特許第6290657号(P6290657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290657
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3268 20160101AFI20180226BHJP
【FI】
   F16J15/3268
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-44955(P2014-44955)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-169279(P2015-169279A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池袋 一葉
(72)【発明者】
【氏名】久保田 孝治
(72)【発明者】
【氏名】栗田 宗治
【審査官】 内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−307224(JP,A)
【文献】 実開平07−016075(JP,U)
【文献】 実開平06−028429(JP,U)
【文献】 特表2008−546970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、この回転軸を包囲しているハウジングとの間に形成された環状空間を、軸方向において真空空間である低圧空間と、前記低圧空間よりも高圧の大気圧空間である高圧空間とに仕切る密封装置であって、
弾性素材によって形成されているとともに、前記回転軸の外周面に摺接する環状のシール部を備え、
前記シール部の内周面には、前記回転軸の外周面に摺接する主リップと、前記主リップから前記低圧空間側に向かって延びているとともに、前記低圧空間側に向かって漸次拡径している傾斜面と、が形成され、
前記傾斜面には、前記主リップが前記回転軸の外周面に摺接した状態で前記回転軸の外周面に摺接する第1環状突起と、前記主リップと前記第1環状突起との間に配置され径方向内側に突出した第2環状突起と、が形成され、
前記第2環状突起は、前記密封装置が使用初期の状態においては前記回転軸の外周面に摺接せず、前記密封装置の使用によって必要な密封性が維持できない程度に前記主リップ及び前記第1環状突起が摩耗すると、前記回転軸の外周面に対する摺接を開始するように形成され
前記傾斜面には、前記主リップと、前記第2環状突起との間に、前記密封装置が使用初期の状態において、前記回転軸の外周面に摺接する第3環状突起がさらに形成されている
密封装置。
【請求項2】
前記第2環状突起は、複数形成されている請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
複数の前記第2環状突起は、必要な密封性が維持できない程度に前記主リップ及び前記第1環状突起が摩耗すると、その摩耗量に応じて、複数の前記第2環状突起の内、前記主リップに近い前記第2環状突起から順に摺接を開始するように形成されている請求項2に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、回転軸と、前記回転軸を包囲しているハウジングとの間の環状空間を大気圧空間と真空空間とに仕切るための密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空空間とされた真空容器内の機器に回転力を与えるために、回転力伝達用の回転軸を、前記真空容器の内部から外部に突設させることがある。
この場合、前記回転軸と、前記真空容器に設けられた前記回転軸を挿通するための貫通孔との間の環状空間から前記真空容器内に大気がリークするのを防止して真空状態を維持するために、前記環状空間には密封装置が装着される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−99328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記密封装置では、前記回転軸に対して摺接し前記真空容器内外を密封している当該密封装置のシールリップが、予め設けられた締め代に加え、前記真空容器内外での圧力差によって前記回転軸に対して過度に押圧されることがある。