(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.燃料電池システムの全体構成
図1において、電動車両1は、燃料電池およびバッテリを選択的に動力源とするハイブリッド車両であって、燃料電池システム2を搭載している。
【0017】
燃料電池システム2は、燃料電池3と、燃料給排部4と、空気給排部5と、制御部6と、動力部7とを備えている。
(1)燃料電池
燃料電池3は、液体燃料が直接供給および排出される、例えば、アニオン交換型燃料電池またはカチオン交換型燃料電池であって、電動車両1の中央下側に配置されている。
【0018】
燃料電池3に供給され、また、燃料電池3から排出される液体燃料としては、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジン(例えば、無水ヒドラジンや、ヒドラジン1水和物などの水加ヒドラジンなどを含む)などが挙げられる。
【0019】
なお、以下において、燃料電池3に供給される液体燃料を供給液、一方、燃料電池3から排出される液体燃料(燃料電池3に供給された液体燃料の反応生成物(窒素ガスなど)および反応生成水を含む)を排出液として、それぞれ区別する。
【0020】
燃料電池3は、電解質層8と、電解質層8の一方側に配置されたアノード9と、電解質層8の他方側に配置されたカソード10とを有する単位セル28(燃料電池セル)が、セパレータ(図示せず)を介して複数積層されたスタック構造に形成されている。つまり、電解質層8を介してアノード9およびカソード10が対向配置されてなる単位セル28が複数積層されている。なお、
図1では、積層される複数の単位セル28のうち、電動車両1の前後方向途中に配置される単位セル28だけを拡大して表わし、その他の単位セル28については簡略化して記載している。
【0021】
電解質層8は、例えば、アニオン成分またはカチオン成分が移動可能な層であり、アニオン交換膜またはカチオン交換膜を用いて形成されている。
【0022】
アノード9は、アノード電極11と、アノード電極11に液体燃料(供給液)を供給するための燃料供給部材12とを有している。
【0023】
アノード電極11は、電解質層8の一方面に形成されている。アノード電極11の電極材料としては、例えば、触媒が担持された多孔質担体(触媒担持多孔質担体)などが挙げられる。
【0024】
燃料供給部材12は、セパレータとしても兼用され、ガス不透過性の導電性部材からなる。燃料供給部材12には、その表面から凹む葛折状の溝が形成されている。そして、燃料供給部材12は、溝の形成された表面がアノード電極11に対向接触されている。これにより、アノード電極11の一方面と燃料供給部材12の他方面(溝の形成された表面)との間には、アノード電極11全体に液体燃料(供給液)を接触させるための燃料供給路13が形成される。
【0025】
燃料供給路13には、液体燃料(供給液)をアノード9内に流入させるための燃料供給口15が一端側(下側)に形成され、液体燃料(排出液)をアノード9から排出するための燃料排出口14が他端側(上側)に形成されている。
【0026】
カソード10は、カソード電極16と、カソード電極16に空気(酸素)を供給するための空気供給部材17とを有している。
【0027】
カソード電極16は、電解質層8の他方面に形成されている。カソード電極16の電極材料としては、例えば、アノード電極11の電極材料として例示した、触媒担持多孔質担体などが挙げられる。
【0028】
空気供給部材17は、セパレータとしても兼用され、ガス不透過性の導電性部材からなる。空気供給部材17には、その表面から凹む葛折状の溝が形成されている。そして、空気供給部材17は、溝の形成された表面がカソード電極16に対向接触されている。これにより、カソード電極16の他方面と空気供給部材17の一方面(溝の形成された表面)との間には、カソード電極16全体に空気を接触させるための空気供給路18が形成される。
【0029】
空気供給路18には、空気をカソード10内に流入させるための空気供給口19が他端側(上側)に形成され、空気をカソード10から排出するための空気排出口20が一端側(下側)に形成されている。
【0030】
また、このような燃料電池3において、複数の単位セル28をそれぞれ区分する1つのセパレータは、上記燃料供給部材12および上記空気供給部材17を兼ね備える。換言すると、セパレータは、その一方側面において、燃料供給部材12として作用するとともに、他方側面において、空気供給部材17として作用する。
(2)燃料給排部
燃料給排部4は、液体燃料を貯留するための燃料タンク22と、燃料タンク22から燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)へ供給液を供給する燃料供給経路としての燃料供給ライン30と、燃料供給ライン30に介在される濃度調整タンク47と、燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)から排出液を排出する燃料排出経路としての燃料排出ライン31と、燃料排出ライン31から濃度調整タンク47へ排出液を輸送する還流経路としての還流ライン32とを備えている。
