特許第6290639号(P6290639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290639
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ユーグレナの培養方法及びその培養液
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20180226BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20180226BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20180226BHJP
【FI】
   C12N1/12 A
   C12N1/12 B
   !C12N1/00 F
   !C12M1/00 E
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-17793(P2014-17793)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-144570(P2015-144570A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年12月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「バイオマスエネルギー技術研究開発/戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業(次世代技術開発)/微細藻由来のバイオジェット燃料製造に関する要素技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【弁理士】
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】嵐田 亮
(72)【発明者】
【氏名】丸川 祐佳
(72)【発明者】
【氏名】武田 誠也
(72)【発明者】
【氏名】青木 信雄
(72)【発明者】
【氏名】上田 巌
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏明
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−115981(JP,A)
【文献】 特開平07−241585(JP,A)
【文献】 特開2011−246605(JP,A)
【文献】 中国特許第101633894(CN,B)
【文献】 特開2007−054027(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/073945(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12M 1/00− 3/10
C12N 1/00−15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナの培養に必要な栄養源を含む培養原液に、Fe(III)を含有し、1.5〜80重量%のFeを含有する多孔質焼成体である固体材料が浸漬されてなるFe(III)含有培養液中で、ユーグレナを培養することを特徴とするユーグレナの培養方法。
【請求項2】
前記培養原液に前記ユーグレナを添加するユーグレナ添加工程と、
該ユーグレナ添加工程と同時又は前記ユーグレナ添加工程の前に、又は、前記ユーグレナ添加工程の後でかつ前記ユーグレナの増殖サイクルが定常期に達する前に、前記培養原液に前記固体材料を添加することにより、前記Fe(III)含有培養液を作製する固体材料添加工程と、
前記Fe(III)含有培養液中で前記ユーグレナを培養する培養工程と、
を行うことを特徴とする請求項1記載のユーグレナの培養方法。
【請求項3】
前記培養工程を、前記培養原液中の窒素源が消尽される時点よりも後の時点まで行うことを特徴とする請求項2記載のユーグレナの培養方法。
【請求項4】
前記固体材料添加工程では、前記固体材料を、前記培養原液に対し、0.2g/ml未満の量添加することを特徴とする請求項2又は3記載のユーグレナの培養方法。
【請求項5】
前記固体材料により前記ユーグレナの死細胞の発生を抑制することによって、前記ユーグレナの増殖を促進することを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載のユーグレナの培養方法。
【請求項6】
Fe(III)を含有し、1.5〜80重量%のFeを含有する多孔質焼成体である固体材料が、ユーグレナの培養に必要な栄養源を含む培養原液に浸漬されてなるユーグレナの培養液。
【請求項7】
前記固体材料は、前記多孔質焼成体を、0.2g/ml未満の割合で含むことを特徴とする請求項6記載のユーグレナの培養液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーグレナを培養する培養方法及びその培養液に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーグレナ(属名:Euglena,和名:ミドリムシ)は、食糧,飼料,燃料等としての利用が有望視されている。
例えば、ユーグレナは、ビタミン,ミネラル,アミノ酸,不飽和脂肪酸など、人間が生きていくために必要な栄養素の大半に該当する59種類もの栄養素を備え、多種類の栄養素をバランスよく摂取するためのサプリメントとしての利用や、必要な栄養素を摂取できない貧困地域での食糧供給源としての利用の可能性が提案されている。
更に、ユーグレナは、高タンパクで栄養価が高いため、家畜や養殖魚の飼料としての活用も期待されている。
【0003】
また、ユーグレナは、光合成によって二酸化炭素を固定して成長するとき、油脂分を作り出しており、これはバイオ燃料の元として利用可能である。
バイオ燃料は、石油などの化石燃料と違って資源が枯渇する心配がない。また、化石燃料は燃料として使用することで新たに二酸化炭素を排出するが、バイオ燃料は、原料となる植物,藻類が成長する際に二酸化炭素を固定し、それを燃料として排出する。従って、全体で見れば二酸化炭素の排出量が増えないことになり、温暖化の防止に効果があるものと考えられている。
更に、トウモロコシ等、可食部を原料とするバイオ燃料は、バイオ燃料としての用途と食糧としての用途とが競合し、バイオ燃料として用いることにより食糧の不足や値上がりを引き起こす恐れがあるが、ユーグレナは、現状、可食部としての消費がないことから、食糧としての用途との競合が生じない。
【0004】
以上のように、ユーグレナは、食糧,飼料,燃料としての利用が有望視され、長い間、注目を浴びてきた。しかしユーグレナは、食物連鎖の最底辺に位置し、捕食者により捕食されることや、光,温度条件,撹拌速度などの培養条件が他の微生物に比べて難しいなどの理由から、大量培養に成功した例は、非常に少なく、本発明者らが成功した以外には知られていない。
しかし現在においても、上述したユーグレナの産業上有用性に鑑みると、更なる収量の向上が望まれている。
従来、収量を向上させるための技術として、海洋深層水を培地に添加してユーグレナ細胞を培養する方法や(例えば、特許文献1)、流加基質として炭素源及び窒素源を添加しながらユーグレナの流加培養を行う方法(例えば、特許文献2)が、知られているが、例えば、バイオ燃料としての用途のためには、大量のユーグレナの安定供給が求められることから、更なるユーグレナの収量向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−190271号公報
【特許文献2】特開平7−67620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ユーグレナの増殖が促進されたユーグレナの培養方法及びその培養液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ユーグレナの収量を向上する必要があると考え鋭意研究を行った。その過程において、偶然にも、培養液にFe(III)を含有する固体材料を浸漬させてユーグレナの培養を行った場合に、ユーグレナの増殖が促進されることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
前記課題は、請求項1のユーグレナの培養方法によれば、ユーグレナの培養に必要な栄養源を含む培養原液に、Fe(III)を含有し、1.5〜80重量%のFeを含有する多孔質焼成体である固体材料が浸漬されてなるFe(III)含有培養液中で、ユーグレナを培養すること、により解決される。
