(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291175
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】バルブシート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F01L 3/02 20060101AFI20180305BHJP
F01L 3/22 20060101ALI20180305BHJP
F16K 1/42 20060101ALI20180305BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20180305BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20180305BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20180305BHJP
C23C 4/06 20160101ALI20180305BHJP
【FI】
F01L3/02 H
F01L3/02 E
F01L3/22 B
F16K1/42 F
C22C9/00
C22C19/07 F
B23K35/30 340M
C23C4/06
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-142072(P2013-142072)
(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2015-14262(P2015-14262A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】橋本 公明
(72)【発明者】
【氏名】逸見 浩二
【審査官】
首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−078118(JP,A)
【文献】
特表2006−516313(JP,A)
【文献】
特開2010−274315(JP,A)
【文献】
特開2006−316745(JP,A)
【文献】
特開平04−279708(JP,A)
【文献】
特開平08−284621(JP,A)
【文献】
特開2010−106842(JP,A)
【文献】
特開2003−278597(JP,A)
【文献】
特開平07−279627(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/005764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/02
B23K 35/30
C22C 9/00
C22C 19/07
C23C 4/06
F01L 3/22
F16K 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al合金製シリンダヘッドに圧入されるバルブシートであって、熱伝導率が100 W/(m・K)以上のCu又はCu基合金からなる基材リングのフェイス部にCo基合金からなるシート層が直接肉盛りされ、前記バルブシートの高さhの厚さaに対する比(h/a)が1.5〜4であり、前記シート層の厚さtが0.05〜0.2 mmであり、前記Co基合金が、質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:2.0〜15.0%、C:0.8〜2.0%、残部がCo及び不可避的不純物からなることを特徴とするバルブシート。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブシートにおいて、前記Cu基合金が、質量%で、Cr:0.5〜1.5%、残部がCu及び不可避的不純物からなることを特徴とするバルブシート。
【請求項3】
請求項1に記載のバルブシートの製造方法であって、熱伝導率が100 W/(m・K)以上のCu又はCu基合金からなる基材リングのフェイス部に前記Co基合金からなるシート層を高速フレーム溶射法又はレーザーメタルデポジション法により直接肉盛りすることを特徴とするバルブシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのバルブシート及びその製造方法に関し、特に、バルブ温度の上昇を抑制できる圧入型高伝熱バルブシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車エンジンの環境対応による燃費の向上と高性能化を両立する手段として、エンジンの排気量を20〜50%低減する、いわゆるダウンサイジングが推進され、さらに、高圧縮比を実現する技術として直噴エンジンにターボチャージング(過給)を組合せることが行われている。これらのエンジンの高効率化は必然的にエンジン温度の上昇をもたらすが、温度の上昇は出力低下に繋がるノッキングを招くので、特にバルブ周りの部品の冷却能を向上させることが必要となっている。