【0031】
なお、燃料供給ライン30と燃料排出ライン31との間には、燃料電池3が介在されており、また、燃料排出ライン31と還流ライン32との間には、気液分離器23(後述)が介在されている。
【0032】
燃料タンク22は、燃料電池3よりも後方であり、電動車両1の後部に配置されている。燃料タンク22には、液体燃料として、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジンなどが貯蔵(貯留)されている。
【0033】
燃料供給ライン30は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料タンク22に接続されるとともに、下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)に接続されている。
【0034】
濃度調整タンク47は、詳しくは後述するが、上記した液体燃料に耐性のある材質、具体的には、ステンレス鋼から形成されている。そして、濃度調整タンク47は、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料供給ライン30の途中に介在されている。
【0035】
また、濃度調整タンク47には、シール材(ガスケットなど)を介して、還流ライン32(後述)の下流側端部が接続されており、還流ライン32を介して、排出液が供給される。これにより、濃度調整タンク47において、燃料タンク22から輸送された液体燃料(1次供給液)と、燃料電池3から排出された排出液とが、適宜の割合で混合され、燃料電池3に供給される液体燃料(2次供給液)の濃度が、調整される。
【0036】
また、燃料供給ライン30の流れ方向途中において、濃度調整タンク47の上流側には、第1供給ポンプ33および燃料供給弁34が設けられている。
【0037】
第1供給ポンプ33としては、例えば、ロータリーポンプ、ギヤポンプなどの回転式ポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復式ポンプなど、公知の送液ポンプが用いられる。第1供給ポンプ33は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されている(
図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、第1供給ポンプ33に入力され、コントロールユニット29(後述)が、第1供給ポンプ33の駆動および停止を制御する。
【0038】
また、燃料供給弁34は、燃料供給ライン30を開閉するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。また、燃料供給弁34は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されている(
図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、燃料供給弁34に入力され、コントロールユニット29(後述)が、燃料供給弁34の開閉を制御する。
【0039】
このような第1供給ポンプ33の駆動、および、燃料供給弁34の開閉により、燃料タンク22から、液体燃料(1次(高濃度)供給液)が、濃度調整タンク47へ供給される。
【0040】
また、燃料供給ライン30の流れ方向途中において、濃度調整タンク47の下流側には、第2供給ポンプ35が設けられている。
【0041】
第2供給ポンプ35としては、例えば、上記した公知の送液ポンプが用いられる。第2供給ポンプ35は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されている(
図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、第2供給ポンプ35に入力され、コントロールユニット29(後述)が、第2供給ポンプ35の駆動および停止を制御する。
【0042】
このような第2供給ポンプ35の駆動により、液体燃料(2次供給液)が、濃度調整タンク47から燃料電池3に供給される。
【0043】
燃料排出ライン31は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)に接続されるとともに、下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、気液分離器23に接続されている。
【0044】
このような燃料排出ライン31により、排出液が燃料電池3から排出され、気液分離器23に輸送される。
【0045】
気液分離器23は、例えば、中空の容器からなり、その下部には、気液分離器23の内外を連通させる底部流通口24が2つ形成されている。
