【実施例】
【0028】
本開示のアルミニウム合金材の実施例について、比較例と対比しながら、表1及び表2を用いて説明する。以下に示す実施例は、本開示の一実施態様を示すものであり、本開示は何らこれらに限定されるものではない。
【0029】
表1及び表2に示すように、アルミニウム合金材の化学成分が異なる複数の試料(実施例:試料1〜試料24、比較例:試料25〜試料39)を同一の製造条件で作製し、各試料について各種評価を行った。以下、試料の作製方法、各種評価方法について説明する。
【0030】
<試料の作製方法>
半連続鋳造により、表1に示す化学成分を有する、直径90mmの円柱状の鋳塊(ビレット)を鋳造する。そして、鋳塊を500℃で12時間加熱する均質化処理を行う。なお、均質化処理は、加熱温度を例えば400〜530℃とすることができる。その後、鋳塊の温度を520℃に維持した状態で、鋳塊を熱間押出加工する。これにより、幅150mm、厚さ10mmの押出材を得る。
【0031】
次いで、熱間押出加工直後の押出材を1500℃/分の冷却速度で100℃まで冷却する急冷処理を行う。そして、急冷処理を行った押出材を室温まで冷却した後、押出材を140℃で12時間加熱する人工時効処理を行う。これにより、アルミニウム合金材(押出材)の試料を得る。
【0032】
<機械的特性評価方法>
JIS Z2241(ISO6892−1)に準拠する方法により、試料から試験片を作製し、その試験片の引張強さ、耐力及び伸びを測定する。耐力が300MPa以上であるものを合格と判定する。なお、耐力の判定基準はあくまでも一例である。
【0033】
また、曲げ試験については、
図1に示すように、試料の幅方向中央部分から厚さ10mm、幅10mm、長さ120mmの試験片10を作製し、三点曲げ試験によりその試験片10の曲げ変形量Δを測定する。具体的には、土台部11及び2つの支点部12を有する治具を準備し、2つの支点部12上に試験片10を静置する。このとき、2つの支点部12によって試験片10を試験片10の両端からそれぞれ10mmの位置で支持し、支点間距離を100mmとする。そして、試料の幅方向に直交する方向であって下向きの荷重を先端面の寸法が10mm×10mmの圧子13により負荷する。ここでは、4000kgfの荷重を10秒間加えた後の曲げ変形量Δが4mmを超えた場合には不合格「×」、2mm超え4mm以下の場合には合格「○」と判定し、2mm以下の場合には合格であってより好ましい結果「◎」と判定する。
【0034】
<靱性評価方法>
JIS Z2242に準拠する方法により、シャルピー衝撃試験を行う。具体的には、厚さ7.5mm、幅10mm、長さ55mmの試験片を作製する。試験片は、その長手方向が押出方向に平行であり、かつ、押出方向に直交するように形成された深さ2mmのUノッチを有する。そして、試験片に対してシャルピー衝撃試験を行い、衝撃値を測定する。衝撃値が15J/cm
2以上の場合には合格と判定し、15J/cm
2未満の場合には不合格と判定する。なお、衝撃値の判定基準はあくまでも一例である。
【0035】
<耐SCC性評価方法>
JIS Z8711に準拠する方法により、SCC試験を行う。具体的には、Cリング形状(外径19mm、内径16mm、厚さ8mm)の試験片を作製する。そして、応力集中部における引張応力の負荷方向が試験片の押出方向と一致するように、試験片に対して耐力の90%の応力を負荷し、その状態で25℃の温度環境の下、試験片を3.5%濃度の塩水に10分間浸漬した後、50分間乾燥させるという工程を1サイクルとして繰り返し行う。30日後、試験片に割れが発生していないか目視で確認する。試験片に割れが発生していない場合には合格と判定し、試験片に割れが発生している場合には不合格と判定する。
【0036】
<金属組織観察方法>
試料について、加工方向(ここでは押出方向)を長さ方向とした場合の幅方向に平行な断面であり、かつ幅方向中央付近部分の組織観察を行う。
図2に示すように、試料である押出材20を切断し、押出材20の厚さ中央位置断面及び上下の厚さ1/4位置断面の計3つの断面について、電解研磨した後、偏光顕微鏡により倍率50〜100倍で各断面の顕微鏡像(例えば
図2下段に示す写真)を取得する。そして、取得した顕微鏡像から金属組織が繊維状であるかを確認し、金属組織が繊維状である場合には合格と判定し、金属組織が不均一である場合には不合格と判定する。観察方向は、
図2に示すように、試料の厚さ方向である。さらに、取得した顕微鏡像に対し画像解析を行い、各断面における結晶粒の幅の最大値を求める。結晶粒の幅が30μm未満であるものを好ましい結果と判定する。
【0037】
<表面品質評価方法>
試料の表面を機械的研磨(バフ研磨)した後、水酸化ナトリウム水溶液によりエッチングを行い、さらにデスマット処理を行う。そして、デスマット処理後の試料をリン酸−硝酸法を用いて90℃の温度で1分間の化学研磨を行う。
【0038】
次いで、化学研磨後の試料を15%濃度の硫酸浴下において、150A/m
2の電流密度で陽極酸化処理を行い、厚さ10μmの陽極酸化被膜を形成する。その後、陽極酸化処理後の試料を沸騰水に浸漬し、陽極酸化被膜の封孔処理を行う。このようにして、試料に対して表面処理(陽極酸化処理)を行う。
