特許第6291133号(P6291133)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6291133-アルミニウム合金材 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291133
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金材
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20180305BHJP
   C22F 1/053 20060101ALN20180305BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   C22C21/10
   !C22F1/053
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 606
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630B
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 671
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 691B
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-510932(P2017-510932)
(86)(22)【出願日】2016年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2016078431
(87)【国際公開番号】WO2017073223
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2017年2月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-214955(P2015-214955)
(32)【優先日】2015年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-26152(P2016-26152)
(32)【優先日】2016年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
(72)【発明者】
【氏名】八太 秀周
(72)【発明者】
【氏名】赤土 周平
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/176744(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0090373(US,A1)
【文献】 特開2001−140029(JP,A)
【文献】 特開平9−241785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金材であって、
Zn:6.5%(質量%、以下同様)超え8.5%以下、Mg:0.5%以上1.5%以下、Cu:0.10%以下、Fe:0.30%以下、Si:0.30%以下、Mn:0.05%未満、Cr:0.05%未満、Zr:0.05%以上0.20%以下、Ti:0.001%以上0.05%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
ZnとMgとの質量比(Zn/Mg)が5以上16以下であり、
金属組織が繊維状組織よりなる、アルミニウム合金材。
【請求項2】
前記繊維状組織は、前記アルミニウム合金材の加工方向に直交する方向に平行な断面における繊維状結晶粒の幅の最大値が30μm未満である、請求項1に記載のアルミニウム合金材。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2015年10月30日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2015−214955号及び2016年2月15日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2016−026152号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第第2015−214955号及び第2016−026152号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、アルミニウム合金材に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、高強度を示すアルミニウム合金としては、AlにZn及びMgを添加した7000系アルミニウム合金が知られている。7000系アルミニウム合金は、Al−Mg−Zn系の析出物が時効析出するために高い強度を示す。7000系アルミニウム合金の中でも、Zn及びMgに加えてCuを添加したものは、アルミニウム合金の中で最も高い強度を示す。