【0046】
また、気液分離器23の上部には、気液分離器23の内外を連通させる上部流通口25が1つ形成されている。
【0047】
気液分離器23は、燃料電池3よりも電動車両1の後方、かつ、電動車両1の上方において、2つの底部流通口24が、それぞれ、シール材(ガスケットなど)を介して、燃料排出ライン31および還流ライン32(後述)に接続されている。
【0048】
そして、気液分離器23には、燃料電池3からの排出液が、燃料排出ライン31を介して流入する。これによって、気液分離器23において、詳しくは後述するが、排出液に含まれるガスが、排出液から分離される。
【0049】
上部流通口25には、気液分離器23で分離されたガス(気体)を排出するためのガス排出管26が接続されている。ガス排出管26の上流側端部は、シール材(ガスケット)を介して上部流通口25に接続され、ガス排出管26の下流側端部は、大気に開放されている。また、ガス排出管26の途中には、ガス排出弁27が設けられている。
【0050】
ガス排出弁27は、ガス排出管26を開放して気液分離器23内の圧力を開放するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。ガス排出弁27は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されている(
図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット29(後述)からの制御信号がガス排出弁27に入力され、コントロールユニット29(後述)が、ガス排出弁27の開閉を制御する。
【0051】
還流ライン32は、その上流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、気液分離器23の底部流通口24に接続されるとともに、その下流側端部が、シール材(ガスケットなど)を介して、濃度調整タンク47に接続されている。
【0052】
これにより、燃料排出ライン31内を輸送される排出液が、気液分離器23および還流ライン32を介して、濃度調整タンク47に輸送される。そして、濃度調整タンク47内において、燃料タンク22から輸送された液体燃料(1次供給液)と混合され、濃度調整された後、供給液(2次供給液)として、燃料電池3に戻ることにより、アノード9を循環するクローズドライン(閉流路)が形成される。
(3)空気給排部
空気給排部5は、燃料電池3(カソード10)に対して空気を供給するための空気供給ライン41と、水を液体燃料から分離するための水分離ユニット48と、カソード10から排出される空気を外部に排出するための空気排出ライン42とを備えている。
【0053】
空気供給ライン41は、その上流側端部が大気中に開放され、その下流側端部が空気供給口19に接続されている。空気供給ライン41の途中には、空気供給ポンプ43が介在されており、また、その下流側には、空気供給弁44が設けられている。
【0054】
また、空気供給ポンプ43は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されており、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、空気供給ポンプ43に入力され、コントロールユニット29(後述)が、空気供給ポンプ43の駆動および停止を制御する。
【0055】
空気供給弁44は、空気供給ライン41を開閉するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。
【0056】
また、空気供給弁44は、コントロールユニット29(後述)に電気的に接続されており、コントロールユニット29(後述)からの制御信号が、空気供給弁44に入力され、コントロールユニット29(後述)が、空気供給弁44の開閉を制御する。
【0057】
また、空気供給ライン41は、空気供給ポンプ43および空気供給弁44の下流側において、濃度調整タンク47内を通過するように配設されている。
【0058】
水分離ユニット48は、本実施形態において、空気供給ライン41に介在されている。水分離ユニット48は、濃度調整タンク47内に配置される水分離手段としての水分離器45と、濃度調整タンク内において、水分離器45を保持するための保持手段としての保持ユニット46とを備えている。
【0059】
水分離器45は、詳しくは後述するが、
図2Aに示すように、空気が通過可能であり、水を液体燃料(排出液)から分離するように構成されている。
【0060】
なお、水分離器45は、図示しないが、空気供給ライン41および濃度調整タンク47に対して着脱可能に設けられており、必要に応じて、空気供給ライン41および濃度調整タンク47から取り外し、洗浄および交換が可能である。
【0061】
