特許第6290736号(P6290736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290736
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
   F16F9/32 P
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-143588(P2014-143588)
(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公開番号】特開2016-20700(P2016-20700A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 大輔
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−263129(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0051957(US,A1)
【文献】 特開平04−228940(JP,A)
【文献】 特開2002−286076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G1/00−99/00
B62K25/00−27/16
F16F9/00−9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容したシリンダーと、前記シリンダー内に配置されたピストン部と、前記シリンダーの中心軸と前記ピストン部の中心軸とが一致するように前記ピストン部を保持するロッドとを備え、
前記ピストン部が前記シリンダーの一端に近づく方向に作動する圧縮動作時、及び、前記ピストン部が前記シリンダーの他端に近づく方向に作動する伸長動作時に、前記シリンダー及び前記ピストン部の動きを減衰させる減衰力を生じさせるように構成された緩衝器において、
前記ピストン部が、前記ロッドに連結された主ピストンと、前記主ピストンよりも前記シリンダーの一端側に配置されて前記主ピストンと弾性手段を介して連結された従ピストンとを備え、
前記主ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力が、前記従ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力よりも小さくなるように形成されたことにより、前記圧縮動作時において、前記主ピストンが先行して前記シリンダーの一端に近づく方向に作動した後に、前記主ピストンと前記従ピストンとが一緒に前記シリンダーの一端に近づく方向に作動するように構成されたことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記主ピストンが前記ロッドの一端部に連結されたことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記シリンダーの一端側を保持するシリンダー保持部材と、前記シリンダー保持部材に設けられたロッドガイド部とを備え、
前記ロッドは、前記主ピストン及び従ピストンに形成された貫通孔を貫通して、前記圧縮動作時及び前記伸長動作時に、一端側が前記ロッドガイド部で保持され、
前記ロッドガイド部は、中心軸が前記シリンダーの中心軸と一致する筒孔により形成され、前記筒孔は、前記シリンダーの一端側に位置された筒孔の他端開口側に形成された小径部と、前記筒孔の一端側に形成された前記小径部よりも内径寸法が大径の大径部とを備え、
前記小径部を貫通する前記ロッドの外周面と前記小径部の内周面とが液密状態を維持しながら前記ロッドの外周面と前記小径部の内周面とが摺動可能に構成されて前記シリンダー内と前記大径部内とが区画されたことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記ロッドガイド部の筒孔の一端が大気解放されていることを特徴とする請求項3に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記ロッドの外周面と前記従ピストンの貫通孔の内周面との間に、前記ロッドの外周面に対する摩擦抵抗を所望の値に設定するためのフリクション部材を設けたことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の緩衝器。
【請求項6】
前記従ピストンが、前記シリンダー内に収容された液体を前記シリンダーの一端側と前記シリンダーの他端側とに連通させる連通路を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の緩衝器。
【請求項7】
前記主ピストンの外周面と前記シリンダーの内周面との接触面積を、前記従ピストンの外周面と前記シリンダーの内周面との接触面積よりも小さくしたことによって、前記主ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力が、前記従ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力よりも小さくなるように形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の緩衝器。
【請求項8】
シリンダーの内周面と接触する主ピストンの外周面を形成する材料として、シリンダーの内周面と接触する従ピストンの外周面を形成する材料よりも摩擦係数の小さい材料を用いたことによって、前記主ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力が、前記従ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力よりも小さくなるように形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の緩衝器。
【請求項9】
前記シリンダーの一端側が自動二輪車の車体側に連結されて、前記ロッドの他端側が自動二輪車の車軸側に連結されるか、あるいは、前記シリンダーの一端側が自動二輪車の車軸側に連結されて、前記ロッドの他端側が自動二輪車の車体側に連結されたことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダー内に設置されたピストンとシリンダーとが相対的に移動する際にシリンダーとピストンとの相対的な動きを減衰させる減衰力を発生させるように構成された緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