このように構成することにより、ユーグレナの培養方法において、ユーグレナの増殖を促進し、収率を向上できる。
【0009】
この増殖促進のメカニズムについては、現在のところ詳細には分かっていないが、次のように考えられる。
ユーグレナの培養に必要な栄養源を含むCramer-Myers培地(CM培地)等の培養液には、元々Fe(II)(二価の鉄)が含まれているが、Fe(III)(三価の鉄)は含まれていない。
このようなユーグレナの培養液に、Fe(III)を含有する固体材料を浸漬させると、この固体材料から三価の鉄が溶出し、これが、培地中の窒素源が消費されてしまった後の増殖に寄与していると考えられる。
また、三価の鉄は培養中では不安定であり容易に二価に還元されてしまうので、固体材料を取り去るとユーグレナの増殖促進効果が出なくなるが、このように、Fe(III)を含有する固体材料が浸漬されてなるFe(III)含有培養液中で、ユーグレナを培養するため、ユーグレナの増殖を促進し、収率を向上できる。
【0010】
このとき、前記培養原液に前記ユーグレナを添加するユーグレナ添加工程と、該ユーグレナ添加工程と同時又は前記ユーグレナ添加工程の前に、又は、前記ユーグレナ添加工程の後でかつ前記ユーグレナの増殖サイクルが定常期に達する前に、前記培養原液に前記固体材料を添加することにより、前記Fe(III)含有培養液を作製する固体材料添加工程と、前記Fe(III)含有培養液中で前記ユーグレナを培養する培養工程と、を行ってもよい。
本発明者らの鋭意研究の結果、ユーグレナの増殖サイクルが定常期に達する前に固体材料を添加することにより、ユーグレナの増殖促進効果が得られることが分かったため、このように構成することにより、ユーグレナの培養方法において、ユーグレナの増殖を促進し、収率を向上できる。
【0011】
このとき、前記培養工程を、前記培養原液中の窒素源が消尽される時点よりも後の時点まで行ってもよい。
本発明者らの鋭意研究の結果、培養液中の窒素源が消費されてしまった後の増殖を特に促進することが分かったため、このように構成することにより、より効率よくユーグレナの増殖を促進し、収率を向上できる。
【0012】
このとき、前記固体材料添加工程では、前記固体材料を、前記培養原液に対し、0.2g/ml未満の量を添加してもよい。
培養液中に、Fe含量が80重量%を超える固体材料を浸漬すると、固体材料が崩れやすく、培養液が赤くなるため、培養液の物理的取扱いが煩わしくなるが、このように、固体材料の含量を80重量%以下としているため、培養液の物理的取扱いが容易になる。
また、固体材料中のFe含量を1.5重量%以上としているため、Fe(III)によるユーグレナの増殖促進効果を得ることができる。
固体材料の培養液中の添加量を0.2g/ml未満としているため、固体材料にユーグレナが絡められることによりユーグレナの増殖促進作用が抑制されることを、防ぐことができる。
【0013】
このとき、前記固体材料により前記ユーグレナの死細胞の発生を抑制することによって、前記ユーグレナの増殖を促進してもよい。
発明者らの鋭意研究により、固体材料を浸漬しない従来の培養液でユーグレナを培養したときに検出されるユーグレナの死細胞のピークが、本発明の固体材料が浸漬された培養液でユーグレナを培養したときには検出されないことが証明された。固体材料は、このように、ユーグレナの死細胞の発生を抑制することにより、培養中におけるユーグレナの増殖を促進し、収率を向上できる。
【0014】
前記課題は、請求項6のユーグレナの培養液によれば、Fe(III)を含有し、1.5〜80重量%のFeを含有する多孔質焼成体である固体材料が、ユーグレナの培養に必要な栄養源を含む培養原液に浸漬されていること、により解決される。
三価の鉄は培養中では不安定であり容易に二価に還元されてしまうので、固体材料を取り去るとユーグレナの増殖促進効果が出なくなるが、このように、本発明のユーグレナの培養液は、Fe(III)を含有する固体材料が浸漬されているため、Fe(III)含有培養液中でのユーグレナの培養が可能となり、ユーグレナの増殖を促進し、収率を向上できる。
【0015】
このとき、前記固体材料は、前記多孔質焼成体を、0.2g/ml未満の割合で含んでいてもよい。
培養液中に、Fe含量が80重量%を超える固体材料を浸漬すると、固体材料が崩れやすく、培養液が赤くなるため、培養液の物理的取扱いが煩わしくなるが、このように、固体材料の含量を80重量%以下としているため、培養液の物理的取扱いが容易になる。
また、固体材料中のFe含量を1.5重量%以上としているため、Fe(III)によるユーグレナの増殖促進効果を得ることができる。
固体材料の培養液中の添加量を0.2g/ml未満としているため、固体材料にユーグレナが絡められることによりユーグレナの増殖促進作用が抑制されることを、防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ユーグレナの培養方法において、ユーグレナの増殖を促進し、収率を向上できる。
この増殖促進のメカニズムについては、現在のところ詳細には分かっていないが、次のように考えられる。
ユーグレナの培養に必要な栄養源を含むCramer-Myers培地(CM培地)等の培養液には、元々Fe(II)(二価の鉄)が含まれているが、Fe(III)(三価の鉄)は含まれていない。
このようなユーグレナの培養液に、Fe(III)を含有する固体材料を浸漬させると、この固体材料から三価の鉄が溶出し、これが、培地中の窒素源が消費されてしまった後の増殖に寄与していると考えられる。
また、三価の鉄は培養中では不安定であり容易に二価に還元されてしまうので、固体材料を取り去るとユーグレナの増殖促進効果が出なくなるが、このように、Fe(III)を含有する固体材料が浸漬されてなるFe(III)含有培養液中で、ユーグレナを培養するため、ユーグレナの増殖を促進し、収率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を培養液に添加してユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図2】Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を培養液に添加してユーグレナを培養したときの細胞数の測定結果を示すグラフである。
図3】Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を培養液に添加してユーグレナを培養したときの濁度の変化及びアンモニア濃度の変化を示すグラフである。
図4】5倍量のFe(III)を含有する多孔質低温焼成体を培養液に添加しユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図5】Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を継続利用してユーグレナを培養(2週間目)したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図6】Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を継続利用してユーグレナを培養(3週間目)したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図7】Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を1週間入れた培養液でユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図8】ユーグレナの培養定常期にFe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加してユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図9】窒素源欠乏培養液にFe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図10】Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体の破砕物を利用してユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図11】Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加し、pH7とした培養液でユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図12】Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加して培養した種を次の培養に利用してユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図13】明期及び暗期を設定し、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときの藻体濃度を示すグラフである。
