【文献】
岡正倫ほか5名,“耳鼻咽喉科日常診療における顕微鏡画像重畳ナビゲーションの臨床応用の試み”,日本コンピュータ外科学会誌,2010年,第12巻,第3号,p.240−241
【文献】
井上大輔ほか9名,“脳神経外科手術における顕微鏡重畳ナビゲーションの将来性とその課題〜商用システムの輪郭重畳表示と比較して〜”,日本コンピュータ外科学会誌,2011年,第13巻,第3号,p.278−279
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記3次元座標取得部が取得する術具の位置座標は、当該術具に備えられた計測の基準となるマーカをもとに計測される位置座標であることを特徴とする請求項1または2に記載の手術支援装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
インテリジェント手術室での手術ナビゲーションシステムにより、高精度な手術が可能となり脳腫瘍摘出率向上および五年後生存率が向上した。しかし、脳の悪性腫瘍に対しては完全な腫瘍摘出は難しく、五年後生存率は未だ低い。これは、悪性腫瘍は脳の正常な部位との境界が肉眼ではわかりにくく、そして、傷つけてはならない神経・血管などが複雑に絡み合っているためである。このため、さらなる工学的支援が必要とされている。
【0011】
直感的な位置情報を提示可能な顕微鏡重畳表示ナビゲーションシステムが報告されている
[1][2]。これは、顕微鏡内のカメラに患者のMRI画像を重畳表示することで術者に腫瘍・神経・血管などの位置情報を直感的に提示可能としたシステムである。しかしながら、重畳表示するために事前に顕微鏡カメラに対し、カメラ較正器を用いてカメラキャリブレーションを行う必要あり、全ての倍率に対応していないため全倍率で高精度に重畳表示ができない。また、顕微鏡は倍率を逐一出力することが可能であること、そして、顕微鏡の位置・姿勢を知るためにマーカ付きの専用の顕微鏡である必要があることが問題となる。
【0012】
本発明実施の形態に係る手術支援システムは、手術中にナビゲーションシステムから得られる術具位置情報を用いてカメラキャリブレーションをリアルタイムで実現する。これのため、本発明に係る手術支援システムは、事前にカメラ較正器具によるカメラキャリブレーションの必要がなく、リアルタイムに倍率、位置・姿勢情報が得られるため、専用の顕微鏡ではなくとも使用可能となる。
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る手術支援システムについて、添付図面を参照しながらより詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る手術支援システム100の全体構成を模式的に示す図である。実施の形態に係る手術支援システム100は、手術用顕微鏡200、3次元計測装置300、および手術支援装置400を含む。
【0015】
手術用顕微鏡200は、被術者1の術部を含む領域の動画像を拡大して表示する。以下本明細書において、「被術者の術部を含む領域の映像」を単に「術野」と記載する。すなわち、手術用顕微鏡200による顕微鏡映像は、術野を拡大して表示した動画像である。執刀医2は、手術用顕微鏡200が提示する拡大された術野を参照しながら執刀する。このため、手術用顕微鏡200からみた術野には、執刀医2が所持する術具3または少なくともその一部も含まれる。
【0016】
手術用顕微鏡200は顕微鏡アーム4を備えている。このため、執刀医2は被術者1の術部に対する手術用顕微鏡200の相対的な位置を変更することができる。また手術用顕微鏡200は、術野の拡大率を変更して提示することもできる。
【0017】
手術用顕微鏡200は、術野を液晶等の表示デバイスに表示して執刀医2に提示する。手術用顕微鏡200は動画像の入出力端子(不図示)を備えており、術野の動画像を外部の装置に出力したり、外部から入力された動画像を表示デバイスに表示したりすることができる。手術用顕微鏡200は、このような表示デバイスおよび入出力端子を備えているのであれば、一般的な手術用顕微鏡であってもよい。
【0018】
