(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記長溝の周期と高さが可変することによって、前記ランダムトランスミタンスフィルタの波長に従う透過率が調節されることを特徴とする、請求項5に記載の分光装置。
前記光センサー装置の出力をディジタル信号処理を遂行して前記入射される光のスペクトル情報を復旧するステップがさらに遂行されることを特徴とする、請求項11に記載の分光方法。
前記ランダムトランスミタンスフィルタの透過率は、対象となる波長帯域のうちの少なくとも一部の波長帯域でランダムなピーク値を有することを特徴とする、請求項14に記載の分光装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明の思想の理解を助けるために、前記特許文献1及び非特許文献1の記載事項は必要な範囲内で以下の詳細な説明に含まれている。また、本発明は特許文献1のディジタル信号処理方法を1つの適用可能な方法として考慮しているが、特許文献1の方法だけでディジタル信号処理方法が制限されるものではなく、他のディジタル処理方法も本発明に適用できる。
【0019】
図1は、実施形態に従う分光装置の構成図である。
【0020】
図1を参照すると、実施形態に従う分光装置は、光フィルタ装置110、光センサー装置120、ディジタル信号処理部140、及び分析情報提供部150を含むことができる。
【0021】
前記光フィルタ装置110は互いに異なる透過率関数を有するフィルタの集合で構成できる。前記光フィルタ装置110は、例えば2D方式により配置されたM個のフィルタで構成できる。図面には16個のフィルタが提供されることと説明されているが、これは例示的なものに過ぎない。前記光フィルタ装置110を構成する各フィルタのうちの少なくとも1つは、ランダムトランスミタンスフィルタ(Random Transmittance Filter)が好ましく提案できる。全てのフィルタがランダムトランスミタンスフィルタで構成されることもできる。前記ランダムトランスミタンスフィルタは、分光の対象となる全体波長帯域に対して透過率において単に1つまたは2つのピーク値を有する非理想的なフィルタとは異なり、対象となる全体波長帯域に亘って透過率が多数個のピーク値を有する、即ちランダムトランスミタンスファンクション(Random Transmittance Function)を有するフィルタをいう。例えば、分光の対象となる全体波長帯域が400nmから800nmの場合に、非理想的なフィルタの場合の透過率関数は、400nmから800nmの間の特定の地点で単一または2つのピーク値を有し、互いに滑らかに繋がる曲線形態(
図5参照)を有する。これに反して、ランダムトランスミタンスファンクションを有するフィルタの場合には400nmから800nmの間のある地点でなく、全体領域に亘って数えきれないほど多いピーク値を有し、グラフが急激に変わる様相(
図4参照)を有する。また、対象となる全体波長帯域に亘ってランダムなピーク値を有することができ、少なくとも3個のピーク値を有することができる。前記光フィルタ装置110はナノ工程を用いて製造できる。前記ランダムトランスミタンスフィルタに対する詳細な構成は後述する。
【0022】
前記光センサー装置120は光フィルタ装置110の下端に配置され、フィルタリングされた光を電気信号に変換する。光センサー装置120は、例えばCCD(Charge Coupled Device)装置で構成できる。光フィルタ装置110の各フィルタは光センサー装置120の各構成要素に接続されているので、光フィルタ装置110を通過した光信号は光センサー装置120で電荷の形態に変換される。光フィルタ装置110及び光センサー装置120を含む構成を狭い意味の小型分光装置130ということもできる。光センサー装置120の出力は、光信号の本来のスペクトルを推定するためにディジタル信号処理部140に入力できる。
【0023】
前記ディジタル信号処理部140は、光フィルタ装置110及び光センサー装置120を通じて獲得された歪曲されたスペクトル信号から光信号本来のスペクトル情報を復旧するためにディジタル信号処理を遂行する。ディジタル信号処理部130はDSPチップで具現できる。
【0024】
前記分析情報提供部150は、ディジタル信号処理部140により復旧された光信号のスペクトル情報をグラフやその他の分析情報として提供する。例えば、分析情報提供部150は、分析情報を提供するソフトウェアを内蔵したマイクロプロセッサ、またはコンピュータでありうる。