作動油を収容したシリンダー内にピストンが設置され、ピストンがシリンダーの一端に近づく方向に作動する圧縮動作時、及び、ピストンがシリンダーの他端に近づく方向に作動する伸長動作時において、シリンダーとピストンとの相対的な動きを減衰させる減衰力を生じさせるように構成された緩衝器が知られている(例えば特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−208783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した緩衝器では、シリンダーの内壁と摺動するピストンがシリンダー内に1つだけ設置された構成であるため、圧縮動作時において、ピストンの外周面とシリンダーの内周面との間に作用する最大静止摩擦力と動摩擦力との差が大きくなる傾向がある。最大静止摩擦力と動摩擦力との差が大きい場合、図6(a)に示すように、緩衝器に最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わった後、ピストンの外周面とシリンダーの内周面との間に作用する摩擦力が小さくなって動摩擦力に安定するまでの過程においてピストンが摺動し、その後、ピストンの外周面とシリンダーの内周面との間に作用する摩擦力が動摩擦力に安定した状態でピストンが摺動する。つまり、緩衝器に最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わった後、ピストンの外周面とシリンダーの内周面との間に作用する摩擦力が小さくなって動摩擦力に安定するまでの過程においてピストンが摺動する際にはピストンに加わる負荷が急激に小さくなるのに対して、ピストンの外周面とシリンダーの内周面との間に作用する摩擦力が動摩擦力に安定した状態でピストンが摺動する際にはピストンに加わる負荷がほぼ一定になる。すなわち、緩衝器に最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わった直後においてピストンに加わる負荷が急変した後に安定するといった現象が生じるため、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動が大きくなり、圧縮動作時の動作安定性に改善の余地があるといった課題があった。
【0005】
本発明は、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動を小さくでき、圧縮動作時の動作安定性が改善された緩衝器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る緩衝器は、液体を収容したシリンダーと、前記シリンダー内に配置されたピストン部と、前記シリンダーの中心軸と前記ピストン部の中心軸とが一致するように前記ピストン部を保持するロッドとを備え、前記ピストン部が前記シリンダーの一端に近づく方向に作動する圧縮動作時、及び、前記ピストン部が前記シリンダーの他端に近づく方向に作動する伸長動作時に、前記シリンダー及び前記ピストン部の動きを減衰させる減衰力を生じさせるように構成された緩衝器において、前記ピストン部が、前記ロッドに連結された主ピストンと、前記主ピストンよりも前記シリンダーの一端側に配置されて前記主ピストンと弾性手段を介して連結された従ピストンとを備え、前記主ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力が、前記従ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力よりも小さくなるように形成されたことにより、前記圧縮動作時において、前記主ピストンが先行して前記シリンダーの一端に近づく方向に作動した後に、前記主ピストンと前記従ピストンとが一緒に前記シリンダーの一端に近づく方向に作動するように構成されたので、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動を小さくでき、圧縮動作時の動作安定性が改善された緩衝器を提供できる。
【0007】
また、本発明に係る緩衝器の他の構成として、前記主ピストンが前記ロッドの一端部に連結されたので、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動を小さくでき、圧縮動作時の動作安定性が改善された緩衝器を提供できる。
【0008】
また、本発明に係る緩衝器の他の構成として、前記シリンダーの一端側を保持するシリンダー保持部材と、前記シリンダー保持部材に設けられたロッドガイド部とを備え、前記ロッドは、前記主ピストン及び従ピストンに形成された貫通孔を貫通して、前記圧縮動作時及び前記伸長動作時に、一端側が前記ロッドガイド部で保持され、前記ロッドガイド部は、中心軸が前記シリンダーの中心軸と一致する筒孔により形成され、前記筒孔は、前記シリンダーの一端側に位置された筒孔の他端開口側に形成された小径部と、前記筒孔の一端側に形成された前記小径部よりも内径寸法が大径の大径部とを備え、前記小径部を貫通する前記ロッドの外周面と前記小径部の内周面とが液密状態を維持しながら前記ロッドの外周面と前記小径部の内周面とが摺動可能に構成されて前記シリンダー内と前記大径部内とが区画されたので、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動を小さくでき、圧縮動作時の動作安定性が改善された緩衝器を提供できる。また、ロッドの進退動作をガイドするロッドガイド部を備えているので、ロッドの直進動作性が向上する。
【0009】
また、本発明に係る緩衝器の他の構成として、前記ロッドガイド部の筒孔の一端が大気解放されている構成としたので、筒孔内に進退するロッドの進退動作がスムーズに行われるようになる。
【0010】
また、本発明に係る緩衝器の他の構成として、前記ロッドの外周面と前記従ピストンの貫通孔の内周面との間に、前記ロッドの外周面に対する摩擦抵抗を所望の値に設定するためのフリクション部材を設けたので、従ピストンの外周面とシリンダーの内周面との間に作用する最大静止摩擦力を小さくできるようになるため、シリンダーの内周面との間に摩擦力を発生させる従ピストンのピストンリング(フリクション部材)として主ピストンのピストンリング(フリクション部材)と同じものを使用できるようになる。
【0011】
また、本発明に係る緩衝器の他の構成として、前記従ピストンが、前記シリンダー内に収容された液体を前記シリンダーの一端側と前記シリンダーの他端側とに連通させる連通路を備えたので、主ピストンを仕切りとしてシリンダー内の油溜室を一端側油溜室と他端側油溜室とに区画できるため、主ピストンと従ピストンとを備えた構成において、主ピストンに減衰力を効果的に付与できる。
【0012】
また、本発明に係る緩衝器の他の構成として、前記主ピストンの外周面と前記シリンダーの内周面との接触面積を、前記従ピストンの外周面と前記シリンダーの内周面との接触面積よりも小さくしたことによって、前記主ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力が、前記従ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力よりも小さくなるように形成されたので、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動を小さくでき、圧縮動作時の動作安定性が改善された緩衝器を提供できる。
【0013】