3次元計測装置300は、被写体の3次元的な位置座標を特定する。より具体的には、3次元計測装置300は、自身を基準に定められた3次元座標系における観察対象の位置座標を決定する。
【0019】
実施の形態に係る手術支援システム100において、3次元計測装置300は被術者1の術部の位置座標と、執刀医2が所持する術具3の位置座標とを計測する。3次元計測装置300は、例えば両眼カメラを用いたステレオ方式による3次元計測等、既知の計測技術を用いて実現できる。
【0020】
限定はしないが、3次元計測装置300が撮像する術具3は、術具3の位置の計測の基準となるマーカを備えていてもよい。このマーカは、3次元計測装置300が術具3の位置を計測するために用いられるマーカである。この場合、3次元計測装置300は術具3に備えられた計測用のマーカを基準として、術具3の位置を検出する。なお、3次元計測装置300は、術具3の先端の位置座標も取得する。
【0021】
手術支援装置400は、執刀前にあらかじめ作成された、被術者1の術部を含む3次元領域の再構成画像とアクセスすることができる。限定はしないが、再構成画像とは、例えば術部のMRI画像や、CT(Computed Tomography)画像である。これらの再構成画像は3次元画像データであり、いわゆるボクセル(Voxel)で構成されている。
【0022】
詳細は後述するが、手術支援装置400は、手術用顕微鏡200の術野に、再構成画像の少なくとも一部を重畳させるために、手術用顕微鏡200の顕微鏡映像と、3次元再構成画像とのレジストレーションを実行する。これにより、手術支援装置400は、再構成画像から抽出された病変部や被術者1の血管等が術野に重畳して表示されるようにして映像を生成し、執刀医2に提示する。このように、手術支援装置400は、いわゆる「手術用のナビゲーションシステム」を実現する。なお、手術用のナビゲーションシステムは、執刀医2に対して術部、術具3、病変部や血管等の位置関係を参考情報として提示することを目的としており、実際の執刀は執刀医2の判断の下で行われる。
【0023】
以下、実施の形態に係る手術支援装置400が実行するレジストレーション処理の原理を説明する。
【0024】
図2は、実施の形態に係る手術支援システム100で用いる複数の座標系と、座標系間の変換行列とを模式的に示す図である。手術支援システム100が扱う座標系は、ワールド座標系C
W、動画座標系C
M、カメラ座標系C
C、および画像座標系C
Iを含む。
【0025】
ワールド座標系C
Wは、3次元計測装置300を基準にして定められた座標系であり、物体の実空間における位置座標を規定する座標系である。ワールド座標系C
Wはどのように設定してもよいが、例えば3次元計測装置300が両眼カメラである場合には、2つのカメラの中点を原点とする3次元直交座標系を設定する。より具体的には、カメラの視線方向をZ軸、2つのカメラを結ぶ方向をX軸、Z軸とX軸とに垂直な方向をY軸とする右手座標系を設定する。
【0026】
画像座標系C
Iは、再構成画像に設定された座標系である。上述したように、再構成画像はボクセルで表される3次元データであり、再構成画像に固有の画像座標系C
Iを持つ。実施の形態に係る手術支援装置400で用いる再構成画像には、あらかじめ複数の特徴点が設定されている。限定はしない例として、術部が被術者1の頭部であり再構成画像が被術者1の頭部全体を含む場合には、頭頂部や顎の先端、鼻や口の位置等が特徴点として設定されている。また、設定された各特徴点の画像座標系における位置座標も、再構成画像と紐付けて格納されている。これらの特徴点は、人の手によって設定してもよいし、既知の画像認識技術を用いて自動で設定してもよい。
【0027】
カメラ座標系C
Cは、手術用顕微鏡200を基準にして定められた座標系である。カメラ座標系C
Cは、ワールド座標系C
Wと同様に、物体の実空間における位置座標を規定する右手座標系である。また動画座標系C
Mは、手術用顕微鏡200が生成する術野の動画像に設定された2次元座標系である。
【0028】
行列Qは、画像座標系C
Iにおける座標を、ワールド座標系C
Wにおける座標に変換する行列である。以下、行列Qについてより詳細に説明する。
【0029】
再構成画像上に設定されたある特徴点Fの画像座標系C
Iにおける位置座標を(x,y,z)