【0025】
図2は、実施形態に従う分光方法を説明するためのフローチャートである。
【0026】
図2を参照すると、光フィルタ装置110は入射された光信号に対してフィルタリングを遂行する(S10)。この際、光フィルタ装置110を構成する各フィルタは該当フィルタに割り当てられている波長帯別透過率に従って特定の波長成分のみを一定量だけ透過させる。これによって、光フィルタ装置110から得られるスペクトル情報は光信号本来のスペクトル情報と共に、光フィルタの透過率成分が含まれて歪曲された信号を含むことができる。
【0027】
前記光フィルタ装置110に提供されるいずれか1つのフィルタは、ランダムトランスミタンスフィルタに提供できる。全てのフィルタはランダムトランスミタンスフィルタに提供されることもできる。前記ランダムトランスミタンスフィルタを通過する光は、実質的に分光の対象となる全体波長帯域に亘って光を透過させることができる。本詳細説明の後部で明確になるように、ランダムトランスミタンスフィルタは分光の対象となる波長帯域のある一部分に対してのみランダムトランスミタンスフィルタとして駆動され、他の部分はそのような動作をしないように構成することもできる。このような構成も発明の作用には大きい影響がないが、分光情報の損失に繋がって前記光フィルタ装置110に提供されるフィルタの個数が増えるようにする影響をもたらすこともある。
【0028】
前記光センサー装置120は、光フィルタ装置110によりフィルタリングされた光を電荷に変換する(S20)。この時には光フィルタ装置110に提供されるいずれか1つのランダムトランスミタンスフィルタを通過する光は通過された光の波長と無関係に単一の電荷量に変換されることが分かる。
【0029】
ディジタル信号処理部140は、光センサー装置120の出力信号をサンプリングしてL1ノルム最小化アルゴリズムを用いて光信号スペクトルを復旧する(S30)。以後には復旧された光信号スペクトルが分析情報として提供される(S40)。
【0030】
前記ディジタル信号処理部140のディジタル信号処理の一例に対して説明する。前記ディジタル信号処理部140のディジタル信号処理には不充分線形方程式系の解を求めるプロセスが遂行される。ディジタル信号処理部140は、L1ノルム最小化(L1 norm minimization)アルゴリズムを用いて不充分線形方程式系の解を求めるプロセスを遂行する。L1ノルム最小化アルゴリズムを用いて不充分線形方程式系の解を求めるプロセスは、光信号のスペクトル情報が稀少に分布するという性質を用いる。L1ノルム最小化アルゴリズムは、信号の稀少特性を用いるL1ノルム最小化スペクトル推定アルゴリズムである。
【0031】
は、波長(λ)で光フィルタ装置110に入射される元の光信号のスペクトル成分を示す。光フィルタ装置110の各要素は透過率関数(transmittance function)の形式に指定できる。透過率関数(伝達関数ということもできる)は、フィルタが与えられた波長(λ)で許容される光の分率(fraction)の測定値である。
【0032】
は、フィルタ装置のi番目要素の伝達関数である。
【0033】
d(λ)は、全ての要素に対して同一であると仮定する光センサー装置120の敏感度関数を示す。
i=1,2,...,Mは、
により与えられる波長(λ)でi番目光センサー装置120の敏感度を示す。各
は波長(λ)の連続関数である。
【0034】
すると、i番目光センサー装置120の出力
は
として与えられる。ここで、
は観察雑音または測定雑音である。
【0035】
光センサー装置120の出力から全てのMサンプルを収集し、ベクトルの形態にそれらをベクトルyの形式に整列することができる。
【0036】
光センサー装置120は、出力信号は出力ベクトル(y)で示すことができる。出力ベクトル(y)は数式1の線形方程式でモデリングできる。
【0038】
数式1で、Dは数式2のような(M×N)光センサー装置の敏感度行列である。
【数2】
【0039】
(M×1)ベクトル
の各成分はゼロ−平均と分散
を有するガウス確率変数としてモデリングできる。
【0040】
は波長
で連続信号スペクトル
を均一にサンプリングすることによって得られた信号スペクトルベクトルを示す。
【0041】
は分光の対象となる信号Xの総帯域幅を示す。
【0043】
数式2で、値
は波長軸に沿ってi番目光センサー装置120の敏感度関数を均一にサンプリングして得られる。