【0003】
冷却能を向上させる手段として、エンジンバルブに関し、特許文献1はバルブの軸部を中空化してその中空部分に金属ナトリウム(Na)を封入するエンジンバルブの製造方法を開示している。また、バルブシートに関しては、特許文献2はレーザー光のような高密度加熱エネルギーを用いてアルミ(Al)合金製のシリンダヘッドに直接肉盛する(以下「レーザークラッド法」という。)というバルブ冷却能を向上させる手段を採用し、そのバルブシート合金としては銅(Cu)基マトリックス中にFe-Ni系の硅化物及び硅化物の粒子が分散し且つCu基初晶中にSn及びZnの1つあるいは両方を固溶する肉盛用分散強化Cu基合金を教示している。
【0004】
上記の金属Na封入エンジンバルブは、中実バルブに比べ、エンジン駆動時のバルブ温度を約150℃程度低下させ(バルブ温度としては約600℃)、また、レーザークラッド法によるCu基合金バルブシートは、中実バルブのバルブ温度を約50℃程度低下させ(バルブ温度としては約700℃)て、ノッキングの防止を可能にした。しかし、金属Na封入エンジンバルブは製造コストの点で難があり、一部の車を除いて幅広く使用されるまでには至っていない。Cu基合金バルブシートも、Cu基合金が叩かれ摩耗で優先的に凝着するため、耐摩耗性が不十分であるという課題があり、さらに、シリンダヘッドに直接肉盛するため、シリンダヘッド加工ラインの大幅な見直しと設備投資が必要となるという課題も生じてくる。
【0005】
特許文献3は、圧入型バルブシートとして、バルブや燃焼ガスの熱を効率よく冷却系に伝達してエンジン性能の向上を図ることのできる耐久性の高いバルブシートを提供することを目的とし、熱伝導率及び剛性の高い材料からなる基盤リングのフェイス部に耐摩耗性の高い材料からなる薄肉の耐摩耗リングを接合したバルブシートを開示している。具体的には、基盤リングの材料としてCu合金とAl合金が、耐摩耗リングの材料としてFe系焼結合金やFe系鋳造合金が教示されているが、その耐摩耗リングの基盤リングへの接合方法については何も教示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−119421号公報
【特許文献2】特開平3−60895号公報
【特許文献3】特開平7−279627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、高効率エンジンに使用する高いバルブ冷却能と耐摩耗性を有する圧入型バルブシートを提供すること、詳しくは、レーザークラッド法によるCu基合金バルブシートに匹敵するバルブ冷却能を有する圧入型バルブシートを提供することを課題とする。さらに、当該圧入型バルブシートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者達は、Al合金製シリンダヘッドに圧入される圧入型バルブシートに関し鋭意研究した結果、熱伝導率の高い基材リングのフェイス部に耐摩耗性の高い硬質合金のシート層を直接肉盛した構造とし、基材リングにCu又はCu基合金、シート層にCo基合金を選択することによって、基材リングとシート層の界面において複雑な中間層の形成を回避することができ、バルブ冷却能の高い圧入型バルブシートが得られることに想到した。
【0009】
すなわち、本発明のバルブシートは、Al合金製シリンダヘッドに圧入されるバルブシートであって、熱伝導率が100 W/(m・K)以上のCu又はCu基合金からなる基材リングのフェイス部にCo基合金からなるシート層が直接肉盛りされ、前記バルブシートの高さhの厚さaに対する比(h/a)が1.5〜4であり、前記シート層の厚さtが0.05〜0.2 mmであ
り、前記Co基合金が、質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:2.0〜15.0%、C:0.8〜2.0%、残部がCo及び不可避的不純物からなることを特徴とする。前記Cu基合金は、質量%で、Cr:0.5〜1.5%、残部がCu及び不可避的不純物からなることが好まし
い。
【0011】
さらに、本発明のバルブシートの製造方法は、Al合金製シリンダヘッドに圧入されるバルブシートの製造方法であって、熱伝導率が100 W/(m・K)以上のCu又はCu基合金からなる基材リングのフェイス部に
前記Co基合金からなるシート層を高速フレーム溶射法又はレーザーメタルデポジション法により直接肉盛りすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバルブシートは、熱伝導率が100 W/(m・k)以上のCu基合金からなる基材リングのフェイス部にCo基合金からなるシート層を直接肉盛することによって、基材リングとシート層の界面において複雑な中間層の形成を回避し、すなわち、熱伝達特性の高いシート層/基材リング界面を形成し、