図14】明期及び暗期を設定し、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときの細胞数を示すグラフである。
図15】明期及び暗期を設定し、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときの細胞体積を示すグラフである。
図16】明期及び暗期を設定し、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときのユーグレナの夜間減少量を示すグラフである。
図17】明期及び暗期を設定し、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときのユーグレナの夜間減少率を示すグラフである。
図18】多孔質低温焼成体及びFe焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図19】多孔質低温焼成体及びFe焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときのユーグレナの粒子径のヒストグラム及び細胞数を示す図である。
図20】Fe(II)を添加した培養液でユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図21】800℃で焼成したFe焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図22】1000℃で焼成したFe焼成体を添加した培養液でユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
図23】Fe焼成体の添加量を変化させた培養液でユーグレナを培養したときの濁度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同様の意味を有する。本明細書に記載されたものと同様又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。
本明細書において、「ユーグレナの定常期」とは、ユーグレナの培養における細胞数と培養時間の関係を表現した増殖曲線の期間区分の一つであり、増殖する細胞と死滅する細胞が平衡状態にあって、それ以上見かけ上の細胞数の増減がなく、細胞数が一定の値を保っている期間のことをいう。定常期は、培養開始後、細胞数が増加する対数増殖期の後の期間であり、定常期の後には、細胞数が減少する死亡期が続く。
本発明は、ユーグレナ(Euglena)属の培養方法及びその培養液に関する。
<<ユーグレナ>>
本発明の「ユーグレナ」とは、動物学や植物学の分類でユーグレナ属(Euglena)に分類される植物、その変種、その変異種のすべてを含み、かつα−グルコシダーゼ活性の阻害作用を有する成分を含むすべての植物を意味する。
【0019】
ここで、ユーグレナ属(Euglena)の微生物とは、動物学では原生動物門(Protozoa)の鞭毛虫綱(Mastigophorea)、植物鞭毛虫亜綱(Phytomastigophorea)に属するミドリムシ目(Euglenida)のユーグレノイディナ亜目(Euglenoidina)に属する微生物である。一方、ユーグレナ属の微生物は、植物学ではミドリムシ植物門(Euglenophyta)のミドリムシ藻類綱(Euglenophyceae)に属するミドリムシ目(Euglenales)に属している。
【0020】
ユーグレナ属の微生物としては、具体的には、Euglena acus、Euglena caudata、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis、Euglena granulata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena oxyuris、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridis、Euglena vermiformis、Euglena intermedia, Euglena pirideなどが挙げられる。このうち特に、広く研究に利用されているユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)が好適である。特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株が挙げられる。
また、そのほか、ユーグレナ・グラシリス・クレブス,ユーグレナ・グラシリス・バルバチラス等の種や、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM−ZK株(葉緑体欠損株)や変種のvar. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株を用いてもよい。また、その他のユーグレナ類、例えばAstaia longaを用いてもよい。
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用してもよく、また、すでに単離されている任意のユーグレナ属を使用してもよい。
【0021】
本発明のユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え、形質導入、形質転換等により得られたものも含有される。
【0022】
<<ユーグレナの培養液>>
本実施形態のユーグレナの培養方法に用いられるユーグレナの培養液は、Fe(III)を含有する固体材料が、ユーグレナの培養に必要な栄養源を含む培養原液に浸漬されてなる。
ユーグレナの培養に必要な栄養源とは、例えば、窒素源,リン源,ミネラルなどの栄養塩類をいう。
ユーグレナの培養に必要な栄養源を含む培養原液とは、ユーグレナの培養に一般的に用いられる公知の培養液をいい、例えば、改変Cramer-Myers培地((NHHPO 1.0g/L,KHPO 1.0g/L,MgSO・7HO 0.2g/L,CaCl・2HO 0.02g/L,FeSO・7HO 3mg/L,MnCl・4HO 1.8mg/L,CoSO・7HO 1.5mg/L,ZnSO・7HO 0.4mg/L,NaMoO・2HO 0.2mg/L,CuSO・5HO 0.02mg/L,チアミン塩酸塩(ビタミンB) 0.1mg/L,シアノコバラミン(ビタミンB12)、(pH3.5))を用いることができる。なお、(NHHPOは、(NHSOやNHaqに変換することも可能である。
【0023】
また、そのほか、ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、株式会社学会出版センター)の記載に基づき調製される公知のHutner培地,Koren-Hutner培地(以下、KH培地という。),ユーグレナの従属栄養培地として一般的に使用されるKoren-Hutner培地からグルコース、リンゴ酸、アミノ酸等の従属栄養成分を除いた独立栄養培地であるAY培地等を用いてもよい。
【0024】
培養液のpHは好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは3.5以上であり、また、その上限は、好ましくは7以下、より好ましくは6.5以下、さらに好ましくは4.5以下である。pHを酸性側にすることにより、光合成微生物は他の微生物よりも優勢に生育することができるため、コンタミネーションを抑制することができる。
【0025】
Fe(III)を含有する固体材料は、三価の鉄イオンを生ずる鉄化合物を含有する固体材料である。三価の鉄イオンとは、三価の鉄化合物を水溶液中に溶解させたときに生じる鉄イオンだけでなく、二価の鉄化合物を水溶液中に溶解させて生じた二価の鉄イオンを酸化させたときに生じる鉄イオンも含む意味である。
固体材料に配合する鉄化合物としては、三価の鉄化合物が好ましく、例えば、Feをいう。その他にも、クエン酸第二鉄アンモニウム、硫酸第二鉄、塩化第二鉄などが挙げられる。これらは単独で配合してもよく、また、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0026】
Fe(III)を含有する固体材料としては、Feを含む混合物の焼成体,例えば、Feと粘土を混合して焼成した陶器状のFe焼成体を用いることができる。