また、本発明に係る緩衝器の他の構成として、シリンダーの内周面と接触する主ピストンの外周面を形成する材料として、シリンダーの内周面と接触する従ピストンの外周面を形成する材料よりも摩擦係数の小さい材料を用いたことによって、前記主ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力が、前記従ピストンと前記シリンダーとの最大静止摩擦力よりも小さくなるように形成されたので、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動を小さくでき、圧縮動作時の動作安定性が改善された緩衝器を提供できる。
【0014】
また、本発明に係る緩衝器の他の構成として、前記シリンダーの一端側が自動二輪車の車体側に連結されて、前記ロッドの他端側が自動二輪車の車軸側に連結されるか、あるいは、前記シリンダーの一端側が自動二輪車の車軸側に連結されて、前記ロッドの他端側が自動二輪車の車体側に連結されたので、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動を小さくでき、圧縮動作時の動作安定性が改善されるため、自動二輪車の走行安定性を改善され、かつ、トラクション(駆動力)の伝達ロスを改善できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】リアクッションを示す断面図(実施形態1)。
図2】リアクッションを示す断面図(図1の左方から見た断面図)(実施形態1)。
図3】ピストン部近傍の構成を拡大して示した要部拡大断面図(実施形態1)。
図4】減衰力発生装置及び補償装置を示す断面図(実施形態1)。
図5】減衰力発生装置を拡大して示した拡大断面図(実施形態1)。
図6】(a)はピストンを1つのみ備えた構成の場合の摩擦力−ピストン移動距離の関係を示す図、(b)は実施形態1のピストン部を備えた構成の場合の摩擦力−ピストン部移動距離の関係を示す図。
図7】リアクッションを示す断面図(実施形態2)。
図8】リアクッションを示す断面図(実施形態3)。
【0016】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態1
図1乃至図6に基づいて油圧緩衝器の一例としての実施形態1の自動二輪車用のリアクッション1について説明する。
尚、本明細書においては、図1図2等において矢印で示した側を一端側及び他端側と定義して説明する。
図1に示すように、リアクッション1は、ダンパーケース2と、シリンダー3と、ピストン部4と、ロッド5と、一端側支持部6と、他端側支持部7と、減衰力発生装置8と、補償装置9と、懸架ばね10と、ばね荷重調整装置11とを備える。
【0018】
一端側支持部6の一端部には一端側取付孔61が形成され、一端側支持部6の他端部にはダンパーケース2が取付けられるダンパーケース取付穴62を備える。ダンパーケース取付穴62は一端側支持部6を形成する材料が円柱状にくり抜かれて形成された円形穴である。
一端側支持部6には、減衰力発生装置8、補償装置9、ばね荷重調整装置11が設けられる。
減衰力発生装置8は、一端側支持部6に形成された装置設置用穴81と、装置設置用穴81に設置された減衰力発生機構82とを備え、装置設置用穴81とダンパーケース2内に形成された他端側油溜室44とが連通路22を介して連通し、かつ、装置設置用穴81とダンパーケース2内に形成された一端側油溜室45とが連通路32を介して連通するように構成されている。
補償装置9は、一端側支持部6に設けられ、装置設置用穴81と連通路92を介して連通するように構成されている。
ばね荷重調整装置11は、ダンパーケース取付穴62の外周を取り囲むように設けられ、懸架ばね10に加わる荷重を変更できるように構成されている。
尚、減衰力発生装置8、補償装置9、ばね荷重調整装置11の詳細については後述する。
【0019】
ダンパーケース2は円筒に形成され、シリンダー3はダンパーケース2よりも小径の円筒に形成される。
ダンパーケース2の一端側外周面に形成されたねじ部とダンパーケース取付穴62の一端側内周面に形成されたねじ部とがねじ嵌合されることでダンパーケース2が一端側支持部6のダンパーケース取付穴62に固定されている。
ダンパーケース取付穴62の一端側底面にはシリンダー3の一端部を位置決めするためのシリンダー一端部位置決め穴63が形成されており、シリンダー3の一端にはシリンダー一端部位置決め穴63に嵌め込まれるシリンダー一端側位置決め部31が設けられている。
そして、シリンダー3がダンパーケース2の内側に挿入され、シリンダー一端側位置決め部31がシリンダー一端部位置決め穴63の他端開口側内周面に嵌め込まれてシリンダー3が一端側支持部6に固定されることで、シリンダー3の中心軸3Cとダンパーケース2の中心軸とが一致したダンパーケース2とシリンダー3とによる二重円筒構造が構成される。
シリンダー一端部位置決め穴63の内面には、装置設置用穴81と連通する連通路32が開通しており、シリンダー一端部位置決め穴63とシリンダー3内の一端側油溜室45とが連通している。また、シリンダー3の外周面とダンパーケース2の内周面との間で形成された円環筒状連通路35の一端側開口と連通するように一端側支持部6に連通路22が形成されている。
シリンダー一端側位置決め部31は、シリンダー一端部位置決め穴63の他端開口側内周面に嵌め込まれる一端部である小径筒部と、シリンダー3の一端開口部の内周面に嵌め込まれる他端部である大径筒部とを備え、小径筒部の外周面とシリンダー一端部位置決め穴63の内周面との間には当該外周面と内周面との間の液密性を維持するОリング31aが設けられ、大径筒部の外周面とシリンダー3の内周面との間には当該外周面と内周面との間の液密性を維持するОリング31bが設けられている。Оリング31a;31bにより、作動油が一端側油溜室45と円環筒状連通路35とに連通することが防止される。
ダンパーケース取付穴62の一端側内周面には、当該内周面とダンパーケース2の一端側外周面との間の液密性を維持するОリング21aが設けられている。Оリング21aにより、作動油の外部への漏れが防止される。
【0020】
図3に示すように、ロッド5の一端部にピストン部4が設けられる。尚、ピストン部4の詳細については後述する。
ピストン部4が一端部に設けられたロッド5の他端側から、ロッド5を、一端側ばね受け部材52aのロッド通し孔52x、リバウンドスプリング53の中心軸に沿った中央空間、他端側ばね受け部材52bのロッド通し孔52y、ロッドガイド51の貫通孔52に順番に通して、ピストン部4、一端側ばね受け部材52a、リバウンドスプリング53、他端側ばね受け部材52bをシリンダー3の他端開口からシリンダー3内に挿入するとともに、ロッドガイド51の一端部に形成されたシリンダー他端位置決め穴56の内周面とシリンダー3の他端開口部の外周面とが嵌まり合うように、ロッドガイド51の外周面55とダンパーケース2の内周面とがねじ嵌合される。
【0021】
ピストン部4の後述する主ピストン41の円板部41rの中央を貫通するように形成されたロッド貫通孔41mを貫通したロッド5の一端部の外周面にねじ部46aが形成され、当該ねじ部46aにロックナット46が締結されたことにより、ロッド5の一端部に主ピストン41が固定される。
