(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つの共振器(100)、及び停止器(2)を通じて前記共振器機構(100)と協働するように構成した少なくとも1つの脱進車(1)を備える計時器脱進機構(200)であって、前記停止器(2)は、前記脱進機構(200)の一部を形成し、前記脱進車(1)は、磁場又は静電場ポテンシャル上昇部(6)を支える連続軌道(4、40、41、42)を備え、前記磁場又は静電場ポテンシャル上昇部(6)は、前記共振器(100)又は前記停止器(2)とそれぞれ協働するように構成し、前記脱進機構(200)は、前記脱進車(1)の戻りに抵抗するように構成した少なくとも1つの戻り止めデバイス(5)を備え、前記停止器(2)は、一方で、前記共振器機構(100)の一部を形成する板と協働し、もう一方で、少なくとも1つのポール・シュー(3、30、31、32)によって前記磁場又は静電場ポテンシャル上昇部(6)と協働し、前記ポール・シュー(3、30、31、32)は、前記停止器(2)の一部を形成し、前記磁場又は静電場ポテンシャル上昇部(6)に対応する場内を移動するように構成する、計時器脱進機構(200)において、前記軌道(4、40、41、42)上では、各前記磁場又は静電場ポテンシャル上昇部(6)は、前記磁場又は静電場ポテンシャル上昇部(6)の直後に続く磁場又は静電場障壁(7)によって拡張し、前記障壁(7)は、第1のポテンシャル急速増大区域(71)を有し、第1のポテンシャル急速増大区域(71)の勾配は、前記磁場又は静電場ポテンシャル上昇部(6)の最大勾配よりも高く、前記第1の区域(71)の後に、ポテンシャル曲線の凹部が前記第1の区域(71)に対して逆になる第2の最大ポテンシャル区域(72)が続き、前記第2の区域(72)の直後に、ポテンシャル曲線の凹部が前記第2の区域(72)に対して逆になる第3のポテンシャル低下区域(73)が続き、前記第3の区域(73)は、第4の最小ポテンシャル区域(74)で終了するよう構成されており、
前記戻り止めデバイス(5)は、次の(a)〜(c)のいずれかであることを特徴とする計時器脱進機構(200)。
(a)少なくとも1つの牽引歯止め(52)を備え、前記牽引歯止め(52)は、前記停止器(2)及び前記脱進車(1)の外側に、前記脱進機構(200)の第2の固定部との第2の弾性接続部を備え、前記少なくとも1つの牽引歯止め(52)は、少なくとも1つの歯部(10)と協働し、前記脱進車(1)に巻戻る傾向がある場合に牽引モードで動作し、前記歯部(10)を前進させる傾向がある前記脱進車(1)上にトルクを加えるように構成し、前記牽引歯止め(52)は、前記圧縮歯止め(51)又は個別の歯止めのいずれかによって形成することができること。
(b)少なくとも1つの内側圧縮歯止め(53)を備え、前記内側圧縮歯止め(53)は、前記脱進車(1)との第3の弾性接続部を備え、歯部(10)と協働し、前記歯部(10)は、前記停止器(2)及び前記脱進車(1)の外側に、前記脱進機構(200)の固定部上の内側に固定した歯付きリング部の一部を形成すること。
(c)少なくとも1つのフリー・ホイール・デバイスを備えること。
前記停止器(2)は、第1の軌道(41)及び第2の軌道(42)である2つの前記軌道(4)と連続して交互に協働するように構成した単一のポール・シュー(30)である片側ポール・シュー(3)を備えるか、又は単一の軌道(40)である1つの前記軌道(4)と連続して交互に協働するように構成した第1のポール・シュー(31)及び第2のポール・シュー(32)である2つの前記ポール・シュー(3)を備えること、並びに前記脱進車(1)は、ピッチ(P)に従って周期的に配置した複数の有用区域(ZU)を備え、前記有用区域(ZU)のそれぞれは、一方で、前記所与の軌道(4、40、41、42)の所与の最小ポテンシャル区域と、もう一方で、前記軌道(4、40、41、42)の最大ポテンシャル区域との間に位置し、前記最大ポテンシャル区域は、前記所与の軌道の前記当該最小ポテンシャル区域の直後に続くこと、並びに前記ポール・シュー(3、30、31、32)による前記軌道(4、40、41、42)の前記最大ポテンシャル区域の各交差は、前記停止器(2)の軽打に対応することを特徴とする、請求項1に記載の脱進機構(200)。