Tとする。ここで記号「T」は、ベクトルまたは行列の転置を表す。また、特徴点Fに対応する実空間上の点の、ワールド座標系C
Wにおける位置座標を(X,Y,Z)
Tとする。例えば、特徴点Fが被術者1の頭頂部を示す場合、(x,y,z)
Tは再構成画像における頭頂部の位置座標であり、(X,Y,Z)
Tは被術者1の頭頂部の実空間における位置座標である。
【0030】
以下本明細書において、位置座標を既知の斉次座標を用いて表す。すなわち、画像座標系C
Iにおける特徴点Fの位置座標(x,y,z)
Tを、4つの実数の組(x
1,x
2,x
3,x
4)
Tで表す。ここで、
x=x
1/x
4, y=x
2/x
4, z=x
3/x
4 (1)
である。同様に、ワールド座標系C
Wにおける特徴点Fの位置座標を、4つの実数の組(X
1,X
2,X
3,X
4)
Tで表す。ここで、
X=X
1/X
4, Y=X
2/X
4, Z=X
3/X
4 (2)
である。
【0031】
再構成画像は、被術者1の術部の3次元データであるから、特徴点Fの画像座標系C
Iにおける位置座標は、回転、並進、および拡大/縮小を適宜施すことにより、ワールド座標系C
Wにおける位置座標に変換できる。ワールド座標系C
Wにおける特徴点Fの斉次座標は、画像座標系C
Iにおける特徴点Fの斉次座標と4×4の行列Qを用いて、
【数1】
と表すことができる。
【0032】
ここで行列Qは、
【数2】
で表される。Rは3×3の行列であり、3次元の回転行列である。Tは1×3のベクトルであり、並進を規定する。sはスケーリングパラメータであり、拡大/縮小を示すパラメータである。
【0033】
式(4)より、行列Qは12個の未知数を持つ。したがって、少なくとも4つの特徴点について画像座標系C
Iの位置座標とワールド座標系C
Wの位置座標との組み合わせが既知であれば、行列Qを推定することができる。以下本明細書において、行列Qを「第1変換行列」と記載する。
【0034】
手術用顕微鏡200は、実空間に存在する術部の映像を動画像202上に投影する。以下、
図3を参照して、カメラ座標系C
cの座標を動画座標系C
Mの座標に変換する行列APについて説明する。
【0035】
図3は、ピンホールカメラモデルに基づく透視投影を模式的に示す図である。
図3において、カメラ座標系C
Cの原点は、仮想的なピンホールカメラの光学中心Cに設定されている。カメラ座標系C
CのZ軸は仮想的なピンホールカメラの光軸と一致しており、動画像202の画像面は、光学中心Cからf離れた位置においてZ軸と垂直に交わっている。
【0036】
図3に示すように、カメラ座標系C
Cの位置座標(X,Y,Z)
Tに位置する点Qは、動画像202の画像面における点qに投影される。点qは、点Qと光学中心Cとを結ぶ線分QCと、動画像202の画像面との交点である。点qの動画座標系C
Mにおける位置座標を(x,y)
Tとすると、以下の式(5)が成立する。
【0037】
【数3】
式(5)はいわゆる透視投影を表す式である。
【0038】
点Qの斉次座標を(Y
1,Y
2,Y
3,Y
4)
T、点qの斉次座標を(x
1,x
2,x
3)
Tとすると、ωを任意の実数として、式(5)は以下の式(6)で表せる。
【数4】
例えば、式(6)よりωx
1=Y
1、ωx
3=Y
3が得られる。これより、x
1/x
3=Y
1/Y
3が得られる。斉次座標の定義より、左辺x
1/x
3=xである。また、右辺はX/Zとなる。故にx=X/Zが得られ、式(5)と一致する。同様に、式(6)よりy=Y/Zも得られる。
【0039】
ところで、ベクトル(x,y)
Tは動画像202の画像面における点qの位置座標を表すが、手術用顕微鏡200は、実際には、点qにおける映像を離散的な画素(pixel)として記録する。いま、点qに対応する画素の座標を(u,v)
Tとする。このとき、ベクトル(x,y)
Tからベクトル(u,v)
Tへの変換は、原点位置合わせのための並進、縦横のスケール変換、および手術用顕微鏡200のレンズの焦点距離に応じたスケール変換を組み合わせたものとなる。
【0040】
ベクトル(u,v)
Tの斉次座標を(m
1,m
2,m
3)
Tとする。すなわち、u=m
1/m
3、v=m
2/m