Fe焼成体は例えば、Feと粘土を、モルタルミキサー等を用いて混合し、成形後、焼成することにより作製されていてもよい。
【0027】
Fe焼成体は、次の方法により作製される。
まず、Feと粘土とを混合する混合工程を行う。この工程では、Feと粘土との混合比率(重量比)を1:10〜10:1とする。また、カードラン(β−1,3−グルカン)などの人工可塑剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アビセル(微結晶性セルロース)などの結合剤(粘結剤)等からなる成形助剤を、混合物100重量部あたり0.3重量部から1.5重量部程度添加してもよい。
混合工程の後、混合工程で得られた混合物を、例えば、直径6〜7mmの丸玉状(粒状物)に成形する成形工程を行う。なお、成形形状としては、丸玉状に限定されるものではなく、平板状、円盤状、立方体状、筒状、柱状、ハニカム状などに成形してもよい。これらの成形は、例えば、加圧成形法等によって行うことができる。なお、成形しやすいように、成形前に混合物に水を噴霧(添加)してもよい。また、成形後は、風乾、加熱乾燥させることが好ましい。
【0028】
その後、成形物を焼成する焼成工程を行う。
成形物の焼成は、700〜1100℃で、8〜30時間、好ましくは、8〜15時間行うことが好ましい。成形物の焼成温度は、800〜1050℃とすると、より好適である。850〜1000℃とすると、焼成体の取り扱いが容易となり、更に好ましい。また、焼成は、酸化焼成を行うことが好ましい。
作製されたFe焼成体は、多孔質体である。Fe焼成体は、使用時に崩れない程度の圧縮破壊強度を有していることが好ましく、少なくとも300N程度の強度を有していることが好ましい。
Fe焼成体は、十分な比表面積を有していることが好ましく、Fe焼成体の比表面積は、5〜400m/gであることが好ましい。
【0029】
なお、Fe(III)を含有する固体材料は、Feを1.5〜80重量%含む焼成体であればよく、そのほか、SiO,Al,KO,CaO,NaO,MgO,TiO,B等を含んでいてもよい。
Fe(III)を含有する固体材料中のFe含量が1.5重量%よりも少なくなると、ユーグレナの増殖促進効果を得るために、Fe(III)を含有する固体材料を多量に添加する必要が生じる。固体材料を多量に添加すると、固体材料にユーグレナが絡められることにより、ユーグレナの増殖促進効果が低下し、結果として、十分なユーグレナの増殖促進効果が得られにくくなる。
Fe(III)を含有する固体材料中のFe含量が80重量%よりも多くなると、培養液中でFe(III)を含有する固体材料が崩れやすくなり、取り扱いがしにくくなる。
例えば、Fe(III)を含有する固体材料として、トルマリン約15重量%,クリノプチロライト約30重量%,モルデナイト約20重量%,グラニットポーフィリー約30重量%と、造粒剤を混合して直径7mmの丸玉状に造粒し、750〜950℃という低温で、10〜30時間という長時間をかけて焼成することにより作製したFe(III)を含有する多孔質低温焼成体を用いてもよい。
【0030】
<<ユーグレナの培養方法>>
本実施形態のユーグレナの培養方法は、ユーグレナの培養に必要な栄養源を含む培養原液に、Fe(III)を含有する固体材料が浸漬されてなるFe(III)含有培養液中で、ユーグレナを培養する方法である。
本実施形態のユーグレナの培養方法は、フラスコ培養や発酵槽を用いた培養,回分培養法,半回分培養法(流加培養法),連続培養法(灌流培養法)等、いずれの液体培養法により行ってもよい。
【0031】
本実施形態のユーグレナの培養方法では、まず、ユーグレナの培養に必要な栄養源を含む培養原液を、試験管,ビーカー等の培養槽や、屋外の大型の培養槽等に入れる。
次いで、この培養原液に、Fe(III)を含有する固体材料を浸漬させ、培養液を調製し、ユーグレナを添加して植菌する。
なお、固体材料の添加は、ユーグレナの添加と同時でもよいし、ユーグレナの添加の前に行ってもよい。固体材料は、培養原液量に対して、2.0×10−4g/mlより多く、0.2g/ml未満の量を添加するとよい。より好ましくは、固体材料は、培養原液量に対して、5.0×10−4g/ml〜0.04g/ml添加するとよい。
また、ユーグレナの添加後に固体材料を添加してもよいが、固体材料の添加は、ユーグレナの増殖サイクルが、定常期に達する前に行う。
【0032】
その後、固体材料が培養原液に浸漬された状態で、ユーグレナの培養を行う。
ユーグレナの培養原液中の初期濃度は、1.5×10cells/ml未満とすると好適である。本発明者らの研究の結果、1.5×10cells/mlを超えると、Fe(III)を含有する固体材料によるユーグレナの増殖促進効果が得られない。
ユーグレナの培養は、例えば、好ましくはpH2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは3.5以上で、また、好ましくはpH7以下、より好ましくは6.5以下、さらに好ましくは4.5以下で行う。
また、COを資化するため、1〜20%COを含む空気を培地中に通過させてもよい。培養温度は、通常20〜34℃で、特に28〜30℃が好適である。
ユーグレナの培養は、少なくとも、培養液中の窒素源が消費され尽くす時点よりも後の時点まで行う。具体的には、培養日数は、少なくとも、4日以上とし、例えば、1〜3週間でもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実験例1 Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体による効果の確認)
本実験例では、ユーグレナの培養液にFe(III)を含有する多孔質低温焼成体を浸漬したときの影響について確認を行った。
まず、CM培地(初発pH3.5)を調製し、直径30mmのガラス製試験管に50mLを入れ、本発明の培養原液とした。
ここで、CM培地は、次の通りである。
(NHHPO 1.0g/L,KHPO 1.0g/L,MgSO・7HO 0.2g/L,CaCl・2HO 0.02g/L,クエン酸 3Na・2HO 0.8g/L,FeSO・7HO 3mg/L,MnCl・4HO 1.8mg/L,CoSO・7HO 1.5mg/L,ZnSO・7HO 0.4mg/L,NaMoO・2HO 0.2mg/L,CuSO・5HO 0.02mg/L,チアミン塩酸塩(ビタミンB) 0.1mg/L,シアノコバラミン(ビタミンB12 0.0005mg/Lである。
【0034】
次いで、この培養原液に、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体2gを添加し、浸漬して、実施例1の培養液を調製した。実施例1の培養液では、培養原液量に対する多孔質低温焼成体の重さの比率が、0.04g/mlであった。
実施例1のFe(III)を含有する多孔質低温焼成体は、トルマリン約15重量%,クリノプチロライト約30重量%,モルデナイト約20重量%,グラニットポーフィリー約30重量%と、造粒剤を混合して直径7mmの丸玉状に造粒し、800℃で、30時間焼成することにより作製したものである。
【0035】
実施例1の多孔質低温焼成体は、SiOを66.8重量%,Alを22.2重量%,Feを2.4重量%のほか、KO,CaO,NaO,MgO,TiO,Bを含有していた。比表面積は12.6m/g,細孔容積は0.083cm/gであった。実施例1の培養液では、培養原液量に対するFeの重さの比率が、9.6×10−4g/mlであった。なお、比表面積および細孔容積は水銀圧入法を用いて測定した。
また、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体2gを添加していない培養原液のみのものを、対比例1の培養液とした。
【0036】
次いで、実施例1及び対比例1の培養液に、それぞれ、Euglena gracilis Z株(八重山株)を、初期濃度OD680=0.1となるように添加して、ユーグレナの培養を行った。このとき、COを、通気濃度15%、通気流量0.1vvmで通気しながら撹拌した。光条件は、蛍光灯を用いた24時間照射、水温は、29℃の一定温度とした。
分光光度計(UVmini―1240,島津製作所社製)を用いて、培養0日,1日,2日,3日,4日,7日後のサンプルの濁度(OD680)を測定した。
また、粒子計数分析装置(CDA−1000,シスメックス株式会社製)を用いて、培養1日,2日,3日,4日,7日後のサンプルの細胞数を測定した。細胞数の測定では、ユーグレナ以外の粒子は除外してカウントした。それぞれ、N数は、3とした。
【0037】
測定結果を、図1図2に示す。培養0日の実施例1及び対比例1のユーグレナの細胞数は、0.15×10cells/mlであった。