【0039】
次いで、表面処理(陽極酸化処理)後の試料の表面を目視により観察する。まず、試料表面に対して垂直方向から試料表面を観察し、試料の表面に筋状模様、斑状模様、点状欠陥等の表面欠陥が生じていない場合には合格と判定し、表面欠陥が生じている場合には不合格と判定する。さらに、試料表面に対して30°の方向から試料表面を観察し、試料表面における光の反射状況が均一である場合、又は、試料表面の一部における光の反射状況が不均一であるが表面品質に問題がない場合には、合格と判定し、そうでない場合には不合格と判定する。
【0040】
上記表面欠陥において、筋状模様とは、金属組織が繊維状である場合に、表面処理の前処理時において、粒界上に析出した化合物がエッチングされた結果、粒界に沿って筋状に見える模様である。斑状模様とは、結晶粒サイズが異なることで部分的に結晶粒が粗大、微細となり、大小の結晶粒が表面処理後にまだらに見える模様である。点状欠陥とは、粗大化合物がエッチングされることにより、粗大化合物が抜け落ちる等、化合物が存在していた箇所に凹状の窪みが形成され、これが表面処理後に点状に見える模様である。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
各試料の評価結果を表2に示す。なお、各試料において、合格と判定されなかった(不合格と判定された)評価結果については、表2中の評価結果に下線を付して示した。
【0043】
表2からわかるように、試料1〜試料24は、金属組織が繊維状組織であり、機械的特性(耐力、曲げ試験)、靱性(衝撃値)、耐SCC性(応力腐食割れ)、金属組織観察(金属組織、結晶粒の幅)、表面品質(表面処理後の欠陥、光の反射状況)の全ての評価項目で合格又は合格であってより好ましい結果となった。すなわち、強度、靱性、表面品質共に優れた特性を示し、さらに耐SCC性についても優れた特性を示した。
【0044】
なお、試料24は、表面処理後の欠陥は認められなかったが、結晶粒の幅が少し大きいため、光の反射状況において一部不均一となった。ただし、表面品質に問題がない程度であった。
【0045】
試料25は、Zn含有量が低すぎるため、強度向上効果が十分に得られず、耐力が不合格であった。一方、試料26は、Zn含有量が高すぎるため、熱間加工性が悪く、実質的な設備では熱間押出加工が困難であった。
【0046】
試料27は、Mg含有量が低すぎるため、強度向上効果が十分に得られず、耐力が不合格であった。一方、試料28は、Mg含有量が高すぎるため、熱間加工性が悪く、実質的な設備では熱間押出加工が困難であった。
【0047】
試料29は、Cu含有量が高すぎるため、陽極酸化処理後の表面の色調が黄色を帯び、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
試料30は、Zr含有量が低すぎるため、粗大で不均一な再結晶組織となって陽極酸化処理後の表面に斑状模様が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。一方、試料31は、Zr含有量が高すぎるため、粗大な化合物が生じて陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0048】
試料32は、Si含有量が高すぎるため、陽極酸化処理の際にエッチングが過剰となって陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0049】
試料33は、Fe含有量が高すぎるため、陽極酸化処理の際にエッチングが過剰となって陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0050】
試料34は、Mn含有量が高すぎるため、粗大な化合物が生じて陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
試料35は、Cr含有量が高すぎるため、粗大な化合物が生じて陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0051】
試料36は、Ti含有量が低すぎるため、鋳塊組織が粗大となり、熱間押出加工後の金属組織が不均一となって陽極酸化処理後の表面に斑状模様が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。一方、試料37は、Ti含有量が高すぎるため、粗大な化合物が生じて陽極酸化処理後の表面に点状欠陥が発生し、表面処理後の欠陥が認められ、不合格であった。
【0052】
また、表面処理後の欠陥が不合格であった試料30〜試料37は、光の反射状況の項目において不均一となった。
試料38は、質量比(Zn/Mg)が低すぎるため、衝撃値が15未満となり、衝撃値(靱性)が不合格であった。一方、試料39は、質量比(Zn/Mg)が高すぎるため、耐SCC性試験において応力腐食割れが発生し、応力腐食割れ(耐SCC性)が不合格であった。
【0053】
なお、上述した実施例では、本発明のアルミニウム合金材の一実施形態として押出材を評価したが、例えば板材等の他の実施形態であっても、上述した実施例と同様の結果が得られる。