前記軌道(4、40、41、42)上に配置した前記磁場又は静電場ポテンシャル上昇部(6)はそれぞれ、最大場ポテンシャル端部でポテンシャル障壁(7)を備え、前記最大場ポテンシャル端部は、前記停止器(2)の前記ポール・シュー(3)による交差に抵抗する傾向があることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機構(200)。
各前記有用区域(ZU)は、一方で、前記所与の軌道(4、40、41、42)の前記第4の最小ポテンシャル区域(74)と、もう一方で、前記所与の軌道(4、40、41、42)の前記第2の最大ポテンシャル区域(72)との間に位置し、前記第2の最大ポテンシャル区域(72)は、前記所与の軌道(4、40、41、42)の前記第4の最小ポテンシャル区域(74)の直後に続くこと、及び前記ポール・シュー(3、30、31、32)による前記軌道(4、40、41、42)の前記第2の最大ポテンシャル区域(72)の各交差は、前記停止器(2)の軽打に対応することを特徴とする、請求項2に記載の脱進機構(200)。
前記軌道(4、40、41、42)上で、各前記第1の区域(71)は、前記先行する第4の区域(74)の直後に続くことを特徴とする、請求項1に記載の脱進機構(200)。
前記軌道(4、40、41、42)上で、各前記第1の区域(71)は、第5の一定又はゼロのポテンシャル区域(75)によって前記先行する第4の区域(74)から離れていることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機構(200)。
前記脱進車(1)上で、各前記第1の区域(71)は、第5の一定又はゼロのポテンシャル区域(75)によって前記先行する第4の区域(74)から離れていることを特徴とする、請求項1に記載の脱進機構(200)。
【背景技術】
【0005】
SWATCH GROUP RESEARCH&DEVELOPMENT Ltd名義の文献EP2887157は、停止器を有する最適化した計時器脱進機を記載しており、停止器は、一方で、てんぷ板と協働し、もう一方で、脱進車の軌道上に配置した磁場又は静電場障壁と協働する。そのようなデバイスは、接点を低減する又は接点が存在しないために、脱進機の効率をかなり著しく向上させる。しかし、その開発は、とりわけ、あまり急ではない動作の場合に効果的である。実際、脱進車のはね返りの低減について懸念があり、はね返りが制御されない場合、不安定な状況につながり得る。伝統的な完全機械式スイス・アンカー脱進機では、脱進車は、一定量のエネルギーを香箱又は他の同様の蓄電池からぜんまいてんぷに供給する。脱進車の過剰な運動エネルギーは、脱進車の歯がアンカーのツメ石の載置平面上に落ちたときに、落下の間散逸される。この非常に激しい衝撃により効果的に、脱進車がはね返らないようにする。
【0006】
同じ出願人の、全てを参照により本明細書内に組み込む、上記で引用した特許出願EP2887157、EP14186297、EP14186296及びEP14186261に記載のもの等の磁場又は静電場障壁を有する脱進機では、脱進車のポール・シュー(「歯」)とアンカーのポール・シュー(「ツメ石」)との相互作用による保存力がある。車の運動エネルギーは、落下の衝撃によってもはや散逸されず、反対方向で車にほぼ完全に復元される。したがってはね返りが観察される。
図1は、香箱によって押された脱進車が部分的に磁気(又は適宜、静電)ポテンシャル障壁を持ち上げることを原理として示す。障壁のトルクが香箱の供給したトルクよりも優勢である場合に、車は停止し、次にもう一方の方向に戻る。したがって、車は、常に同じである安定軽打位置の周囲を揺動する。枢動による摩擦及び空力損失は、多数の揺動の後、車を減衰させる。
【0007】
