特許第6290714号(P6290714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6290714カムシャフトの誘導加熱装置、並びに、カムシャフトの誘導加熱方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290714
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】カムシャフトの誘導加熱装置、並びに、カムシャフトの誘導加熱方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/36 20060101AFI20180226BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20180226BHJP
   C21D 9/30 20060101ALI20180226BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20180226BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   H05B6/36 F
   H05B6/10
   C21D9/30 B
   C21D9/30 A
   C21D1/10 R
   C21D1/42 J
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-113197(P2014-113197)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-228313(P2015-228313A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】己之上 潤二
(72)【発明者】
【氏名】橋口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 裕也
【審査官】 豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0225805(US,A1)
【文献】 特開2013−23740(JP,A)
【文献】 特開2002−363648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00 − 6/44
C21D 1/02 − 1/84
C21D 9/00 − 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカム部を有し、隣接する前記カム部の間に、各カム部よりも回転軌跡が小さい小径部を有し、前記各カム部と小径部とを誘導加熱するカムシャフトの誘導加熱装置であって、
隣接するカム部の周面に対向する環状又は螺旋状の第1誘導加熱コイルと、
小径部の周面に対向する環状又は螺旋状の第2誘導加熱コイルとを有し、
第1誘導加熱コイルと第2誘導加熱コイルは、同時に通電されてカムシャフトのカム部及び小径部を同時に誘導加熱するものであり、
カムシャフトの回転と同期して第1誘導加熱コイルを偏心回転駆動する駆動手段と、
第2誘導加熱コイルの中心を小径部の中心とずらした状態で固定する偏心手段とを有することを特徴とするカムシャフトの誘導加熱装置。
【請求項2】
複数のカム部を有し、隣接する前記カム部の間に、各カム部よりも回転軌跡が小さい小径部を有し、前記各カム部と小径部とを誘導加熱するカムシャフトの誘導加熱方法であって、
隣接するカム部の周面に環状又は螺旋状の第1誘導加熱コイルを対向配置し、
小径部の周面に環状又は螺旋状の第2誘導加熱コイルを対向配置し、
カムシャフトを回転させると共に、第1誘導加熱コイルを、カムシャフトの回転と同期して偏心回転駆動させ、第2誘導加熱コイルの中心をカムシャフトの中心からずらした状態で固定し、
