(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被験者にさせる身体運動を提示する身体運動提示装置と、前記提示された身体運動に応じて前記被験者がした身体運動の身体運動データを検出する身体運動検出センサと、に接続されたデータ処理装置が、
前記被験者に実施させる身体運動指示データを生成し、前記生成した身体運動指示データに基づく身体運動を、前記身体運動提示装置を介して前記被験者に提示し、その実施を指示する身体運動指示ステップと、
前記被験者がした身体運動の身体運動データを、前記身体運動検出センサを介して時系列に取得する身体運動データ取得ステップと、
前記身体運動指示データと前記身体運動データとに基づき、前記被験者の身体運動の位置正確度および時系列正確度を算出する身体運動正確度算出ステップと、
前記算出された位置正確度および時系列正確度に基づいて前記被験者の認知障害度を算出する認知障害度算出ステップと、
前記算出された位置正確度および時系列正確度、または、前記算出された認知障害度を、前記被験者がした身体運動の計測日時とともに記憶装置に格納する記憶ステップと、
前記記憶装置に格納された過去のデータを利用して、前記被験者の身体運動の計測日時と前記認知障害度との関係を表す表示を出力する経時変化出力ステップと、
を実行することを特徴とする脳機能障害評価方法。
被験者にさせる身体運動を提示する身体運動提示装置と、前記提示された身体運動に応じて前記被験者がした身体運動の実施データを検出する身体運動検出センサと、に接続されたデータ処理装置に、
前記被験者に実施させる身体運動指示データを生成し、前記生成した身体運動指示データに基づく身体運動を、前記身体運動提示装置を介して前記被験者に提示し、その実施を指示する身体運動指示ステップと、
前記被験者がした身体運動の身体運動データを、前記身体運動検出センサを介して時系列に取得する身体運動データ取得ステップと、
前記身体運動指示データと前記身体運動データとに基づき、前記被験者の身体運動の位置正確度および時系列正確度を算出する身体運動正確度算出ステップと、
前記算出された位置正確度および時系列正確度に基づいて前記被験者の認知障害度を算出する認知障害度算出ステップと、
前記算出された位置正確度および時系列正確度、または、前記算出された認知障害度を、前記被験者がした身体運動の計測日時とともに記憶装置に格納する記憶ステップと、
前記記憶装置に格納された過去のデータを利用して、前記被験者の身体運動の計測日時と前記認知障害度との関係を表す表示を出力する経時変化出力ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施形態では、脳機能障害とは、いわゆる認知機能低下を発症するもの全般(アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、水頭症、うつ病、統合失調症など)を総称するものするが、脳卒中などによる運動障害などを含む。そして、実施形態の説明では、脳機能障害を単に認知症という場合もある。
【0016】
<1.脳機能障害評価装置100の構成>
図1は、本発明の実施形態に係る脳機能障害評価装置100の全体構成の例を示した図である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る脳機能障害評価装置100は、図示しないCPU(Central Processing Unit)やメモリを含んでなるデータ処理装置1に、身体運動提示装置2、身体運動検出センサ3、操作入力装置4、出力装置5、記憶装置6などが結合されて構成される。
【0017】
ここで、身体運動提示装置2は、例えば、液晶表示装置や音声出力装置(スピーカ)などにより構成される。
また、身体運動検出センサ3は、前記の液晶表示装置に付設されたタッチパネルセンサ(画面接触型センサ)により構成される。
また、操作入力装置4は、例えば、キーボードやマウスなどによって構成されるが、タッチパネルセンサにより構成されてもよく、その場合、操作入力装置4は、身体運動検出センサ3を兼ねるものであってもよい。
また、出力装置5は、例えば、液晶表示装置やプリンタなどにより構成され、身体運動提示装置2を兼ねるものであってもよい。
また、記憶装置6は、ハードディスク装置やSSD(Solid State Disk)などにより構成され、予め格納することが定められたデータやプログラムを記憶する。
【0018】
また、データ処理装置1は、図示しないCPUが図示しないメモリに記憶されたプログラムを実行することによって具現化される、身体運動指示部10、身体運動データ取得部20、身体運動正確度算出部30、認知障害度評価部40などの機能ブロックを有している。なお、ここでいうメモリは、半導体メモリのRAM(Random Access Memory)などで構成される。メモリには、必要に応じて、実行されるプログラムが記憶装置6から読み出されロードされ、また、演算処理中のデータが記憶される。
【0019】
次に、データ処理装置1を構成する各機能ブロックの概要について説明しておく(詳細後記)。
【0020】
身体運動指示部10は、下位の機能ブロックとして、身体運動タスク選択部11、指示データ生成部12、指示データ提示部13などを含んで構成される。
身体運動タスク選択部11は、出力装置5(液晶表示装置など)に予め準備されている身体運動タスクの一覧を表示して(後記する
図3を参照)、被験者またはその介助者による操作入力装置4の入力操作に基づき、実施する身体運動タスクを選択する。
指示データ生成部12は、選択された身体運動タスクに応じて、被験者に提示する時系列の身体運動指示データを生成する。
指示データ提示部13は、生成された時系列の身体運動指示データ、つまり、被験者が実施すべき身体運動の内容を、身体運動提示装置2(液晶表示装置や音声出力装置など)を介して被験者に提示する。
【0021】
身体運動データ取得部20は、下位の機能ブロックとして、検出データ取得部21、キャリブレーション部22などを含んで構成される。
検出データ取得部21は、身体運動提示装置2に提示された身体運動の内容に応じて、被験者が実施した身体運動のデータ(例えば、身体の特定部位の位置、移動速度、加速度、検出時刻など)を、身体運動検出センサ3などを介して所定の時間間隔(例えば、10ミリ秒)で取得する。すなわち、検出データ取得部21は、被験者の身体運動の時系列データを取得する。
キャリブレーション部22は、認知障害に依存しない被験者それぞれの固有の聴覚、視覚、運動能力のデータを取得し、取得したデータから被験者ごとのキャリブレーションデータを計算し、記憶装置6に格納する。
【0022】
身体運動正確度算出部30は、下位の機能ブロックとして、指示・検出データ比較部31、位置正確度算出部32、時系列正確度算出部33などを含んで構成される。
指示・検出データ比較部31は、身体運動提示装置2(液晶表示装置など)に提示された被験者が実施すべき身体運動のデータと、身体運動検出センサ3を介して取得された被験者がした身体運動のデータと、を比較する。
位置正確度算出部32は、指示・検出データ比較部31によって得られた位置に関する指示データと被験者の身体運動の検出データとの差分データに基づき、被験者の身体運動の位置正確度を算出する。
また、時系列正確度算出部33は、指示・検出データ比較部31によって得られた指示データの指示タイミングと検出データの検出タイミングの差分データに基づき、被験者の身体運動の時系列正確度を算出する。
【0023】
認知障害度評価部40は、下位の機能ブロックとして、認知障害度算出部41、認知障害度出力部42などを含んで構成される。
認知障害度算出部41は、身体運動正確度算出部30で算出された位置正確度および時系列正確度、さらには、キャリブレーション部22で取得されたキャリブレーションデータなどを用いて、被験者の認知障害度を算出する。
また、認知障害度出力部42は、認知障害度算出部41により算出された認知障害度のデータまたはその経時変化データを出力装置5(液晶表示装置など)に表示する(後記する
図9を参照)。
【0024】
以上により、被験者またはその介助者は、被験者の認知障害度やその経時変化などを知ることができる。
【0025】
なお、以上のような構成を有する脳機能障害評価装置100は、タッチパネルセンサ付のタブレットコンピュータや、それとほぼ同等の機能・性能を有するいわゆるタブレット端末、スマートフォンなどにより実現することができる。
【0026】
また、本実施形態では、身体運動検出センサ3としては、主として手指の運動を検出するために、タッチパネルセンサが用いられるものとするが、手指以外の身体運動を検出するものであってもよい。その場合には、身体運動検出センサ3としては、加速度センサ、磁気センサ、ジャイロ装置、モーションキャプチャ装置、ビデオカメラなどを用いることができる。
【0027】
<2.データ処理装置1の構成および機能>