なお、図1の実験結果において、3日後のサンプルは、4倍希釈、4日後のサンプルは、10倍希釈、7日後のサンプルは、20倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図1のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
図1図2のように、実施例1は濁度(OD680),細胞数ともに対比例1に対して終濃度で約2倍の濃度となった。この結果より、実施例1の多孔質低温焼成体には、ユーグレナの増殖促進効果があることが強く示唆された。
【0038】
実施例1と対比例1との濁度(OD680)及び細胞数の差は、培養4日後以降に、顕著にあらわれた。従って、ユーグレナが高密度となったときに、増殖促進作用が高まっている可能性が示唆された。
細胞数の測定では、ユーグレナ以外の粒子は除外してカウントし、顕微鏡でも確認したため、培養4日後以降の顕著な濁度(OD680)及び細胞数の増加は、コンタミネーション等ではなくユーグレナが増えたことを示していると考えられる。
なお、培養原液に多孔質低温焼成体を浸漬した実施例1の培養液に、ユーグレナを添加せずに、実施例1及び対比例1と同様の条件で7日間通気撹拌したところ、最終濃度OD680=0.03程度であった。従って、実施例1の濁度(OD680)の増加は、多孔質低温焼成体からの色素の漏出によるものではないことが示された。
【0039】
(実験例2 培養液中のアンモニア濃度の検討)
本実験例では、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体の増殖促進効果と培養液中の窒素源濃度との間に関係があるかについて、検討した。
まず、実験例1の実施例1,対比例1とそれぞれ同様の条件で、7日間培養を行い、実施例2,対比例2とした。実施例2,対比例2について、ユーグレナ添加前(培養0日後),1日,2日,3日,4日,7日後における培養液中のアンモニア濃度を、デジタルパックテスト・マルチ(共立理化学研究所社製)を用い、公知のインドフェノール青法により測定した。実験例1と同様の測定方法で、実施例2,対比例2の濁度(OD680)を測定した。それぞれ、N数は、1とした。
測定結果を、図3に示す。なお、図3の実験結果において、2〜7日後のサンプルは、10倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図4のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
図3のアンモニア濃度のグラフより、アンモニアの消費速度は実施例2と対比例2との間に差がなく、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体の有無に関わらず同程度であった。実施例2及び対比例2のいずれでも、アンモニアは培養4日目には消費され尽くしていた。
【0040】
また、アンモニアが消費され尽くした4日後から、実施例2と対比例2との間で、濁度(OD680)の値に差が生じており、アンモニアが消費され尽くすタイミングと、Fe(III)を含有する固体材料の有無によって細胞数に変化が出るタイミングとが一致していることが分かった。
以上より、Fe(III)を含有する固体材料は、培養液中の窒素源が消費されてしまった後の増殖に寄与していることが分かった。
【0041】
(実験例3 Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を5倍量添加)
本実験例では、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体の添加量を増加した場合におけるFe(III)を含有する多孔質低温焼成体の増殖促進効果を検討した。
実施例1のFe(III)を含有する多孔質低温焼成体2gの代わりに、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を10g添加した培養液を調整し、参考例1の培養液とした。参考例1の培養液では、培養原液量に対する多孔質低温焼成体の重さの比率が、0.2g/ml、培養原液量に対するFeの重さの比率が、4.8×10−3g/mlであった。
この参考例1の培養液に、実験例1と同様にユーグレナを添加し、実験例1と同様の条件でユーグレナの培養を行った。培養0日,1日,2日,3日,4日,7日後の濁度(OD680)を測定した。それぞれ、N数は、1とした。
結果を、図4に示す。なお、図4の実験結果において、2〜7日後のサンプルは、10倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図4のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。図4は、参考例1の結果を、対比例2,実施例2の結果と合わせて示している。
図4の参考例1に示すように、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を5倍量添加しても増殖促進効果は認められず、かえって、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を浸漬しない対比例2よりも増殖が抑制されていた。試験管の底に多孔質低温焼成体が堆積し、その隙間にユーグレナが絡められたため十分撹拌されなかったことも要因と考えられる。
【0042】
(実験例4 Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体の継続利用(2,3週間目))
本実験例では、同じFe(III)を含有する多孔質低温焼成体を繰り返し使っても増殖促進効果があるかどうかについて、検討した。
まず、実施例1,対比例1と同じ培養液を調製し、実施例3,対比例3の培養液とした。
実施例1と同じ培養液に、実験例1と同様にユーグレナを添加し、1週間培養したユーグレナ入りの培養液を、OD680=0.1に調整し、実施例4のユーグレナ入りの培養液とした。
実施例3,4,対比例3のユーグレナ入りの培養液を、実験例1と同様の条件で、7日間培養した。培養0日,1日,2日,3日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した。それぞれ、N数は、1とした。
【0043】
また、実施例1と同じ培養液に、実験例1と同様にユーグレナを添加して、2週間培養した。このユーグレナ入りの2週間培養サンプルを、OD680=0.1に調整し、実施例5のユーグレナ入りの培養液とした。
実施例5のユーグレナ入りの培養液を、実験例1と同様の条件で、7日間培養した。
また、対比例1と同じ培養液を対比例4の培養液とし、実験例1と同様にユーグレナを植菌し、実験例1と同様の条件で培養した。
実施例5及び対比例4について、培養0日,3日,4日,5日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した。それぞれ、N数は、1とした。
【0044】
実施例3,4及び対比例3の結果を、図5に示す。なお、図5の実験結果において、3日後のサンプルは、2倍希釈、6日後のサンプルは、20倍希釈、7日後のサンプルは、20倍希釈(実施例3,4)10倍希釈(対比例3)して濁度(OD680)を測定し、図7のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
図5に示すように、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加したユーグレナ培養2週間目の実施例4は、ユーグレナ培養1週間目の実施例3と同程度の増殖促進効果があり、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体は、ユーグレナ培養2週間目も増殖促進効果が低下しないことが分かった。
【0045】
また、実施例5及び対比例4の結果を、図6に示す。なお、図6の実験結果において、4〜6日後のサンプルは、10倍希釈、7日後のサンプルは、20倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図6のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
図6に示すように、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体は、ユーグレナ培養3週間目でもユーグレナの増殖促進効果があり、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体は、ユーグレナ培養3週間目も増殖促進効果が低下しないことが分かった。
【0046】
(実験例5 多孔質低温焼成体1週間入れた培養液で培養)