3である。また、動画像202の画像中心の座標を(u
0,v
0)、焦点距離をf、uおよびv方向のスケールファクタをそれぞれk
u、k
vとすると、(m
1,m
2,m
3)
Tと(x
1,x
2,x
3)
Tとの関係は以下の式(7)で表せる。
【数5】
【0041】
式(6)と式(7)より、以下の式(8)を得る。
【数6】
ここで、
【数7】
は、内部パラメータ行列と呼ばれる。また、
【数8】
は、透視投影を表す行列である。以上より、行列APは、カメラ座標系C
Cの斉次座標を、動画像202の画像面を構成する画素座標に変換する行列である。
【0042】
続いて、
図4を参照して行列Mについて説明する。
【0043】
図4は、ワールド座標系C
Wとカメラ座標系C
Cとの関係を模式的に示す図である。上述したように、手術用顕微鏡200は顕微鏡アーム4を備えている。このため、手術用顕微鏡200は3次元計測装置300に対して相対的な位置関係が変化しうる。
【0044】
図4において、ワールド座標系C
Wから第1カメラ座標系C
Cへの座標変換は、3次元の回転Rおよび3次元の並進Tによって変換される。同様に、ワールド座標系C
Wから第2カメラ座標系C
C’への座標変換は、3次元の回転R’および3次元の並進T’によって変換される。
【0045】
いま、カメラ座標系C
Cにおける点Qの斉次座標を(Y
1,Y
2,Y
3,Y
4)
T、ワールド座標系C
Wにおける点Qの斉次座標を(X
1,X
2,X
3,X
4)
Tとする。このとき、ワールド座標系C
Wからカメラ座標系C
Cへの座標変換は、4×4の行列Mを用いて、以下の式(9)で表すことができる。
【数9】
ここでMは3次元の回転行列Rと、並進を規定するベクトルTを用いて、以下の式(10)で表される。
【数10】
【0046】
式(8)、式(9)、および式(10)から、ワールド座標系C
Wにおける斉次座標(X
1,X
2,X
3,X
4)
Tを、動画像202の画像面を構成する画素の斉次座標(m
1,m
2,m
3)
Tに変換する式は、以下の式(11)となる。
【数11】
【0047】
式(11)において、行列P
P=APMは3×4の行列である。そこで、行列P
Pの要素は以下の式(12)であるとする。
【数12】
【0048】
式(11)に式(12)を代入すると、以下の式(13)、式(14)、および式(15)を得る。
ωm
1=p
11X
1+p
12X
2+P
13X
3+P
14X
4 (13)
ωm
2=p
21X
1+p
22X
2+P
23X
3+P
24X
4 (14)
ωm
3=p
31X
1+p
32X
2+P
33X
3+P
34X
4 (15)
【0049】
式(13)、式(15)、および斉次座標の定義より、以下の式(16)を得る。
【数13】
同様に、式(14)、式(15)、および斉次座標の定義より、以下の式(17)を得る。
【数14】
【0050】
式(16)および式(17)から、以下の式(18)を得る。
【数15】
ここで、ベクトルpは行列P
Pの要素から構成されるベクトルであり、以下の式(19)で表される12×1のベクトルである。
【数16】
【0051】
式(18)において、行列Dの成分はワールド座標系C
Wにおける斉次座標と、それに対応する画素の座標であるため、観測可能である。いま、ある12×1のベクトルpを考えたとき、
Dp=e (20)
であるとする。ここでeは、(e
1,e
2)
Tとなる2×1のベクトルである。式(20)において、eの2ノルムが最小となるベクトルpが求まれば、誤差の2ノルムを最小化するという観点における行列P
Pの最適解である最小二乗誤差解が得られる。この最小二乗誤差解をP
optとすると、P
optは以下の式(21)で表される。
【数17】
【0052】
式(21)は、p=0という自明解を持つから、pの2ノルムが正の値を持つという拘束条件を加えて、ラグランジュの未定乗数法を用いると以下の式(22)を得る。
【数18】
ここで、λはラグランジュの未定乗数である。
【0053】
式(21)中のp
TD
TDp+λ(1−p
Tp)をCとおいたとき、Cが極値となるpが、求める解である。Cをpについて微分すると、以下の式(23)を得る。
【数19】
【0054】