このようにシールリップが回転軸に対して過度に押圧されると、シールリップの摩耗が促進され、当該密封装置による密封性が早期に低下してしまい、密封装置としての寿命を著しく低下させるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、長期に亘って密封性を維持することができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、 回転軸と、この回転軸を包囲しているハウジングとの間に形成された環状空間を、軸方向において真空空間である低圧空間と、前記低圧空間よりも高圧の大気圧空間である高圧空間とに仕切る密封装置であって、弾性素材によって形成されているとともに、前記回転軸の外周面に摺接する環状のシール部を備え、前記シール部の内周面には、前記回転軸の外周面に摺接する主リップと、前記主リップから前記低圧空間側に向かって延びているとともに、前記低圧空間側に向かって漸次拡径している傾斜面と、が形成され、前記傾斜面には、前記主リップが前記回転軸の外周面に摺接した状態で前記回転軸の外周面に摺接する第1環状突起と、前記主リップと前記第1環状突起との間に配置され径方向内側に突出した第2環状突起と、が形成され、前記第2環状突起は、前記密封装置が使用初期の状態においては前記回転軸の外周面に摺接せず、前記密封装置の使用によって必要な密封性が維持できない程度に前記主リップ及び前記第1環状突起が摩耗すると、前記回転軸の外周面に対する摺接を開始するように形成され、前記傾斜面には、前記主リップと、前記第2環状突起との間に、前記密封装置が使用初期の状態において、前記回転軸の外周面に摺接する第3環状突起がさらに形成されていることを特徴としている。
【0007】
上記のように構成された密封装置によれば、密封装置が使用初期の状態においては主リップ及び第1環状突起によって必要な密封性を確保する。その後、密封装置が使用され、主リップ及び第1環状突起が回転軸の外周面に対して摺接することで必要な密封性が維持できない程度に摩耗したとしても、第2環状突起が回転軸の外周面に対して摺接を開始するので、第2環状突起を新たに密封性確保に寄与させることができ、必要な密封性を維持することができる。
このように、本発明の密封装置によれば、使用による摩耗によって、主リップ及び第1環状突起では必要な密封性の維持が困難になったとしても、それまで摺接していなかった第2環状突起を回転軸の外周面に新たに摺接させることで密封装置として必要な密封性を維持することができる。その結果、長期に亘って密封性を維持することができる。
また、前記傾斜面には、前記主リップと、前記第2環状突起との間に、前記密封装置が使用初期の状態において、前記回転軸の外周面に摺接する第3環状突起がさらに形成されている。
これにより、密封装置が使用初期の状態において、主リップ、第1環状突起、及び第3環状突起それぞれによって低圧空間と高圧空間との間を多段階に仕切ることができる。これにより、高圧空間側から圧力リークが生じたとしても、段階的に低減することができ、第2環状突起が摺接を開始するまでの使用初期の状態における密封性を長期間に亘って維持することができる。
【0008】
上記密封装置において、前記第2環状突起は、複数形成されていることが好ましく、その際、複数の前記第2環状突起は、必要な密封性が維持できない程度に前記主リップ及び前記第1環状突起が摩耗すると、その摩耗量に応じて、複数の前記第2環状突起の内、前記主リップに近い前記第2環状突起から順に摺接を開始するように形成されていることが好ましい。
この場合、主リップ及び第1環状突起の摩耗量に応じて、複数の第2環状突起が順に摺接を開始するので、主リップ及び前記第1環状突起の摩耗が進行し、その後、摺接を開始した第2環状突起が摩耗し始めたとしても、順次、新たに第2環状突起が摺接を開始する。これにより、より長期に亘って密封性を維持することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の密封装置によれば、長期に亘って密封性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る密封装置の断面図である。
図2図1中、シール部の要部を拡大した断面図である。
図3】密封装置の内周側に回転軸を挿入したときの主リップの断面図であり、(a)は、密封装置の使用初期の状態、(b)は、密封装置が使用された結果、主リップ、第1環状突起、及び第3環状突起が摩耗した状態を示している。
図4】本発明の他の実施形態に係る主リップの断面図であり、密封装置1の使用初期の状態を示している。
図5】本発明のさらに他の実施形態に係る主リップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る密封装置の断面図である。この密封装置1は、内部が真空環境とされる真空容器(図示せず)に装着されるものであり、回転軸Sと、回転軸Sを包囲しているハウジングHとの間に形成された環状空間Tを、軸方向において大気圧空間A(高圧空間,図1中、紙面左側)と、真空空間V(低圧空間,図1中、紙面右側)とに密封状態で仕切るために用いられている。
なお、本実施形態では、真空空間Vは、10−3Pa(絶対圧力)以下の高真空に維持されている。
【0013】