第1誘導加熱コイルと第2誘導加熱コイルに高周波電流を通電することを特徴とするカムシャフトの誘導加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のカム部と、隣接する各カム部の間にカム部よりも回転軌跡が小さい小径部を有するカムシャフトにおいて、隣接する各カム部と、その間の小径部を同時に誘導加熱するためのカムシャフトの誘導加熱装置、並びに、カムシャフトの誘導加熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カムシャフトのカム部分には、通常は他部材が当接している。そしてカムシャフトが回転すると、他部材はカムシャフトのカム部分に当接しながら往復移動する。すなわち、カム部分は、他部材と接するため、焼入によって強度(耐摩耗性)の向上が図られている。
【0003】
カムシャフトのカム部分を高周波焼入れするための装置が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている誘導加熱装置は、カムシャフト上の位相の異なる複数のカムを同時に誘導加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5329057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、様々な車両用及び船舶用のエンジンが開発され、対応するカムシャフトも様々な態様のものが開発されている。例えば、シリンダに吸気弁と排気弁がそれぞれ2つずつ設けられたエンジンが開発され、実用化されている。このようなエンジンに採用されるカムシャフト上には、エンジン(シリンダ)の吸気弁の開閉を司る同位相のカムが隣接して設けられており、同様に、排気弁の開閉を司る別位相のカムが隣接して設けられている。
吸気用の各カムの間には、各カムの回転軌跡よりも小さいジャーナル部が存在する。同様に、排気用の各カムの間にも、各カムの回転軌跡よりも小さいジャーナル部が存在する。昨今は、カムだけではなく、隣接するカムの間のジャーナル部の強度向上が要望されている。本発明者らは、カムシャフトにおける隣接するカムとその間のジャーナル部を同時に高周波誘導加熱することができる高周波誘導加熱装置を開発するべく創意工夫し、この要望に応えようとした。
【0006】
ところが、従来の高周波誘導加熱装置では、この要求に応えるのが非常に困難であることが判明した。すなわち、特許文献1に開示されている誘導加熱装置は、位相の異なる複数のカムを同時に誘導加熱することは可能であるが、カムと共にジャーナル部を同時に誘導加熱することはできない。
【0007】
一般に、加熱コイルは、ワークの全周囲に対向する環状型のコイルの方が、ワークの全周囲の半分程度にのみ対向する半開放型のコイルよりも対向範囲が広い分だけ加熱効率が高い。また、環状型のコイルの内部にワークを配置すると、コイルに流れる高周波電流によって生じる磁束がワークを通過し、ワークに高周波誘導電流が励起され易い。そのため、加熱コイルの形状は、環状であることが望ましい。
【0008】
ここで、ジャーナル部を誘導加熱する加熱コイルが環状であると、この加熱コイルをジャーナル部に対向配置するためには、ジャーナル部よりも回転軌跡が大きいジャーナル部の両側のいずれかのカムが、加熱コイルの内部を通過しなければならない。
【0009】
そのため、加熱コイルの内径は、ジャーナル部の外径に対して相当に大きくする必要があり、加熱コイルからジャーナル部までの距離が離れることにより、誘導効率が非常に悪いものとなってしまう。
【0010】
また、カムとジャーナル部に同時に対向する単一の加熱コイルで、カムと小径のジャーナル部を誘導加熱すると、カムの回転に応じて加熱コイルを偏心回転させる必要があり、加熱コイルにおけるジャーナル部と対向する部分も無駄に偏心回転することとなる。
【0011】
そこで本発明は、この様な事情に鑑み、隣接するカム同士の間に、カムよりも回転軌跡が小さい小径部を有するカムシャフトの各カムと小径部とを同時に効率よく誘導加熱することができる高周波誘導加熱装置と、高周波誘導加熱方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、複数のカム部を有し、隣接する前記カム部の間に、各カム部よりも回転軌跡が小さい小径部を有し、前記各カム部と小径部とを誘導加熱するカムシャフトの誘導加熱装置であって、隣接するカム部の周面に対向する環状又は螺旋状の第1誘導加熱コイルと、小径部の周面に対向する環状又は螺旋状の第2誘導加熱コイルとを有し、第1誘導加熱コイルと第2誘導加熱コイルは、同時に通電されてカムシャフトのカム部及び小径部を同時に誘導加熱するものであり、カムシャフトの回転と同期して第1誘導加熱コイルを偏心回転駆動する駆動手段と、第2誘導加熱コイルの中心を小径部の中心とずらした状態で固定する偏心手段とを有することを特徴とするカムシャフトの誘導加熱装置である。