【0044】
また、行列Dの条件付き数字(conditional number)は高いことがある。非−理想的な転送関数は互いに関連したDの列(row)を作るためである。
【0045】
前記光センサー装置120の敏感度行列Dが与えられた状態で、観察yから信号スペクトルxの推定(
)のための解決が必要である。
【0046】
信号スペクトル推定の復旧正確性は数式3のように定義される平均二乗誤差(MSE)の側面で測定できる。
【0049】
数式1で、雑音がない場合にM≥Nであれば充分方程式となり、M<Nであれば不充分方程式となる。
【0050】
小型分光装置の解像度は空間的に近接したスペクトル成分を区別する能力として決定される。与えられた間隔
で、分光装置の最大達成解像度は
として定義できる。
【0051】
ここで、
は数式4のように与えられる。
【0053】
ここで、
はユーザ定義された正数である。
【0054】
復旧された信号スペクトルと入力信号スペクトルとの間のMSEがδ以下であれば、互いに離れている2スペクトル
は分解できるものと言える。固定された
に対してサンプルの間に間隔が
として与えられるので、Nを増加させれば、間隔
を減少させることができる。したがって、最大可能解像度を探すためにはNは大きくなる必要がある。
【0055】
に対して区別されるように分解できる互いに
離れている2つのxの連続する非ゼロスペクトル成分があるか否かを確認する必要がある。
【0056】
に対して互いに
離れている如何なる対のスペクトル成分はなく、区別されるように分解される互いに
離れている非−ゼロスペクトルの幾つかの対がある。
【0057】
数式1で、任意の自然信号またはベクトルxは直接的に稀少であるか、またはある基盤、即ち
で稀少なものとして表現できる。基盤
は稀少化基盤(sparse based)と呼ばれる(N×N)行列であり、信号sはK−稀少、即ちsのK成分は非−ゼロであり、残りのN−Kはゼロである。したがって、自然の信号は行列
の単にK行の線形組合である。
(自己行列)であり、x=sの時、そのような信号xは直接的に稀少信号と呼ばれる。それは本質的に稀少である。
【0058】
したがって、数式1で元の信号スペクトルxはK(ガウスカーネル)の線形組合、即ち、
としてモデリングできる。ガウスカーネルを使用する理由は、スムーズガウスカーネルは一般的な信号スペクトルのスムーズ特性を保存できるためである。ガウスカーネルが必ず使われる必要はないし、仮に、信号スペクトルがパルスのような形態の場合には他のモデルが適用できることは当然である。
【0059】
また、ガウスカーネルのスペックは2パラメータ、即ち位置と幅のみを必要とする。これは、特定応用で信号スペクトルの特性によって選択できる。カーネル行列
を構成するために、任意のFWHM(full-width at half-maximum)を有する単一ガウスカーネルがサンプリングされる。サンプリングされたカーネルは
の第1コラムを形成する。
の残ったN−1コラムは第1コラムの偏移(shift)されたバージョンで提示できる。ガウスカーネルのサンプルの間の間隔は
という。
【0060】
稀少モデル
を使用すれば、数式1は数式5のように示すことができる。
【0062】
yの次元は(M×1)で、Dの次元は(M×N)で、M<Nで、かつsはN×1である。数式1のyからsの推定値(
)が獲得できる。yの次元が稀少信号sの次元より小さいことに留意しなければならない。稀少表現の以後に、測定ベクトルyから稀少信号の固有な復旧のためのL1ノルム(norm)基準(criterion)が適用できる。
【0063】
L1ノルム最小化アルゴリズムは該当信号に対する事前情報を用いて、固定された個数の信号を観察して、与えられた復旧信号の質(解像度)を向上させるものである。稀少表現が行なわれた後、次の段階はyから稀少信号sを固有に復旧するものである。
【0064】
単に、M(<N)個の元のスペクトル測定値のみ与えられることによって、数式5に表れているN個の未知数が推定される必要がある。線形方程式の不充分システムのための唯一で、かつ稀少な解を求めることにL1ノルム最小化技法が使用できる。
【0065】
の信号モデルが用いられる。ここで、sはK−稀少信号である。sを復旧するための最も強力な接近方案は、測定値yと一貫する稀少ベクトルsを探すものである。これは、数式6のようにL0ノルム最小化問題を解くことに至ることになる。
【0067】
ここで、