式(23)は、ベクトルpが行列D
TDの固有ベクトルのとき成立する。故に、行列D
TDの固有ベクトルを求めることで、ワールド座標系C
Wにおける斉次座標を動画像202の画像面を構成する画素の斉次座標に変換する行列P
Pの推定値を得ることができる。以下本明細書において、行列P
Pを「第2変換行列」と記載する。なお、行列の固有ベクトルを求めるための種々のソルバが存在し利用可能である。これらのソルバを利用することにより、行列D
TDの固有ベクトルは、手術に要する時間と比較して十分に短い時間内で計算することができる。ゆえに、手術用顕微鏡200の画角または視線方向(撮影方向)の少なくとも一方が変更されたとしても、手術中にリアルタイムで行列P
Pの推定値を計算し直すことができる。
【0055】
なお、式(20)は、ワールド座標系C
Wにおける1点の斉次座標とその点に対応する動画上の画素の座標との関係を示しているため、行列Dのサイズは2×12となっている。複数の点についてワールド座標系C
Wにおける斉次座標とそれに対応する動画上の画素の座標が既知の場合には、それらの座標を用いて行列Dを構成することができる。例えば、N点(Nは自然数)についてワールド座標系C
Wにおける斉次座標とそれに対応する動画上の画素の座標が既知の場合には、行列Dのサイズは2N×12となる。対応する点の数が多いほど、精度の高い行列P
Pの推定値を得られる可能性が高まる。
【0056】
上述したように、行列Dの成分はワールド座標系C
Wにおける斉次座標と、それに対応する画素の座標である。例えば執刀医2が手術用顕微鏡200を動かしたり、レンズの倍率を変更したりした場合、内部パラメータ行列Aが変更される。結果として、第2変換行列P
Pも変更される。このような場合、例えばワールド座標系C
Wにおける術具3の位置座標と、それに対応する画座標系C
Mにおける位置座標とが取得して式(23)における行列Dをまず構成する。続いて、行列D
TDの固有ベクトルを求めることで、手術中であってもリアルタイムに第2変換行列P
Pを推定し直すことができる。
【0057】
式(3)と式(11)より、再構成画像に設定された画像座標系C
Iにおける斉次座標x
1,x
2,x
3,x
4)
Tを、動画像202の画像面を構成する画素の斉次座標(m
1,m
2,m
3)
Tに変換する式は、以下の式(24)で表される。
【数20】
【0058】
式(24)は、第1変換行列Qと、第2変換行列P
Pとを用いることで、再構成画像を手術用顕微鏡200が生成する動画像に対応づけること、すなわち再構成画像を動画像にレジストレーションすることができることを示している。したがって、式(24)を用いることにより、手術用顕微鏡200が示す術野に対して、再構成画像の一部(例えば、病変部や、血管、神経等)を重畳することが可能となる。なお、手術用顕微鏡200が示す術野に重畳する再構成画像の一部は、あらかじめ手動または画像認識技術を用いて特定しておけばよい。
【0059】
以上、実施の形態に係る手術支援装置400が実行するレジストレーション処理の原理について説明した。続いて、実施の形態に係る手術支援装置400の機能構成および動作について説明する。
【0060】
図5は、実施の形態に係る手術支援装置400の機能構成を模式的に示す図である。手術支援装置400は、医用画像取得部402、第1変換行列取得部404、3次元座標取得部406、画像重畳部408、動画取得部410、画像解析部412、および第2変換行列取得部414を備える。限定はしない例として、手術支援装置400は、PC(Personal Computer)、PACS(Picture Archiving and Communication System)を構成する計算機、ワークステーションの他、タブレットやスマートフォン等を用いて実現できる。
【0061】
図5は、実施の形態に係る手術支援装置400を実現するための機能構成を示しており、その他の構成は省略している。
図5において、さまざまな処理を行う機能ブロックとして記載される各要素は、ハードウェア的には、手術支援装置400のCPU(Central Processing Unit)、メインメモリ、その他のLSI(Large Scale Integration)で構成することができる。またソフトウェア的には、メインメモリにロードされたプログラム等によって実現される。したがってこれらの機能ブロックが、いろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。