【0004】
7000系アルミニウム合金は、例えば、熱間押出加工等により製造され、高強度を要求される航空機、車両等の輸送機器、機械部品等に加え、スポーツ用品等の用途に使用される。7000系アルミニウム合金において、上記用途で使用される場合に要求される特性は、強度以外に、耐衝撃性(靱性)等がある。7000系アルミニウム合金の例として、例えば、特許文献1に記載のアルミニウム合金材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−119904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
7000系アルミニウム合金では、高強度を達成するためにZn及びMgの添加量を増加させると、強度向上の効果が得られる一方で、靭性が低下するという問題がある。
さらに、上記用途では、上述した特性に加えて良好な外観特性が必要となり、表面の質感、見た目等の表面品質が重要視される。ところが、7000系アルミニウム合金では、表面傷を防止する目的で陽極酸化処理等の表面処理を行う場合、粒界上に析出した化合物が前処理時に優先的にエッチングされ、表面処理後の表面に筋状模様が発生するという表面品質の問題がある。このように、従来は、強度と表面品質の両方が必要となる用途において、7000系アルミニウム合金を用いることが困難であった。
【0007】
本開示の一側面においては、表面品質、靱性に優れた、高強度のアルミニウム合金材を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面であるアルミニウム合金材は、Zn:6.5%(質量%、以下同様)超え8.5%以下、Mg:0.5%以上1.5%以下、Cu:0.10%以下、Fe:0.30%以下、Si:0.30%以下、Mn:0.05%未満、Cr:0.05%未満、Zr:0.05%以上0.20%以下、Ti:0.001%以上0.05%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、ZnとMgとの質量比(Zn/Mg)が5以上16以下であり、金属組織が繊維状組織よりなる。
【0009】
上記アルミニウム合金材は、上記特定の化学成分を有し、金属組織が繊維状組織よりなる。特に、Mgの含有量の上限を規制することにより、高強度を確保しながら、繊維状組織であっても陽極酸化処理等の表面処理後における表面の筋状模様の発生を抑制できる。また、Cuの含有量の上限を規制することにより、黄色味を帯びる色調の変化等を抑制でき、良好な表面品質を得ることができる。また、ZnとMgとの質量比(Zn/Mg)を上記特定の範囲とすることにより、高強度を確保しながら、靱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】曲げ試験方法を示す説明図である。
図2】金属組織観察方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0011】
10…試験片、20…押出材
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【0013】
本開示の実施形態におけるアルミニウム合金材の各成分組成について詳細に説明する。
Zn:
Znは、Mgと共存してη’相を析出し、強度を向上させる効果がある。Zn含有量の範囲は、6.5%超え8.5%以下である。Zn含有量が6.5%以下の場合には、η’相の析出量が少なくなるため、強度向上の効果が小さくなる。一方、Zn含有量が8.5%を超える場合には、熱間加工性が低下するため、生産性が低下する。
【0014】
Mg:
Mgは、Znと共存してη’相を析出し、強度を向上させる効果がある。Mg含有量の範囲は、0.5%以上1.5%以下である。特に、Mg含有量の上限を1.5%以下に規制することにより、強度向上の効果を得ながら、粒界(結晶粒界、亜粒界等)上への化合物の析出を抑制できる。そのため、陽極酸化処理等の表面処理の際に、粒界上に析出した化合物が前処理時にエッチングされる量を低減し、表面処理後における表面の筋状模様の発生を抑制できる。
【0015】
Mg含有量が0.5%未満の場合には、η’相の析出量が少なくなるため、強度向上の効果が小さくなる。一方、Mg含有量が1.5%を超える場合には、熱間加工性が低下するため、生産性が低下する。また、粗大な化合物が生成しやすくなり、最終製品の耐衝撃性(靱性)が低下する。靱性を低下させず、より高い強度を達成するため、Mg含有量は、1.0%以上1.3%以下であることが好ましい。
【0016】
Cu:
Cuは、アルミニウム合金材の原料としてリサイクル材を使用する場合に混入する可能性がある。7000系アルミニウム合金において、Cuの含有は強度向上に寄与する一方、陽極酸化処理等の表面処理によって表面の色調が黄色味を帯びるといった色調変化等が生じ、表面品質が低下する原因となり得る。したがって、特に表面処理後の表面の色調が重要視される場合、Cu含有量の上限を規制する必要がある。そこで、Cu含有量の上限を0.10%以下に規制することにより、上述した表面品質の低下を抑制できる。さらに、Cu含有量は、0.08%以下であることが好ましい。