続いて、データ処理装置1を構成する各機能ブロックの機能の詳細について説明する。以下、本実施形態では、脳機能障害評価装置100は、タッチパネルセンサ付のタブレットコンピュータやタブレット端末で構成され、そのデータ処理装置1には、脳機能障害評価プログラムがアプリケーションプログラムとして登録されているものとする。
なお、脳機能障害評価プログラムは、データ処理装置1の身体運動指示部10、身体運動データ取得部20、身体運動正確度算出部30、認知障害度評価部40をそれぞれ具現化するプログラムを含んで構成される。
【0028】
<2.1 起動時の処理>
図2は、脳機能障害評価プログラム起動時に表示される被験者登録情報表示画面110の例を示した図である。脳機能障害評価装置100のデータ処理装置1において、所定の操作により脳機能障害評価プログラムが起動されると、出力装置5(液晶表示装置)には、
図2に示すような被験者登録情報表示画面110(ただし、最初は、右側の欄は空白)が表示される。
【0029】
そこで、被験者またはその介助者(以下、「ユーザ」という)が被験者IDの欄に被験者IDを入力する。そして、その被験者IDが記憶装置6に登録されていない場合には、データ処理装置1は、ユーザに対し、被験者名、性別、年齢、備考などのデータの入力を促す(例えば、入力を促すメッセージを出力する)。次に、ユーザが被験者名、性別、年齢、備考などの欄にそれぞれのデータを入力すると、データ処理装置1は、入力された被験者名、性別、年齢、備考などデータを被験者IDに対応付けて記憶装置6に登録する。なお、備考欄は、ユーザが自由にテキストを記入できる欄であるが、例えば、被験者の疾患名や登録時に医師などによって診断された認知障害度などを記載する。
【0030】
一方、入力された被験者IDが記憶装置6にすでに登録されている場合には、データ処理装置1は、記憶装置6からその被験者IDに対応付けられて記憶されている被験者名、性別、年齢、備考などのデータを読み出し、読み出したそれぞれのデータを、被験者登録情報表示画面110の対応する欄に記入し、表示する。
【0031】
図3は、身体運動タスク選択部11により表示される身体運動タスク選択画面120の例を示した図である。
図3に示すように、身体運動タスク選択画面120には、身体運動タスクの一覧が表示されるとともに、そのそれぞれの身体運動タスクを選択するか否かを指示する選択指示欄が表示される。ユーザは、この選択指示欄にチェックマーク121を入れることによって、これから実施する身体運動タスクを選択する。なお、
図3では、例として、リーチングタスクが選択されるとしている。
【0032】
また、身体運動タスク選択画面120では、そのそれぞれの身体運動タスクで用いられる各種パラメータを設定し、表示することができる。なお、ここでいうパラメータとしては、例えば、身体運動の指示データが提示されてから被験者の反応動作が行われる際のタイムアウト時間、被験者の反応動作が行われてから次の身体運動の指示データが提示されるまでの提示時間間隔、前記のタイムアウト時間や提示時間などに対応して定められる難易度などがある。
【0033】
<2.2 身体運動の指示および身体運動データの取得>
図4は、指示データ提示部13により身体運動提示装置2に提示されるリーチングタスク指示画面210の例を示した図である。本実施形態では、データ処理装置1の指示データ提示部13は、それぞれの身体運動タスクに応じてタッチパネルセンサ(身体運動検出センサ3)付き液晶表示装置(身体運動提示装置2)の表示画面に図形や文字を提示(表示)することで、被験者がその表示画面上でタッチすべき位置やタイミングを指示する。リーチングタスクとは、表示画面上のランダムな位置に特定の図形を提示し、被験者にできる限り速くその図形にタッチさせるタスクである。
【0034】
リーチングタスクでは、指示データ提示部13は、リーチングタスク指示画面210上に、まず、初期位置を表す黒丸図形211を表示する。このとき、被験者は、その初期位置の黒丸図形211に指を置き、待機する。次に、指示データ提示部13は、リーチングタスク指示画面210上に十字型図形212を提示(表示)する。そこで、被験者は、待機していた黒丸図形211から指を離した後、十字型図形212をできる限り速くタッチする。なお、
図4において、Diは、十字型図形212の中心位置と被験者がタッチしたリーチングタスク指示画面210上の位置の距離(直線距離)を表している。
【0035】
指示データ提示部13は、検出データ取得部21によって取得された被験者のタッチ位置が十字型図形212にタッチしたと判定したときには、十字型図形212の表示色を変化させて、十字型図形212に正しくタッチされたことを被験者に知らせる。この場合、十字型図形212の十字の交点から所定の距離以内(例えば、5mm以内)にタッチされれば、正しくタッチしたと判定される。なお、このときスピーカなどの音声出力装置から出す音によって、十字型図形212に正しくタッチされたか否かを被験者に知らせるようにしてもよい。
【0036】
また、指示データ提示部13は、被験者が十字型図形212に正しくタッチしたとき、あるいは、タッチされず、タイムアウトエラーとなったときには、それまで提示(表示)していた十字型図形212を消去するとともに、さらに、別の位置に新たな十字型図形212を提示(表示)する。被験者は、再度、新たに提示(表示)された十字型図形212をできる限り速くタッチする。このような十字型図形212の提示と被験者によるタッチは、所定の回数繰り返される。
【0037】
なお、以上のリーチングタスクにおいて、検出データ取得部21は、被験者の身体の一部、例えば、指が表示画面、つまり、タッチパネルセンサに触れたときの座標を取得するが、その場合、指はタッチパネルセンサに面接触する。このとき、検出データ取得部21は、その接触面の図形の、例えば、重心の位置の座標を、指接触位置の座標として取得する。
【0038】
このようなタッチパネルセンサでは、一般的には、座標の原点位置が表示画面の左隅に設定され、横方向がx軸方向、縦方向がy軸方向とされ、表示画面上の各点の座標が定められることが多い。しかしながら、原点位置は、表示画面の他の隅に設定してもよく、表示画面の中心に設定してもよく、さらには、表示画面の内外の任意の位置に設定してもよい。x軸方向、y軸方向も横方向、縦方向に限定されない。
【0039】
検出データ取得部21は、その基本的な機能として、被験者の指が接触した位置の座標(x,y)を取得する。なお、複数の指(例えば、親指と人差し指)で同時にタッチパネルセンサがタッチされた場合には、検出データ取得部21は、それぞれの指接触位置に対応して複数の座標(例えば、(x1,y1)および(x2,y2))を取得する。さらに、検出データ取得部21は、所定のタイミング周期(例えば、10ミリ秒)ごとに指接触位置の時系列の座標(x(t),y(t))を取得する。
【0040】
図5は、指示データ提示部13により身体運動提示装置2に提示されるリーチングタスク指示画面210の変形例を示した図である。
図5に示した変形例に係るリーチングタスク指示画面210aでは、十字型図形212の代わりに円形図形213が提示される。このことを除けば、指示データ提示部13の処理や被験者に実施させる動作は、
図4のリーチングタスク指示画面210の場合と基本的には同じである。
【0041】
図5に示したリーチングタスク指示画面210aでは、指示データ提示部13は、円形図形213を提示するたびに、その大きさ(半径)をランダムに変更するようにしてもよい。
なお、健常者の場合、リーチングに要する時間と円形図形213の半径との間には、一定の関係があることが、フィッツの法則として知られている。そこで、リーチングタスク指示画面210aを用い、円形図形213の半径を変化させるようにすれば、その結果から、認知機能など脳機能が低下しても、フィッツの法則の関係が維持されるか否かを調べることができる。
【0042】
リーチングタスクは、さらなる変形も可能である。ここまで説明したリーチングタスクでは、被験者は表示画面に提示された図形に無条件にタッチするとしているが、被験者には、ある判断条件を課し、その結果に従ってタッチさせるようにしてもよい。
【0043】
例えば、指示データ提示部13が表示画面に参照用の円とリーチング対象の円を提示して、被験者に両者の大きさを比較させる。そして、被験者には両者の大きさが同じである場合にタッチさせ、両者の大きさが異なる場合にタッチさせないようにする。あるいは、提示する図形の大きさでなく、図形の色や形状によってタッチする条件を定めてもよい。また、提示した文字の種類によりタッチする条件を定めてもよい。例えば、ひらがなが表示された場合にはタッチさせ、カタカナやアルファベットが提示された場合はタッチさせないようにする。
【0044】
さらには、被験者に概念を判断させる条件を課してもよい。例えば、指示データ提示部13が表示画面に色付きの図形と色の名称とを提示し、図形の色の名称と提示された色の名称が同じである場合にタッチさせ、異なる場合にタッチさせないようにする。
【0045】
