特許第6290872号(P6290872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290872
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】cBN材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/16 20060101AFI20180226BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20180226BHJP
   C22C 29/00 20060101ALI20180226BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C22C29/16 G
   B23B27/14 B
   C22C29/00 D
   C22C1/05 M
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-514531(P2015-514531)
(86)(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公表番号】特表2015-525289(P2015-525289A)
(43)【公表日】2015年9月3日
(86)【国際出願番号】EP2013061309
(87)【国際公開番号】WO2013178804
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年3月31日
(31)【優先権主張番号】61/653,686
(32)【優先日】2012年5月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】イェロルド ベインル
(72)【発明者】
【氏名】アンニカ カウピ
(72)【発明者】
【氏名】マーリン モーテンソン
(72)【発明者】
【氏名】トルビョルン セリンデル
(72)【発明者】
【氏名】シャオ ルイ
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−011939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00〜29/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
cBN材料の製造方法であって、
cBN粒子と、アルミニウムと、Ti(Cxyza粉末とを含む粉末混合物を提供する工程と、
前記粉末混合物を粉砕して粉末配合物を形成する工程と、
前記粉末配合物を成形して成形体を形成する工程と、
前記成形体を650〜950℃の温度で予備焼結して、予備焼結体を形成する工程と、
前記予備焼結体を高圧高温処理してcBN材料を形成する工程と、
を含み、
前記Ti(Cxyza粉末について、0.05≦z≦0.4であり、
Wが、Wの量が前記cBN材料の1〜12wt%であるように添加され、Coが、Coの量が前記cBN材料の0.5〜9wt%であるように添加され、W/Co重量比が1.0〜2.0であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記Ti(Cxyza粉末が、前記粉末混合物の総乾燥粉末重量の10〜70wt%の量で提供される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Ti(Cxyza粉末について、0.01≦x≦0.95、0≦y≦0.95、及び0.05≦z≦0.4である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記Ti(Cxyza粉末について、0.3≦x≦0.95、0≦y≦0.5、及び0.05≦z≦0.3である請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記Ti(Cxyza粉末について、0.9≦a≦1.1である請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