【0062】
医用画像取得部402は、被術者の手術部を含む領域の3次元の再構成画像を取得する。図示はしないが、医用画像取得部402は、手術支援装置400が設置された施設内等のネットワークと接続しており、当該ネットワークを介して再構成画像を取得する。
【0063】
3次元座標取得部406は、手術に用いられる術具3の3次元的な位置座標を、3次元計測装置300から取得する。より具体的には、3次元座標取得部406は3次元計測装置300と有線接続されており、術具3の位置座標を有線で取得する。3次元座標取得部406が取得する座標は、ワールド座標系C
Wにおける術具3の位置座標である。なお、3次元座標取得部406と3次元計測装置300とが有線または無線ネットワークを介して接続されている場合には、ネットワークを介して術具3の位置座標を取得してもよい。
【0064】
第1変換行列取得部404は、再構成画像に設定された画像座標系C
Mの座標を3次元座標取得部406が位置座標計測に用いるワールド座標系C
Wの座標に変換するための第1変換行列Qを取得する。第1変換行列Qは、上記式(3)および式(4)を用いてあらかじめ推定されて手術支援装置400内の図示しない記憶部に格納されている。第1変換行列取得部404は、手術支援装置400内の記憶部を参照して、第1変換行列Qを取得する。あるいは、第1変換行列取得部404は、あらかじめ再構成画像に設定されている特徴点の位置座標を用いて、第1変換行列Qを推定して取得してもよい。
【0065】
動画取得部410は、被術者1の術野を撮影した2次元の動画像202を取得する。ここで動画取得部410が取得する動画像は、手術用顕微鏡200が生成して出力した動画像である。画像解析部412は、動画取得部410が取得した動画像202に設定された2次元座標系である動画座標系C
Mにおける、術具3の2次元的な位置座標を取得する。なお、画像解析部412の詳細は後述する。
【0066】
第2変換行列取得部414は、2変換行列P
Pを推定して取得する。より具体的には、第2変換行列取得部414は、3次元座標取得部406が取得した術具3の3次元的な位置座標と、画像解析部412が取得した術具3の2次元的な位置座標とをもとに、式(18)における行列Dを構成し、式(23)を満たすベクトルpを求めることで、第2変換行列P
Pを推定する。
【0067】
画像重畳部408は、第1変換行列Qと第2変換行列P
Pとを用いて、式(24)にしたがって、再構成画像の少なくとも一部を術野の動画像202上に2次元画像として重畳する。画像重畳部408は、再構成画像の一部を重畳した動画像202を、手術用顕微鏡200に出力する。これにより、手術用顕微鏡200を用いて被術者1の術部を観察する執刀医2は、術野に再構成画像の一部が重畳された映像を観察することができる。
【0068】
ここで、執刀医2が例えば被術者1の術部に対する手術用顕微鏡200の相対的な位置を変更したり、手術用顕微鏡200のレンズの倍率を変更(すなわち、焦点距離を変更)したりしたとする。この変更に伴って第2変換行列P
Pも変更されるため、第2変換行列取得部414は、第2変換行列P
Pを推定し直すことが好ましい。
【0069】
そこで画像解析部412は、動画取得部410が手術用顕微鏡200から取得する動画像202を解析して、動画像202の画角または視線方向の少なくとも一方が変更されたか否かを検出する。第2変換行列取得部414は、画像解析部412が画角または視線方向の少なくとも一方の変更を検出することを契機として、第2変換行列P
Pを推定する。手術用顕微鏡200の相対的な位置が変更されたり、手術用顕微鏡200のレンズの倍率が変更されたりすると、動画像202の画角または視線方向も変わる。したがって、画像解析部412が動画像202の画角または視線方向の少なくとも一方の変更を検出することを契機として第2変換行列取得部414が第2変換行列P
Pを推定することにより、再構成画像と動画像202との適切なレジストレーションを維持することができる。