以上のように、被験者に判断条件を課すリーチングタスクでは、被験者の単純な運動機能を評価するだけでなく、高次の認知機能も評価することが可能になる。
【0046】
<2.3 身体運動の正確度の算出>
図4または
図5に示したようなリーチングタスクが実施されたときには、検出データ取得部21は、被験者がタッチした位置の座標(X,Y)および時刻tについての時系列データを取得する。以下、本明細書では、この座標(X,Y)および時刻tの時系列データを、(X
i(t
i),Y
i(t
i))、または、単に、(X(t),Y(t))と表す。なお、i=1,2,…,Nであり、Nは、リーチングの繰り返し回数である。
【0047】
まず、指示・検出データ比較部31は、提示されたそれぞれのリーチング対象図形について、その図形の中心の位置(XC
i(τ
i),YC
i(τ
i))と被験者がタッチした位置(X
i(t
i),Y
i(t
i))との距離を、タッチ位置誤差D
iとして算出する(
図4参照)。さらに、指示・検出データ比較部31は、提示されたそれぞれのリーチング対象図形について、その図形が表示された時刻τ
iと被験者がタッチした時刻t
iとの差を、タッチ遅延時間T
iとして算出する。
【0048】
身体運動の正確度としては、位置正確度と時系列正確度を想定することができる。
位置正確度とは、指示データ提示部13により提示された図形の位置に対する、被験者によりタッチされた位置の一致度をいう。従って、リーチングタスクの場合、位置正確度m
dは、例えば、指示・検出データ比較部31により算出されたタッチ位置誤差D
iの平均値(=ΣD
i/N)であると定義することができ、位置正確度算出部32により算出される。
【0049】
また、時系列正確度とは、リーチング対象図形が指示データ提示部13により提示された時刻τ
iに対する被験者がタッチした時刻t
iの一致度をいう。従って、リーチングタスクの場合、時系列正確度mTは、指示・検出データ比較部31により算出されたタッチ遅延時間T
iの平均値(=ΣT
i/N)であると定義することができ、時系列正確度算出部33により算出される。
【0050】
なお、本明細書では、正確度(位置正確度m
d、時系列正確度m
T)は、その値が小さいほど、身体運動の指示データと被験者の実際の運動により得られるデータの一致度が大きいことを表すものとする。
【0051】
<2.4 認知障害度の評価>
認知障害度Sは、位置正確度算出部32により算出された位置正確度m
dと、時系列正確度算出部33により算出された時系列正確度m
Tを統合した値として算出される。その算出方法には、以下に示すような様々な方法があるが、そのいずれを用いてもよい
【0052】
(認知障害度Sの算出方法:その1)
最も簡単な認知障害度Sの算出方法は、位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tをそれぞれ正規化した上で、両者を単純に足し合わせるというものである。
ここで、位置正確度m
dの正規化には、予め健常群の複数の被験者に同様のリーチングタスクを実施し、その複数の被験者から得られた位置正確度m
dj(j=1,2,…,P:Pは健常群の被験者数)の平均値M
C(m
dj)および標準偏差σ
C(m
dj)を用いる。また、時系列正確度m
Tの正規化には、前記予め健常群の複数の被験者に対して実施したリーチングタスクから得られた複数の被験者の時系列正確度m
Tj(j=1,2,…,P:Pは健常群の被験者数)の平均値M
C(m
Tj)および標準偏差σ
C(m
Tj)を用いる。
【0053】
なお、ここで利用する健常群から得られる位置正確度m
djの平均値M
C(m
dj)および標準偏差σ
C(m
dj)、ならびに、時系列正確度m
Tjの平均値M
C(m
Tj)および標準偏差σ
C(m
Tj)は、事前に算出され、記憶装置6に格納されているものとする。
【0054】
そこで、認知障害度算出部41は、まず、次の式(1)および式(2)に従って、正規化位置正確度m
d_nおよび正規化時系列正確度m
T_nを算出する。
【数1】
【0055】
続いて、認知障害度算出部41は、次の式(3)に従って、認知障害度Sを算出する。すなわち、認知障害度Sは、正規化位置正確度m
d_nと正規化時系列正確度m
T_nとを単純に足し合わせた値として算出される。
【数2】
【0056】
(認知障害度Sの算出方法:その2)
第2の方法として、位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tのそれぞれの重要度に応じて重みづけをして足し合わせることにより、認知障害度Sを算出してもよい。その場合、位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tのそれぞれの重みをI
dおよびI
Tで表すと、認知障害度Sは、次の式(4)により算出することができる。
【数3】
【0057】
重みI
dおよびI
Tは、例えば、次に示す式(5)および式(6)により算出することができる。
ただし、その算出をする際には、健常群のP
C人の被験者について、位置正確度m
djの平均値M
C(m
dj)および標準偏差σ
C(m
dj)、ならびに、時系列正確度m
Tjの平均値M
C(m
Tj)および標準偏差σ
C(m
Tj)がすでに得られ、さらに、認知症群のP
P人の被験者について、位置正確度m
dkの平均値M
P(m
dk)および標準偏差σ
P(m
dk)、ならびに、時系列正確度m
Tkの平均値M
P(m
Tk)および標準偏差σ
P(m
Tk)がすでに得られ、記憶装置6に格納されているものとする。なお、j=1,2,…,P
C、k=1,2,…,P
Pである。
【0059】
これらの重みI
d,I
Tは、健常群と認知症群のばらつきを考慮して、2群の平均値の差の大きさを評価する指標であり、ウェルチの検定(2群の分散が異なる場合に2群の平均値の差異の有無を検定する方法)で用いる統計量を参考にして定めたものである。
【0060】
式(5)によれば、重みI
dが大きいほど、2群間における位置正確度m
dの差が大きいことを意味するので、位置正確度m
dによって2群のうちいずれに属するかを判別し易いことになる。つまり、位置正確度m
dは、I
dが大きいほど認知症群を検出し易い重要な指標であるといえる。また、式(6)によれば、同様に、時系列正確度m
Tは、I
Tが大きいほど認知症群を検出し易い重要な指標であるといえる。
【0061】
なお、重みI
dおよびI
Tの算出は、式(5)および式(6)に限定されない。健常群と認知症群の乖離の程度を評価可能な統計量であれば、別の統計量でもよい。
【0062】
以上、第2の認知障害度Sの算出方法では、認知障害度算出部41は、式(5)および式(6)を計算し、さらに、式(4)を計算することにより、認知障害度Sを算出する。なお、重みI
d,I
Tは、その都度計算するのではなく、予め記憶装置6に格納しておくのが好ましい。
【0063】
(認知障害度Sの算出方法:その3)
さらに、認知障害度Sを評価する他の例として、多変量解析を用いる例を示す。
図6は、多変量解析を用いて認知障害度Sを評価する例を模式的に示した図である。すなわち、
図6のグラフは、時系列正確度m
T(平均タッチ遅延時間)を横軸、位置正確度m
d(平均タッチ位置誤差)を縦軸とし、各被験者の時系列正確度m
Tおよび位置正確度m
dを散布図として表したものである。
【0064】
図6に示した散布図において、黒丸印は、健常群に属する複数の被験者の時系列正確度m
Tおよび位置正確度m
dを表し、三角印は、認知症群に属する複数の被験者の時系列正確度m
Tおよび位置正確度m
dを表わしている。
【0065】
なお、
図6の例では、平均タッチ位置誤差としての位置正確度m
dおよび平均タッチ遅延時間としての時系列正確度m
Tの2つだけを解析の対象の変数量としているが、解析の対象の変数量には、位置正確度や時系列正確度などを表す他の特徴量を適宜追加してもよい。
【0066】
図6の散布図のデータに対し、多変量解析の一種である線形判別分析を適用すると、認知障害度Sを表す軸301が得られる。そして、認知障害度Sは、その線形判別分析により得られる係数C
d1とC
T1を使って、次の式(7)で表される。
【数5】
【0067】
従って、軸301、すなわち、式(7)が得られたことにより、リーチングタスクなどにより被験者の時系列正確度m
Tおよび位置正確度m
dを得ることができれば、認知障害度Sを算出することができる。
【0068】
さらに、
図6に示すように、ある閾値S
thで軸301と直交する直線302(
図6では、破線で表示)を、健常群と認知症群とを分離する境界線として用いることができる。すなわち、式(7)により被験者から得られた認知障害度SがS
thより大きければ認知症、大きくなければ認知症でないと判定することができる。なお、この判定において、閾値S
thを健常群寄りの小さめの値に設定すると、認知症をより鋭敏に検出することができ、閾値S
thを認知症群寄りの大きめの値に設定すると、認知症の誤検出を避けることができる。
【0069】