アルミニウムが、前記粉末混合物の総乾燥粉末重量の1〜10wt%の量で提供される請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記Ti(Cxyza粉末の一部が、化学量論的TiC、TiN、及び/又はTiCNにより代替される請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
粉砕液を前記粉末混合物に加えてスラリーを形成し、粉砕の後に乾燥操作を行って前記粉末配合物を形成する請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥操作が噴霧乾燥により行われる請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記予備焼結が850℃〜930℃の温度で行われる請求項1〜の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記高圧高温処理が、5.5〜7.5GPaの圧力と1300〜1600℃の温度で行われる請求項1〜10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
cBN粒子と、Al相と、TiC、TiN及び/又はTiCNのバインダー相と、Wと、Coとを含むcBN材料であって、
前記cBN材料の商Qが<0.25であり、
ここで、前記商Qが割合Fの平均値と含有量Cとの間の商であり、前記割合Fが、2000〜8000倍拡大のcBN材料のSEM画像において、W及び/又はCoを含むアイランドの総面積がcBN材料の総面積に対して占める割合%であり、前記割合Fの平均値は、cBN材料の選択された領域を撮影したSEM画像の10枚の異なる割合Fに基づいて算出され、前記含有量Cが、前記cBN材料中の前記Wの含有量(wt%)であることを特徴とするcBN材料。
【請求項13】
商Qが<0.15である請求項12に記載のcBN材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学量論的Ti(Cxyzaバインダー相原料を用いたcBN材料の製造方法に関する。本発明はまた、この方法で製造されたcBN材料、及びcBN材料に関する。
【背景技術】
【0002】
立方晶系窒化ホウ素(cBN)を含む工具は、当技術分野においてよく知られている。通常cBN粒子は、TiN、TiC、又はTiCNであり得るバインダーマトリックス中に含まれている。アルミニウムは通常、金属の形態で又はAl化合物として添加される。
【0003】
TiN及び/又はTiCNのバインダーマトリックスを含むcBN工具を作成する場合、バインダー相形成粉末であるTiN又はTiCNは準化学量論的(substoic−hiometric)であり、すなわちN/Ti又はCN/Ti比は実質的に1より小さい、これらのタイプの粉末は、均一な組成で製造することが困難であり、従って高価である。
【0004】
準化学量論的TiN、TiC、及びTiCNの1種又はそれ以上と、Al23とを含む従来のcBN材料は、cBN粒子と、TiC、TiN、及び/又はTiCN粒子のバインダー相と、TiC、TiN、及び/又はTiCN相に含まれるAl23と、を有する焼結構造を有する。Al23は、TiC、TiN、及び/又はTiCN相中に、又はcBN粒子に隣接して、単離されたスポットとして見いだされる。この構造では通常、小さいWC−Co及び/又はW−Coアイランド(islands)を見ることもできる。これは、通常超硬合金製の粉砕体からの砕粉である。
【0005】
特許文献1は、焼結構造中にTiCNOバインダー相を有するcBN材料を開示する。
特許文献2は、Ti(CNO)z原料(ここで、zは化学量論値より小さい)が、金属バインダー相とともに使用できるPcBN又はPCD材料を開示する。
特許文献3は、cBNと、バインダーマトリックスと、及び超合金と、を含む立方晶窒化ホウ素材料を開示する。
【0006】
cBN材料の予備焼結がいくつかの高価な製造工程(例えば、鑞付け)を排除することは、当該分野で公知である。特許文献4は、PcBN切削工具インサートを製造する方法を開示している。この方法は、PcBN粉末を液体及び圧縮剤と混合する工程と、粉末凝集体を形成する工程と、この凝集体を圧縮して本体を形成する工程とを含む。次に、形成された本体は予備焼結処理に付されて多孔質体が形成され、これは次に、高圧−高温(HPHT)焼結工程に付されて緻密体が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−119646号公報