ロッド5はシリンダー3の中心軸3Cに沿って延長するように形成された中空孔5Xを有した中空棒により形成される。ロッド5の一端側は、ロッド5の径がロッド5の他端側の径よりも小さく形成された小径部5tに形成され、ロッド5の他端側は、大径部5uにより形成される。ロッド5の小径部5tと大径部5uとの間のリング平面状段差面5wに、一端側ばね受け部材52aの他端面が接触するように構成される。
ロッド5の中空孔5Xの一端側開口は、キャップ47により封止されている。キャップ47は、ロッド5の中空孔5Xの一端側開口側の内周面に形成されたねじ部47aにねじ嵌合されており、かつ、中空孔5X内に嵌まり込むキャップ47の外周面には、当該キャップ47の外周面と中空孔5Xの内周面との間の液密性を維持するためのOリング47bが設けられ、シリンダー3内の作動油の中空孔5X内への侵入を防止している。
キャップ47は、キャップ47の一端面に形成された工具挿入穴47cに図外の工具を挿入してキャップ47を回転させることにより、中空孔5Xにねじ嵌合される。
【0022】
ロッドガイド51の一端部に形成されたシリンダー他端位置決め穴56より他端側に延長するように反力受け板設置穴57、及び、オイルシール設置穴58が設けられている。シリンダー他端位置決め穴56、反力受け板設置穴57、オイルシール設置穴58は、それぞれシリンダー3の中心軸3Cを中心軸とする同軸穴に形成され、径寸法は、シリンダー他端位置決め穴56>反力受け板設置穴57>オイルシール設置穴58である。反力受け板設置穴57の穴底面にはオイルシール設置穴58を覆うように反力受け板51dが設置され、反力受け板51dは反力受け板設置穴57から脱落しないように抜け止めリング51eによって反力受け板設置穴57に固定されている。
リバウンドスプリング53の一端が一端側ばね受け部材52aの着座面に着座し、リバウンドスプリング53の他端が他端側ばね受け部材52bの着座面に着座するように、当該リバウンドスプリング53が一端側ばね受け部材52aの着座面と他端側ばね受け部材52bの着座面との間に配置される。
他端側ばね受け部材52bのロッド通し孔52yの内周面の他端側にはブッシュ51fが配置される。
以上の構成により、圧縮動作時には、ロッド5と一端側ばね受け部材52aとピストン部4とが一緒に移動し、伸長動作時には、一端側ばね受け部材52aの着座面とリバウンドスプリング53の一端とが接触して伸長動作時の衝撃がリバウンドスプリング53により吸収緩和される。
【0023】
ロッドガイド51の貫通孔52の内周面には、他端側から順に、ダストシール51a、ブッシュ51b、オイルシール51cが設けられ、ロッド5の外周面とロッドガイド51の貫通孔52の内周面との間の液密性が維持されつつロッド5がシリンダー3の中心軸3Cに沿ってスムーズに移動できるようになっている。また、ロッドガイド51の外周面55とダンパーケース2の内周面との間の液密性を維持するOリング55bが設けられ、ロッドガイド51の他端面側にはロッドガイド51がダンパーケース2から抜けないように抜け止めリング55aが装着されている。
ロッドガイド51の一端面には工具挿入穴51gが形成され、当該工具挿入穴51gに図外の工具を挿入してロッドガイド51を回転させることにより、ロッドガイド51がダンパーケース2の他端開口側の内周面にねじ嵌合される。
【0024】
以上により、ロッド5の一端部及びピストン部4がシリンダー3内に設置され、ロッド5及びピストン部4がシリンダー3の中心軸3Cに沿って移動可能に構成されたリアクッション1が構成される。
【0025】
ピストン部4は、主ピストン41と、従ピストン42と、主ピストン41と従ピストン42とを連結する弾性手段としてのフリクションコントロールスプリング43とを備える。
主ピストン41がロッド5の一端部に連結され、ロッド5の一端からロッド5の他端側とは反対の方向である一端方向に離れた位置に従ピストン42が配置されて、当該主ピストン41の一端と従ピストン42の他端との間にフリクションコントロールスプリング43が設けられ、フリクションコントロールスプリング43の他端と主ピストン41の一端とが連結され、かつ、フリクションコントロールスプリング43の一端と従ピストン42の他端とが連結されることで、ロッド5の一端部にピストン部4が設けられる。
【0026】
主ピストン41は、ロッド5の一端部を貫通させるロッド貫通孔41mを備えた円板部41rと、円板部41rの円周縁部より一端方向に延長する円筒部41sと、円筒部41sの外周を一周するように当該外周に設けられたピストンリング41bとを備えた構成である。ロッド貫通孔41mの中心軸及び円筒部41sの中心軸は、シリンダー3の中心軸3Cと一致するように構成される。
そして、上述したように、ロッド貫通孔41mを貫通したロッド5の一端部のねじ部46aにロックナット46が締結されることで、主ピストン41がロッド5の一端部に固定されている。
【0027】
円筒部41sには、円筒部41sの外周面に形成された円筒部41sの中心軸を中心とする環状溝であるピストンリング設置用環状溝41aと、ピストンリング設置用環状溝41aの溝底面より中心軸側に向けて形成された円筒部41sの中心軸を中心とする環状溝であるOリング設置用環状溝41c;41eと、円筒部41sの外周面の一端部に形成されてフリクションコントロールスプリング43の他端を固定するための他端固定部41tとが形成される。
主ピストン41は、Oリング41d;41fがOリング設置用環状溝41c;41eに装填された後に、ピストンリング41bがピストンリング設置用環状溝41aに装填されたことによって、OリングOリング41d;41fがピストンリング41bを押圧してピストンリング41bの外周面がシリンダー3の内周面36を押圧する方向に付勢されるように構成されている。
【0028】
従ピストン42は、円筒部42sと、円筒部42sの外周を一周するように当該外周に設けられたピストンリング42bとを備えた構成である。円筒部42sの中心軸は、シリンダー3の中心軸3Cと一致するように構成される。尚、円筒部42sの筒孔42fが作動油の連通路となっている。
円筒部42sには、円筒部42sの外周面に形成された円筒部42sの中心軸を中心とする環状溝であるピストンリング設置用環状溝42aと、ピストンリング設置用環状溝42aの溝底面中心軸側に向けて形成された円筒部42sの中心軸を中心とする環状溝であるOリング設置用環状溝42cと、円筒部42sの外周面の他端部に形成されてフリクションコントロールスプリングの一端を固定するための一端固定部42tとが形成される。
従ピストン42は、Oリング42dがOリング設置用環状溝42cに装填された後に、ピストンリング42bがピストンリング設置用環状溝42aに装填されたことによって、Oリング42dがピストンリング42bを押圧してピストンリング42bの外周面がシリンダー3の内周面36を押圧する方向に付勢されるように構成されている。
【0029】
以上により、シリンダー3内の空間が、主ピストン41よりも一端側の一端側油溜室45と主ピストン41よりも他端側の他端側油溜室44とに区画され、ダンパーケース2の内周面とシリンダー3の外周面との間で形成された円筒壁空間のような円環筒状連通路35が形成される。また、シリンダー3の他端側には、他端側油溜室44と円環筒状連通路35とを連通させる連通孔34が形成されている。