以上、第3の認知障害度Sの算出方法では、認知障害度算出部41は、予め線形判別分析などにより係数C
d1、C
T1を計算しておき、被験者の時系列正確度m
Tおよび位置正確度m
dが得られたとき、その被験者の認知障害度Sを式(7)に従って計算する。
【0070】
なお、以上の例では、認知障害度Sを算出するのに線形判別分析を用いる方法を説明したが、複数の特徴量から2群を判別し、その乖離度を数値化する方法であれば、サポートベクターマシンなど他の統計的手法用いて認知障害度Sを算出してもよい。
【0071】
図7は、
図6に示した認知障害度Sを評価する例の変形例を模式的に示した図である。
図7の散布図には、
図6の散布図と同様に、健常群および認知症群それぞれに属する複数の被験者のデータ(黒丸印および三角印)が示されている。また、
図7の各被験者のデータには、認知症の程度を予め医師が検診により評価したMMSE(Mini Mental State Examination)のスコアが付与されている。
【0072】
ちなみに、MMSEでは、30点が最高得点で認知機能低下がない健常な状態であり、スコアが低くなるほど認知症が重症であることを表す。この健常群の位置正確度m
dと時系列正確度m
TとMMSEのスコアとに対して、多変量解析の一種である重回帰分析を適用すると、認知障害度Sを表す軸305が得られる。そして、認知障害度Sは、重回帰分析により求められる係数C
d2とC
T2を使って、次の式(8)で表される。
【数6】
なお、この式(8)は、時系列正確度m
Tおよび位置正確度m
dから、医師が評価するMMSEのスコアを推定する式とみなすことができる。
【0073】
従って、
図6の例の場合と同様に、認知障害度算出部41は、予め重回帰分析などにより係数C
d2、C
T2を計算しておき、被験者の時系列正確度m
Tおよび位置正確度m
dが得られたとき、その被験者の認知障害度Sを式(8)に従って計算する。
【0074】
<2.5 キャリブレーション>
キャリブレーション部22は、被験者の聴覚、視覚、運動などの能力を予め評価しておき、認知障害度Sを評価するためのタスク(本実施形態ではリーチングタスク)に対するこれらの影響を差し引く。その場合、聴覚、視覚、運動能力などすべての影響を差し引いてもよいし、どれか一つの影響のみを差し引いてもよい。
【0075】
図8は、キャリブレーション部22により身体運動提示装置2に提示されるキャリブレーション指示画面の例を示した図であり、(a)は、視覚キャリブレーション用、(b)は、聴覚キャリブレーション用、(c)は、運動能力キャリブレーション用の指示画面の例である。
【0076】
被験者の視覚能力を評価する場合、キャリブレーション部22は、例えば、
図8(a)に示すように、キャリブレーション指示のメッセージ221および十字型図形222をキャリブレーション指示画面220に表示する。次に、キャリブレーション部22は、被験者に、時間の制限を設けることなく十字型図形222の中心(交点)にタッチさせ、被験者がタッチした位置と十字型図形222の中心との距離D
iを取得する。
【0077】
さらに、キャリブレーション部22は、同様の動作を被験者に複数回(n回)行わせ、距離D
iの(i=1,2,…,n)平均すなわちタッチ位置誤差の平均値を算出し、当該被験者の位置キャリブレーション値c
dとする。そして、位置正確度算出部32により当該被験者について求められた位置正確度m
dから、この位置キャリブレーション値c
dを差し引くことにより、当該被験者の視覚能力の影響をキャンセルしたキャリブレーション後の位置正確度m
dc(=m
d−c
d)を得る。
【0078】
例えば、被験者の位置キャリブレーション値c
dが3mmで、リーチングタスクなどで求められた位置正確度m
dが10mmであった場合には、キャリブレーション後の位置正確度m
dcは、7mmとなる。
【0079】
また、被験者の聴覚能力を評価する場合、キャリブレーション部22は、例えば、
図8(b)に示すように、キャリブレーション指示のメッセージ224および円形図形225をキャリブレーション指示画面223に表示する。次に、キャリブレーション部22は、スピーカなどから所定の音を出力し、被験者に音が聞こえたら円形図形225にタッチさせ、音を出力してから被験者が円形図形225にタッチするまでの時間であるタッチ遅延時間t
iを取得する。
【0080】
さらに、キャリブレーション部22は、同様の動作を被験者に複数回(n回)行わせ、タッチ遅延時間t
iの(i=1,2,…,n)平均値を算出し、当該被験者の聴覚能力に基づく時系列キャリブレーション値c
Tとする。そして、時系列正確度算出部33により当該被験者について求められた時系列正確度m
Tから、この時系列キャリブレーション値c
Tを差し引くことにより、当該被験者の聴覚能力の影響をキャンセルしたキャリブレーション後の時系列正確度m
Tc(=m
T−c
T)を得る。
【0081】
例えば、被験者の聴覚能力に基づく時系列キャリブレーション値c
Tが60ミリ秒で、後記するリズムタッチタスクなど聴覚能力が関係するタスクで求められた時系列正確度m
Tが100ミリ秒であった場合には、キャリブレーション後の時系列正確度m
Tcは、40ミリ秒となる。
【0082】
また、被験者の運動能力を評価する場合、キャリブレーション部22は、例えば、
図8(c)に示すように、キャリブレーション指示のメッセージ227および2つの円形図形228をキャリブレーション指示画面226に表示する。キャリブレーション部22は、被験者に、決められた位置に表示された2つの円形図形228にできるだけ速く交互にタッチさせ、2つの円形図形228が交互にタッチされる時間間隔t
iを取得する。
【0083】
キャリブレーション部22は、交互タッチの動作を被験者に複数回(n回)行わせ、交互タッチ時間間隔t
iの(i=1,2,…,n)平均値を算出し、当該被験者の運動能力に基づく時系列キャリブレーション値e
Tとする。そして、時系列正確度算出部33により当該被験者について求められた時系列正確度m
Tから、この時系列キャリブレーション値e
Tを差し引くことにより、当該被験者の運動能力の影響をキャンセルしたキャリブレーション後の時系列正確度m
Te(=m
T−e
T)を得る。
【0084】
例えば、被験者の運動能力に基づく時系列キャリブレーション値e
Tが80ミリ秒で、リーチングタスクなどで求められた時系列正確度m
Tが100ミリ秒であった場合には、キャリブレーション後の時系列正確度m
Tcは、20ミリ秒となる。なお、この場合の20ミリ秒は、被験者がリーチングすべき図形(
図4の例では、十字型図形212)の位置を認識するのに掛かった時間を表している。
【0085】
以上のように、キャリブレーション部22は、被験者の聴覚、視覚、運動能力を予め評価しておくことにより、認知障害度Sを評価するタスクで得られる位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tを、被験者の聴覚、視覚、運動能力に応じて補正することができる。そして、キャリブレーション部22で求められたキャリブレーション後の位置正確度m
dcおよび時系列正確度m
Tc,m
Teの値は、その後の認知障害度算出部41が認知障害度Sを算出する処理では、位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tの値として用いられる。
【0086】
以上、キャリブレーション部22を用いることにより、被験者の聴覚、視覚、運動能力を考慮した高精度の位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tを得ることが可能となり、より精度の高い認知障害度Sの算出が可能となる。
【0087】
<2.6 評価結果の保存と表示>
認知障害度出力部42は、認知障害度算出部41により算出された認知障害度Sを記憶装置6に格納する。この際には、認知障害度Sだけでなく、計測日時、被験者ID、被験者の年齢、性別なども合わせて格納するとよい。さらに、医師の問診で得られたMMSE、FAB、長谷川式スケールなどのスコアを併せて格納してもよい。
【0088】
認知障害度出力部42は、認知障害度算出部41により算出された認知障害度Sを液晶表示装置やプリンタなどの出力装置5に出力する。従って、被験者またはその介助者は、実施されたリーチングタスクなどの認知障害度評価タスクで得られた被験者の認知障害度Sを知ることができる。
【0089】
認知障害度出力部42は、記憶装置に格納された当該被験者の計測日時と認知障害度Sとの関係を表した経時変化グラフを表示する。
図9は、ある被験者の認知障害度Sの経時変化グラフの例を示した図である。
図9のグラフにおいて、横軸は、被験者にリーチングタスクなどを実施させた日時、すなわち、被験者の認知障害度Sを計測した日時を表す。また、縦軸は、認知障害度Sを表す。また、黒丸印は、ある被験者について、それぞれの計測日時で得られた認知障害度Sを表す。
【0090】
認知障害度出力部42は、さらに、ある被験者についての認知障害度Sの経時変化の指標S