保持ユニット46は、詳しくは後述するが、濃度調整タンク47内において、水分離器45をぶら下げるように保持している。保持ユニット46は、濃度調整タンク47よりも上流側の空気供給ライン41からの空気が、水分離器45に供給され、かつ、水分離器45を通過した空気が、濃度調整タンク47よりも下流側の空気供給ライン41に排出されるように構成されている。
【0062】
そして、水分離器45および保持ユニット46を通過した空気は、
図1に示すように、空気供給ライン41(濃度調整タンク47よりも下流側の空気供給ライン41)を介して、燃料電池3に供給される。
【0063】
空気排出ライン42は、その上流側端部が空気排出口20に接続され、下流側端部がドレンとされる。
(4)制御部
制御部6は、コントロールユニット29を備えている。
【0064】
コントロールユニット29は、電動車両1における電気的な制御を実行するユニット(例えば、ECU:Electronic Control Unit)であり、CPU、ROMおよびRAMなどを備えるマイクロコンピュータから構成されている。
【0065】
制御部6では、詳しくは後述するが、例えば、第1供給ポンプ33、第2供給ポンプ35、空気供給ポンプ43などの駆動および停止や、燃料供給弁34やガス排出弁27、空気供給弁44などの開閉などを、適宜制御する。
(5)動力部
動力部7は、燃料電池3から出力される電気エネルギーを電動車両1の駆動力として機械エネルギーに変換するためのモータ37と、モータ37に電気的に接続されるインバータ38と、モータ37による回生エネルギーを蓄電するための動力用バッテリ40と、DC/DCコンバータ36とを備えている。
【0066】
モータ37は、燃料電池3よりも前方であって、電動車両1の前部に配置されている。モータ37としては、例えば、三相誘導電動機、三相同期電動機など、公知の三相電動機が挙げられる。
【0067】
インバータ38は、モータ37と燃料電池3との間に配置されている。インバータ38は、燃料電池3で発電された直流電力を交流電力に変換する装置であって、例えば、公知のインバータ回路が組み込まれた電力変換装置が挙げられる。また、インバータ38は、配線により、燃料電池3およびモータ37にそれぞれ電気的に接続されている。
【0068】
動力用バッテリ40としては、例えば、ニッケル水素電池や、リチウムイオン電池など、公知の二次電池が挙げられる。また、動力用バッテリ40は、インバータ38と燃料電池3との間の配線に接続され、これにより、燃料電池3からの電力を蓄電可能、かつ、モータ37に電力を供給可能とされている。
【0069】
DC/DCコンバータ36は、動力用バッテリ40と燃料電池3との間に配置されている。DC/DCコンバータ36は、燃料電池3の出力電圧を昇降圧する機能を有し、燃料電池3の電力および動力用バッテリ40の入出力電力を調整する機能を有している。
【0070】
そして、DC/DCコンバータ36は、コントロールユニット29と電気的に接続されており(
図1の破線参照)、これにより、コントロールユニット29から出力される出力制御信号の入力に応じて、燃料電池3の出力(出力電圧)を制御する。
【0071】
また、DC/DCコンバータ36は、配線により、燃料電池3および動力用バッテリ40にそれぞれ電気的に接続されているとともに、配線の分岐により、インバータ38に電気的に接続されている。
【0072】
これにより、DC/DCコンバータ36からモータ37への電力は、インバータ38において直流電力から三相交流電力に変換され、三相交流電力としてモータ37に供給される。
2.濃度調整タンクおよび水分離ユニットの詳細
濃度調整タンク47は、
図2Aに示すように、略ボックス形状を有している。詳しくは、濃度調整タンク47は、上下方向と直交する第1方向に間隔を隔てて配置される1対の第1側壁50と、上下方向および第1方向の両方向と直交する第2方向に間隔を隔てて配置される1対の第2側壁51と、1対の第1側壁50および1対の第2側壁51の下端部を連結する底壁52と、1対の第1側壁50および1対の第2側壁51の上端部を連結する上壁53とを備えている。
【0073】
1対の第1側壁50は、濃度調整タンク47の第1方向両端部である。1対の第1側壁50のそれぞれは、第1方向から見て、略矩形の板状に形成されている。1対の第1側壁50のうち、第1方向の一方側の第1側壁50は、第1燃料入口54を有している。
【0074】
第1燃料入口54は、第1側壁50を第1方向に貫通している。第1燃料入口54には、シール材(ガスケットなど)を介して、濃度調整タンク47よりも上流の燃料供給ライン30が接続されている。
【0075】
1対の第2側壁51は、濃度調整タンク47の第2方向両端部である。1対の第2側壁51のそれぞれは、1対の第1側壁50の第2方向の両端部間に架設されており、第2方向から見て略矩形の板状に形成されている。
【0076】
底壁52は、濃度調整タンク47の下端部であり、上下方向から見て略矩形の板状に形成されている。底壁52は、燃料出口55を有している。
【0077】
燃料出口55は、底壁52を上下方向に貫通している。燃料出口55には、シール材(ガスケットなど)を介して、濃度調整タンク47よりも下流の燃料供給ライン30が接続されている。