【0030】
図1図2に示すように、他端側支持部7の他端側には他端側取付孔71が形成され、他端側支持部7の一端部にはロッド取付穴72が形成されている。ロッド5の他端部に形成されたねじ部にロックナット73を螺着しておいて、ロッド5のねじ部とロッド取付穴72のねじ部とをねじ嵌合し、かつ、ロックナット73を締結することで、ロッド5の他端部が他端側支持部7に固定される。
他端側支持部7の一端部の外周には他端側ばね受け74が取付けられている。
他端側支持部7の一端部には、円環状のバンプラバー75の円環の中心軸とロッド5の中心軸とが一致するようにバンプラバー75がロックナット73の外周面に形成された係合溝76に係合するように取付けられている。
【0031】
懸架ばね10は、ダンパーケース2の外周にシリンダー3の中心軸3Cに沿った螺旋を描くスプリングにより形成され、一端が、ばね荷重調整装置11に設けられた一端側ばね受け12に支持され、他端が、他端側支持部7の一端部の外周には他端側ばね受け74に支持されている。懸架ばね10のばね力が、車両が路面から受ける衝撃力を吸収する。
そして、ばね荷重調整装置11により一端側ばね受け12をシリンダー3の中心軸3Cに沿った方向に移動させることにより、懸架ばね10の設定長さ(ばね荷重)が調整される。
【0032】
以上説明したように、リアクッション1のダンパーケース2、シリンダー3、ピストン部4、ロッド5は、それぞれ中心軸が一致するように設置されて、ロッド5及びピストン部4とシリンダー3及びダンパーケース2とがそれぞれシリンダー3の中心軸3Cに沿った方向に相対移動可能に構成される。
リアクッション1を構成する各部品は、以上の説明からわかるように、主としてシリンダー3の中心軸3Cを中心軸とするように設けられる円筒状部品、環状部品、螺旋状部品等により構成される。
【0033】
ばね荷重調整装置11は、油圧ジャッキと図外のポンプとを備える。
油圧ジャッキは、図3に示すように、ダンパーケース2の外周に固定されるハウジング11aと、ハウジング11a内に設けられたプランジャ11bと、プランジャ11bの他端より延長するよう設けられた一端側ばね受け12と、一端側ばね受け12の外周縁より一端側に延長するように設けられたプランジャ移動ガイド11cとを備えて構成される。プランジャ移動ガイド11cがハウジング11aの外周面と液密を維持した状態でシリンダー3の中心軸3Cに沿って移動可能なように設けられている。ハウジング11aとプランジャ11bとで囲まれた空間でジャッキ油室11fが構成されている。ハウジング11aの外側周面とプランジャ11bの外周面との間に液密性を維持するためのOリング11hが設けられ、ハウジング11aの内側周面とプランジャ11bの内周面との間に液密性を維持するためのOリング11iが設けられている。プランジャ移動ガイド11cの内周面にはダスト侵入防止用のOリング11gが設けられている。プランジャ移動ガイド11cの内周面とハウジング11aの外周面とには、プランジャ移動ガイド11cのシリンダー3の中心軸3Cに沿った方向への移動をガイドするねじ係合による直線ガイド11dが設けられている。
【0034】
ばね荷重調整装置11は、図外のポンプから図外の供給管を介してジャッキ油室11f内に気体が供給されることで、プランジャ11bが他端側に押し出されて懸架ばね10が押圧され、懸架ばね10の反力を得てダンパーケース2が持ち上がって車高が上がるように構成され、逆に、ジャッキ油室11fから気体が図外の排出管を介して排出されることによって、プランジャ11bが懸架ばね10の反力により押し戻され、ダンパーケース2が下降して車高が下がるように構成された装置である。
ジャッキ油室11fに対する気体の給排は、図外の制御装置によって制御される。
尚、ばね荷重調整装置11としては、手動で調整されるアジャスター機構を備えた構成のものであってもよい。
【0035】
図5に示すように、減衰力発生装置8は、圧側行程(圧縮動作時)では連通路32から装置設置用穴81内の圧側室70xに流入した作動油に減衰力を与えて連通路22に流出させ、伸側行程(伸長動作時)では連通路22から装置設置用穴81内の伸側室70yに流入した作動油に減衰力を与えて連通路32に流出させることで圧側及び伸側行程におけるリアクッション1の動作に減衰力を付与する。
【0036】
減衰力発生装置8の減衰力発生機構82は、中心筒体70aと、この中心筒体70aの両側外周に固着された円板状の仕切板70b,70cと、仕切板70bと仕切板70cとで区画された中間室70iと、圧側室70xを区画する仕切板70bに形成された貫通孔70dを塞ぐように仕切板70bの中間室70i側に取り付けられた圧側減衰バルブ70eと、伸側室70y側の仕切板70cに形成された貫通孔70gを塞ぐように仕切板70cの中間室70i側に取り付けられた伸側減衰バルブ70hと、中心筒体70aの中心に位置される針弁70jとを備える。
尚、装置設置用穴81を塞ぐとともに調整機構90eを備えた蓋体83の外周面にOリング90xが設けられて蓋体83の外周面と装置設置用穴81の内周面との液密性が維持されて装置設置用穴81が液密に形成される。また、仕切板70cの外周面にOリング90yが設けられて仕切板70cの外周面と装置設置用穴81の内周面との液密性が維持され、Oリング90xとOリング90yとで伸側室70yが液密に維持される。また、仕切板70bの外周面にOリング90zが設けられて仕切板70bの外周面と装置設置用穴81の内周面との液密性が維持され、Oリング90yとOリング90zとで中間室70iが液密に維持されるとともに、Oリング90zで圧側室70xが液密に維持される。
【0037】
圧側減衰バルブ70eと伸側減衰バルブ70hとの間には、円板状のリング体80aが設けられる。リング体80aには、厚さ方向中央部分に、内周から外周にかけて径方向に貫通する複数の貫通孔80bが放射状に形成される。また、この貫通孔80bに対応するように中心筒体70aには、この中心筒体70aを径方向に貫通する貫通孔80cが設けられている。中心筒体70aの中央孔80dは圧側室70x側が小径孔80eとなり、反対側が大径孔80fとなり、小径孔80eの伸側室70y側で針弁70jの先端のテーパ80gとで間隙90aを形成する角部90bが形成される。また、針弁70jの根元側にテーパ部材90fが設けられ、このテーパ部材90fのテーパとで間隙90cを形成する角部90dが形成される。
【0038】
針弁70jは、伸側アジャスター70及び圧側アジャスター80を備えた調整機構90eにより進退自在に微調整される。なお、91aは貫通孔70mを圧側室70x側から塞ぐチェック弁、91bは貫通孔70nを伸側室70y側から塞ぐチェック弁である。圧側減衰バルブ70e、伸側減衰バルブ70h、チェック弁91a,91bはいずれも弾性薄板を複数重ねて層状化して構成される。
【0039】
