜102及び第2の膜103が単層からなる場合と同様に、ステップS333において実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い理論分光透過率T
theoryを求めたのち、ステップS334において、層厚d
11〜d
13の値を変化させながらフィッティングを行う。そして、透過率T
theory012(λ)及び反射率R
theory210(λ)それぞれが、ステップS333において選択された理論分光透過率T
theoryの表面透過率T
012(λ)及び表面反射率R
210(λ)それぞれに最も近づくときの層厚d
11〜d
13の値をそれぞれ算出し、それらの平均値もしくは最小二乗値を第1層102a〜第3層102cの各層厚として出力する。また、ステップS335において、層厚d
31及びd
32の値を変化させながらフィッティングを行う。そして、裏面透過率T
theory230(λ)及び裏面反射率R
theory230(λ)それぞれが、ステップS333において選択された理論分光透過率T
theoryの裏面透過率T
230(λ)及び裏面反射率R
230(λ)それぞれに最も近づくときの層厚d
31及びd
32の値をそれぞれ算出し、それらの平均値もしくは最小二乗値を第1層103a及び第2層103bの各層厚として出力する。
【0089】
第1の膜102及び第2の膜103が複数の層を含む場合、これらの層厚に応じて表面透過率T
012(λ)、表面反射率R
210(λ)、裏面透過率T
230(λ)、及び裏面反射率R
230(λ)が変化し、それに伴って理論分光透過率T
theoryが変化する。従って、本変形例のように、第1の膜102及び第2の膜103がそれぞれ複数の層を含む場合であっても、実測分光透過率T
sig(λ)に最も近い理論分光透過率T
theoryの表面透過率T
012(λ)、表面反射率R
210(λ)、裏面透過率T
230(λ)、及び裏面反射率R
230(λ)の値に基づいて、各層厚d
11〜d
13、d
31及びd
32を精度良く求めることができる。なお、第1実施形態と同様に、各層厚d
11〜d
13を変化させながら探索する対象は、少なくとも理論分光透過率T
theoryの表面透過率T
012(λ)、表面反射率R
210(λ)のうち1つであればよい。また、第1の膜102及び第2の膜103が複数の層を含む場合、例えば、各層厚d
11〜d
13、d
31及びd
32を変化させることによって、表面透過率T
012(λ)、表面反射率R
210(λ)、裏面透過率T
230(λ)及び裏面反射率R
230(λ)を変化させ、複数の理論分光反射率R
theoryを用意し、実測分光反射率R
sig(λ)とフィットする理論分光反射率R
theoryでの各層の厚みを、各層厚d
11〜d
13、d
31及びd
32として決定してもよい。
【0090】
本発明による膜厚計測方法及び膜厚計測装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では理論分光反射率を数式(1)〜(3)によって求め、理論分光透過率を数式(11)によって求めているが、理論分光反射率及び理論分光透過率を算出する数式はこれらに限定されず、任意の数式を用いることができる。