【0078】
上壁53は、濃度調整タンク47の上端部であり、上下方向から見て略矩形の板状に形成されている。上壁53は、第2燃料入口56と、貫通口57とを有している。
【0079】
第2燃料入口56は、上壁53を上下方向に貫通している。第2燃料入口56には、シール材(ガスケットなど)を介して、還流ライン32の下流側端部が接続されている。
【0080】
貫通口57は、後述する水分離器45の個数に対応して複数対、具体的には、3対備えられている。3対の貫通口57は、第2方向に間隔を隔てて1対ずつ配置されている。
【0081】
1対の貫通口57は、第1方向に間隔を隔てて配置されている。また、1対の貫通口57の第1方向の間隔は、水分離器45の第1方向の寸法と略同じである。
【0082】
貫通口57は、平面視略円形状に形成されており、上壁53を上下方向に貫通している。
【0083】
水分離ユニット48は、上記したように、水分離器45と、保持ユニット46とを備えている。
【0084】
水分離器45は、濃度調整タンク47内の下方部分に配置されている。水分離器45は、第2方向に間隔を隔てて複数、具体的には、3つ並列配置されている。
【0085】
水分離器45は、第1方向に延びる略円柱形状に形成されている。水分離器45は、例えば、水分離膜の中空糸からなり、具体的には、水分離膜からなる中空糸(中空糸膜)の束として、形成されている。
【0086】
水分離膜は、排出液中に含まれる液体燃料の反応生成物や、未反応の液体燃料などを遮断する一方、反応生成水(水分)を透過させる膜であって、特に制限されないが、例えば、孔径が1nm以下の炭素膜などが挙げられる。水分離膜の孔径は、例えば、1nm以下、好ましくは、0.5nm以下であり、通常、0.3nm以上である。
【0087】
また、このような水分離膜からなる中空糸(中空糸膜)の内径は、例えば、200μm〜400μm、好ましくは、250μm〜350μmである。
【0088】
そして、このような水分離膜からなる中空糸を、複数(例えば、500〜2500本)束ねることにより、集合筒状の水分離器45が得られる。
【0089】
また、水分離器45は、濃度調整タンク47内において、図示しない液体燃料(排出液と1次供給液との混合液)に浸漬されている。
【0090】
保持ユニット46は、水分離器45の個数に対応して複数、具体的には、3つ備えられている。各保持ユニット46は、1対の受部59と、1対の保持パイプ60と、1対の止め具61を備えている。
【0091】
1対の受部59のそれぞれは、第1方向に間隔を隔てて配置されている。受部59は、第1方向に延びる略円筒形状に形成されており、第1方向の外側端部が閉鎖されている。受部59の内径は、水分離器45の外径と略同じである。また、図示しないが、受部59の上端部には、受部59の内外を上下方向に連通する開口が形成されている。
【0092】
そして、1対の受部59のうち、第1方向一方側の受部59は、対応する水分離器45の第1方向一端部に径方向の外側から嵌っており、第1方向他方側の受部59は、対応する水分離器45の第1方向他端部に径方向の外側から嵌っている。
【0093】
1対の保持パイプ60のそれぞれは、上下方向に延びる略円筒形状に形成されており、その外径は、貫通口57の外径と略同じである。そして、1対の保持パイプ60のそれぞれは、対応する受部59に1つずつ接続されている。詳しくは、保持パイプ60の下端部は、対応する受部59の図示しない開口に、シール材(ガスケットなど)を介して、接続されている。これによって、保持パイプ60と受部59内とは、連通している。
【0094】
そのため、第1方向の一方側の保持パイプ60は、受部59を介して、水分離器45に空気を供給可能であり、第1方向の他方側の保持パイプ60は、受部59を介して、水分離器45を通過した空気を受け入れ可能である。
【0095】
そして、1対の保持パイプ60のそれぞれは、対応する1対の貫通口57のそれぞれに、上下方向に移動可能となるように挿通されている。
【0096】
1対の止め具61のそれぞれは、各保持パイプ60に1つずつ対応している。止め具61は、
図2Bに示すように、嵌合部63と、ねじ62とを備えている。
【0097】
嵌合部63は、上下方向に延びる略円筒形状に形成されている。嵌合部63の内径は、保持パイプ60の外径よりも僅かに大きい。また、嵌合部63は、ねじ穴64を有している。ねじ穴64は、嵌合部63の内部空間と外部空間とを連通するように、嵌合部63を径方向に貫通している。ねじ穴64の内周面には、螺旋状のねじ溝が形成されている。
【0098】
そして、嵌合部63は、上壁53の上面に接触するように配置されており、対応する保持パイプ60が上下方向に移動可能に挿通されている。
【0099】
ねじ62は、ねじ穴64に螺合可能に形成されており、ねじ穴64に挿入されている。そして、ねじ62は、回転させることにより、嵌合部63の径方向に進退可能である。
【0100】