dを求める。ここで、認知障害度Sの経時変化の指標S
dは、例えば、
図9のグラフに描かれた直線310の傾きとして表され、直線310の傾きは、回帰分析や最小二乗法などにより求めることができる。
【0091】
この場合、認知障害度Sの経時変化の指標S
dが0より小さい場合には、認知障害が悪化していることを意味し、指標S
dがほぼ0に等しい場合には、認知障害の悪化の進行が停止していることを意味し、指標S
dが0より大きい場合には、認知障害が改善していることを意味する。従って、医師、被験者および介助者は、
図9に示すような認知障害度Sの経時変化のグラフから、被験者に実施されている治療やリハビリテーションの効果などを知ることができる。
【0092】
なお、認知障害度Sの経時変化の指標S
dは、軸301の傾きに限定されるわけではない。現時点と過去の認知障害度Sの経時変化を評価可能な指標であれば、他の指標であってもよい。例えば、過去数回分の認知障害度Sの標準偏差を認知障害度Sの経時変化の指標S
dとしてもよい。この場合は、認知機能のいわば安定性を評価することとなる。
【0093】
以上に説明した本発明の実施形態によれば、被験者の脳機能障害を含めた認知機能低下の程度(認知障害度S)を簡易的に評価することが可能になり、さらに、被験者に実施されている治療やリハビリテーションの効果などを知ることが可能になる。
【0094】
<3.身体運動タスクの変形例>
ここまでに説明した実施形態では、認知障害度Sは、被験者がリーチングタスクを実施した結果に基づいて算出されるものとしているが、他の身体運動タスクを実施した結果に基づいて算出されるとしてもよい。以下、認知障害度Sを求めるための他の身体運動タスクの例について説明するとともに、認知障害度Sを算出する方法などが前記したリーチングタスクでの実施形態と相違する場合には、その相違する点についても説明する。
【0095】
<3.1 リズムタッチタスク>
(a.聴覚刺激によるリズムタッチタスク)
図10は、身体運動提示装置2に提示される聴覚刺激による片手リズムタッチタスク指示画面230の例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して聴覚刺激の片手リズムタッチタスクが選択された場合には、身体運動指示部10(
図1参照)の指示データ提示部13は、
図10に示すような片手リズムタッチタスク指示画面230を身体運動提示装置2に表示する。このとき、片手リズムタッチタスク指示画面230の中には、被験者がタッチすべき円形図形231が表示される。
【0096】
続いて、指示データ提示部13は、被験者がタッチすべきタイミングを指示するタッチ指示音を特定の時間間隔またはランダムな時間間隔で繰り返しスピーカから出力する。被験者は、その出力されるタッチ指示音にできるだけタイミングを合わせて、前記の円形図形231に、例えば、親指でタッチする。
なお、被験者は高齢である場合が多いため、聴覚刺激用のタッチ指示音は、大きめで高音域を避けたものが好ましい(後記する
図11、
図12の説明でも同様)。
【0097】
この聴覚刺激の片手リズムタッチタスクから得られる被験者の身体運動(手指の運動)についてのデータを用いれば、後記にて説明するようにして認知障害度Sを算出することができる。そして、この片手リズムタッチタスクで、タッチ指示音が同じ時間間隔で出力される場合には、聴覚刺激に対する被験者の予測力に基づく認知障害度Sを評価することができる。また、タッチ指示音がランダムな時間間隔で出力される場合には、聴覚刺激に対する被験者の応答速度に基づく認知障害度Sを評価することができる。
なお、この片手リズムタッチタスクの効果は、以下に説明する他のリズムタッチタスクでも同様である。
【0098】
図10の例では、被験者がタッチすべき円形図形231は、片手リズムタッチタスク指示画面230の左側に表示され、被験者の左手親指でタッチされるものとしているが、被験者がタッチすべき円形図形231は、片手リズムタッチタスク指示画面230の右側に表示され、被験者の右手親指でタッチされるものとしてもよい。
【0099】
図11は、身体運動提示装置2に提示される聴覚刺激による両手リズムタッチタスク指示画面230aの例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して聴覚刺激の両手ズムタッチタスクが選択された場合には、指示データ提示部13は、
図11に示すような両手リズムタッチタスク指示画面230aを身体運動提示装置2に表示する。このとき、両手リズムタッチタスク指示画面230aの中には、被験者が右手および左手のそれぞれでタッチすべき2つの円形図形231が表示される。
【0100】
続いて、指示データ提示部13は、被験者がタッチすべきタイミングを指示するタッチ指示音を特定の時間間隔またはランダムな時間間隔で繰り返しスピーカから出力する。被験者は、その出力されるタッチ指示音にできるだけタイミングを合わせて、2つの円形図形231のそれぞれに、例えば、左手親指および右手親指で同時にタッチする。
【0101】
図12は、身体運動提示装置2に提示される聴覚刺激による両手交互リズムタッチタスク指示画面230bの例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して両手交互リズムタッチタスクが選択された場合には、指示データ提示部13は、
図12に示すような両手交互リズムタッチタスク指示画面230bを身体運動提示装置2に表示する。このとき、両手交互リズムタッチタスク指示画面230bの中には、被験者が右手および左手のそれぞれでタッチすべき2つの円形図形231が表示される。
【0102】
続いて、指示データ提示部13は、被験者がタッチすべきタイミングを指示するタッチ指示音を特定の時間間隔またはランダムな時間間隔で繰り返しスピーカから出力する。被験者は、その出力されるタッチ指示音にできるだけタイミングを合わせて、2つの円形図形231のそれぞれに、例えば、左手親指または右手親指で交互にタッチする。
【0103】
なお、両手交互リズムタッチタスクでは、タッチすべき左右の円形図形231に応じてタッチ指示音を異なる音にしてもよい。例えば、左右で、タッチ指示音の高さを変えたり、異なる楽器の音にしたりしてもよい。
【0104】
(b.視覚刺激によるリズムタッチタスク)
図13は、身体運動提示装置2に提示される視覚刺激による片手リズムタッチタスク指示画面240の例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して視覚刺激の片手リズムタッチタスクが選択された場合には、指示データ提示部13は、
図13に示すような片手リズムタッチタスク指示画面240を身体運動提示装置2に表示する。このとき、片手リズムタッチタスク指示画面240の中には、被験者がタッチすべき円形図形241が表示される。
【0105】
続いて、指示データ提示部13は、被験者がタッチすべきタイミングを指示するタッチ指示図形242を、特定の時間間隔またはランダムな時間間隔で繰り返し表示(ただし、その後すぐに消去)する。被験者は、タッチ指示図形242が表示されるタイミングにできるだけ合わせて、円形図形241にタッチする。
なお、視覚刺激用のタッチ指示図形242は、円形黒色に限定されない。被験者は高齢である場合が多いため、むしろ、派手な原色系の色を含んだ目立つ形状であるもののほうが好ましい(
図14、
図15の説明でも同様)。
【0106】
図14は、身体運動提示装置2に提示される視覚刺激による両手リズムタッチタスク指示画面240aの例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して視覚刺激の両手リズムタッチタスクが選択された場合には、指示データ提示部13は、
図14に示すような両手リズムタッチタスク指示画面240aを身体運動提示装置2に表示する。このとき、両手リズムタッチタスク指示画面240aの中には、被験者が右手および左手のそれぞれでタッチすべき2つの円形図形241が表示される。
【0107】
続いて、指示データ提示部13は、被験者がタッチすべきタイミングを指示するタッチ指示図形242を、特定の時間間隔またはランダムな時間間隔で繰り返し表示(ただし、その後すぐに消去)する。被験者は、タッチ指示図形242が表示されるタイミングにできるだけ合わせて、2つの円形図形241のそれぞれに、例えば、左手親指および右手親指で同時にタッチする。
【0108】
図15は、身体運動提示装置2に提示される視覚刺激による両手交互リズムタッチタスク指示画面240bの例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して視覚刺激の両手交互リズムタッチタスクが選択された場合には、指示データ提示部13は、
図15に示すような両手交互リズムタッチタスク指示画面240bを身体運動提示装置2に表示する。このとき、両手交互リズムタッチタスク指示画面240bの中には、被験者が右手および左手のそれぞれでタッチすべき2つの円形図形241が表示される。