オペレータはsの非−ゼロ成分の個数をカウントし、
はユーザにより特定された小さい量の整数である。
【0068】
しかしながら、数式6はコンピュータ演算が扱い難いこととして知られている組合せ最適化問題である。したがって、L1ノルム最小化アルゴリズムは数式6での問題に対する扱い易い解決方案を提供することができる。
【0069】
ディジタル処理部130の稀少信号復旧のためのL1ノルム最小化アルゴリズムは数式7のように表現できる。
【0071】
最適の推定値(
)を探すために、L1ノルム最小化問題は、普通は効果的に解を求めることができる線形プログラムとして再構成できる。
と指定すれば、数式7は数式8として解いて書くことができる。
【0073】
ここで、λは非−負数パラメータである。数式8で、最小化を非負数制約(s≥0)を有する線形プログラミング問題として構成することができる。ここで、非負数制約(s≥0)とは、信号スペクトルが非−負数(non-negative)ということである。
【0076】
最適の信号スペクトル推定を求めるために、前記数式9の線形プログラミング問題を解くプライマル−デュアル接近法(Primal-dual Approach)と呼ばれるインテリアーポイントメソッド法(interior point method)が使用できる。
【0077】
図3は、実施形態に従うL1ノルム最小化アルゴリズムを説明するためのフローチャートである。
【0078】
図3を参照すると、一実施形態に従うL1ノルム最小化アルゴリズムは初期値を設定する(S31)。初期値の設定にはプライマル変数
、デュアル変数
、反復インデックスk、非−負数パラメータλが該当する。
【0079】
方向ベクトルを計算する(S32)。k−1番目、方向ベクトル
は次の数式10により求められる。
【0081】
ここで、
、
、
はベクトル
のi番目元素、
はベクトル
のi番目元素である。最初に、プライマル変数の方向ベクトルである
を探した後、デュアル変数の方向ベクトル
を探す。
【0082】
次に、ステップサイズを計算する(S33)。ステップサイズは基本的に最適化理論で使われるバックトラッキングラインサーチ(Backtracking Line Search)技術を用いて計算できる。効率的にステップサイズを推定するためには、初期ステップサイズが適切に計算されることが良い。初期ステップサイズは数式11により決定される。
【0083】
【数11】
ここで、
、そして
である。初期ステップサイズが定まった以後には数式12を満たすk−1番目ステップサイズ
が得られる。
【0085】
次に、プライマル変数及びデュアル変数をアップデートする(S34)。k番目プライマル変数及びデュアル変数は、数式13によりアップデートされる。
【0087】
次に、デュアリティギャップが基準値以下か否かを判断する(S35)。デュアリティギャップは、次の数式14に表現される。
【0089】
判断の結果、デュアリティギャップが基準値以下でなければ、インデックス+1と
を(ここで、
は1より大きい定数)遂行して(S36)、またステップS32からステップS34を繰り返して遂行する。判断の結果、デュアリティギャップが基準値以下であれば、推定された光スペクトル推定値で出力する(S37)。
【0090】
前記の過程を通じて最適の推定値(
)を探り出すことができ、この推定値を用いて元の光信号スペクトルを復旧する。
【0091】
一方、既に説明したように、光フィルタ装置110の各フィルタのうちの少なくとも1つはランダムトランスミタンスフィルタが好ましく適用できることを提示したことがある。ランダムトランスミタンスフィルタは、対象となる全体波長帯域、または少なくともある一部領域で多数個のピーク値を有するフィルタと定義できる。好ましくは、全体波長帯域である。前記ランダムトランスミタンスフィルタは回折格子(grating)に基盤するものと、薄膜(thin-film)光フィルタに基盤するものが提案できる。
【0092】
まず、前記回折格子の基盤とするものは、基板にランダムな間隔で提供される長溝の形状に回折格子を提供することにより達成できる。前記回折格子の周期と高さにより入力される元の光信号の波長別透過率が制御できる。実施形態では1mmの間の間隔に500〜1000個の回折格子が提供されることがある。
【0093】
前記薄膜光フィルタの基盤とするものは、薄い誘電層が厚さと屈折係数を異にしながら多数個が積層されることにより達成できる。この際、誘電層の数、誘電層の屈折係数、及び誘電層の厚さによって、フィルタを通過する光の波長別透過率が変わるようになる。