また、ねじ62を嵌合部63の径方向の内方に最も進出させると、ねじ62の軸部の遊端部が、保持パイプ60と接触する。これによって、保持パイプ60の上下方向の移動が規制される。そのため、保持ユニット46は、濃度調整タンク47の上壁53に移動不能に保持され、水分離器45を上壁53からぶら下がるように保持する。
【0101】
一方、ねじ62を嵌合部63の径方向の外方に退避させると、ねじ62の軸部の遊端部と保持パイプ60との接触が解除される。これによって、保持パイプ60の上下方向の移動が許容される。
【0102】
また、空気供給ライン41は、濃度調整タンク47の上流側および下流側のそれぞれにおいて3つの分岐ライン70に分岐されている。そして、濃度調整タンク47よりも上流の各分岐ライン70が、第1方向一方側の保持パイプ60のそれぞれの上端部に、シール材(ガスケットなど)を介して、接続されており、濃度調整タンク47よりも下流の各分岐ライン70が、第1方向他方側の保持パイプ60のそれぞれの上端部に、シール材(ガスケットなど)を介して、接続されている。
3.燃料電池システムによる発電
上記した燃料電池システム2では、
図1に示すように、コントロールユニット29の制御により、燃料供給弁34が開かれ、第1供給ポンプ33および第2供給ポンプ35が駆動されることにより、燃料タンク22に貯留される液体燃料(供給液)が、燃料供給ライン30および濃度調整タンク47を介して、アノード9に供給される。一方、空気供給弁44が開かれ、空気供給ポンプ43が駆動されることにより、空気が空気供給ライン41を介してカソード10に供給される。なお、燃料供給弁34は、液体燃料が所定量供給された後に閉じられるが、後の液体燃料の濃度調整時に、適宜開閉される。
【0103】
アノード9では、液体燃料が、アノード電極11と接触しながら燃料供給路13を通過する。一方、カソード10では、空気が、カソード電極16と接触しながら空気供給路18を通過する。
【0104】
そして、各電極(アノード電極11およびカソード電極16)において電気化学反応が生じ、起電力が発生する。例えば、液体燃料がメタノールである場合には、下記式(1)〜(3)の通りとなる。
(1) CH
3OH+6OH
−→CO
2+5H
2O+6e
−(アノード電極11での反応)
(2) O
2+2H
2O+4e
−→4OH
− (カソード電極16での反応)
(3) CH
3OH+3/2O
2→CO
2+2H
2O (燃料電池3全体での反応)
すなわち、メタノールが供給されたアノード電極11では、メタノール(CH
3OH)とカソード電極16での反応で生成した水酸化物イオン(OH
−)とが反応して、二酸化炭素(CO
2)および水(H
2O)が生成するとともに、電子(e
−)が発生する(上記式(1)参照)。
【0105】
アノード電極11で発生した電子(e
−)は、図示しない外部回路を経由してカソード電極16に到達する。つまり、この外部回路を通過する電子(e
−)が、電流となる。
【0106】
一方、カソード電極16では、電子(e
−)と、外部からの供給もしくは燃料電池3での反応で生成した水(H
2O)と、空気供給路18を流れる空気中の酸素(O
2)とが反応して、水酸化物イオン(OH
−)が生成する(上記式(2)参照)。
【0107】
そして、生成した水酸化物イオン(OH
−)が、電解質層8を通過してアノード電極11に到達し、上記と同様の反応(上記式(1)参照)が生じる。
【0108】
また、例えば、液体燃料がヒドラジンである場合には、下記式(4)〜(6)の通りとなる。
(4) N
2H
4+4OH
−→N
2+4H
2O+4e
− (アノード電極11での反応)
(5) O
2+2H
2O+4e
−→4OH
− (カソード電極16での反応)
(6) N
2H
4+O
2→N
2+2H
2O (燃料電池3全体での反応)
このようなアノード電極11およびカソード電極16での電気化学的反応が連続的に生じることによって、燃料電池3全体として、上記式(3)または上記式(6)で表わされる反応が生じて、燃料電池3に起電力が発生する。
【0109】
そして、発生した起電力が、配線を介して、DC/DCコンバータ36に送電され、動力部7では、インバータ38およびモータ37、および/または、動力用バッテリ40に送電される。そして、モータ37では、インバータ38により三相交流電力に変換された電気エネルギーが電動車両1の車輪を駆動させる機械エネルギーに変換される。一方、動力用バッテリ40では、その電力が充電される。
【0110】
また、燃料給排部4では、アノード9から排出される液体燃料(未反応の液体燃料、反応生成物および反応生成水含む排出液)が、燃料排出ライン31を通過して上流側の底部流通口24から気液分離器23に流入する。気液分離器23では、水位が上部流通口25よりも下方位置に保持される液体燃料の液溜まり39が、気液分離器23の中空部分に生じるとともに、液溜まり39に含まれるガス(気体)が液溜まり39の上方空間へ分離される。その一方で、液溜まり39の一部が、下流側の底部流通口24から還流ライン32に流出する。