本実験例では、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を1週間入れた後取り除いた培養液に、ユーグレナの増殖促進効果があるかどうかについて、検討した。
実験例1と同様の培養原液に、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体2gを浸漬して実施例1と同じ培養液を調製した。ユーグレナを添加せずに、実験例1と同様の条件で、7日間通気撹拌し、その後、培養液からFe(III)を含有する多孔質低温焼成体2gを取り除いた。多孔質低温焼成体を取り除いたものを、参考例2の培養液とした。
その後、実施例1と同様にユーグレナを植菌し、実施例1と同様の条件で、ユーグレナの培養を行い、培養0日,1日,2日,3日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した。N数は、1とした。
【0047】
参考例2の結果を、実験例4の実施例3,対比例3の結果と共に、図7に示す。なお、図7の実験結果において、3日後のサンプルは、2倍希釈、6日後のサンプルは、20倍希釈、7日後のサンプルは、20倍希釈(実施例3)又は10倍希釈(対比例3,参考例2)して濁度(OD680)を測定し、図7のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
図7に示すように、参考例2は、1日後以降のすべてのサンプルにおいて、対比例3よりも濁度が低く、参考例2では、ユーグレナ植菌前にFe(III)を含有する多孔質低温焼成体を浸漬したことによる効果がみられなかった。
実験例5の結果より、多孔質低温焼成体から有用物質が溶出しているのではなく、ユーグレナの増殖促進効果を得るためには、ユーグレナ培養中において、多孔質低温焼成体が培養液中に存在していることが必要であることが分かった。
【0048】
(実験例6 培養定常期に多孔質低温焼成体を添加)
本実験例では、多孔質低温焼成体を添加せずに1週間培養して、ユーグレナの培養定常期に達した後に、多孔質低温焼成体を添加した場合、ユーグレナの増殖促進効果が得られるかどうかについて検討した。
まず、対比例1と同様に調整した培養原液に、多孔質低温焼成体を添加せずに、実験例1と同様にユーグレナを植菌し1週間培養を行った。
1週間培養を行った培養液を、対比例5の培養液とした。また、1週間培養を行った培養液に、実施例1のFe(III)を含有する多孔質低温焼成体2gを添加したものを、参考例3の培養液とした。対比例5及び参考例3を、それぞれ、更に、実験例1と同様の条件で継続して培養した。培養0日,1日,2日,3日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した。N数は、1とした。
【0049】
結果を、図8に示す。なお、図8の実験結果において、0〜2日後,7日後のサンプルは、10倍希釈、3,6日後のサンプルは、20倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図9のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
培養8日目の培養液に多孔質低温焼成体を添加した参考例3は、培養1日後以降濁度(OD680)が下がっており、その後、継続してユーグレナの濃度が下がっていった。この結果より、ユーグレナの増殖サイクルのうち定常期に、多孔質低温焼成体を添加しても、増殖促進効果がみられないことが分かった。
【0050】
(実験例7 窒素源欠乏培養液への多孔質低温焼成体添加)
本実験例では、窒素源が欠乏した培養液に多孔質低温焼成体を添加すると、ユーグレナの増殖促進効果がなくなるかどうかについて検討した。
まず、実験例1の培養原液のうち、窒素源である(NHHPOを含まないことを除いては、同じ配合からなる窒素源欠乏培養原液を調製した。この窒素源欠乏培養原液に、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体2gを浸漬して、参考例4の培養液を調製した。また、同じ窒素源欠乏培養原液に、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加しない窒素源欠乏培養原液のみのものを、対比例6の培養液とした。
次いで、参考例4及び対比例6の培養液に、実験例1と同様にユーグレナを植菌し、実験例1と同様の条件で培養した。培養0日,1日,2日,3日,7日後の濁度(OD680)を測定した。それぞれ、N数は、1とした。
【0051】
結果を、図9に示す。なお、図9の実験結果において、6日後のサンプルは、20倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図7のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
図9の結果より、参考例4及び対比例6のいずれにおいても、濁度(OD680)は7日後において倍程度に増えたのみであり、ユーグレナの増殖は見られなかった。参考例4の結果より、窒素源欠乏培養液では、多孔質低温焼成体を添加してもユーグレナが増殖しないことが分かった。以上より、多孔質低温焼成体によって、培養液中に欠乏していた窒素源が補充されることはなく、多孔質低温焼成体から窒素源が溶出するわけではないことが分かった。
【0052】
(実験例8 Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体の破砕物使用)
本実験例では、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を破砕した場合のユーグレナの増殖促進効果を検討した。
まず、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を破砕し、多孔質低温焼成体の破砕物を得た。この破砕物の粒径分布(ふるい分け法)は、200〜500μmであった。
実施例1と同じ培養原液に、この破砕物2gを添加したものを実施例6の培養液とし、実験例1と同様の条件でユーグレナの培養を行った。培養0日,3日,4日,5日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した。それぞれ、N数は、1とした。
【0053】
結果を、図10に示す。なお、図10の実験結果において、4〜6日後のサンプルは、10倍希釈、7日後のサンプルは、20倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図10のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
図10には、対比例4の結果も合わせて示している。図10のように、実施例6は、5日後以降において、対比例4よりも高い濁度(OD680)を示しており、多孔質低温焼成体は、砕いて培養原液に浸漬した場合でも、ユーグレナの増殖促進効果があることがわかった。しかし、多孔質低温焼成体を破砕せずに用いて培養を行った実施例1等よりも濁度(OD680)が高くなっているものではなく、多孔質低温焼成体は、砕いて表面積を大きくしたからといってさらに増殖促進効果が上がるわけではなかった。
【0054】
(実験例9 pH7での培養)
pH3.5で培養実験を行った実験例1〜8では、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体が浸漬された培養液でユーグレナ培養を行った各実施例において、多孔質低温焼成体が浸漬されていない培養液でユーグレナ培養を行った対比例よりも、高いユーグレナの増殖促進効果が得られた。
実験例1〜8において、培養液のpHが3.5であったために多孔質低温焼成体が溶出した可能性が考えられたため、本実験例では、培養液のpHを7として培養実験を行い、pH3.5で多孔質低温焼成体が溶出していた可能性があるか、検討を行った。
【0055】
本実験例では、実施例1,対比例1の培養液をpH7に調整した培養液を実施例7,対比例7の培養液とし、pHを7としたこと以外は、実験例1と同様の条件で、ユーグレナを植菌し培養を行った。培養0日,3日,4日,5日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した。それぞれ、N数は、1とした。
結果を、図11に示す。なお、図11の実験結果において、4〜6日後のサンプルは、10倍希釈、7日後のサンプルは、20倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図11のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