回転軸Sは、前記真空容器内に設置された機器に回転力を与えるための回転伝達用の軸であり、前記真空容器に設けられ当該真空容器の内外を連通している筒状のハウジングHに挿通されて、前記真空容器の内部である真空空間Vから外部である大気圧空間Aに向けて突設されている。
【0014】
密封装置1は、回転軸Sが回転可能に環状空間Tを軸方向に仕切っており、金属製の芯金2と、芯金2に加硫接着により形成されたフッ素ゴム等の弾性素材からなるシール部材3とを備えている。
芯金2は、SPCC等の鋼板をプレス加工することによって環状に形成されている。芯金2は、円筒状の円筒部2aと、円筒部2aの軸方向一方側の端部を径方向内側に折り曲げて形成された環状部2bとを有しており、断面L字形に形成されている。
【0015】
シール部材3は、円筒部2aの外周面から大気圧空間A側の端面を回り込んで当該円筒部2aの内周面に沿うとともに環状部2bの大気圧空間A側の側面に沿って接着形成された本体部4と、環状部2bの内周端から延びるシール部5と、同じく環状部2bの内周端から延びる補助リップ7とを有している。
芯金2は、本体部4を介してハウジングHに圧入嵌合されており、これによって、密封装置1は、ハウジングHに固定されている。
【0016】
補助リップ7は、環状部2bの内周端を基端として真空空間V側に延びるとともに、径方向内側に突設されて回転軸Sの外周面S1に摺接している。
シール部5は、環状部2bの内周端を基端として大気圧空間A側に延びている環状の部材である。
シール部5の外周面側には、当該シール部5を径方向内側に締め付けて押圧することで密封性を高めるためのガータスプリング8が装着されている。
【0017】
シール部5は、回転軸Sの外周面S1に摺接することで、回転軸SとハウジングHとの間から大気圧空間Aの圧力が真空空間Vにリークしないように、両空間の間を密封している。
シール部5の内周面には、回転軸Sの外周面S1に摺接する主リップ10と、主リップ10から真空空間V側に向かって延びているとともに、真空空間V側に向かって漸次拡径している真空空間側傾斜面11と、主リップ10から大気圧空間A側に向かって延びているとともに、大気圧空間A側に向かって漸次拡径している大気空間側傾斜面12とが形成されている。よって、主リップ10は、真空空間側傾斜面11と大気空間側傾斜面12とによる頂点により構成されており、断面山形に形成されている。
【0018】
シール部5は、上述のように環状部2bの内周端を基端として大気圧空間A側に延びている。従って、シール部5は、真空空間V側の端部を支点として、大気圧空間A側の端部が径方向に揺動可能とされている。なお、図1は、自由状態にあるシール部5を示している。
シール部5は、内周側に回転軸Sが挿入されると、当該シール部5の大気圧空間A側の端部が径方向外側に揺動し、大気圧空間A側の端部及び主リップ10がわずかに拡径するように弾性変形する。主リップ10は、わずかに拡径するように弾性変形した状態で回転軸Sの外周面S1に摺接する。
【0019】
図2は、図1中、シール部5の要部を拡大した断面図である。なお、図2は、自由状態にあるシール部5を示している。
シール部5の真空空間側傾斜面11は、軸方向に対する傾斜角度dが、例えば10〜20度の範囲に設定された円すい状の内周面に形成されている。
真空空間側傾斜面11には、当該真空空間側傾斜面11から径方向内側に突設した第1環状突起20が形成されている。
【0020】
また、主リップ10と第1環状突起20との間には、第1環状突起20と同様に真空空間側傾斜面11から径方向内側に突設した第2環状突起21が形成されている。
さらに、主リップ10と第2環状突起21との間には、真空空間側傾斜面11から径方向内側に突設した第3環状突起22が形成されている。
各環状突起20〜22は、その先端が断面円弧形状に形成されている。
【0021】
第2環状突起21及び第3環状突起22は、真空空間側傾斜面11を基準とした突出寸法が互いに同じ突出寸法t1に形成されている。
また、第1環状突起20は、その突出寸法t2が第2環状突起21及び第3環状突起22の突出寸法t1よりも大きい値(例えば、t1の2〜3倍程度)となるように形成されている。
第1環状突起20の突出寸法t2は、後述するように、密封装置1に回転軸Sが挿入され、主リップ10(及び第3環状突起22)が外周面S1に摺接したときにその先端が外周面S1に摺接する値に設定されている。
【0022】
一方、第2環状突起21の突出寸法t1は、密封装置1が使用初期の状態においては回転軸Sの外周面S1に摺接せず、主リップ10及び第1環状突起20が使用によって摩耗すると、回転軸Sの外周面S1に対する摺接を開始する値に設定されている。
なお、密封装置1における使用初期の状態とは、未使用の密封装置1をハウジングHに固定し、使用を開始した直後であって主リップ10や第1環状突起20に摩耗が見られない状態をいう。
【0023】