以上の構成によれば、圧側行程では、一端側油溜室45から連通路32を介して圧側室70x内に流入した作動油が、貫通孔70dから流入し圧側減衰バルブ70eを押し開いて中間室70iに供給されるとともに小径孔80eにも先端側から流入し、間隙90aを介して中央孔80dの貫通孔80cからリング体80aの貫通孔80bを介して中間室70iに供給される。中間室70iの作動油は、貫通孔70nを介してチェック弁91bを押し開いて、伸側室70yを経由して連通路22内に供給され、円環筒状連通路35を介して他端側油溜室44に供給される。
また、伸側行程では、他端側油溜室44及び円環筒状連通路35から連通路22を介して伸側室70yに流入した作動油が、貫通孔70gに流入し、伸側減衰バルブ70hを押し開いて中間室70iに供給されるとともに大径孔80fに連通する孔93から中央孔80dの貫通孔80cを介して中間室70iに供給される。中間室70iの作動油は、貫通孔70mからチェック弁91aを押し開いて、圧側室70x、連通路32を経由して一端側油溜室45に供給される。
【0040】
上述の減衰力発生装置8による減衰力の発生動作において、作動油の温度変化及びロッド進入体積分の作動油の体積変化は、中間室70iに開口する連通路92を介して補償装置9に導かれることで、温度補償がなされる。
図4に示すように、補償装置9は、一端開口が一端側支持部6にOリング9gで液密状態に取付けられて他端開口がキャップ9dにより封着された密閉容器9a内が、ブラダ9cによってエア室9xと油溜室9bとに区画された構成であり、キャップ9dに設けられたエアバルブ9eを介して高圧化されるエア室9x内の圧力によって加圧される油溜室9bが減衰力発生装置8を介して一端側油溜室45に連通する。この油溜室9bにより、一端側油溜室45内で進退するロッド5の進入体積分(油の温度膨張分の容積を含む)が補償される。即ち、補償装置9は、油溜室9bに作動油を流入出させて、減衰力発生装置8側の作動油の容積を一定に維持し、外気温度や、リアクッション1の動作による作動油の温度上昇などに依存しない安定した減衰力が得られるように構成されている。
【0041】
実施形態1では、例えば、一端側支持部6が自動二輪車の車体側であるフレーム等に連結されて、他端側支持部7が自動二輪車の車軸側に連結されたリアクッション1に対して、シリンダー3の中心軸3Cに沿った方向に力が加わってリアクッション1の一端と他端とが互いに近づくように動作する圧縮動作時、即ち、ピストン部4が一端方向に向けてシリンダー3の内周面36を摺動する際において、まず、主ピストン41が従ピストン42よりも先行してシリンダー3の内周面36を摺動し、その後、主ピストン41と従ピストン42とが一緒にシリンダー3の内周面36を摺動するように、主ピストン41の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力を、従ピストン42の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力よりも小さくした。
【0042】
上述のように、圧縮動作時において、主ピストン41が従ピストン42よりも先行してシリンダー3の内周面36を摺動した後に、主ピストン41と従ピストン42とが一緒にシリンダー3の内周面36を摺動するように構成する手法としては、主ピストン41の外周面とシリンダー3の内周面36との接触面積を、従ピストン42の外周面とシリンダー3の内周面36との接触面積よりも小さくすることによって、主ピストン41の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力を、従ピストン42の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力よりも小さくしたり、あるいは、主ピストン41の外周面を形成する材料として、従ピストン42の外周面を形成する材料よりも摩擦係数の小さい材料を用いることによって、主ピストン41の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力を、従ピストン42の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力よりも小さくすればよい。
【0043】
例えば、上述した1つのピストンのみを備えた従来構成のリアクッションの場合の当該ピストンの外周面とシリンダーの内周面との間に作用する最大静止摩擦力を「100」とした場合、実施形態1の主ピストン41の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力を「40」とするとともに、従ピストン42の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力を「60」とし、主ピストン41が従ピストン42よりも先行してシリンダー3の内周面36を摺動し、その後、主ピストン41と従ピストン42とが一緒にシリンダー3の内周面36を摺動するようにした。
上述したように、1つのピストンのみを備えた構成の場合、図6(a)に示すように、緩衝器に最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わった直後においてピストンに加わる負荷が急変した後に安定するといった現象が生じるため、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動が大きくなり、自動二輪車の走行安定性に影響を及ぼすとともに、トラクション(駆動力)の伝達ロスの可能性があった。
【0044】
実施形態1によれば、リアクッション1に、主ピストン41の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わった場合、主ピストン41は摺動可能な状態となるが、この際、まだ、リアクッション1に、従ピストン42の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力よりも大きな荷重は加わっていない。このため、主ピストン41が摺動する際、当該主ピストン41が静止している従ピストン42及びフリクションコントロールスプリング43からの反力を受けるため、この際に主ピストン41の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する動摩擦力は、図6(b)に示すように、徐々に大きくなっていき、リアクッション1に、従ピストン42の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わった場合、主ピストン41と従ピストン42とが一緒にシリンダー3の内周面36を摺動する。
即ち、上述した1つのピストンのみを備えたリアクッションの場合、リアクッションに最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わった後、ピストンの外周面とシリンダーの内周面との間に作用する摩擦力が小さくなって動摩擦力に安定するまでの過程においてピストンが摺動する際にはピストンに加わる負荷が急激に小さくなるのに対して、ピストンの外周面とシリンダーの内周面との間に作用する摩擦力が動摩擦力に安定した状態でピストンが摺動する際にはピストンに加わる負荷がほぼ一定になる。すなわち、緩衝器に最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わった直後においてピストンに加わる負荷が急変した後に安定するといった現象が生じるため、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動が大きくなってしまう構成であった。