【0109】
続いて、指示データ提示部13は、被験者がタッチすべきタイミングを指示するタッチ指示図形242を、特定の時間間隔またはランダムな時間間隔で繰り返し表示(ただし、その後すぐに消去)する。被験者は、タッチ指示図形242が表示されるタイミングにできるだけ合わせて、2つの円形図形241のそれぞれを、例えば、左手親指または右手親指で交互にタッチする。
【0110】
(c.メトロノーム型リズムタッチタスク)
図16は、身体運動提示装置2に提示されるメトロノーム型リズムタッチタスク指示画面250の例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介してメトロノーム型リズムタッチタスクが選択された場合には、指示データ提示部13は、
図16に示すようなメトロノーム型リズムタッチタスク指示画面250を身体運動提示装置2に表示する。このとき、メトロノーム型リズムタッチタスク指示画面250の中には、被験者が右手および左手のそれぞれでタッチすべき2つの円形図形251が表示され、さらに、メトロノーム様の振り子252とその振幅範囲を表す扇形図形253が表示される。
【0111】
振り子252は、扇形図形253の範囲を一定の周期で振動する。そこで、被験者は、振り子252が扇形図形253の右の端に達したタイミングに合わせて、右手親指で右側の円形図形251をタッチし、左の端に達したタイミングに合わせて、左手親指で左側の円形図形251をタッチする。
【0112】
従って、メトロノーム型リズムタッチタスクは、
図15に示した視覚刺激の両手交互リズムタッチタスクと実質的には同様の身体運動タスクといえる。ただし、メトロノーム型リズムタッチタスクの場合、被験者が振り子252の動きを観察して予測することができるので、被験者の予測する力を含んだ認知障害度Sを評価することができる。
【0113】
なお、メトロノーム型リズムタッチタスクは、被験者が円形図形251を両手で交互にタッチするのを、片手でタッチしたり、両手で同時にタッチしたりするように変更すれば、片手リズムタッチタスクや両手リズムタッチタスクと実質的に同様のものとすることができる
【0114】
(位置正確度、時系列正確度および認知障害度の算出)
以上に説明した各リズムタッチタスクでは、指示・検出データ比較部31(
図1参照)は、検出データ取得部21によって取得される被験者によるタッチ位置座標(X,Y)が、先に表示された円形図形231,241,251内に含まれているか否かを判定する。
【0115】
次いで、位置正確度算出部32は、被験者によるタッチ位置座標(X,Y)が円形図形231,241,251内に含まれている場合には、タッチ成功と判定し、そうでない場合には、タッチ失敗と判定し、そのタッチ失敗率を算出する。そして、位置正確度算出部32は、その算出したタッチ失敗率をもって位置正確度m
dと定義する。つまり、位置正確度m
d=タッチ失敗回数/(タッチ成功回数+タッチ失敗回数)として計算される。
なお、位置正確度m
dとして、タッチ成功率ではなくタッチ失敗率を用いるのはやや違和感があるが、これは、本明細書では、位置正確度m
dの意味を、値が小さいほど正確度が高くなると定めていることによる。
【0116】
例えば、1回のリズムタッチタスクで20回の視覚刺激または聴覚刺激があり、被験者がタッチすべき円形図形231,241,251のタッチに5回失敗した場合には、その位置正確度m
dは、0.25となる。
【0117】
また、時系列正確度m
Tは、前記リーチングタスクの場合と同様に算出される。すなわち、時系列正確度算出部33は、視覚刺激または聴覚刺激が提示された時刻τ
iと被験者がタッチした時刻t
iとの差であるタッチ遅延時間T
iの平均値(=ΣT
i/N:Nは、視覚刺激または聴覚刺激の提示回数)を算出し、その算出したタッチ遅延時間T
iの平均値をもって時系列正確度m
Tと定義する。
【0118】
以上のようにして位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tが求められると、認知障害度算出部41は、前記実施形態で示した方法と同様の方法で認知障害度Sを計算することができる。また、認知障害度出力部42は、その計算された認知障害度Sやその経時変化グラフ(
図9参照)を液晶表示装置やプリンタなどの出力装置5に出力することができる。
【0119】
すなわち、被験者またはその介助者は、リズムタッチタスクを実施することにより、被験者の脳機能障害を含めた認知機能低下の程度(認知障害度S)を容易に評価することが可能になる。
【0120】
<3.2 開閉指タップタスク>
図17は、身体運動提示装置2に提示される片手開閉指タップタスク指示画面260の例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して片手開閉指タップタスクが選択された場合には、身体運動指示部10(
図1参照)の指示データ提示部13は、
図17に示すような片手開閉指タップタスク指示画面260を身体運動提示装置2に表示する。ここで、片手開閉指タップタスクとは、被験者の片手の2指(例えば、親指と人差し指)を繰り返し開閉運動させる身体運動タスクをいう。
【0121】
そこで、片手開閉指タップタスク指示画面260の中には、被験者が2指の開閉運動をさせる領域を指定する扇型の開閉運動指定領域261が表示される。なお、開閉運動指定領域261は、扇型に限定されるわけではなく、2指の開閉運動をしやすい領域になるのであれば、どのような形状であってもよい。
【0122】
被験者は、片手開閉指タップタスクでは、例えば、親指と人差し指を扇型図形261に接触させた状態で、できるだけ大きくかつできるだけ速く開閉させる運動を繰り返す。このとき、検出データ取得部21は、親指がタッチした位置の座標値と人差し指がタッチした位置の座標値とを検出し、これら2指のタッチ位置間の距離を、2指間距離Lとして算出する。なお、
図17において、両端矢線262は、人差し指の開閉振幅を表し、両端矢線263は、親指の開閉振幅を表している。
【0123】
開閉指タップタスクとしては、
図17の例の他に、両手開閉指タップタスクおよび両手交互開閉指タップタスクがある。
図18は、身体運動提示装置2に提示される両手開閉指タップタスク指示画面260aの例を示した図、
図19は、両手交互開閉指タップタスク指示画面260bの例を示した図である。
図18および
図19に示されるように、両手を使う開閉指タップタスクでは、両手開閉指タップタスク指示画面260aおよび両手交互開閉指タップタスク指示画面260bには、被験者が両手の2指の開閉運動をさせるための開閉運動指定領域261がそれぞれ2つ表示される。
【0124】
両手開閉指タップタスクと両手交互開閉指タップタスクとでは、被験者が両手を使って2指の開閉運動をさせ点で同じである。一方、両手開閉指タップタスクでは、両手同時に2指の開閉運動をさせるが、両手交互開閉指タップタスクでは、片手ずつ交互に2指の開閉運動をさせる点で異なっている。
【0125】
なお、以上の
図17〜
図19を用いて説明した開閉指タップタスクでは、2指の開閉運動には、とくに時間的な制限などを設けずに行うとしているが、リズムタッチタスクの場合のように、被験者に対する視覚刺激や聴覚刺激を生成し、それに合わせて2指を開閉させるようにしてもよい
【0126】
(位置正確度、時系列正確度および認知障害度の算出)
図20は、開閉指タップタスクが行われる場合に作成される2指間距離L(t)の時間推移グラフの例を示した図である。
図17〜
図19を用いて説明した開閉指タップタスクが行われる場合、指示・検出データ比較部31(
図1参照)は、検出データ取得部21によって、例えば、10ミリ秒ごとに取得される2指間距離L(t)を用いて、
図20に示すような2指間距離L(t)の時間推移グラフを作成する。なお、
図20のグラフにおいて、横軸は、開閉指タップタスク開始時からの経過時間を表し、縦軸は、経過時間tでの2指間距離L(t)を表している。
【0127】
なお、開閉指タップタスクでは、2指を常に画面(タッチパネル)にタッチさせた状態で開閉させることを想定しているが、実際には、2指の開閉運動を行う中で片方または両方の指がその画面から離れる場合があり得る。このような場合には、取得される2指間距離L(t)に欠損部311が生じるが、多くの場合、欠損部311は、スプライン補間など一般的な補間方法を用いて補間することができる。
【0128】
次に、位置正確度算出部32は、
図20の2指間距離L(t)の時間推移グラフから、1回ごとの2指開閉の振幅A
i(1回ごとの指開閉動作で得られるL(t)の最大値と最小値の差)を算出し、さらに、その標準偏差を算出する。そして、位置正確度算出部32は、前記算出した振幅A
iの標準偏差をもって位置正確度m
dと定義する。
【0129】
また、時系列正確度算出部33は、
図20の2指間距離L(t)の時間推移グラフから、1回ごとの2指開閉の時間間隔t