【特許文献2】国際公開第96/36465号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2009/150601号パンフレット
【特許文献4】欧州特許出願公開第1043410号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一つの目的は、高価な準化学量論的TiN、TiC、及び/又はTiCN原料を使用することなく、cBN質材料を製造する方法を得ることである。
本発明の他の目的は、クラック形成に対する抵抗力の向上したcBN材料を得ることである。
本発明のさらに別の目的は、工具寿命を向上するcBN材料を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に従って作成されたcBN材料の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。大きな黒い領域(A)はcBN粒子であり、薄灰色の粒子(E)は、Co及び/又はWを含む明るい縁(D)に囲まれたTi(C,N)粒子である。いくつかのTi(C,N)粒子の周りに灰色の領域(B)として、Al23を見ることもできる。cBN粒子(A)の近くの灰色の領域(C)は、TiB2又はAlNである。
図2】従来技術のcBN材料の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示し、ここで、A〜Cは、図1についての相と同じである。白色のアイランド(D)は、WC−Co及び/又はW−Coを含むアイランドである。バインダー相(F)はTiNである。
図3】実施例3の結果のグラフを示す。
図4】実施例4で分析された従来技術のcBN材料のSEM画像を示す。
図5】実施例4で分析された本発明のcBN材料のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、cBN材料の製造方法であって、
cBN粒子と、アルミニウムと、Ti(Cxyza粉末(ここで、0.05≦z≦0.4である)とを含む粉末混合物を提供する工程と、
前記粉末混合物を粉砕(milling)して粉末配合物を形成する工程と、
前記粉末配合物を成形して成形体(green body)を形成する工程と、
前記性形体を、650〜950℃の温度で予備焼結工程に付して、予備焼結体を形成する工程と、そして
前記予備焼結体をHPHT処理してcBN材料を形成する工程と、
を含む方法に関する。
【0011】
粉末混合物を提供する工程は、粉末混合物を乾燥粉末混合物として、又は液体(例えばミリング液)中に含まれる粉末混合物として、提供することを含んでよい。
【0012】
提供されるcBN粒子の量は、粉末混合物の総乾燥粉末重量に基づいて、粉末混合物中のcBN含有量が20〜80wt%であるような量である。マイクロトラック(光散乱)法又はFSSS法により測定されるcBN粒子の平均粒径は適切には、0.5〜10μmの間、好ましくは0.5〜5μm、最も好ましくは0.5〜2.5μmである。
【0013】
本発明のある態様において、W及びCoが添加される。適切にはWの量は、焼結cBN材料の1〜12wt%、好ましくは2〜6wt%である。Coの量は適切には、焼結cBN材料の0.5〜9wt%、好ましくは1〜5wt%である。W/Co比は、好ましくは1.0〜2.0である。
【0014】
粉砕体がWC−Co基超硬合金又はサーメットなどの他のW−Co含有材料からなる場合には、W及びCoは粉砕体からの砕粉として加えることができ、又はこれとは別にW及びCoは別の添加物として加えることもできる。
【0015】
粉砕体からの砕粉(残留物)として添加される場合、粉砕体の組成と粉砕時間は、W及びCoの所望の添加量を与えるように設計する必要がある。
【0016】
W−Coが別の添加物として添加される場合、WC−Coは「焼結」する必要があり、すなわち、W粉末とCo粉末として添加することはできない。さらに、別の添加物として添加される場合、cBN粒子、アルミニウム、及びTi(Cxyza粉末を含む粉末混合物に添加される。ある態様において、WC−Coは、リサイクルされた超硬合金(時にPRZと呼ばれる)として添加される。
【0017】