さらに、バルブシートの高さhの厚さaに対する比(h/a)と硬質合金から構成されるシート層の厚さtを調整することによって、バルブ冷却能の高い圧入型バルブシートとすることが可能となる。また、シート層の合金組成を限定することによって耐熱性と耐摩耗性に優れたフェイス部とすることができる。これらにより、レーザークラッド法によるCu基合金バルブシートに匹敵するバルブ冷却能を有する圧入型バルブシートを得ることができ、特に高価な金属Na封入バルブの採用やシリンダヘッド加工ラインの見直しをすることなく、ノッキング等のエンジンの異常燃焼の低減により、高圧縮比、高効率エンジンの性能向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】シリンダヘッドに圧入された本発明のバルブシートとエンジンバルブのフェイス面同士が接触する状態を示した部分の断面図である。
【
図2】バルブ中心から水冷シリンダヘッドまでの温度分布を、本発明のバルブシートと従来のバルブシートを比較して、模式的に示した図である。
【
図4】高速フレーム溶射のガンの構造を模式的に示した断面図である。
【
図5】レーザーメタルデポジション法におけるノズル先端部を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のバルブシートは、
図1に示すように、水冷されたAl合金製シリンダヘッド4に圧入され、熱伝導率が100 W/(m・k)以上のCu又はCu基合金からなる基材リング1のフェイス部にCo基合金からなるシート層2を直接肉盛
りしている。バルブ3の熱はバルブシートのシート層2に伝達され、シート層2内、シート層2と基材リング1の界面、基材リング1内、基材リング1とシリンダヘッド4の界面を通って水冷されたシリンダヘッド4内に伝導、伝達される。基材1は基本的に熱伝導率の高いCu基合金で構成され、シート層2も熱伝導率が高いほど好ましいが、シート層2はそれ以上に耐熱性と耐摩耗性が求められるためCo基合金で構成される。金属においては、熱伝導率は主に結晶粒内の自由電子の運動に支配されるため、固溶元素の少ないほど熱伝導率は向上する。その点、CuとCoは高温では一部固溶しても400℃以下では殆ど固溶し合わないので、好ましい組合せとなる。Cu基合金からなる基材リング1にCo基合金を肉盛する際に、たとえ基材の溶融領域が形成されたとしても、複雑な中間層を形成することなく、CuとCoの混合組織となって、Cu又はCu基合金の熱伝導率を著しく低下させるようなことがない。Cu基合金からなる基材リング1の熱伝導率は100 W/(m・k)以上とする。もちろん150 W/(m・K)以上であることが好ましく、200 W/(m・K)であればより好ましい。
【0015】
基材リング1のCu基合金は、熱伝導率が高く、高温硬さに優れたCu-Cr合金が好ましく、その場合、Crは質量%で0.5〜1.5%が好ましい。Crも高温で僅かにCuに固溶するが冷却されればCuとCrの混合組織となり、Cuの熱伝導率に悪影響することはない。また、シート層2のCo基合金は、耐摩耗性の観点で、Co-Cr-W-C系合金
とし、質量%で、Cr:20.0〜35.0%、W:2.0〜15.0%、C:0.8〜2.0%、残部がCo及び不可避的不純物からな
るものとする。これらの合金はCrの固溶したCoマトリックス中に硬質炭化物相が分散し優れた耐摩耗性を示す。
【0016】
図2はバルブの中心からAl合金製シリンダヘッドの水冷端までの温度分布を模式的に示している。本発明のバルブシートと従来の鉄基焼結合金のバルブシートを対比させているが、ここでは、シリンダヘッド側のバルブシートとシリンダヘッドの間の界面までは、その冷却能は同じであるとみなしている。バルブシートの温度勾配をみると、従来のバルブシートでは熱伝導率が約20 W/(m・K)で冷却能が低いため温度勾配が大きくなり、本発明のバルブシートでは熱伝導率が100 W/(m・K)以上で冷却能が高いため温度勾配が小さくなる。この違いによるバルブフェイス面の温度の差がバルブ中心温度の差となっている。本発明のバルブシートはシート層2と基材リング1から構成されるため、温度勾配も二段階になっている。
【0017】
バルブシートのシート層2と基材リング1の熱伝導率は当然に大きな熱伝導率であることが望ましいが、バルブの冷却能の向上には、
図3に示すように、シート層2と基材リング1の界面I
1、及び基材リング1とシリンダヘッド4の界面I
2の熱伝達が効率的である(
図2のI
1とI
2におけるギャップが小さい)ことが望ましい。界面I
1及び界面I
2での熱伝達は、
Q1 = h
1S
1ΔT
1 ………………………………………(1)
Q2 = h
2S
2ΔT
2 ………………………………………(2)
で表せる。ここで、Q
1(W)、h
1(W/(m
2・K))、S
1(m
2)、ΔT
1(K)は、それぞれ、界面I
1を移動する熱量、熱伝達係数、伝熱面積、温度差を示し、Q
2(W)、h
2(W/(m
2・K))、S
2(m
2)、ΔT
2(K)は、それぞれ、界面I
2を移動する熱量、熱伝達係数、伝熱面積、温度差を示す。シート層2と基材リング1の界面I