i(指開閉動作で得られるL(t)の最大値または最小値から次の最大値または最小値に到るまでの時間)を算出し、さらに、その標準偏差を算出する。そして、この算出した時間間隔t
iの標準偏差をもって時系列正確度m
Tと定義する。
【0130】
以上のようにして位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tが求められると、認知障害度算出部41は、前記実施形態で示した方法と同様の方法で認知障害度Sを計算することができる。また、認知障害度出力部42は、その計算された認知障害度Sやその経時変化グラフ(
図9参照)を液晶表示装置やプリンタなどの出力装置5に出力することができる。
【0131】
すなわち、被験者またはその介助者は、開閉指タップタスクを実施することにより、被験者の脳機能障害を含めた認知機能低下の程度(認知障害度S)を容易に評価することが可能になる。
【0132】
<3.3 5指タッチタスク>
図21は、身体運動提示装置2に提示される5指タッチタスク指示画面270の例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して5指タッチタスクが選択された場合には、身体運動指示部10(
図1参照)の指示データ提示部13は、
図21に示すような5指タッチタスク指示画面270を身体運動提示装置2に表示する。このとき、5指タッチタスク指示画面270の中には、左右の5指それぞれに対応する10個のタッチ指示領域271が、例えば、破線の円などで表示されている。
【0133】
次に、指示データ提示部13は、10個のタッチ指示領域271から1つを選択し、選択したタッチ指示領域271の位置にタッチ指示図形272を表示する。そこで、被験者は、表示されたタッチ指示図形272またはその位置のタッチ指示領域271にタッチする。なお、指示データ提示部13は、被験者によりタッチ指示図形272がタッチされた場合、または、所定の時間が経過した場合には、それまで表示していたタッチ指示図形272を消去するとともに、別のタッチ指示領域271を選択し、その選択したタッチ指示領域271に新たにタッチ指示図形272を表示する。
【0134】
そして、指示データ提示部13は、以上のような、タッチ指示領域271の1つを選択し、そのタッチ指示領域271の位置にタッチ指示図形272を表示し、被験者によるタッチを検出する、という動作を所定の回数繰り返す。その際、タッチ指示領域271は、所定の順序、例えば、指の並びの順序(左手の小指→薬指→中指→人差し指→親指→右手の小指→薬指→中指→人差し指→親指など)に従って選択してもよいし、ランダムな順序で選択してもよい。
【0135】
なお、タッチ指示領域271は、被験者の5指の位置にほぼ対応する位置に設けられ、被験者ごとにその位置をキャリブレーションしてもよい。キャリブレーションする場合には、被験者に当該表示画面(タッチパネル)に両手5指でタッチさせ、そのときタッチされた両手5指のそれぞれの位置に基づき、両手5指のタッチ指示領域271を設定する。
また、タッチ指示図形272の形状は、
図21に示したような円形に限定されず、両手5指のタッチが分離して検出できる形状であれば、他の形状であってもよい。
【0136】
(位置正確度、時系列正確度および認知障害度の算出)
以上に説明した5指タッチタスクでは、位置正確度m
dは、前記したリズムタッチタスクの場合と同様に、タッチ失敗率を計算することにより求められる。
すなわち、指示・検出データ比較部31(
図1参照)は、タッチ指示図形272が表示されるたびに、その表示に応じて被験者がタッチしたタッチ位置座標(X,Y)を取得する。そして、そのタッチ位置座標(X,Y)が先に表示したタッチ指示図形272またはその位置のタッチ指示領域271の中に含まれていた場合には、タッチ成功と判定し、そうでない場合には、タッチ失敗と判定する。次いで、位置正確度算出部32は、タッチ失敗率(=タッチ失敗回数/(タッチ成功回数+タッチ失敗回数))を算出し、その算出したタッチ失敗率をもって位置正確度m
dと定義する。
なお、位置正確度m
dとして、タッチ成功率ではなくタッチ失敗率を用いるのは、前記したように、本明細書では、位置正確度m
dの意味を、値が小さいほど正確度が高くなると定めていることによる。
【0137】
また、時系列正確度m
Tは、前記リーチングタスクの場合と同様に算出される。すなわち、時系列正確度算出部33は、タッチ指示図形272が表示された時刻τ
iと被験者がタッチ指示図形272またはその位置のタッチ指示領域271にタッチした時刻t
iとの差であるタッチ遅延時間T
iの平均値(=ΣT
i/N:Nは、タッチ指示図形272の表示回数)を算出し、その算出したタッチ遅延時間T
iの平均値をもって時系列正確度m
Tと定義する。
【0138】
以上のようにして位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tが求められると、認知障害度算出部41は、前記実施形態で示した方法と同様の方法で認知障害度Sを計算することができる。また、認知障害度出力部42は、その計算された認知障害度Sやその経時変化グラフ(
図9参照)を液晶表示装置やプリンタなどの出力装置5に出力することができる。
【0139】
すなわち、被験者またはその介助者は、5指タッチタスクを実施することにより、被験者の脳機能障害を含めた認知機能低下の程度(認知障害度S)を容易に評価することが可能になる。
【0140】
(5指タッチタスクの使用例)
図22は、5指タッチタスクの一使用例を説明する図である。
図22に示すように、指示データ提示部13は、まず、右手について、特定の順序でタッチ指示領域271を選択しつつ、タッチ指示図形272を表示していき、さらに、左手について、右手と同じ順序でタッチ指示領域271を選択しつつ、タッチ指示図形272を表示していく。例えば、左手で小指→中指→親指→人差し指→薬指→・・・というようにタッチ指示図形272を表示していった場合には、右手でも小指→中指→親指→人差し指→薬指→・・・というように同じ順序でタッチ指示図形272を表示していく。
【0141】
そこで、被験者は、まず、右手側に特定の順序で表示されるタッチ指示図形272に追従しながら、その表示されるタッチ指示図形272またはその位置のタッチ指示領域271を右手の指でタッチする。続いて、被験者は、左手側に同様の順序で表示される表示されるタッチ指示図形272に追従しながら、その表示されるタッチ指示図形272またはその位置のタッチ指示領域271を左手の指でタッチする。
【0142】
このような5指タッチタスクでは、その実施により得られる認知障害度Sにより、一方の手で学習した運動の効果が、他方の手でも現れるか否かという点について評価することが可能になる。例えば、一般的には、認知機能が低下すると、左右の運動野で一連の運動指令を転写する能力も低下すると信じられている。5指タッチタスクは、
図22のような使用の仕方をすれば、脳機能に関する一般的な常識や学説を実証するツールとしても使用可能となる。
【0143】
<3.4 追跡タスク>
図23は、身体運動提示装置2に提示される追跡タスク指示画面280の例を示した図である。
身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して追跡タスクが選択された場合には、身体運動指示部10(
図1参照)の指示データ提示部13は、
図23に示すような追跡タスク指示画面280を身体運動提示装置2に表示する。このとき、追跡タスク指示画面280の中には、左手用および右手用の2つの追跡ターゲット図形281a,281bが表示される。
【0144】
そして、指示データ提示部13は、2つの追跡ターゲット図形281a,281bを追跡タスク指示画面280の中で互いにそれぞれ異なる軌跡282a,282bを描くように移動させる。被験者は、左右の指を追跡タスク指示画面280にタッチさせたまま、この2つの追跡ターゲット図形281a,281bをその動きに従ってそれぞれの指で追跡する。なお、2つの追跡ターゲット図形281a,281bは、互いに表示色や形状が異なってもよい。
【0145】
(位置正確度、時系列正確度および認知障害度の算出)
追跡タスクが実施されると、指示・検出データ比較部31(
図1参照)は、追跡ターゲット図形281a,281bが移動する位置座標(X
0j(t),Y
0j(t))(j=L,R)と被験者の左右の指のタッチ位置座標(X
j(t),Y
j(t))(j=l,r)との距離を求め、その距離をL
j(t)(j=l,r)と表す。ここで、j=lは、左、j=rは、右を意味する。また、L
l(t)を左手誤差、L
r(t)を右手誤差と呼ぶ。
【0146】
続いて、位置正確度算出部32は、左手誤差L
l(t)の時間平均および右手誤差L
r(t)の時間平均を算出し、さらに、これら算出した左手誤差L
l(t)の時間平均と右手誤差L
r(t)の時間平均の平均値をもって、位置正確度m
dと定義する。
【0147】
時系列正確度算出部33の処理については、