【0111】
還流ライン32に流出する液体燃料(未反応の液体燃料、反応生成物および反応生成水含む排出液)は、濃度調整タンク47に流入され、その濃度調整タンク47内において、燃料タンク22から供給される液体燃料と混合された後、再び燃料供給口15から燃料供給路13に流入する。
【0112】
このようにして、液体燃料が、クローズドライン(還流ライン32、濃度調整タンク47、燃料供給ライン30、燃料排出ライン31、気液分離器23および燃料供給路13)を循環する。なお、気液分離器23で分離された気体は、ガス排出弁27が開かれることにより、ガス排出管26を介して外部へ排出される。
4. 水の分離
上記したように、燃料電池システム2では、燃料電池3のアノード9から排出される液体燃料(未反応の液体燃料、反応生成物および反応生成水含む排出液)が、還流ライン32、および、濃度調整タンク47よりも下流側の燃料供給ライン30を介して、燃料電池3に還流され、再利用される。
【0113】
しかし、式(1)〜(6)として示したように、燃料電池3による発電では、その発電反応において水が生じるため、排出液には、水が含有される。すなわち、排出液においては、液体燃料の濃度が低下している。そのため、排出液をそのまま燃料電池3に還流して用いると、発電効率の低下を惹起する場合がある。
【0114】
これに対して、上記の燃料電池システム2では、燃料電池3から排出される排出液に含有される水を分離し、還流される液体燃料の濃度を調整(増加)することができる。
【0115】
具体的には、この燃料電池システム2では、燃料電池3から燃料排出ライン31に排出された排出液は、気液分離器23を介して、濃度調整タンク47に供給される。
【0116】
このとき、濃度調整タンク47内に配置される水分離器45(中空糸膜)内には、
図2Aに示すように、濃度調整タンク47よりも上流側の空気供給ライン41を流れる空気が、第1方向一方側の保持パイプ60および受部59を介して供給されている。
【0117】
そのため、水分離器45(中空糸膜)内には空気が流れており、水分離器45の周囲の液体燃料中の水分が水蒸気化され、水分離器45の外膜(水分離膜)を通過する。これにより、液体燃料から水分が分離される(浸透気化法)。
【0118】
このようにして水分が分離された液体燃料(すなわち、高濃度の液体燃料)は、
図1に示すように、燃料供給ライン30を介して、再び燃料電池3に供給される。
【0119】
このように液体燃料から水分を分離することにより、液体燃料の濃度を調整(増加)することができ、発電効率の向上を図ることができる。
【0120】
一方、水分離器45の外膜(水分離膜)を通過した水蒸気は、
図2Aに示すように、水分離器45内において、空気と混合される。これにより、空気が加湿される。その後、加湿された空気は、第1方向他方側の保持パイプ60および受部59を介して、濃度調整タンク47よりも下流側の空気供給ライン41に排出される。その後、加湿された空気は、
図1に示すように、空気供給ポンプ43の駆動によって、空気供給ライン41を介してカソード10に供給される。このとき、水分は、カソード10に供給されるとともに、カソード10を透過して電解質層8を湿潤させる。
【0121】
なお、上記の実施形態では、液体燃料に含まれる水分(排出液中の反応生成水)の量に応じて、使用される水分離器45の数を決定することができる。すなわち、液体燃料に含まれる水分の量が多い場合には、より多く(例えば、全て)の水分離器45を用い、また、液体燃料に含まれる水分の量が少ない場合には、その水分の量に応じて、水分離器45の使用数を減少させることができる。
【0122】
水分離器45の使用数を減少させる方法は、特に制限されず、例えば、空気供給ライン41の分岐ライン70における水分離器45の上流側に開閉弁を設け、それらを開閉させることなどによって、空気の流路を制限し、所望の水分離器45(中空糸膜)内のみに、空気を通過させる方法などが挙げられる。
5.作用効果
このような燃料電池システム2では、濃度調整タンク47において、液体燃料(排出液)に含まれる水分が、空気供給ライン41に介在される水分離器45によって分離され、液体燃料の濃度が調整される。そして、濃度が調整された液体燃料が、燃料電池3に還流される。そのため、このような燃料電池システム2によれば、液体燃料を、効率よく利用することができ、低コスト化を図ることができる。
【0123】
そして、保持ユニット46が、
図2Aに示すように、濃度調整タンク47内において、水分離器45をぶら下げるように保持している。そのため、例え、濃度調整タンク47に振動や衝撃が加わった場合や、濃度調整タンク47が膨張または収縮した場合であっても、保持ユニット46が、振動や衝撃、または濃度調整タンク47の伸縮を吸収することができ、水分離器45に応力がかかることを抑制できる。その結果、水分離器45が破損してしまうことを抑制できる。
【0124】