提供されるアルミニウムの量は、粉末混合物の総乾燥粉末重量の1〜10wt%、好ましくは3〜9wt%、最も好ましくは4〜8wt%である。アルミニウムの量は、Ti(Cxyza中の酸素量に依存する。適切にはアルミニウムの量は、原料中の、すべての酸素(すなわち、Ti(Cxyza粉末中の酸素、及び表面酸素などの他の酸素残留物)を反応させてAl23を形成するのに必要な量より、多くなければならない。
【0018】
提供されるTi(Cxyzaの量は適切には、粉末混合物の総乾燥粉末重量の10〜70wt%である。Ti(Cxyza粉末は化学量論的である。本明細書において化学量論的とは、バインダー相原料中の非金属元素と金属元素との比率が1に近いことを意味する。Ti(Cxyza粉末については、これは、0.9≦a≦1.1、好ましくは0.95≦a≦1.05を意味する。
【0019】
さらに、Ti(Cxyza粉末の組成は適切には、0.01≦x≦0.95、好ましくは0.3≦x≦0.95、最も好ましくは0.5≦x≦0.95、適切には0≦y≦0.95、好ましくは0≦y≦0.5、最も好ましくは0≦y≦0.3、及び適切には0.05≦z≦0.4、好ましくは0.05≦z≦0.3、最も好ましくは0.1≦z≦0.3である。
【0020】
Ti(Cxyza粉末はオキシ炭窒化物又は炭酸化物であることが、必須である。従来の準化学量論的Ti(C,N)原料粉末もまた、粉砕中の曝露のために、酸素を含有する。この酸素は、準化学量論的Ti(C,N)粒子の表面上に存在し、オキシ炭窒化物や炭酸化物を構成しない。
【0021】
また、Ti(Cxyza粉末のすべてではなく一部を代替するために、TiN、TiC、又はTiCNなどの他の化学量論的原料を添加することもできる。
【0022】
本発明のある態様において、Ti(Cxyza粉末は、高い炭素含有量(すなわち、0.7≦x≦0.95)を有し、TiNがTi(Cxyza粉末を5〜55wt%、好ましくは25〜55wt%だけ代替するような量で、化学量論的TiNが添加される。
【0023】
本発明のある態様において、Ti(Cxyza粉末は、高い窒素含有量(すなわち、0.7≦x≦0.95)を有し、TiCがTi(Cxyza粉末を5〜55wt%、好ましくは25〜55wt%だけ代替するような量で、化学量論的TiCが添加される。
【0024】
本発明のある態様において、Ti(Cxyza粉末は、0.3≦x≦0.69及び0.3≦y≦0.69の高い窒素含有量と炭素含有量を有し、TiCNがTi(Cxyza粉末を5〜55wt%、好ましくは25〜55wt%だけ代替するような量で、化学量論的TiCが添加される。
【0025】
またcBN材料の製造分野で一般的な少量の他の元素、例えばIVa族及び/又はVa族の元素、すなわちTi、Mo、Zr、Hf、V、Nb、及びTa(但し、これらは、後述されるcBN材料の構造の変化を引き起こさないものとする)などを、粉末混合物に添加することができる。
【0026】
本発明のある態様において、提供されるcBNの量は、粉末混合物の総乾燥粉末重量の20〜40wt%であり、Ti(Cxyza粉末の提供される量は、粉末混合物の総乾燥粉末重量の50〜79wt%である。
【0027】
本発明のある態様において、提供されるcBNの量は、粉末混合物の総乾燥粉末重量の41〜60wt%であり、Ti(Cxyza粉末の提供される量は、粉末混合物の総乾燥粉末重量の29〜58wt%である。
【0028】
本発明のある態様において、提供されるcBNの量は、粉末混合物の総乾燥粉末重量の61〜80wt%であり、Ti(Cxyza粉末の提供される量は、粉末混合物の総乾燥粉末重量の10〜38wt%である。
【0029】
粉末混合物の原料粉末は、ボールミル又はアトライタミル中でミリング操作により混合されて、粉末配合物が形成される。粉砕は適切には、まず粉砕液を粉末混合物に加えてスラリーを形成することにより行われる。粉砕の後に乾燥操作が行われて、粉末配合物が形成される。
【0030】
粉砕液は、好ましくは水、アルコール、又は有機溶媒、より好ましくはアルコール混合物、最も好ましくはエタノールである。スラリーの特性は、特に、添加される粉砕液の量に依存する。スラリーの乾燥はエネルギーを必要とするため、コストを下げるために液量を最小にしなければならない。しかし、ポンプ輸送可能なスラリーを実現し、システムの詰まりを回避するために、十分な液体を添加する必要がある。
【0031】
また、当技術分野で公知の他の化合物、例えば分散剤、pH調整剤などを、スラリーに添加することができる。
【0032】