はね返りは、過剰なエネルギーを散逸可能にするため、一定力での動作に必要である。それにもかかわらず、システムが安定して機能するように、半サイクル未満でなければならないこうした期間を制御することが重要である。一方で、過剰なエネルギーを磁気(又は適宜、静電)ポテンシャル内に蓄え、このエネルギーを再利用可能にするために、はね返りを完全に防止することは価値があり、この場合、脱進機に著しい効率の増大がもたらされる。
【0008】
NIVAROX−FAR SA名義の文献EP2889704A2は、脱進車及び共振器を備える計時器脱進機構を記載しており、脱進車は、第1の枢動軸周りで公称モーメント未満又はそれと等しいモーメントの枢動トルクを受け、共振器は、組付けた調速機車セットに固定され、実の又は仮想の第2の枢動軸周りを枢動する。この脱進車は、その周辺上に均等に離間した複数の作動器を備え、それぞれ、調速機車セットの少なくとも1つの軌道と直接協働するように構成する。各作動器は、障壁を形成する第1の磁気又は静電停止手段を備え、それぞれ磁化、電化又は強磁性又は導静電性である第1の軌道と協働するように構成して、公称モーメントよりも高いモーメントのトルクを第1の軌道上に加えるようにする。各作動器は、経路限定停止部を形成するように構成した第2の停止手段も備え、経路限定停止部は、調速機車セットの一部を形成する少なくとも1つの第1の相補停止面を有する自律脱進機構を形成するように構成する。
【0009】
Centre Technique Horloger SA名義の文献BE680716は、電気機械式時計を記載しており、電気機械式時計は、300Hzを超える周波数を有する共振器の揺動運動を、連続的な無振動の回転運動に変換するデバイスを備え、デバイスは、爪車を駆動する共振器に固定した歯止めを備える。爪車は、爪車の慣性モーメントよりも低い慣性モーメントを有する同軸ポールに固定し、被駆動車である爪車に対する慣性の影響がほぼ無視できるように別の車を磁気的に駆動する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、戻り止めデバイスを追加することによって磁気又は静電脱進デバイスのはね返りを制御する、単純で確実な解決策を提案するものであり、これにより、特に香箱又は蓄電池によって供給したトルクが高い場合に、この種の脱進機の効率を増大可能にする。この戻り止め機構により、香箱又は同様のもののエネルギーを共振器内に蓄積し、このエネルギーを復元可能にする。
【0020】
本発明は、少なくとも1つの共振器100を備える計時器脱進機構200に関する。脱進機構200は、少なくとも1つの脱進車セットを備える。この車セットは、脱進車1の特定の非制限的なケースとして本明細書内で説明、例示するが、シリンダ等、他の形態を取り得る。この非制限変形形態では、脱進機構200は、少なくとも1つの脱進車1を備え、脱進車1は、直接又は間接的に停止器2を通じてそのような共振器機構100と協働するように構成し、停止器2は、この脱進機構200の一部を形成する。
【0021】
停止器を有する脱進機により本発明を非制限的に示すが、特定の、やはり非制限的な例では、この停止器2は、枢動アンカーによって形成し、枢動アンカーは、適宜、単一のポール・シュー3を備え、ポール・シュー3は、可変強度の磁場若しくは静電場を有する脱進車の軌道と交互に協働するように構成するか、また、2つのポール・シュー3を備え、2つのポール・シュー3は、可変強度の磁場若しくは静電場を有する脱進車1の少なくとも1つの軌道4と交互に協働するように構成する。
【0022】
本発明は、他の種類の脱進機構、即ち、停止器がなく直接協働するケースでは、シリンダ機構、自然の機構又は他の機構にも適用される。
【0023】
脱進車1は、連続する軌道4、又は更には以下で説明する変形形態による40、41、42を備える。これらの軌道4は、磁場又は静電場ポテンシャルを増大させる上昇部6を支持する。これらの上昇部6は、共振器100又は停止器2のそれぞれと協働するように構成する。
【0024】
本発明によれば、この脱進機構200は、少なくとも1つの戻り止めデバイス5を備え、戻り止めデバイス5は、脱進車1の戻りに抵抗する、即ち脱進車1がその通常枢動方向に対して巻戻らないように構成する。