1における伝熱量Q
1は、熱伝達係数h
1の大きなほど多くなる。その点、中間層や拡散層が存在すると熱伝達係数h
1が著しく低下するため、シート層2は基材リング1に直接肉盛し、かつ基材リング1とシート層2が互いに固溶して熱伝導率を低下させないよう、それぞれ、Cu基合金とCo基合金から構成されるものとする。また、温度差ΔT
1の観点では、基材1の熱伝導率が高いほどΔT
1が大きくなり、伝熱量Q
1の増加に繋がると考えられる。
【0018】
一方、基材リング1とシリンダヘッド4の界面I
2の伝熱量Q
2は、式(2)から分かるように、熱伝達係数h
2を一定とすれば(圧入型バルブシートの場合、熱伝達係数は圧入面の表面状態や応力状態にも影響されるが、ここでは一定とする。)、伝熱面積S
2と温度差ΔT
2に比例する。界面I
2の伝熱面積S
2も温度差ΔT
2も大きいほど好ましいが、基材リング1の体積が減少すると、伝熱面積は減少し、温度差ΔT2は増加する。基材リング1の厚さaはフェイス面を考慮するとそれほど小さくできないので、伝熱量Q
2に対する影響は基材リング1の高さhが小さいほど温度差ΔT
2は大きくなり、伝熱面積S
2の減少による伝熱量Q
2の減少以上に温度差ΔT
2の増加による伝熱量Q
2の増加が多くなる。本発明のバルブシートでは、基材リング1の高さhの厚さaに対する比(h/a)が1.25〜4である
ものとする。比(h/a)は1.5〜4であることが
好ましく、1.5〜2であることが
より好ましい。
【0019】
また、シート層2は耐熱性と耐摩耗性を備えていることが求められるが、熱伝導を考慮すると、シート層2の厚さtは耐摩耗性を保持できる範囲内で薄いことが好ましい。前記シート層2の厚さtは0.05〜0.2 mmである
ものとする。0.05〜0.17 mmであることが
好ましく、0.05〜0.14 mmであることが
より好ましい。
【0020】
本発明のバルブシートの製造方法においては、熱伝導率が100 W/(m・K)以上のCu又はCu基合金からなる基材リングのフェイス部にCo基合金からなるシート層を高速フレーム溶射法又はレーザーメタルデポジション法により直接肉盛する。前記基材リングは肉盛を行うときに予熱してもよく、予熱温度は150〜300℃が好ましく、180〜250℃がより好ましい。
【0021】
高速フレーム溶射(高速酸素火炎(HVOF)溶射)は、
図4に示すような構造のスプレーガンを使用し、パウダーインジェクター5とインサート6の間及びシェル7とエアキャップ8の間に流れる圧縮空気に挟まれる形で、インサート6とシェル7の間に流れる高圧プロピレンガスと酸素ガスの混合ガスを燃焼させて高速フレームを形成する。その中に、所望の組成のシート層となるように配合した原料粉末を、パウダーインジェクター5から窒素ガスとともに投入し、先端から噴射して溶射シート層を形成する。高速フレーム溶射は、プラズマ溶射に比べてフレーム温度が低いため、原料サイズをほぼ維持したまま溶射でき、シート層の厚さの薄い、微細で緻密な組織を形成することができる。
【0022】
また、レーザーメタルデポジションは、
図5に示すように、レーザービーム9を中心にして周りから原料粉末10を供給して所望の組成のシート層2を溶融肉盛するものである。なお原料粉末の流路の外側にはシールドガスとしてアルゴンガスを流している。レーザーメタルデポジション法はレーザービームを細く絞れるため、厚さ0.2〜0.5 mm程度に薄く肉盛することができ、また入熱も少ないため基材リング1に与える影響も小さく押さえることができる。
【実施例】
【0023】
参考例1
1.2質量%のCrを含むCu基合金から、軸方向から45°傾斜したフェイス面を有する外径25 mmφ、内径21 mmφ、高さ6 mmの基材リングを作製し、質量%で、Cr:8.5%、Mo:28.5%、Si:2.5%、C:0.05%、残部がCoからなるCo基合金(以下「Co基合金A」という。)の組成を持ち、平均粒径63μmの粉末を、レーザー出力1.5 kWの出力のレーザーメタルデポジション法により基材リングのフェイス面に直接肉盛し、約0.3 mmの厚さのシート層を形成した。さらに、フェイス面のシート層厚さを0.2 mmに加工してバルブシートサンプルとした。
【0024】
[1] バルブ冷却能(バルブ温度)の測定
図6に示したリグ試験機を用いてバルブ温度を測定し、バルブ冷却能を評価した。バルブシートサンプルはシリンダヘッド相当材(Al合金、AC4A材)のバルブシートホルダ24に圧入して試験機にセットされ、リグ試験は、バーナー21によりバルブ23(SUH合金、JIS G4311)を加熱しながら、カム22の回転に連動してバルブ23を上下させることによって行われる。バルブ冷却能は、バーナー21のエアー及びガスの流量とバーナー位置を一定にすることで入熱を一定にし、サーモグラフィーによりバルブの傘中心部の温度を計測することによって行った。バーナー21のエアー及びガスの流量(L/min)は、それぞれ90、5.0、カム回転数は2500 rpmとした。運転開始15分後、飽和したバルブ温度を測定した。