【0094】
図4は、実施形態に従う3個のランダムトランスミタンスフィルタのランダムトランスミタンス関数(transmittance function)の例を示すグラフである。
図4の特性として提示されるランダムトランスミタンスフィルタは、前記回折格子に基盤する製作方法及び薄膜光フィルタに基盤する製作方法などの多様な方法により提供できる。前記ランダムトランスミタンスフィルタの特徴は、細目に形成される多数のピーク値が所定の波長領域に対して多数が提供され、自己相関関数(Auto correlation Function:ACF)が低いことが分かる。
【0095】
実験のために
図4に提示される各グラフは、数式15により人為的に提供されることもできる。
【0097】
ここで、Tは2自由度を有するカイ二乗(Chi-square)ランダム変数であって、t
1とt
2は各々ガウシアンランダム変数であり、各々は0平均とvの分散値を有する。
【0098】
前記ランダムトランスミタンスフィルタと対応する概念として、非理想的な(non-ideal)フィルタの透過率関数は
図5に提示され、理想的なフィルタの透過率関数は
図6に提示されている。一方、一般的に接するようになる大多数のフィルタは非理想的なフィルタに該当する。前記
図4、
図5、及び
図6に提示される3種類の場合の透過率関数は3種類のフィルタを共に例示的に示すものであって、各々のフィルタには各々の透過率関数が与えられている。
【0099】
前記ランダムトランスミタンス関数の特徴は、自己相関関数により特徴付けることができる。より詳しくは、自己相関関数は2つの異なる波長でランダムトランスミタンス関数により感知される光の強度の類似程度を示す。したがって、自己相関関数の幅が広くて、ゆっくり減殺する形態であれば、トランスミタンス関数は高い自己相関関係を有し、自己相関関数の幅が狭くて、早く減殺する形態であれば、トランスミタンス関数は低い自己相関関係を有するようになる。
図4のランダムトランスミタンスフィルタが
図5の非理想的なフィルタに比べて低い自己相関関係を有することは明白である。
【0100】
これを分光器と関連して説明すると、前記ランダムトランスミタンスフィルタのように、自己相関関数の幅が狭ければ、その幅を超えて互いに離れている波長は独立的に感知できる。即ち、光フィルタ装置110にある他のフィルタにより独立的に感知できるようになる。反対に、非理想的なフィルタの場合には、自己相関関数の幅が広いので、光フィルタ装置110にある互いに異なるフィルタにより独立的に感知できない。したがって、ランダムトランスミタンスフィルタの場合に、より多い光信号本来のスペクトル情報を獲得できることが分かる。
【0101】
発明者は多様な実験を通じてランダムトランスミタンスフィルタの優れる性能を検証した。ランダムトランスミタンスフィルタが従来の理想的な(ideal)フィルタまたは非理想的(non-ideal)なフィルタに比べて優れる分光性能を示すことを多数の実験例を通じて説明する。
【0102】
<実験例1>
まず、エネルギー保存割合(R)を数式16のように定義することができる。
【0104】
ここで、
として数式5で定義されたことがある。数式16で、Aは感知行列(sensing matrix)であって、エネルギー保存割合(R)が1になればなるほど、光信号本来のスペクトル情報(s)が光フィルタを通過した後にもよく維持されることを示す因子として作用する。
【0105】
更に他の因子として、光信号本来のスペクトル情報(s)の予測値と実際値に対する二乗平均誤差(MSE)を使用することができる。より詳しくは、二乗平均誤差を求める過程を提示する。まず、数式5を
のように置くことができる。ここで、s
kはsのスペクトル成分の強度値を含むベクトルを示す。すると、yからs
kを予測することに問題は帰結する。予測子(estimator)にはオラクル予測子(oracle estimator)が適用されて、従来の最小二乗接近法を使用してyからs
kを予測することができる。前記オラクル予測子の最小二乗平均誤差はジニーエイデッド二乗平均誤差(genie-aided MSE:g.MSE)と名称できる。勿論、他の形態のMSEを適用することもできる。
【0106】
具体的に、ジニーエイデッド二乗平均誤差(genie-aided MSE:g.MSE)は数式17のように与えられる二乗平均誤差である。
【0108】