【0025】
より具体的には、脱進機構200は、停止器2を備え、停止器2は、一方で、ぜんまい−てんぷ共振器の場合、共振器機構100の一部を形成する板、具体的にはてんぷ板と協働し、もう一方で、少なくとも1つのポール・シュー3、若しくは更には以下で説明する変形形態による30、31、32によって磁場又は静電場ポテンシャル上昇部6と協働し、ポール・シューは、この停止器2の一部を形成する。このポール・シュー3は、これらの磁場又は静電場ポテンシャル上昇部6に対応する場内で移動するように構成する。
【0026】
図1は、単一のポール・シュー30をもつ停止器2を有する磁気脱進デバイス200に関係する特許出願EP2887157の説明を受けており、ポール・シュー30は、
図10に示すように、内側軌道及び外側軌道と交互に協働するように枢動する。このグラフは、縦軸として、中心角度に応じて変わる磁化軌道に沿った位置エネルギーの変動を示し、横軸として、
図1の2つの軌道、実線の内側軌道及び破線の外側軌道のそれぞれに対する中心角度を示す。各軌道は、連続する異なる強度の磁化区域を有し、アンカーが軌道に直に近接する場合にアンカーのポール・シューと相互作用して異なる反発力を加え、2つの隣接同心軌道の直に隣接し合う区域は、異なるレベルの磁化も有する。
【0027】
この
図1は、それぞれの半サイクルに対応する区分P1−P2及びP3−P4上で脱進車1から取ったポテンシャルエネルギーの蓄積、並びにポール・シューの軌道P2−P3及びP4−P5が変化する間、アンカー2によるてんぷへのポテンシャルエネルギーの復元を示す。この
図1は、上昇部6と、上昇部6から拡張するポテンシャル障壁7との間の著しい勾配変化のレベルで特定の位置PPを示し、この特定の位置PPの周囲で、はね返りは、場のポテンシャル勾配のために吸収される。値ERは、この点における上昇部6のエネルギー、即ち、この特定点PPのエネルギー・レベルと、脱進車1の軌道4の最小ポテンシャルレベルとの間の差を示す。
【0028】
本明細書では、脱進車上に戻り止めデバイスを有する磁気代替形態において本発明を説明、例示する。当業者には、静電代替形態及び混合代替形態の構成の仕方は、同じ出願人の上記で引用した特許出願を参照すればわかるであろう。
【0029】
はね返りの間のエネルギー散逸は、典型的には、特に枢動部のレベルで少なくとも部分的に粘性摩擦によって、及び
図2で見える空力損失によって生じる。
【0030】
磁場又は静電場脱進機構の著しい利点は、軽打点が固定され、完全に再生可能であり、伝達されるエネルギーが一定であるということである。そのような構成では、アンカーは、磁気障壁の脚部がある場合に常に磁気障壁の脚部で同じ位置で軽打する(磁気障壁の脚部の存在は、常に当てはまるわけではなく、単一の上昇部と機械式当接部との組合せを有して、ポテンシャル障壁の役割を果たすことが可能である)。したがって、停止部又はアンカーは、常に同じ量のエネルギーをてんぷに伝達し、これにより一定の力のシステムになり、余分な力は、はね返りによって散逸される。
【0031】
磁気アンカー脱進機の損失の様々な経路を示す
図3からわかるように、香箱は、同じトルクを常に供給しないため、はね返りによって散逸されるこの余分なエネルギーは、一定ではない。こうした様々な経路は、下から上に、
−共振器が受け取る有用な動力PU;
−アンカーの損失(衝撃)PAC;
−車のはね返りによる損失(三角形区分)PRDR(これらの損失は、香箱を完全に巻き上げた場合に著しいことがある。システムは、香箱の巻出しの終わりに低トルクで辛うじて機能するように寸法決定する);
−車及び車列の回転損失PRER;
−合計、即ち香箱が供給する合計の動力を表す、上側に傾斜する直線PTFB
である。
【0032】
三角形区域は、磁石車のはね返りによって失われたエネルギーの絶対量を表す。
【0033】
図4は、同じ順に、脱進車に供給する合計の動力に対して表される同じ規模を相対値で示す。この
図4は、香箱のトルクが高い場合、はね返り時に(ぜんまいてんぷに伝達されずに)失われたエネルギーの比率は、非常に著しく、ほぼ50%になることを示す。はね返りの完全な抑制は可能ではない。