【0017】
Fe、Si、Mn、Cr:
Fe、Siは、アルミニウム地金の不純物として混入する可能性がある。Mn、Crは、アルミニウム合金材の原料としてリサイクル材を使用する場合に混入する可能性がある。上記4成分のうち、Fe、Si、Mnは、Alとの間にAl−Mn系、Al−Mn−Fe系、Al−Mn−Fe−Si系の化合物を形成することにより、再結晶化を抑制する作用を有する。また、Crは、Alとの間にAl−Cr系の化合物を形成することにより、再結晶化を抑制する作用を有する。そのため、上記4成分の含有により、再結晶組織の形成が抑制され、その代わりに繊維状組織が形成される。
【0018】
しかしながら、上記4成分が過度に含有されると、形成される化合物が粗大となり、この粗大な化合物が原因となって陽極酸化処理等の表面処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面品質が低下する。したがって、Fe含有量を0.30%以下、Si含有量を0.30%以下、Mn含有量を0.05%未満、Cr含有量を0.05%未満に規制することにより、上述したような表面品質の低下を抑制できる。
【0019】
Zr:
Zrは、Alとの間にAl−Zr系の化合物を形成し、再結晶化を抑制する作用を有する。そのため、Zrの含有により、再結晶組織の形成が抑制され、その代わりに繊維状組織が形成される。Zr含有量の範囲は、0.05%以上0.20%以下である。Zr含有量が0.05%未満の場合には、再結晶化を抑制する効果が小さく、再結晶組織と繊維状組織とが入り混じった不均一な金属組織となり、陽極酸化処理等の表面処理後の表面に斑状模様が視認される等の問題が生じ、表面品質が低下する。一方、Zr含有量が0.20%を超える場合には、粗大な化合物を生じ、陽極酸化処理等の表面処理後の表面に点状欠陥が認められ、表面品質が低下する。
【0020】
Ti:
Tiは、鋳塊結晶粒の微細化を図るために添加する。Ti含有量の範囲は、0.001%以上0.05%以下である。Ti含有量が0.001%未満の場合には、結晶粒微細化効果が小さくなるため、陽極酸化処理等の表面処理後の表面に斑状模様が発生しやすくなり、表面品質が低下する。一方、Ti含有量が0.05%を超える場合には、Alとの間に形成されるAl−Ti系の化合物等が原因となって陽極酸化処理等の表面処理後の表面に点状欠陥が発生しやすくなり、表面品質が低下する。
【0021】
その他の元素:
上記元素の他は、基本的にはAl及び不可避的不純物とすればよい。一般的にアルミニウム合金に添加される上記元素以外の元素は、不可避的不純物として、特性に大きな影響を与えない範囲内で許容される。
【0022】
上記アルミニウム合金材は、ZnとMgとの質量比(Zn/Mg)が5以上16以下である。Zn含有量の上限を規制し、さらに質量比(Zn/Mg)を上記特定の範囲とすることにより、ZnとMgとの化合物が減少及び微細化する。これにより、強度を確保しながら、靱性を向上させることができる。また、結晶粒界と結晶粒内の電位差の拡大を抑制し、耐応力腐食割れ性(以下、耐SCC性という。SCCは、Stress Corrosion Crackingの略である。)を向上させることができる。
【0023】
上述したZn及びMgの含有量の範囲において、質量比(Zn/Mg)が5未満の場合には、ZnとMgとの化合物を減少及び微細化させる効果が小さくなり、靱性向上の効果が十分に得られなくなる。一方、質量比(Zn/Mg)が16を超える場合には、Zn含有量が多くなるため陽極溶解が起こりやすくなり、耐SCC性が低下する。質量比(Zn/Mg)のより好ましい範囲は、14以上16以下である。
【0024】
上記アルミニウム合金材は、金属組織が繊維状組織よりなる。繊維状組織とは、特定の一方向へのアスペクト比が大きい結晶粒により構成される金属組織である。金属組織は、例えば、アルミニウム合金材の表面又は断面を偏光顕微鏡で観察することにより確認できる。
【0025】
上記アルミニウム合金材において、繊維状組織は、アルミニウム合金材の加工方向(例えば、押出材であれば押出方向)に直交する方向に平行な断面における繊維状結晶粒の幅の最大値が30μm未満であることが好ましい。この場合には、繊維状組織の幅が細くなり、より均一となることから、良好な表面品質を得ることができる。
【0026】
上記アルミニウム合金材は、JIS Z2241(ISO 6892−1)に規定される耐力が300MPa以上であることが好ましく、350MPa以上であることがより好ましい。これにより、軽量化のための薄肉化に対応可能な強度特性を比較的容易に得ることができる。
【0027】
上記アルミニウム合金材には、例えば、アルミニウム合金からなる押出材、板材等が含まれる。したがって、本開示は、押出材、板材等の各種のアルミニウム合金材に適用することができる。
【実施例】
【0028】
本開示のアルミニウム合金材の実施例について、比較例と対比しながら、表1及び表2を用いて説明する。以下に示す実施例は、本開示の一実施態様を示すものであり、本開示は何らこれらに限定されるものではない。