【0013】
請求項1に記載の発明では、隣接するカム部の周面に対向する環状又は螺旋状の第1誘導加熱コイルと、小径部の周面に対向する環状又は螺旋状の第2誘導加熱コイルとを有し、第1誘導加熱コイルと第2誘導加熱コイルは、同時に通電されてカムシャフトのカム部及び小径部を同時に誘導加熱することができる。第1誘導加熱コイル及び第2誘導加熱コイルは、環状又は螺旋状であるので、誘導効率が良好であり、カム部と小径部を良好に誘導加熱することができる。
カムシャフトの回転と同期して第1誘導加熱コイルを偏心回転駆動する駆動手段を有するので、カム部のトップ部とボトム部の誘導加熱量を調整することができる。そのため、トップ部とボトム部の焼入深さが均一化されるようにカム部の周面を誘導加熱することができる。
また、第2誘導加熱コイルの中心を小径部の中心とずらした状態で固定する偏心手段を有するので、第2誘導加熱コイルを小径部に対向配置した後、偏心手段によって第2誘導加熱コイルを偏心させ、第2誘導加熱コイルの一部を小径部に近接させることができる。そのため、小径部の誘導効率が向上し、小径部の誘導加熱環境を改善することができる。さらに、第2誘導加熱コイルは環状又は螺旋状であるため、小径部の誘導効率は高い。
【0014】
請求項2に記載の発明は、複数のカム部を有し、隣接する前記カム部の間に、各カム部よりも回転軌跡が小さい小径部を有し、前記各カム部と小径部とを誘導加熱するカムシャフトの誘導加熱方法であって、隣接するカム部の周面に環状又は螺旋状の第1誘導加熱コイルを対向配置し、小径部の周面に環状又は螺旋状の第2誘導加熱コイルを対向配置し、カムシャフトを回転させると共に、第1誘導加熱コイルを、カムシャフトの回転と同期して偏心回転駆動させ、第2誘導加熱コイルの中心をカムシャフトの中心からずらした状態で固定し、第1誘導加熱コイルと第2誘導加熱コイルに高周波電流を通電することを特徴とするカムシャフトの誘導加熱方法である。
【0015】
請求項2に記載の発明では、隣接するカム部の周面に環状又は螺旋状の第1誘導加熱コイルを対向配置し、小径部の周面に環状又は螺旋状の第2誘導加熱コイルを対向配置するので、カム部と小径部の誘導加熱効率は高い。
カムシャフトを回転させると共に、第1誘導加熱コイルを、カムシャフトの回転と同期して偏心回転駆動させるので、カム部のトップ部とボトム部の誘導加熱量を調整することができる。すなわち、トップ部とボトム部の焼入深さが均一化されるようにカム部を誘導加熱することができる。
また、第2誘導加熱コイルの中心をカムシャフトの中心からずらした状態で固定するので、第2誘導加熱コイルの一部が小径部に近接した状態で固定される。そのため、当該近接した部位における誘導加熱効率は高い。また、第2誘導加熱コイルは環状又は螺旋状であり、小径部は第2誘導加熱コイルの内部に配置されているので、誘導効率が高い。
さらに、第1誘導加熱コイルと第2誘導加熱コイルに高周波電流を通電するので、カム部と小径部とを同時に誘導加熱することができる。そのため、時間差をおいて各部を誘導加熱するよりも良好な焼入を実施することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高周波誘導加熱装置は、カム部同士の間に、カム部よりも回転軌跡が小さい小径部があるカムシャフトにおける、当該カム部と小径部とを良好に誘導加熱することができる。
また、本発明の高周波誘導加熱方法を実施すると、カム部同士の間に、カム部よりも回転軌跡が小さい小径部があるカムシャフトにおける、当該カム部と小径部とを良好に誘導加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る高周波誘導加熱装置の第1、第2誘導加熱コイルをカムシャフトに対向させる前の状態の斜視図であり、第1、第2誘導加熱コイルが離間している状態を示す。
図2図1において、第1、第2誘導加熱コイルが、同心状に組み合わされた状態を示す斜視図である。