【0034】
本発明は、歯止め等の戻り止めデバイス又は脱進車上に作用する同様のものを追加することによって、これらのはね返りをできる限り強制的に最小化するものである。
【0035】
同時に、はね返りを最小まで制限し、とりわけ、脱進機構、したがって計時器ムーブメントのパワー・リザーブの効率を増大することが重要である。
【0036】
原理を
図5に示す。ここから、軽打点はトルクに依存し、この場合、伝達されるエネルギーを変更することができる。
【0037】
したがって、脱進機は、より多くのエネルギーをぜんまいてんぷに伝達することができる。脱進機の効率が改善される。システムは、その一定の力の特徴をなくし、伝統的なスイス・アンカー脱進機のような、トルクにより力を変更可能な脱進機になる。
【0038】
軌道又は脱進車1の軌道4上に場が分散する様々な構成を使用できる。
【0039】
図10に示す第1の実施形態では、停止器2は、ポール・シュー3を備え、ポール・シュー3は、2つの軌道4と連続して交互に協働するように構成した単一のポール・シュー30であり、軌道4は、第1の軌道41及び第2の軌道42である。
【0040】
第2の実施形態では、停止器2は、第1のポール・シュー31及び第2のポール・シュー32である2つのポール・シュー3を備え、2つのポール・シュー3は、単一の軌道40である軌道4と連続して交互に協働するように構成する。
【0041】
脱進車1は、ピッチPに従って周期的に配置した複数の有用区域ZUを備え、有用区域ZUはそれぞれ、一方で、そのような軌道4、40、41、42の所与の最小ポテンシャル区域と、もう一方で、そのような軌道4、40、41、42の最大ポテンシャル区域との間に位置し、最大ポテンシャル区域は、この所与の軌道の当該最小ポテンシャル区域の直後に続く。
【0042】
ポール・シュー3、30、31、32による軌道4、40、41、42のそのような最大ポテンシャル区域の各交差は、停止器2の軽打に対応する。
【0043】
上昇部6及びポテンシャル障壁7を同時に備える特定の構成では、これらの軌道4、40、41、42上に配置した磁場又は静電場ポテンシャル上昇部6はそれぞれ、これらの最大場ポテンシャル端部にポテンシャル障壁7を備え、最大場ポテンシャル端部は、停止器2のポール・シュー3によってその交差に抵抗する傾向がある。
【0044】
より具体的には、そのような軌道4、40、41、42上で、各上昇部6は、特定点PPのレベルで上昇部6の直後に続く磁場又は静電場障壁7によって拡張され、この障壁7は、第1のポテンシャル急速増大区域71を有し、このポテンシャル勾配は、関係する上昇部6の最大勾配よりも大きい。この第1の区域71の後に、ポテンシャル曲線の凹部が第1の区域71に対して逆になる第2の最大ポテンシャル区域72が続く。第2の区域72の直後に、ポテンシャル曲線の凹部が第2の区域72に対して逆になる第3のポテンシャル低下区域73が続き、この第3の区域73は、第4の最小ポテンシャル区域74で終了する。
【0045】
図10の特定の構成では、各有用区域ZUは、一方で、前記所与の軌道4、40、41、42の第4の最小ポテンシャル区域74と、もう一方で、そのような軌道4、40、41、42の第2の最大ポテンシャル区域72との間に位置し、第2の最大ポテンシャル区域72の直後に、この所与の軌道の第4の最小ポテンシャル区域74が続く。ポール・シュー3、30、31、32による軌道4、40、41、42のそのような第2の最大ポテンシャル区域72の各交差は、停止器2の軽打に対応する。
【0046】
図10に記載の相互連結構成では、軌道4、40、41、42上で、各前記第1の区域71は、先行する第4の区域74の直後に続く。
【0047】
より具体的には、脱進車1上では、全体として、各第1の区域71は、先行する第4の区域74の直後に続く。
【0048】
図9に記載の分割構成では、軌道4、40、41、42上で、各第1の区域71は、第5の一定又はゼロポテンシャル区域75によって、先行する第4の区域74から離れている。
【0049】