ここで、Kは稀少ベクトルsのうちの0でない値の個数であり、σは標準偏差である。前記ジニーエイデッド二乗平均誤差(genie-aided MSE:g.MSE)は予測値と実際値との差を示すものであって、その値が小さいほど優れることが分かる。
【0109】
前記で定義されるジニーエイデッド二乗平均誤差(g.MSE)とエネルギー保存割合(R)は、N、Kが与えられる時、2値の相互関係を2次元グラフ上で表示できる。ここで、ジニーエイデッド二乗平均誤差(g.MSE)はdBを単位にし、エネルギー保存割合(R)は無次元数である。
【0110】
N=240、M=40、K=2と仮定する時、
図4に例示されるランダムトランスミタンスフィルタの場合と、
図5に提示される非理想的なフィルタの場合とを比較した。ここで、K=2として与えられると共に、解像度は隣接する2信号をピーク値を区分するものであるので、稀少信号が互いに隣接することを想定する。この際、N=240であるので、信号sに対するサポートセット(support set)(0でない稀少信号のスペクトル情報の位置)として総239個の位置がg.MSEとRのグラフ上で表示できる。この際、SNRは40dBにした。
【0111】
図7は、実験例1に従って示すグラフである。
図7で、(A)はランダムトランスミタンスフィルタを使用した場合であり、(B)は非理想的なフィルタを使用した場合である。
図7を参照すると、エネルギー保存割合(R)は非理想的なフィルタに比べる時、平均値に対する偏差が少ない。即ち、その値が集中している。これは、非理想的なフィルタを使用する場合には元の光信号のスペクトルが特定の前記サポートセットに対する信号の場合には、その測定値が間違う可能性が大きいことを意味することもできる。
【0112】
また、ジニーエイデッド二乗平均誤差(g.MSE)は、ランダムトランスミタンスフィルタの場合に全てが−24.9dBより小さいことに反して、非理想的なフィルタの場合には−20.4dBまで表れることを見ることができる。これで、ランダムトランスミタンスフィルタが優れることを見ることができる。
【0113】
<実験例2>
実験例1の場合にはK=2として2つのスペクトル成分が存在する場合を想定している。しかしながら、油流出の場合のような多様な産業界に適用される場合においては、2つのスペクトル成分でない、3個以上のスペクトル成分が存在する場合が一般的である。実験例2では3個以上のスペクトル成分、即ち3個以上のピーク値が表れる元の光源のスペクトル情報に対して実験を行う。
【0114】
は入力信号xのサンプルの間の間隔を示す。ここで、W
λは分光の対象となる波長帯域である。前記サンプルの間の間隔のうち、最も小さな値は分光装置で得られる最も高い解像度となる。したがって、N値が大きければ大きいほど高い解像度を具現できるが、N値は限界がある。
【0115】
前記の背景下で、互いに異なる光フィルタの場合にΔλ
minを求めるためにN、M、K、G、及びσ
2を一定に置いて、ジニーエイデッド二乗平均誤差(g.MSE)が一定の値(変数δ)以下を満たすか否かを確認する。そして、満たす場合には、N値を増やして、またしてもg.MSEが変数δ以下か否かを判断していく。以後、そのような過程は繰り返して遂行されて、最も大きいN値(N
max)が求まれば、この時の値がΔλ
minとなる。ここで、前記変数δ値はユーザにより任意に選択される値でありうる。前記N値はMから出発することができる。前記変数δは許容可能な最大g.MSEと定義できる。
【0116】
前記の過程を数式で表現すれば、数式18の通りである。
【0118】
前記数式18で
は、ジニーエイデッド二乗平均誤差(g.MSE)が所定の値(変数δ)より等しいか小さくなる確率をいう。ここで、変数ρは0と1との間の任意の値を取ることができ、前記変数ρにより
は可変できる。仮に、変数ρが0.95の場合には全ての可能なサポートセットの95%がδより小さくなければならない。
【0119】
1つの状態を例示する。具体的に、s値として0でない成分が3個が存在する場合(即ち、K=3)に、M=40、N=80である。この際、N
max=Nであれば、
となる。この際、3個のスペクトル成分に対してg.MSEとRがグラフ上で表示される可能な場合は
80C
3であって、83,160の場合の数が得られる。このような場合の数をグラフで示すことが
図8に提示されている。
【0120】
図8を参照すると、(A)はランダムトランスミタンスフィルタを使用した場合であり、(B)は非理想的なフィルタを使用した場合である。