凝集体の形成を促進し、以後のプレス工程における圧縮剤として作用するように、粉砕の前に、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)又はワックスなどの有機バインダーが添加される。
【0033】
本発明のある態様において、粉砕体の組成物と粉砕時間は、上記で開示された所望のW及びCo含有量が達成されるように、設計すべきである。
【0034】
スラリーは、公知の方法、例えば噴霧乾燥又は凍結乾燥、特に噴霧乾燥により乾燥される。噴霧乾燥の場合、有機液と混合された粉末化材料と、場合により有機バインダーとを含むスラリーが、乾燥塔内の適切なノズルを通して噴霧され、ここで、小さな液滴は、高温ガス流、例えば窒素流によって瞬間的に乾燥されて、良好な流動特性を有する球状粉末の凝集体が形成される。ある態様において、凝集体の直径は約20〜約150μmの範囲である。小規模実験のために、例えばパン乾燥などの他の乾燥方法を用いることができる。この場合、粉末の凝集体は、粉末配合物を形成する。
【0035】
成形体は、粉末配合物から、MAP(multi axial pressing 多軸プレス)などの冷間工具プレス技術、押出し又はMIM(metal injection molding 金属射出成形)、冷間静水圧プレス、テープ成形(tape casting)鋳造、及び粉末冶金技術分野で公知の他の方法を使用して、成形される。成形は、容易な取り扱いと成形加工とを可能にする成形密度及び/又は強度を与える。
【0036】
本発明のある態様において、成形はプレス操作により行われる。好ましくはプレスは、一軸押圧操作によって、適切には49KN〜393KN(5000〜40000kg)の力で行われる。
【0037】
まず、成形体は、有機バインダーを除去するために、高温に付される。好ましくはこれは、予備焼結と同じ装置内で行われる。バインダーを除去するための適切な温度は、水素雰囲気中で100℃〜450℃である。温度は、使用されるバインダーの種類に依存する。
【0038】
成形体は次に、温度T(Tは、組成に依存して約650〜約950℃、好ましくは約700℃〜約950℃、さらに好ましくは約850℃〜約930℃である)で予備焼結されて、予備焼結体が形成される。この温度は、成形体中の添加されたアルミニウムの望ましくない反応を避けるために、950℃を超えてはならない。予備焼結中ではなく、以後のHPHT処理中に、アルミニウムからAl23への反応が起きることが好ましい。
【0039】
本発明のある態様において、バインダー剤を除去した後、温度は、所望の予備焼結温度まで約2〜約10℃/分、ある態様では約2〜約5℃/分の速度で上昇させられる。焼結炉中の全投入本体が所望の温度に達し、所望の相変換が完了するまで、温度は約1〜約90分間維持される。予備焼結工程は真空中で行われるか、又は反応性もしくは非反応性雰囲気(例えばN2、Ar、又は炭素含有ガス)中で行われてよい。
【0040】
予備焼結体は典型的には、予備焼結体を高温高圧(HPHT)処理に付することによって焼結されて、cBN材料が形成される。これは通常5〜7.5GPa(50〜75kbar)で行われるが、この圧力は、組成に依存して、1300〜1600℃の温度で3.5〜6GPa(35〜60kbar)まで下げることができる。cBN材料は、超硬合金支持体、すなわちバック炭化物上に形成されるか、又は超硬合金支持体無しで形成することができる。
【0041】
本発明のある態様において、形成されたcBN材料はチップに切断され、これは次に、超硬合金のインサートのコーナ部に鑞付けされる。
【0042】
本発明のある態様において、形成されたcBN材料は、インサートの形状に切断することができる。
【0043】
本発明のある態様において、cBN材料は、「炭化物に支持された」ものである。これは、予備焼結体が、HPHT法で超硬合金部品と共にプレスされ焼結されることを意味する。次にcBN複合層は、HPHT焼結中に超硬合金に結合される。超硬合金中の元素は次に、cBN複合体中に拡散することができる。そのような元素の例は、Co、W、Cr、及びCである。
【0044】
本発明のある態様において、cBNの材料は超硬合金支持体に結合されない。次に粉末原料は配合され、湿式粉砕され、噴霧乾燥され、そして圧縮されて、成形体となる。次に成形体は、高温に付されて有機バインダーが除去され、次に予備焼結されて所望の強度と相組成が得られた後、HPHT処理に付される。次に、cBN材料に隣接した支持体無しで、HPHT処理が行われる。