【0029】
表1及び表2に示すように、アルミニウム合金材の化学成分が異なる複数の試料(実施例:試料1〜試料24、比較例:試料25〜試料39)を同一の製造条件で作製し、各試料について各種評価を行った。以下、試料の作製方法、各種評価方法について説明する。
【0030】
<試料の作製方法>
半連続鋳造により、表1に示す化学成分を有する、直径90mmの円柱状の鋳塊(ビレット)を鋳造する。そして、鋳塊を500℃で12時間加熱する均質化処理を行う。なお、均質化処理は、加熱温度を例えば400〜530℃とすることができる。その後、鋳塊の温度を520℃に維持した状態で、鋳塊を熱間押出加工する。これにより、幅150mm、厚さ10mmの押出材を得る。
【0031】
次いで、熱間押出加工直後の押出材を1500℃/分の冷却速度で100℃まで冷却する急冷処理を行う。そして、急冷処理を行った押出材を室温まで冷却した後、押出材を140℃で12時間加熱する人工時効処理を行う。これにより、アルミニウム合金材(押出材)の試料を得る。
【0032】
<機械的特性評価方法>
JIS Z2241(ISO6892−1)に準拠する方法により、試料から試験片を作製し、その試験片の引張強さ、耐力及び伸びを測定する。耐力が300MPa以上であるものを合格と判定する。なお、耐力の判定基準はあくまでも一例である。
【0033】
また、曲げ試験については、図1に示すように、試料の幅方向中央部分から厚さ10mm、幅10mm、長さ120mmの試験片10を作製し、三点曲げ試験によりその試験片10の曲げ変形量Δを測定する。具体的には、土台部11及び2つの支点部12を有する治具を準備し、2つの支点部12上に試験片10を静置する。このとき、2つの支点部12によって試験片10を試験片10の両端からそれぞれ10mmの位置で支持し、支点間距離を100mmとする。そして、試料の幅方向に直交する方向であって下向きの荷重を先端面の寸法が10mm×10mmの圧子13により負荷する。ここでは、4000kgfの荷重を10秒間加えた後の曲げ変形量Δが4mmを超えた場合には不合格「×」、2mm超え4mm以下の場合には合格「○」と判定し、2mm以下の場合には合格であってより好ましい結果「◎」と判定する。
【0034】
<靱性評価方法>
JIS Z2242に準拠する方法により、シャルピー衝撃試験を行う。具体的には、厚さ7.5mm、幅10mm、長さ55mmの試験片を作製する。試験片は、その長手方向が押出方向に平行であり、かつ、押出方向に直交するように形成された深さ2mmのUノッチを有する。そして、試験片に対してシャルピー衝撃試験を行い、衝撃値を測定する。衝撃値が15J/cm2以上の場合には合格と判定し、15J/cm2未満の場合には不合格と判定する。なお、衝撃値の判定基準はあくまでも一例である。
【0035】
<耐SCC性評価方法>
JIS Z8711に準拠する方法により、SCC試験を行う。具体的には、Cリング形状(外径19mm、内径16mm、厚さ8mm)の試験片を作製する。そして、応力集中部における引張応力の負荷方向が試験片の押出方向と一致するように、試験片に対して耐力の90%の応力を負荷し、その状態で25℃の温度環境の下、試験片を3.5%濃度の塩水に10分間浸漬した後、50分間乾燥させるという工程を1サイクルとして繰り返し行う。30日後、試験片に割れが発生していないか目視で確認する。試験片に割れが発生していない場合には合格と判定し、試験片に割れが発生している場合には不合格と判定する。
【0036】
<金属組織観察方法>
試料について、加工方向(ここでは押出方向)を長さ方向とした場合の幅方向に平行な断面であり、かつ幅方向中央付近部分の組織観察を行う。図2に示すように、試料である押出材20を切断し、押出材20の厚さ中央位置断面及び上下の厚さ1/4位置断面の計3つの断面について、電解研磨した後、偏光顕微鏡により倍率50〜100倍で各断面の顕微鏡像(例えば図2下段に示す写真)を取得する。そして、取得した顕微鏡像から金属組織が繊維状であるかを確認し、金属組織が繊維状である場合には合格と判定し、金属組織が不均一である場合には不合格と判定する。観察方向は、図2に示すように、試料の厚さ方向である。さらに、取得した顕微鏡像に対し画像解析を行い、各断面における結晶粒の幅の最大値を求める。結晶粒の幅が30μm未満であるものを好ましい結果と判定する。
【0037】
<表面品質評価方法>
試料の表面を機械的研磨(バフ研磨)した後、水酸化ナトリウム水溶液によりエッチングを行い、さらにデスマット処理を行う。そして、デスマット処理後の試料をリン酸−硝酸法を用いて90℃の温度で1分間の化学研磨を行う。
【0038】
次いで、化学研磨後の試料を15%濃度の硫酸浴下において、150A/m2の電流密度で陽極酸化処理を行い、厚さ10μmの陽極酸化被膜を形成する。その後、陽極酸化処理後の試料を沸騰水に浸漬し、陽極酸化被膜の封孔処理を行う。このようにして、試料に対して表面処理(陽極酸化処理)を行う。
【0039】