図3は、密封装置1の内周側に回転軸Sを挿入したときの主リップ10の断面図であり、図3(a)は、密封装置1の使用初期の状態を示している。
上述したように、シール部5の内周面側に回転軸Sが挿入されると、当該シール部5は真空空間V側の端部を支点として、大気圧空間A側の端部が径方向外側に揺動し、主リップ10が、わずかに拡径するように弾性変形した状態で、回転軸Sの外周面S1に摺接する。
また、真空空間側傾斜面11の傾斜角度d(図2)は、シール部5の大気圧空間A側の端部が径方向外側に揺動することで小さくなり、真空空間側傾斜面11が回転軸Sの外周面S1に接近する。これによって、第1環状突起20は、その先端が回転軸Sの外周面S1に摺接する。つまり、第1環状突起20は、主リップ10が回転軸Sの外周面S1に摺接した状態で、その先端が外周面S1に摺接するよう形成されている。
【0024】
さらに、第3環状突起22も、第1環状突起20と同様、主リップ10が回転軸Sの外周面S1に摺接した状態で、その先端が外周面S1に摺接するよう形成されている。
【0025】
シール部5が自由状態における、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22それぞれの内径寸法は、回転軸Sの外径寸法よりも小さい所定の寸法に形成されている。
上記寸法に形成されている主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22は、上述のように回転軸Sが挿入されシール部5が弾性変形することによって拡径し、回転軸Sの外周面S1に摺接する。これによって、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22には、回転軸Sの外周面S1に対して所定の締め代が設定されている。
【0026】
また、第2環状突起21は、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22を回転軸Sの外周面S1に摺接させたときの内径寸法が、回転軸Sの外周面S1よりも大きくなるように形成されている。
このため、図3(a)において、第2環状突起21は、回転軸Sの外周面S1に接触していない。このように、密封装置1が使用初期の状態であって主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22にあまり摩耗が生じていない状態において、第2環状突起21は、回転軸Sの外周面S1には摺接しないように形成されている。
【0027】
よって、密封装置1が使用初期の状態では、密封装置1は、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22によって、大気圧空間Aと、真空空間Vとの間を密封する。
【0028】
図3(a)の状態で、密封装置1が使用され続けると、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22は、回転軸Sの外周面S1に対する摺接によって徐々に摩耗が進行する。
主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22の摩耗が進行すると、摩耗によって接触面が増加することに加え、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22に予め設定されていた締め代が摩耗によって減少し、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22の外周面S1に対する面圧も低下する。この結果、密封装置1の密封性は摩耗の進行に従って徐々に低下する。
【0029】
図3(b)は、密封装置1の内周側に回転軸Sを挿入したときの主リップ10の断面図であって、密封装置1が長期に亘り使用された結果、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22が摩耗した状態を示している。
【0030】
図3(b)に示すように、第1環状突起20、及び第3環状突起22における真空空間側傾斜面11から突出する突出寸法は、その摩耗によって第2環状突起21に対して相対的に減少し、第2環状突起21は、回転軸Sの外周面S1に対して摺接している。
第2環状突起21の真空空間側傾斜面11に対する突出寸法は、密封装置1として必要な密封性が維持できない程度に主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22が摩耗すると、回転軸Sの外周面S1に対して摺接する値に設定されている。
【0031】
これによって、第2環状突起21は、密封装置1が使用初期の状態においては回転軸Sの外周面S1に摺接せず、その後、必要な密封性が維持できない程度に主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22が摩耗すると、回転軸Sの外周面S1に対する摺接を開始するように形成されている。