図11のように、pH7においてもユーグレナの増殖促進効果が認められ、pH3.5における多孔質低温焼成体による増殖促進効果は、pH3.5で多孔質低温焼成体が溶出することに起因するわけではないことが示された。
【0056】
(実験例10 Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加して培養した種を次の培養に使用)
本実験例では、Fe(III)を含有する多孔質低温焼成体を添加して培養した培養液を種として、多孔質低温焼成体を除去した状態で、次の培養を行った場合における多孔質低温焼成体の増殖促進効果を確認した。
本実験例では、実施例1,対比例1と同様の培養液に、実験例1と同様の条件でユーグレナを植菌し、1週間培養を行った。実施例1の1週間培養品と、対比例1の1週間培養品とを、それぞれ、OD680=0.1の濃度で新たな培地に植菌して培養を開始したものを参考例5,対比例8の培養液とした。なお、新たな培地に植菌した参考例5,対比例8の培養液には、多孔質低温焼成体を添加しなかった。
培養0日,3日,4日,5日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した。それぞれ、N数は、1とした。
【0057】
結果を、図12に示す。なお、図12の実験結果において、4〜6日後のサンプルは、10倍希釈、7日後のサンプルは、20倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図12のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
図12の参考例5のように、多孔質低温焼成体を添加して培養した培養液を種として、次の培養を多孔質低温焼成体なしの状態で行なっても、ユーグレナの増殖促進効果は認められなかった。
多孔質低温焼成体によるユーグレナの増殖促進効果が得られている培養液から、多孔質低温焼成体を除去すると、ユーグレナの増殖促進効果が失われることが分かった。
多孔質低温焼成体によって増殖促進されたユーグレナは、多孔質低温焼成体を含まない新たな培地に植菌したときまで、高い増殖速度を維持できるものではないことが分かった。
従って、培養中に、培養液中に多孔質低温焼成体が存在していなければ、多孔質低温焼成体によるユーグレナの増殖促進効果が得られないことが分かった。
【0058】
(実験例11 明期及び暗期を設定した培養実験)
実験例1〜10では、試験管での多孔質低温焼成体を添加したユーグレナ培養実験において、増殖促進効果が大きいものでは、初期濃度OD=0.1の場合で終濃度OD=8程度まで達していた。本実験では、ビーカースケールにスケールアップすると共に、定期的な明期及び暗期を設定して、多孔質低温焼成体によるユーグレナの増殖促進効果を確認した。
本実験例では、実験例1と同様のCM培地を初発pH3.0に調製し、アクリル培養槽(10cm×10cm×27cm)に、水深20cm、液量が約2Lになるように入れ、培養原液とした。アクリル培養槽の側面は、アルミフォイルで遮光した。
【0059】
次いで、この培養原液に、実施例1と同様のFe(III)を含有する多孔質低温焼成体を10g添加し、浸漬して、実施例8の培養液を調製した。また、培養原液に多孔質低温焼成体を添加しないものを、対比例9の培養液とした。
実施例8の培養液では、培養原液量に対する多孔質低温焼成体の重さの比率が、5.0×10−4g/ml、培養原液量に対するFeの重さの比率が、1.2×10−5g/mlであった。
【0060】
実施例8及び対比例9の培養液に、それぞれ、Euglena gracilis Z株(八重山株)、初期濃度OD680=0.1となるように添加し、培養を行った。このとき、メタルハライドランプ(アイ クリーンエース,岩崎電気社製)を用いて、毎日、明期8時間,暗期16時間を設定した。明期では、メタルハライドランプの条件は、18MJ/(m・d)、光量約900μmol・m−2・s−1とした。
COを、通気濃度15%、通気流量50ml/minで、通気時間24時間/日(連続通気)で通気しながら、6cmの撹拌子を用いて撹拌した。水温は、明期において31℃、暗期において27℃であった。
培養0日,1日,2日,3日,6日,7日,8日,9日,10日の明期終期と、培養0日,1日,2日,5日,6日,7日,8日,9日の暗期終期において、実施例8及び対比例9を濾過してユーグレナを回収した。乾燥重量を測定し、培養液中の藻体濃度(単位体積当たりの藻体乾燥重量)を算出した。また、実施例8及び対比例9の濁度(OD680)を測定した。
結果を、図13に示す。図13では、グラフ上端の黒塗りの時間帯が、暗期、それ以外の時間帯が、明期を、示している。
【0061】
図13のように、培養6日目までは増殖に大きな差は認められなかったが、8日目以降、多孔質低温焼成体添加区である実施例8において、明期に高い増殖を示し、10日目時点で、対比例9との間で、藻体濃度に約1.2倍の差が認められた。
本実験例では、屋内ビーカー実験でも、多孔質低温焼成体の添加によって、ユーグレナの増殖が促進されることが確認できた。
また、多孔質低温焼成体添加区である実施例8の8日目の明期における藻体濃度の増加量が大きく、その影響により、実施例8と対比例9との間で濃度差が生じたようにもみえる。
【0062】
また、本実験例における細胞数の増殖曲線及び細胞体積の変化を、それぞれ、図14図15に示す。
細胞数及び細胞体積は、粒子計数分析装置(CDA−1000,シスメックス株式会社製)を用いて測定したものである。
図14の結果より、多孔質低温焼成体添加区である実施例8と対照区である対比例9との間で、細胞数は、培養2日目から差がつき始め、6日目には、実施例8の細胞数は、対比例9の細胞数の約1.4倍になっていた。
一方、図15に示すように、細胞の体積には、実施例8と対比例9との間で差がみられなかった。
【0063】
また、実施例8及び対比例9の細胞数の夜間減少量及び夜間減少率を、図16図17に示す。
ここで、夜間減少量は、各サンプリング日の暗期終期の藻体濃度(g/m),同日の明期終期の藻体濃度(g/m)を用いて、次の式より求めたものである。
つまり、
夜間減少量(g/L)
=(暗期終期の藻体濃度(g/m)−明期終期の藻体濃度(g/m))×1000
である。
また、夜間減少率は、次の式より求めたものである。
つまり、
夜間減少率(%)=暗期における藻体濃度の減少量/明期における藻体濃度の増加量
=−{暗期終期の藻体濃度(g/m)−同日の明期終期の藻体濃度(g/m)}/{同日の明期終期の藻体濃度(g/m)−前日の明期終期の藻体濃度(g/m)}×1000
である。
【0064】
図16に示すように、実施例8及び対比例9のいずれにおいても、夜間減少量の絶対値は、培養日数が多くなるに従って、大きくなっていた。
また、図17に示すように、培養2日目〜7日目までは、多孔質低温焼成体添加区である実施例8の夜間減少率が、対照区である対比例9よりも高かったが、実施例8の培養8日目、9日目の夜間減少率は、対比例9より低かった。
夜間減少率は、明期における藻体濃度の増加量に対する暗期における藻体濃度の減少量の比率であり、暗期における藻体濃度の減少量が小さいほど、及び、明期における藻体濃度の増加量が大きいほど、夜間減少率が小さい値に近付く。
図17と併せて図13を検討すると、実施例8は、暗期における藻体濃度の減少が小さいというよりも、むしろ、明期における藻体濃度の増加が大きかった。
【0065】
(実験例12 Fe焼成体の例)
本実験例では、Fe(III)を含有する固体材料として、実験例1〜11で用いた多孔質低温焼成体とは異なる実施例であるFe焼成体について、ユーグレナの増殖促進効果を確認した。
まず、実験例1と同様のCM培地(初発pH3.5)からなる培養原液を、実験例1と同じガラス製試験管に調製した。
次いで、このガラス製試験管に調製した培養原液に、実施例1と同様のFe(III)を含有する多孔質低温焼成体2gを添加し、浸漬したものを、実施例9の培養液とした。
【0066】
ガラス製試験管に調製した別の培養原液に、Fe焼成体2gを添加し、浸漬したものを、実施例10の培養液として調製した。
実施例10のFe焼成体は、Fe(製品名MR-320A,森下弁柄工業社製)900gと粘土(製品名クニピア,クニミネ工業社製)100gを配合して、モルタルミキサーを用いて混合し、直径5mmの丸玉状に成形後、850℃で12時間焼成することにより作製したものである。
更に、ガラス製試験管に別途調製した実験例1と同様の培養原液を、対比例10の培養液とした。つまり、対比例10の培養液は、培養原液だけで、何も浸漬していないものとした。
【0067】