より具体的には、脱進車1上では、全体として、各第1の区域71は、第5の一定又はゼロのポテンシャル区域75によって、先行する第4の区域74から離れている。
【0050】
図9に記載の特定の変形形態では、特に、軌道4上に配置した磁場又は静電場ポテンシャル上昇部6は、これらの最大場ポテンシャル端部でポテンシャル障壁がなく、軌道4はそれぞれ、交互のゼロポテンシャル区域とそのような上昇部6とを備える。有利には、同様のケースにおいて、軌道4、40、41、42上に配置した磁場又は静電場ポテンシャル上昇部6はそれぞれ、機械式当接部を有する最大ポテンシャル区域のレベルで接続し、停止器2のポール・シュー3による交差を妨げる。
【0051】
停止器2を有する変形形態では、戻り止めデバイス5は、圧縮歯止め51、牽引歯止め52、内側圧縮歯止め53若しくは更には内側牽引歯止め、又はこれらの異なる歯止めの組合せ、又は脱進車1の巻戻りに抵抗する傾向があるあらゆる他の機構を(非制限的に)備えることができる。
【0052】
図6は、圧縮歯止め51を示し、圧縮歯止め51は、停止器2及び脱進車1の外側に、脱進機構200の第1の固定部との第1の弾性接続部を備え、この圧縮歯止め51は、脱進車1に対し枢動運動状態で固定した少なくとも1つの歯部10と協働する。図面を煩雑にしないために、単一の歯止め51を示すが、他の変形形態の場合のように、機構が異なる種類を含めて複数のそのような歯止めを備える得ることは明らかである。同様に、機構は、例えば車1の中央平面の上及び下に、及び可能性としては交互の構成で、いくつかの歯部構成を備えることができる。
【0053】
この少なくとも1つの歯部10は、好ましくはウルフ・トゥース歯部構成であり、ウルフ・トゥース歯部構成により、圧縮歯止め51に対する摺動により脱進車1を前進させ、脱進車1に巻戻る傾向がある場合にこの少なくとも1つの圧縮歯止め51が座屈力を受けることによって脱進車1の巻戻りに抵抗することが可能になる。
【0054】
図7では、戻り止めデバイス5は、少なくとも1つの牽引歯止め52を備え、牽引歯止め52は、停止器2及び脱進車1の外側に、脱進機構200の第2の固定部との第2の弾性接続部を備える。この少なくとも1つの牽引歯止め52は、この少なくとも1つの歯部10と協働し、脱進車1に巻戻る傾向がある場合に牽引モードで動作し、歯部10を前進させる傾向がある脱進車1上にトルクを加えるように構成する。この牽引歯止め52は、前述の圧縮歯止め51又は個別の歯止めのいずれかによって形成することができる。歯部10は、好ましくは以前のケースと同様に配置する。
【0055】
別の変形形態では、歯止めは、脱進車上に設置し、歯部は固定車上に配置する。この場合、戻り止めデバイス5は、少なくとも1つの内側圧縮歯止め53を備え、内側圧縮歯止め53は、脱進車1との第3の弾性接続部を備え、少なくとも1つの歯部10と協働し、歯部10は、停止器2及び脱進車1の外側に、脱進機構200の固定部上の内側に固定した歯付きリングの一部を形成する。
【0056】
様々な構成が歯部10に対して考えられる。
【0057】
図7の変形形態は、この少なくとも1つの歯部10が、歯11を取り付けた区域と周期的に交互で、歯12のない区域を備えることを示しており、停止器2の前記ポール・シュー3が軌道4、40、41、42のゼロポテンシャル(又は一定ポテンシャルに対しゼロの勾配)区域8又は上昇部6の低ポテンシャル区域と協働する場合の、戻り止め機能が不要であるときの損失を最小にする。
【0058】
最小動作を保証するために、少なくとも1つの歯部10が各有用区域ZU上に少なくとも1つの歯13を備えることが必要である。このことは、歯を切り出す又は切る費用を削減可能にする。例えば、
図10は、各有用区域ZUに対しわずか3つの歯13を示す。
【0059】
より典型的なバージョンでは、この少なくとも1つの歯部10は、歯部の一部を形成する歯を取り付けた区域上に、脱進車1がピッチP上に有する歯(いわゆる同等の歯)の少なくとも20倍を超える歯を備え、各ピッチPは、停止器2の2つの連続する軽打移動の間の行程に対応する。摩擦による損失は、確かに存在するが、一定であり、クロノメータの性能を損なわない。