【0070】
図6は、実施の形態に係る画像解析部412の機能構成を模式的に示す図である。画像解析部412は、術具特定部420、背景領域特定部422、差分画像取得部424、および差分画像解析部426を備える。
【0071】
術具特定部420は、手術用顕微鏡200から取得した動画像202に写っている術具3を検出する。より具体的に、術具特定部420は、手術用顕微鏡200から取得した動画像202を解析することで、術具3の先端の位置座標を、動画像202を構成する画素の座標として取得する。これは例えば既知のHough変換
[3]とSURF
[4]などの画像処理を用いて、以下の手順により実現できる。
【0072】
最初に、術具特定部420は、取得した動画像202に直線検出に用いられるHough変換をかけることにより術具3を認識させ、Hough変換をもとにROI(Region Of Interest)より、術具3付近の範囲指定を行う。続いて術具特定部420は、ROIの範囲にSURFをかけ術具3の特徴点を抽出し、抽出した特徴点の水平方向の最小点を術具3の先端位置として検出する。術具特定部420は、取得した動画像202のフレーム毎、あるいは所定の間引きをしたフレーム毎に術具3の先端位置を検出し、検出結果を第2変換行列取得部414に出力する。
【0073】
背景領域特定部422は、動画像202のフレーム毎に背景領域を特定する。ここで「背景領域」とは、動画像202において術具3以外が写っている領域である。一般に、手術用顕微鏡200の位置や倍率が固定されていても、手術中であれば術具3の位置は変化する。しかしながら、手術用顕微鏡200の位置や倍率が固定されている場合には、背景領域は変化が少ないと考えられる。したがって、背景領域が変化するか否かは、手術用顕微鏡200の位置や倍率が変更されたか否かの指標となり得る。
【0074】
そこで差分画像取得部424は、背景領域特定部422が特定した異なるフレーム間の背景画像の差分画像を取得する。差分画像解析部426は、差分画像取得部424が取得して差分画像を解析して、動画像202の画角または視線方向の少なくとも一方が変更されたか否かを検出する。具体例としては、差分画像解析部426は、各フレームのペア毎に差分画像の画素値の2乗または絶対値の総和を生成する。差分画像解析部426は生成した総和を監視し、総和が所定量変化した場合に、動画像の画角または視線方向の少なくとも一方が変更されたと推定する。
【0075】
ここで「所定量」とは、総和の計算方法、差分画像解析部426が動画像202の画角または視線方向の変更の推定に用いるための基準閾値である。所定量の具体的な値は、動画像202の画素数や術具3の形状および大きさ、想定される手術の種類等を考慮して、実験により定めればよい。
【0076】
図7は、実施の形態に係る手術支援方法の流れを説明するフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、例えば手術支援装置400が起動したときに開始する。
【0077】
医用画像取得部402は、被術者1の手術部を含む領域に係る3次元の再構成画像を取得する(S2)。第1変換行列取得部404は、画像座標系C
Mの座標をワールド座標系C
Wの座標に変換する第1変換行列Qを取得する(S4)。
【0078】
3次元座標取得部406は、手術に用いられる術具3の3次元的な位置座標を取得する(S6)。動画取得部410は、被術者1の術野を撮影した2次元の動画像202を取得する(S8)。
【0079】
画像解析部412中の術具特定部420は、手術用顕微鏡200から取得した動画像202を解析し、術具3の先端の位置座標を、2次元の位置座標として取得する(S10)。第2変換行列取得部414は、術具3のワールド座標系C
Wにおける位置座標と、術具3の動画座標系C
Mの位置座標とをもとに、ワールド座標系C
Wにおける3次元的な位置座標を、動画座標系C
Mにおける位置座標に変換する第2変換行列P
Pを取得する(S12)。
【0080】
画像重畳部408は、第1変換行列Qと第2変換行列P