次いで、表面処理(陽極酸化処理)後の試料の表面を目視により観察する。まず、試料表面に対して垂直方向から試料表面を観察し、試料の表面に筋状模様、斑状模様、点状欠陥等の表面欠陥が生じていない場合には合格と判定し、表面欠陥が生じている場合には不合格と判定する。さらに、試料表面に対して30°の方向から試料表面を観察し、試料表面における光の反射状況が均一である場合、又は、試料表面の一部における光の反射状況が不均一であるが表面品質に問題がない場合には、合格と判定し、そうでない場合には不合格と判定する。
【0040】
上記表面欠陥において、筋状模様とは、金属組織が繊維状である場合に、表面処理の前処理時において、粒界上に析出した化合物がエッチングされた結果、粒界に沿って筋状に見える模様である。斑状模様とは、結晶粒サイズが異なることで部分的に結晶粒が粗大、微細となり、大小の結晶粒が表面処理後にまだらに見える模様である。点状欠陥とは、粗大化合物がエッチングされることにより、粗大化合物が抜け落ちる等、化合物が存在していた箇所に凹状の窪みが形成され、これが表面処理後に点状に見える模様である。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
各試料の評価結果を表2に示す。なお、各試料において、合格と判定されなかった(不合格と判定された)評価結果については、表2中の評価結果に下線を付して示した。
【0043】
表2からわかるように、試料1〜試料24は、金属組織が繊維状組織であり、機械的特性(耐力、曲げ試験)、靱性(衝撃値)、耐SCC性(応力腐食割れ)、金属組織観察(金属組織、結晶粒の幅)、表面品質(表面処理後の欠陥、光の反射状況)の全ての評価項目で合格又は合格であってより好ましい結果となった。すなわち、強度、靱性、表面品質共に優れた特性を示し、さらに耐SCC性についても優れた特性を示した。
【0044】
なお、試料24は、表面処理後の欠陥は認められなかったが、結晶粒の幅が少し大きいため、光の反射状況において一部不均一となった。ただし、表面品質に問題がない程度であった。
【0045】
試料25は、Zn含有量が低すぎるため、強度向上効果が十分に得られず、耐力が不合格であった。一方、試料26は、Zn含有量が高すぎるため、熱間加工性が悪く、実質的な設備では熱間押出加工が困難であった。
【0046】
試料27は、Mg含有量が低すぎるため、強度向上効果が十分に得られず、耐力が不合格であった。一方、試料28は、Mg含有量が高すぎるため、熱間加工性が悪く、実質的な設備では熱間押出加工が困難であった。
【0047】
試料29は、Cu含有量が高すぎるため、陽極酸化処理後の表面の色調が黄色を帯び、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
試料30は、Zr含有量が低すぎるため、粗大で不均一な再結晶組織となって陽極酸化処理後の表面に斑状模様が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。一方、試料31は、Zr含有量が高すぎるため、粗大な化合物が生じて陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0048】
試料32は、Si含有量が高すぎるため、陽極酸化処理の際にエッチングが過剰となって陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0049】
試料33は、Fe含有量が高すぎるため、陽極酸化処理の際にエッチングが過剰となって陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0050】
試料34は、Mn含有量が高すぎるため、粗大な化合物が生じて陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
試料35は、Cr含有量が高すぎるため、粗大な化合物が生じて陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0051】
試料36は、Ti含有量が低すぎるため、鋳塊組織が粗大となり、熱間押出加工後の金属組織が不均一となって陽極酸化処理後の表面に斑状模様が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。一方、試料37は、Ti含有量が高すぎるため、粗大な化合物が生じて陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0052】
また、表面処理後の欠陥が不合格であった試料30〜試料37は、光の反射状況の項目において不均一となった。
試料38は、質量比(Zn/Mg)が低すぎるため、衝撃値が15未満となり、衝撃値(靱性)が不合格であった。一方、試料39は、質量比(Zn/Mg)が高すぎるため、耐SCC性試験において応力腐食割れが発生し、応力腐食割れ(耐SCC性)が不合格であった。
【0053】
なお、上述した実施例では、本発明のアルミニウム合金材の一実施形態として押出材を評価したが、例えば板材等の他の実施形態であっても、上述した実施例と同様の結果が得られる。
図1
図2