【0060】
図6は、磁気脱進車に対する歯止めによって形成した戻り止めデバイスの変形形態を示す。有利な変形形態では、歯止めは高い最小変位を有し、車の戻り止めを正確に実施することを保証する。戻り止めデバイスの歯部10は、好ましくは、脱進車の歯車の歯の少なくとも20倍を超える歯を備える。
図6の非制限例では、車上に6つの同等の歯があり、歯止めと協働する歯部のレベルに180個の歯がある。
【0061】
歯止めの歯の巻上げは、わずかなエネルギーを消費するため、脱進機の効率を損なう。
図7に示すように動作領域内に歯を設置することによって、この問題を最小にすることが可能である。すると、歯止めの羽根が事前に巻かれ過ぎないという条件で、脱進機の自己始動も改良される。
【0062】
したがって、
図7は、戻り止め機能を必要としない作動領域内、即ち最低(又はゼロ)場ポテンシャル区域内での損失を最小にする保護区域を示す。
【0063】
図6及び
図7は、歯止めが弾性羽根を備え、車に巻戻る傾向がある場合に弾性羽根が圧縮モードで作動する第1の変形形態を示す。
【0064】
図8の第2の変形形態は、車に巻戻る傾向がある場合に引張りモードで作動する歯止めに関連する。
【0065】
例えばhttp://www.horlogerie−suisse.com/technique/les−complications/les−inverseurs−automatiquesに記載の揺動巻上げ質量部を有する自動式ムーブメントの自動逆転器で使用するシステム等、多くの他の戻り止めデバイスを想定することができる。
【0066】
硬い羽根は、ゴム又は同様のものから作製した軟らかい車上で組み合わせて使用することもできる。
【0067】
別の変形形態では、この戻り止めデバイス5は、「MPS」の「OneWay」(http://www.mps−watch.com/fr/bearing−technologies/produits.html#c581)等の少なくとも1つのフリー・ホイール・デバイス又は低ヒステリシス支承機構を備える。
【0068】
戻り止めデバイスの存在により、動作に関連する利点と組み合わせた別の利点がもたらされる。即ち、磁気ポテンシャルはより低くてもよく、これにより磁石の製造を単純にし、費用を減らす。
【0069】
別の組合せは、元のポテンシャルの使用から成り立つが、香箱はできるかぎり狭く寸法決定するため、ほとんどかさばらない。このことは、時計の製造では、特に女性用時計又は複雑時計の場合、常に求められることである。
【0070】
当然ながら、他の条件が等しければ、ムーブメントのパワー・リザーブを単に増大するように選択することも可能である。
【0071】
図9は、磁気又は静電軌道を有する別の単純な実施形態を示し、場の障壁は一切なく、交互の上昇部のみを有し、上昇部は、
図8に示すように、上昇部の間に挿入したゼロポテンシャルを有する区域をもつ。始動は、同様に簡略化され、使用可能なトルク範囲はやはり高めである。
【0072】
戻り止めデバイスの使用は、文献EP2887157に記載の耐衝撃機構当接部をなくすことを可能にしないことを理解されたい。
【0073】
本発明による脱進機構の形成は、伝統的な技術、特にフライス又は打抜き、更にはレーザー機械加工により等しく可能でもあり、レーザー機械加工は、歯部10の機械加工に望ましい、より高い最小変位を得ることを可能にする。
【0074】
更に、ディープ・シリコン・エッチング又はLIGA等の現代の製造技術の使用により、戻り止めデバイスを機能させるのに必要な動力を最小にすることが可能である。特に、その目的は、慣性、ばね定数、更には摩擦係数を最小にすることである。
【0075】
本発明は、少なくとも1つのそのような脱進機構を備える計時器ムーブメントにも関する。
【0076】
本発明は、少なくとも1つのそのような脱進機構を備える時計にも関する。
【0077】
要するに、本発明による戻り止めデバイスは、脱進機構の効率をかなり増大し、したがって、安価な費用構成及び限定的な空間要件でムーブメントのパワー・リザーブを得ることを可能にする。