また、保持ユニット46の保持パイプ60は、上下方向に移動可能となるように、貫通口57に挿通されている。そのため、保持ユニット46が、振動や衝撃、または濃度調整タンク47の伸縮を確実に吸収することができる。その結果、簡易な構成でありながら、水分離器45が破損してしまうことを確実に抑制できる。
【0125】
また、保持ユニット46を上下方向に移動させることにより、濃度調整タンク47において、水分離器45を上下方向に移動させることができる。そのため、水分離器45を、濃度調整タンク47内において、所望する高さ(上下方向の位置)に容易に配置することができる。
【0126】
しかるに、上記の燃料電池システム2においては、カソード電極16では、式(2)および(5)として示したように、水が酸素と反応する。そのため、カソード電極16での反応を円滑に進行させるためには、カソード電極16に十分な水分が供給される必要がある。また、式(1)〜(6)として示したように、水酸化物イオンなどのイオンが電解質層8を通過する。そのため、電解質層8がイオン導電性を備えるためには、電解質層8が十分に湿潤している必要がある。
【0127】
この点、上記の燃料電池システム2では、液体燃料(排出液)から分離・回収された水分は、空気供給ライン41内に導入されるため、より多くの水分を含んだ空気が、燃料電池3に供給される。そのため、その水分をカソード電極16に供給することができ、かつ、電解質層8を湿潤させることができる。その結果、燃料電池3の導電性の向上を図ることができ、発電効率の向上を図ることができる。
【0128】
また、空気供給ライン41内の空気を加湿するため、別途、加湿器などを備える場合には、水タンクなどが搭載されるため、燃料電池システム2の体積が大きくなる。
【0129】
一方、上記した燃料電池システム2によれば、加湿器を用いることなく空気に水分を含有させることができるため、加湿器を用いる場合に比べ、燃料電池システム2の体積を減少させ、省スペース化を図ることができる。
【0130】
また、上記した燃料電池システム2によれば、排出液に含有される水分が水蒸気として分離され、水蒸気として空気供給ライン41に供給されるため、より効率よく空気を加湿することができる。
【0131】
また、上記した燃料電池システム2において、燃料電池3から排出された排出液は、燃料電池3において加熱されている。そのため、排出液中の水分をより少ないエネルギーで水蒸気として回収することができ、低エネルギー化および低コスト化を図ることができる。
【0132】
さらに、上記した燃料電池システム2では、水分が水蒸気として分離されるため、排出液の熱エネルギーを気化熱として放出させ、排出液を冷却することができる。そのため、排出液をより低温状態で再び燃料電池3に供給することができ、発電効率の向上を図ることができる。
【0133】
それに加えて、上記した燃料電池システム2では、燃料電池3から排出される排出液(水分を含有した低濃度液体燃料)から、水分が回収され、高濃度液体燃料として還流ライン32に還流されるため、燃料タンク22からの液体燃料の供給量や供給頻度を低減することができ、より効率よく液体燃料を利用することができる。
6.変形例
上記の実施形態では、水分離ユニット48が、空気供給ライン41に介在されるが、水分離ユニット48の配置は特に制限されない。例えば、水分離器45に空気を供給するための第2空気供給ライン(図示せず)を、空気供給ライン41とは別途設けることもできる。そのような場合には、水分離ユニット48が、第2空気供給ライン(図示せず)に介在される。そして、第2空気供給ライン(図示せず)を介して水分離器45に空気を供給し、反応生成水を含む液体燃料から水を分離することができる。
【0134】
また、上記の実施形態では、水分離器45が中空糸から形成されるが、これに限定されず、水分離器45は、例えば、複数の貫通孔(パス)を備える略円筒形のハニカムセラミック担体と、その貫通孔(パス)の内周壁面を被覆する水分離膜とからなる水分離ユニット(例えば、サブナノセラミック膜フィルター(日本ガイシ製))などを用いることもできる。また、例えば、水分離器45内を、公知の減圧装置によって減圧することにより、反応生成水を含む液体燃料から水を分離することもできる。
【0135】
また、上記の実施形態では、燃料電池システム2は、複数の水分離器45を備えるが、水分離器45の個数は、特に限定されず、1つ(単数)であってもよい。水分離器45が1つである場合、濃度調整タンク47は、1対の貫通口57を有し、空気給排部5は、1つの水分離ユニット48を備える。
【0136】
また、上記の実施形態では、濃度調整タンク47は、略ボックス形状に形成されるが、濃度調整タンク47の形状は特に限定されない。濃度調整タンク47は、例えば、両端部が閉鎖される略円筒形状に形成することもできる。
【0137】
これらによっても、上記の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、これら実施形態および変形例は、適宜組み合わせることができる。