図3図2の状態の第1、第2誘導加熱コイルを、カムシャフトの各カムとジャーナル部に対向させた状態の斜視図である。
図4図3の状態から第2誘導加熱コイルを偏心させた状態を示す斜視図である。
図5図3の状態における第1、第2誘導加熱コイルと、カムシャフトの断面図である。
図6図4の状態における第1、第2誘導加熱コイルと、カムシャフトの断面図である。
図7】本実施の形態に係る高周波誘導加熱装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら説明する。
図1に示すカムシャフト7を、図7に示す高周波誘導加熱装置1で誘導加熱する。
【0019】
図1に示す様に、カムシャフト7は、軸8上に第1カム部9と第2カム部10とが離間して配置されている。第1カム部9と第2カム部10の位相は一致しており、第1カム部9と第2カム部10は、例えばエンジンのシリンダの吸気側の弁の開閉を司る。第1カム部9と第2カム部10は、同じ大きさ及び形状を有しており、位相も一致している。第1カム部9と第2カム部10の間には、軸8の軸芯25と同心のジャーナル部11(小径部)が配置されている。
【0020】
軸8が一回転したときに描く回転軌跡は、第1カム部9と第2カム部10とでは同じであるが、ジャーナル部11が描く回転軌跡は、第1カム部9及び第2カム部10が描く回転軌跡よりも小さい。
【0021】
図1では、カムシャフト7における排気側の弁の開閉を司る部位の描写を省略している。排気側の弁の開閉を司る部位は、図1に示す吸気側の弁の開閉を司る部位と各カム部の位相が相違しているだけであり、実質的には同じ構造であるため、重複する説明を省略する。
【0022】
図7に示す様に、高周波誘導加熱装置1は、高周波電源2、第1誘導加熱コイル3、第2誘導加熱コイル4、駆動手段5、偏心手段6を有する。
【0023】
高周波電源2は、高周波発振器や変圧器(トランス)等を有しており、電力会社から提供される商用電力を高周波発振して第1誘導加熱コイル3、第2誘導加熱コイル4に供給する。第1誘導加熱コイル3用の高周波電源と、第2誘導加熱コイル4用の高周波電源を個別に設けてもよい。
【0024】
第1誘導加熱コイル3は、銅合金等の良導体からなる中空の線状の部材で構成されており、図1に示す様な螺旋構造を呈している。第1誘導加熱コイル3は、高周波電源の図示しないトランスの二次側に接続されるリード部12、13と、第1コイル部14、大径迂回部15、第2コイル部16を有している。第1コイル部14、大径迂回部15、第2コイル部16は、直列にこの順で接続されている。
【0025】
第1コイル部14と第2コイル部16は、同じ直径で同心の螺旋構造である。すなわち、共通の中心線17が第1コイル部14の中心と第2コイル部16の中心を通過している。大径迂回部15は、第1コイル部14及び第2コイル部16よりも大径の螺旋構造を呈している。
【0026】
第1コイル部14と第2コイル部16の間隔は、前述のカムシャフト7の第1カム部9と第2カム部10の間隔と一致している。また、第1コイル部14及び第2コイル部16の内径は、第1カム部9及び第2カム部10の外径よりも若干大きい。
【0027】
また、第1コイル部14にはリード部12が接続されており、第2コイル部16にはリード部13が接続されている。よって、高周波電源2(図7)から供給された高周波電流は、リード部12、13を介して第1コイル部14、大径迂回部15、第2コイル部16を流れる。
【0028】
さらに、第1誘導加熱コイル3は中空であり、冷却液が第1誘導加熱コイル3の内部を通過可能である。よって、第1誘導加熱コイル3自身の昇温を抑制することができる。
【0029】
第2誘導加熱コイル4は、銅合金等の良導体で形成された中空の線状の部材である。すなわち、第2誘導加熱コイル4は、第1誘導加熱コイル3と同じ素材で構成されている。
第2誘導加熱コイル4は、ワンターン型のコイルであり、高周波電源2(図7)の図示しないトランスの二次側に接続されたリード部18、19と、第3コイル部20とを有している。第3コイル部20は、環状であり、図1に示す中心線21上に中心がある。第3コイル部20は、1つの平面上に配置されており、当該平面と中心線21は直交している。
【0030】