【0045】
ある態様において、cBN材料は、Si、Al、及び周期表のIVa族、Va族、及びVIa族から選択される少なくとも一つの元素の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、又はホウ化物の単一層又は複数の層を含む耐摩耗性コーティングで、公知のCVD技術、PVD技術、又はMT−CVD技術により被覆される。
【0046】
本発明はまた、本発明の方法で製造されるcBN材料に関する。
【0047】
準化学量論量のTiC、TiN、及び/又はTiCNとAl23とから作成された従来のcBN材料は、cBN粒子と、TiC、TiN、及び/又はTiCN粒子のバインダー相と、及びTiC、TiN、及び/又はTiCN相中に含まれるAl23とを含む焼結構造を有する。Al23はまた、TiC、TiN、及び/又はTiCN相中で、単離されたアイランドとして見いだされる。この構造では、通常WC−Coの形態でW及び/又はCoを含有する小さなアイランド、及び/又はW−Coアイランドも見られる。これは、通常超硬合金で作られた粉砕体からの砕粉である。W及び/又はCoを含有するアイランドは小さなスポットを形成し、これは、これらのスポットを明るく見えるようにするこれらのより大きな原子質量のために、後方散乱SEM画像で容易に見ることができる。このような材料の例は実施例2に示され、これは、実施例2において「比較品1」と記載された材料に相当する。
【0048】
本発明のcBN材料の構造は、異なっている。このcBN材料は、cBN粒子と、Al23相と、TiC、TiN、及び/又はTiCNバインダー相とを含む。バインダー相のタイプは、これがTiC、TiN、及び/又はTiCNの1種又はそれ以上である場合、使用されるTi(Cxyza粉末の組成により決定される。Al23のアイランドは非常に少ない。その代わりに、TiC、TiN、及び/又はTiCN粒子を取り囲む相中に、Al23を見出すことができる。さらに、WとCoとを含む本発明のcBN材料では、W及び/又はCoを含むいくつかのアイランドも非常に少ない。その代わりに、TiC、TiN、及び/又はTiCN粒子を取り囲む相中に、W及び/又はCoを見出すことができる。さらに、W及び/又はCoを含む少なくともアイランドは、W,Co、又はWとCoから構成することができる。W及び/又はCoアイランド、及びTiC、TiN、及び/又はTiCN粒子を取り囲む相中に見いだされるW及び/又はCoは、粉砕体からの砕粉を構成することができる。粉砕体は、WC−Co基超硬合金又はサーメットのような他のW−Co含有材料からなる場合には、粉砕中に粉砕され、又は摩耗する。W及びCoはまた、別の添加物として添加してもよい。Al23相は、TiC、TiN、及び/又はTiCNバインダー相粒子の粒界中に分布している。好ましくは、基本的に全てのAl23及びW及びCoは、TiC、TiN、及び/又はTiCN粒子の粒界中に存在している。本発明の材料の例は図1に示され、これは実施例1の「本発明2」と記載された材料に相当する。
【0049】
従って、本発明の材料中には、従来のcBN材料と比較して、非常に少数のAl23のアイランドしか見ることができない。さらに、本発明のWとCoとを含むcBN材料では、WとCoとを含む従来のcBN材料と比較して、Al23を含む非常に少数のアイランドとW及び/又はCoとを含むアイランドが見られる。
【0050】
上記したように、cBN材料の後方散乱SEM画像では、アイランド(スポット)を明るく見えるようにするそれらのより大きな原子質量のために、W及び/又はCoを含むアイランドを容易に見ることができる。実際、そのようなSEM画像の写真では、本発明のWとCoとを含むcBN材料は、WとCoとを含む従来のcBN材料と比較して、W及び/又はCoを含む非常に少数の白色のアイランドしか含まないことが、肉眼で容易に見ることができる。これは、後述の実施例4と図4〜5に例示される。
【0051】
しかし、本発明の方法に従って作成されたcBN粒子と、Al23相と、TiC、TiN、及び/又はTiCNバインダー相と、W及びCoとを含むcBN材料を性状解析する1つの方法は、cBN材料の商(quotient)Qが<0.25、好ましくは<0.15、最も好ましくは<0.10であることを特定することである。商Qは、割合(f−raction)Fの平均値と含有量(content)Cの商である。すなわち商Q=(割合Fの平均値)/(含有量C)である。