【0025】
比較例1
Fe-Mo-Si合金からなる硬質粒子を10体積%含有したFe基焼結合金を使用して
参考例1と同形状のバルブシートサンプルを作製した。また、このFe基焼結合金の熱伝導率は約20 W/(m・K)であった。
参考例1と同様にして、リグ試験によりバルブ温度の測定を行った結果、800℃を超える高温であった。
【0026】
先に測定した
参考例1のバルブ温度は、比較例1のバルブ温度より53℃低く、-50℃以上のバルブ冷却能を示した。バルブ温度の絶対温度は加熱条件等により変化するため、本願実施例では、絶対温度で評価する代わりに、比較例1のバルブ温度からの温度低下量(低下を−で表示)によりバルブ冷却能を評価した。
【0027】
実施例1〜3及び参考例2〜4
シート層の材質及び厚さ、基材リングの寸法(高さ、h/a、但し、外径寸法は25 mmφのままとし、厚さaの変更は内径寸法を変えることによって行っている)を、表1に示すように変更した以外は、
参考例1と同様にしてバルブシートサンプルを作製し、
参考例1と同様にしてリグ試験によりバルブ温度の測定を行った。その結果を、
参考例1の結果も含めて表1に示す。バルブシートの高さhを小さくすると、すなわち、バルブシートの高さhの厚さaに対する比(h/a)を小さくすると、バルブ冷却能が向上することが分かった。また、シート層の材質A〜Dによるバルブ冷却能への差異は殆どなかった。
【0028】
【表1】
ここで、「レーザー」はレーザーメタルデポジション法、「材質A」はCr:8.5%、Mo:28.5%、Si:2.5%、C:0.05%、残部がCo、「材質B」はCr:28%、W:4%、C:1.1%、残部がCo、「材質C」はCr:30%、W:8%、C:1.6%、残部がCo、「材質D」はCr:18%、Mo:28%、Si:3.4%、C:0.03%、残部がCoを示す。また、各材質の粉末の平均粒径は60〜70μmの範囲内にあった。
【0029】
実施例
4及び参考例5〜11
基材リングの材質を99.9%のCuに変更し、表2に示すシート層の材質及び厚さ、並びに基材リング寸法で、
参考例1と同様にしてバルブシートサンプルを作製し、
参考例1と同様にしてリグ試験によりバルブ温度の測定を行った。その結果を表2に示す。基材リングの材質を99.9%のCuに変えて基材リングの熱伝導率を400 W/(m・K)まで高めたこと、シート層の厚さ、バルブシートの寸法(h/a)がバルブ冷却能に影響することが確認できた。
【0030】
【表2】
【0031】
実施例
5
参考例1と同様な、1.2質量%のCrを含むCu基合金から、軸方向から45°傾斜したフェイス面を有する外径25 mmφ、内径21 mmφ、高さ8 mmの基材リングを作製し、ショットブラストによってフェイス面の表面粗さ(Rzjis)が20μm程度になるように調整した。次に、質量%で、Cr:30%、W:8%、C:1.6%、残部がCoからなるCo基合金(材質C)の組成を有し、平均粒径68μmの粉末を、フレーム速度1400 m/秒の高速フレーム溶射により基材リングのフェイス面に直接肉盛し、約0.5 mmの厚さのシート層を形成した。さらにフェイス面のシート層厚さを0.1 mmに加工してバルブシートサンプルとした。
参考例1と同様にして、リグ試験によりバルブ温度の測定を行った結果、比較例1に対し−60℃のバルブ冷却能を示した。
【0032】
参考例12〜14
シート層の材質及び厚さ、基材リングの材質及び寸法(高さ、h/a)を表3に示すように変更した(シート層の材質A及びBは、
参考例1及び
実施例1の材質と同じである。)以外は、実施例
5と同様にしてバルブシートサンプルを作製し、
参考例1と同様にしてリグ試験によりバルブ温度の測定を行った。その結果を、実施例
5の結果も含めて表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
[2] エンジン試験
参考例1、
実施例3、5及び比較例1のバルブシート素材について、1.2L直列3気筒、スーパーチャージャー付き直噴ガソリンエンジンで、4000 rpm、全負荷の状態で、5時間のエンジン試験を行った。上記のバルブシート素材は、Alシリンダヘッドの排気ポート部圧入し、機械加工によりフェイス面の加工を行い、シート層の厚さを約0.1 mmとした。また、吸気ポート部には鉄系焼結合金製バルブシートを使用した。5時間の試験の間、比較例1のバルブシートを使用した場合にノッキング現象による出力低下が何度も起きたのに対し、
参考例1及び
実施例3、5のバルブシートではノッキング等による出力低下は起こらなかった。
【符号の説明】
【0035】
1 基材リング
2 シート層
3 バルブ
4 シリンダヘッド
5 パウダーインジェクター
6 インサート
7 シェル
8 エアキャップ
9 レーザービーム
10 原料粉末流
11 シールドガス
21 バーナー
22 カム
23 バルブ
24 バルブシートホルダ
25 熱電対
26 サーモグラフィー