Pとをもとに、再構成画像を動画像202に重畳し、手術用顕微鏡200に表示させる(S14)。画像解析部412は、手術用顕微鏡200の画角または視線方向の少なくとも一方が変更されたか否かを検出するために、手術用顕微鏡200から取得した動画像202を解析する(S16)。
【0081】
動画像202の画角または視線方向の少なくとも一方が変更されたことを画像解析部412が検出すると(S18のY)、ステップS16の処理に戻ってステップ6からステップ16に至るまでの処理が実行される。動画像202の画角と視線方向とが変更されない場合(S18のN)、手術が終了しない間は(S20のN)、ステップS14からステップS18までの処理が繰り返される。
【0082】
手術が終了すると(S20のY)、本フローチャートにおける処理は終了する。
【0083】
図8は、実施の形態に係る動画像解析処理の流れを説明するフローチャートであり、
図7におけるステップS16の処理の流れをより詳細に説明する図である。
【0084】
背景領域特定部422は、取得した動画像202のフレーム毎に、背景領域を特定する(S22)。差分画像取得部424は、異なる二つのフレームをペアとして、それらの背景領域の差分画像を取得する(S24)。
【0085】
差分画像解析部426は、差分画像取得部424が取得した差分画像を解析して、手術用顕微鏡200の画角または視線方向の少なくとも一方が変更されたか否かを検出する(S28)。差分画像解析部426によって画角または視線方向の少なくとも一方が変更されたか否かが検出されると、本フローチャートにおける処理は終了する。
【0086】
以上説明したように、実施の形態に係る手術支援装置400によれば、2次元顕微鏡画像上に3次元の再構成画像を簡便に投影して重畳表示する技術を提供することができる。
【0087】
特に、実施の形態に係る手術支援装置400は、重畳表示のために特別に用意された顕微鏡を用いずに、再構成画像を顕微鏡画像上に重畳することができる。また、重畳表示に際し、例えば顕微鏡のズーム情報等の情報を用いずに、再構成画像と顕微鏡画像とのレジストレーションを実現することができる。このレジストレーションは短時間で終了するため、手術中に顕微鏡の画角または視線方向の少なくとも一方が変更されたとしても、精度の高いレジストレーションを維持することができる。
【0088】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示すにすぎない。また、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【0089】
上記では、MRI画像やCT画像など、3次元の再構成画像と顕微鏡画像とをレジストレーションし、再構成画像の少なくとも一部を顕微鏡画像に重畳する場合について説明した。しかしながら、上記で説明したレジストレーション処理の原理は、再構成画像を顕微鏡画像に重畳表示する場合以外にも適用可能である。例えば、医用の範囲でいうならば、手術用顕微鏡200に代えて、例えば内視鏡の画像に再構成画像を重畳するようにしてもよい。
【0090】
医用の用途に限らず、上記で説明したレジストレーション処理の原理は、3次元のデータを2次元画像に重畳する場合に広く適用できる。例えば、メガネ型のウェアラブルコンピュータ等、現実世界にAR(Augmented Reality)イメージを重畳する場合等に利用可能である。
【0091】
[参考文献]
[1] 井上ら, 脳神経外科手術における顕微鏡重畳ナビゲーションの将来性とその課題〜商用システムの輪郭重畳表示と比較して〜, 日本コンピュータ外科学会誌,Vol.13(3), pp. 211-212, 2011.
[2] P. J. Edwards et al., Design and Evaluation of a System for Microscope-Assisted Guided Interventions(MAGI),MICCAI’99, LNCS 1679, pp. 842-852, 1999.
[3] 村上研二,画像間演算を用いたHough変換による直線抽出の高速化,電気学会論文誌133(8), 1539-1548, 2013.
[4] 藤吉弘亘, Gradientベースの特徴抽出: SIFTとHOG, 情報処理学会研究報告CVIM(160):211-224, 2007.