図8を参照すると、変数δを−25dBにする時、ランダムトランスミタンスフィルタを使用した場合には
は100%であり、この場合にスペクトル成分の位置に関わらず、最大限の解像度を得ることができる。一方、非理想的なフィルタの場合には78.08%(82,160のうちの64,143)のみを満たすことを見ることができた。したがって、非理想的なフィルタの場合には78.08%に対してのみ解像度を保証することができる。したがって、光信号本来のスペクトル成分のうち、可能な全ての位置に対して条件を満たすためにはN値を低めなければならず、したがって解像度が落ちるようになる。
【0121】
<実験例3>
図4及び
図5のような形態のランダムトランスミタンスフィルタ、及び非理想的フィルタ40個(M=40)を各々集めて2つの光フィルタ装置110を設ける。ディジタル信号処理部140には
図2及び
図3に提示されるL1ノルム最小化アルゴリズムを適用する。各々のフィルタに透過率関数として与えられる波長は400から800nmの可視光帯域の波長を選択する。
【0122】
具体的に比較する前に、前記理想的フィルタ(
図6の場合)で製作された光フィルタ装置が使われる場合には、ディジタル処理部無しでも得ることができる解像度として
を得ることができる。即ち、解像度は10nmとなる。
【0123】
前記ランダムトランスミタンスフィルタで製作された光フィルタ装置が使われる場合と、前記非理想的なフィルタで製作された光フィルタ装置が使われる場合に対して説明する。
【0124】
より詳しくは、Nは初期にMと同一な数であって、40からその倍数に徐々に増加させる。そして、稀少信号解釈において必要なsの個数であるKを3に置く。すると、可能な位置の数(サポートセット)は与えられたNに対して3種類の組合が可能な
NC
3として与えられ、ここで10,000個の場合を任意に抽出して実験に反映する。各サポートセットにおいて、ジニーエイデッド二乗平均誤差(g.MSE)を求めて、変数ρを0.95に設定した。
図9は、95パーセンタイルのMSEとNとの相関関係を示すグラフである。
【0125】
図9を参照すると、変数δが−10dBの場合に、N
maxは非理想的フィルタの場合には93であり、ランダムトランスミタンスフィルタの場合には632となる。したがって、解像度は非理想的フィルタの場合には
となり、ランダムトランスミタンスフィルタの場合には
となる。これは、ディジタル処理部無しで理想的フィルタを用いた場合の10nmと比較する時、各々2.3倍及び15.9倍となる。そして、非理想的フィルタが使われる場合とランダムトランスミタンスフィルタが使われる場合とを互いに比較すると、ランダムトランスミタンスフィルタが使われる場合に比較する時、略7倍の向上した解像度を得ることができる。
【0126】
<実験例4>
実験例3と同一なシステムにおいて、光フィルタ装置110に入射される光信号の情報として604.6nm、633.8nm、及び658.04nmにピーク値がある光源を使用して、非理想的なフィルタ装置を使用する場合とランダムトランスミタンスフィルタ装置を使用する場合とを比較した。この際、K=3、M=40、N=480とした。
【0127】
図10は、実験例4の結果を示すグラフである。
図10を参照すると、ランダムトランスミタンスフィルタ装置を使用する場合には、光信号本来のスペクトル情報をほぼ類似するように探し出すことを見ることができた。しかしながら、非理想的フィルタ装置を使用する場合には、ピーク値を見逃すことは勿論であり、2つのスペクトル情報しか探り出すことができなかった。
【0128】
したがって、ランダムトランスミタンスフィルタを使用することが一般的に使われる非理想的フィルタより高い解像度及び分光装置の正確度が向上することが分かる。
【0129】
本発明においては、不充分線形方程式の解を求めるために、信号の稀少特性を用いるL1ノルム最小化アルゴリズムを基盤とする方法を用いることを特徴としている。しかしながら、不充分線形方程式の解を求めることができる他のディジタル信号処理の方法があれば、これを適用しても構わず、これもまた本発明の思想の範囲内に含まれるということができる。
【0130】
本発明の思想は以上の実施形態に制限されず、本発明の思想を理解する当業者は同一な思想の範囲内に含まれる他の実施形態を構成要素の付加、変更、削除、及び追加などにより容易に提案できるものであるが、これもまた本発明の思想に含まれるということができる。