実施例9,10及び対比例10の培養液に、それぞれ、Euglena gracilis Z株(八重山株)を、初期濃度OD680=0.1となるように添加して、ユーグレナの培養を行った。このとき、COを、通気濃度15%、通気流量0.1vvmで通気しながら撹拌した。光条件は、蛍光灯を用いた24時間照射、水温は、29℃の一定温度とした。培養0日〜8日後の濁度(OD680)を測定した。実施例9,10のN数は3、対比例10のN数は1とした。
結果を、図18に示す。なお、図18の実験結果において、3日後のサンプルは2倍希釈、4日後のサンプルは4倍希釈、5日後のサンプルは、10倍希釈、6〜8日後のサンプルは、20倍希釈して濁度(OD680)を測定し、図18のグラフ中のデータは、実測値に希釈倍率を掛けた値を用いている。
Fe焼成体添加区である実施例10は、多孔質低温焼成体添加区である実施例9と同じような増殖を示した。
多孔質低温焼成体添加区である実施例9、Fe焼成体添加区である実施例10は、いずれも対比例10より高い終濃度を示し、3日目以降の増殖速度も高かった。
【0068】
また、実施例9,10及び対比例10の8日培養後のサンプルについて、粒子計数分析装置(CDA−1000,シスメックス株式会社製)を用いて、粒子径のヒストグラム及び粒子濃度の測定を行った。
その結果、図19に示すように、対照区である対比例10については、粒子径ヒストグラムにおいて、6〜10μmの位置及び10〜20μmの位置に、二つのピークが見られたのに対し、多孔質低温焼成体添加区である実施例9及びFe焼成体添加区である実施例10では、10〜20μmの位置のピークが一つ見られたのみであった。
対比例10の粒子径6〜10μmのピークの細胞を回収し、顕微鏡で確認したところ、粒子径6〜10μmのピークの細胞には、死細胞が多く含まれており、粒子径6〜10μmのピークが死細胞のピークであることが分かった。
以上より、実施例9の多孔質低温焼成体及び実施例10のFe焼成体は、培養中におけるユーグレナの死細胞の抑制に効果があることが分かった。
【0069】
また、培養終了時において、多孔質低温焼成体添加区である実施例9は、綺麗な緑色をしていた。それに対し、対比例10は、茶色くなっており、茶色味を帯びた緑色であった。
また、Fe焼成体添加区である実施例10は、赤くなっていた。但し、図19に示すように、実施例10の細胞数は、実施例9及び対比例10と比べて多目であり、赤い色を呈していても、細胞数には影響がなかった。
また、実施例9,10及び対比例10の培養後の藻体を回収して乾燥させ、元素分析を行った結果を、表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果より、多孔質低温焼成体添加区である実施例9とFe焼成体添加区である実施例10では、窒素含有率が低かった。
この結果より、多孔質低温焼成体又はFe焼成体を添加した本明細書中の各実験例において、培地中の窒素源が少なくなった培養後期に増殖が伸びたのは、窒素の利用効率が向上したためと考えられる。
【0072】
(実験例13 Fe(II)によるユーグレナ増殖促進効果の確認)
実験例1〜12において、Fe(III)を含有する固体材料である実験例1〜12の多孔質低温焼成体及び実験例12のFe焼成体の添加がユーグレナの増殖促進効果を示すことを確認したのに対し、本実験例では、Fe(II)も、同様の増殖促進効果があるのかを確認する実験を行った。
実験例1のCM培地に、FeSO・7HOを実験例1の3倍量の9ml/L添加したもの、実験例1の10倍量の30ml/L添加したものを、それぞれ、対比例11,12の培養液とした。
また、実験例1の対比例1の培養液と同様の培養液を、対比例13の培養液とした。
【0073】
対比例11,12及び対比例13の培養液に、それぞれ、実験例1と同様の条件でユーグレナを植菌し、培養を行った。
結果を、図20に示す。図20に示すように、Fe(II)の添加量を増やしても、ユーグレナの増殖促進効果は認められなかった。
【0074】
(実験例14 Fe焼成体の配合及び焼成温度の検討)
実験例12において、ユーグレナ増殖促進効果が認められたFe焼成体について、本実験例では、その配合及び焼成温度を検討する実験を行った。
Fe(製品名 MR-320A,森下弁柄工業社製)と粘土(製品名 クニピア,クニミネ工業社製)を、75:25の割合,50:50の割合,25:75の割合でそれぞれ配合(いずれも重量比)して、モルタルミキサーを用いて混合し、直径5mmの丸玉状に成形後、800℃で12時間焼成したものを、それぞれ、実施例11,12,13のFe焼成体とした。
また、同様のFeと粘土を、75:25の割合,50:50の割合,25:75の割合でそれぞれ配合(いずれも重量比)して、モルタルミキサーを用いて混合し、直径5mmの丸玉状に成形後、1000℃で10時間焼成したものを、それぞれ、実施例14,15,16のFe焼成体とした。
【0075】
実験例1と同様の培養原液に、実施例11〜16のFe焼成体を2g浸漬し、実験例1と同様にユーグレナを植菌し、培養を行った。
また、実験例1と同様の培養原液に、実施例1と同様の多孔質低温焼成体を2g浸漬したものを、実施例17の培養液として、実験例1と同様にユーグレナを植菌し、培養を行った。
実験例1と同様の培養原液を対比例14の培養液とし、対比例1と同様の条件でユーグレナを植菌、培養を行った。
実施例11〜13,17及び対比例14の培養0日,1日,2日,5日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した結果を、図21に示す。また、実施例14〜16,17及び対比例14の培養0日,1日,4日,5日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した結果を、図22に示す。
【0076】
実施例11〜16のFe焼成体及び実施例17の多孔質低温焼成体は、いずれも、培養原液のみ(添加なし)の対比例14よりも、ユーグレナの増殖が良かった。
800℃及び1000℃の焼成温度2条件、Feと粘土との混合比率3条件の計6条件の焼成体を添加して培養した結果、終濃度はいずれもほぼ同じであり、増殖促進効果に差はなかった。
【0077】
Fe焼成体は、陶器状のものとして構成されるが、焼成温度が低いほど、また、Feの配合量が多いほど、Fe焼成体を浸漬した培養液が赤くなってしまう傾向にあった。そのため、ユーグレナの増殖促進のために培養液に浸漬する目的を考慮すると、培養液が赤くなりにくい等の物理的扱いやすさから、Fe/粘土=25:75(重量比)で、1000℃焼成品である実施例16のFe焼成体が好適であった。
【0078】
(実験例15 Fe焼成体の添加量検討)
本実験例では、Fe焼成体の添加量を把握するため、添加量を変えて増殖促進効果を比較した。
本実験例では、まず、Feと粘土を、25:75の割合(重量比)でそれぞれ配合して、モルタルミキサーを用いて混合し、直径5mmの丸玉状に成形後、1000℃で10時間焼成したFe焼成体を作製した。
実験例1と同様の培養原液に、このFe焼成体0.01g,0.1g,0.3g,2gを添加して浸漬したものを、それぞれ、実施例18,19,20,21の培養液とした。実施例18〜21の培養液は、pHを3.5に調製した。
実施例18〜21の培養液では、培養原液量に対する多孔質低温焼成体の重さの比率が、それぞれ、2.0×10−4g/ml、2.0×10−3g/ml、6.0×10−3g/ml、0.04g/mlであった。
また、実施例18〜21の培養液では、培養原液量に対するFeの重さの比率が、それぞれ、5.0×10−5g/ml、5.0×10−4g/ml、1.5×10−3g/ml、0.01g/mlであった。
また、実験例1と同様の培養原液に、このFe焼成体2gを添加して浸漬し、pHを2.5に調製したものを、実施例22の培養液とした。
実施例18〜22の培養液に、実験例1と同様にユーグレナを植菌し、培養を行った。
また、実験例1と同様の培養原液を対比例15の培養液とし、対比例1と同様の条件でユーグレナを植菌、培養を行った。
実施例18〜22及び対比例15の培養0日,1日,4日,5日,6日,7日後の濁度(OD680)を測定した結果を、図23に示す。
【0079】
図23に示すように、pH3.5の実施例18〜21及び対比例15を比べると、ユーグレナの終濃度は、実施例21(Fe焼成体2g)>実施例20(Fe焼成体0.3g)>実施例19(Fe焼成体0.1g)>実施例18(Fe焼成体0.01g)≒対比例15(Fe焼成体0g)であり、添加量が多いほどユーグレナの終濃度も高くなっていた。
また、培養4日目の濃度はpH3.5よりpH2.5の培養液の方が高く、pHを下げることで増殖速度を高める効果がある可能性が示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23