これに対して、実施形態1のリアクッション1では、リアクッション1に、主ピストン41の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わった後、従ピストン42の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力よりも大きな荷重が加わるまでの間において、主ピストン41が摺動する際には、主ピストン41に加わる負荷が徐々に大きくなっていき、従ピストン42の外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する摩擦力が動摩擦力になってピストン部4が摺動する際にはピストン部4に加わる負荷がほぼ一定になる(図6(b)参照)。
したがって、実施形態1のリアクッション1では、リアクッション1に荷重が加わった場合、ピストン部4に加わる負荷が徐々に増加した後に安定するので、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動が小さくなり、圧縮動作時の動作安定性が改善されるため、自動二輪車の走行安定性が改善され、かつ、トラクション(駆動力)の伝達ロスを改善できるようになる。
【0045】
すなわち、実施形態1では、ピストン部4が、ロッド5の一端部に連結された主ピストン41と、主ピストン41よりもシリンダー3の一端側に配置されて主ピストン41とフリクションコントロールスプリング43を介して連結された従ピストン42とを備え、主ピストン41とシリンダー3との最大静止摩擦力が、従ピストン42とシリンダー3との最大静止摩擦力よりも小さくなるように形成されたことにより、圧縮動作時において、主ピストン41が先行してシリンダー3の一端に近づく方向に作動した後に、主ピストン41と従ピストン42とが一緒にシリンダー3の一端に近づく方向に作動するように構成されたので、自動二輪車の走行安定性が改善され、かつ、トラクションの伝達ロスを改善できるリアクッション1を提供できる。
【0046】
実施形態1では、一端側支持部6に、減衰力発生装置8、補償装置9、ばね荷重調整装置11が設けられ、かつ、ダンパーケース2の一端部が取付けられるとともに、シリンダー3の一端部が取付けられ、シリンダー3の他端部がダンパーケース2の他端開口に固定されたロッドガイド51に取付けられることで、シリンダー3がダンパーケース2の内側に同軸状に配置されて固定されており、ロッドガイド51を貫通してシリンダー3内に位置されるロッド5の一端部にはピストン部4が設けられ、ロッド5の他端部が他端側支持部7に取付けられることで、シリンダー3の中心軸3Cとロッドガイド51の中心軸とロッド5の中心軸とが一致するように構成され、ダンパーケース2の外周に配置されてシリンダー3の中心軸3Cに沿った螺旋を描くスプリングにより形成された懸架ばね10の一端がダンパーケース2の外周に配置された一端側ばね受け12に支持され、懸架ばね10の他端が他端側支持部7の一端部の外周に配置された他端側ばね受け74に支持された構成を備え、例えば、シリンダー3の一端側が取付けられた一端側支持部6が自動二輪車の車体側に連結されて、ロッド5の他端側が取付けられた他端側支持部7が自動二輪車の車軸側に連結され、シリンダ−3内、ダンパーケース2の内周面とシリンダー3の外周面との間、減衰力発生装置8、補償装置9に作動油が収容されて、圧縮動作時、及び、伸長動作時に、減衰力発生装置8がシリンダー3及びピストン部4の動きを減衰させる減衰力を生じさせるように構成されたリアクッション1において、ピストン部4が、ロッド5に連結された主ピストン41と、主ピストン41よりもシリンダー3の一端側に配置されて主ピストン41とフリクションコントロールスプリング43を介して連結された従ピストン42とを備え、主ピストン41とシリンダー3との最大静止摩擦力が、従ピストン42とシリンダー3との最大静止摩擦力よりも小さくなるように形成されたことにより、圧縮動作時において、主ピストン41が先行してシリンダー3の一端に近づく方向に作動した後に、主ピストン41と従ピストン42とが一緒にシリンダー3の一端に近づく方向に作動するように構成されたことにより、圧縮動作時においてピストン摺動時の負荷変動が小さくなり、圧縮動作時の動作安定性が改善されるため、自動二輪車の走行安定性が改善され、かつ、トラクションの伝達ロスを改善できる。
【0047】
実施形態2
実施形態1で示したピストン部を、図7に示すような、貫通ロッドタイプに適用した構成のリアクッション1Aとしてもよい。尚、図7において、図2に示した実施形態1のリアクッション1と同一又は相当部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
貫通ロッドタイプとは、一端側支持部6と他端側支持部7とに跨るように設けられたロッド5Aを備えた構成である。
【0048】
即ち、リアクッション1Aは、シリンダー3の一端側を保持するシリンダー保持部材を形成する一端側支持部6と、当該一端側支持部6に設けられてロッド5Aをガイドするロッドガイド部100とを備え、シリンダー3の中心軸3Cとロッドガイド部100の中心軸とロッド5Aの中心軸とが一致するように構成される。
【0049】
ロッドガイド部100は、中心軸がシリンダー3の中心軸3Cと一致する筒孔により形成され、当該筒孔は、シリンダー3の一端側に位置された筒孔の他端開口側に形成された小径部101と、小径部101より一端側支持部6の一端に向けて延長し、かつ、小径部101よりも内径寸法が大径に形成された大径部102とを備える。小径部101の内径は、ロッド5Aの一端側の外径に対応した寸法に形成されている。
ロッドガイド部100は、一端側支持部6に形成された位置決め取付孔112に取付けられている。即ち、ロッドガイド部100の大径部102の一端側の外周面107に形成されたねじ部と位置決め取付孔112の一端側の内周面に形成されたねじ部とがねじ嵌合されることでロッドガイド部100が位置決め取付孔112に固定されている。大径部102の他端側の外周面と位置決め取付孔112の内周面との間は連通路32と一端側油溜室45とを連通させる連通路に形成される。大径部102の一端側の外周面にはOリング108が設けられて当該外周面と位置決め取付孔112の内周面との間の液密性が維持されている。位置決め取付孔112の他端側の外周面にシリンダー3の一端側位置決め部31Aの内周面が嵌合されている。
ロッド5Aの一端側が進退する大径部102内の空間103は、一端開口が一端側支持部6に形成された大気解放室110と連通して大気解放されている。大気解放室110は大気流出孔109を介して大気に解放されている。
小径部101の内周面には、ロッド5Aの一端側の外周面との液密性を維持するためのXリング104が設けられるとともに、ブッシュ105が設けられていることにより、小径部101を貫通するロッド5Aの一端側の外周面と小径部101の内周面とが液密状態を維持しながらロッド5Aの外周面と小径部101の内周面とが摺動可能に構成されてシリンダー3内と大径部102内の空間103とが区画されている。