【0052】
割合Fは、2000〜8000倍拡大のcBN材料の後方散乱SEM画像において、W及び/又はCoを含むアイランドの総面積がcBN材料の総面積に対して占める割合%である。割合Fの平均値は、cBN材料の選択された領域を撮影した後方散乱SEM画像の10枚の異なる割合Fに基づいて算出される。
【0053】
後方散乱SEM画像は、10kVの加速電圧、10mmの作動距離、及び2000〜8000倍拡大を使用するRBSE(レトロ後方散乱)モードのSEM画像であり、cBN材料の約80×50μmをカバーする画像を与える。コントラストと明るさは、SEM画像で、cBN粒子が黒色で、TiC、TiN、及び/又はTiCN粒子が灰色で、W及び/又はCoを含むアイランドが白色であるように設定される。さらに、後方散乱SEM画像のcBN材料の割合Fは、線形切片法を使用して画像を分析し、画像中のW及び/又はCoを含む白色のアイランドの面積を求めることにより決定される。すべての水平及び垂直の画素列が分析され、W及び/又はCoを含む白色のアイランドは、グレースケール(ここで、黒色は0であり、純粋な白色は256である)で184よりも大きな輝度値を有すると定義される。
【0054】
含有量Cは、cBN材料中のWの含有量(wt%)である。焼結cBN材料中のWの含有量Cは、HPHT処理前の予備焼結体についてXRF(X線蛍光法)により決定される。焼結cBN材料中のWの含有量(wt%)は、予備焼結体中のWの含有量(wt%)と同じである。
【0055】
本発明のWとCoとを含むcBN材料は、WとCoとを含む従来のcBN材料より顕著に小さい商Qを有する。
【0056】
本発明のcBN材料は、好ましくは切削工具として使用される。これは本明細書において、cBN材料が、場合により超硬合金によりできた、切削工具全体、例えばインサート、又は切削工具インサートに固定された小片、例えばチップ、を構成することを意味する。
【実施例】
【0057】
(実施例1(本発明))
cBN材料は、表1に開示された原料から作成された。Ti(Cxyza原料の化学量論量を、X線蛍光法(XRF、Philips PW2404装置を半定量モードIQ+で使用した)及びLECO法(NとOはLECO C436DRを使用して分析し、CはLECOCS444を使用して分析した)により分析した。表1の本発明1〜5の原料を粉砕した。しかし、本発明1〜3及び5はボール粉砕中で粉砕し、一方、本発明4はアトライタミル中でミリングした。Ti(Cxyza原料を、0.0024m3(2.4リットル)のボール粉砕(本発明1〜3及び5)中の99.5%エタノールで、粉砕体と粉末の間で粉砕液と粉末重量比3:4と8:1(乾燥重量)で、15時間粉砕した。粉砕体は、17.4wt%のW、17.5wt%のCo、50.7wt%のTi、9.83wt%のC、及び4.84wt%のNの組成を有した。最初の15時間の粉砕後、アルミニウムとcBNを表1の量で加え、粉砕をさらに10時間続けた。本発明4を摩擦(attritor))粉砕中の99.5%エタノールで、粉砕体と粉末の間で粉砕液と粉末重量比3:4と8:1(乾燥重量)で、粉砕中の開始からのすべての原料を用いて15時間粉砕した。本発明4について、本発明1〜3及び5と同じ組成を有する粉砕体を使用した。
【0058】
PEGを水に溶解し、これを粉砕したスラリーに加えた後、窒素を使用して噴霧乾燥した。
【0059】
乾燥粉末を、36000〜39000kgの範囲で、50000kgのドルスト(D−orst)プレスを使用して、直径60mmで高さ2mmのディスク状にプレスした。
【0060】
次にディスクを、通常の真空焼結炉内で予備焼結工程に付した。予備焼結は、H2雰囲気中で、200℃〜400℃まで0.70度/分の速度で温度を上昇させることにより、脱バインダー工程で開始した。次に、真空中で予備焼結を続け、この間、温度を900℃まで2度/分の速度で上昇させた。次に、温度を900℃で15分間維持した。
【0061】
次に、予備焼結したディスクを、約1380℃の温度と約5.5GPa(55kbar)の圧力でHPHT処理工程に付した。
【0062】
【表1】
【0063】