【0032】
このため、必要な密封性が維持できない程度に主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22が摩耗したとしても、第2環状突起21が摺接を開始するので、図3(b)に示すように、主リップ10、第1環状突起20、第3環状突起22、及び第2環状突起21の4つの部分で、真空空間Vと大気圧空間Aとの間を多段階(4段階)に仕切ることができる。これにより、主リップ10を通じて大気圧空間A側から圧力のリークが生じたとしても、真空空間V側に形成された各環状突起20〜22によって段階的に低減させることができ、大気圧空間Aから真空空間Vに向かって圧力がリークするのを抑制することができる。
【0033】
なお本実施形態では、第2環状突起21の真空空間側傾斜面11に対する突出寸法は、上述したように第3環状突起22と同じ突出寸法t1とされており、第1環状突起20の突出寸法t2の設定も含めて、第2環状突起21が、密封装置1が使用初期の状態においては回転軸Sの外周面S1に摺接せず、その後、必要な密封性が維持できない程度に上述の各部が摩耗すると、回転軸Sの外周面S1に対する摺接を開始するように、各部の寸法が設定されている。
【0034】
上記のように構成された密封装置1によれば、当該密封装置1が使用初期の状態においては主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22によって必要な密封性を確保する。その後、密封装置1が使用され、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22が回転軸Sの外周面S1に対して摺接することで必要な密封性が維持できない程度に摩耗したとしても、第2環状突起21が回転軸Sの外周面S1に対して摺接を開始するので、第2環状突起を新たに密封性確保に寄与させることができ、必要な密封性を維持することができる。
このように、本発明の密封装置1によれば、使用による摩耗によって、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22では必要な密封性の維持が困難になったとしても、それまで摺接していなかった第2環状突起21を回転軸Sの外周面S1に新たに摺接させることで密封装置1として必要な密封性を維持することができる。その結果、長期に亘って密封性を維持することができる。
【0035】
また、本実施形態では、真空空間側傾斜面11には、主リップ10と、第2環状突起21との間に、密封装置1が使用初期の状態において、回転軸Sの外周面S1に摺接する第3環状突起22を形成したので、密封装置1が使用初期の状態において、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22それぞれによって真空空間Vと大気圧空間Aとの間を多段階(3段階)に仕切ることができる。これにより、大気圧空間A側から圧力リークが生じたとしても、段階的に低減することができ、第2環状突起21が摺接を開始するまでの使用初期の状態における密封性を長期間に亘って維持することができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、各環状突起20〜22は、互いに隣り合う環状突起または主リップ10との間で複数の環状空間を形成する。これら環状空間に、主リップ10と回転軸Sとの間に供給される潤滑剤を留めることができる。つまり、密封装置1が使用初期の状態においては、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22によって複数の環状空間を形成し、これら環状空間を油溜まりとして機能させることができる。さらに、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22の摩耗が進行し、第2環状突起21が外周面S1に新たに摺接すると、環状空間の数が増加し、さらに油溜まりとしての機能が高められる。
これにより、主リップ10と回転軸Sの外周面S1との間の摩擦力を低減することができ、スティックスリップを抑制することができるとともに、摩擦に伴う摩耗を低減でき、さらに長期に亘って密封性を維持することができる。
【0037】
図4は、本発明の他の実施形態に係る主リップ10の断面図であり、密封装置1の使用初期の状態を示している。
本実施形態の主リップ10は、第2環状突起21が複数(図例では2つ)形成されている点において、上記実施形態と相違している。
図においては、密封装置1が使用初期の状態を示しているため、複数の第2環状突起21aは、回転軸Sの外周面S1に接触していない。
【0038】