【0050】
ロッド5Aは、ピストン部4Aに形成された貫通孔を貫通して、圧縮動作時及び伸長動作時に、一端側がロッドガイド部100で保持された構成である。
ロッド5Aは、最大伸長時に、一端部が小径部101を貫通した状態となるような長さに形成される。
ロッド5Aは、他端側ロッド部5a、中間ロッド部5b、一端側ロッド部5cとが組み合わされて構成される。
他端側ロッド部5aは、中空ロッドにより形成され、中空部の一端開口が液密封止部材120により封止されている。
中間ロッド部5bは、他端側が他端開口の円筒部に形成され、中間部が主ピストン41Aの中央貫通孔41Bを貫通する径寸法の軸部に形成され、一端側が液密封止部41Cに形成される。
一端側ロッド部5cは、中空ロッドにより形成され、中空部の一端開口部は工具挿入部106に形成されている。
他端側ロッド部5aの一端部の外周面に形成されたねじ部と中間ロッド部5bの他端側の円筒部の内周面に形成されたねじ部とがねじ嵌合されることで他端側ロッド部5aの一端部と中間ロッド部5bの他端部とが連結される。従ピストン42Aの中央貫通孔42Dを貫通させた一端側ロッド部5cの中空部の他端開口より中間ロッド部5bの一端部及び中間部が挿入され、一端側ロッド部5cの中空部の他端側内周面に形成されたねじ部と中間ロッド部5bの中間部の外周面に形成されたねじ部とがねじ嵌合されること中間ロッド部5bと一端側ロッド部5cの他端部とが連結される。一端側ロッド部5cと中間ロッド部5bとのねじ嵌合は、工具挿入部106に工具を挿入して一端側ロッド部5cを回転させればよい。
【0051】
一端側ロッド部5cが貫通した従ピストン42Aの中央貫通孔42Dの内周面と一端側ロッド部5cの外周面との間は、前記シリンダー内の一端側油溜室45に収容された作動油をシリンダー3の一端側とシリンダー3の他端側とに連通させる連通路に形成される。即ち、一端側ロッド部5cの外周面との間に空間を形成する中央貫通孔42Dを有した従ピストン42Aが、シリンダー3内に収容された作動油をシリンダー3の一端側とシリンダー3の他端側とに連通させる上記空間による連通路を形成している。
【0052】
そして、実施形態1と同様に、ピストン部4Aは、主ピストン41Aと、従ピストン42Aと、主ピストン41Aと従ピストン42Aとを連結する弾性手段としてのフリクションコントロールスプリング43とを備える。
主ピストン41Aがロッド5Aに連結され、主ピストン41Aから一端方向に離れた位置に従ピストン42Aが配置されて、当該主ピストン41Aの一端と従ピストン42Aの他端との間にフリクションコントロールスプリング43が設けられ、フリクションコントロールスプリング43の他端と主ピストン41Aの一端とが連結され、かつ、フリクションコントロールスプリング43の一端と従ピストン42Aの他端とが連結されることで、ロッド5Aの一端部にピストン部4Aが設けられる。
そして、実施形態1と同様に、圧縮動作時に、まず、主ピストン41Aが従ピストン42Aよりも先行してシリンダー3の内周面36を摺動し、その後、主ピストン41Aと従ピストン42Aとが一緒にシリンダー3の内周面36を摺動するように、主ピストン41Aの外周面(ピストンリング41bの外周面)とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力を、従ピストン42Aの外周面(ピストンリング42bの外周面)とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力よりも小さくした構成となっている。
【0053】
実施形態2によれば、実施形態1と同じ効果が得られるとともに、シリンダー3の中心軸3Cとロッド5Aの中心軸とが一致するようにロッド5Aの進退動作をガイドするロッドガイド部100を備えているので、ロッド5Aの直進動作性が向上する。
また、従ピストン42Aが、シリンダー3内に収容された作動油をシリンダー3の一端側とシリンダー3の他端側とに連通させる連通路を形成するように構成されているので、主ピストン41Aを仕切りとしてシリンダー3内の油溜室を一端側油溜室45と他端側油溜室44とに区画できるため、主ピストン41Aと従ピストン42Aとを備えた構成において、主ピストン41Aに減衰力を効果的に付与できる構成を実現できる。
また、ロッドガイド部100の筒孔の一端が大気解放されているので、筒孔の大径部102内に進退するロッド5Aの進退動作がスムーズに行われるリアクッション1Aとなる。
【0054】
実施形態3
図8に示すように、貫通ロッドタイプのリアクッションにおいて、ロッド5Aの一端側の外周面と従ピストン42Bの貫通孔の内周面との間に、ロッド5Aの外周面に対する摩擦抵抗を所望の値に設定するためのフリクション部材としてのブッシュ42xを備え、かつ、従ピストン42Bが、シリンダー3内に収容された作動油をシリンダー3の一端側とシリンダー3の他端側とに連通させる連通路として機能する貫通孔42yを備えたリアクッション1Bとしてもよい。
尚、図8に示した実施形態3のリアクッション1Bは、上述した貫通孔42yを備えた従ピストン42Bとブッシュ42x以外の部分は、図7に示した実施形態2のリアクッション1Aと同じである。
【0055】
実施形態3によれば、実施形態2と同じ効果が得られるとともに、ロッド5Aの一端側の外周面と従ピストン42Bの貫通孔の内周面との間に、ロッド5Aの外周面に対する摩擦抵抗を所望の値に設定するためのフリクション部材としてのブッシュ42xを備えているので、実施形態2と比べて、従ピストン42Bの外周面とシリンダー3の内周面36との間に作用する最大静止摩擦力を小さくできる。このため、シリンダー3の内周面36との間に摩擦力を発生させる従ピストン42Bのピストンリング(フリクション部材)として主ピストン41Aのピストンリング(フリクション部材)と同じものを使用できるようになる。
【0056】
尚、本発明のリアクッション1は、シリンダー3の一端側が取付けられた一端側支持部6が自動二輪車の車軸側に連結されて、ロッド5の他端側が取付けられた他端側支持部7が自動二輪車の車体側に連結されてもよい。
また、ピストン部を構成するピストンの数は、3個以上であってもよい。
また、主ピストンと従ピストンとを連結する弾性手段としてスプリング以外の弾性手段を用いてもよい。
本発明の特徴構成は、リアクッションの他、フロントフォーク、その他の用途に使用される緩衝器にも適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 リアクッション(緩衝器)、3 シリンダー、4 ピストン部、5 ロッド、
6 一端側支持部(シリンダー保持部材)、41 主ピストン、42 従ピストン、
42x ブッシュ(フリクション部材)、42y 貫通孔(連通路)、
43 フリクションコントロールスプリング(弾性手段)、100 ロッドガイド部、
101 小径部、102 大径部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8