高周波電源2から供給された高周波電流は、リード部18、19を介して第3コイル部20を流れる。
【0031】
図7に示す駆動手段5は、第1誘導加熱コイル3を偏心回転移動させる機能を有している。すなわち、駆動手段5は、所定の場所に設置されたカムシャフト7を中心に、第1誘導加熱コイル3を偏心回転させることができる。第1誘導加熱コイル3を偏心回転させる機構自体は、従来の偏心機構と同じである。
【0032】
図7に示す偏心手段6は、第2誘導加熱コイル4を、中心線21と直交する方向に移動させる機能を有している。すなわち、第2誘導加熱コイル4は、偏心手段6によって第3コイル部20が含まれる平面内を移動することができる。また、偏心手段6は、第2誘導加熱コイル4の位置を固定する機能も有している。すなわち、偏心手段6は、所定の位置に移動させた第2誘導加熱コイル4を、その位置で固定することができる。
【0033】
次に、高周波誘導加熱装置1で、カムシャフト7を誘導加熱する手順を説明する。
図1に示す様に、第1誘導加熱コイル3の第1コイル部14及び第2コイル部16の中心線17と、第2誘導加熱コイル4の中心線21とが同一線上になく、第1誘導加熱コイル3と第2誘導加熱コイル4は離間している。
【0034】
カムシャフト7は、図示しない支持機構によって、両端が回転可能に支持される。この支持機構でカムシャフト7を支持する前に、第1誘導加熱コイル3と第2誘導加熱コイル4を支持機構の軸線上に配置する。すなわち、図示しない支持機構の軸線に、第1誘導加熱コイル3の中心線17と第2誘導加熱コイル4の中心線21を一致させるように、第1誘導加熱コイル3と第2誘導加熱コイル4を移動させる(図2)。
【0035】
そして、カムシャフト7を移動させ、カムシャフト7の第1カム部9、第2カム部10を、第1誘導加熱コイル3の第1コイル部14、第2コイル部16にそれぞれ対向させる。すなわち、第1コイル部14、第2コイル部16の内部に、第1カム部9、第2カム部10が配置される。第1コイル部14の内周面と、第1カム部9の外周面の間隔は、略均一である。同様に、第2コイル部16の内周面と、第2カム部10の外周面の間隔も略均一である。
【0036】
また、小径のジャーナル部11は、第2誘導加熱コイル4の第3コイル部20の内部に配置される。このとき、ジャーナル部11の外周面から第3コイル部20の内周面までの距離は、略均一である。このときの、軸8(ジャーナル部11)の中心である軸芯25と、第2誘導加熱コイル4の第3コイル部20の中心線21は、図5に示す様な位置関係にある。すなわち、第3コイル部20の中心線21は、軸8の軸芯25よりも、第1カム部9及び第2カム部10のトップ側(図5で見て上側)に位置している。
【0037】
図3に示す様に、カムシャフト7のジャーナル部11の周囲に第2誘導加熱コイル4の第3コイル部20が配置されると、偏心手段6(図7)は、第2誘導加熱コイル4を中心線21と直交する方向に移動させる。その結果、図4に示す様に、第3コイル部20の中心線21が第1カム部9及び第2カム部10のボトム側(図5図6で見て下方側)に移動する。そして、図6に示す様に、第3コイル部20がジャーナル部11に対して、図5に示す状態よりも偏心する。すなわち、図5に示すジャーナル部11の符号11aで示す部位と、第3コイル部20の符号20aで示す部位との間隔よりも、図6に示すジャーナル部11の符号11bで示す部位と、第3コイル部20の符号20bで示す部位との間隔の方が狭い。
【0038】
偏心手段6は、第3コイル部20の内周面の一部が、ジャーナル部11の外周面に近接するように、第2誘導加熱コイル4を移動させて停止させる(図4図6)。図4に示す状態では、第2誘導加熱コイル4(第3コイル部20)の位置は、偏心手段6によって固定されている。
【0039】
カムシャフト7は、図示しない支持機構によって回転可能に支持されており、図示しない回転機構によって、カムシャフト7の回転駆動が可能である。図4図6に示す状態でカムシャフト7を回転駆動すると共に、高周波電源2(図7)から第1誘導加熱コイル3及び第2誘導加熱コイル4に高周波電流を供給する。
【0040】
その際、第1誘導加熱コイル3、第2誘導加熱コイル4の内部には、図示しない冷却機構によって冷却液が循環供給されており、第1誘導加熱コイル3、第2誘導加熱コイル4自身が過熱状態になるのが防止されている。