主リップ10側の第2環状突起21aは、主リップ10及び第1環状突起20を回転軸Sに摺接させたときの内径寸法が第1環状突起20側の第2環状突起21bよりも小さくなるように形成されている。
このため、密封装置1が使用され、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22が回転軸Sの外周面S1に対して摺接することで摩耗が進行すると、まず、主リップ10側の第2環状突起21aが回転軸Sの外周面S1に対して摺接を開始する。
その後、各部の摩耗が使用によってさらに進行しその摩耗量がさらに増加すると、第1環状突起20側の第2環状突起21bが回転軸Sの外周面S1に対して摺接を開始する。
【0039】
このように、本実施形態では、複数の第2環状突起21a、21bは、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22の摩耗量に応じて、複数の第2環状突起21a、21bの内、主リップ10により近い主リップ10側の第2環状突起21aから順に摺接を開始するように形成されている。
【0040】
本実施形態における、第2環状突起21a、21bの真空空間側傾斜面11に対する突出寸法は、それぞれ、第3環状突起22と同じ突出寸法t1(図2)とされている。
第2環状突起21a、21bは、真空空間V側に向かって漸次拡径している真空空間側傾斜面11に沿って形成されており、互いに同じ突出寸法t1とすることによって、主リップ10側の第2環状突起21aは、主リップ10及び第1環状突起20を回転軸Sに摺接させたときの内径寸法が第1環状突起20側の第2環状突起21bよりも小さくなるように形成されている。
【0041】
本実施形態によれば、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22の摩耗量に応じて、複数の第2環状突起21a、21bが順に摺接を開始するので、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22の摩耗が進行し、その後、摺接を開始した第2環状突起21aが摩耗したとしても、順次、新たに第2環状突起21bが摺接を開始する。これにより、さらに長期に亘って密封性を維持することができる。
【0042】
なお、本実施形態では、第2環状突起21を2つ設けた場合を示したが、より多数の第2環状突起21を設けてもよい。
さらに、本実施形態では、複数の第2環状突起21a、21bは、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22の摩耗量に応じて、複数の第2環状突起21a、21bの内、主リップ10により近い主リップ10側の第2環状突起21aから順に摺接を開始させるべく、主リップ10及び第1環状突起20を回転軸Sに摺接させたときの内径寸法が第1環状突起20側の第2環状突起21bよりも小さくなるように形成した場合を示したが、例えば、複数の第2環状突起21a、21bは、主リップ10及び第1環状突起20を回転軸Sに摺接させたときの内径寸法が同じとなるように形成してもよい。
【0043】
これにより、必要な密封性が維持できない程度に主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22が摩耗すると、複数の第2環状突起21a、21bそれぞれによる回転軸Sの外周面S1に対する摺接を、ほぼ同じタイミングで開始させることができる。
この場合も、主リップ10、第1環状突起20、及び第3環状突起22が摩耗したとしても、それまで摺接していなかった複数の第2環状突起21a、21bを回転軸Sの外周面S1に新たに摺接させることで必要な密封性を維持することができ、長期に亘って密封性を維持することができる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記各実施形態では、主リップ10と、第2環状突起21との間に、第3環状突起22が形成されている場合を例示したが、例えば、図5に示すように、主リップ10と、第1環状突起20との間に、第2環状突起21のみを形成してもよい。
この場合においても、主リップ10及び第1環状突起20では必要な密封性の維持が困難になったとしても、それまで摺接していなかった第2環状突起21を回転軸Sの外周面S1に新たに摺接させることで必要な密封性を維持することができ、長期に亘って密封性を維持することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 密封装置 10 主リップ 11 真空空間側傾斜面(傾斜面)
20 第1環状突起 21、21a、21b 第2環状突起
22 第3環状突起 S 回転軸 S1 外周面
T 環状空間 A 大気圧空間(高圧空間)
V 真空空間(低圧空間)
図1
図2
図3
図4
図5