予備焼結材料の化学分析を行い、その結果は表2に示される。元素Al、Co、Ti、及びWを、X線蛍光法(XRF)を用いて分析した。XRF機器は、Philips PW2404装置を半定量モードのIQ+(バランスはホウ素)で使用した。非金属元素N及びOは、LECO C436DRを用いて分析し、CはLECOCS444を用いて分析した。結果(重量%)は表2に見ることができる。
【0064】
【表2】
【0065】
(実施例2(従来技術))
表3に開示されるような原料から比較材料を、実施例1と同じプロセス工程(すなわちミリング、乾燥、プレス、予備焼結、HPHT処理)を使用して作製した。
【0066】
【表3】
【0067】
予備焼結材料の化学分析を行った。その結果は表4に示される。元素Al、Co、Ti、及びWを、XRFを用いて分析した。XRF機器は、Philips PW2404装置を半定量モードのIQ+(バランスはホウ素)で使用した。非金属元素N及びOは、 LECO C436DRを用いて分析し、CはLECOCS444を用いて分析した。結果(重量%)は表4に見ることができる。
【0068】
【表4】
【0069】
(実施例3)
実施例1及び2に従って作成したcBN材料を、以下の条件で旋削加工によって試験をした。
ワーク材(被削材): 8620ケース焼入れ鋼(硬度RC55−63)
加工: 平面削り
切削速度: 200m/分
送り量: 0.2mm/rev
切込みの深さ: 0.15mm
切削長: 113mm
パスごとの切削時間: 1.2mm
切削液: なし(乾式)
【0070】
工具寿命の基準は、切れ刃の0.15mmの逃げ面摩耗又はチッピングであった。切削試験の結果は図3に表示され、ここで、本発明に従って製造された2つのインサート(実施例1からの本発明1と本発明2)は、従来技術に従って製造された2つのインサート(比較例1及び比較例2)より長い工具寿命を有していることが、明らかにわかる。
【0071】
(実施例4)
300gのcBN、154.5gのssTiN、及び13.5gのAlから比較cBN材料を、実施例1と同じプロセス工程(すなわち粉砕、乾燥、プレス、予備焼結、HPHT処理)を用いて作成した。次に、後方散乱SEM画像の画像解析を用いて、可視のW−Co及び/又はWC−Coアイランド(すなわちW及び/又はCoを含むアイランド)の量の検討を行った。cBN材料の選択された領域の約80×50μmをカバーする画像を与える、10kVの加速電圧、10mmの作動距離、及び5000倍拡大を使用するRBSE(レトロ後方散乱)モードのSEM画像を使用した。コントラストと明るさは、SEM画像で、cBN粒子が黒色で、TiC、TiN、及び/又はTiCN粒子が灰色で、W及び/又はCoを含むアイランドが白色であるように設定される。これらの分析されたSEM画像の1つが図4に示される。SEM画像は線形切片法を使用して画像を分析して、画像中の白色アイランドの面積を求めることにより分析した。すべての水平及び垂直の画素列が分析され、W及び/又はCoを含む白色アイランドは、グレースケール(ここで、黒色は0であり、純粋な白色は256である)で184よりも大きな輝度値を有すると定義される。10個のSEM画像の平均では、W及び/又はCoを含むアイランド(ミリング体の残留物)の面積は、cBN材料の総面積の1.19%(標準偏差0.13)であった。この複合体のW含有量は、HPHT処理前の予備焼結体についてXRFにより測定して3.8wt%であった。XRF機器は、Philips PW2404装置を半定量モードのIQ+(バランスはホウ素)で使用した。すなわち上記定義に従うと、割合Fの平均値は1.19であり、含有量Cは3.8であった。従って商Q=(割合Fの平均値)/(含有量C)は、0.312であった。
【0072】
さらに、実施例1の本発明2の10個の後方散乱SEM画像の画像解析は、上記と同じ設定を使用して行った。これらの分析したSEM画像の一つは、図5に示される。10個のSEM画像の平均では、この場合W及び/又はCoを含む非常に少ない可視の白色アイランドの面積は、cBN材料の総面積の0.18%(標準偏差0.01)であった。この複合体のW含有量は、HPHT前の予備焼結体についてXRFにより測定して3.5wt%であった。XRF機器は、Philips PW2404装置を半定量モードのIQ+(バランスはホウ素)で使用した。すなわち、上記定義に従うと、割合Fの平均値は0.18であり、含有量Cは3.5であった。従って商Q=(割合Fの平均値)/(含有量C)は、0.051であった。
図1
図2
図3
図4
図5