【0041】
高周波電源2から第1誘導加熱コイル3及び第2誘導加熱コイル4に高周波電流が供給されると、第1カム部9、第2カム部10、及びジャーナル部11を良好に誘導加熱することができる。すなわち、高周波電源2から各コイルに高周波電流が供給されると、第1カム部9、第2カム部10、及びジャーナル部11の周面に高周波の誘導電流が励起され、第1カム部9、第2カム部10、及びジャーナル部11が良好に誘導加熱される。
【0042】
以上説明したカムシャフト7の誘導加熱の手順は、図示しない制御装置が司っている。すなわち、図7に示す高周波電源2、駆動手段5、偏心手段6、及びカムシャフト7の回転駆動装置(図示せず)は、図示しない制御装置によって制御されている。
【0043】
第1カム部9と第2カム部10の全周囲に渡って、第1誘導加熱コイル3の第1コイル部14と第2コイル部16がそれぞれ近接対向配置されている。第1誘導加熱コイル3は、駆動手段5(図7)によって偏心回転駆動されている。第1誘導加熱コイル3の偏心回転は、カムシャフト7の回転と同期している。
【0044】
図4図6に示す様に、ジャーナル部11の外周面の一部には、第2誘導加熱コイル4の第3コイル部20の内周面の一部が近接対向している。すなわち、制御手段によって偏心手段6が駆動され、第3コイル部20の中心線21が、ジャーナル部11の中心(軸8の軸芯25)から離れ、ジャーナル部11に対して第3コイル部20が偏心する。
【0045】
また、図示しない制御装置は、カムシャフト7を回転駆動する。
カムシャフト7が1回転するうちに、ジャーナル部11の全周囲が第3コイル部20の内周面と近接する。そのため、カムシャフト7が回転すると、ジャーナル部11の全周囲が順に第3コイル部20の内周面に近接する。
【0046】
さらに、図示しない制御装置は、高周波電源2をON状態にする。その結果、第1誘導加熱コイル3及び第2誘導加熱コイル4には高周波電流が流れ、第1カム部9、第2カム部10、及びジャーナル部11の周面に高周波の誘導電流が励起され、第1カム部9、第2カム部10、及びジャーナル部11が誘導加熱される。ここで、第1カム部9と第2カム部10の全周囲に渡って第1コイル部14、第2コイル部16が近接対向している。そのため、第1カム部9と第2カム部10の誘導効率は非常に良好であり、第1カム部9と第2カム部10の周面は良好に誘導加熱される。
【0047】
また、ジャーナル部11の周面の一部に、第3コイル部20の一部が近接している。そして、カムシャフト7が1回転するうちに、ジャーナル部11の全周囲が順に第3コイル部20と近接し、ジャーナル部11の全周囲が良好に誘導加熱される。また、図4図6に示す様に、ジャーナル部11は、環状の第3コイル部20の内部に配置されているため、第3コイル部20を流れる高周波電流によって生じる磁束が、ジャーナル部11を通過するため、誘導効率は良好である。
【0048】
以上の様な高周波誘導加熱装置1によると、カムシャフト7の第1カム部9及び第2カム部10のトップ部分とボトム部分とを均一に誘導加熱することができると共に、小径のジャーナル部11も同時に良好に誘導加熱することができる。よって、カムシャフト7の各部を誘導加熱によって焼入温度まで昇温させ、図示しない冷却液供給装置(冷却ジャケット)から冷却液を噴射供給することにより、カムシャフト7の各部を良好に焼入することができる。
【0049】
本実施の形態では、第1誘導加熱コイル3が螺旋状である例を示したが、第1誘導加熱コイル3は、環状であってもよい。すなわち、第1コイル部14、第2コイル部16を環状構造とし、大径迂回部15によって第1コイル部14、第2コイル部16を接続してもよい。同様に、第2誘導加熱コイル4は、環状構造以外に、螺旋構造を採用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 高周波誘導加熱装置
3 第1誘導加熱コイル
4 第2誘導加熱コイル
5 駆動手段
6 偏心手段
7 カムシャフト
9 第1カム部
10 第2カム部
11 ジャーナル部(小径部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7