図24を参照しながら説明する。
図24は、追跡ターゲット図形の位置座標と被験者のタッチ位置座標との関係を、模式的な時間推移変化グラフの例として示した図であり、(a)は、X座標の時間推移変化の例、(b)は、Y座標の時間推移変化の例である。
【0148】
図24(a)における破線351は、
図23に示された左側(または右側)の追跡ターゲット図形281a(または281b)のX座標、すなわち、X
0l(t)(またはX
0r(t))の時間推移変化を表している。また、実線352は、被験者の左指(または右指)によるタッチ位置座標のX座標X
l(t)(またはX
r(t))の時間推移変化を表している。
同様に、
図24(b)における破線361は、
図23に示された左側(または右側)の追跡ターゲット図形281a(または281b)のY座標、すなわち、Y
0l(t)(またはY
0r(t))の時間推移変化を表している。また、実線362は、被験者の左指(または右指)によるタッチ位置座標のY座標Y
l(t)(またはY
r(t))の時間推移変化を表している。
【0149】
時系列正確度算出部33は、追跡ターゲット図形281a(または281b)のX座標が表す関数X
0l(t)(またはX
0r(t))と、被験者の左指(または右指)によるタッチ位置座標のX座標が表す関数X
l(t)(またはX
r(t))と、の間の相互相関関数FX
l(τ)(またはFX
r(τ))を計算する。
同様に、時系列正確度算出部33は、追跡ターゲット図形281a(または281b)のY座標が表す関数Y
0l(t)(またはY
0r(t))と、被験者の左指(または右指)によるタッチ位置座標のY座標が表す関数Y
l(t)(またはY
r(t))と、の間の相互相関関数FY
l(τ)(またはFY
r(τ))を計算する。
なお、相互相関関数は、2つの時系列信号のうち一方の信号を時間τだけずらしたとき両者の相関を評価する場合にしばしば用いられる関数である。
【0150】
以上の処理により、時系列正確度算出部33は、4つの相互相関関数FX
l(τ)、FX
r(τ)、FY
l(τ)、FY
r(τ)を得る。そこで、時系列正確度算出部33は、それぞれの相互相関関数FX
l(τ)、FX
r(τ)、FY
l(τ)、FY
r(τ)の値が最大になるずれの時間τ
Xl、τ
Xr、τ
Yl、τ
Yrを算出する。
ここで、相互相関関数FX
l(τ)の値が最大になるずれ時間τ
Xlとは、
図24(a)の破線351が表す関数X
0l(t)と実線352が表す関数X
l(t)とのうち一方を時間τ
Xlだけずらしたとき、両者のグラフの一致度が最も大きくなることを意味する。
【0151】
従って、相互相関関数FX
l(τ)から得られたずれの時間τ
Xlは、時系列正確度m
Tを表す指標として好適であり、同様にして得られたずれの時間τ
Xr、τ
Yl、τ
Yrも、時系列正確度m
Tを表す指標として好適である。
そこで、時系列正確度算出部33は、以上のようにして算出された4通りのずれの時間τ
Xl、τ
Xr、τ
Yl、τ
Yrの平均をとって、追跡タスクにおける時系列正確度m
Tと定義する。
【0152】
以上のようにして追跡タスクの場合について位置正確度m
dおよび時系列正確度m
Tが求められると、認知障害度算出部41は、前記リーチングタスクの実施形態で示した方法と同様の方法で認知障害度Sを計算することができる。また、認知障害度出力部42は、その計算された認知障害度Sやその経時変化グラフ(
図9参照)を液晶表示装置やプリンタなどの出力装置5に出力することができる。
【0153】
すなわち、被験者またはその介助者は、追跡タスクを実施することにより、被験者の脳機能障害を含めた認知機能低下の程度(認知障害度S)を容易に評価することが可能になる。
【0154】
<4.実施形態の変形例>
<4.1 脳機能障害評価装置の構成の変形例>
図25は、本発明の実施形態の変形例に係る脳機能障害評価装置100aの全体構成の例を示した図である。
図25に示す脳機能障害評価装置100aは、
図1に示した脳機能障害評価装置100とほぼ同等の機能を、通信ネットワーク8によって相互に接続された端末装置101とサーバ装置102とに分離して実現したものである。
【0155】
脳機能障害評価装置100aでは、端末装置101は、被験者に身体運動を提示するとともに、被験者の身体運動のデータを取得する役割を果たす。また、サーバ装置102は、端末装置101によって取得された被験者の身体運動のデータを、通信ネットワーク8を介して受信し、その被験者の身体運動のデータに基づき、被験者の認知障害度を評価する役割を果たす。このことを除けば、脳機能障害評価装置100aの構成および機能は、
図1に示した脳機能障害評価装置100の構成および機能と同じであるので、以下では、主に相違する箇所についてのみ説明する。
【0156】
端末装置101のデータ処理装置1aの構成は、
図1の脳機能障害評価装置100のデータ処理装置1から身体運動正確度算出部30および認知障害度評価部40が除外され、データ送受信部60aおよび認知障害度出力部70が追加された構成となっている。さらに、端末装置101には、データ処理装置1aと通信ネットワーク8とをつなぐ通信装置7aが新たに設けられている。
【0157】
データ送受信部60aは、身体運動データ取得部20で取得された被験者の身体運動の検出データやキャリブレーションデータを、通信装置7aおよび通信ネットワーク8を介してサーバ装置102へ送信する。また、データ送受信部60aは、サーバ装置102で評価された被験者の認知障害度などのデータを受信する。そして、認知障害度出力部70は、データ送受信部60aを介して受信したサーバ装置102による被験者の認知障害度などのデータを出力装置5に出力する。
【0158】
また、サーバ装置102は、データ処理装置1b、操作入力装置4b、出力装置5b、記憶装置6、通信装置7bなどを含んで構成され、データ処理装置1bは、身体運動正確度算出部30、認知障害度評価部40、データ送受信部60bなどを含んで構成される。データ送受信部60bは、端末装置101から送信される被験者の身体運動の検出データやキャリブレーションデータを受信するとともに、認知障害度評価部40で評価された被験者の認知障害度などのデータを端末装置101へ送信する。
【0159】
なお、以上のような構成を有する端末装置101は、医師や被験者またはその介助者などが有するパソコン、タブレット端末、スマートフォンなどで実現することができる。また、サーバ装置102は、高性能のパソコン、ワークステーション、汎用コンピュータなどにより実現することができる。また、1つのサーバ装置102に通信ネットワークを介して複数の端末装置101が接続されていても構わない。
【0160】
本実施形態の変形例に係る脳機能障害評価装置100aでは、端末装置101は、単に、被験者の身体運動のデータを取得して、その評価結果を表示するだけである。従って、例えば、端末装置101が紛失されても、被験者の認知障害度のデータが流出することはない。また、被験者の認知障害度などの評価結果は、サーバ装置102の記憶装置6に格納されるので、関係する医師、看護師、介護者などアクセスし易くなる。また、サーバ装置102を設けたことにより、脳機能障害評価装置100aを、電子カルテシステム、投薬記録システム、健康管理システムなど、他の医療情報・健康情報を管理するシステムと接続することが容易となる。
<4.2 その他の変形例>
以上に説明した本発明の実施形態およびその変形例では、脳機能障害評価装置100,100aは、複数の身体運動タスクの名称が表示された身体運動タスク選択画面120(
図3参照)を介して、被験者に1つの身体運動タスクを選択させ、選択された1つの身体運動タスクを被験者に実施させるものとしている。この場合、被験者に複数の身体運動タスクを選択させるようにしてもよい。そうした場合には、認知障害度評価部40は、それぞれの身体運動タスクに応じて複数の認知障害度S算出することになるが、そのそれぞれの認知障害度Sを身体運動タスクに対応付けて記憶装置6に格納してもよい。あるいは、複数の認知障害度Sの平均や加重平均を取った総合的な認知障害度Sを新たに計算した上で、その結果を記憶装置6に格納してもよい。
【0161】
また、脳機能障害評価装置100,100aから身体運動タスク選択部11を削除して、予め定められた特定の1つまたは複数の身体運動タスクだけを被験者に実施させるものとしてもよい。
【0162】
なお、本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものでなく、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために、詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成の一部で置き換えることが可能であり、さらに、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成の一部または全部を加えることも可能である。